説明

ニトロキシドを生体適合性高分子と併用する組成物および方法

【課題】 遊離基毒性を軽減するための組成物および方法を提供する。
【解決手段】 生理的適合性の高分子とニトロキシドの併用使用することを開示する。特に、ヘモグロビンを基にする赤血球代用剤が記載され、これは、細胞を含まないヘモグロビン溶液、被包ヘモグロビン溶液、重合ヘモグロビン溶液、複合ヘモグロビン溶液、ニトロキシド標識アルブミンおよびニトロキシド標識免疫グロブリンにおける使用のための安定なニトロキシドを特徴とする。製剤は、インビボでニトロキシドを活性型で保持する抗酸化酵素様体として働いて、遊離基と相互作用をなす。用途には、血液代用剤、放射線保護剤、イメージング剤、虚血および再灌流損傷に対する保護剤、特に脳卒中の脳虚血において、および他の疾患におけるインビボ酵素様体が含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜透過性ニトロキシドとニトロキシド標識高分子ニトロキシドとの併用を含むニトロキシドの治療的および診断的使用に関する。該高分子には、ポリペプチド、例えばヘモグロビン、アルブミン、免疫グロブリンおよびポリサッカライド、例えば、デキストリン、ヒドロキシエチルデンプンおよび人工膜、例えば液体二層体、ヘモグロビンおよびアルブミンミクロバブルがある。ニトロキシド含有製剤は、生物体における酸素関連物質の毒性を軽減し、非常に多様な病理的、生理的症状を診断および処置する能力を提供する。本発明はまた、ニトロキシドのインビボ効果を保持するために、低分子量かつ膜透過性ニトロキシドと併用されるニトロキシド、合成ニトロキシドポリマー、コポリマーおよびニトロキシド標識高分子にも関する。本発明はまた、赤血球代用としての使用のための生理的適合性で、細胞を含まない、被膜に囲まれたヘモグロビンの溶液と併用されるニトロキシドを特徴とする新規な化合物および方法に関する。さらに、本発明は、皮膚の光線による老化の処置のため、および皮膚の抗皺剤として、膜不透過性ニトロキシドの治療的濃度の細胞内蓄積をもたらす膜透過性型における膜不透過性ニトロキシドの局所的分布のための方法および新規化合物も開示する。さらに、本発明は、上記ニトロキシドが、遊離基による病理的損傷および酸化ストレスに対して保護するために、他のニトロキシドを含む他の生理的に活性な化合物と併用されることを開示し、および疾患の診断および治療におけるこれらの使用を開示する。
【背景技術】
【0002】
酸素代謝の生理的メカニズムは古くから知られているが、生理学および医学において、酸素ストレスが果す役割は完全には分かっていない。生理および疾病に対する酸素誘導遊離基の効果は、医学および生物学において重要性が増している問題である。疾病および傷害によって、人体の自然抗酸化能力をはるかに越えた遊離基のレベルに達し得ることが知られている。結果は酸化ストレスである。酸化ストレスは、抑制し得ない遊離基の毒性の生理的発現であり、最も注目すべきは毒性のある酸素関連物質から生じることである。毒性遊離基は、心臓発作あるいは脳卒中に起因する虚血再灌流傷害、ショック、脱毛症、敗血症、アポトーシス(細胞消滅)、特定薬物毒性、肺の疾病の治療における酸素療法に起因する毒性、電離性放射に対する臨床上あるいは事故的被曝、外傷、閉鎖性頭部外傷、火傷、乾癬、老化など、多くのものを含む病理的症状における原因とされている。 従って、遊離基および関連毒性物質を解毒し、遊離基の濃度が増加したときに、急激に消費されないで、人体において十分活性かつ持続性である組成物および方法を必要としている。
【0003】
さらに、遊離基が癌、潰瘍および他の胃腸状態、白内障、閉鎖性頭部外傷、腎不全、神経組織傷害および心臓血管疾病などを含む、多くの他の疾病状態を悪化させるとの証拠が増加している。高い反応性の結果として、遊離基は、核酸、生物学的細胞膜および他の細胞構成要素を酸化して、重篤なあるいは致死的な細胞の損傷、変異原性あるいは癌原性をもたらす。抗癌放射線治療は、多くの抗癌剤と同様に腫瘍細胞にとって有害であり、正常な細胞にとっても有害である遊離基を発生することによって作用し、正常な細胞は、細胞分裂が癌療法の望ましくない副作用を起こす間、さらされている。さらに、多くの病理学的方法によると、共通の最終経路として、観察される病理の直接あるいは実質的な原因である遊離基の発生が考えられている。さらに、遊離基の濃度の劇的な増加は、しばしば影響を受ける領域への酸化血液の再灌流が後に起こる、心臓発作あるいは脳卒中などの、酸化血液の流れの中断によって始まるカスケードの部分として観察される。生物組織におけるこのような酸化ストレスの重要性が評価されるにつれて、続いて、抗酸化剤として作用することができ、生物学的組織、とくにヒトにおける毒性を軽減するために、酸素誘導遊離基と相互作用し得る化合物および方法を必要としている。他の効用において、毒性遊離基は癌の放射線療法の一部として投与される放射線のような有益な治療法と一致することがあり得る。例えば、電離性放射が生理的損傷を生物に及ぼすメカニズムは、少なくともある程度、遊離基の細胞との相互作用に関連しているので、遊離基を保持する、あるいは相互作用する化合物は、治療処置による二次的損傷を抑制する放射線療法にさらされた組織における局在性効果を発揮する。さらに、臨床的に有意義な作用とは別に、遊離基物質における不対電子は分光法によって見つけることができるので、遊離基反応はインビボで監視でき、遊離基と相互作用する化合物は分光学的技術によって観察可能である。
【0004】
いくつかの治療方法で遊離基の病理的レベルを下げるよう提案されている。理想的には、安全で効果的な抗酸化剤が患者の抗酸化能力を増加し、遊離基の発生段階で、多くの病理的な遊離基を基とする毒性を阻止するのに役立つであろう。しかしながら、酸化ストレスあるいは酸化関連物質と関係する毒性に対する方法と化合物の開発は限定的な成功しか収めていない。多くの抗酸化剤の有効性は、インビボ作用の短い期間、有効な用量レベルでの毒性、多くの化合物が細胞膜を通過し得ないことおよび遊離基の高レベル作用に抗し得ないことによって限られている。例えば、スーペルオキシドディスムターゼ(SOD)酵素あるいはカタラーゼの投与は毒性遊離基関連物質の非毒性型への変換を促進する。しかしながら、これらの酵素は細胞内において効果的に作用しない。ビタミンおよび他の抗酸化剤と同様に、GSH先駆物質としてプロシステインは、人体の自然抗酸化能力を高めるが、傷害および疾病における高レベルの遊離基を処置できず、急激に体内で消費される。
【0005】
遊離基物質は、反応性かつ短命であることはよく知られている。遊離基と人体組織の間の有害な化学反応は、遊離基が発生する部位に非常に近接して起こるので、このような反応性は生物組織において特に深刻な危険要素である。従って、脳、表皮、消化管、心臓血管組織などの人体の特定領域、あるいは放射線投与の部位のような別々の組織に治療効果を集中および局限し得ない限り、効果は臨床的に有意義ではないだろうが、本来遊離基濃度を下げるように作用する化合物はある程度有益な効果がある。
【0006】
大量の静脈内投与に適した血液代用品をつくる際に直面する困難は、血管における酸素関連物質によって起こる全身的毒性を防ぐあるいは軽減するのが困難な急性例である。科学者および医師らは、何十年間ヒトに安全に輸血することのできる血液代用品の製造に取り組んできた。永続的な血液の不足、不適合な血液型の問題、交叉試験法および疾病の感染によって、重大な生理的副作用がなく安全に輸血できる大量の血液代用品をつくることのできる製剤の発見に、民間産業、大学および政府は幅広い努力をしてきた。現在、数企業が試験的血液代用品の臨床試験を行っている。しかしながら、有害な生理的反応および研究開発方法に固有の複雑性が規則による承認段階からの進展と臨床的に有益な血液代用品の開発を妨げている。
【0007】
アメリカ海軍のある研究諮問委員会は、1992年8月、血液代用品を生産するいくつかの団体の業績の概要、これら業績の状況を評価し、一般的に直面している毒性問題を記載した報告書を発行した。海軍研究諮問委員会報告書は、しばしば“ヘモグロビンを基とする酸素担体(HBOC)”と呼ばれる既存の血液代用品製品が酸素輸送における効率を証明していても、ある毒性の問題点は未解決であるとの科学界における最新の同意を反映している。既存のヘモグロビンを基とする酸素担体(HBOC)の臨床研究において観察される有害な輸血反応は、全身的高血圧および血管収縮を含む。これらの有害な反応によって多くの製薬会社は、臨床実験を断念するか、あるいは低用量レベルで実施せざるを得なかった。 既存のヘモグロビンを基とする血液代用品における毒性問題の解決は、米国政府によって高い優先権を与えられてきた。海軍研究委員会の勧告は“ヘモグロビンを基とする酸素担体:毒性のメカニズム(Hemoglobin-based oxygen carriers: mechanism of toxicity)”というテーマに関する計画要請(PA-93-23)という形で、国立衛生研究所(National Institute of Health)により実行されてきた。従って、医学および科学界は、既存ヘモグロビンを基とする酸素担体で観察される副作用なしに使用できる血液代用品について深刻で差し迫った必要性に悩んでいる。
【0008】
赤血球は、血液の主な構成要素であり、人体の酸素輸送システムを担う。血液代用品の最も重要な特製は酸素を運ぶ能力であることは長い間認識されてきた。赤血球の主要構成要素が酸素担体として機能するヘモグロビンであるので、赤血球は酸素を輸送することができる。
【0009】
血液代用品として臨床試験を受けている製品の多くは、赤血球細胞膜と赤血球の残留要素から分離され、すべての汚染物質を本質的に取り除くために精製されたヘモグロビンを含む。しかしながら、ヘモグロビンを赤血球から除去し、そのもとの形態で溶液に入れると、不安定で急速に要素サブユニットに解離する。この理由から、ヘモグロビンを基とする酸素担体(HBOC)に使用されるヘモグロビンは、溶液に解離せずに安定でなければならない。科学的な労力と資本の多くの出費が、溶液に安定で、酸素輸送機能が損なわれない方法において安定しているヘモグロビンを基とする製品の開発のために必要であった。既存ヘモグロビンを基とする酸素担体の酸素輸送能力は十分立証されている(米国特許第3,925,344;4,001,200;4,001,401;4,053,590;4,061,736;4,136,093;4,301,144;4,336,248;4,376,095;4,377,512;4,401,652;4,473,494;4,473,496;4,600,531;4,584,130;4,857,636;4,826,811;4,911,929および5,061,688)。
【0010】
人体において、血液が肺を通るときに赤血球中のヘモグロビンは、酸素分子と結合し、人体の正常な代謝機能の要求に応えるため、酸素分子を人体中に輸送する。しかしながら、ほとんどの生物が生存のために呼吸しなければならない大気中の酸素は、科学的および医学的に矛盾している。一方では、ほとんどすべての生物が生きるために酸素を必要としている。もう一方では、様々な毒性酸素関連化学物質が正常な酸素代謝の間に産出されている。
【0011】
ヘモグロビンによる酸素輸送から生じる酸化ストレスに関して、酸素輸送過程において、ヘモグロビン(Hb)分子それ自体が輸送している酸素(O2)分子によって酸化され得ることは知られている。この自己酸化反応は2つの望ましくない生産物を産出する。met−ヘモグロビン(met−Hb)およびスーペルオキシドアニオン(・O2−)である。化学反応は下記のように記載される。
【化1】


スーペルオキシドアニオン(・O2−)は付加電子およびマイナス電荷を帯びた酸素分子である。スーペルオキシドアニオンは高い反応性と毒性がある。
【0012】
ここに詳細に記載されるように、スーペルオキシドアニオンのような遊離基物質は細胞損傷薬剤として広範囲の病理学的方法において示唆されている。ヘモグロビンによる酸素輸送の場合において、潜在的に損傷を与える酸化ストレスは、血管隙に現れ、ヘモグロビンの自己酸化によって発生するスーペルオキシドアニオンに始まり、続いて下記の反応によるスーペルオキシドディスムターゼ酵素の存在下でのスーペルアニオンの毒性過酸化水素への変換から生じる。
【化2】

遊離基物質が毒性化学物質をインビボで発生し、あるいは細胞損傷を起こす反応は、酸化ストレスが要因である病理的症状、特に心臓発作あるいは脳卒中のような、虚血再灌流傷害の場合において頻繁に見られる。赤血球のスーペルオキシドアニオンおよび過酸化水素の存在は、赤血球に関する酸化ストレスの主要源であると考えられている。
【0013】
ここに含まれるヘモグロビンによる酸素輸送とは別に、赤血球のあまり認識されていない特性は、酸素代謝の副産物として産生した酸素関連化学物質を解毒することのできる特殊な酵素集合を含むことである。これらの特殊な酵素組織の保護がなければ、ヘモグロビンの自己酸化によって赤血球は劣化および破壊されるであろう。しかしながら、人体において、赤血球の酵素組織に蓄えられた能力は、正常な代謝の間に発生するスーペルオキシドアニオンを非毒性種に変換することによって酸素毒性から人体を保護し、それによって酸化ストレスのレベルを抑制する。もしこの酵素組織が破壊されると、赤血球の完全な状態は損傷を受けるであろう。赤血球中の保護組織における酵素の一つを産生する遺伝子の機能障害は、注目すべき病理的症状を引き起こす。例えば、赤血球の遺伝子障害、グルコース−6リン酸脱水素酵素欠乏は、溶血性貧血を引き起こす過酸化水素の原因となる。この障害は、グルタチオンペルオキシダーゼを通して過酸化水素の不適切な解毒をもたらす酸化グルタチオンを減少さすために充分なNAD(P)Hレベルを維持する能力が関係細胞にないことによる(P.Hochstein,Free Radical Biology & Medicine,5:387(1988))。
【0014】
赤血球の保護酵素組織は、毒性スーペルオキシドアニオン分子を二段階の化学的方法で非毒性型に変換する。方法の第一段階はスーペルオキシドディスムターゼ(SOD)酵素によってスーペルオキシドアニオンを過酸化水素に変換することである(参照、化学式[2])。過酸化水素は細胞にとっても毒性であるので、赤血球は別の酵素であるカタラーゼを含み、この酵素が方法の第二段階として過酸化水素を水に変換する(参照、化学式[3])。
【化3】

