説明

ナノ構造におけるプラズモン力の操作

分子を特性評価及び/又は操作するためのシステム(100)について説明している。そのシステムは特に、生体分子に適するが、本発明はそれに限定されない。システム(100)は、分子の通過に適したナノ構造(120)を有する基板(110)を備える。そのシステムはさらに、ナノ構造(120)を分子通過させるための手段(210)及びナノ構造(120)でプラズモン力場を印加することにより、粒子の通過速度に影響を与えるように適合したプラズモン力場発生手段(130)を含む。対応する方法についても説明している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子のような分子を解析及び/又は操作する分野に関する。特に、本発明は、ナノ構造を使用して分子を解析及び/又は操作するための方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
ナノポアは、生化学的解析、主に線形有機分子の構造解析に使用することができる。従来、バイオナノポアが使用されていたが、それらは安定的でなく、通常一度しか使用することができない。その結果、この問題を生じない固体ナノポアが、ナノポアシークエンシング技術にとっては好ましい。固体ナノポアは、所定範囲(0.1nm〜999nm)の直径を有する、膜内に人工的に製造されるホールである。かかるナノポアでの分子シークエンシングは、特にターゲット分子がナノポアを通過すること(translocation)に依存する。
【0003】
しばしば引用されるナノポアの特定の用途は、DNAシークエンシングである。分子の断片で、伝達(transduction)及び認識が連続的かつリアルタイムに実施される。通過は、受動的に又は(よりすぐれた制御で)能動的に達成される。能動的な通過は、膜によって分離した流体容器内に配置された(2つの)電極に電圧を印加し、生じる電界がポアを通過する荷電分子を推進する電気泳動によって達成することができる。
【0004】
種々の電気的又は電子的相互作用は、ポア内でのセンシングに利用することができる。DNAの通過事象は、ナノポアを流れるイオン電流の測定によって定期的に検出することができる。ポア内でのDNA分子の存在は、イオン電流の増加又は減少につながる。特に、DNA鎖の種々の塩基分子は、ナノポアに存在するイオン流束に異なる封鎖効果を生じる。インピーダンスの小さなこれらの変化を記録することによって、DNAの塩基配列についての情報を得ることができる。充分な感度でかかる測定を実施できる場合、分子の構造又は化学組成についての情報をイオン電流のデータから得ることができる。別の方法では、ポア内に電極が取り付けられ、分子の電子的特性が測定される。電極間に電圧を印加する場合、分子の電子状態を用いた量子力学的な電子トンネリングによってシミュレーションされた電子電流が流れることができる。かかるメカニズムは、化学的特異性を提供する。別のアプローチでは、静電容量の変調が検出される。
【0005】
現在、通過速度が非常に大きく、DNA鎖の単一の塩基分子を読み取ることができないので、DNA鎖の通過速度を低下させることが、ナノポアシークエンシング技術での一課題である。先行技術において、多くの解決方法が提供されている。
【0006】
論文(Fologea, "Slowing DNA translocation in a solid-state nanopore")では、環境条件、特に電解液の温度、塩濃度、粘度及びナノポアに対する電気的バイアス電圧を制御することによってDNAの通過速度を低下させるための技術が説明されている。これらの環境パラメータを調整することにより、DNAの通過速度についての重要な結果を得ることができることが示されている。
【0007】
ナノポア内での通過を減速させるための別の例は、例えば文献(Clake et al. in Nat. Nanotech.2009 p265.)で説明されているようなナノポアの化学的機能化である。機能化されたナノポアと測定するDNAとの間の化学的相互作用により減速に至る。
【0008】
DNAの通過を減速させるためのさらに別の解決方法は、光ピンセットの使用である。DNAの通過を制御するためのこの間接的な方法では、光ピンセットを使用し、ナノポアの位置で、又はナノポアの近くで、捕捉可能なビーズにDNA断片を結合する。かかる技術の欠点は、DNA断片のビーズへの結合が必要となる点である。これは、DNAに影響を与える可能性があり、更なる装置及びビーズが必要となり、そして追加の処理工程を必要とする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、ナノ構造を使用して、分子を解析及び/又は操作するための、優れた方法及び/又はシステムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
生体分子のような分子の正確な解析を可能にする方法及びシステムが提供されることが、本発明による実施形態の利点である。その方法は、例えば核酸、核酸類似体又はアミノ酸に適用可能である。
【0011】
ナノ構造周囲の分子の閉じ込めを高精度で実施できることは、本発明による実施形態の利点である。
【0012】
分子に結合することを必要とせずに分子の正確な通過を実施できることは、本発明による実施形態の利点である。
【0013】
生きた細胞やウイルスの正確な検出を実施できることは、本発明による実施形態の利点である。生きた細胞やウイルスにとってプラズモン力が安全であることは、本発明による実施形態の利点である。これは、通過速度を減速させるために使用される他の技術には当てはまらないことが多い。
【0014】
プラズモン力が、分光法をベースとした特性評価又は操作の方法、例えば表面増強ラマン散乱及び表面増強蛍光において非常に有用な最大場増強領域に分子を引き込むことになることは、本発明の実施形態による利点である。好都合なことに、それは、分光法をベースとしたDNAシークエンシングに使用することができる。
【0015】
イオン流束法及び分光法、例えばラマン分光法又は蛍光分光法の両方にプラズモン力を使用できることが、本発明による実施形態の利点である。これは、分光法で使用不可能な、通過速度に影響を与えるための化学的機能化とは対照的である。プラズモン力がイオン流束に影響を与えない結果、分子を特性評価するための正確な技術として、イオン流束の測定値の使用可能性を生じることが、本発明による実施形態の利点である。
【0016】
上記の目的は、本発明による方法及びシステムによって達成される。
【0017】
本発明は、分子の通過に適したナノ構造を有する基板と、ナノ構造を分子通過させるための手段と、ナノ構造でプラズモン力場を印加することによって粒子の通過速度に影響を与えることに適合したプラズモン力場発生手段とを備えた、分子を特性評価及び/又は操作するためのシステムに関する。分子の通過速度に影響を与え、例えば分子の通過速度を低下させ、分子の通過のより正確な測定を可能にし、例えばDNAシーケンシングのための構造を使用するためにプラズモン力場を印加できることは、本発明による実施形態の利点である。それゆえ、測定する分子に実質的に影響を与えない技術を使用することは、例えば環境条件の調整、又はビーズへの結合及び捕捉と対比して有利である。
【0018】
