説明

トルクコンバータの試験装置

【課題】トルクコンバータの試験において試験装置とトルクコンバータとの結合率を向上させる。
【解決手段】軸方向に下降した際にトルクコンバータ側タービン部2のスプライン部2aと結合するスプライン部4aを外周に有する試験装置側タービン軸4を第1の支持部6により回転自在に支持するとともに、タービン軸4の中心に油路4bを設け、また軸方向に下降した際にトルクコンバータ側ステータ部3のスプライン部3aと結合するスプライン部9dを外周に有する試験装置側ステータ軸9をタービン軸4の外周側に同芯状にかつ第2の支持部8により上下動可能で回転不能に支持するとともに、試験装置側ステータ軸9を下方に押圧する結合圧用スプリング11を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、トルクコンバータの生産ライン用試験装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3は従来のトルクコンバータの試験装置におけるトルクコンバータ(ワーク)と試験装置との結合前の状態の縦断正面図であり、図4は結合後の状態の縦断正面図である。図において、1はトルクコンバータ、2はトルクコンバータ1内に設けられたトルクコンバータ1側のタービン部であり、内周にスプライン部2aを有する。3は同じくトルクコンバータ1内のタービン部2の上部に同芯状に配設されたトルクコンバータ1側のステータ部であり、内周にスプライン部3aを有する。タービン部2はトルクコンバータ1内で軸受により回転自在に支持され、ステータ部3はトルクコンバータ1内に固定されている。トルクコンバータ1は嵌合スリーブ部1aを上部にして面板上に載置される。一方、試験装置側にもタービン軸4及びステータ軸5がタービン部軸を内側にして同芯状に設けられ、タービン軸4は回転自在に支持され、ステータ軸5は固定される。タービン軸4及びステータ軸5の下端にはそれぞれトルクコンバータ1側のタービン部2及びステータ部3のスプライン部2a,3aと結合するスプライン部4a,5aが設けられる。又、タービン軸4の中心には、油路4bが形成される。6はタービン軸4を一体的に支持する回転自在な第1の支持部であり、7はステータ軸5を固定して支持する第2の支持部である。
【0003】
前記構成において、トルクコンバータ1の性能試験に際しては、図3の結合前の状態から試験装置側をシリンダ駆動により下降させ、試験装置側のタービン軸4及びステータ軸5を嵌合スリーブ部1aからトルクコンバータ1内へ挿入し、図4に示すようにそれぞれのスプライン部4a,5aをトルクコンバータ1側のタービン部2及びステータ部3の各スプライン部2a,3aと結合させる。そして、トルコン油を試験装置側のタービン軸4の油路4bから2〜4kg/cm2の油圧により送入し、油路4bの下端からトルクコンバータ1内を介してトルクコンバータ1の嵌合スリーブ部1aの内周側と試験装置側のステータ軸5の外周との間及びステータ軸5に設けられた貫通孔5bを通り、支持部6,7間を通り、第2の支持部7に設けられた排出孔7aから外部に排出する。なお、トルコン油の油路4bからの送入圧と排出孔7aからの排出圧を測定し、場合によっては排出孔7aからトルコン油を送入することもある。
【0004】
しかしながら、この結合動作の際に各ステータ部3とステータ軸5のスプライン部3a,5aの歯の山と山が当る(干渉する)と、結合しない。1回の結合動作で結合が完了する確率は50%であり、結合が成立しない確率も50%である。結合が成立しない場合には、試験装置側を一旦上昇させ、再度下降させて、再び結合を試みるが、1回目の結合動作での結合率を上げるために、トルクコンバータ1側を回転させてその歯の位相を変え、一方の山と他方の溝が結合する機会を増加させるようにしている。
【0005】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【特許文献1】特開昭63−201548号公報