赤血球は、グルタチオンと反応して、過酸化水素と有機過酸化物を水に変換するグルタチオンペルオキシダーゼ酵素を用いて、過酸化水素および他の毒性有機過酸化物を解毒する能力がある。赤血球はまた、ヘモグロビンの自己酸化によって産生するmet−ヘモグロビンの増加を阻害する酵素を含む。met−ヘモグロビン還元酵素はmet−ヘモグロビンをヘモグロビンの原型に戻す。従って、体内において、ヘモグロビンの自己酸化の毒性作用は、酸素代謝による望ましくない副産物を取り除く特殊酵素を基とする反応方法によって、防止されている。
【0015】
正常な酸素輸送の間、酸素毒性から赤血球を保護するスーペルオキシドディスムターゼ、カタラーゼおよびグルタチオンペルオキシダーゼの酵素性酸素解毒機能は、今まで開発されたヘモグロビンを基とする酸素担体(HBOC)には存在しない。酸素解毒機能なしでは、存在するHBOC溶液の安全性は、毒性酸素関連物質の存在により危険になる。
【0016】
既存のHBOC溶液を製造する主な方法は、赤血球からヘモグロビンを除去し、続いて輸血の間に有害な反応を起こし得るすべての非ヘモグロビンタンパク質および他の不純物を除去するために精製することによる(参照、米国特許第4,780,210;4,831,012;および4,925,574)。酸素解毒酵素組織の実質的破壊あるいは除去は、多くのHBOCに使用されている精製ヘモグロビンを取得する既存の分離および精製方法において避けられない結果である。別法においては、赤血球からヘモグロビンを分離および精製する代わりに、純ヘモグロビンを遺伝子組み換え技術を用いて生産してきた。しかしながら、遺伝子組み換えヒトヘモグロビンは、高度に精製され、赤血球中の酸素解毒組織を含まない。したがって、精製過程で有害な不純物と赤血球中に通常は存在する有益な酸素解毒酵素を除去し、最終的に酸素関連毒性をもたらすので、高度に精製されたヘモグロビン溶液を製造する精巧な技術の開発は一概に恩恵とは言えない。
【0017】
存在するHBOCの静脈内投与から生じ、観察される毒性副作用の一つは、血管収縮すなわち高血圧症である。スーペルオキシドディスムターゼ(SOD)酵素は、インビトロで速くスーペルオキシドアニオンを除去し、一酸化窒素(NO)の血圧降下効果を延ばすことはよく知られている。一酸化窒素は、単に内皮細胞性弛緩因子(EDRF)として既に知られていた物質であることが最近発見された分子である。SODによる一酸化窒素の血圧降下効果の延長は、SODのスーペルオキシドアニオンと一酸化窒素との反応を阻止する能力に帰する。(M.E.Murphy et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:10860(1991);Ignarro et.al.J.Pharmacol.Exp.Ther.244:81(1988);Rubanyi Am.J.Physiol.250:H822(1986);Gryglewski et al.Nature 320:454(1986))。
【0018】
しかしながら、インビボでスーペルオキシドアニオンによるEDRFの不活性化は観察されず、一般的に有り得るとは考えられていない。それにもかかわらず、SOD活性を損なうある病理的、生理的条件はスーペルオキシドアニオンによって生じる毒性に帰着し得る(Ignarro L.J.Annu Rev.Pharmacol.Toxicol.30:535(1990))。既存HBOC溶液の前臨床動物研究において観察される高血圧効果は、存在するHBOCの大量輸血におけるスーペルオキシドアニオンの濃度がEDRFの破壊および観察される血管収縮および全身的高血圧の原因であることを示唆している。
【0019】
従って、溢血から起きる一酸化窒素(NO)とスーペルオキシドアニオンとの反応およびヘモグロビンによるNOの結合から生じる高血圧効果を考察することは重要である。HBOCの輸血中、一酸化窒素と反応して、対応するニトロシル−ヘム(NO−heme)付加物を得ることにより、ヘモグロビンは一酸化窒素の血管弛緩作用を低下させることもできる。特に、デオキシ−ヘモグロビンは一酸化窒素と一酸化炭素よりも数オーダー高い親和力で結合する。
【0020】
これらのヘモグロビン−NO相互作用は、一酸化窒素の検定および一酸化窒素の生物学的活性の研究のために使用されてきた。例えば、ヘモグロビンによる一酸化窒素の血管弛緩効果の拮抗作用は、ヘモグロビンの細胞膜透過性に依存しているらしい。無傷の血小板において、ヘモグロビンは一酸化窒素の先駆体であるL−アルギニンの効果を変えなかった。逆に、溶解した血小板の細胞質ゾルにおいて、ヘモグロビンは、一酸化窒素により媒介される環式化合物−GMP構成物を誘発するL−アルギニンの最も効果的な抑制剤である。これらの実験は、ヘモグロビンが血小板細胞膜に効果的に浸透しないことを証明した(Radomski et al.,Br.J.Pharmacol.101:325(1990))。従って、望ましいHBOCの特性の一つは、一酸化窒素とヘモグロビンの相互作用を除去することである。
【0021】
ヘモグロビンは、NO−誘導血管平滑筋弛緩(Grueter C.A.et al.,J.Cyclic.Nucleotide Res.5:211(1979))と同様に内皮依存性血管弛緩(Martin W.et al.,J.Pharmacol.Exp.Ther.232:708(1985))の両方を拮抗することでも知られている。循環期間を延長するために、HBOC中のヘモグロビンを化学的に安定化し、重合し、被膜で囲み、共役することによりヘモグロビンの溢血および高血圧効果を制限する試みがなされた。従って、最新のHBOCは比較的膜不透過性であり、酸素を輸送することができるが、HBOC溶液は輸血の際のスーペルオキシドアニオンと一酸化窒素との反応を阻止する能力はない。上記の例は、ヘモグロビン製品および製剤化方法の改善のための何十年の研究にもかかわらず、たとえ酸素輸送反応メカニズムが適切に理解されていても、酸素毒性/ストレス問題の取り組みの難しさを証明している。
【0022】
存在する血液代用品の毒性問題に対する理想的な溶液は、存在するHBOCsの酸素輸送機能と赤血球の酸素解毒機能を結合せしめたヘモグロビンを基とする製剤であろう。しかしながら、スーペルオキシドアニオンの濃度が減少することによって、ヘモグロビンがmet−ヘモグロビンに酸化される反応が促進され、met−ヘモグロビンの望ましくない増加につながるので、スーペルオキシドディスムターゼ(SOD)酵素を存在するHBOC溶液に単独で加えることは望ましくないであろう(参照、反応式[1])。また、過酸化水素が毒性および反応性であり、保存中に毒性ヒドロキシル基に分解あるいは他の毒性有機過酸化物を形成するので、ヘモグロビン溶液においてスーペルオキシドアニオンの過酸化水素への変換が促進されることは望ましくない。
【0023】
合成血液代用品は理想的には大量の不溶解性であるから、遊離基と相互作用する化合物は、インビボ機能が維持され、安定で非毒性でなければならない。本発明に従って、ニトロキシドおよびヘモグロビン、アルブミンなどを含むニトロキシド標識高分子は、生物体における遊離基種の毒性を軽減するために使用される。 血管部分に生じる遊離基カスケードから生じる生理的損傷の別の例は、脳浮腫、壊死、およびアポトーシスがあり、脳血管性閉塞および一般的には“脳卒中”として知られている虚血事象を含む多くの病理と関係がある。脳卒中による脳損傷の重要な部分は、閉塞に続く再灌流事象からも生じる。
【0024】
脳卒中から生じる脳損傷は多くの人と健康管理費用を要し、科学者および医師は脳卒中傷害を阻止するための治療法を長く求めてきた。脳卒中における虚血/再灌流傷害に付随の脳損傷の主要な原因は、血管における遊離基の形成および細胞損傷につながるカスケードである。酸素遊離基毒性は、例えば、形質転換(Tg)SOD−1マウスに見られるように、脳卒中から生じる浮腫および神経傷害へとつながる。Chan,P.H.,C.J.Epstein,H.Kinouchi,H.Kamii,S.Imaizumi,G.Yang,S.F.Chen,J.Gafni,and E.Carlson(1994)。SOD−1形質転換マウスは脳卒中および脳傷害における神経保護研究のモデルである。Ann.N.Y.Acad.Sci.738:93-103.Chan,P.H.,C.J.Epstein,H.Kinouchi,S.Imaizumi,E.Carlson,and S.F.Chen(1993)。虚血性脳傷害におけるスーペルオキシドディスムターゼの役割:局所脳性虚血に続く形質転換の浮腫および梗塞の減少。In Molecular Mechanisms of Ischemic Brain Damage, K.Kogure and B.K.Siesjo,eds.Amsterdam:Elsevier.pp.96-1
04.Kinouchi,H.,C.J.Epstein,T.Mizui,E.Carlson,S.F.Chen, and P.H.Chan(1991)。
CuZnスーペルオキシドディスムターゼを過度に発現している形質転換マウスにおける局所脳性虚血傷害の減退。Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11158-11162。
【0025】
SOD−1形質転換マウスにおいて、ヒトSOD転換遺伝子はマウスの脳において通常レベルの3倍まで発現し、局所虚血損傷に続いて、梗塞サイズ、浮腫および神経的劣勢によって測定されるように、脳卒中傷害に対して30%の保護を提供する。脳卒中における遊離基損傷は、(a)組織の細胞膜および機能質への損傷、および(b)特に血管内皮への損傷を反映して、細胞内および血管の両方に局在している。Imaizumi,S.,V.Woolworth,and R.A. Fishman(1990)。リポソーム被膜に覆われたスーペルオキシドディスムターゼは、ラットの脳性虚血における脳梗塞を減少する。Stroke 21:1312-1317.Liu,T.H.,J.S.Beckman,B.A.Freeman,E.L.Hogan,and C.Y.Hsu(1989)。ポリエチレングリコール共役スーペルオキシドディスムターゼおよびカタラーゼは、虚血脳傷害を減少する。Am.J.Physiol.256:H586-H593.Chen,P.H.,S.Longer,and R.A.Fishman(1987)。外傷後の脳浮腫に関するリポソーム捕捉スーペルオキシドディスムターゼの保護機能。Ann.Neurol.21:540-547。
【0026】
薬物療法で脳性虚血による脳損傷を阻害するのに完全に効果的であると証明されたものは未だにない。多数の試験的な神経保護剤、血栓溶解剤および抗凝固剤が試験されてきたが、多くの該薬剤に関係する有害な副作用によって、使用がためらわれている。また、虚血/再灌流傷害も、例えば、次のガス泡沫による塞栓症に続いて、内因性あるいは外因性粒子による塞栓症から、あるいは低血圧症のエピソードから外科手術の間に起こり得る。これらの問題は抗凝固剤療法によって取り組めそうにない。本発明のニトロキシドを基とする化合物の抗酸化保護メカニズムを考慮に入れると、本発明は、再灌流の間、細胞を損傷から守ることによって再灌流傷害を実質的に軽減する能力を提供する。さらに、分光法で化合物を検出する能力からして、本発明は、手術時脳卒中、手術時心臓損傷および腎臓傷害の予防薬剤と同様に、脳卒中のための治療的および診断的薬剤として使用され、また、例えば血栓溶解物、グルタミン酸塩放出阻害剤、カルシウム流入阻止抗体およびNMDA受容体アンタゴニストのような、他の抗脳卒中薬物と併用して使用されるであろう。
【0027】
また、血管組織における酸化ストレスの防止は、心臓血管組織壁、特に、心臓に近接する動脈における動脈斑およびアテローム性動脈硬化症を引き起こし得る酸化脂質の進展を軽減あるいは減少させる。また、遊離基反応性のメカニズムは血漿LDLの酸化を示唆し、そのような酸化脂質は脳および中枢神経組織における再灌流傷害および心臓血管組織のいくつかの疾病および症状において役割を果すとも考えられている。
【0028】
ここに記載した発明のいくつかの態様により評価されるように、本発明に従って生物学的高分子とともに使用され、インビボで遊離基により起こされる損傷を抑制するニトロキシドの能力は、広範囲の効用性を有する使用のための、治療的および診断的ニトロキシド含有製剤および方法を設計することを可能にする。酸素誘導遊離基が存在する多くの生理的状態および過程は、ここに記載された化合物の使用により治療あるいは診断されるであろう。ヘモグロビン、アルブミンなどのような生体適合性高分子と併用した膜透過性の低分子量ニトロキシドの使用によってまた、研究者は関心のある特殊環境に合うようにニトロキシド含有製剤を作ることができる。
【0029】
ニトロキシドを基とする多成分系はまた、癌放射線治療および放射線被曝治療における使用のための放射線保護剤としても機能する。臨床的適用において、放射線療法の効果が高放射線量を安全に使用し得ることによって高まるであろう。 医学的放射線療法において、あるいは環境的放射線被曝の結果として、直面する電離性放射の悪影響に対して保護できる薬剤は、長い間必要とされてきた。このような薬剤は、放射線細胞毒性のメカニズムの研究における有益な手段でもあるだろう。硫黄含有化合物であるシステアミンは、最も早く認定された放射線保護剤のひとつである。その発見によって、米国国防省は、より効果的な薬剤を発見する試みにおいて、40,000以上の化合物の合成および組織的選別を引き受けることとなった。この注目すべき事業の結果、WR−2721として知られるアミノチオル化合物のような数種の放射線保護剤を発見した。最近、スーペルオキシドディスムターゼ、インターロイキンIおよび顆粒球マクロファージコロニー刺激因子は、放射線保護活性を有することが示された。これらの薬剤と比較して、WR−2721は正常組織の最も実質的かつ選択的保護を示した。しかしながら、癌放射線療法を受ける患者に使用する際の、本来の毒性と腫瘍の非選別的保護に対する懸念により、WR−2721の使用に対する強い関心は弱まった。“電離性”放射から組織を保護する能力はまた、UV放射線にさらされる皮膚組織の保護および治療能力を提供する。従って、本発明に従って製剤化される化合物は、皮膚に適用し得るローションあるいはクリームのような投与媒体を供給し得る。
【0030】
ある種の安定なニトロキシドが抗酸化剤および放射線保護活性を有することは分かっていた。しかしながら、これら膜透過性ニトロキシドはインビボで非活性形態に急激に変わり、高用量で毒性になり得る。膜透過性ニトロキシドの投与の実用性は、本発明によって実質的に高められる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
遊離基による毒性、例えば病理的損傷および酸化ストレス等から生体を保護するための組成物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、膜透過性ニトロキシドとニトロキシド標識高分子ニトロキシドとの併用を含むニトロキシドの治療的および診断的使用に関する。該高分子には、ポリペプチド、例えばヘモグロビン、アルブミン、免疫グロブリンおよびポリサッカライド、例えば、デキストリン、ヒドロキシエチルデンプンおよび人工膜、例えば液体二層体、ヘモグロビンおよびアルブミンミクロバブルがある。ニトロキシド含有製剤は、生物体における酸素関連物質の毒性を軽減し、非常に多様な病理的、生理的症状を診断および処置する能力を提供する。本発明はまた、ニトロキシドのインビボ効果を保持するために、低分子量かつ膜透過性ニトロキシドと併用されるニトロキシド、合成ニトロキシドポリマー、コポリマーおよびニトロキシド標識高分子にも関する。本発明はまた、赤血球代用としての使用のための生理的適合性で、細胞を含まない、被膜に囲まれたヘモグロビンの溶液と併用されるニトロキシドを特徴とする新規な化合物および方法に関する。さらに、本発明は、皮膚の光線による老化の処置のため、および皮膚の抗皺剤として、膜不透過性ニトロキシドの治療的濃度の細胞内蓄積をもたらす膜透過性型における膜不透過性ニトロキシドの局所的分布のための方法および新規化合物も開示する。さらに、本発明は、上記ニトロキシドが、遊離基による病理的損傷および酸化ストレスに対して保護するために、他のニトロキシドを含む他の生理的に活性な化合物と併用されることを開示し、および疾患の診断および治療におけるこれらの使用を開示する。
【0033】
本発明は、生物系における治療および診断のための安定なニトロキシドを開示し、そのニトロキシドは他のニトロキシドを含む生物適合性の高分子と併用される。特に本発明は、アルブミンおよびヘモグロビンなどの生体適合性高分子と高い分子比率で結合しているニトロキシドと併用される、低分子量の膜透過性ニトロキシドを記載する。ある種の適用において、相違する遊離基の安定性を有するニトロキシドの一つの形とニトロキシドの他の形との相互作用は、物質間の電子またはスピンの移動を容易にする。相違する安定性は、物質の電子化学的環境からまたは化合物の本来の性質から生じる。本発明はまた、安定なニトロキシドの遊離基、前駆体および誘導体(これらは、総括的に“ニトロキシド”と呼ぶ)の利用を意図している。ニトロキシドはヘモグロビンを基とする血液代用物に赤血球の酸素解毒素機能を提供し、酸化ストレスを軽減し、そして炎症、放射線、頭部損傷、ショック、虚血後再灌流損傷、脳卒中、腎不全、内皮損傷、脂質過酸化、鎌状赤血球貧血、白血球活性化および増殖、アポトーシス、電離性放射脱毛症、白内障、敗血症、乾癬潰瘍および老令化などを含む遊離基毒性に関連する生物的障害を回避する。
【0034】
一つの実施態様において、安定なニトロキシドまたはその誘導体は、赤血球の酸素解毒機能を有するであろう血液代用物のためのいくつかの化合物をつくるのに用いられる。これらの化合物は、ヘモグロビンを基にした赤血球代用物(HRCS)と言い得る。何故ならヘモグロビンを基にした酸素担体(HBOC)の酸素移送能力が体内の赤血球の酸素解毒作用を提供することにより高められるからである。このことは、多くのHBOCにみられる高血圧を回避する血管作用のないヘモグロビンに基づく酸素担体をつくることを可能にする。
【0035】
ニトロキシドのみの使用における欠点を克服するために、本発明の好ましい具体的態様においては、Tempo標識ヒト血清アルブミンなどのポリニトロキシド標識高分子を単独にあるいは遊離の膜透過性ニトロキシドと共に注入して、インビトロでのニトロキシドの活性を拡大せしめる。かかる化合物の一つの利点は、診断的および治療的に使用され得る改善された放射線保護剤であり、いかなる源からの放射被曝に対しても保護作用がある。医学上の使用においては、放射線量を増加せしめ得ることが放射線治療を成功せしめる可能性を改善する。この能力は、脳腫瘍などのある種の腫瘍では特に意味が深く、そして、ここに記載するようにイメージングおよび酸素運送と併用されて、特に低酸素領域を有する腫瘍に有用である。
【0036】
さらに、ニトロキシドは電子常磁性共鳴分光法および核磁気共鳴分光法によって検出される。造影機器の発達により、無傷の生物体の組織および臓器のイメージがニトロキシドの安定な遊離基の測定および検出を基にして行い得る。本発明によると、体内における活性ニトロキシドレベルは、低分子膜透過性ニトロキシドのみにみられる場合に比してイメージの改善および長いシグナル持続を可能にする長時間で保持される。さらに、ある種の現存の造影向上剤と異なり、本発明で開示する組成物は血液−脳関門を通過し得る。
【0037】
さらに、その抗酸化活性により、本発明で開示される組成物は、診断的価値と共に治療的価値を有し、多様な用途に有利に用いられる本発明の新規組成物および方法を可能にする。
【0038】
いくつかの形態における安定なニトロキシドの製法および用法に関する材料および方法をも記載する。特に、膜透過性のニトロキシドの不活性な比較的非毒性の前駆体または誘導体について記載し、これらは、ここに記載の他の化合物によってインビトロで生物学的に活性なニトロキシドまたは抗酸化酵素様体に転換し得る。いずれの場合も、化学的に還化された(非活性の)ニトロキシドが種々の安定性の他のニトロキシドまたはニトロキシド標識高分子物質により、有害な遊離基を解毒する過程において還元された後に、再活性化され得る。その再生作用の結果として、本発明のニトロキシドは、低分子量の膜透過性ニトロキシド単独に比してインビトロで長い半減期を有する。このように、本発明は、ニトロキシドが効果的であるいかなる利用についても効力を高める組成物または方法を提供する。
【0039】
本発明の多成分システムを用いて、動的均衡が低分子量の膜透過性ニトロキシドと種々の安定性の膜透過性ニトロキシド含有物質との間に形成される。特に、電子を他のニトロキシドから受け得るニトロオキシ基を特徴とするニトロキシドを基にする化合物、例えばヒドロキシアミン誘導体から電子を受け得る膜透過性高分子結合ニトロキシドは、膜透過性ニトロキシドの活性機能を再生する酵素様体として、あるいは逆に、ニトロキシドアミン型を遊離基型に転移する電子受容体として作用し得る。
【0040】
本発明によるインビボで活性ニトロキシドの濃度を保持する能力は、ニトロキシドの投与が有益であるがその利用がインビボでの速い還元によって制限されるいかなる適用、あるいは膜透過性ニトロキシドの最適有効量が毒性量であるいかなる適用においても利益を提供する。例えば、本発明によるニトロキシドの活性半減期の増加は、低分子量膜透過性ニトロキシドの有効量が毒性量であったり、または速く消失するような臨床的あるいは他の用途において放射線保護と改良されたイメージを提供する。
【0041】
安定な不対電子によって常磁性であるニトロキシドは、核磁気共鳴イメージング(NMR/MRI)および電子常磁性共鳴イメージング(EPR/ERI)におけるイメージング剤として機能する。しかし、ニトロキシドの分光法に不視の物質、最も典型的にはヒドロキシアミン型への迅速な還元によって、これらのイメージング剤の用途が制限される。遊離基物質は再灌流損傷に関連し、酸素代謝を伴うことが知られているので、イメージング剤として本発明の組成物を用いて虚血性組織損傷および低酸素状態が測定され得る。さらに、本発明の組成物の抗酸化酵素様作用は、酸化障害からの保護に追加の利益をもたらす。
【0042】
ニトロキシドに基づく多成分系の顕著な利点は、抗酸化、放射線保護、抗虚血、イメージ向上、酵素様等の機能を、身体のいくつかの領域、例えば脈管区画、間質性区間および細胞内領域に対し、あるいは生物組織の選択的透過性に基づき、あるいは標的のまたは局在化作用を提供する既知の投与方法を用いて、特定の領域に対してもたらす能力である。研究者あるいは臨床家は、ここに記載の多成分系を用途に合わせて仕立て上げることができる。例えば、ここに記載の種々の化合物は、相違する血圧降下作用レベルを有している。本発明の多成分系のニトロキシド含有物質の選択がつくり上げる活性は、特定の疾患症状または状態を選択的に処置または診断する能力またはニトロキシドの遊離基型の増加または低下をもたらす能力を提供する。例えば、当業者が評価するであろうように、本発明は、ここに記載の多成分系の1以上の成分を静脈注入することによって循環系に用いることができる。同様に、皮膚の特定の部位が1つのニトロキシドの局所投与によって選択され、一方、本発明の特定の利用に基づく局所、経口または静脈投与によって他の物質が投与される。
【0043】
基本的には、ある具体的態様において、一つのニトロキシド(前駆体および代謝基質を含む)が、望ましい機能すなわち、放射線保護、イメージング、酵素様、などをなすために選択的に提供され、他のニトロキシドに基づく物質が活性の貯蔵庫として提供される。電子スピン移動の観点からは、1つの物質が“受容体”ニトロキシドであり、他のものが“供与体”ニトロキシドであると考えられる。特定の具体的態様において、供与体および“受容体”はインビボで実質的に物理的に分離されており、その遊離分子において相違する安定性を有さなければならない。好ましい具体的態様において、受容体ニトロキシドは循環系に顕著に分布しそして活性の倉庫として働くポリニトロキシドアルブミンである。供与体物質は典型的にはTPLまたはTPHなどの低分子量膜透過性物質である。別法として、供与体物質は膜不透過性であり、受容体物質は膜透過性であり、そして物質はニトロキシドの活性を阻害するようなものから選択され得る。
【0044】
当業者は、供与体または受容体として選択される個々の物質が、実質的な物理的分離が保持されそして種々の安定性が達成される限り、変わり得ることが分かるであろう。例えば、同じニトロキシド物質が受容体と供与体の両方に働き得る。このような例において、アルブミンのような高分子物質上の一連のアミノ基に標識されたTPLは、実質的な膜不透過性受容体ニトロキシドを提供する。高分子結合TPLの相違する安定性は、残留するカルボキシル基がアルブミン結合TPL中の安定性の低い遊離基状態をもたらす酸性ミクロ環境をつくるようなアミノ基を標識することによって提供される。他方、異なる非結合ニトロキシド物質が提供され、それは本来の化学的および電気的構造からして必要とする分離および相違する安定性を提供する。
【0045】
本発明の化合物によりつくられる動的な平衡は、1つのニトロキシドの還元型と酸化型との間にあって、1つが活性であり、他方が非活性のようにある。基本的なメカニズムは、第1ニトロキシド、特にその還元ヒドロキシアミン誘導体からの第2ニトロキシドのニトロキシル基による電子の受容である。第2ニトロキシドは、遊離ニトロキシ基の相違する安定性によって、第1ニトロキシドと接触したときに、電子を受容し得る。一つの例として、遊離基すなわち"酸化"型、例えばTPLは、ポリニトロキシドアルブミン(PNA)によってTPLに再生されるまで、TPHにすばやく還元される。
【化4】