プラズモン力場発生手段は、基板内に、表面プラズモン発生用の放射線を受容するための金属層を含んでもよい。
【0019】
プラズモン力場発生手段は、金属層内に表面プラズモンを発生させるための放射線源を有してもよい。
【0020】
システムは、ナノ構造を流れる電流の変化を示す電気信号を検出するための検出ユニットを備えてもよい。電流の変化は、ナノ構造を分子が通過したことを表す。
【0021】
通過させるための手段は、システム内で分子に電気泳動力を付加するための電界発生手段を有してもよい。分子の通過の際に支援するための電気泳動のような従来の技術を利用できることは、本発明による実施形態の利点である。電気泳動に必要なコンポーネントを容易に追加できることは、本発明による実施形態の更なる利点である。
【0022】
基板はさらに、ナノ構造の周囲でプラズモン力場を増強させるための周期的な溝、周期的なホール、又はアンテナ構造のうち、少なくとも1つを有してもよい。ナノ構造内でプラズモン力場を増強させるための、例えばアンテナのような追加の手段を設けることができることは、本発明による実施形態の利点である。この方法で、プラズモン力場密度を実質的に増加させることができる。
【0023】
ナノ構造は、ポア若しくはホール、スリット、チャネル又はナノチャネル内の狭窄部でもよい。ナノ構造は、100nm未満の特有の大きさ、例えば50nm未満、例えば10nm未満の大きさを有してもよい。小さいナノ構造がより優れた空間閉じ込めを可能にすることは、本発明による実施形態の利点である。
【0024】
基板は、SiO被覆を有する若しくは有しないシリコンナノ構造キャビティ、少なくとも1つのナノ構造を有する自立膜、又はチップ端部でナノ構造を形成するGaNの二重チップ構造のいずれであってもよい。本発明の実施形態によるナノ構造を製造するために既知のナノ構造技術を利用できることは、本発明による実施形態の利点である。
【0025】
プラズモン力場発生手段は、分子のためのスイッチ又はバルブとしてナノ構造を動作させるために、ナノ構造でのプラズモン力場を制御するためのコントローラを有してもよい。電気的及び/又は機械的な力をベースとして、例えば分子に化学的に大きな影響を与えることなく、分子のためのスイッチ又は分子バルブを作製できることは利点である。
【0026】
少なくとも複数のナノ構造が基板内に存在してもよく、プラズモン力場発生手段は、いくつかのナノ構造に異なるプラズモン力を付与するように適合してもよい。異なる通過特性を有する複数のナノ構造を設けることができることは、本発明の実施形態の利点である。なぜなら、例えばそれらの分子の異なる移行挙動を利用して、異なる長さを有する分子の分離に使用することができるからである。
【0027】
システムは、ナノ構造でラマン信号を検出するためのラマン検出システムを備えてもよい。ラマン検出システムは、SERSシステムでもよい。
【0028】
システムは、核酸又はその類似体、例えばRNA、メチル化ヌクレオチド又は他のエピジェネティックマーカを解析するためのアナライザを備えてもよい。システムは、アミノ酸を解析するためのアナライザを備えてもよい。このようなアナライザは、かかる分子を検出又は解析するためにプログラミングされたプロセッサでもよい。
【0029】
本発明はさらに、核酸、核酸類似体又はアミノ酸、例えばRNA塩基、DNA、メチル化ヌクレオチド、エピジェネティックマーカ、PNA、LNA、イノシン等のメチル化を解析するためのシステムに関する。そのシステムは、核酸、核酸類似体又はアミノ酸がナノ構造を通過することに適したナノ構造を有する基板と、ナノ構造を分子通過させるための手段と、ナノ構造でプラズモン力場を発生させるためのプラズモン場発生手段と、SERS信号を検出するための表面増強ラマン分光検出システムとを備える。システムはさらに、通過した核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化状態をSERS信号をベースとして決定するためのアナライザを備えてもよい。
【0030】
本発明はまた、ナノ構造を有する基板の金属表面に放射線を付与することによって、粒子がナノ構造を通過する速度に影響を与えるためのプラズモン力場を発生させる工程と、前記プラズモン力場に影響を受けた通過速度で、ナノ構造を分子通過させる工程と、プラズモン力場に影響を受けた速度で分子がナノ構造を通過したことを表す信号を検出する工程とを含む、分子を特性評価及び/又は操作するための方法に関する。
【0031】
検出する工程は、粒子の通過の際にナノポアを流れる電流の変化を表す電気信号を検出することを含んでもよい。
【0032】
分子通過させる工程は、分子通過させるために電気泳動力を印加することを含んでもよい。
【0033】
通過速度に影響を与えることは、分子がナノ構造を通過する速度を低下させることを含んでもよい。通過速度の低下に起因して、DNAシークエンシングのような用途を正確に実施することができることは、本発明による実施形態の利点である。
【0034】
ナノ構造での分子の通過速度に影響を与えることは、ナノ構造での分子の捕捉確率を増加させること、ナノ構造の近くに分子を集合させること、又は、ナノ構造を通過する分子のための通路を制御し、封鎖し若しくは設けて、異なる長さを有する分子を分離すること、のうちの1つ以上に使用することができる。通過速度に影響を与えることに起因して、粒子を捕捉する場合の捕捉確率を実質的に大きくできることは、本発明による実施形態の利点である。同様に、分子の通過速度を低下させることができるので、ナノ構造近くの分子の集合をより容易に実施することができる。ナノ構造を通過する分子のための通路を制御し、通路を封鎖し、通路を設けるという用途は、例えばマイクロ又はナノ流体システムで、分子の流れを制御するために適用可能である。
【0035】
信号を検出する工程は、分子の通過を表すラマン信号を検出することを含んでもよい。
【0036】
分子は、核酸、核酸類似体又はアミノ酸でもよく、方法はさらに、核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を検出するための信号を解析することを含んでもよい。
【0037】
本発明はさらに、核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を解析するための方法に関し、その方法は、ナノ構造を有する基板の金属表面に放射線を付与することにより、ナノ構造内でプラズモン力場を発生させる工程と、前記プラズモン力場によって影響を受けた通過速度で分子にナノ構造を通過させる工程と、分子がナノ構造を通過したことを表す信号を検出する工程とを含み、検出する工程は、ラマン信号、例えばSERS信号を検出する工程である。その方法はまた、SERS信号をベースとして、通過した核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化状態を決定する工程を含む。
【0038】
本発明はまた、核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を解析するために、上記のようなシステムの使用に関する。核酸又は核酸類似体は、例えばRNA塩基、DNA、メチル化ヌクレオチド、エピジェネティックマーカ、PNA、LNA又はイノシンを含んでもよい。
【0039】