【特許文献2】実用新案登録第2599603号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来では、トルクコンバータ1を回転させても、スプライン部3a,5aの結合率は70〜80%が上限であり、これ以上に結合率が上昇することはなかった。そこで、結合率を上げるために、スプライン部3a,5aの先端を細くすることが考えられる。しかし、この場合一時的に結合率は上昇するが、干渉の際の力でスプライン部3a,5aの歯先磨耗が発生し、却って結合率が下がってしまった。又、トルクコンバータ1のステータ部3は試験装置側のステータ軸5との干渉状態においては、試験装置側からの押し付け力によりトルクコンバータ1の回転が停止してしまい、トルクコンバータ1全体を回転させることにより、タービン部2及びステータ部3を回転させる効果はなかった。特に、ステータ部3においては、その傾向が強かった。
【0007】
この発明は上記のような課題を解決するために成されたものであり、トルクコンバータの試験において試験装置のステータ軸とトルクコンバータのステータ部との結合率を向上させることにより、トルクコンバータとの結合率を向上させることができるトルクコンバータの試験装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明の請求項1に係るトルクコンバータの試験装置は、回転自在で内周にスプライン部を有するタービン部と、タービン部と同芯状に固定支持されるとともに、内周にスプライン部を有するステータ部とを備えたトルクコンバータの試験装置において、第1の支持部に回転自在に支持されるとともに、外周に軸方向に下降した際にトルクコンバータ側タービン部のスプライン部と結合するスプライン部を有し、かつ中心にトルコン油の油路を有する試験装置側タービン軸と、試験装置側タービン軸の外周側において同芯状にかつ第2の支持部に上下動可能で回転不能に支持されるとともに、外周に軸方向に下降した際にトルクコンバータ側ステータ部のスプライン部と結合するスプライン部を有する試験装置側ステータ軸と、試験装置側ステータ軸を下方に押圧する結合圧用スプリングとを備えたものである。
【0009】
請求項2に係るトルクコンバータの試験装置は、トルコン油の給油時に、前記結合圧用スプリングが設けられた空間にトルコン油を充満させるようにしたものである。
【0010】
請求項3に係るトルクコンバータの試験装置は、前記試験装置側ステータ軸に一端が取り付けられるともに、第2の支持部に設けられた長穴を上下動自在に貫通し、他端が外部に露出した結合確認シャフトを設け、この結合確認シャフトが所定位置にあることにより試験装置側ステータ軸がトルクコンバータ側ステータ部と結合したことを確認するようにしたものである。
【発明の効果】
【0011】
以上のようにこの発明の請求項1によれば、試験装置側のステータ軸を試験装置側の第2の支持部により上下動可能で回転不能に支持するとともに、試験装置側ステータ軸を結合圧用スプリングにより下方に押圧しており、結合動作の際にステータ部とステータ軸間の歯の干渉が生じた場合、試験装置側のステータ軸を上下動させることによりステータ部とステータ軸とをスリップさせ、結合させるようにした。このため、タービン部とタービン軸間の結合ばかりでなく、ステータ部とステータ軸間の結合も容易となり、試験装置とトルクコンバータとの1回の結合動作での結合率をほぼ100%とすることができ、トルクコンバータの試験効率を向上し、生産性を向上させることができる。又、ステータ部とステータ軸間の結合時の押し付け力を結合圧用スプリングにより小さく抑えたので、その各スプライン部の歯先磨耗を少なくすることができ、これによっても結合率を向上させることができる。
【0012】
請求項2によれば、トルコン油の給油時に、結合圧用スプリングが設けられた空間にトルコン油を充満させ、油圧により結合圧用スプリングの押圧力を助勢するようにしており、ステータ部とステータ軸との結合が外れるのを防止することができる。
【0013】
請求項3によれば、一端が試験装置側ステータ軸に取り付けられた結合確認シャフトを第2の支持部に設けられた長孔に上下動自在に貫通させ、他端を外部に露出させており、試験装置をトルクコンバータとの結合位置まで下降させた際に結合確認シャフトが所定位置まで下降したことにより、結合が正常に行われたことを小さなスペースで外部から容易に確認することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、この発明を実施するための最良の形態を図面とともに説明する。図1及び図2はこの発明の実施最良形態によるトルクコンバータの試験装置における試験装置とトルクコンバータとの結合前の状態の縦断正面図及び結合後の状態の縦断正面図である。