説明

ニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法

【課題】銅や黄銅からなる基材にニッケルめっき層を形成した試料について、ニッケルめっき層をより正確に定量する方法を提供する。
【解決手段】銅または黄銅からなる基材に、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層の定量分析方法であって、硫酸を13〜14質量%、硝酸を9〜10質量%、リン酸を0.5〜9質量%及び酢酸を5〜7質量%の割合で含む水溶液からなるめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解し、溶解分を含有する前記めっき剥離液について定量することを特徴とするニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅または黄銅からなる基材に、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層(以下、「ニッケルめっき層」ともいう)を形成してなる試料における前記めっき層を定量分析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気機器や電子機器の電極や端子として銅や黄銅が広く使用されており、耐食性の向上や、接触抵抗の低減、挿入力の低減等の目的でニッケルめっき層で被覆されることが多い。しかし、ニッケルめっき層には、鉛やカドミウム、水銀、クロム等の環境負荷物質が混入していることがあり、それらの含有量を定量する必要がある。
【0003】
ニッケルめっき層の定量分析方法としては、簡便であることから、試料をめっき剥離液に浸漬してニッケルめっき層を溶解し、溶解分を含有するめっき剥離液について定量することが主流になっている(例えば、非特許文献1及び非特許文献2参照)。
【0004】
【非特許文献1】「LA−ICO−MSによるメッキ膜中のRoHS規制元素の分析」:大石 昌弘、福田 啓一、川島 康、吉田 智生、第67回分析化学討論会講演要旨集 p.104
【非特許文献2】「Victor・JVC グリーン調達「禁止物質レベル1物質の分析方法」、3)無電解ニッケルめっき皮膜中の鉛分析方法.p4〜5、2006年1月7日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
めっき剥離液は、めっき層だけを選択的に溶解する必要がある。しかし、非特許文献1及び非特許文献2に記載の定量方法では、めっき剥離液に硝酸や塩酸等の酸や混酸を用いるため、基材が銅や黄銅、鉄系材料である場合、これらを溶解する。従って、基材側にも測定対象の金属成分が含まれていると、その分を定量値から差し引く必要があるが、測定精度を高めるためにめっき層の溶解量を多くしようとすると、基材の溶解量も多くなるため、測定対象の金属成分が基材側に多く含まれていると、めっき層における測定対象の金属成分の定量値がマイナスになることがあり、定量できない。
【0006】
このような不具合を防ぐために、金属イオンを含有するめっき剥離液も知られている。例えば、鉄イオンを含有するめっき剥離液が知られているが、定量下限値が高く、分析結果を示すスペクトルが良好ではない。また、クロムイオンを含有するめっき剥離液も知られているが、クロムの定量はできず、またPb:220.353nmに干渉があるため鉛の測定にも不適である。
【0007】
このように、従来のめっき剥離液は銅系材料を溶解しやすく、銅や黄銅を基材とするニッケルめっき層には不適である。
【0008】
また、非特許文献1に記載の定量方法では、規格化半定量値を得ているため、データの精度は湿式分解によるICP−AES法及びICP−MS法との比較が必要であり、操作が複雑になる。
【0009】
そこで本発明は、銅や黄銅からなる基材にニッケルめっき層を形成した試料について、ニッケルめっき層をより正確に定量する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は下記に示す定量分析方法を提供する。
(1) 銅または黄銅からなる基材に、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層の定量分析方法であって、
硫酸を13〜14質量%、硝酸を9〜10質量%、リン酸を0.5〜9質量%及び酢酸を5〜7質量%の割合で含む水溶液からなるめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解し、溶解分を含有する前記めっき剥離液について定量することを特徴とするニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法。
(2)前記試料が電極または端子であることを特徴とする上記(1)記載のニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明で用いる特定組成のめっき剥離剤は、実質的にニッケルめっき層のみを選択的に溶解することができるため、該めっき層の定量を正確に行なうことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明に関して詳細に説明する、
【0013】
本発明の定量方法は、基本的には従来と同様に、ニッケルめっき層が形成された試料をめっき剥離液に浸漬してニッケルめっき層を溶解し、溶解分を含有するめっき剥離液を定量するが、その際、下記に示す特定組成のめっき剥離液を用いる。
