説明

トンネルの補修・補強装置

【課題】紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ当てがい密着させ、紫外線を当てることにより硬化させて接着させる、トンネルの補修、補強装置を提供する。
【解決手段】トンネル12内の底面15上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上にシート貼付け装置2と紫外線照射装置3を設置する。シート貼付け装置2が光硬化型繊維強化樹脂シート14をコンクリート表面へ密着させ、1作業ステップ分だけ走行車輌1上を移動すると、紫外線照射装置3が光硬化型繊維強化樹脂シート14の直下位置へ進み、光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シート(以下、光硬化型FRPシートと云う場合がある。)を、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ当てがい密着させ、紫外線を当てることにより硬化させて接着させる、トンネルの補修、補強装置の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、トンネルのコンクリート表面は、施工上の問題として、セメントと骨材等の混練が不十分で分離する所謂ジャンカ、或いは打継ぎ部の所謂コールドジョイント等が不良箇所として発生し、ひび割れの発生や剥離、落下等の事故が深刻な問題となっている。そこで、前記のような補修必要箇所へ、紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型FRPシートを接着して補修、補強する技術的手段が、例えば下記特許文献1及び2に開示されており、既に一般的に知られ実施されている。
【0003】
例えば下記特許文献3には、トンネルの底面上を移動可能な架台上に設置された支柱の上端にブラケットが設置され、同ブラケットの上端に設けられた軸継手へ軸部材が取り付けられ、該軸部材へ固定された基枠へ主枠が取り付けられ、該主枠の上端へ設置された揺動アームの端部間に光硬化型FRPシートへ圧力を加えて補修必要箇所へ密着させて接着する複数の押圧ローラーがトンネルの軸方向に向けて設置された構成の補修、補強装置が開示されている。
また、特許文献3には、キャスターを備えた架台上に略半円形断面のロータリー枠が回転自在に支持され、同ロータリー枠に複数の直管状の紫外線ランプがトンネルのアーチ方向に沿って設置された構成の補修、補強装置も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−120820号公報
【特許文献2】特開2006−226103号公報
【特許文献3】特開2000−136696号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献3のトンネルの補修・補強装置は、光硬化型FRPシートのコンクリート表面へ密着させる装置と、紫外線を照射させる装置とが、別個独立した装置であり、別々にトンネル内へ搬入させて使用する構成なので、シート貼付け装置でコンクリート表面の補修必要箇所へシートを密着させた後を、連続して速やかに機械化作業として紫外線照射をすることが難しく、接着不良が生じる可能性があるし、作業が長期化して施工に手間と経費がかかる問題もある。のみならず、作業員が補修、補強作業する場合、例えば脚立等をトンネル内に設置する必要があるので、その設置や持ち運び等の段取り替えに手間と労力が掛かかる。
更に、トンネル内へ装置を搬入する際に、使用機材がトンネル入り口において制限される搬入寸法に収まりきらず、搬入できない場合がある。
【0006】
本発明の目的は、トンネル内の補修必要箇所まで移動させて作業の準備を迅速に簡単に行うことができ、光硬化型FRPシートをコンクリート表面の補修必要箇所へ接着して補修、補強する作業を、段取り替えの準備や手間の少ない機械化作業として安全に、効率よく行なうことができ、工期の大幅な短縮が可能で、作業性及び経済性の向上に優れた、トンネルの補修・補強装置を提供することである。
【0007】
本発明の次の目的は、トンネルアーチ面に対して作業員が立ち歩きして、光硬化型繊維強化樹脂シートによるコンクリート表面の補修、補強作業に好適な足場を、段取り替えの準備や手間の少ない構成で確保できるトンネルの補修、補強装置を提供することである。
【0008】
本発明の次の目的は、トンネル入り口において搬入制限寸法に収まる構成に折り畳むことができ、トンネル内の補修、補強作業位置へ搬入した段階で展開し簡易に作業開始の準備ができるトンネルの補修、補強装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記従来技術の課題を解決するための手段として、請求項1に記載した発明に係るトンネルの補修・補強装置は、