【0046】
生体適合性の高分子に結合したニトロキシドを用いる望ましい組成物には、様々なものがある。例えば、ヘモグロビンを基とする酸素担体などの注入用の生理的適合性溶液と共に、組成物は、1)貯蔵保持体に加えられるかまたはフィルター中に保持されたニトロキシド含有化合物;ニトロキシドフィルター中に用いられている不溶性マトリックスに化学的に結合しているかまたは貯蔵および投与に適した方法としていくつか形態で含有されている、2)化学的または組換え的架橋により安定化されたヘモグロビンと共有結合しているニトロキシド、3)重合ヘモグロビンと共有結合しているニトロキシド、特にニトロキシドの2,4および8分子均等体、4)リポソームの両側に、ヘモグロビンと共に封入されるか、またはヘモグロビン膜の間に入れたニトロキシド、5)抱合ヘモグロビンと共有的に結合しているニトロキシド、6)高い分子比すなわち6−95でアルブミンのいくつかの型と共有的に結合しているニトロキシド、7)免疫グロブリンと共有的に結合しているニトロキシドおよび多成分系における上記のいかなる組み合せを含有する。
【0047】
記述したように、上記組成物は、使用に応じて独立的に、または低分子量の膜透過性ニトロキシドと併用して用いられる。さらに、上記組成物は、他の化合物と共に特別に調製されて、インビボでその反応性または安定性を変えることができる。特に、シクロデキストランおよび他の既知の安定剤がヘモグロビンを基とする溶液の安定性を高めるために用いることができる。また、必須栄養セレニウムは、スーペルオキシドを創生することが知られ、ポリニトロキシド高分子と用いられて、その酸化を促進する。これらの製剤は、酸化ストレスからの保護を提供して、イメージングを高め、放射に対する感受性を増加または減少する他の既知化合物および臨床上または診断上の有用性のある他の既知化合物と共にも用いることができる。
【0048】
下記に示す実験結果によると、低分子量ニトロキシドは、還元不活性型からその活性型に本発明のニトロキシド標識高分子との相互作用によって再生され得る。下記の実験結果および手法において、ニトロキシドが酸化ストレスに関する診断、治療および生理状態の測定のために、アルブミンおよび安定化、重合化、複合化および封入ヘモグロビンなどのバイオ相同性の高分子に結合し得ることを示す。ニトロキシド標識ヘモグロビンとニトロキシド標識アルブミンとの相互作用は、両者のみでまたは遊離基を有する低分子量ニトロキシドと併用して、実質的な血漿半減期を有する他の生物学的相同性の高分子がニトロキシドで標識されて、遊離基の化学物質による酸化ストレスまたは毒性に対し抵抗性あるいは保護を有利に提供するのに、本発明に従い用いられることを示唆している。
【0049】
実験結果はまた、本発明の組成物および方法が、HBOC溶液の注入が血管作用をもたらさないHBOCと共に注入されたときに、抗高血圧的であることを示している。放射線保護作用は、致死量の放射線に照射された細胞培養およびマウスの両方で明らかにされた。ラットの心臓のEPRイメージは虚血の進行および再灌流損傷を監視できて、イメージの向上に加えて、本発明で開示された組成物が再灌流損傷から虚血心臓を保護することを示す。虚血/再灌流損傷からの保護は、心血管系および脳血管系の両方で示され、実験結果によると、脂質酸化および白血球活性化の阻害における、および皮膚の処置および保護における本発明の保護作用が明らかである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
ニトロキシドは、抗酸化触媒活性を有することが示されている安定な遊離基であって、この活性はスーペルオキシドディスムターゼ(SOD)の活性に類似し、インビボにおいて他の物質との相互作用によってカタラーゼ様活性を発揮できる。従来、ニトロキシドは、バイオ高分子の配座的および運動的性質を研究するために“スピン標識”として電子スピン共鳴分光法において用いられている。ニトロキシドはまた、その化学的構造がよく定義された超微細相互作用を有する安定な不対電子を提供するので、活性遊離基の中間体を検出するために用いられて来た。さらに、ニトロキシドは酵素様体として作用するがみられる。ある種の低分子量ニトロキシドは、同定されており、スーペルオキシドディスムターゼ(SOD)(A.Samuni et al.J.Biol.Chem.263:17921(1988))およびカタラーゼ(R.J.Mehlhorn et al.,Free Rad.Res.Comm.,17:157(1992))の活性に類似する。多くの研究によると、細胞膜透過性であるニトロキシドは、ヒポキサンチン/キサンチンオキシターゼによるスーペルオキシドアニオンおよび過酸化水素爆露による細胞毒性に対して、哺乳動物を短時間保護し得る。
【0051】
用語“ニトロキシド”は、合成ポリマーなどのニトロキシ基含有の化合物、その前駆体(N−H型など)およびその誘導体を含み、安定なニトロキシド遊離基である。この誘導体には酸素原子がヒドロキシル基で置換され、ハロゲン化水素の形で存在する対応のヒドロキシルアミン誘導体(N−OH)を含む。本発明の目的としてヒドロキシアミン誘導体のクロライド塩が一般的に好ましい。
【0052】
ここに記載のニトロキシドにおいて、不対電子は、窒素核が強い電子供与体で置換されている2つの炭素原子に結合しているので、部分的に安定である。N−O結合の酸素上の部分的負電荷を有し、2つの隣接炭素原子は一緒になって窒素核上に不対電子を局在化する。
【0053】
ニトロキシドは一般的にヘテロ環あるいは直鎖の両方の構造をとり得る。基本的な標準は安定な遊離基である。構造的に、下記式のニトロキシドが好ましく、R1−R4は電子供与体であり、Aはヘテロ環の残りの部分である。
【化5】

【0054】
これらのヘテロ環構造において“A”は5員(すなわち、ピロリジニル、または1つの2重結合のあるプロキシル、すなわち、ピロリン)または6員(すなわちピペリジニルまたはTEMPO)ヘテロ環構造の残りの炭素を表し、その中で1つの炭素原子は1つの酸素原子で置換されていてもよく(オキサゾリニルまたはドキシル)、そしてある水素原子は2個までのブロム原子で置換されていてもよい。α炭素における置換は、不対電子が実質的にπp軌道配置に保持されるようにある。R1からR4はアルキル(直鎖または分枝鎖)またはアリール基であるが、好ましくはメチルまたはエチル基である。いかなるニトロキシドにおけるα炭素上の置換基は、安定性を高めるために強い電子供与体であるべきで、従ってメチル(CH3)基またはエチル(C2H5)基が好ましいが、他の長い炭素鎖も用いられる。参照、例えば、米国特許第5,462,946。遊離基の反応性を保持する他の構造は、当業者に自明であり、合成が続けられている。参照、例えば、Bolton et al.“いくつかのテトラメチルイソインドリン−2−イルオキシル遊離基についてのEPRおよびNMR研究”J.Chem Soc.Perkin Trans.(1993)およびGillies et al.いくつかの5−(n−アルキル)−1,1,3,3−テトラキス(トリドウテリオメチル)イソインドリン−2−イルオキシルのEPR超微細カップリング定数のNMR測定 J.Chem.Soc.Faraday Trans.,90(16),2345-2349(1994)。
【0055】
本発明による生体適合性高分子と結合しているとき、ニトロキシドの反応性は微細な環境に従って変化する。この反応性は、標識図式を用いることにより、およびセレニウムなどの、遊離基の安定性または反応性を変えることが知られている他の化合物との反応によりつくりあげることができる。実際には、充分な考察が実際的で経済的なニトロキシド化合物の範囲を限定する。本発明で用いられる好ましいニトロキシドは次の構造を有するニトロキシドを含む。
【化6】

【0056】
上記から明らかなように、最も適当なニトロキシド化合物は、下記式により基本的に表現され、
【化7】


R基は遊離基の安定性を保持する配置から選択される。
【0057】
上記したように、ニトロキシドの構造形態は基本的な機能からはずれることなしに変わり得る。ニトロキシド機能基は、二量体、下記するB3Tなどの三量体、オリゴマー、あるいは各々が少なくとも一つのニトロキシドを含有する複数の繰り返しサブユニットを有するポリニトロキシド合成ポリマーにも合体し得る。好ましい合成ポリマーは、ポリマーの各サブユニット中にニトロキシドおよびカルボキシル基を有する。例えば、下記の化合物は、既知の技術で、例えば米国特許第5,407,657に記載のように、ジアミン化合物とジアンヒドリドから合成される。
【化8】


