説明

ナス加工品の製造方法及びナスを含有する加工食品

【課題】色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持が図られるように、加工ナスを調
整し得、これを工業的に大量に実施するのに適した加工ナスの製造方法を供する。
【解決手段】生ナスを40〜70℃の油脂と接触させた後、ナスから余分な油脂を除去し
、気中雰囲気で品温135〜190℃で加熱処理を施すことを特徴とする加工ナスの製造
方法。油脂と接触させた後気中雰囲気で加熱処理を施した皮付きのナスであって、喫食時
における皮表面の色調がJIS標準色票の色見本の内、色相:10PB、明度:0〜4、
彩度:0〜4の色調であり、かつ、硬さが5×10N/m以上の上記ナスを含有する
加工食品。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鮮やかな紫色の色調を有し、良好な風味及び食感を有し、これらが保持され
るナス加工品の製造方法に関する。また、上記の性能を有するナスを含有する加工食品に
関する。
【背景技術】
【0002】
所謂揚げナスは、生ナスを150〜180℃程度の油脂で揚げて調製され、揚げ処理に
より、色素の安定化(主にアントシアニンの一種であるナスニンの紫色が褪色しない安定
な状態になる)と揚げ風味の形成が達成される。ここで、上記揚げ処理の温度が高温にな
る場合には、上記の色素の安定化と風味の形成が達成される反面、ナスに油脂が染み込み
すぎて食感が軟化しやすく、特に保存中にふやけた食感になりやすく、これにより風味も
落ちやすい。一方、温度が低すぎると、食感は軟化しないが、上記色素の安定化及び加熱
風味の形成が達成されにくい。
したがって、これらの問題を生じずに、色調、風味、食感の何れもが良好な揚げナスを
調製するための条件は設定しにくい。また、揚げナスを具材に用いて、麻婆ナス等の各種
チルド食品、レトルト食品等の加工食品を調製する場合も多い。この場合は、加工食品中
のナスについて、上記の色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持が図られるように
、揚げナス等の加工ナスを調整する技術及びこれを工業的に大量に実施し得る技術の出現
が求められる。
【0003】
ナスの加工技術として、特許文献1には、生茄子の表面に常温の食用油を付着させた後
、油切りを行って余分な油を除去した後に焼成した調理済み茄子を冷凍してなることを特
徴とする冷凍調理茄子具材が提案されている。
上記の技術は、180℃位の食用油で揚げてから急速冷凍すると、油が残っているので
、完全凍結することができず、カットした茄子どうしがくっついて、分離しにくいという
欠点がある。また、解凍した場合、型くずれし易く、柔らかくなりすぎ歯ざわりに欠け、
食用油中に茄子の色素が溶出して油を汚し、茄子の断面は黒変化する欠点がある。これら
の欠点を解消するため、茄子の表面に「低温の」(実施例では常温である)食用油を付着
させた後、油切りを行って焼成する。これにより、表面に付着する油を低減させて完全凍
結できるようにして、前記の欠点を解消する発明に係る。
特許文献2には、茄子を洗浄する工程、切断する工程、洗浄水又は塩水に浸漬する工程
、水切りして大豆油とパーム油を使用して所望の条件下で油揚げする工程、予冷する工程
、急速冷凍する工程とからなる冷凍揚げ茄子の製造方法が提案されている。衛生的であっ
て食感、風味、旨味に優れると共に、手間をかけることがなく、調理が簡単である冷凍揚
げ茄子及び冷凍焼き茄子を製造する発明に係るが、油揚げを油温190°C程度で実施し
、熱風処理は実施しない。
以上の先行技術2点は、調理茄子の加工技術である点において本発明と共通するが、前
記の本発明における、色調、風味、食感が良好な加工ナスを調整する課題、及び特定温度
の油による処理と気中での加熱処理とを組合せた構成を欠く点において相違する。

【特許文献1】特開2000−316466号公報
【特許文献2】特開2000−139393号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