本発明の特定の且つ好ましい態様は、添付する独立請求項及び従属請求項において詳説する。従属請求項からの特徴は、独立請求項の特徴及び他の従属請求項の特徴と、適切に且つ単に請求項に明記されただけでないものとして組み合わせてもよい。
【0040】
本発明のこれらの態様及び他の態様は、以下で説明する実施形態から明らかとなり、実施形態に関連して明確とされることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明の一実施形態による、粒子の通過のためにプラズモン力場を使用するナノ構造システムを示す。
【図2】本発明の一実施形態による、システムを使用するDNAシークエンシングの例を示す。
【図3】本発明の一実施形態によるシステムの一部の設計を、そのシステムに存在する電界強度の対数を含めて示す。
【図4】本発明の一実施形態によるシステムに存在する電界強度の概略図を示す。
【図5】本発明の実施形態によるシステム及び方法についてのシュミレーション実験で使用する、金表面を有するナノスリットキャビティの概略の拡大図を示す。
【図6】図5に示すナノスリットキャビティについての、50nm×2nmのDNA断片に対するx軸方向のプラズモン力のシミュレーション結果を示しており、本発明の実施形態による特徴及び利点を示している。
【図7】図5に示すナノスリットキャビティについての、50nm×2nmのDNA断片に対するy軸方向のプラズモン力のシミュレーション結果を示しており、本発明の実施形態による特徴及び利点を示している。
【図8】図5に示すナノスリットキャビティについての、2nm×2nmのDNA断片に対するx軸方向のプラズモン力のシミュレーション結果を示しており、本発明の実施形態による特徴及び利点を示している。
【図9】図5に示すナノスリットキャビティについての、2nm×2nmのDNA断片に対するy軸方向のプラズモン力のシミュレーション結果を示しており、本発明の実施形態による特徴及び利点を示している。
【図10】本発明の一実施形態による、分子を特性評価及び/又は操作するための方法の、標準の及び選択的な工程を表すフローチャートを示す。
【図11】プラズモン力捕捉実験中の透過度及び反射率を時間の関数として示しており、本発明の実施形態による特徴を示している。
【図12】捕捉ポイントでのプラズモン力曲線を示しており、本発明の実施形態の特徴を示している。
【図13】本発明の一実施形態によるメチル化検出システムの概略図を示している。
【図14】本発明の一実施形態による方法を使用して得ることができるアデニンの通過の検出を示す。
【図15】本発明の一実施形態による方法を使用して得ることができるDNAオリゴの通過の検出を示す。
【図16】メチル化塩基分子の検出を示しており、本発明による実施形態の特徴を示している。
【0042】
記載した図面は概略的なものに過ぎず、限定的でない。図面において、いくつかのエレメントのサイズは、説明目的のため誇張し、また、スケールどおり描いていないことがある。請求項における任意の参照符号は、技術的範囲を限定するものと解するべきでない。異なる図面において、同一の参照符号は同一又は類似のエレメントを指す。
【発明を実施するための形態】
【0043】
本発明による実施形態で、「ナノ構造」は特に、基板内、又は基板に存在するチャネル内に、少なくとも1つのナノ寸法の粒子が通過可能な開口部又は凹部を設けることを想定したナノ構造ギャップのようなナノ構造を指す。それは、粒子、例えば分子が通過できるようなナノスケールの通路でもよい。好都合なことに、ナノ構造は、そのナノ構造内の分子の運動の自由度が所定の方向、好ましくは基板の一方から他方へ、或いは、基板内のナノ流体チャネル又はマイクロ流体チャネルの方向に制限されるように設計してもよい。好ましくは、その運動を粒子が移動する領域に制限できる。ナノ構造は、ナノポア、ナノスリット及びナノチャネルを含むが、これらに限定されない。ナノ構造はまた、例えば2つのナノチップによって形成される経路のようなナノ流体チャネル内のナノ狭窄部を含む。本発明による実施形態では、用語「ナノ」「ナノサイズ」又は「ナノ寸法」構造は、100nm未満、好ましくは50nm未満、例えば25nm未満、10nm未満又は5nm未満の大きさを有する少なくとも1つの寸法、例えば直径、厚さ、幅等を含む。
【0044】
本発明による実施形態では、「分子」は特に、核酸、核酸類似体、アミノ酸、タンパク質(ポリ)及び他の複雑な生体分子エンティティ、ポリペプチド、ペプチド、脂肪、多糖類を指すが、本発明はこれらに限定されない。核酸は、一本鎖、二本鎖又は三本鎖のDNA、RNA、及びそれらの任意の化学修飾を含む。核酸は、小断片から染色体DNA分子の全長に至るまでの、ほぼ任意の長さを有してもよい。
【0045】
本発明による実施形態で、「核酸又は核酸類似体」は、例えばRNA塩基、DNA、メチル化ヌクレオチド、エピジェネティックマーカ、PNA、LNA、イノシンを指す。
【0046】
第1の態様において、本発明は、分子を特性評価及び/又は操作するためのシステムに関する。そのシステムは、生体分子に特に適していてもよいが、本発明の実施形態は、これに限定されない。本発明の実施形態によるシステムは基板を備え、その基板は、内部に位置する少なくとも1つのナノ構造を有する。それゆえ、少なくとも1つのナノ構造は、特性評価され、又は操作される分子の通過に適している。システムは、分子にナノ構造を通過させるための手段を備える。ナノ構造はまた、横向きのナノ流体チャネル内に狭窄部を含んでもよく、それゆえ本発明の実施形態は、基板を介してナノ構造を通過する分子の流れに限定されないだけでなく、基板内のナノ構造を通過する分子の流れにも限定されないことも留意するべきである。通過させるための手段は、電気泳動を利用してもよいが、本発明の実施形態はこれに限定されない。例えば、機械的な流れを考えることもできる。本発明の実施形態によれば、システムはさらに、ナノ構造にプラズモン力場を印加することによって通過速度に影響を与える、例えば制御するように適合したプラズモン力発生手段を備える。
【0047】
例として、分子を特性評価し又は操作するためのシステムの標準的な特徴及び選択的な特徴のより詳細な説明を、図1と関連付けて以下で行うが、本発明はそれに限定されない。
【0048】
システム100は、ナノ構造120、例えばナノポア、ナノスリット又はナノチャネルを有する基板110を備える。いくつかの実施形態では、ナノ構造120はまた、基板内のナノ流体チャネル内のナノ狭窄部でもよい。前述のように、ナノ構造120は、分子が通過可能なナノスケールの通路でもよい。ナノ構造120は、円形、球形、長方形が可能であり、又は任意の形状を有することができ、基板の厚さを超えて種々の直径を有することができる。いくつかの実施形態では、基板は、半導体、例えばシリコン又はゲルマニウム、石英基板のような誘電体基板、ガラス基板、ポリマー基板、PMMA基板、PDMS基板、フォトレジスト層等でもよい。それゆえ基板には、例えば酸化又は堆積によって作成された酸化物層が設けられていてもよいが、実施形態はそれに限定されない。いくつかの実施形態では、基板はまた、粒子の通過のためのナノ構造を有する膜でもよい。膜は自立膜でもよい。かかる膜は、例えば半導体材料、例えば絶縁体、誘電体材料等で作成することができる。使用可能な膜の特定の例は、Si又はSiO、SiN、Al、GaN、InGaN、AlGaN、GaAs、AlGaAs、PMMA、PDMS等である。いくつかの実施形態で、基板は、例えばナノ流体チャネルにおいて、その形状に起因してチップのエッジにナノ構造を形成する二重チップ構造で構成されてもよい。かかる二重チップ構造は、例えばGaN若しくは他の半導体又は誘電体材料、例えばSi、InGaN、AlGaN、AlInGaN、SiO、SiNで作成してもよいが、本発明の実施形態はこれに限定されない。