本発明の目的からすると、米国特許第5,407,657に示されるポリマーのニトロキシド基はブロモ−TEMPOで置換されるのが望ましい。このような合成ポリマーは、ヘモグロビン、特に元からのヘモグロビンをジアミンのやや過剰を有する化合物の合成により標識し、ポリマーの端末に遊離のアミノ基を得るのに利用される。端末のアミノ基は好中性基と反応し、例えば、ブロモアセタブロミドはブロモ−TEMPOのニトロキシドポリマー誘導体を生産し、PNAおよびPNHに類似するタンパク質上のアミノ基を標識するのを可能にする。
【0058】
ヘモグロビン、アルブミン、免疫グロブリンおよびリポソームを含むバイオ高分子へのニトロキシドの共有的結合について、多くの技術が発表されている。参照、例えばMcConnell et al.,Quart.Rev.Biophys.3:p.91(1970);Hamilton et al.“構造化学と分子生物学”A.Rich et al.,eds.W.H.Freeman,San Francisco,p.115(1968);Griffith et al.,Acc.Chem.Res.2:p.17(1969);Smith I.C.P.“電子スピン共鳴分光法の生物学的応用”Swarts,H.M.et al.,eds.,Wiley/Interscience,New York p.483(1972)。選択されたニトロキシドは、ヘモグロビンの共作用的酸素結合メカニズムの研究目的のためにヘモグロビン分子と共有的に結合されている。
【0059】
ここに記載された高分子に関して、ニトロキシドを高分子に結合させるために“ラベリング戦略”としてよく知られている少なくとも2つの技術が可能である。特異的なラベリングの意義はミクロ環境にあり、その環境でニトロキシドは高分子と結合し、ニトロキシドが触媒活性を得る。特定のリガンド結合部位における特異的なラベリングは、より調和的結合部位ミクロ環境を有するホモジェナスな物およびニトロキシドの触媒的特異性および活性の点においてより信頼性の高い化合物を生産する。
【0060】
用語“ヘモグロビン”は、記述内容から別の意味である場合を除き、オキシ−、カルボキシ−、カルボンモノオキシ−およびデオキシ−ヘモグロビンを意味する。本発明で用いられるヘモグロビンは、起源がヒト、動物あるいは組換のいずれでもよく、既知の技法により取得され、精製される。ヘモグロビンは、ピリドキサル−5'−ホスフェートのピリドキサル基または開環アデノシントリホスフェート(O−ATP)に、ヘモグロビンのアルデヒド基および橋かけ結合誘導体との反応により、共有結合し得る。橋かけ結合誘導体には、ジアルデヒド、ポリアルデヒド、ジエポキシド、ポリエポキシド、活性化ポリカルボキシルおよびジカルボキシル基、例えば3,5−ビス−ブロモシリシル−ビスフマレ−トおよびTEMPOサクシネートまたはTOPS、(参照、米国特許第4,240,797)シクロデキストランおよびそれらのアニオン性(例えばスルフェート)橋かけ結合ヘモグロビンおよび重合化ヘモグロビンなどの多機能性、ヘテロ重機能性およびホモ重機能性橋かけ結合剤が含まれる。安定化ヘモグロビンは、タンパク質中の橋かけ結合システイン残基により産生される橋かけ外層を有するミクロスフェア中に形成され得る(VivoRx Pharmaceuticals,Inc.,Santa Monica,CA)。ここに記載のすべてのヘモグロビン溶液および本発明の他の化合物中などの他のニトロキシドの各溶液は、生理的に適合する形態で、例えば生理的に許容される溶液あるいは許容される担体、溶媒または基剤に懸濁されて、投与される。ヘモグロビン溶液は、細胞を含まず、パイロジェン、エンドトキシンおよび他の夾雑物が取り除かれている。
【0061】
アルブミンと結合したニトロキシドを用いる望ましい組成物は次のものを含む。 1)ニトロキシドによるアルブミンの非特異的ラベリング(例えば高ニトロキシドでの4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO対アルブミンの比率)
【0062】
2)特異的リガンド結合部位でのアルブミンの特異的ラベリング
【0063】
3)ジスルフィド結合の還元およびアルキル化によるアルブミンの高められたラベリング。
【0064】
本発明で用いられるとき、用語アルブミンは、ヒト血清アルブミン、動物アルブミン、組換アルブミンおよびそのフラグメントを含む。アルブミンは、利用されるラベリング部位を増加するために温められ、また化学的に処理される。さらに、アルブミンは単量体、二量体、ポリマーとして存在し、ミクロスフェア中に包含され得る。ここに開示のアルブミンは既知技術によりポリエチレングリコール(PEG)と処理して、その免疫適合性を増加することもできる。
【0065】
体内の抗酸化能を増加することにより酸化ストレスを改善するための望ましい方法は、多成分ニトロキシドを基にするシステムの使用である。第1成分は、TEMPOLなどの膜透過性ニトロキシドである。これらの電荷性および小さい分子サイズからして、他分子量非結合ニトロキシドは細胞膜を容易に透過し、細胞内に入る。第2成分は、高分子比のニトロキシド(ポリニトロキシド)で生体適合性高分子−標識、例えば分子比30:1のTEMPOLで標識されたヒト血清アルブミンなどの他のニトロキシド含有物質である。本発明の多成分ニトロキシドシステムの使用は、低分子量膜透過性ニトロキシドの大きい、集中的また繰り返し量から生じ得る毒性を軽減するのに役立つ。ニトロキシドのヒドロキシアミン型は抗酸化剤として活性でなく、大量でのニトロキシド毒性は主に膜酸化還元状態の混乱を引き起こす抗酸化剤の活性によると考えられているので、ヒドロキシルアミン状態は対応する非還元ニトロキシドよりも低い毒性を示す。このように、本発明の一つの実施態様において、非活性型に還元されたインビボニトロキシドを活性化するために、高分子ポリニトロキシドと併用して膜透過性ニトロキシドの非毒性量を使用することを開示する。同様に、ヒドロキシアミンは、インビボで活性抗酸化剤に変換する非毒性ニトロキシド前駆体として投与され得る。結果として、体内で強力な抗酸化剤の安定かつ持続的治療レベルがもたらされる。 インビボの安全性に関して、本発明に従って投与され得るニトロキシドのレベルは、動物で耐容性に優れ、ニトロキシドは比較的安全であることが知られているのでヒトにおける優れた耐容性が期待される。例えば、マウスでのTEMPOの腹腔内最大耐容量は275mg/kgであり、LD50は341mg/kgである。さらに高分子結合ニトロキシドは、その活性型における遊離ニトロキシドよりも安全である。遊離ニトロキシドと併用される本発明のニトロキシド標識高分子は、抗酸化効果を達成するため投与されねばならないニトロキシドの全量を減少する。抗酸化製剤において用いられるニトロキシド標識高分子の追加の利点は、改善された安全性を有し、活性抗酸化状態におけるニトロキシドの高い活性レベルを達成する能力にある。
【0066】
今日研究されている生体におけるニトロキシドの大部分は、細胞膜を通り、組織へ容易に侵入し得る低分子量の化合物である。本発明の高分子結合ニトロキシドは静脈注入されて、高分子物質の膜不透過性によって脈管区画に止まり得る。このような実施態様において、高分子と共有結合しているニトロキシドは、利用性が最適である局所すなわち脈管区画にニトロキシドを止めて、遊離基の毒性を軽減するのに作用する。
【0067】
TEMPOLは、注射されると細胞間に迅速に拡散し、そこで遊離基を解毒化(酸化)する過程においてヒドロキシルアミンに還元される。毒性の遊離基から不対電子を捕捉する過程において、ニトロキシドはオキソアンモニウム中間体に還元される。次いでオキソアンモニウム中間体は2つの過程のいずれかで反応する。これは、遊離基由来電子をある天然の化合物に自発的に与えることにより、ニトロキシドに再酸化される。この工程は、正味の結果としてニトロキシドが不変化であるので、酵素様と云える。他方オキソアンモニウム中間体はさらにヒドロキシルアミンに還元される。ヒドロキシルアミンは、常磁性でなく(すなわち、EPR分光法で表われない)、ニトロキシドの抗酸化触媒能力を欠く。インビボの反応平衡はヒドロキシルアミンへの還元に強くかたよる。その高い膜透過性および不活性な化学的基本構造によって、ヒドロキシルアミンも細胞内および細胞外に自由に分布し、比較的長い時間体内に止まる。しかし、一旦ニトロキシドがヒドロキシルアミンに還元されると抗酸化活性は消失する。
【0068】
TEMPOLすなわち4−ヒドロキシル−2,2,6,6−テトラメチルピペリドン−N−オキシルは、遊離基の解毒過程において迅速に消費される。TEMPOLはオキソアンモニウム中間体に還元され、これは酸化されてニトロキシドにもどるか、またはさらに還元されてヒドロキシルアミンになる。このように、ニトロキシドのバイオ変形(遊離基の解毒過程において)はヒドロキシルアミンを生産する。ヒドロキシルアミンは、常磁性でなく(ESR分光法で表われない)、ニトロキシドの抗酸化触媒活性を欠く。TEMPOLのみの使用は、TEMPOLがヒドロキシルアミンに迅速に変換し、意味のある抗酸化効果を発揮するのに要する量では毒性があるので、医療的には好ましくない。
【0069】
しかし、ヒドロキシルアミンは、化学的に安定であり、体内に比較的長く止まり(ニトロキシド分子の基本骨格は比較的無活性)、そして本発明の教示に従って、ニトロキシドの活性型に化学的変換してもどることができる。このインビボ変換はニトロキシドの安全な臨床的使用を可能し、持続的な抗酸化活性を提供する。上記したように、不対ニトロキシル電子はニトロキシドに抗酸化活性に加うるに他の有用な性質を与える。特に遊離基型のニトロキシドは常磁性のプローブであり、そのEPR標識は生物系において代謝情報、例えば酸素緊張、および組織の酸化還元状態の情報を反映し得る。自然に生じる不対電子はインビボでは基本的に存在しないので、EPRイメージングは背景のノイズが基本的になく、さらに利点を有している。ニトロキシドはまた、水素核の緩和時間を低下し、プロトンまたは核磁気共鳴イメージング(MRI)における造影剤として有用である。ニトロキシドはまた、MRIからすでに得られている形態学的データに代謝情報を加えるために造影剤として作用する。例えば、ニトロキシド上の種々の機能基を代えることにより、緩和性、溶解性、バイオ分布、インビボ安定性および耐容性を含む性質を操作することが可能である。ニトロキシドから得られた高い造影は、強さの等しい組織(しかし組織学的に同じでない)を識別することにより、病変部位、例えば血液脳関門損傷、膿瘍および腫瘍などの局在化および特徴化によりMRIの結果を改善することができる。
【0070】
高分子ポリニトロキシドはその大きい分子量と低い膜透過性によって細胞外に分布しやすく、生化学的環境中では容易に還元されない。しかし、高分子ポリニトロキシドは、ビボ変換で活性抗酸化能を有するニトロキシドにもどることにより、ヒドロキシルアミンから電子を受容することができることが見出された。
【0071】
この工程は、細胞の外側の抗酸化活性の高能力高分子貯蔵庫より、抗酸化能を高運動性膜透過性ニトロキシドに効果的に変換し、このニトロキシドは細胞膜を通過して細胞内に抗酸化活性を提供する。細胞の内側で、ニトロキシドは、毒性の遊離基の酸化によりヒドロキシルアミノに還元され、細胞外のサイクルに出て、そこで高分子ポリニトロキシドにより再活性化される。さらに高分子ポリニトロキシドの反応性は、セレニウムなどの他の化合物を加えることにより高められ得る。
【0072】
従って、特に有利なニトロキシド含有製剤は、大きい比率のニトロキシドが高分子(ポリニトロキシド)に結合し、非結合の低分子量ニトロキシドの医療的活性量にインビボで接触するのを可能にし、それによって触媒的活性ポリニトロキシド高分子を提供するときに、製造することができる。医療的に活性なニトロキシドと触媒的活性のニトロキシドとの相互作用は、まわりの組織において持続抗酸化剤、放射線保護剤、イメージング剤を提供する。実際に、高分子物質は抗酸化活性の受容体であり、この活性は膜を透過し得る低分子量物質の活性を再充電する。ここに開示するこの共生的方法は、局在化した持続的抗酸化活性を得るために、低分子量ニトロキシドの経口投与と併用した高分子ニトロキシドの局所使用などの、有利な投与方法を提供する。
【0073】
ここに開示する実験結果および製剤データに基づき、本発明のニトロキシド含有物質の抗酸化、放射線保護、抗高血圧および分光活性は、種々の製剤でインビトロおよびインビボで測定された。これらの結果を基にして、ポリニトロキシド標識高分子および遊離ニトロキシドが遊離基酸化/還元反応に関与する反応メカニスムは、その能力が遊離基を解毒するために新しいHBOCおよび他のニトロキシド含有高分子を製剤することに存することを存分に表わしている。これは非常に多様な生理的状態の診断および処置に有利に使用される。
【0074】
さらに本発明はニトロキシド含有化合物を、静注用液、局所剤などの医薬品の貯蔵または投与のための容器に併せて、開示する。ニトロキシド含有化合物は固体または液体で容器の内部に入れられ、また容器の内側表面に共有的に結合する。投与のための一つの有益な方法は、遊離ニトロキシドを有するまたは有しないニトロキシド含有化合物を、投与液体中に用いられるインラインフィルターに加えることである。例えば、ポリニトロキシドアルブミンは、患者に注入する前に毒性酸素関連化合物を捕捉するために遊離ニトロキシドと共にフィルター内部に合体され、またはフィルター中の不溶マトリック例えばHBOCと結合し得る。
【0075】
下記するHBOC製剤およびニトロキシド標識高分子は、ニトロキシドに"スーペルオキシドオキシダーゼ"として赤血球中で起きることが知られてない酵素様反応を機能せしめて、毒性酸素関連物質の形成を遅滞せしめる。これらのHRCS製剤において、ニトロキシドは、ヘモグロビンの自動酸化から生じる望ましくないスーペルオキシドアニオンの蓄積を防止する(参照、式[I])。アルブミンおよび免疫グロブリンなどのニトロキシド標識高分子は抗酸化酵素様として機能し、この機能は脈管および間質性の区画に局在し、膜透過性ニトロキシドと反応して細胞内保護を提供し得る。
【0076】
免疫グロブリンと併用した望ましいニトロキシドの製剤には、ハプテンまたは抗原に特異的な免疫グロブリンに結合したニトロキシド標識ハプテンまたは抗原がある。
【0077】
さらに、本発明によれば、ニトロキシド化合物の有益な治療的効力は調製し、持続せしめることができる。例えばニトロキシド2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシル−4−ピペリジリデンコハク酸(TOPS)は、ヒト血清アルブミンの第1級ビリルビン結合部位に結合し得る。インビボでこの結合は、血清半減期を延長し、ニトロキシドの細胞間への分散を遅らして、必要用量を減少し(そして、起こり得る毒性を減じ)そして生物的作用を延長する。このように、TOPSなどニトロキシドは単独で、高分子ポリニトロキシドなしで、抗酸化剤として利用性を有し得る。本発明によれば、治療上抗酸化活性を局在化せしめる手段として、ニトロキシドを体内の特定の部位に運び得る担体を選択あるいは設計することができる。
【0078】
ニトロキシドの安定な化学的本質から、本発明に開示する組成物は種々の経路で投与することができる。膜透過性ニトロキシドは非経口および経口で投与され得る。還元型においてヒドロキシルアミンはGI系で局所的に作用して血液中にとりこまれ得る。このように、持続抗酸化剤活性はすべての体内区画で提供される。高分子ポリニトロキシドは、非経口的に投与され、細胞外に局在して、還元された遊離ニトロキシドを再活性し、経口または経皮的に投与され、循環している還元ニトロキシドを活性するのに作用し、それによって局在化した抗酸化作用を提供する。
【0079】
タンパク質を基とする高分子ポリニトロキシドおよび膜透過性ニトロキシドの特定の反応性は、高分子の加熱およびポリペプチド鎖の第1級アミノ基でのラベリングによって高められるようである。加熱は、高分子の配座を変えることが知られており、アミノとカルボキシル基の間の水素結合を伸長し、そして高分子の第4級構造を変化せしめる。続くアミノ基におけるニトロキシドによる共有ラベリングは、加熱の結果として、さらされたタンパク質の比較的内部の箇所で起こり得る。得られたニトロキシド標識高分子において、これらのニトロキシド分子は溶媒でもって反応からより保護されている。また、ニトロキシドがタンパク質上の多くのアミノ酸に結合していると、残留カルボキシル基の優位が結合ニトロキシドのまわりの酸性ミクロ環境を創生する。酸性環境は、N−O結合における不対電子を酸素原子の方に引っぱることによりニトロキシドの反応性を増加する。 赤血球代用についての本発明の実施態様において、ニトロキシドの必要とされる性質は、スーペルオキシドオキシターゼ、スーペルオキシドデイムスターゼおよびカタラーゼ活性を工程中に実質的に消費されることなく模倣することによって、HRCS中のスーペルオキシドアニオン・カスケード過程に影響を及ぼす能力である。
【0080】
"スーペルオキシドオキシダーゼ"反応において、スーペルオキシドアニオンは、過酸化水素の形成に進むことなしに、酸化されて分子酸素にもどる。これは、ニトロキシドの濃度が酸素の濃度よりも非常に大きい貯蔵状態を形成することによって部分的に達成される。ここに開示した方法を用いて、ニトロキシドはスーペルオキシドアニオンの形成で始まる望ましくない酸化反応のカスケードを防止する。さらに、ここに記載の生理的適合性のHRCS溶液は、ニトロキシドがここに記載の製剤を患者に注入した後にスーペルオキシドデイスムターゼおよびカタラーゼの酵素様活性を発揮するので、既存のHBOC溶液を越える利点を提供する。
【0081】
多様なニトロキシドが本発明で用いられるが、ニトロキシドは、酸素毒性の軽減するのに要する最小濃度で生理的に許容されるものでなければならない。有効な物質を評価する場合、ニトロキシドの比較的低毒性によってNMRイメージングにおける造影剤としての開発が促進されて来たことは注目すべきである(参照、米国特許4,834,964;4,863,717;5,104,641)。
【0082】
生理的に適合性のある様なヘモグロビン溶液を分離し、精製する多くの方法は既知である。典型的には精製ヘモグロビン組成物は全タンパク質重量で少なくとも99%のヘモグロビンを含み、全リン脂質含量は約3μg/ml以下であり、ホスファティジルセリンまたはホスファティジルエタノールアミンのいずれかは1μg/ml以下であり、不活性のヘム色素は6%以下である。本発明で有用な精製ヘモグロビン溶液は、様々の既存の技術を用いて製造される。それには、限定するものではないが、「Cheung et.al.,Anal Biochem 137:481−484(1984),De Venuto et.al.,J.Lab.Clin.flad.89:509−516(1977),and Lee,et.al.,Vith International Symposium on Blood Substitutes,San Diego,CA Mar.17−20 Abstract H51(1993)」に開示されている技術が含まれる。
【0083】
本発明で用いられる精製ヘモグロビン溶液は基本的に酸素を含まないものでなければならない。溶液中のヘモグロビンは、ヘモグロビンに酸素を放出せしめ、実質的に酸素のない状態に保持せしめる化学的還元剤と混合することによって、脱酸素せしめられる。ヘモグロビン溶液を脱酸素するのに好ましい方法は、窒素または一酸化炭素などの無活性で基本的に酸素のない気体にヘモグロビン溶液をさらすことによって実施される。この気体はヘモグロビンから結合している酸素をうばい、溶液中のヘモグロビンを酸素を欠くデオキシヘモグロビンまたはカルボンモノキシヘモグロビンなどの形態に変換せしめる。別法として、ヘモグロビンは、酸素は通すが、ヘモグロビンを通さない膜で真空または気体にさらすことがなされる。例えばヘモグロビン溶液を、ヘモグロビンを流すと、酸素は通過するがヘモグロビンは通過しない膜壁を有する拡散細胞に通すことができる。膜壁のヘモグロビン溶液とは反対側を不活性気体が循環して、酸素を除去し、溶液中のヘモグロビンを脱酸素状態に変える。望ましくは、デオキシヘモグロビンは、ニトロキシド−ラベリング、橋かけ結合重合化または共役化の間、基本的に酸素のない環境に保持される。
【0084】
すべての結合酸素の除去後、ニトロキシドはヘモグロビンと共有的に結合する。通常は一つ、望ましくはそれ以上のニトロキシドが一つのヘモグロビン分子と共有的に結合する。ニトロキシドは、下記を含むヘモグロビン分子のいくつかの部分のいずれにおいてもヘモグロビンと共有的に結合し得る。
【0085】
(a)1以上の遊離スルフヒドロ基(−SH)、例えばβ−93部位において、
【0086】
(b)いかなる活性アミノ基、例えば、β−鎖のVal−1および/またはβ−鎖 のリジン−82および/またはα−鎖のリジン−99のDPG部位におい て、
【0087】
(c)いかなる非特異的表面アミン(−NH2)またはカルボキシル(−COOH)基 において。
【0088】
ニトロキシドは、ヘモグロビンの橋かけ結合または重合に関与する二価または多価の橋かけ結合剤のいかなるアルデヒド、エポキシまたは活性化カルボキシル残基に、または、ヘモグロビンを共役するのに用いられるデキストラン(Dx)またはヒドロキシエチルでんぷん(HES)またはポリオキシエチレン(POE)などの物質上のいかなる反応性残基において、結合することができる。
【0089】
上記の式[1]記載のように、貯蔵時期において、HBOC溶液中のヘモグロビンは酸素によって徐々に自家酸化されてmet−ヘモグロビンおよびスーペルオキシドアニオンを形成する。しかし本発明の対象であるHRCSの貯蔵時期においては、形成されたスーペルオキシドアニオンはニトロキシドをヒドロキシルアミン誘導体に還元し、スーペルオキシドアニオンが酸化されて、下記の反応によって分子酸素を形成する。
【化9】

【0090】
式[4]記載のスーペルオキシドアニオンの分子酸素への変換は、スーペルオキシドアニオンの蓄積および続く過酸化水素の形成を防止する。ここで"スーペルオキシドオキシダーゼ"活性と記載したこの活性は、組成物中の最初の酸素含量が最少に保持され、組成物が基本的に酸素のない環境におかれ、ニトロキシド濃度がスーペルオキシドアニオンおよび過酸化水素の形成を防止するのに充分であるときに、最も効果的であり得る。従って、基本的に酸素のない容器でHRCSが貯蔵されることが望まれる。
【0091】
溶液を酸素のない環境に保持せしめる容器系は、多くの非ヘモグロビンを基にする静注用溶液が酸素に敏感であることから、よく知られている。例えば、充填また閉封時に酸素を除去するガラス容器を用いることができる。また、柔かいプラスチック容器も酸素を排除して封入包含して利用し得る。基本的には、酸素が溶液中のヘモグロビンと相互作用するのを防止し得るすべての容器が用いられる。 ニトロキシドの"スーペルオキシドオキシターゼ活性を表わすために、溶液中のニトロキシド標識ヘモグロビンのサンプルは、促進された酸化貯蔵条件に保たれ、ニトロキシドの酸化還元状態が電子スピン共鳴分光法によって試験される。例えば、4−アミノTEMPOで標識されたO−ラフィノーズ重合ヘモグロビン溶液は、その酸化状態で密封ガラス容器に貯蔵される(図1A)。このような状態において、溶液中のスーペルオキシドアニオンおよびmet−ヘモグロビン形成の速度は、ニトロキシドのヒドロキシルアミン誘導体への変換を適格に監視し得るのに充分な速さである(参照、反応式[4]および図1Aと1Bの比較)。反応式4は、ニトロキシドの反磁性ヒドロキシル誘導体への変換がスーペルオキシドアニオンの分子酸素への変換と対になっていることを表わしている。このような変換を支持する実験的証拠は、図1Aおよび1Bに示される。ヘモグロビンに共有結合しているTEMPOの電子スピン共鳴スペクトル(図1A)は、その反磁性誘導体に変わり、そのことはサンプルの30日間4℃での貯蔵後に共鳴ピークの完全な消失をもたらす(図1B)。ニトロキシドは、そのヒドロキシルアミンにヘモグロビンの存在下で変換したときに、"スーペルオキシドオキシダーゼ"様活性をなしたものと考えられる。
【0092】
HBOC溶液中のニトロキシドの"スーペルオキシドオキシダーゼ"活性は、ヒドロキシルアミン誘導体のニトロキシドへの再変換によって明らかにされる(参照、反応式[4]とともに式[5])。図1Aおよび1Bに記載された実験条件の下でニトロキシドはヒドロキシルアミンに完全に変換すること(参照反応式[4])が知られており、ニトロキシドは反応式5に示すようにスーペルオキシドアニオンを単に提供することにより再製する。この反応メカニスムを表示するために、ヘモグロビン(およびスーペルオキシドアニオン)のニトロキシドに対する比較濃度は、図1Aのサンプルを同量の非標識ヘモグロビンで希釈することにより、増加する。図1Aと1Cの比較は、希釈効果でニトロキシドのシグナル強度の約50%の減少を示している。他方、30日間4℃の冷貯蔵後に、ニトロキシドは式[5]から予測されるように部分的に再生していた(参照図1D)。この結果は、スーペルオキシドアニオンからの過酸化水素の形成と対になっているヒドロキシルアミン誘導体のニトロキシドへの再変換と符号している。
【化10】