解決しようとする課題は、色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持が図られるよ
うに、加工ナスを調整し得、これを工業的に大量に実施するのに適した加工ナスの製造方
法を供することである。また、上記の性能の加工ナスを含有する高品質の加工食品を供す
ることである。
【0005】
上記の課題を踏まえて、本発明者らが研究を進めた結果、生ナスを特定温度の油脂と接
触させた後、ナスから余分な油を除去した後に、熱風等で気中での加熱処理を施すことで
、揚げナス等の加工ナスとして、色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持(加工食
品の具材として用いた場合の保存時における食感の保持を含む)の全ての面で高品質の加
工ナスを調製し得る、との知見を得た。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、これらの知見に基づいてなされたもので、生ナスを40〜70℃の油脂と接
触させた後、ナスから余分な油脂を除去し、気中雰囲気で品温135〜190℃で加熱処
理を施すことを特徴とする加工ナスの製造方法を最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の加工ナスの製造方法によれば、色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持
の面で高品質の揚げナス等の加工ナスを製造できるという利点がある。上記の性能の加工
ナスを含有する高品質の加工食品を供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明について詳細に説明する。
原料となる生ナスとしては、皮を付けたままか、適当に剥皮し、必要により適当な大き
さに切ったものが挙げられる。原料形態は、生のもの、冷凍品等のいずれでもよい。生ナ
スに洗浄、調味等の処方を施し得ることは勿論である。切り方は、輪切り、扇形切り等任
意である。
上記の生ナスに対して、油脂との接触処理及び気中雰囲気での加熱処理を順次施す。
【0009】
油脂としては、オリーブ油、菜種油、大豆油等の植物油脂、ラード、牛脂等の動物油脂
、魚油脂等、これらの混合物、あるいは、これらの油を主体として他に調味原料等を含む
ものが挙げられる。油脂には油性の調味食品が含まれる。油脂の性状は任意であるが、チ
ルド食品(本明細書中では、冷蔵(即ち10℃以下)で保存する概念の食品を「チルド食
品」と定義する)等の保冷食品に用いるための加工ナスを調製する場合には、油脂の融点
を特定することが有効である。即ち、油脂の融点を、保冷温度を超える温度以上、例えば
10℃以上、好ましくは10〜50℃とするのがよい。油脂の融点が保冷温度を超えると
、チルド食品等の保冷食品の保冷保存時に、油脂が凝固状態となって流動しないことから
、保存時におけるナスの食感や油脂の劣化を適当に止めることができ、本発明で得られる
加工ナスの品質性能がより適切に保持されるからである。なお、融点が50℃を超える場
合には、食品の喫食時にナスの食感がザラついたものになることがある。
接触処理の際に、油脂は生ナスに対して50質量%(以下%と略称する)以上用いると
よく、これにより、油脂との接触処理及び加熱処理において、加工ナスに良好な色調と風
味を達成することができる。
【0010】
油脂との接触処理は、生ナスを溶融した油脂中に浸漬させる、溶融した油脂中に通す、
生ナスの表面に溶融した油脂をかける、塗布、噴霧等で付着させる等により実施すること
ができる。装置は、平釜、パドルミキサー等を用いればよく、かき混ぜる機能があれば望
ましい。接触処理は、油脂の品温を40〜70℃、好ましくは50〜60℃にして、例え
ば浸漬する場合は10分以上、好ましくは15〜60分間実施するのがよい。上記温度、
時間の範囲の下限に満たないと、ナスの色素の安定化、加熱風味の形成が十分に達成され
ない場合があり、各々が上限を超えると、食感が軟化しやすくなる。したがって、上記範
囲の条件によって、色素の安定化、加熱風味の形成及び食感の保持の全てが図られる
【0011】
生ナスに油脂との接触処理を施した後、ナスから余分な油脂を除去する。ナスをメッシ