【0049】
基板内にナノ構造を作成するための、当業者に既知の技術が多く存在する。
【0050】
本発明の実施形態によるシステム100はさらに、粒子トランスロケータとも呼ばれる、ナノ構造を分子通過させるための手段130を備える。通過は、いずれかの好適な駆動力を用いて実施することができる。その一例は、電気泳動をベースとした通過手段である。システム100は、例えば、システム内の分子に電気泳動力を付与する電界発生手段を備えてもよい。いくつかの実施形態では、システムは、基板主面のそれぞれに位置し且つナノ構造ギャップを介して接続した2つのリザーバ140,150を備えてもよい。通過させるための手段は、リザーバ140,150のそれぞれの中の、電圧が印加される電極132,134を有する電界発生手段でもよい。電界発生手段は、印加電圧を制御するための電圧レギュレータ136を備えてもよい。好都合なことに、電圧レギュレータはフィードバック結合してもよい。
【0051】
本発明の実施形態によるシステム100はさらに、ナノ構造でプラズモン力を印加することによって分子の通過速度に影響を与えるように適合したプラズモン力場発生手段を含む。プラズモン力場発生手段160は、通過速度を制御するように適合してもよい。一実施形態で、プラズモン力場発生手段は、基板内で表面プラズモンを発生させるための金属層170を基板内に含む。基板は、例えば金属層で被覆することにより、金属面を有してもよく、又は少なくとも部分的に金属面を有してもよい。金属層は、ナノ構造の少なくとも上面又は前面に存在してもよく、又は両方の面に存在してもよい。使用可能な金属のいくつかの例は、金、銀、Cu及びアルミニウムである。プラズモン場発生手段160はさらに、放射線源と一体となって動作してもよく、又はかかる放射線源180を備えてもよい。放射線源の例は、一般的に電磁放射線源でもよく、例えばLED、レーザ、白熱灯等のような光源も可能である。表面プラズモン、したがってプラズモン力場の発生を最適化するため、システムにはさらに、システムに放射線を集束させるためのレンズシステム、例えば回折格子のような結合システムを任意に設けてもよい。本発明のいくつかの実施形態によれば、プラズモン力場発生器はさらに、ナノ構造での追加の場増強機能を有してもよい。一実施形態では、増強手段は、ナノ構造の周囲に位置し、ナノ構造内部の場を増加させるようなアンテナとして機能する周期的な溝、ホール、又はダイマー構造でもよい。使用可能なダイマー構造のいくつかの例は、ロッドダイマー、ボウタイダイマー(Bowtie dimer)等である。かかる追加の場増強機能は、プラズモン力場を向上させることができる。それらは、電磁ホットスポットを作成し、ナノ構造内に表面プラズモンを最適に生成すること、したがってプラズモン力場を最適化することを可能にしてもよい。
【0052】
粒子の通過の検出は、種々の方法で実施することができる。システム100は、分子の通過を検出するための検出器190を備えてもよい。かかる検出器は、化学的検出、電気的検出、光学的検出、分光学的検出等をベースとしてもよい。一例では、システムは、ナノ構造内でイオン電流を検出するための電気センサを備える。ナノ構造内での粒子の存在はイオン電流の増加又は減少につながるので、イオン電流の変化の測定により、粒子の通過に関する情報が得られる。代替として、分子の電気的特性は、ナノ構造中に設けられた電極を使用して検出してもよい。電極間に電圧を印加する場合、分子の電子状態を通じた量子力学的な電子のトンネリングによってシミュレーションされた電子電流が流れることができる。かかるメカニズムは、化学的特異性を提供する。さらに別のアプローチでは、静電容量の変調を検出する。光学的検出が、使用可能な検出メカニズムの代替の類である。光学的検出は、例えば表面増強ラマン散乱(SERS)、分子蛍光、表面増強赤外吸収分光法等をベースとしてもよい。
【0053】
本発明のいくつかの実施形態によれば、システム100はさらに、得られた検出結果を処理するためのプロセッサ200を備えてもよい。プロセッサ200は、例えば検出結果から得られた粒子の特性を抽出するように適合してもよい。一例では、プロセッサ200は、DNA分子の配列を決定するように適合してもよい。他のいくつかの処理の例は、粒子の長さを抽出すること、粒子の大きさを抽出すること、粒子の化学的特性を抽出すること、粒子の極性を抽出すること、粒子の電荷を抽出すること等でもよい。プロセッサは、ニューラルネットワーク等を使用する所定の規則をベースとした所定のアルゴリズムに従って動作してもよい。それは、ソフトウェアに、また同様にハードウェアに実装してもよい。例によって、DNAシークエンシングの例を図2に示すが、本発明の実施形態はこれに限定されない。図2は、DNA分子がナノ構造を通過することによりイオン電流が低下し、これを特定のヌクレオチドの通過と関連付けることができることと、この通過は、分子に作用する光学的な力に起因して充分低速化できることとを概略的に示している。さらに、低速化した通過はまた、分光学的(光学的)技術に有用である。図面は、DNAのプラズモン力場による低速化がない状態(A)とある状態(B)のDNA成分の検出のタイミングを概略的に示している。
【0054】
本発明によるいくつかの実施形態では、1つのナノ構造でなく、複数のナノ構造を設けることができる。これにより、フィルタとして使用可能なように、挙動が異なるナノ構造を作成することができる。
【0055】
例として、本発明の一実施形態による設計例を図3に示すが、本発明の実施形態はこれに限定されない。図3は、本発明の実施形態による特徴及び利点を示す。図3は、金層で被覆された、ナノポアキャビティをベースとするシリコンを示す。本例での金層の厚さは100nmである。本例でのナノポアの直径は6nmである。図3は、電界強度を対数スケールで示す。同様の図を図4に示しており、これは図3に示すシステムについての電界強度を示す。電界強度は、ナノポアで高い。これらの図面では、表面プラズモンを発生させるのに使用する放射線の初期放射線強度を1W/μmに規格化している。
【0056】
プラズモン力の有利な効果は次の概念をベースとして説明できるが、本発明の実施形態はそれに制限されない。つまり、プラズモン力は、引き込み力を作成することができる。ナノポアのDNA通過では、追加の電界(電気泳動)の存在下、電気泳動力を約0.23pN/mVと見積もることができる。電気泳動で使用する一般電圧は、通常約100mVでもよい。これは、予測される力が約23pNであることを意味する。シミュレーションを使用して、その更なる結果は後述することになるが、1W/μmの励起パワー密度でのナノスリット−キャビティにおけるプラズモン捕捉力は、通過方向と逆方向に約27pNに達しうることが証明された。これは、ナノスリット内で発生するプラズモン力が電気泳動力と何とか同程度であり、その影響を相殺して、より低速の通過プロセスを生じることができる、ということを意味する。プラズモン力はまた、プラズモン力からの押し出し効果を生み出し、摩擦力を得るためにスリットのエッジで分子に圧力を加えることができる。かかる摩擦力はまた、DNAの通過を低速化することができ、捕捉スチフネス(trap stiffness)は約23pN/nmである。