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル12内の底面15上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4が設置され、同架台4上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5が設けられ、同伸縮支柱5の上端部に、トンネルアーチ面12aの内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材6が設置され、同レール部材6上をトンネルアーチ方向へ移動する移動機構7上に、前記光硬化型繊維強化樹脂シート14へ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構8が設置されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載した発明に係るトンネルの補修・補強装置は、
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル12内の底面15上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4’が設置され、同架台4’上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5’が設けられ、同伸縮支柱5’の上端部に、トンネル12のコンクリート表面へ密着された光硬化型繊維強化樹脂シート14の内側に一定の間隔をあけて対峙するアーチ状配置で、光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備9が設置されていることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載した発明に係るトンネルの補修・補強装置は、
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル12内の底面15上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上の一側にシート貼付け装置2が設置され、同走行車輌1上の他側に紫外線照射装置3が設置されて成り、
前記シート貼付け装置2は、前記走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4が設置され、同架台4上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5が設けられ、同伸縮支柱5の上端部に、トンネルアーチ面12aの内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材6が設置され、同レール部材6上を移動する移動機構7上に、前記光硬化型繊維強化樹脂シート14へ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構8が設置された構成であり、
前記紫外線照射装置3は、前記走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4’が設置され、同架台4’上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5’が設けられ、同伸縮支柱5’の上端部に、トンネル12のコンクリート表面へ密着された光硬化型繊維強化樹脂シート14への内側に一定の間隔をあけて対峙する配置で、光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備8が設置された構成であり、
前記シート貼付け装置2が光硬化型繊維強化樹脂シート14をコンクリート表面へ密着させ、1作業ステップ分だけ走行車輌1上を移動すると、前記紫外線照射装置3が前記光硬化型繊維強化樹脂シート14の直下位置へ進み、同光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させることを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載したトンネルの補修・補強装置において、
走行車輌1上には、トンネルアーチ面12aに対して作業員が立ち歩きして光硬化型繊維強化樹脂シート14を接着させ、コンクリート表面を補修、補強する作業に適した高さの作業用足場11が形成されており、前記作業用足場11の上面のトンネル軸方向に架台レール42が設置され、同架台レール42上にシート貼付け装置2、及び紫外線照射装置3の架台4、4’が移動可能に設置されていることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載した発明は、請求項4に記載したトンネルの補修・補強装置において、
作業用足場11は、走行車輌1上の中央部の固定足場11aと、その左右両側へ出し入れ可能に設置された補助足場11b、11bとで構成され、架台レール42は中央部の固定足場11a上に設置されていることを特徴とする。
【0014】
請求項6に記載した発明は、請求項1〜3のいずれか一に記載したトンネルの補修・補強装置において、