ュや油取り紙に載置する等で油脂を除去すればよい。
この後、ナスに気中雰囲気で品温135〜190℃、好ましくは150〜180℃で、
1〜15分間、好ましくは2〜10分間加熱処理を施す。加熱処理の条件が、上記温度、
時間の範囲の下限に満たないと、色素(ナスニン=アントシナニン)が安定せずに退色し
やすく、各々が上限を超えると、食感が柔らかくなる傾向となる。したがって、上記範囲
の条件によって、色素(ナスニン=アントシナニン)が安定し且つ良好な食感が保持され
る。気中雰囲気での加熱処理とは、例えばナスを、大気中、真空中、加圧気中、各種ガス
中等の気体中に置いた雰囲気で、熱風、マイクロウェーブ、遠赤外線等を熱源として加熱
処理することを意味する。装置は、オーブン、マイクロウェーブオーブン、マイクロウェ
ーブレンジ等を用いればよい。加熱処理後のナスは、以後の処理に合せて適宜冷却処理す
ることができる。
【0012】
以上の処理を施して加工ナスを調製することができる。
調製した加工ナスは、鮮やかな紫色の色調を有し、油と融合した加熱風味があり、軟化
せず適当な食感を有するものとなる。同時に、色調、風味、食感が保存時にも保持される
ものとなる。したがって、加工ナスは、カレー、麻婆ナス等の各種チルド食品、レトルト
食品等の加工食品を調製する場合に、具材として用いるのに適する。
なお、調製した加工ナスの油脂含量は、10〜50%好ましくは20〜40%であるの
がよい。油脂含量が10%を下回ると、ナスの風味が生っぽくなりやすく、50%を超え
ると、風味が油っぽくなりやすい。上記の油脂含量の範囲であれば、油の甘味となすの香
り立ちが相乗的にアップした良好な風味の加工ナスが得られる。上記の油脂含量は、ソッ
クスレー65℃、16時間抽出法によって測定することができる。
【0013】
上記の加工食品中に含まれる加工ナス(つまり製品化されて流通に置かれた状態の加工
食品中に含まれる加工ナス)は、次の性能をもつものであることが望ましく、前記の本発
明により調製された加工ナスを使用することで、これが好適に達成される。
即ち、好ましい性能としては、加工食品の喫食時における、ナスの色調がJIS標準色
票の色見本の内、色相:10PB、明度:0〜4、彩度:0〜4の色調の範囲のものとな
ること、また、ナスの硬さがレオメーター計(サン化学社製)により測定した値が、5.0
×10N/m以上、好ましくは3〜1.0×10N/m以上の範囲のものとなることであ
る。上記のJIS標準色票により測定した色相:10PB、明度:0〜4、彩度:0〜4
に満たない場合には、ナスの色調が褪色しており、美観上の品質が満足されず、また、レ
オメーター値が5.0×10N/mに満たない場合には、ナスの食感が軟化したものとな
りやすく、3×10N/mを超えると、食感が硬い傾向となる。したがって、上記の条
件範囲において、ナスの紫色の色調と適当な食感の両方が満足される高品質の加工食品が
得られる。なお、本発明には、上記の性能をもつ加工食品中の加工ナス、並びに上記の性
能をもつ加工ナスを含有する加工食品が含まれる。ナスの硬さの測定方法は、日本介護食
品協議会のユニバーサルデザインフード(UDF)の試験法に準ずる。本発明によれば、
UDFレベル4の上限基準以上の硬さである加工ナスが得られるので望ましい。本明細書
中、色調値及び硬さの値は、前記のようにして測定したものに統一して用いる。
【実施例】
【0014】
次に本発明をさらに詳細に説明するために実施例を掲げるが、本発明は以下の実施例のみ
に限定されるものではない。
実施例1(加工ナスの調製)
へたを取り約5mm程度の厚さに輪切りにした生ナス50%と、融点35℃のラード5
0%とを平釜に入れ、かき混ぜながらラードの品温を50℃にして30分間油脂との接触
処理を行った。ナスから余分な油脂を除去し、オーブン内のメッシュのトレイに載せて、
180℃で5分間熱風で加熱処理を行った。
以上の処理を施して調製した加工ナスは、鮮やかな紫色の色調を有し、油脂含量約30
%のもので、油と融合した加熱風味があり、軟化せず適当な食感を有するものであった。
【0015】
実施例2(チルド食品の調製)
常法によって加熱調理したカレーソース50%に、実施例1で得た加工ナス15%を加