【0057】
例として、いくつかの例示的なシミュレーション結果を図5〜図9に示すが、本発明はこれらに限定されない。図5は、シミュレーション条件の概略図を示し、Au被覆した表面を有する6nmのナノスリットを示す。2つのシミュレーションで使用する2つのDNA断片、即ち50nm×2nmのDNA断片、及び、2nm×2nmのDNA断片を示している。DNA断片は、電気泳動により、ナノスリットを通過する。ナノスリット内の増強された光場は、強いプラズモン力を生じることができ、これにより、通過速度を低速化することが期待される。入射光のパワー密度は、1W/mである。
【0058】
第1のシミュレーションでは、50nm×2nmのDNA断片がナノスリットを通過する。図6は、x軸に沿った方向でのDNA断片に対するプラズモン力Fを示す。一方、図7は、y軸に沿った方向でのDNA断片に対するプラズモン力Fを示す。プラズモン力は、ナノスリットの中央までのnmで表示される距離の関数として、(pN/Wμm−1)で表示される。DNAの位置(距離)は、左から右へと変化する。Fは、ナノスリットのエッジに対するDNA断片の位置に依存し、DNA断片がナノスリットのエッジに近いときに大きくなる。Fは、DNA長が増強場領域(約4nm)より充分大きいときには、位置から実質的に独立している。ここで、捕捉スチフネスは、力−距離曲線(F)の傾斜から得ることができ、1W/μmの励起パワー密度で約23pN/nmである。これは、既知の減速メカニズムに対して約10〜10倍大きい。これは、本発明の実施形態によるシステムでのナノスリット内部の充分大きい場増強によって説明することができる。
【0059】
第2のシミュレーションでは、2nm×2nmのDNAの単一分子がナノスリットを通過する。図8は、x軸に沿った方向でのDNA断片に対するプラズモン力Fを示す。一方、図9は、y軸に沿った方向でのDNA断片に対するプラズモン力Fを示す。プラズモン力は、ナノスリットの中央までのnmで表示される距離の関数として、(pN/Wμm−1)で表示される。DNAの位置(距離)は、下から上に変化する。小さいDNA分子の場合、FとFの両方が、位置に依存する。DNAが増強領域から遠い位置にある場合、プラズモン力はほぼ存在しない。しかしながら、DNAが最小のギャップに近づいた場合、Fは大きくなり、最小ギャップで最大値に達する。Fは異なる挙動をする。曲線から、最小ギャップから約3nm隔てた位置に捕捉ポイントが存在する。これは、小さい分子がナノスリットの周囲に存在する場合、スリットによって捕捉され、最大場増強領域(スリットのエッジ)に向かって自動的に通過することになる、ということを意味する。捕捉位置は、矢印Dで示している。
【0060】
比較として、金属表面に近接するDNA分子に対して、プラズモンナノスリットキャビティが存在しない状態のシミュレーションを実施した。50nm×2nmのDNA断片に対するプラズモン力は100倍以上小さくなり、2nm×2nmのDNA断片に対するプラズモン力はほぼ存在しない。これは、小さい分子のためのナノ構造キャビティ内でプラズモン力を使用することにより得ることができる高い空間分解能を示す。
【0061】
上記のシミュレーションは、短いDNA断片及び長いDNA断片についての、本発明による実施形態の特徴及び利点を示す。
【0062】
更なる例として、以下にいくつかの例示的な用途を示すが、本発明の実施形態はこれに限定されない。
【0063】
第1の特定例では、本発明による実施形態を、ナノポア、ナノスリット、ナノチャネル又はナノ流体中のナノ狭窄部等のナノ構造を、DNAが通過する速度の低下に使用する。従来、DNAが固体ナノポアを高速で通過することが、正確なDNAシークエンシングを阻害していたが、これは本発明の実施形態により克服される。本発明の実施形態を使用して、分子を特性評価又は操作するためにプラズモン力場を作成することができ、その一つの用途は、ナノ構造中での電気泳動を用いての、より正確なDNAシークエンシングの実施可能性を生じるDNAの通過速度の低下である。前述のように、かかる速度の低下は、電気泳動力に対抗する引張力、及び、ナノ構造ギャップのエッジと反対側に分子に圧力を加える押力の両方の影響の可能性がある。好都合なことに、前述のシミュレーション結果からは、プラズモン力が、概して先行技術を用いて得られるよりも効果的な減速を可能にするということがわかる。
【0064】
第2の特定例では、本発明による実施形態を、ナノ構造で分子の捕捉確率を向上させるために使用する。通過を低速化させる可能性に起因して、捕捉確率を増加させることができる。捕捉、少なくとも一時的な捕捉は、プラズモン力場を使用して実施することができる。或いは、キャビティの周囲のアンテナによって発生するプラズモン力場によって支援される他の捕捉技術を使用することもできる。
【0065】
第3の特定例では、本発明による実施形態を、異なる大きさを有する分子を分離するために使用する。その一実例は、異なる長さを有するDNA分子の分離が可能である。本発明による実施形態で使用するプラズモン力場は、通過速度の低下を生じ、分子、例えばDNA分子の長さの正確な測定を可能にし、したがって異なる長さを有するDNA分子を分離するための方法が提供される。いくつかの例では、分子の通過速度及び得られる減速の大きさは、一般に分子の大きさに依存するので、異なる大きさを有する分子の分離にその速度を使用することができる。前述のように、異なる長さを有するDNA分子を分離することが一実例である。別の実例は、異なる大きさを有するタンパク質の分離である。これらの用途では、通過速度を考慮に入れる必要があるだけでなく、タンパク質の分極率もまた重要である。一般に、作用する力は分極率に対応し、かかる分子については主に大きさに依存する。それにもかかわらず、分極率は、励起光が分子の光学遷移と共鳴する場合に増加させることができる。一実施形態では、異なる通過速度の挙動を有するナノポアを、種々の分子を分離するために使用することができる。一例では、種々の共鳴波長を特徴として有する金属ナノ粒子で分子に標識を付けることができる。種々の共鳴波長を有する種々のナノ構造を使用する場合、種々のナノ構造内で種々の粒子を捕捉することができる。別の例では、異なる大きさを有することにより、分子を「ふるいにかける」ことができる種々の一連のナノ構造を選択可能である。別の用途では、本発明による実施形態はまた、ナノ構造の近くでの分子のアセンブリに関してもよい。通過速度を低下させることにより、ナノ構造に近い分子のより優れた操作が可能となる。これは、その位置で分子を操作する、例えばその位置で分子を集合させることに使用することができる。
【0066】
他の用途において、本発明による実施形態を、分子のためのスイッチ又はバルブを作成するために使用することができる。本発明の実施形態によるプラズモン力場を印加することによって、ナノ構造は特定の分子の通過を妨害することができ、一方、例えば、電気泳動と結びつけることによって、プラズモン力場が印加されないときには通過を自由にすることができる。したがって、種々の用途を提供できるが、分子の操作を実施して、分子の位置及び速度を制御することができる。これは、例えばマイクロ流体構造又はナノ流体構造に実装することができるが、本発明の実施形態はこれに限定されない。