押圧ローラー機構8のレール部材6、及び紫外線照射設備9は、各々トンネルアーチ面12aに沿うアーチ形状に形成され、その左右の両端部の一定長さ部分63、92は内側へ折り曲げ可能なヒンジ機構62、93で連結されており、同端部分63、92を折り曲げた状態でトンネル12内へ搬入され、トンネル12内での補修、補強作業に際して前記左右の端部63、92を拡げたアーチ形状とする構成であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
請求項1〜5に係るトンネルの補修・補強装置は、トンネル12内の底面15へ敷設された車輌用レール10上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1の上に、シート貼付け装置2と紫外線照射装置3が少なくとも一対で設置された構成であり、走行車輌1を外部の待機場所から必要に応じてトンネル12内へ搬入させ、補修必要箇所まで移動させる方式で作業の準備を簡単に行うことができる。
そして、先ず前記走行車輌1上のシート貼付け装置2により補修必要箇所へ光硬化型FRPシート14を機械化作業として密着させることができる。この光硬化型FRPシート14へ紫外線を照射させることで接着させ、補修、補強の目的を達成することができる。
その場合、前記走行車輌1上に、トンネルアーチ面12aに対して作業員が立ち歩きでき、光硬化型FRPシート14でコンクリート表面を補修、補強する作業に適した高さの作業用足場11が形成されているので、走行車輌1の上面を作業員の作業用足場として有効に活用しつつ効率の良い作業を進めることができる。
また、前記作業を終えたシート貼付け装置2を1作業ステップ分だけ移動させ、その跡へ同走行車輌1上の紫外線照射装置3を進めて適正な位置へ止め、その紫外線照射設備9で前記光硬化型FRPシート14へ紫外線を機械的に効率良く照射させることにより効率の良い接着を進めることができる。かくして、本発明の補修、補強装置によれば、手順の良い機械化作業を実施でき、工期の大幅な短縮が可能で、作業性及び経済性に大変優れている。
のみならず、走行車輌1の有効長さの範囲内における補修、補強作業を繰り返し行い、終了した場合には、当該走行車輌1を走行させることで、全体を次の作業工区へ移動させて補修、補強作業を継続して行うことができる。
【0016】
請求項6に係るトンネルの補修・補強装置によれば、押圧ローラー機構8のレール部材6及び紫外線照射設備8は、各々トンネルアーチ面12aに沿うアーチ形状に形成され、その左右の端部の一定長さ部分63、92は内側へ折り曲げ可能なヒンジ機構62、93で連結されているので、同端部分63、92を折り曲げ、搬入制限寸法に収まる構成にしてトンネル12内へ搬入できる。トンネル12内での作業に際しては、前記左右の端部63、92を拡げたアーチ形状にして使用するので、トンネル12内の補修、補強作業を広範囲に自由に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明に係る補修、補強装置の全体を概略的に示した側面図である。
【図2】図1の正面図である。
【図3】シート貼付け装置をトンネル軸方向から見た拡大図である。
【図4】シート貼付け装置の架台及び伸縮支柱の構成を拡大して示した斜視図である。
【図5】(a)、(b)は、それぞれ伸縮支柱の伸縮状態を示した説明図である。
【図6】シート貼付け装置の移動機構を拡大して示した断面図である。
【図7】コンクリート表面へ光硬化型FRPシートを密着させる状態を示した拡大図である。
【図8】紫外線照射装置をトンネル軸方向から見た拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に係るトンネルの補修・補強装置は、トンネル12内の底面15上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上の一側にシート貼付け装置2が設置され、同走行車輌1上の他側に紫外線照射装置3が設置された構成である。
前記シート貼付け装置2は、前記走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4が設置され、同架台4上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5が設けられ、同伸縮支柱5の上端部に、トンネルアーチ面12aの内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材6が設置され、同レール部材6上を移動する移動機構7上に、前記光硬化型繊維強化樹脂シート14へ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構8が設置された構成である。
前記紫外線照射装置3は、前記走行車輌1上に、同走行車輌1上をトンネル軸方向へ移動可能な架台4’が設置され、同架台4’上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5’が設けられ、同伸縮支柱5’の上端部に、トンネル12のコンクリート表面へ密着された光硬化型繊維強化樹脂シート14への内側に一定の間隔をあけて対峙する配置で、光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備8が設置された構成である。