【0014】
めっき剥離液は、 硫酸を13〜14質量%、硝酸を9〜10質量%、リン酸を0.5〜9質量%及び酢酸を5〜7質量%の割合で含む水溶液からなる。また、必要に応じて、分散剤を0.1〜2質量%配合してもよい。
【0015】
測定精度を高めるためにはニッケルめっき層の溶出量が多いほど好ましいため、めっき剥離液との接触は、基材が露出するまで行なう。液温は35〜45℃が好ましい。尚、基材の露出は、目視により十分可能である。
【0016】
そして、ニッケルめっき層の溶解分を含有するめっき剥離液について、定量分析を行なう。定量分析は、簡便で、高精度の定量ができる等の理由から、ICP−AES(誘導結合プラズマ発光分光分析法)を行なうことが好ましい。本発明では、特にニッケルめっき層中の環境負荷物質である鉛、カドミウム、クロムの定量を目的とするが、ICP−AESによりこれらを高精度で測定することができる。
【0017】
本発明で用いる上記のめっき剥離液は、銅、並びに黄銅成分である亜鉛を、測定に影響を与えるレベルまで溶解せず、実質的にニッケルめっき層のみを溶解する。従って、測定値をそのままニッケルめっき層における含有量と見做して問題ない。しかし、後述する実施例1のように、銅や亜鉛の測定値を試料量から差し引いて新たな試料量とし、鉛やカドミウム、クロム等の各成分の含有量を補正することでより、高精度の定量ができる。
【0018】
また、同じく環境負荷物質である水銀を定量する場合には、CV−AAS(冷蒸気還元気化原子吸光法)を行なうことが好ましい。
【0019】
尚、本発明で用いるめっき剥離液は銅及び黄銅を溶解しないため、試料は、銅や黄銅からなる基材にニッケルめっき層が形成されたものの他に、銅や黄銅以外の金属製基材で、銅や黄銅を下地層としてその上にニッケルめっき層を形成したものであってもよい。このような試料として、電極や端子類が挙げられる。
【実施例】
【0020】
(実施例1〜2)
メルテックス株式会社製めっき剥離液「メルストリップN−950A」(硫酸16質量%、硝酸11質量%、リン酸1〜10質量%、残部水)500mL、メルテックス株式会社製めっき剥離液「メルストリップN−950B」(酢酸30〜40質量%、分散剤1〜10質量%、残部水)100mL、35%過酸化水素水100mL及び超純水300mLを混合してめっき剥離液を調製した。
【0021】
また、高純度ニッケルに、鉛30ppm、カドミウム5ppm、クロム5ppm、水銀1ppmとなるように添加してめっき液を調製し、黄銅製基材に銅下地めっきを施した後、無電解めっき法によりニッケルめっき層を形成して試験片とした。
【0022】
そして、試験片を、40℃に維持した上記のめっき剥離液に浸漬し、黄銅製基材が露出した時点で試験片を取り出し、浸漬前との重量差からニッケルめっき層の溶解量を求めた。次いで、めっき剥離液におけるニッケルめっき層の溶解量が0.1g/25mL(実施例1)または0.05g/25mL(実施例2)となるように水で調整し、試料とした。
【0023】
次いで、各試料について、ICP−AESにより鉛、カドミウム及びクロムの含有量を、またCV−AASにより水銀の含有量をそれぞれ定量した。結果を表1に示す。
【0024】
(比較例1)
硝酸と塩酸との混合液に実施例と同一の試験片を浸漬してニッケルめっき層を溶解し、ニッケルめっき層の溶解量が0.05g/25mLとなるように水で調整して試料を得た。そして、試料について、ICP−AESにより鉛、カドミウム及びクロムの含有量を、またCV−AASにより水銀の含有量をそれぞれ定量した。結果を表1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1に示すように、本発明に従うめっき剥離液を用いた実施例1及び実施例2の測定結果は、硫酸と硝酸との混合液を用いた比較例1に比べて、試験片のニッケルめっき層の組成との相関が高くなっている。このことから、本発明によれば、黄銅製基材にニッケルめっき層を形成した試験片に対し、基材の溶解を抑え、ニッケルめっき層を高精度で定量できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅または黄銅からなる基材に、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料、もしくは金属製の基材に、銅または黄銅からなる下地層を介して、ニッケルまたはニッケル合金からなるめっき層を形成してなる試料における前記めっき層の定量分析方法であって、
硫酸を13〜14質量%、硝酸を9〜10質量%、リン酸を0.5〜9質量%及び酢酸を5〜7質量%の割合で含む水溶液からなるめっき剥離液を前記試料に接触させて前記めっき層を溶解し、溶解分を含有する前記めっき剥離液について定量することを特徴とするニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法。
【請求項2】
前記試料が電極または端子であることを特徴とする請求項1記載のニッケルまたはニッケル合金めっき層の定量分析方法。

【公開番号】特開2009−79902(P2009−79902A)
【公開日】平成21年4月16日(2009.4.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−247084(P2007−247084)
【出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】