【0067】
例として、本発明による方法及び/又はシステムの特徴及び利点を説明する実験結果を示すが、本発明はこれに限定されない。本発明の実施形態は、粒子をナノ構造内に捕捉できるという認識と、プラズモン力を使用して分子の通過に影響を与え、そして制御することができるという認識との組み合わせに基づいている。これにより、分子を例えば解析することが可能となる。第1の実施例では、ナノ構造(本実施例ではナノスリット)内での捕捉粒子に基づいて説明する。ナノスリットは、幅200nm及び長さ750nmを有した。ナノスリットは、100nmのAu層で被覆した。捕捉対象は、100nmのポリスチレンナノ粒子であった。入射レーザ(波長1064nm)の電力強度は約2mW/μmであった。図11に示すように、PSナノ粒子がナノスリットに捕捉されるとき、ナノスリットに照射するレーザの透過度及び反射強度の両方が変化することとなる。ナノ粒子内部の誘電体ナノ粒子の存在は、ギャップ内部の表面プラズモンを変化させ、増加/減少する透過度、及び、減少/増加する反射を生じることとなる。入射光がナノスリットの透過共鳴と適合する場合、PSビーズの存在下で透過度は増大する。逆に、入射波長が共鳴状態にない場合、透過度は低減する。本実施例では、入射波長はサンプルナノスリットと適合せず、それがPSビーズを捕捉したとき、透過強度は低減した。図中の時間曲線から、捕捉事象は、透過度と反射強度とが逆の変化をすることによって実証された。透過度の急降下及び反射強度の急上昇がある場合、それが捕捉事象である。図12は、プラズモン力対距離曲線における捕捉ポイントを示す。捕捉ポイントは、破線(プラズモン力はゼロに等しい)と力曲線との交点の位置である。
【0068】
別の態様では、本発明の実施形態は、核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を解析するためのシステムに関する。メチル化は、例えばエピジェネティクスに関する重要な情報を提供することができる。例えば、老化、癌の存在に関する情報を提供する、或いはDNAのような侵入分子に対する保護を提供する、等である。例えば、一般に、腫瘍細胞は、CpGアイランドの過剰メチル化に特徴がある。本発明の実施形態によれば、プラズモンナノ構造を使用する表面増強ラマン分光(SERS)を、メチル化を検出又は解析するために使用することができる。本発明の実施形態によれば、分子のメチル化を解析するためのシステムが開示されており、そのシステムは、分子が通過することに適したナノ構造を有する基板と、ナノ構造を粒子通過させるための手段と、ナノ構造でプラズモン力場を発生させるためのプラズモン力場発生手段と、SERS信号を検出するための表面増強ラマン分光検出システムとを備える。システムはさらに、SERS信号をベースとして、通過した分子、例えば核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化状態を決定するためのアナライザを備えてもよい。メチル化状態を決定することは、例えばメチル化があるか否かを決定すること、メチル化された塩基の割合を決定すること、危険なゲノムの存在を決定すること、メチル化の種類を決定すること等を含んでもよい。
【0069】
さらに、タンパク質(ヒストン)のメチル化について同様の決定を得ることができる。SERS基板のようなプラズモンナノ構造チップを使用することで、ナノ構造内で単一分子レベルの感度を得ることができる。分子のメチル化を解析するための一実施例では、この原理を使用して分子を解析することができる。かかるアナライザは、例えば、分析が以下の比較、つまり例えば、予め実施した実験を基に予め校正したデータ、ニューラルネットワークを基に予め校正したデータ、所定のアルゴリズムを使用して予め校正したデータ、又はルックアップテーブルを使用して予め校正したデータと、検出結果との比較、をベースとするようなプロセッサでもよい。プロセッサは、ベースとなるソフトウェア又はハードウェアでもよく、評価は自動で実施してもよく、又はコンピュータを使用して自動で実施してもよい。したがって、プロセッサは演算能力を有してもよい。例示的な一実施形態では、ナノ構造チップは、物質輸送のための唯一のチャネルがナノ構造であるように、2つのリザーバの間に位置してもよい。一実施例では、臨床的DNAサンプルがリザーバの1つに溶解し、電気泳動の方法を使用して、流体はナノ構造を通じて駆動され、臨床的DNAサンプルはアノードに向かって移動する。特性SERS信号は、ナノ構造内のSERS検出領域で記録することができ、SERS検出信号は、大きく強度を増している。臨床的DNAサンプルからのSERSスペクトルをベースとして、メチル化されたDNAサンプルとメチル化していないDNAサンプルとの差が生じえる。したがって、ナノポアの物理的に小さな大きさによるDNAの通過の制限に起因して、ナノポアを通過する単一のDNA鎖が検出される。これにより、かかる単一のDNA鎖の通過は、臨床的な診断結果を提供する。完全な精製を必要とせずに種々のDNAサンプルを検出できることは、本発明の実施形態の利点である。DNAのメチル化の直接的な検出のための方法及びシステムが提供されることは、本発明による実施形態の利点である。DNAのメチル化の直接検出は、例えば、DNAのメチル化の検出のために現在使用されている重亜硫酸シークエンシングと比較して、複雑な工程が要求されないという利点を有する。前述のように、本発明の実施形態はまた、核酸、核酸類似体又はアミノ酸のような分子のメチル化を解析するための方法にも関し、その方法は、ナノ構造を有する基板の金属表面に放射線を付与することによって、ナノ構造内にプラズモン力場を発生させる工程と、前記プラズモン力場によって影響を受けた通過速度でナノ構造を分子通過させる工程と、分子がナノ構造を通過したことを表す信号を検出する工程とを含み、検出する工程は、ラマン信号、例えばSERS信号を検出する。その方法はまた、SERS信号をベースとして、通過したDNA分子のメチル化状態を決定することを含んでもよい。本態様による実施形態の特徴及び利点は、本発明の他の場所で説明する実施形態の特徴を用いて完全なものとし、或いは変更してもよいことに留意するべきである。例えば、プラズモン力は分子の通過速度に影響を与える、及び/又は、制御するために使用することができるが、本発明の実施形態はこれに限定されない。
【0070】
例として、メチル化を解析するための方法及び/又はシステムの特徴及び利点を示すいくつかの実験結果を以下で説明するが、本発明はこれに限定されない。図13では、メチル化の検出を実施するための例示的なシステムを示す。システムは、給水チャネル1302、排水チャネル1304、及び、電気泳動の誘導を用いて分子がナノ構造1310を通過することを提供するための、上側リザーバと下側リザーバとの間の電極システム1306,1308を示す。本実施例によるSERS検出システムは、対物レンズ1312(本実施例では水浸対物レンズ)を使用してナノ構造1310に集光されたレーザ(不図示)を含む。本実施例で、SERS信号は、同じ対物レンズ1312を使用して収集される。デバイスは、PDMS内で作成されるマイクロ流体構造でもよく、さらに、封止コンポーネント1314を含んでもよい。本実施例では、使用したラマンセットアップは、Horiba Scientific, LtdのLabRAM HRである。検体は、後側のリザーバにのみ加えられた。ナノスリット(縦方向に数ナノメータ)内部での高空間分解能のSERSによれば、分子のラマン信号は、ナノスリットを分子が通過しているときにのみ記録することができる。