前記シート貼付け装置2が光硬化型繊維強化樹脂シート14をコンクリート表面へ密着させ、1作業ステップ分だけ走行車輌1上を移動すると、前記紫外線照射装置3が前記光硬化型繊維強化樹脂シート14の直下位置へ進み、同光硬化型繊維強化樹脂シート14へ紫外線を照射して接着させる。
【実施例1】
【0019】
本発明に係るトンネルの補修・補強装置を図1〜8に示す実施例に基づいて説明する。
実施例1のトンネル補修・補強装置は、図1及び図2に示したように、トンネル12内のインバートコンクリートが形成する底面15上にトンネル軸方向へ沿って敷設された車輌用レール10上を、作業員の運転で走行する走行車輌1が用意され、同走行車輌1の車台1a上の前方側にシート貼付け装置2が設置され、同走行車輌1上の後方側に紫外線照射装置3が設置された構成である。前記走行車輌1の車台1a上に適宜高さの支持台13…を設置し固定して、その上にトンネルアーチ面12aに対して、作業員が立ち歩きして光硬化型FRPシート14をコンクリート表面へ接着させる補修、補強作業に適する高さの作業用足場11が形成されている。
前記作業用足場11は、図2に示したように、複数の支持台13…によって支持された中央部の固定足場11aと、その左右両側へスライドさせて出し入れ可能に設置された補助足場11b、11bとで構成されている。前記補助足場11b、11bは、走行車輌1をトンネル12内へ搬入させコンクリート表面の補修必要箇所へ位置決めした後に、図2のようにトンネル軸方向に見て左右両側へ引き出して使用する。したがって、トンネル12の広い横幅寸法の全域にわたり作業員の行動範囲となる。前記走行車輌1の作業用足場11(走行車輌の上面)の高さは、一例としてトンネル12の底面15から天井までの高さが約4.3mであるのに対し、トンネル12の底面15から約2.3mである。
なお、図示することは省略したが、前記車輌用レール10を敷設することなく、走行車輌1の底部へ非軌道車輪を取り付けた構成で実施することもできる。
【0020】
前記シート貼付け装置2は、図3〜7に示したように、前記走行車輌1の上面である作業用足場11の固定足場11aに、同固定足場11a上をトンネル軸方向に移動可能な架台4が設置され、同架台4上に垂直に設置され垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5が設けられ、同伸縮支柱5の上端部に、トンネルアーチ面12aの内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材6がトンネルアーチ面12aのほぼ全域に及ぶ長さ(例えば4.3m位)で設置され、同レール部材6上を移動する移動機構7上へ、前記光硬化型FRPシート14へ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構8が設置された構成とされている。
【0021】
上記移動可能な架台4は、一例として、図4に示したように、架台4の側面前後4箇所に車輪41…が取り付けられており、走行車輌1の作業用足場11へトンネル軸方向へ沿って敷設された溝形鋼による架台用レール42の溝内を、光硬化型FRPシート14の接着幅又は接着位置毎にステップ移動するように位置決め用のブレーキ機構(図示は省略)と共に設けられている。
なお、図示することは省略したが、前記走行レール42を敷設することなく、架台4に非軌道車輪を取り付けた構成として実施することもできる。
【0022】
上記架台4に設置された伸縮可能な伸縮支柱5は、図4に示したように、前記架台4の上面に底面が固定された下位鋼管50と、伸縮動作に必要な長さ部分が前記下位鋼管50の内部へ挿入され、同下位鋼管50内を上下方向へ移動する上位鋼管51とで構成されている。前記上位鋼管51の底面にワイヤー52の一端が取り付けられ、該ワイヤー52が下位鋼管50の縁部に設置された滑車53を介して、同下位鋼管50の側面に設置されたハンドル式のワイヤー巻取部材54に巻き付けられている。図5(a)、(b)に示したように、ワイヤー巻取部材54のハンドル55を手動で回転させてワイヤー52を巻き上げると、上位鋼管51が上方向へ移動し(図5a)、前記ワイヤー52を巻き下げると、該上位鋼管51が下方向へ移動して伸縮動作する(図5b)。因みに、約100cm程度の範囲で伸縮する。なお、上位鋼管51の側面に、複数の滑りローラー56…が設置されて、上位鋼管51の上下方向の移動を円滑に行なわせる機能とされている。
【0023】
上記レール部材6は、図3及び6に示したように、トンネルアーチ面12aに沿うアーチ形状としたH形鋼で構成され、そのウェブ部60の中央部分が、前記伸縮支柱5の上位鋼管51の上端面にしっかりと固定されて支持されている。したがって、レール部材6は、図5(a)、(b)に示したように、前記上位鋼管51の上下方向の移動にしたがって上下方向へ移動する。
前記レール部材6は、図3に示したように、左右の両端部の一定長さ部分63、63は内側へ折り曲げ可能なヒンジ機構62で連結されており、その左右の両端部63、63を折り曲げた状態でトンネル12内へ搬入できる。そして、同トンネル12内での作業に際しては、前記左右の両端部63、63を拡げ、一例としてステー64等で支持したアーチ形状で使用する。したがって、トンネル12入り口において制限寸法に収まる構成にでき、トンネル12内の補修、補強作業位置へ搬入して設置できる。