えてカップ状容器に充填密封し、100℃で30分間加熱殺菌処理してチルドカレーを調
製した。このチルドカレーを冷蔵庫で5℃で保存し、一定期間保存後のナスの色調、風味
、食感(硬さ)を評価した。
保存期間 色 調 風 味 食 感
(色相10PB) (レオメーター値N/m
─────────────────────────────────────
1週間 鮮やかな紫色 油の甘味と加熱 良好な食感である
(明度3彩度2) 風味がある (2.1×10N)
2週間 鮮やかな紫色 油の甘味と加熱 良好な食感である
(明度3彩度3) 風味がある (1.9×10N)
4週間 鮮やかな紫色 油の甘味と加熱 良好な食感である
(明度3彩度3) 風味がある (1.6×10N)
【0016】
比較例1
実施例1と同様のナスと菜種白絞油を、平釜に入れ、かき混ぜながら菜種白絞油の品温
を170℃にして5分間加熱処理を行った。得られた加工ナスは、鮮やかな紫色の色調を
有し、油の甘味と加熱風味があるが、食感が軟化してふやけたものであった。
【0017】
比較例2
実施例1と同様のナスと菜種白絞油を、平釜に入れ、かき混ぜながら菜種白絞油の品温
を60℃にして60分間加熱処理を行った。得られた加工ナスは、軟化せず適当な食感を
有したが、紫色の色調が加熱処理直後から徐々に褪色して薄くなり、油と融合した加熱風
味が不十分なものであった。
【0018】
比較例3
比較例1、2で得た加工ナスを用いて、実施例2と同様にしてチルドカレーを調製し、
冷蔵庫で5℃で保存し、一定期間保存後のナスの色調、風味、食感(硬さ)を評価した。
(比較例1で調製したチルドカレーに含まれる加工ナス)
保存期間 色 調 風 味 食 感
(色相10PB) (レオメーター値=N/m
─────────────────────────────────────
1週間 鮮やかな深紫〜紫色 油の甘味と加熱 噛まなくてよいレベル
(明度3彩度2) 風味がある (4.5×10N)
2週間 鮮やかな深紫〜紫色 油の甘味と加熱 噛まなくてよいレベル
(明度3彩度3) 風味がある (4.6×10N)
4週間 鮮やかな深紫〜紫色 油の甘味と加熱 噛まなくてよいレベル
(明度3彩度3) 風味がある (3.9×10N)

(比較例2で調製したチルドカレーに含まれる加工ナス)
保存期間 色 調 風 味 食 感
(色相10YR) (レオメーター値=N/m
─────────────────────────────────────
1週間 茶色〜黄色 油の甘み、加熱 適当な食感がある
(明度5彩度4) 感が少ない (2.9×10N)
2週間 茶色〜黄色 油の甘み、加熱 適当な食感がある
(明度5彩度4) 感が少ない (2.5×10N)
4週間 茶色〜黄色 油の甘み、加熱 適当な食感がある
(明度6彩度4) 感が少ない (2.8×10N)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生ナスを40〜70℃の油脂と接触させた後、ナスから余分な油脂を除去し、気中雰囲
気で品温135〜190℃で加熱処理を施すことを特徴とする加工ナスの製造方法。
【請求項2】
加工ナスを保冷食品に用いるためのものとし、かつ油脂の融点を当該保冷食品の保冷温
度を超える温度以上のものとした請求項1記載の方法。
【請求項3】
油脂と接触させた後気中雰囲気で加熱処理を施した皮付きのナスであって、喫食時にお
ける皮表面の色調がJIS標準色票の色見本の内、色相:10PB、明度:0〜4、彩度
:0〜4の色調であり、かつ、硬さが5×10N/m以上の上記ナスを含有する加工
食品。
【請求項4】
油脂の融点が10℃以上であり、加工食品がチルド食品である請求項3記載の加工食品


【公開番号】特開2007−49950(P2007−49950A)
【公開日】平成19年3月1日(2007.3.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−238420(P2005−238420)
【出願日】平成17年8月19日(2005.8.19)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】