式[4]および[5]を合わせると次のようになる。
【化11】

これは、ニトロキシドがHBOC溶液中で低分子量の、金属を含まないSOD様体として働くことを表わしている。ニトロキシドの電子スピン共鳴スペクトルの検定(図1D)は、ニトロキシド(R N−O)と過酸化水素(H2O2)の形成をもたらすスーペルオキシドアニオンのヒドロキシルアミン(R−N−OH)との反応に合致している。最近、オキソアンモニウムカチオンがスーペルオキシドのニトロキシド触媒ジスムタ化における一つの中間体として関与していることが云われている(Krishna et al.,Proc.Nat.Acad.Sci.USA89 5537−5541(1992))。
【0093】
本発明のHRCS製剤は、既存のHBOC溶液におけるスーペルオキシドアニオンの生成による酸化ストレスを軽減し、輪注に際し、ニトロキシド、エンドセリウム誘導弛緩因子(EDRF)の破壊を小さくする。EDRFの破壊が防止されると、既存のHBOC溶液を患者の注入したときにみられる血管収縮および血圧上昇の問題が実質的に改善される。
【0094】
ヘモグロビン分子に対するニトロキシド分子の数は、約1−40の範囲にあり、その統合値または値の範囲はその間にあり、そして特異的ラベリングについて、最も望ましくは2である。多成分系の一成分として用いたとき、ヘモグロビンに対するニトロキシドの分子比は約3−60であり、その統合値または値の範囲はその間にある。例えば、3−マレイミド−プロキシルなどのニトロキシドは、まずエタノール中ニトロキシドの100mM溶液を担体溶媒として製造することにより、溶液中でヘモグロビンと共有結合する。ヘモグロビンに対するニトロキシドの2分子当量を乳酸化リンガー液中DCL−Hb(8g/dl)に混合しながら直接加える。反応混合物を22℃で撹拌してニトロキシドの90%以上を反応せしめると、通常1時間以内にDCL−Hbに共有結合した。未反応のニトロキシドは、30,000ダルトン分子量遮断の十字流膜濾過系で、乳酸化リンガー液10容量で3回洗うことにより、除去した。retantateヘモグロビン濃度を7−14g/dlに調整し、無菌濾過し、4℃に貯蔵する。注入後、HRCSが完全に酸化された後、ニトロキシドはSOS様体として、2次的にカタラーゼ様体として機能すると期待される。SOD様体としてニトロキシドはスーペルオキシドアニオンを過酸化水素にジムスタ化し(参照、反応式[2])、従って、エンドセリウム中の一酸化窒素の破壊から保護し、血管収縮を防止する。カタラーゼ様体としては、ニトロキシドは過酸化水素を無害な水に変えることにより、その毒性を防止する(参照、反応式[3])。
【0095】
上記したように、ニトロキシドをヘモグロビンと共有結合せしめて、ヘモグロビン分子自体の共同的酸素結合性質が研究されている。しかし、ニトロキシドは、安定な、すなわち橋かけ結合、または重合、被膜、または複合のヘモグロビン溶液(生理的適合性である)と共に使用されたことはなかった。合成ニトロキシド含有ポリマーが天然ヘモグロビンを標識するために用いられたことはなかった。ヘモグロビンおよびニトロキシドについての既存の化学は、化学的に橋かけ結合または組替え技術で橋かけ結合したヘモグロビンの類似のニトロキシドラベリングを、ヘモグロビン分子を安定化、重合化または複合化するのに用いられた特定の化合物でブロックされないヘモグロビン分子上の利用できる部位を選択することによって、遂行し得ることを示唆している。下記するヘモグロビンの安定および重合型のあるものは、最近に臨床試験がなされているので、これらの安定および重合ヘモグロビンを基にする酸素担体へのニトロキシドの接合は、下記するように、本発明の酸素解毒機能が既存のヘモグロビン溶液に利用されうることを示す。
【0096】
ニトロキシド−HBOCの実施例中に表わされたニトロキシドラベリング技術は、有用な抗酸化および酵素様活性を有する他のニトロキシド標識高分子、例えば、ニトロキシド−標識血清アルブミンおよびニトロキシド標識免疫グロブリンの製造に容易に適用される。この技術によってニトロキシドで容易に標識され得る血清アルブミンの型は、単量体(正常)アルブミン、およびアルブミンホモ2量体、オリゴマー、および凝集体(ミクロスエアおよびミクロバブル)および各々のポリペプチドフラグメントである。ここに記載するように、タンパク質または高分子には、フラグメントすなわちタンパク質のポリペプチドフラグメントが含まれる。
【0097】
適用における相違によって、ここに記載の製剤は一緒にまたは別々に用いられる。例えば、心灌流損傷あるいは脳血管系における虚血的損傷の治療と診断において、本発明のいくつかの点の利点、すなわち酸素運搬、酸化ストレスからの全身的保護、再灌流損傷からの局所的保護およびイメージングの上昇を利用することが望ましい。その場合において、本発明の製剤は既存HBOC、ニトロキシド標識アルブミンおよび低分子量ニトロキシドと併用され得る。これらは、治療および診断の目的に応じて、同時にまたは続けて投与され得る。
【0098】
本発明の特定の製剤および投与方法を選ぶについて、投与の製剤および方法は特定の適用によって定まる。特定の適用のために低分子量膜透過性物質から電子を受容できるニトロキシドを基とする化合物は、特定の適用に望まれる部位特異的保護に基づいて選択され得る。上記したようにヘモグロビンを基とする酸素担体の注入からの酸化ストレスの回避は、本発明の投与製剤および方法を選択する主要な例であり、遊離基毒性に対する特異的な保護を提供し、HBOC注入の毒性副作用を回避する。部位特異性保護または活性が皮膚または皮膚層中で望まれるところでは、TPOSが比較的小さく、膜透過性であるので、望ましい化合物である。特殊な保護および活性が消化管において望まれるところでは、ポリニトロキシドデキストランが消化管にあるときに酵素消化に感受性が低いので、望ましい。かかる適用においては、経口または直腸投与が望ましい。脳血管系または心血管系などの静脈および脈管内領域に特殊な保護または活性が求められるところでは、アルブミンが主な血漿タンパク質であり、耐容性もよく、投与し易く、長い血漿半減期を有するので、ポリニトロキシドアルブミンが望ましい。これらの適用において、ヘモグロビンを基にする酸素担体またはそのポリ誘導体も含まれる。同じ根拠で腹腔内または皮膚内投与もなされ得る。
【0099】
いくつかの例で示すごとく、本発明の化合物の投与は体内で局在化し、一群の細胞または一つの臓器に向けることができる。特に、移植のための臓器の保存が身体からその臓器を取り出す前あるいは後にポリニトロキシドアルブミンを注入することにより達成される。例えば心臓移植において、PNAは、選択的に心臓を灌流するのに、すなわち集中静脈投与次いで体から臓器を摘出して、用いられる。臓器はまた、摘出されて、PNA浴に保存されて、脂質過酸化、酸化ストレスなどの過程による劣化を防ぐ。さらに、移植後に、臓器に酸化血を灌流したときに、心臓および脳の虚血性再灌流損傷について示したのと同じ方法で臓器が保護される。肺における特別の保護が望まれるときは、ポリニトロキシドアルブミンのエアゾル形態が肺の空気通路をコートできるので望ましい。当業者には明らかなように、これらの望ましい製剤は特定の適用に応じて変更することができる。 注意すべきは、上記製剤は電子受容化合物の望ましい実施態様である。膜透過性の電子供与化合物について、望ましい化合物の選択は適用および投与方法に依存している。投与の製剤および方法は、対象とする生理的条件またはイメージあるいは処置する領域により生成するか、または対応した遊離基の範囲に相応した全身的また組織特異的分布が達成されなければならない。例えば、敗血症においては、循環系の大きい虚脱が観察され、遊離基の生成について全身的な増加をともなう。同様に、全身的照射は全身に遊離基の生成をもたらす。このような症状において、TEMPOLなどの小分子量、膜透過性、電子供与ニトロキシドが、全身的な分布をなし得る量で経口また静脈に投与される。従って、かかる投与には、ポリニトロキシドアルブミンの静脈投与のような広く分布する電子供与体の投与が伴わなければならない。遊離基の生成がより局在化しているところでは、電子受給体物質の選択的適用により局在化した保護または活性を提供することが望まれる。なぜなら、膜透過性物質は投与に際し全身的に分布しやすく、皮膚への膜透過性物質の局所投与がより局所化した効果を生じるからである。
【0100】
本発明での開示に基づき、当業者は、本発明が用いられるところの特定の適用に最も効果的に応じられるように、投与の製剤および方法を選択することができる。例えば、消化器系のイメージを向上するために、電子受容体としてポリニトロキシドデキストランの経口投与および膜透過性TEMPOLの経口または静脈内投与が選ばれる。さらなる例として、遊離基の生成がはっきりしている皮膚症状を示す乾燥の処置のためには、電子受容体としてのTOPSの局所適用と膜透過性TEMPOLの局所適用が選択される。すべての同様の根拠によって、部位特異的保護または活性は、遊離基物質が存在している他の疾患状態、診断的または治療的状態に本発明の製剤を用いて、提供され得る。従って、下記の実施例は、本発明が適用に従って併用することができるいくつかの製剤の詳細な記載を開示する。
【0101】
実施例1
【0102】
ニトロキシドおよびニトロキシド標識化合物を含む容器およびフィルター
【0103】
既存の製剤を化学的に修飾することなく、本発明の酸素解毒機能を既存の静脈内溶液、例えばHBOC溶液に導入することが可能である。遊離ニトロキシドと共に使用され得るポリニトロキシド高分子を含ませるか、またはHBOCが貯蔵されている容器内側表面にニトロキシドを共有結合させることにより、既存製剤の場合に観察される酸素毒性により誘発される有害な生理学的作用は軽減される。 本発明の対象であるヘモグロビン含有溶液の場合に使用される容器は、静脈内液の場合に使用される容器と類似した特性を有する生理学的に適合性のものであるべきである。典型的には、ガラスまたは生物学的適合性プラスティックが適当である。静脈内溶液をある程度の長さの時間容器に入れている本発明の態様の場合、容器は酸素不含有であり、かつ密閉されて酸素を排除し得るものとすべきである。ガラス容器の場合、慣用的ストッパーおよび閉鎖手段であれば十分である。しかしながら、現在利用され得る可とう性プラスチック容器の中には酸素透過性のものもある。この場合、ホイルオーバーラップまたは他の密閉機構を用いることにより、酸素が溶液と接触するのを阻止し得る。
【0104】
容器の内部表面にニトロキシドを適用するため、ニトロキシドポリマーまたはニトロキシド-ドープ処理コポリマーの非浸出性層を内部表面に直接コーティングする。遊離基の安定性がポリマー形成プロセスで維持されていれば、ニトロキシド含有ポリマーは、一般的に知られているポリマー形成原理に基づいた若干の技術により生成され得る。
【0105】
また、HBOC容器の内部表面は、ニトロキシドと結合し得る物質、例えばニトロキシドのケトンまたはアルデヒド基と反応して安定したヒドラゾン誘導体を形成する親水性ヒドラジド基のコーティング層を含むように修飾され得る。コーティング反応は直線的に進行する。例えば、pH5.0での酢酸緩衝液中ニトロキシド(100ミリモル)を、ヒドラジド活性化プラスチック容器に加えることにより、ヒドラゾン結合の形成が容易に行われる。
【0106】
一旦容器が製造されると、生理学的適合性溶液を加える。この溶液は、安定化および精製HBOCまたはここに開示されているHRCSであり得、またヘモグロビンと共に持続注入するのに望ましい静脈内コロイドまたは結晶体溶液を含み得る。次いで、この溶液を本質的に酸素不含有の環境中に維持する。
【0107】
容器内側表面の処理に加えて、ニトロキシドが固定されるゲルまたは固体マトリックスを含む、ルア(luer)ロックの入り口および出口を備えたフィルター型カートリッジを使用すると、ヘモグロビン溶液がカートリッジ中を通過する間に反応性酸素誘導物質が除去され得る。上記の投与技術の場合、患者へ直接注入するために溶液が通過するフィルターのハウジング中へポリニトロキシド高分子を加えることにより、それを注入前に溶液と反応させ得る。低分子量ニトロキシドも含まれ得る。これらの適用において、ニトロキシドはまた、軟または硬ゲルマトリックスに結合されることにより、注入前に本質的に滅菌インラインフィルターとして機能し得る。固体マトリックスに小リガンド、例えばニトロキシドを結合させる様々な方法は、アフィニティークロマトグラフィー技術分野では周知であり、例えばガラスおよびプラスチック表面を化学的に修飾する技術がある。滅菌溶液と和合し得る幾つかのタイプのマトリックスは公知であり、例えばアガロースゲル、ポリスルホン基剤の材料、ラテックスなどがある。
【0108】
フィルターカートリッジ方法では、固体マトリックスをニトロキシドと共有結合させ、フィルターハウジングまたは他の同様の装置に内包させるが、この場合、患者へ注入している間に溶液、例えばヘモグロビンが装置中を流れ抜け、ニトロキシドと接触し得るようにする。実際的な方法では、マトリックスとして一般的に利用可能な活性化アガロースゲルを使用し、滅菌ルアロックカートリッジ中にゲルを内包させる。次いで、ヘモグロビン含有溶液の輸液中に、カートリッジを流体投与ラインに単に挿入する。実際面では、ニトロキシドが含まれ、ヘモグロビンが通過し得るフィルターハウジングを含む構造は、様々な公知構造により提供され得る。例えばアメリカ合衆国特許5149425参照。図12を参照すると、ハウジング1はニトロキシド標識アガロースゲルを含んでいる。例えば、4−ブロモアセトアミド−TEMPO標識ω−アミノヘキシル−アガロース(図2A参照)、4−アミノ−TEMPOと結合した1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシ)ブタンアガロース(図2B参照)。他の化合物(図示せず)もフィルターハウジングにより内包され得る。
【0109】
輸液中、溶液を含む静脈内輸液ラインをルア入り口2に連結してハウジング1へ入るようにすると、そこでヘモグロビン溶液は、ハウジング内に内包またはマトリックス4に結合されたニトロキシド含有化合物と接触するが、このプロセスにおいて、ニトロキシド含有組成物は、注入され、反応の結果、溶液から毒性酸素に関連したものが除去され得る。次にヘモグロビン溶液は、ルア出口3を通ってカートリッジから出て直接患者内へ輸注される。4−アミノ−TEMPO標識エポキシ−アガロースの電子共鳴スペクトルは図2Aに示されている。別法として、ω−アミノヘキシル−アガロースは4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOと反応して、TEMPO標識アガロースを形成し得る。電子スピン共鳴スペクトルは図2Bに示されている。また別の方法では、カルボアミド結合を介してカルボジイミドにより4−カルボキシル−TEMPOをアミノ−アガロースにカップリングする。逆に、4−アミノ−TEMPOは、カルボジイミド、例えば1−エチル−3−(3−ジメチルアミノ−プロピル)カルボジイミドを用いて容易にアガロースゲルのカルボキシル基に結合される。
【0110】
4−アミノ−TEMPOにより標識されたカートリッジは、室温で1時間アルデヒド・アヴィドクロムカートリッジ(ユニシン・テク.インコーポレイテッド)を通して乳酸化リンガー溶液に100ミリモルの4−アミノ−TEMPO(シグマ・ケミカル・カンパニー)を循環させた後、6時間水素化シアノほう素ナトリウムで還元することにより製造される。カートリッジハウジング内部を乳酸化リンガーにより徹底的に洗浄する。
【0111】
3−アミノ−プロキシルにより標識されたカートリッジは、上記方法に従い4−アミノ−TEMPOを3−アミノ−プロキシルと置換することにより同様に製造され得る。
【0112】
実施例2
【0113】
ニトロキシド標識安定化ヘモグロビン
【0114】
ヘモグロビンがその構成サブユニットに解離するのを阻止するため、ヘモグロビンを、そのサブユニットの化学的または組換え的橋かけにより分子内で安定化させる。「安定化」ヘモグロビンとは、本明細書では化学的または組換え的橋かけにより安定化されたヘモグロビンモノマー並びに構成しているヘモグロビン分子がシクロデキストランおよびそれらの硫酸化誘導体との橋かけにより安定化されている2量体、3量体および大型オリゴマーを指すものとして記載されている。 ニトロキシドを安定化ヘモグロビンに結合させる好ましい技術は、安定化ヘモグロビンの2つのβ鎖のβ−93スルフヒドリル基へのニトロキシドの共有結合によるものである。β−93部位における特異標識は、立体配座試験におけるひとヘモグロビンに関して立証されたが(McConnell et. al., Quart.Rev.Biophys.3:91(1970)参照)、上記の橋かけヘモグロビンの特異標識については報告されていない。上記の通り、化学的橋かけにより安定化された幾つかのタイプのヘモグロビン基剤の酸素担体、例えばDBBF−橋かけヘモグロビンおよびo−ラフィノースにより安定化およびオリゴマー化されたヘモグロビンが開発されている。 本出願人の合衆国特許第4857636号に記載されている開環式糖類からは、ジサッカリド、オリゴ糖類または好ましくはトリサッカリド、例えばo−ラフィノースから誘導される多価アルデヒドが得られる。これらの化合物が機能することにより、分子内安定化(橋かけ)および分子間ポリマー化の両方が行われる。本出願人の初期特許に開示された反応を制御することにより、多価アルデヒドを使用すると、ポリマー化せずに上記の「安定化」ヘモグロビンが生成され得る。別の例では、ニトロキシドは、安定化ヘモグロビンまたはポリマー化ヘモグロビンに共有結合され得る。従って、多価アルデヒドを用いて安定化されたヘモグロビン基剤の溶液は、この態様では「安定化」ヘモグロビンとして、後続の態様ではポリマー化ヘモグロビンとしてみなされる。
【0115】
化学的に修飾されたヘモグロビンのβ−93部位が立体的にニトロキシド結合に接近不能にされたわけではないことを立証するため、ニトロキシドがDBBF−Hbのβ−93部位に共有結合され得ることを確認する結果が提示されている。 この態様では、DBBF−Hbを、2タイプのスルフヒドリル基特異官能基を含み、下記構造式を有する2タイプのニトロキシド(TEMPOおよびプロキシル)と反応させる。