図において、トルクコンバータ1及びトルクコンバータ1側のタービン部2及びステータ部3は従来と同様である。一方、試験装置側には従来同様のタービン軸4が試験装置側に回転自在に支持された第1の支持部6に一体的に支持され、タービン軸4は従来同様に外周に軸方向に下降した際にトルクコンバータ1側タービン部2のスプライン部2aと結合するスプライン部4aを有し、かつ中心にトルコン油の油路4bを有する。又、試験装置側タービン軸4の外周側には同芯状に試験装置側に固定支持された第2の支持部8により上下動自在で回転不能に試験装置側ステータ軸9が支持される。第2の支持部8は本体部8aと本体部8aに一体的に組み込まれたスプライン形成部8bとから構成され、本体部8aとスプライン形成部8bとに渡って空間10,10aが形成される。試験装置側ステータ軸9の下部9aは試験装置側タービン軸4と小さな間隔を介して同芯状に形成され、試験装置側ステータ軸9の上部9bは段状に外方に張り出し、試験装置側タービン軸4と大きな間隔を介して同芯状に形成され、下部9aは試験装置側タービン軸4と第2の支持部8との間を上下動可能とし、上部9bは第2の支持部8内の空間10,10a内に上下動可能に収納される。又、第2の支持部8のスプライン形成部8bの外周にはスプライン部8cが形成されるとともに、試験装置側ステータ部9の上部9bの内周にもスプライン部9cが形成され、スプライン部8c,9cは結合され、試験装置側ステータ軸9は第2の支持部8に回転不能で上下動可能に支持される。
【0015】
又、試験装置側ステータ軸9の下部9aの外周には、軸方向に下降した際にトルクコンバータ1側ステータ部3のスプライン部3aと結合するスプライン部9dが設けられる。また、第2の支持部8内の空間10と試験装置側ステータ軸9の上端との間には結合圧用スプリング11を設ける。又、12は一端が試験装置側ステータ軸9の上部9bに水平に螺着された結合確認シャフトであり、結合確認シャフト12は第2の支持部8に設けられた長孔8dに水平にかつ上下動自在に貫通し、他端は外部に露出している。又、スプリング11が収納された部分にはトルコン油が流れるので、第2の支持部8の本体部8aと試験装置側ステータ軸9の上部9bとの間及び第2の支持部8の本体部8aとスプライン形成部8bとの間にはシール13,14を設けた。
【0016】
前記構成において、トルクコンバータ1の性能試験においては、図1の結合前の状態から試験装置側をシリンダ駆動により下降させ、試験装置側のタービン軸4及びステータ軸9を嵌合スリーブ部1aからトルクコンバータ1内へ挿入し、図2に示すようにそれぞれのスプライン部4a,9dをトルクコンバータ1側のタービン部2及びステータ部3の各スプライン部2a,3aと結合させる。そして、トルコン油を試験装置側タービン軸4の油路4bから2〜4kg/cm2の油圧により送入し、油路4bの下端からトルクコンバータ1内を介して試験装置側のタービン軸4とステータ軸9の間を通り、空間10,10aに充満した後、第2の支持部8の本体部8aに設けられた排出孔8eから外部に排出される。
【0017】
前記実施最良形態においては、試験装置とトルクコンバータ1との結合に際しては、タービン部2とタービン軸4のスプライン部2a,4a同士の結合率はトルクコンバータ1を回転させれば、1回の結合動作での結合率はほぼ100%に近い。従って、ステータ部3とステータ軸9のスプライン部3a,9d同士の結合率を向上させれば、試験装置とトルクコンバータ1との結合率を向上させることができる。そのために、スプライン部3a,9dの歯と歯が干渉した場合に、スリップし易いように、ステータ軸9を上下動可能とし、スプリング11により少しの力で押え付けるようにしてスプライン3a,9d同士をスリップさせ、結合させるようにした。その結果、ステータ部3とステータ軸9の結合率も1回の結合動作で100%近くになり、試験装置とトルクコンバータ1との結合率も1回の結合動作で100%近くになった。このため、生産タクトが長くならず、生産性が向上した。また、ステータ部3とステータ軸9及びタービン部2とタービン軸4との結合時の押し付け力をスプリング11により小さく抑えたので、スプライン部2a〜4a,9dの先端の磨耗を少なくすることができ、これによっても結合率を向上させることができる。又、トルコン油の給油後にはトルコン油が下方からステータ軸9を押し上げるので、ステータ部3とステータ軸9との結合が外れる恐れがある。