【0024】
上記レール部材6上を移動する移動機構7は、図6及び図7に示したように、レール部材6に跨るサドル部材73が主体を成し、このサドル部材73は、レール部材6の左右のフランジ61の上下縁を挟んで転がる前後2個ずつ(但し2個に限らない。)合計8個のローラー78…によりレール部材6に沿って移動可能に構成される。前記ローラー78は、前記サドル部材73の側面にピン79で連結されている。
前記サドル部材73には、レール部材6のウェブ60上面に平行に2条設置された左右のチェーンレール70、70上を走行する2つのスプロケット71、71が共通の回転軸72に固定されている。
前記スプロケット71、71の回転軸72の一端部(図6の左側)に、大径の歯車74が設置され、同大径の歯車74に噛む小径の歯車75が、ハンドル77のハンドル軸76に取り付けられている。つまり、ハンドル77を正・逆方向へ回転させることで、小径の歯車75から大径の歯車74へ回転が伝達され、同大径の歯車74の回転によって回転する回転軸72により、前記スプロケット71、71がチェーンレール70上を噛みながら走行してサドル部材73が前後方向へ移動し、ひいてはこの押圧ローラー機構8がトンネル12のアーチ方向へ移動する構成とされている。
【0025】
上記押圧ローラー機構8は、図3及び7に示したように、トンネル12のアーチ方向へ沿って動き、コンクリート表面へ当てがった光硬化型FRPシート14を押圧する押圧ローラー80と、同押圧ローラー80の両側に設置され前記コンクリート表面へ当てがった光硬化型FRPシート14を前記押圧ローラー80へと誘い込む2つのガイドローラー81、81とを、共通の支持板82に設置した構成である。前記支持板82は、図3及び図6に示したように、前記サドル部材73の両外側を挟む配置で、下方向へ伸びるシャフト部材83、83に支持されている。前記シャフト部材83、83は、上記サドル部材73の側部へ固定したシリンダ部材84内へ上下可能に差し込まれている。そして、前記シャフト部材83から下方へ延びる芯棒86の外周に巻き付けた圧縮バネ85と共に、下端を塞いだシリンダ部材84内へ挿入されている。したがって、前記シャフト部材83は圧縮バネ85により常時一定の上向き圧力で押されており、押圧ローラー80をコンクリート表面へ強く密着させることができる。前記芯棒86は、シリンダ部材84の下端から下方へ突き出した下方部分に差したピン87の取り付け箇所を変更することによって上下移動の可能範囲が複数段に調整可能とされている。
なお、図示することは省略したが、前記バネ材85を用いた伸縮機構に代えて、油圧ジャッキを使用した構成で実施することもできる。
【0026】
前記紫外線照射装置3も、図8に示したように、前記走行車輌1の作業用足場11を構成する固定足場11a上にトンネル軸方向へ移動可能な架台4’が設置され、同架台4’上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱5’が設けられ、同伸縮支柱5’の上端部にトンネル12のコンクリート表面へ密着された光硬化型FRPシート14の内側に一定の間隔をあけて対峙するアーチ状配置で、紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備9が設置された構成である。
【0027】
なお、前記紫外線照射装置3の架台4’は、図4に基づいて段落番号[0021]で説明したシート貼付け装置2の架台4と同一の構成であるため、それを援用して重複する説明は省略する。前記架台4’は、シート貼付け装置2の架台4と共通の架台レール42上を走行する。
【0028】
前記紫外線照射装置3の伸縮支柱5’も、図4に基づいて段落番号[0022]で説明したシート貼付け装置2の伸縮支柱5と同一の構成である。即ち、ワイヤー巻部材54’のハンドル55’を回転させてワイヤー52’を巻き上げ、又は巻き下げることで、上位鋼管51’が下位鋼管50’内を上下方向へ移動し、上記紫外線照射設備9を上下方向へ移動させる構成である。
【0029】
前記紫外線照射設備9は、図8に示したように、トンネル12のアーチ方向に沿う形状の支持部材90の上面に複数の紫外線ランプ91…を同トンネル12のアーチ方向に沿って照射効果を発揮する密な配置に並べて設置した構成である。
前記支持部材90は、左右の両端部の一定長さ部分92、92は内側へ折り曲げ可能なヒンジ機構93で連結されており、その両端部92、92を折り曲げた状態でトンネル12内へ搬入され、同トンネル12内での作業に際して前記左右の両端部92、92を拡げ、位置決め機構により、又は一例として図3で説明したステー等(図示は省略)で支持してアーチ形状で使用する。したがって、この紫外線照射設備9もトンネル12入り口において搬入制限寸法に収まる構成にでき、トンネル12内の補修、補強作業位置へ搬入して設置できる。
【0030】
上述した構成の補修、補強装置を使用したトンネルの補修、補強作業の遂行について説明する。
先ず、外部の待機場所からトンネル12内へ走行車輌1を運転し走行させて搬入し、コンクリート表面の補修必要箇所の直下位置まで移動させて補修、補強作業の準備する。