【化12】

4-(2-ブロモアセトアミド)-TEMPO 3-マレイミド-プロキシル
【0116】
DBBF−Hbは、公知技術によりビス(3,5ジブロモサリチル)フマレートに溶解させた精製脱酸素化ヘモグロビンを橋かけすることにより製造され、生成物をカラムクロマトグラフィーにより精製する。3−マレイミド(2,2,5,5−テトラメチルピロリジン−N−オキシル)[3−マレイミド−プロキシル]の共有結合は、乳酸化リンガー中約8g/dlの濃度でのDBBF−Hb1mlに、3−マレイミド−プロキシル約100ミリモルの濃度で担体溶媒としてメタノールを用いて2モル当量のこのニトロキシドを加えることにより達成される。DBBF−Hbを約30分間混合しながら22−23℃で反応させる。橋かけの範囲を、未反応ニトロキシドの電子スピン共鳴シグナル強度の消失パーセントから推定する。未反応ニトロキシドを除去するため、30キロダルトン-カットオフ名目分子量限界(NMWL)ポリエチレンスルホン(PES)膜をもつフィルトロンスタイア(stire)セル(フィルトロン・テクノロジー・カンパニー)を用いて、反応混合物を10容量過剰の乳酸化リンガーにより3回洗浄した。ブルカーESR分光計により、ニトロキシド標識ヘモグロビンの電子スピン共鳴測定値を記録した。図3Aは、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO標識DBBF−Hbの電子スピン共鳴スペクトルを示す。3−マレイミド−プロキシルにより同様に標識されたDBBF−Hbの電子スピン共鳴スペクトルは、図3Bに示されている。
【0117】
この態様において、ニトロキシドは、ヘモグロビンの2本のβ−グロビン鎖にある単独のスルフヒドロ基に共有結合される。すなわち、ヘモグロビンの2本のβ−グロビン鎖に結合したニトロキシドが2つ存在するため、ニトロキシド対ヘモグロビン結合酸素比は、99.00%デオキシヘモグロビンで約200対1である。しかしながら、輸注後、脱酸素化HRCSは肺中の酸素を捕獲し、ヘモグロビンの4本のグロビン鎖に結合した4個の酸素分子が存在し、2つのニトロキシドがβ−グロビン鎖に残っているため、ニトロキシド対ヘモグロビン結合酸素比は100%酸素化で約1対2になる。
【0118】
1:2のヘモグロビン対ニトロキシド比を用いると、90%を越える割合のニトロキシドがDBBF−Hbに共有結合される。DBBF−Hbはまた、図3Bの場合と類似した共鳴スペクトルを呈するマレイミドおよびプロキシル部分(すなわち、3−マレイミドメチル−プロキシル)間のスペーサー基(例、余分のメチル基)により共有結合的に標識され得る。他のニトロキシドは、DPG結合部位(例、β−Val−1 β−Lys−82およびα−Lys−99)における特定アミノ基に共有結合され得るか、またはヘモグロビンにおける残りの40プラス表面リジン〓−アミノ基に結合され得ることは注目すべきである。TEMPOおよびプロキシルニトロキシドのイソチオシアネート誘導体はまた、アミノ基との反応性を示す。例えば、4−イソチオシアネート−TEMPOは、約10:1のモル比でヘモグロビンに加えられ得る。他の部位でのこのニトロキシドにより標識されたヘモグロビンの共鳴スペクトル(図示されず)は、図3Aに示されたものと類似している。
【0119】
DBBF−Hbの幾つかの部位がニトロキシドと結合し得るということは、アルファ−グロビン2量体により安定化されている組換えヘモグロビン(D.Looker et.al. NATURE 356:258(1992))がニトロキシドにより同様に標識され得ることを示唆している。また、ニトロキシド標識橋かけ剤、例えばTEMPO標識スクシネート(合衆国特許第4240797号参照)のDBBF類似体を製造することも可能である。
【0120】
図4は、室温で記録された乳酸化リンガー溶液における(A)2−(ブロモアセトアミド)−TEMPO、(B)2−(ブロモアセトアミド)−TEMPO−標識HBOCおよび(C)15ND17TEMPOL(TEMPOL:4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)のESRスペクトルである。図4Aおよび4Bにおける差異は、小分子量ニトロキシドと巨大分子、例えばヘモグロビンに共有結合したニトロキシドの移動度の差異を表す。図4Cは、核スピンが1/2である安定した同位体窒素15Nでは2つの共鳴ピークが得られること、および核スピンが1である天然同位体14Nでは3つの共鳴ピークが得られることを示す(4A〜4Cを比較)。ここに記載された一連の実験では、これらの共鳴ピークの分離を用いることにより、小型および巨大分子量ニトロキシドの酵素様的およびインビボおよびインビトロ酸化/還元反応を立証する。
【0121】
ニトロキシドとヘモグロビンのモル比が異なるニトロキシド標識HBOCは下記の要領で製造される。2、4および8モル当量の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOを、清潔なフードにおいて3つの別々の15mlバキュテーナー中へ直接固体粉末として加えた。ゴム隔壁を戻した後、続いて4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOを200μlクロロホルムに溶かした。次いで、ゴム隔壁に刺した27ゲージ針によりバキュテーナーを高度減圧装置(5mmHg)に連結し、バキュテーナーの下半分を覆う4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOの薄膜を残してクロロホルムを除去した。ゴム隔壁に刺した滅菌トランスファーを介して適量のHBOCを導入した後、1/2時間約5分間隔で断続的に渦状混合しながら溶液を室温で反応させ(ニトロキシド対ヘモグロビンのモル比が4および8では必ずしも全ての固体が溶解したわけではなかった)、次いでバキュテーナーを冷蔵庫中摂氏4度で一夜放置した。4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOの全固体がバキュテーナーの表面から視覚的に消えてしまうまで、室温での渦状混合を翌朝さらに1/2時間再開した。
【0122】
次いで、反応混合物および対照を、滅菌透析管に移し、非標識遊離4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO電子スピン共鳴(ESR)シグナルが全く検出されなくなるまで、乳酸化リンガーに対して透析した。Hbに対し2、4および8モル当量4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOでの4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO標識HBOCのESRスペクトルは、各々図5A−5Cに示されている。ヘモグロビンに対し2モル当量の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOでは、透析をしてもしなくてもESRスペクトルは本質的に同じであり、共有結合標識が定量的であることを示している。βグロブリン鎖の2個のSH−基は、HBOCの場合における共有結合部位であると思われる(これは、N−エチル−マレイミドによる4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO標識の選択的遮断または逆相HPLCによるグロブリン鎖分析により確認され得る)。スペクトルが比例的に減少している器械感度で記録されたところによると、2、4および8の場合のESRシグナル強度(ピークMo)比が、ほぼ同じ比であることは注目に値する。
【0123】
さらに、それ以上の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOが、例えばインビボでの放射線防護剤としてさらに高いモル比でもHbに結合され得ると予測される。
【0124】
血液代用製剤におけるニトロキシド対ヘモグロビンの好ましいモル比は8:1であり、特に好ましいモル比は約18で、下記要領で製造され、ポリニトロキシドヘモグロビン(PNH)が生成される。好ましいPNH製剤は一酸化炭素誘導体、CO−PNHである。PNHヘム基へのCO結合によりPNHは安定化された。すなわち、CO−PNHが60℃加熱に対して安定していることが示された。したがって、CO−PNHは冷蔵を必要とはせず、長期間室温で貯蔵され得る。さらに、体内への注入時、COの存在により、PNHの血管拡張活性が高められることから、COはインビボで血管拡張剤として作用することが知られている。COがPNHから脱離された後、PNHは、組織への酸素送達およびそのニトロキシド伝達による血管拡張作用の両方により治療剤として機能し続ける。
【0125】
図6について述べると、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO標識HBOCおよび15ND17−TEMPOLの混合物のESRスペクトルが示されており、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOの中央ピーク(下向き矢印により示されている)および15ND17−TEMPOLの高フィールドピーク(上向き矢印により示されている)は似た強度に調節されていた。
【0126】
共鳴ピークの分離により、インビトロおよびインビボ(ねずみ)の両反応における小分子量ニトロキシド(TEMPOL)およびその高分子コンジュゲートを含む遊離基または酵素様活性の同時モニターが可能となる。例えば、相異なるニトロキシドの特有なスペクトル特性に注目することにより、2種のニトロキシドのインビボ血漿半減期を比較した。具体的には、マウスにおけるヘモグロビン基剤溶液のインビボESR試験は、8:1のニトロキシド対ヘモグロビン比を用いて(図5C参照)その高いESRシグナル強度を利用することにより行われた。まず、小分子量ニトロキシド(15ND17−TEMPOL、図4C参照)および大分子量4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOL−標識HBOC(図4B参照)のおよその血漿半減期は、2物質の混合物を製造し、ESRシグナル強度をほぼ同じに調節する(図6参照)ことにより測定される。0.5mlの混合物を、赤外線灯下広げたマウス尾部静脈に麻酔下で注射した。マウスの尾をESR空洞中に挿入し、注射後10分以内にスペクトルを記録した(図7A参照)。
【0127】
図7A、7Bおよび7Cに注目すると、15ND17−TEMPOLシグナルは検出され得なかったが、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOL−標識HBOCは明確に分割された(血漿半減期試験については図7A、7Bおよび7C参照、ただし7Cは7Bの続きである)。HBOCの血管収縮作用は、ラットにおけるHBOCのボーラス注射の最初の5−15分中に十分発現されることが報告されており、マウスでの輸注直後の遊離基レドックス反応におけるニトロキシド標識HBOCの関与が測定された。雌CH3マウスの尾部静脈に、80%一酸化二窒素、20%酸素および3%イソフルオランによる麻酔下カニューレを挿入した。赤外線灯下、マウス尾部静脈を目に見えるように広げ、長さ1フィートのポリエチレン管に連結した30ゲージ皮下注射針から成るカニューレを、尾部静脈中に挿入し、シアノアクリレート接着剤により適所を抑えた。インビボESR測定の場合、カニューレ挿入マウスを、麻酔下、尾が円錐端から突き出、管の開口末端から麻酔ガスが連続して流れるように修正された50ml円錐形遠心管に移した。尾をプラスチック管中に挿入し、次いでTE12空洞中に適合させた。カニューレをヘパリン(100単位/ml)により定期的に洗い流して開通性を確保した。カニューレは尾の付け根付近であり、ESR空洞の外側に固定されていたため、ボーラス注射直後に尾からの純粋なシグナルが測定され得た。0.5mlの試料(図8参照)をカニューレから注射し、分光計を1/2分間隔で反復スキャンモードにセットした(図8Aおよび8B参照)。図8Aでは磁場を2ガウス増加させ、図8Bでは磁場を2ガウス減少させると、共鳴スペクトルは重ね合わされた。15ND17−TEMPOLシグナルは注射後2.5分以内に消失した。同じ期間中、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOL−標識HBOCもまた似た速度で減少した。
【0128】
しかしながら、ニトロキシド−HBOCシグナルは、血漿中で安定していることが示された(図8B)。従って、図7からの結果と合わせると図8Bは、巨大分子、例えばHBOCに対するニトロキシド標識が、小分子量ニトロキシド(例、15ND17−TEMPOL)の場合と比べてかなり長い血漿半減期を有することを示している。
【0129】
観察された遊離基反応の性質は次の2つの経路を含む。
【0130】
1.急速相は、ニトロキシドからそのオキソアンモニウムカチオン中間体への遊離基(例、スーパーオキシド)酸化、次いでオキソアンモニウムカチオンからニトロキシドのその安定したヒドロキシルアミン誘導体への還元を含むと思われる。上記還元は、血管区画に存在する1種または2種の還元性均等物質(例、NADH)のいずれかの関与を伴う。ニトロキシドからそのヒドロキシルアミンへの還元によりESRシグナル強度は急速に減少し、8:1モル比の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO−標識HBOCの場合、HBOCにおいて約25%の割合の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOを示す。この相は小分子および高分子ニトロキシドの両方を含む。
【0131】
2.緩慢相は、ニトロキシドが周期的遊離基反応、例えばSOD模擬反応に関与している反応機構に従いHBOCにおける残りの75%の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOの抗酸化的酵素様活性を示すと思われる(図8B参照)。ニトロキシド遊離基が本質的にSOD模擬的なものとして消費されていない場合、ESRシグナル強度の緩慢な減少速度は、第一には上記反応機構、および第二には、血漿半減期の関数として血管区画からゆっくりと排除されることからHBOC濃度の減少に起因すると考えられ得る。
【0132】
この結果は、インビボでの遊離基解毒におけるポリニトロキシド高分子、この実施例ではTEMPO−標識HBOCの有用性を立証している。この有用性は、インビボで酵素様的なものとして作用するニトロキシドによる遊離基の短期的(分)化学的除去および酸化反応に対する持続的(時)防御が行われることに関して定義される。これおよびヘモグロビン含有溶液に関連する実施例の各々において、未結合低分子量ニトロキシドを製剤に加えることにより、血管膜を通って間隙空間および周囲細胞環境中へ活性ニトロキシドの濃度が増加され得ることと理解すべきである。ここに示された結果は、本発明のポリニトロキシド巨大分子から医薬組成物に低分子量ニトロキシドを単に加えた場合の効果を区別している。分子量ニトロキシドと一緒にポリニトロキシド高分子を利用する本発明の多成分系の特に有利な点は、下記に強調されている。
【0133】
図8におけるスペクトル分析に基づくと、酸化/還元(レドックス)周期性反応は、遊離基状態で残っている4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO標識HBOCの約73%を含む。これは、TEMPOLが血管空間範囲内でのインビボレドックス反応に関与していることを示している。
【0134】
ヘモグロビン基剤の溶液の血管収縮効果を試験するため、修飾ヒトヘモグロビンの溶液を無傷ラットにおけるそれらの効果について試験する。いかなる研究動物を使用する場合でも、常に人道にかなった方法を用いる。
【0135】
試験の7日前、雄のスプラーグ-ドーリーラットに、ケタミン(40mg/kg筋肉)およびアセチルプロマジン(0.75mg)またはペントバルビタールナトリウム(20mg/kg腹腔内)による麻酔をかける。医薬用タイゴンミクロボア(IDで0.05、ODで.03)を大腿動脈および静脈中に挿入する。カニューレを体外に出し、ヘパリンで凝血防止したデキストロースで満たし、ステンレス綱の栓で密閉する。2−3日の回復期間後、意識のある動物をプラスチック製拘束ケージに入れる。交換輸液前に切り口の治癒を確実にするには、外科的
方法から7日間の回復期間を要する。手術は少量の出血を誘発し得るため、手術に関連した少量の出血が血液交換の副作用と混同されないように回復させることが重要である。50%交換輸液は、注入ポンプを用いて試験溶液および血液を各々2本の注射器から同時に注入および回収することにより行われる。除去される血液容積(全血容積に基づくと12−15ml)を、約20−30分かけて試験溶液と交換する。最終点は、ヘマトクリットがその初期値の半分に縮小するところである。チャート記録装置に連結した圧力変換器を用いて交換輸液後5時間、動脈血圧をモニターおよび連続記録する。平均動脈圧は、パルス圧の1/3として計算される。心拍は血圧トレースから測定される。
【0136】
実施例3
【0137】
安定化ヘモグロビンのニトロキシド標識ポリマー
【0138】
橋かけ単量体から安定化ヘモグロビンの2量体を製造することは可能であるが、安定化または天然ヘモグロビンからヘモグロビンポリマーを製造することも可能である。ヘモグロビンポリマー溶液は、単量体、2量体、3量体、4量体および他のオリゴマーの混合物を包含する。一般にHBOCとして使用されるポリマー化ヘモグロビンを含む溶液は、安定化モノマーヘモグロビンと比べて長い血漿循環時間および高い酸素担持能力を有する。かかるポリマー化ヘモグロビンは、幾種類かの異なる重合剤を用いる若干の経路により製造され得る。(合衆国第4001200、4857636および4826811号参照)。ニトロキシドをポリマー化ヘモグロビン溶液に導入する好ましい方法は、やはりニトロキシドをヘモグロビンの2本のβ−グロビン鎖のβ−93スルフヒドリル基に共有結合させることによるものである。これらのスルフヒドリル基は、安定化またはポリマー化プロセスに関与することは知られていない。従って、ニトロキシドは、好ましくはヘモグロビンモノマーの安定化およびポリマー化前にヘモグロビンに共有結合される。
【0139】
例えば、上記第2態様記載の方法に従ってニトロキシドをDBBF−Hbに共有結合させ、次いでセーガル等、合衆国特許第4826811号記載の方法に従ってグルタルデヒドでポリマー化する。図4Bは、3−マレイミド−プロキシルにより標識され、グルタルデヒドによりポリマー化されたDBBF−Hbの電子スピン共鳴スペクトルである。同様に、グルタルデヒドによりポリマー化されるDBBF−Hbは、同じ方法によって4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOにより標識され得る。
【0140】