【0071】
更なる特定例で、アデニンの通過の検出を説明する。アデニンは、DNAの塩基分子の一種である。電気泳動がないと、SERS信号を検出することができない。1Vの電圧を5分間印加する場合、信号は、電圧のスイッチオフの後(即ち、0V)であっても記録することができる。電圧が維持されるとき、検出されるSERS信号強度は最大である(即ち、1V)。これは、実際にアデニンがナノ構造を通過したことを示す。アデニンの流れもまた、ラマン強度に影響を与える。より大きい流れは、より強い信号を生じる。実験で、アデニンの濃度は10−3Mであり、レーザ強度は7mW/μmであり、使用した波長は785nmであった。積分時間は60sであった。したがって、小さいDNA塩基分子(アデニン)の通過は、SERSによってナノスリット内部で検出された。電圧を印加する前の実験結果(OFF)、電圧の印加中の実験結果(ON:1V)、及び電圧の印加後の実験結果(ON:0V)を図14に示す。
【0072】
別の例では、DNAオリゴの検出を示している。5onctとも呼ばれるDNAオリゴの配列、TTCACAGGTACTGGATTTGATTGTGACAGTCATTCCTGTCAACTGAGCACを使用した。使用した濃度は10−8Mであり、レーザ強度は7mW/μmであり、使用した波長は785nmであった。積分時間が10s及び60sである場合の結果を図15に示す。DNA分子のラマンスペクトルを示している。積分時間がミリ秒のレベルであるDNAオリゴ通過速度より充分大きいことを考慮すると、結果のSERSスペクトルは、積分時間中の全通過事象の和である。これら4つのDNAオリゴ分子の全ラマンバンドを検出することができる。
【0073】
また別の実施例では、メチル化グアニン、アデニン及びシトシンを後側のリザーバに加えた。この混合物のラマンスペクトルを図16に示している。これらのラマンバンドの異なる波数に起因して、アデニン及びシトシンとメチル化グアニンとを容易に識別することができる。メチル化されていないグアニンと比較して、メチル化グアニンは、約710cm−1で二次のラマンバンドを有する。使用したグアニンの濃度は10−4Mであり、レーザ出力は7mW/μm、波長は785nmであった。使用した積分時間は10sであった。その結果、メチル化されたDNA塩基と、いくつかの種類のDNA塩基、例えば7MG、A又はCの混合物とを識別可能であるとわかる。一態様において、本発明はまた、上記の実施例で説明した1つ以上の用途の場合、第1の態様の1つ以上の実施形態で説明したようなシステムの使用に関する。概して、本発明はまた、分子がナノ構造ギャップを通過することを制御するためのプラズモン力場を使用して、分子を特性評価及び/又は操作するための第1の態様の1つ以上の実施形態で説明するようなシステムの使用に関する。
【0074】
一態様において、本発明はまた、分子を特性評価及び/又は操作するための方法に関する。その方法は、例えば生体細胞を特性評価すること又はDNAの配列を決定することを含む、生体分子を特性評価及び/又は操作することに特に適するが、実施形態はそれに限定されない。例として、本発明の一実施形態による方法の標準工程及び選択的工程を示すフローチャートを図10に示すが、本発明はこれに限定されない。方法500は、電解液内で1つ以上の分子を取得する工程510で開始する。分子は、前述のように、生体分子又は他の分子でもよい。次の工程で、方法は、粒子がナノ構造ギャップを通過する速度に影響を与えるために、ナノ構造ギャップを有する基板の金属表面に放射線を付与することにより、ナノ構造ギャップ内にプラズモン力場を発生させる工程520を含んでもよい。いくつかの実施形態では、通過速度はまた、プラズモン力によって制御してもよい。概して、プラズモン力場は、粒子に印加される通過力に対抗する際に粒子を低速化するために印加することができる。方法はまた、プラズモン力場に影響を受けた通過速度でナノ構造を分子通過させる工程530をさらに含む。それゆえ、通過させる工程は、電気泳動を使用して、即ち電気泳動力を通過する粒子に印加することによって実施してもよい。方法はさらに、プラズモン力場に影響を受けた速度で分子がナノ構造を通過したことを表す信号を検出する工程540を含む。検出する工程は、粒子の通過の際に、ナノポアを流れる電流の変化を表す電気信号を検出する工程でもよい。検出する工程を実施して、粒子の操作が実施されたか否かを取得してもよく、又は、これらの測定から、通過する粒子の特性を取得してもよい。これは、工程550に示している。検出する工程は、例えばSERS信号を収集することによって、ラマン信号を検出することを含んでもよい。ラマン信号、例えばSERS信号の検出は、上記のようなシステムを使用して実施してもよいが、本発明の実施形態はこれに限定されない。その方法を使用して実施可能ないくつかの用途は、ナノ構造ギャップでの分子の捕捉確率を増加させること、ナノ構造ギャップの近くに分子を集合させること、又は、分子がナノ構造ギャップを通過する通路を制御し、封鎖し又は設けて、異なる長さ等を有する分子を分離することが可能である。
【0075】
本発明は、図面及び先の説明で詳細に図示及び説明してきたが、かかる図面及び説明は、説明的又は例示的であり、制限的でないと考えるべきである。本発明の技術的範囲は、開示した実施形態に限定されない。
【0076】
開示した実施形態の他のバリエーションは、請求項に係る発明を実施する際に、図面、明細書及び添付の請求項の研究から、当業者に理解され、当業者に影響を受けるであろう。請求項において、用語「備える、含む(comprising)」は、他のエレメントまたはステップを除外せず、不定冠詞("a"又は"an")は、複数を除外しない。単一のプロセッサ又は他のユニットは、請求項で引用されるいくつかの事項の機能を果たすことができる。特定の測定値が互いに異なる従属請求項で引用されているという単なる事実は、これらの測定値の組み合わせを使用して利益をもたらすことができない、ということを示すものではない。コンピュータプログラムは、好適な媒質、例えば他のハードウェアと一緒に、或いは、それの一部として供給された光ストレージメディア又はソリッドステートメディアに記録/分配できるが、他の形態、例えばインターネット又は他の有線若しくは無線の通信システムを介して分配してもよい。請求項での任意の参照符号は、技術的範囲を制限するものとして解釈すべきでない。
【0077】
以上の説明は、本発明の特定の実施形態を詳細に説明する。しかしながら、以上の説明が文章でいかに詳細になされようとも、本発明は多くの方法で実践でき、それゆえ開示した実施形態に限定されないことが理解されるであろう。本発明の特定の特徴又は態様を説明する際の特定の用語の使用は、その用語が本明細書で再定義され、その用語が関連する本発明の特徴又は態様のいずれかの特性を含むように制限されることを意味する、とすべきでないことに留意する必要がある。例えば、しばしばDNAを参照するが、実施例及び実施形態はまた、より一般的に核酸、核酸類似体又はアミノ酸に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子の通過に適したナノ構造(120)を有する基板(110)と、