次に、前記シート貼付け装置2の架台4を移動させて同シート貼付け装置2を前記補修必要箇所へ正しく位置決めし設置(固定)する。また、押圧ローラー機構8のレール部材6の両端部分63、63を折り曲げている場合は、同両端部63、63を拡げ、ステー64等で支持してアーチ形状にする。前記補修必要箇所のトンネルアーチ面12aへ光硬化型FRPシート14を当てがった上で、伸縮支柱5に設置されたワイヤー巻取部材54のハンドル55を手動で回転させてワイヤー52を巻き上げ、上位鋼管51を上方へ移動させてレール部材7を上昇させ、押圧ローラー機構8の押圧ローラー80が光硬化型FRPシート14を強く押す状態とする。そして、押圧ローラー機構8のシャフト部材83から下方へ延びた芯棒86のピン87を抜いてワンランク下方のピン孔へ差して準備をする(図3を参照)。そして、ハンドル77を手動回転して移動機構7を走行させ、前記ローラー機構8をトンネルアーチ方向へ移動させながら、押圧ローラー80で光硬化型FRPシート14を補修必要箇所へ強く密着させる(図7を参照)。必要ならば、移動機構7を往復移動させて、光硬化型FRPシート14の密着作業の完全を期す。押圧ローラー80による密着作業が終えると、押圧ローラー機構8の芯棒86のピン87を抜いてワンランク上方のピン孔へ差して押圧ローラー80を光硬化型FRPシート14から離し、前記ワイヤー巻取部材54のハンドル55を手動で回転させてワイヤー52を巻き下げ、上位鋼管51と共に、押圧ローラ機構8及びレール部材6を下方向へ移動させ、光硬化型FRPシート14から離間させる。なお、前記シート貼付け装置2の操作や、同押圧ローラー機構8によるシート密着が行き届かないときは、作業用足場11を活用して作業員による手作業(補助作業)により補修、補強作業が行われる。
しかる後に、シート貼付け装置2を1作業ステップ分だけ移動させ、その跡へ紫外線照射装置3を光硬化型FRPシート14の直下位置へ進めて止め、やはり伸縮支柱5’に設置されたワイヤー巻取部材54’のハンドル55’を手動で回転させてワイヤー52’を巻き上げ、上位鋼管51’の上昇させて紫外線照射設備9を光硬化型FRPシート14に対して好適な間隔まで移動させる。次いで、前記紫外線照射設備9の紫外線ランプ91…を発光させて前記光硬化型FRPシート14へ紫外線を照射させ硬化を進め接着する(図8を参照)。このとき、前記紫外線照射設備9は、密着させた光硬化型FRPシート14がトンネルアーチ面において部分的な箇所である場合は、必要な箇所の紫外線ランプ91…のみを発光させて、紫外線を照射させることも良い。紫外線照射設備8による紫外線の照射が終えると、前記ワイヤー巻取部材54’のハンドル55’を手動で回転させてワイヤー52’を巻き下げ、上位鋼管51’と共に、紫外線照射設備9を下方向へ移動させ、光硬化型FRPシート14から離間させる。以下、同様の操作を繰り返して、光硬化型FRPシート14の接着を行う。
こうして、本実施例の補修、補強装置によれば、手順の良い機械化作業を実施でき、工期の大幅な短縮が可能で、作業性及び経済性に大変優れている。のみならず、走行車輌1の有効長さの範囲内における補修、補強作業を繰り返し行い終了した場合には、当該走行車輌1を走行させて、全体を次の作業工区へ移動させて補修、補強作業を継続して行うことができる。
【実施例2】
【0031】
本発明のトンネルの補修、補強装置は上記した実施例の限りではない。図示することは省略したが、トンネル12内の底面15をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上に実施例1で説明したシート貼付け装置2のみを設置した構成で実施することもできる。本実施例では、実施例1で説明した手順により、前記シート貼付け装置2の押圧ローラー機構8の押圧ローラー80で、光硬化型FRPシート14をコンクリート表面の補修必要箇所へ密着させ接着させた後、別に用意した紫外線照射器で、前記密着させた光硬化型FRPシート14へ紫外線を照射して硬化させ接着させる。
【実施例3】
【0032】
また、図示することは省略したが、トンネル12内の底面15をトンネル軸方向へ走行する走行車輌1上に実施例1で説明した紫外線照射装置3のみを設置した構成で実施することもできる。本実施例では、別に用意した押圧ローラーや木槌等を用いて光硬化型FRPシート14をコンクリート表面の補修必要箇所へ密着させた後、実施例1で説明した手順により、前記紫外線照射装置3で前記密着させた光硬化型FRPシート14へ紫外線を照射して硬化させ接着させる。
【0033】
なお、以上に本発明の実施例を説明したが、本発明のこうした実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施し得る。
【符号の説明】
【0034】
1 走行車輌
2 シート貼付け装置
3 紫外線照射装置
4、4’ 架台
5、5’ 伸縮支柱
6 レール部材
7 移動機構
8 ローラー機構
9 紫外線照射設備
11 作業用足場
11a 固定足場
11b 補助足場
12 トンネル
12a トンネルアーチ面