そのため、空間10,10a内にトルコン油を充満させるようにして、油圧により結合圧用スプリング11の押圧力を助勢してステータ部3とステータ軸9との結合が外れないようにした。また、一端が試験装置側ステータ軸9に取り付けられた結合確認シャフト12を第2の支持部8に設けられた長孔8dに上下動自在に貫通させ、他端を外部に露出させており、試験装置側のタービン軸4及びステータ軸9をトルクコンバータ1側のタービン部2及びステータ部3との結合位置まで下降させた際に、タービン部2とタービン軸4及びステータ部3とステータ軸9とが結合されれば、結合確認シャフト12は図2の長孔8d内の実線位置まで下降し、このことを目視または近接スイッチ等により検出すれば、各スプライン部2a〜4a,9dの結合を外部から確認することができる。また、このように、スプライン部2a〜4a、9dの結合の確認を小さなスペースで行うことができる。
【0018】
なお、第2の支持部8及びステータ軸9にスプライン部8c,9cを設けたが、第2の支持部8によりステータ軸9を上下動自在で回転不能に支持する構造であれば、スプライン部でなくともよい。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】この発明の実施最良形態によるトルクコンバータの試験装置における試験装置とトルクコンバータとの結合前の状態の縦断正面図である。
【図2】この発明の実施最良形態によるトルクコンバータの試験装置における試験装置とトルクコンバータとの結合後の状態の縦断正面図である。
【図3】従来のトルクコンバータの試験装置における試験装置とトルクコンバータとの結合前の状態の縦断正面図である。
【図4】従来のトルクコンバータの試験装置における試験装置とトルクコンバータとの結合後の状態の縦断正面図である。
【符号の説明】
【0020】
1…トルクコンバータ
2…トルクコンバータ側タービン部
2a,3a,4a,8c,9c,9d…スプライン部
3…トルクコンバータ側ステータ部
4…試験装置側タービン軸
4b…油路
6…第1の支持部
8…第2の支持部
8a…本体部
8b…スプライン形成部
8d…長孔
8e…排出孔
9…試験装置側ステータ軸
10,10a…空間
11…結合圧用スプリング
12…結合確認シャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転自在で内周にスプライン部を有するタービン部と、タービン部と同芯状に固定支持されるとともに、内周にスプライン部を有するステータ部とを備えたトルクコンバータの試験装置において、第1の支持部に回転自在に支持されるとともに、外周に軸方向に下降した際にトルクコンバータ側タービン部のスプライン部と結合するスプライン部を有し、かつ中心にトルコン油の油路を有する試験装置側タービン軸と、試験装置側タービン軸の外周側において同芯状にかつ第2の支持部に上下動可能で回転不能に支持されるとともに、外周に軸方向に下降した際にトルクコンバータ側ステータ部のスプライン部と結合するスプライン部を有する試験装置側ステータ軸と、試験装置側ステータ軸を下方に押圧する結合圧用スプリングを備えたことを特徴とするトルクコンバータの試験装置。
【請求項2】
トルコン油の給油時に、前記結合圧用スプリングが設けられた空間にトルコン油を充満させるようにしたことを特徴とする請求項1記載のトルクコンバータの試験装置。
【請求項3】
前記試験装置側ステータ軸に一端が取り付けられるともに、第2の支持部に設けられた長孔を上下動自在に貫通し、他端が外部に露出した結合確認シャフトを設け、この結合確認シャフトが所定位置にあることにより試験装置側ステータ軸がトルクコンバータ側ステータ部と結合したことを確認するようにしたことを特徴とする請求項1又は2記載のトルクコンバータの試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−229348(P2009−229348A)
【公開日】平成21年10月8日(2009.10.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−77187(P2008−77187)
【出願日】平成20年3月25日(2008.3.25)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】