ナノ構造(120)を分子通過させるための手段(130)と、
ナノ構造(120)でプラズモン力場を印加することによって、粒子の通過速度に影響を与えるように適合したプラズモン力場発生手段(160)とを備えた、分子を特性評価及び/又は操作するためのシステム(100)。
【請求項2】
プラズモン力場発生手段(160)は、基板(110)内に、表面プラズモン発生用の放射線を受容するための金属層(170)を含む、請求項1に記載のシステム(100)。
【請求項3】
プラズモン力場発生手段(160)は、金属層(170)内に表面プラズモンを発生させるための放射線源(180)を有する、請求項1又は2に記載のシステム(100)。
【請求項4】
分子がナノ構造(120)を通過したことを表す、ナノ構造(120)を流れる電流の変化を示す電気信号を検出するための検出ユニット(190)を備えた、請求項1〜3のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項5】
通過させるための手段は、システム内の分子に電気泳動力を付与するための電界発生手段(130)を有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項6】
基板(110)は、ナノ構造(120)の周囲のプラズモン力場を増強させるための、周期的な溝、周期的なホール、又はアンテナ構造、のうちの少なくとも1つをさらに有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項7】
ナノ構造は、ポア若しくはホール、スリット、チャネル又はナノチャネル内の狭窄部である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項8】
基板(110)は、SiO被覆を有する若しくは有しないシリコンナノ構造キャビティ、少なくとも1つのナノ構造を有する自立膜、又はチップ端部でナノ構造を形成するGaNの二重チップ構造のいずれかである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
プラズモン力場発生手段(160)は、分子のためのスイッチ又はバルブとしてナノ構造を動作させるために、ナノ構造でプラズモン力場を制御するためのコントローラを有する、請求項1〜8のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項10】
少なくとも複数のナノ構造が基板内に存在し、
プラズモン力場発生手段(160)は、いくつかのナノ構造に異なるプラズモン力場を付与するように適合している、請求項1〜9のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項11】
ナノ構造でラマン信号を検出するためのラマン検出システムを備えた、請求項1〜10のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項12】
ラマン検出システムは、SERSシステムである、請求項11に記載のシステム(100)。
【請求項13】
核酸又は核酸類似体を解析するためのアナライザをさらに備えた、請求項1〜12のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項14】
核酸又は核酸類似体は、RNA、メチル化ヌクレオチド、又は他のエピジェネティックマーカのいずれかを含む、請求項13に記載のシステム(100)。
【請求項15】
アミノ酸を解析するためのアナライザをさらに備えた、請求項1〜14のいずれか1項に記載のシステム(100)。
【請求項16】
ナノ構造を有する基板の金属表面に放射線を付与することによって、粒子がナノ構造を通過する速度に影響を与えるためのプラズモン力場をナノ構造内で発生させる工程と、
前記プラズモン力場に影響を受けた通過速度で、ナノ構造を分子通過させる工程と、
プラズモン力場に影響を受けた速度で分子がナノ構造を通過したことを表す信号を検出する工程とを含む、分子を特性評価及び/又は操作するための方法。
【請求項17】
前記検出する工程は、粒子の通過の際にナノポアを流れる電流の変化を表す電気信号を検出することを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
分子通過させる工程は、分子通過させるために粒子に電気泳動力を印加することを含む、請求項16又は17に記載の方法。
【請求項19】
通過速度に影響を与えることは、ナノ構造を通過する分子の通過速度を低下させることを含む、請求項16〜18のいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
ナノ構造で分子の通過速度に影響を与えることは、ナノ構造で分子の捕捉確率を増加させること、ナノ構造の近くに分子を集合させること、又はナノ構造を通過する分子の通路を制御し、封鎖し又は設けて異なる長さを有する分子を分離すること、のうちの1つ以上のために使用する、請求項16〜19のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
信号を検出する工程は、分子の通過を表すラマン信号を検出することを含む、請求項16〜20のいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
分子は、核酸、核酸類似体又はアミノ酸であり、
核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を検出するための信号を解析することをさらに含む、請求項16〜21のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
核酸、核酸類似体又はアミノ酸のメチル化を解析するための、請求項1〜15のいずれか1項に記載のシステムの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公表番号】特表2013−519068(P2013−519068A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−545352(P2012−545352)
【出願日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/070733
【国際公開番号】WO2011/076951
【国際公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【出願人】(591060898)アイメック (302)
【氏名又は名称原語表記】IMEC
【出願人】(599098493)カトリーケ・ウニフェルジテイト・ルーベン・カー・イュー・ルーベン・アール・アンド・ディ (83)
【氏名又は名称原語表記】Katholieke Universiteit Leuven,K.U.Leuven R&D
【Fターム(参考)】