14 光硬化型繊維強化樹脂シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル内の底面上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌上に、同走行車輌上をトンネル軸方向へ移動可能な架台が設置され、同架台上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱が設けられ、同伸縮支柱の上端部に、トンネルアーチ面の内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材が設置され、同レール部材上をトンネルアーチ方向へ移動する移動機構上に、前記光硬化型繊維強化樹脂シートへ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構が設置されていることを特徴とする、トンネルの補修・補強装置。
【請求項2】
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル内の底面上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌上に、同走行車輌上をトンネル軸方向へ移動可能な架台が設置され、同架台上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱が設けられ、同伸縮支柱の上端部に、トンネルのコンクリート表面へ密着された光硬化型繊維強化樹脂シートの内側に一定の間隔をあけて対峙するアーチ状配置で、光硬化型繊維強化樹脂シートへ紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備が設置されていることを特徴とする、トンネルの補修・補強装置。
【請求項3】
紫外線を受けると硬化し接着する光硬化型繊維強化樹脂シートを、トンネルのコンクリート表面のうち補修必要箇所の表面へ接着させる補修・補強装置であって、
トンネル内の底面上をトンネル軸方向へ走行する走行車輌上の一側にシート貼付け装置が設置され、同走行車輌上の他側に紫外線照射装置が設置されて成り、
前記シート貼付け装置は、前記走行車輌上に、同走行車輌上をトンネル軸方向へ移動可能な架台が設置され、同架台上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱が設けられ、同伸縮支柱の上端部に、トンネルアーチ面の内側に一定の間隔をあけて対峙する配置でレール部材が設置され、同レール部材上を移動する移動機構上に、前記光硬化型繊維強化樹脂シートへ圧力を加えてコンクリート表面へ密着させ接着させる押圧ローラー機構が設置された構成であり、
前記紫外線照射装置は、前記走行車輌上に、同走行車輌上をトンネル軸方向へ移動可能な架台が設置され、同架台上に垂直方向への伸縮が可能に構成された伸縮支柱が設けられ、同伸縮支柱の上端部に、トンネルのコンクリート表面へ密着された光硬化型繊維強化樹脂シートへの内側に一定の間隔をあけて対峙する配置で、光硬化型繊維強化樹脂シートへ紫外線を照射して接着させる紫外線照射設備が設置された構成であり、
前記シート貼付け装置が光硬化型繊維強化樹脂シートをコンクリート表面へ密着させ、1作業ステップ分だけ走行車輌上を移動すると、前記紫外線照射装置が前記光硬化型繊維強化樹脂シートの直下位置へ進み、同光硬化型繊維強化樹脂シートへ紫外線を照射して接着させることを特徴とする、トンネルの補修・補強装置。
【請求項4】
走行車輌上には、トンネルアーチ面に対して作業員が立ち歩きして光硬化型繊維強化樹脂シートを接着させ、コンクリート表面を補修、補強する作業に適した高さの作業用足場が形成されており、前記作業用足場の上面のトンネル軸方向に架台レールが設置され、同架台レール上にシート貼付け装置、及び紫外線照射装置の架台が移動可能に設置されていることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載したトンネルの補修・補強装置。
【請求項5】
作業用足場は、走行車輌上の中央部の固定足場と、その左右両側へ出し入れ可能に設置された補助足場とで構成され、架台レールは中央部の固定足場上に設置されていることを特徴とする、請求項4に記載したトンネルの補修・補強装置。
【請求項6】
押圧ローラー機構のレール部材、及び紫外線照射設備は、各々トンネルアーチ面に沿うアーチ形状に形成され、その左右の両端部の一定長さ部分は内側へ折り曲げ可能なヒンジ機構で連結されており、同端部分を折り曲げた状態でトンネル内へ搬入され、トンネル内での補修、補強作業に際して前記左右の端部を拡げたアーチ形状とする構成であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一に記載したトンネルの補修・補強装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−117129(P2011−117129A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−272923(P2009−272923)
【出願日】平成21年11月30日(2009.11.30)
【出願人】(000150110)株式会社竹中土木 (101)
【Fターム(参考)】