似た方法を用いると、未反応アルデヒド基を含むポリマー化ヘモグロビン中間体、例えばグルタルデヒド−ポリマー化、o−ラフィノース−ポリマー化、またはo−シクロデキストラン−ポリマー化ヘモグロビン中間体が、還元的アミノ化による4−アミノ−TEMPOまたは3−アミノ−プロキシルの共有結合に使用され、ニトロキシド標識ヘモグロビンポリマーが生成され得る。還元的アミノ化の場合、反応の順序およびタイミングは重要である。4−アミノ−TEMPOは、ポリマー化完了後ではあるが、ニトロキシドをポリマー化ヘモグロビンに共有結合させることになる還元反応の前にグルタルデヒド−ポリマー化ヘモグロビンに付加される。同様に、o−ラフィノースポリマー化ヘモグロビンのニトロキシド標識は、還元的アミノ化前に4−アミノ−TEMPOまたは3−アミノ−プロキシルを加えることにより達成され得る。例えば、4−アミノ−TEMPO標識o−ラフィノースポリマー化ヘモグロビンは、本出願人の合衆国特許第4857636号記載の方法に従って製造されるが、ただし、ポリマー化完了後かつ20モル過剰のボラン・ジメチルアミン複合体による還元前に6モル当量の4−アミノ−TEMPOが加えられる。そこに記載されているところによると、ヘモグロビンは、ジサッカリドまたは開環糖類、例えばオリゴ糖または好ましくはトリサッカリド、例えばo−ラフィノースから誘導される多価アルデヒドを用いて橋かけおよびポリマー化され得る。同様に、高分子量糖類の方が好ましいが、単糖もヘモグロビンの安定化およびポリマー化に使用され得る。透析および洗浄された4−アミノ−TEMPO標識o−ラフィノースポリマー化ヘモグロビンの共鳴スペクトルは、図9Aに示されている。
【0141】
ポリマー化ヘモグロビンのヘモグロビンオリゴマー(Hbn、ただしn=2−4)の収率を高めるためには、α−シクロデキストラン、β−シクロデキストランおよびγ−シクロデキストラン並びにそれらの硫酸誘導体(6−、7−および8−閉環グルコース分子に相当する)の使用により橋かけ剤のポリアルデヒドのヴァランス(valance)を高めることが望ましく、開環状α−シクロデキストラン、β−シクロデキストランおよびγ−シクロデキストランは各々12、14および16個の反応性アルデヒド基を有する。これらの開環状橋かけ剤をヘモグロビンの橋かけおよびポリマー形成に使用することにより、オリゴマーに富むポリマー化ヘモグロビンが生成され得る。上記の未反応アルデヒドは、アミノニトロキシド、例えば4−アミノ−TEMPOまたは3−アミノ−プロキシルへの共有結合に利用され得る。
【0142】
さらに、開環状硫酸誘導体、例えば硫酸化α−シクロデキストランは、次の2つの追加理由により有効な橋かけ剤となる。すなわち、(1)硫酸基は、橋かけヘモグロビンの酸素親和力を低下させる場合にDPGの活性を模倣するため、酸素輸送特性が改善される、そして(2)硫酸基は、複数(例、n=2−4)のヘモグロビンの複合体を形成し、初めに「クラスター」を形成させる親和性標識として機能する。一旦「クラスター」複合体が形成されると、シクロデキストランのアルデヒド基はDPG結合部位内でNH2基と極めて接近することになるため、ヘモグロビンの共有サブユニット内および分子間橋かけ形成を促進し、その結果ヘモグロビンオリゴマーの収率が高められることになる。抗酸化的酵素様活性に加えて、開環状シクロデキストラン重合およびニトロキシド標識ヘモグロビンはまた、o−ラフィノースおよびグルタルデヒド重合ヘモグロビンの場合と比較して改善された収率および組成を有する。
【0143】
実施例4
【0144】
ニトロキシド標識リポソーム封入ヘモグロビン
【0145】
リポソームは、両親媒性(amphophilic)分子の集合体から形成される粒子であり、内部水区画および外部大量水に面する極性側面により中空球形状で2分子層構造が形成される。当業界では、リポソームを形成するための幾つかの許容し得る方法が知られている。典型的には、分子は、ジパルミトイルホスファチジルコリンのような水溶液中でリポソームを形成する。リポソームは、さらに安定させるためコレステロールにより製剤化され得、他の物質、例えば中性脂質、および表面修飾剤、例えば陽性または陰性荷電化合物を含み得る。好ましいリポソームは、小型単層−2分子層球形シェルである。
【0146】
リポソームにヘモグロビンを封入する方法もまた公知である(ファーマーら、合衆国特許第4911921号参照)。本発明の目的の場合、リポソーム封入ヘモグロビン溶液にニトロキシドに基づく酸素解毒機能を導入するのには若干の方法が使用され得る。例えば、出発物質としてニトロキシド標識天然ヘモグロビン、または上記のニトロキシド標識安定化ヘモグロビンを使用し、次いで公知技術によりニトロキシド標識ヘモグロビンのリポソーム封入方法を遂行することが可能である。この態様では、精製ヘモグロビンはまた、膜不浸透性ニトロキシド、例えばシアらの合衆国特許第4235792号でスピン膜免疫検定法について開示されたTEMPO−コリンクロリドと共に封入され得る。
【0147】
また、いずれの精製ヘモグロビンでも、ニトロキシド標識脂肪酸(例、7−ドキシル−ステアレート、12−ドキシル−ステアリン酸、および16−ドキシル−ステアレート)、コレスタン、コレステロールの類似体(例、3−ドキシル−コレスタン)または燐脂質(例、12−ドキシル−ステアレート−標識ホスファチジルコリン)から成るリポソームにより封入され得る。標識された3−ドキシル−コレスタンから成るリポソームに封入されたヘモグロビン製剤は、タブシら(J.Am.Chem.Soc.106:219(1984))に記載された方法と類似した方法により製造され得る。下記で詳述されているとおり、ドキシル標識ステアリン酸および/またはコレスタンを含む脂質組成物を含有する5mlクロロホルム溶液を、まず窒素気流中で乾燥することにより溶媒を除去した。次に、残留物を減圧乾燥し、生成した膜を乳酸化リンガー溶液中2mlのヘモグロビン(24g/dl)に懸濁した。分散液中の脂質濃度は100ミリモルである。次いで、リポソーム封入ヘモグロビンを回転させ、脂質が全て分散して多重ラメラ小胞が形成されるまで、好ましくは37℃でインキュベーションする。次いで、生成した多重ラメラリポソーム封入ヘモグロビンおよび遊離未封入ヘモグロビンを含む溶液を、クックらの方法(合衆国特許第4533254号参照)に従い流動化装置に押し進めると、0.2ミクロンのリポソームが形成される。リポソーム中におけるジパルミトイルホスファチジルコリン:コレステロール:ジパルミチジルホスファチジン酸:3−ドキシル−コレスタンのモル比は、0.5:0.4:0.02:0.07である。生成した3−ドキシル−コレスタン標識リポソーム−封入ヘモグロビンの共鳴スペクトルは、図10Aに示されている。この立体配置では、ニトロキシドはリポソーム膜中に挟まれ、脂質二重層水界面の内部および外部表面の両方で見いだされ得る。図10Aに示されている脂質組成物において3−ドキシル−コレスタンを16−ドキシル−ステアリン酸により置換すると、図10Bに示されている電子共鳴スペクトルが得られる。共鳴スペクトルから映し出されるニトロキシドの移動度は、ステアリン酸のドキシル−部分が脂質二重層の疎水性内部に主として位置するという解釈と一致する。3−ドキシル−コレスタンおよび16−ドキシル−ステアレートの両方を同じモル比で脂質組成物に加えた場合の、二重ニトロキシド−標識リポソーム封入ヘモグロビンの共鳴スペクトルは、図10Cに示されている。この態様におけるニトロキシドが膜−水界面およびその疎水性脂質二重層内部の両方に位置するため、図10Cの共鳴スペクトルは図10Aおよび10Bの合成である。両位置にニトロキシドを置くことにより、この態様では、脂質二重層疎水性内部および膜−水界面の両方で酸素解毒機能が提供されるため、封入ヘモグロビンに対する酸素解毒能力が追加確保されるというさらなる利点が得られる。
【0148】
実施例5
【0149】
ニトロキシド標識複合ヘモグロビン
【0150】
複合ヘモグロビンの生理学的適合性溶液は、ヘモグロビンおよび血漿増量剤として使用される生物学的適合性高分子のコンジュゲートを形成することにより製造される。血漿増量剤、例えばデキストラン(Dx)、ポリオキシエチレン(POE)、ヒドロキシエチル澱粉(HES)を使用すると、体内でのヘモグロビンの循環半減期が延長される。この状態では、生物学的適合性高分子と一緒になったヘモグロビン分子は、集合的にヘモグロビン複合体として称される。ニトロキシドをヘモグロビン複合体中に組み込ませる若干の慣用的方法が存在する。例えば、コンジュゲートされるヘモグロビンを単にニトロキシド標識ヘモグロビン、例えばTEMPO標識DBBF−Hbと置き換えるだけでよい。これは、複合ヘモグロビンの製造においてヘモグロビンまたはピリドキシル化ヘモグロビンを3−マレイミド−プロキシル−DBBF−Hbまたは4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO−DBBF−Hbと置き換えることにより達成され得る。
【0151】
4−アミノ−TEMPO標識デキストラン複合ヘモグロビンは、タムらにより記載された方法(Proc.Natl.Acad.Sci.,73:2128(1976))に従い製造される。最初、0.15モルNaClおよび5ミリモル燐酸緩衝液(pH7.4)中8%のヘモグロビン溶液を、過よう素酸酸化デキストランにコンジュゲートすることにより、シッフ塩基中間体が形成される。20モル当量の4−アミノ−TEMPOをヘモグロビンに加えると、デキストランのニトロキシドおよび残りの反応性アルデヒド基間にシッフ塩基が形成される。4℃で30分のインキュベーション後、水中50モル当量のジメチルアミンボランを加える。溶液をさらに2時間4℃でインキュベーションする。その後、溶液を透析し、乳酸リンガー緩衝液により再構成し、フィルトロン膜濾過ユニット(フィルトロン・テクノロジー・カンパニー)により滅菌濾過する。4−アミノ−TEMPO標識デキストラン複合ヘモグロビンの電子スピン共鳴スペクトルは、移動の自由の高度さを表す鮮明な非対称3重線である(図11参照)。デキストランに共有結合したTEMPOの移動度増加は、堅く折り畳まれたヘモグロビン分子の場合と比べて(図3Aおよび3B参照)柔軟な多糖類デキストラン鎖に結合したニトロキシドと一致する。すなわち、図11における共鳴スペクトルは、新規ニトロキシド標識デキストラン複合ヘモグロビンが生成されたことを立証している。
【0152】
実施例6
【0153】
ニトロキシド標識アルブミン
【0154】
本発明の好ましい態様では、ニトロキシド標識生物学的適合性高分子を低分子量膜透過性ニトロキシドと共に使用することにより、インビボので持続的抗酸化活性が得られる。好ましくは、生物学的適合性タンパク質をニトロキシドで標識し、ただし本明細書で使用されている「タンパク質」の語はフラグメントおよびその誘導体を包含するものとする。ニトロキシド標識蛋白質は、好ましくはタンパク質のアミノ基の大きな部分を標識することにより与えられる。かかる望ましい生物学的適合性高分子の一例は、ヒト血清アルブミン(HSA)である。さらに、ジスルフィド結合を標識すると、ニトロキシド対タンパク質のモル比が高められる。その方法でタンパク質を標識することにより、遊離ニトロキシドおよび高分子結合ニトロキシド間の相互作用を促す酸性微環境が造られ、種類によって安定性に差があるため電子スピン転移が促進される。それらの共有結合的標識ニトロキシドは、分子量5000〜7000のジニトロキシド、トリニトロキシドまたはポリニトロキシドカルボキシルコポリマーとして結合される。すなわち、ニトロキシド対アルブミンのモル比は約400に高められ得、ここに開示された標識ストラテジーにより変動し、400以下の値の整数値または範囲に達し得る。アルブミンの場合、アルブミンの一次ビリルビン結合部位にニトロキシドを共有結合させることも可能であり、その場合例えばその部位に対する特異的結合親和力をもつニトロキシドの活性化誘導体、例えばTOPSを使用する。高分子上の結合部位を選択することにより、ニトロキシドの反応性に修飾が加えられ、この修飾を用いることにより、化合物の反応性を改変することができる。
【0155】
血清アルブミンは、多重リガンド結合部位をもつ血漿タンパク質であり、血液中の多くのリガンドに関する輸送タンパク質である。ニトロキシドは、若干の特異的リガンド結合部位でヒト血清アルブミンに特異的または非特異的に結合し得る。この結合は、非共有結合的であるか、または活性化ニトロキシドの使用により共有結合的であり得る。ニトロキシド−アルブミンは、単独または低分子量ニトロキシド化合物、例えばTEMPOL、TOPSおよびTOPSのモノ−およびジエステルと組み合わせて経口、非経口および局所治療適用に使用され得る。ニトロキシド標識アルブミンはまた、何らかの適用における有用性をもつアルブミンの「改善」版(すなわち、抗酸化活性を有することにより改善された)として利用可能であって、アルブミンは現在、例えば赤血球保存剤、非経口用コロイド溶液として、生体適合物質、生物適合性表面コーティングなどで、さらに酸化防止適用で、例えば移植用臓器および輸血用赤血球の保存で用いられる例えば細胞保存化合物を含め慣用的に使用されている。
【0156】
アルブミンは血漿から得られるかまたは、組換え遺伝子手段により製造され得る。HSAは、モノマー(正常血漿形態)、ホモダイマー、オリゴマーおよび集合体(微小球およびアルブミン微泡沫)を含む様々な形態で使用され得る。さらに、アルブミンをポリエチレングリコールで処理することにより、その免疫原性を減らすことができる。ニトロキシドによるアルブミンの特異標識は、タンパク質上の関連部位に対する結合特異性を有するニトロキシド化合物の活性化誘導体を用いることにより、ビリルビン、FFA、インドールまたはCu++結合部位を含む幾つかの部位で達成され得る。好ましい例は、HSAの一次ビリルビン結合部位に共有結合した2,2,6,6−テトラメチル−1−オキシル−4−ピペリジリデンスクシネート(TOPS)ニトロキシドである。アルブミンの非特異的標識は、約50以下の利用可能なアミノ基で達成され得る。アルブミンの温度および化学的処理により、ニトロキシド対アルブミンのモル比が高められ得る。天然アルブミンを用いると、7より大かつ60以下のモル比も達成され得る。60モル以下のニトロキシド標識アルブミンを用いると、追加のニトロキシドでアルブミンの35の可能なスルフヒドリル基を標識することにより、95以下のニトロキシド対アルブミンのモル比が達成され得る。それらの共有結合標識ニトロキシドは、分子量5000〜7000のジニトロキシド、トリニトロキシドまたはポリニトロキシドカルボキシルコポリマーとして結合される。すなわち、ニトロキシド対アルブミンのモル比は、約400に高められ得、ここに開示された標識ストラテジーにより改変され、400以下の値の整数値または範囲に達し得る。
【0157】
インビボでの活性ニトロキシドの再生を立証するため、燐酸緩衝食塩水中4−ヒドロキシ−2,2,6,6−テトラメチル−ピペリジン−N−オキシル(N−TPL)を、対照として麻酔したマウス(体重40g)の尾部静脈中に注射した。尾の先を、電子スピン共鳴(ESR)分光計の試料管中に挿入した。マウスの尾は、注射前にはesrシグナルを全く示さなかった。0.5mlの6ミリモルTEMPOLを注射した後、30秒間隔でのスペクトルの3連続スキャンで見えたところによると(図18A参照)、esrシグナルが検出され、急速に減少するのが観察された。この結果は、TEMPOLが、そのesr−サイレントおよび触媒反応不活性のN−ヒドロキシルアミン(R−NOH)誘導体(TEMPOL−HまたはTPH)に還元されたことを示している。マウス尾部におけるTEMPOLの血漿半減期を測定するため、高フィールドピークの強度を8分間連続モニターした(図19)。8分後、TEMPOLの反復注射を行った。マウス尾部においてTEMPOL(TPL)濃度に対応する最大ピーク強度が約10秒で得られた後、基準線まで急速に減少し、結果としてTPLのインビボ半減期は約50秒であった(図19)。次の2つの記録方法によりTPLの半減期を確認した。すなわち、適当に間隔をおいた全スペクトルでのスキャンおよび高フィールドピーク強度の連続記録である。両方法からの結果は一致した。
【0158】
ポリニトロキシドアルブミン(PNA)を製造するため、ひと血清アルブミン(HSA、5%溶液、バクスター・ヘルスケア・コーポレイテッド)を、60℃で10時間60モル当量のBr−TEMPO(シグマ)と混合しながら反応させた。バキュテーナー管中生成した15mlのHSAおよび165mgのBr−TEMPOを含む反応混合物を、0.22ミクロンフィルターにより滅菌濾過し、10kdaカットオフ限外濾過膜を備えた150ml撹拌セル(撹拌セル装置)(フィルトロン・テクノロジー・コーポレイテッド)中に移した。esr分光器の使用による検出で濾液の含む遊離Br−TEMPOが1マイクロモル未満になるまで、濾過した反応混合物をリンガー溶液(マックゴー・インコーポレイテッド)で洗浄した。明オレンジ色保持物質を25%HSAに濃縮し、再び0.22ミクロンフィルターにより10ml滅菌ガラス瓶(アボット・ラボラトリーズ)中へ滅菌濾過し、使用時まで4℃で貯蔵した。高分子量ポリニトロキシドのesrスペクトルは、図15Cに示されている。
【0159】
ポリニトロキシドアルブミンにおけるニトロキシドのモル比を高めるため、尿素の存在下でジスルフィド基をチオグリコール酸(thioghycolate)ナトリウムに還元し、過剰のBR−TEMPOを加えて崩壊されたジスルフィド結合を標識した。この方法によると、約10のモル比における平均増加が達成され、チャンらにより“Potential of Alubumin Labeled with Nitroxides as a Contrast Agent for Magnetic Resonance Imaging and Spectroscopy”、Bioconjugate Chemistry、1990、第1巻、32−36頁に記載された方法の場合と類似している。
【0160】
ポリニトロキシドアルブミン溶液の濃度をフラスコ中で17.5mg/mlに調節する。この溶液を尿素で8モルに希釈し、溶解するまで撹拌する。2%炭酸ナトリウムを加えることにより、pHを8.2に調節する。pH−調節溶液を15分間完全に脱気し、次いでアルゴンガスでフラッシュする。別のフラスコでは、チオグリコレートの3モル溶液を製造し、脱気し、アルゴンガスでフラッシュする。チオグリコレート溶液をポリニトロキシドアルブミンに加えて最終濃度を0.3モルとする。
【0161】
生成した溶液を脱気し、アルゴンガスでフラッシュして混合し、アルゴンガス下室温で20時間暗所で放置した後、アルゴンガス下室温で5時間3リットルの燐酸緩衝食塩水pH8.4(2%炭酸ナトリウムにより調節)に対して透析する。過剰のBr−tempoを加え、混合物をアルゴンガス下さらに24時間室温で撹拌する。
【0162】
最終溶液をPBS(pH7.4)に対して5時間透析し、未反応のニトロキシドを除去する。EPR分光器を用いることにより、スピン密度が測定され得、ビウレット法によりタンパク質濃度が測定され得る。
【0163】
3ロットの平均について典型的結果を下記に示す。
【0164】
1.タンパク質濃度:
アミノ基標識ポリニトロキシドアルブミン
【0165】
53.0mg/ml=0.78ミリモル
アミノ+ジスルフィド
【0166】
13.9mg/ml=0.20ミリモル
【0167】
2.スピン密度:
アミノ基標識ポリニトロキシドアルブミン(PNA)
【0168】
33ミリモル
アミノ+ジスルフィド
【0169】
10.5ミリモル
【0170】
3.タンパク質に結合したニトロキシドのモル比の計算。
アミノ基標識ポリニトロキシドアルブミン
【0171】
33ミリモル/0.78ミリモル=42ニトロキシド/アルブミン
アミノ+ジスルフィド
【0172】
10.5ミリモル/0.20ミリモル=52ニトロキシド/アルブミン
【0173】
この実施例において、ジスルフィド基の還元により、ニトロキシド対アルブミンのモル比は10倍増加した。
【0174】
ここに記載されたPNAの実例の製造に使用され、本発明のポリニトロオキシル化生体適合性分子の治療的、診断的および機能的有用性を立証する実施例で使用された方法は、容易に他の化合物、例えばポリニトロオキシル化HBOC(またはPNH)、ポリニトロオキシル化デキストラン(PND)および多数の追加的PNA製剤の製造にも適用され得、それらは、ニトロキシドの種類、アルブミンタンパク質における利用可能な基の構造、タンパク質濃度、スピン密度および結合パーセンテージを示す下記図表に示されている。
【表1】

【表2】

上記のポリニトロキシド−標識アルブミン製剤が、低分子量膜透過性ニトロキシドのインビボ活性を高める働きを有することを立証するため、ひと血清アルブミンを、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPO(BR−TEMPO)により共有結合的に標識し、1用量のTEMPOLが投与され、その還元状態に変換されたことが観察された後に注射した。
【0175】
上記実施例と同様TEMPOL注射の2時間後、マウス尾部からは検出可能なesrシグナルは全く現れなかった。0.2mlのポリニトロキシドアルブミンを尾部静脈から注射すると、TEMPOLシグナルが4分以内に再び現れた。TEMPOLシグナル強度は2時間より長期間持続し、半減期は約40分であった(図18も参照)。TEMPOLシグナルは、それらの特有なスペクトルプロフィールによってポリニトロキシドアルブミンシグナルとは区別された。その特徴的高フィールドピークの強度としてTEMPOLシグナルを測定した。27のニトロキシド対アルブミンのモル比の場合、同じ反応性を示す。
【0176】
ポリニトロキシドアルブミン注射後に検出されたesrシグナルが、単に高分子から解離された高分子のニトロキシドに起因するものであるという可能性は、次の実験により除外された。この実験は上記要領で遂行されたが、ただし、[15N]−TEMPOLおよびアルブミン−[14N]−TEMPOLを使用した。異なる種類の窒素化合物により、遊離および高分子ニトロキシドのesrシグナルを区別する方法が提供される。得られた結果(図18A)からは、再生ニトロキシドからのesrシグナルが、15N同位体から誘導されること、従って、低分子量膜透過性[15N]−TEMPOLの抗酸化活性が高分子ニトロキシドを加えた後に再生されたことが確認される。
【0177】
ここに示されたところによると、2種のニトロキシドを含む物質の間におけるドナー/アクセプター関係から、インビボでの持続的ニトロキシド防御能力が得られる。態様の幾つかにより記載されているPNAおよびTPLの相互作用は、本発明により提供される追加的組み合わせの唯一の例である。図18B(1)、(2)および(3)に関して述べると、ポリニトロキシル化アルブミン(PNA)は、TOPSを活性化することが示されている。50ミリモルTOPS単独(図18B(1))および43ミリモルPNA単独(図18B(2))のESRスペクトルは、比較的低いピーク強度を表しており、燐酸ナトリウム緩衝液(pH7.8)中でのTOPSとPNAの組み合わせは、かなり大きいピーク強度を示す(図18B(3))。同様に、図18Cでは、ポリニトロキシル化HBOCが、TOPSを活性化することが示されており、図18Dでは、B3T標識アルブミンがTOPSを活性化することが示されている。すなわち、本明細書の他の場合について示されているとおり、多重成分を含む態様は、異なる遊離電子安定性をもつ異なるニトロキシドまたはニトロキシド基剤の化合物により製剤化され得る。
【0178】
実施例7
【0179】
ニトロキシド標識免疫グロブリン
【0180】
上記態様の場合と同様、ある種のニトロキシドは、静脈内注射されたとき血漿半減期が非常に短くなることが示された。血漿半減期が長い抗酸化酵素様活性を有することが要望されることから、ニトロキシド化合物を免疫グロブリンに結合すると、持続時間の長い抗酸化酵素様活性が獲得され得る。
【0181】
免疫グロブリンは、免疫系のB細胞で産生され、2つの特異的リガンド結合部位(抗原結合部位)を特徴とする一種の血漿タンパク質である。ニトロキシドは、過去に一次および二次免疫応答中における免疫グロブリンのハプテン結合特異性および親和力に関する研究でプローブとして使用されたことがある。
【0182】
ニトロキシド標識アルブミンについて記載している上記態様の場合と同様、上記ニトロキシド−HBOCの例で立証されているニトロキシド標識技術は、ニトロキシド標識免疫グロブリンの製造に容易に適用される。免疫グロブリンにより特異的結合性および長い循環半減期という利点が得られることから、本発明の化合物の酵素様活性は、特定組織にとっての標的とされ、長い活性を呈し得る。
【0183】
ニトロキシド標識免疫グロブリンはインビボで使用されると、反応性酸素物質による細胞損傷に対して防御作用を呈し得る。ニトロキシド標識免疫グロブリンは、単独または低分子量ニトロキシド化合物を組み合わせて使用されると、血漿半減期が延長された長い抗酸化活性を付与し得る。
【0184】
ニトロキシド標識免疫グロブリンは、免疫グロブリン自体を特異標識するか、またはハプテン結合部位を共有結合的に標識することにより製造され得る。人体の自然な免疫応答の一部としてのニトロキシド標識免疫グロブリンの浄化を回避するため、非特異的標識法による公知技術に従って免疫グロブリンを開裂することにより生成される免疫グロブリンフラグメント、例えば(Fab)2が使用され得、この場合ニトロキシド:免疫グロブリンの好ましいモル比は60:1以下である。
【0185】
ニトロキシド標識免疫グロブリンは、特定位置の酵素様作用を標的とするのに使用される好ましい物質である。例えば炎症または他の病状に関与する抗原に特異的な抗体を選択することによる場合がある。本発明のイメージ強調および治療上の有益性は特定部位を標的として付与され得る。
【0186】
実施例8
【0187】
EPRによる生物学的構造および遊離基反応のイメージ化
【0188】
たいていの環境下では、遊離基反応は非常に急速に行われるためEPRイメージ診断(ERI)は困難である。しかしながら、安定した遊離基が存在することから、ニトロキシドは電子常磁性共鳴分光法により検出され得る。進歩したイメージ診断機器の開発により、無傷の生体組織および器官のイメージが遊離基濃度の測定値に基づいて入手され得る。生体適合性ニトロキシドは、イメージ強調薬剤の候補である。
【0189】
ニトロキシドは投与の数分以内にインビボで不活性誘導体に還元されるため、それらの効果は制限される。本発明によると、活性ニトロキシドの体内レベルが長期間維持され得るため、低分子量膜透過性ニトロキシド単独で見られる場合よりもイメージのコントラストは改善され、シグナル持続性は長くなり得る。
【0190】
電子常磁性共鳴(EPR)分光法は、磁場の存在下で不対電子のエネルギー状態の変化を検出することにより遊離基の動きを観察する技術である。不対電子のみ検出されるため、この技術は遊離基に特異的である。電子常磁性共鳴を測定する入手可能な装置を用いると、生体組織を含め肉眼的対象の即時イメージが得られる。EPRイメージ診断(ERI)により、診断または研究を目的とした多次元イメージ(スペクトル−空間的イメージを含む)を入手できる可能性が提供される。
【0191】
ニトロキシド造影(コントラスト)剤による電子常磁性共鳴イメージ診断(ERI)は、原則として医学的イメージ診断、特に虚血組織のイメージ診断に関する貴重な方法である。しかしながら、この技術の開発は、ニトロキシドがインビボで非常磁性の物質に急速に還元されるという事実により制限されてきた。
【0192】
外部から導入されたニトロキシドに関する適用性は、比較的低い解像能のインビボEPR造影剤としての有用性を立証してきた。(L.J. Berliner, “Applications of In Vivo EPR," pp.292-304、EPR IMAGING AND IN VIVO EPR中, G.R. Eaton, S.S. Eaton, K. Ohno, 編集者;CRC Press (1991))。重要なことに、サブラメイニヤンおよび彼の協力者らは、遊離基に類する物質を検出し、インビボイメージ診断するための放射線振動数フーリエ交換EPR分光計を構築した。J.Bourg et al., J.Mag.Res.B102,112-115(1993)。
【0193】
本発明に従い製造されたポリニトロキシドアルブミン(PNA)は、投与されると、血管および他の細胞外空間に分布される。本発明の組成物の濃度範囲は変動し得るが、好ましい範囲は、1デシリットル当たり5−25gの標識PNAおよび0.1〜200ミリモルのTEMPOLである。抗酸化活性および電子常磁性共鳴(EPR)分光法による検出可能性はこの目的のみにとっても有用である。さらに、適度の用量の小分子量膜透過性ニトロキシドを投与すると、ニトロキシドは体内で長期間活性遊離基状態で維持される。
【0194】
ERIイメージ診断に好ましい製剤は、高モル比のニトロキシド(7〜95ニトロキシド対アルブミン)で共有結合的に標識されたひと血清アルブミン(1.0〜25.0g/dl)である。本明細書の他の場所に示されているとおり、ポリニトロキシドアルブミン(PNA)は、ニトロキシドのヒドロキシルアミン形態(例、TPH)から不対電子を受け入れ、ニトロキシドの活性をその遊離基状態(例、TPL)に再生させ得る。この多重成分システムの根本的利点は、高分子またはそれに類する物質が細胞外空間に残存している間、小さな膜透過性ニトロキシドおよびその還元(ヒドロキシルアミン)誘導体が、細胞内および細胞外空間の間で自由に分布することである。これにより、ニトロキシド遊離基が還元される前に細胞内で検出され、次いで高分子(細胞外)に類する物質により再生され得る周期が作り出される。すなわち、所望の濃度の分光器により検出可能なニトロキシドが長期間にわたってインビボで維持され得る。
【0195】
インビボでのニトロキシドの短い半減期を延長することは、ニトロキシドに基づくイメージ診断方法および医学的治療の開発における主たる障害を克服する上で助けとなる。イメージ診断に関しては、ジョーンズ・ホプキンス大学のEPR研究室が、造影剤としてニトロキシドを利用する連続波ERI器械を開発し、心臓虚血および再潅流の経過について試験してきた。しかしながら、ニトロキシド単独の場合半減期が制限されるということは、再潅流相については試験され得ないということを意味している。これらの試験では、ラット心臓におけるニトロキシドの3次元スペクトル−空間的EPRイメージ診断には、ニトロキシドの還元に起因する遊離基シグナルの急速な減少という欠点が伴う。ラット心臓の断面横断2−D空間EPRイメージは3−Dスペクトル−空間データから再構築されたが、これは、12分の捕捉期間中連続的に減少しているEPRシグナルに基づいていた。虚血の持続時間の関数として、心外膜、中心筋(midmyocardium)および心内膜におけるニトロキシド還元の速度が異なるため、心臓の断面イメージの鮮明度もさらに低下する。本発明に従うと、ERIイメージは改善され得る。インビボニトロキシドの活性半減期が延長されたため、再潅流相のイメージ診断も可能となり、組織および器官への虚血損傷の進行に関する追加的情報も提供される。本発明の組成物により、投与後10分以内でのイメージ診断に適した安定したニトロキシドシグナルが提供され、少なくとも2.0時間は持続する(図25参照)。比較すると、遊離ニトロキシド単独からのシグナルは、投与後20分以内に実際上消失する(図24)。治療的有用性に関して述べると、長い期間活性ニトロキシドレベルが安全に維持され得るということは、虚血/再潅流損傷、すなわち毒性酸素誘導遊離基が細胞損傷の源である病的プロセスを阻止する上で有用な長期の抗酸化作用が提供され得ることを示している(図26および図27参照)。
【0196】
本質的にKuppusamy et al. Proc. Natl. Act. Sci., USA Vol.91, 3388-3392頁(1994)に記載された方法を用いると、ラット心臓は、4gアルブミン/dlおよび2ミリモル15N−TEMPOL濃度でのポリニトロキシドアルブミン(PNA)を用いてイメージ診断された。
【0197】
図24に関して述べると、ポリニトロキシドアルブミンの存在下における15N−TEMPOLのシグナル強度は、摘出ラット心臓で見いだされ得る。EPRシグナルは安定しており、強度が2相性で徐々に減衰していた。これは、低分子量膜透過性ニトロキシド(TPL)単独を用いた場合におけるシグナル強度の2相性の急速な減衰とは対照的である(図24)。
【0198】
EPRイメージ診断試験では、ラット心臓をポリニトロキシドアルブミン含有または不含有のニトロキシド含有溶液により潅流した後、潅流液の流れを止めることにより虚血を誘発した。図24は、ポリニトロキシドアルブミンの存在または非存在下での虚血中の摘出ラット心臓における[15N]−TEMPOLの全シグナル強度を示す。シグナル強度に見られる減衰は2相性であり、ポリニトロキシドアルブミンの存在は減衰を非常に緩慢にすることがわかる。すなわちTEMPOLシグナルを安定化させることにより、ポリニトロキシドアルブミンは、長期間にわたって高品質EPRイメージを供することを可能にする。図22−23に関して述べると、虚血心臓の3次元EPRイメージは全体的虚血の156分後でもまだ得られる。図22Aはイメージを分断して見たところを示す。図23で説明されているとおり、3次元イメージはまた断面から見ることもできる。これは、虚血心臓内におけるTEMPOLシグナルの分布差異を示す。これは図28で数量化されている。図25は、125分の全体的虚血中における一連の継続的特定時点で得られた、例えば図23における一連のイメージを示す。これは、PNAが存在すると、解像能およびシグナル持続性の両方の点で、TEMPOL単独で可能となるものよりもかなり優れたイメージ診断が行えることを説明している。
【0199】
本発明の特別な利点は、興味の対象である構造において選択的に分布される組成物を選択することにより、および/または特定構造または系のイメージ向上を助長する投与手段を選択することによりイメージ向上を局在化し得ることである。例えば、心臓血管系のイメージは、長い血漿半減期を有するポリニトロキシド高分子の静脈内注入および好ましくは低分子量膜透過性ニトロキシドの静脈内注入により高められ得る。別法として、胃腸管内のイメージを向上させるために、これらの化合物の一つは経口投与され得る。同様に、皮膚の別々の領域のイメージは、追加のニトロキシドに類する物質の経口または静脈内投与と組み合わせて、適当な担体に懸濁したポリニトロキシド高分子を局所投与することにより改善され得る。別法として、適用法により異なるが、本発明による多重ニトロキシド基剤組成物は皮膚投与され得る。
【0200】
実施例9
【0201】
放射線防護
【0202】
電離放射線に曝されている生活有機体は、高放射線量により致命的となり得る有害な影響を被る。最近の証拠によると、放射線がDNAへの損傷による細胞傷害を誘発することが示されている。DNAへの全損傷のうち、80%ほどが放射線誘発による水誘導遊離基および二次炭素主成分基から生じ得る。国防総省は、インビボ放射線防護剤を求めて40000のアミノチオール化合物についてスクリーニングした。一薬剤(WR−2721)が選択的放射線防護作用を示したが、WR−2721はひと臨床試験では放射線防護作用を呈し得なかった。ニトロキシド化合物(例、TPL)は、非チオール放射線防護剤であったが、ここに示されているとおり、(TPL)はインビボ半減期が非常に短い。他の化合物は、天然起源の高分子(超酸化物不均化酵素IL−1およびGM−CSF)であった。しかしながら、それらの分子サイズ故に、これらの各々が有する、細胞内遊離基を化学的に除去する能力は制限されている。
【0203】
ナショナル・キャンサー・インスティテュートは、癌患者の放射線治療の線量レベルを高くできるように放射線防護剤としてのニトロキシド化合物Tempolの使用を試みた。研究者らは、低分子量ニトロキシドが急速に不活性形態に還元され、安全な用量では投与され得ないことをすぐに見いだした。
【0204】
本明細書に開示された発明に基づき、酵素様物質として高分子化合物に結合したニトロキシドを低分子量ニトロキシドと一緒に使用すると、膜透過性ニトロキシド化合物との相互作用によって細胞内の遊離基が解毒されることにより血管空間における酸素基が解毒され得る。本発明により放射線防護作用の持続時間を延ばすと、ニトロキシド化合物の使用により、医学的適用、例えば癌治療および有害な放射線源に偶然曝された場合における制御された放射線の有害な作用に対する防護効果が得られる。
【0205】
ナショナル・キャンサー・インスティテュートにより開発された放射線量尺度に基づき、チャイニーズハムスター細胞培養物を放射線防護化学薬剤の存在下で電離放射線に曝す。図16は、12グレイの放射線でのチャイニーズ・ハムスターV79細胞の生存率を示す。対照、高分子結合ニトロキシド(PNA)および還元ニトロキシド(TPH)の場合も似た生存率を示す。しかしながら、TPHをPNAと予め混合すると、V79細胞の生存率を高める(図16参照)放射線防護性TPL(図17参照)に変換される。
【0206】
低分子量膜透過性ニトロキシド、例えばTPLは、C3Hマウスにおいてインビボ放射線防護作用を呈することが立証された。これらの試験では、腹膜内投与されたTPLの最大耐容用量は275mg/kgであることが見いだされ、注射の5−10分後に全血中で最大TPLレベル(〜150μg/ml)となった。マウスを、投与の5−10分後TPL(275mg/kg)の非存在または存在下で全身放射線に曝した。30日以内にTPL処理マウスの50%が死ぬ放射線量は、9.97グレイであり、それに対して対照マウスの場合は7.84グレイであった。
【0207】
TPLの放射線防護効果は不対電子の反応性から誘導されるため、TPLがその不対電子を失うことによりヒドロキシルアミンに還元されると、それは不活性になる。本発明による有効な放射線防護剤は、活性(遊離基)状態にあるTPLの治療濃度をインビボで維持することから、TPLが単独投与された場合治療レベルの維持に要求される用量は高く、有毒であるという事実は克服される。
【0208】
図19は、275mg/kgのTPL(◇)の腹膜内注射、静脈内投与による2ミリモルTPL単独(□)、およびTPH100mg/kg+PNA1ml(○)投与後のTPLの最大血漿レベルを示す。結果は、TPLの最大血漿レベルが、PNA(20g/dlのアルブミン濃度で0.5ml/マウスおよびアルブミン1モル当たり42モルTPL)の存在下約100mg/kgのTEMPOLの腹膜内注射後に観察されるレベルの約5分の1であることを示している。従って、TPLの血漿レベルは、PNAの存在下では10倍より大きく高められる。この高められたPTL血漿レベルは、細胞および核レベルで放射線防護に関与するTPLの細胞内レベルに影響する。
【0209】
この高められた防護能は、マウスでの30日生存モデルに基づいた全身放射線で立証されている。図20は、一定TPL濃度(200mg/kg)でPNAを加えることによる放射線防護能の向上を示す。
【0210】
結果は、PNAの存在下におけるTPLが十分な放射線防護作用を有することを示している。TPL単独の場合の10匹中1匹(10%)と比べて、10匹中8匹(80%)のマウスが10グレイの致死放射線にもかかわらず生きていた。TPL非使用またはPNA単独による対照実験では、全マウスが15日前後に死ぬ。従って、膜不透過性PNAは、放射線防護効果を全く示さず、細胞内レベルでの放射線損傷に対しても防護しない。
【0211】
図21に関して述べると、実験データは、PNAによって、TPL用量を低減化しても同様の放射線防護効果が得られることを示している。この実験では、PNA(0.5ml/マウス)を単独で使用した場合、10匹の全マウスが15日目に死んだ。図20で使用されたTPLの用量の4分の1で、TPL濃度は200mg/kgから50mg/kgに減らされ、PNAの存在により致命的放射線(10グレイ)から10匹中2匹のマウスを防護することができた。これらの結果は、PNAを用いることにより、同じかまたはそれより優れた放射線防護効果を獲得するのに4の係数でTPLの用量を低減化し得ることを証明している。
【0212】
全身的または身体局所的放射線防護効果をもたらし得ることから、本発明の組成物の使用は、治療的放射線処置を受けている患者を防護する上で特に有益である。例えば、膜透過性ニトロキシドの全身または局在的局所投与を、放射線フラックスが体内に入る部位におけるポリニトロキシドアルブミンの局所投与と組み合わせることができる。
【0213】
一特定適用では、ポリニトロキシドアルブミン含有局所用軟膏を、頭蓋腫瘍の処置を受けている患者の頭皮に適用する。それと同時に、膜透過性ニトロキシドを、例えば局所用軟膏での懸濁液を含む適当な手段により投与する。放射線量を適用するとき、皮膚および毛包は、完全な有害線から防護され、酸素担体の代謝に伴う酸化的ストレスは緩和される。ニトロキシド含有化合物から誘導される上記活性の生物学的効果には、酸化的ストレスを減らすことによる反応性酸素類の細胞傷害性に対する保護作用への寄与が含まれる。ニトロキシドは、本発明に従いインビボ投与されると、追加の複雑な抗酸化性酵素様活性を示す。
【0214】
上記で示された通り、静脈内投与されると、TEMPOLは、非常に短い血漿半減期を有することが示された。その分子サイズおよび電荷特性故に、それは血管空間から容易に離れる。多くの医学適用において、血管空間に存続する酵素様活性を有するのが望ましい場合が有り得る。これは、本発明に従い、ニトロキシド化合物を、生物学的に安全で望ましい血漿半減期を有する高分子、例えばヘモグロビンおよびアルブミンに結合することにより達成される。
【0215】
遊離基状態での膜透過性ニトロキシド、例えばTPLは、インビボおよびインビトロの両方で酵素様活性を有することが示された。しかしながら、インビボ、主として細胞内空間では、それは、生体還元剤、例えばNADHによりその不活性ヒドロキシルアミン誘導体(TPH)へ急速に還元される。以前には、活性TPLから不活性TPHへの還元は、化学量論に基づくと本質的に不可逆的であった。すなわち、治療および診断手段としてのその有効性は限定されている。
【0216】
本発明によると、多重成分ニトロキシド含有組成物は、第1成分として、TPL(活性)およびTPH(不活性)間における動的平衡状態で存在する膜透過性ニトロキシドを有する。
【化13】

【0217】
インビボでは、不活性TPHが優勢である(>90%)。両物質の分子(TPLおよびTPH)は、容易に細胞膜を横切り、細胞内および細胞外空間中へ分布する。
【0218】
第2成分は、細胞外空間、主として血管空間に分布する膜不透過性高分子ポリニトロキシドである。第1および第2成分は、インビボで以前には知られていなかった別の酵素疑似機能、すなわち合成還元ニトロキシドオキシダーゼの疑似機能を呈する。例えば、多重成分系の一部としてここに記載されているポリニトロキシドアルブミンは、スピン転移反応を介してTPHおよびTPLを酸化することにより還元ニトロキシドオキシダーゼとして作用する。すなわち、高分子ニトロキシドアルブミンは、細胞内外の両空間において〜90%TPL以下にTPL/TPH平衡をシフトする模擬的酵素として機能する。放射線、虚血などからの必要レベルの防護能を得るのに必要な高用量のTPLが、細胞の酸化還元機構を圧倒することにより細胞にとって有害となる場合、この酵素様機能は特に有用である。
【0219】
例えば、1線量のγ放射線の例では、線量が高くなると、有効な放射線防護効果を与えるのに必要な低分子量膜透過性ニトロキシドの量も非常に増大し得るため、細胞レドックス状態が崩壊されることにより、傷害性が誘発される。
【0220】
傷害性誘発という障害を克服するため、本発明の多重成分系は、還元TPHをTPLに再生させる。この系は、活性ニトロキシドがインビボで望ましい場合であればいずれの適応法にも使用され得る。
【0221】
TPL、TPHおよびポリニトロキシドアルブミンのEPRスペクトルは、各々図15A、15Bおよび15Cに示されている。還元ニトロキシドオキシダーゼ活性の証拠は、TPH(EPRサイレント図15B)から高分子ポリニトロキシド(図15C)への再酸化(スピン転移)により示されており、TPL(EPR活性)(図15A)へのその変換は次の要領で行われる。すなわち、(1)当モル比のTPHと高分子ポリニトロキシドを室温で30分間インキュベーションする、(2)反応混合物を10kdカットオフ膜により遠心分離する、および(3)濾液のEPRスペクトルは記録され、図15Bに示されている。TPHからTPLへの定量的変換は、図17に示されている。
【0222】
合成還元ニトロキシドオキシダーゼ(ポリニトロキシドアルブミン)は、ひと血清アルブミン(HSA、25%バクスター・ヘルスケア)を40モル当量の4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOまたはBr−TEMPOと10時間60℃で混合しながら反応させることにより製造される。バキュテーナー管中15mlのHSAおよび165mgまたはBr−TEMPOを含む、生成した混合物を、0.22ミクロンフィルターで滅菌し、10kdカットオフ膜を備えた150ml撹拌セル(フィルトロン・テクノロジー・コーポレイテッド)中に移す。反応混合物を濾過し、ESR分光器により検出される濾液が含む遊離TEMPOが1マイクロモル未満になるまでリンガー溶液で洗浄する。明オレンジ色に着色した保持物質(retenate)を25%HSAに濃縮し、10mlガラス瓶中へ再滅菌濾過し、使用時まで4℃で貯蔵する。TPHからTPLへのインビボ酵素様変換を立証するため、TPLの15N安定同位元素類似体を、カニューレ挿入マウスの尾部静脈に注射し、EPRシグナルを尾部で直接モニターする。麻酔したマウスにおける0.5mlのTPL(40ミリモル)溶液の直接静脈注射により、TPLの血漿半減期が約2分であることが証明される。図18に関して述べると、高分子ポリニトロキシドおよび安定同位元素15N TPLを含む混合物の追続注射(〜30分後)を行ったため、15N TPLのピーク強度における2相性変化が存在する。最初、15N TPLシグナル強度の減少は、血管空間からのTPLの拡散、次いでその細胞内還元に起因すると考えられる。この拡散速度は、図18における15N TPLシグナル強度のより緩慢な再現に基づくとTPHからTPLへの再酸化速度よりも最初は速い。TPHからTPLへの再酸化は初期拡散/還元速度よりも緩慢であるが、それはTPLの定常状態細胞内還元速度よりも速い。すなわち、図18に示されたTPLシグナルの再現により、TPHからTPLへの再酸化が検出されるため、マウスにおけるインビボでの合成的に製造された還元ニトロキシドオキシダーゼ活性が立証される。図18B−18Dも参照。
【0223】
実施例11
【0224】
虚血および再潅流損傷--卒中での脳血管虚血
【0225】
上記で示した通り、ニトロキシド含有化合物は、医学的イメージ診断で使用され得る。酸素代謝および再潅流損傷に関する貴重な情報が得られるため、特に有用な適用例は、心臓およびその他の場所における虚血組織のイメージを得る場合である。しかしながら、インビボでの遊離ニトロキシドの急速な還元により、この適用例における遊離ニトロキシドの有用性は制限される。しかしながら、本発明によると、心臓における虚血組織を空間的に分割し、心筋虚血の発生状況をモニターし、心筋再潅流相の発生結果を試験し、組織または器官の低酸素状態を同時に観察することは可能である。図22、23および25に関して述べると、15N−TEMPOLおよびポリニトロキシドアルブミンを注入した摘出ラット心臓のERIイメージが示されている。
【0226】
図24では、EPRシグナルの強度が虚血の持続時間の関数として示されている。下方の曲線では、2ミリモルのTEMPOLを虚血心臓に注入している。上部曲線は、ポリニトロキシドアルブミンと一緒の場合の2ミリモルTEMPOL(アルブミン1モル当たり42モルのTEMPOLで4g/dlのアルブミン)の本来の強度を追跡している。データは、本発明の組成物をしようすると、シグナル強度がかなり大きく、かつ維持されていることを証明している。図25は、3−D空間イメージからの虚血組織におけるイメージ診断の実行可能性を示す。イメージの経過は、約125分間にわたる虚血の進行を追跡している。
【0227】
診断有用性を証明することに加えて、ポリニトロキシドアルブミンおよびTEMPOLの組み合わせは、虚血再潅流損傷から心臓を保護する。図26は、ニトロキシドのみをPNAと組み合わせても、冠状動脈流の回復は影響されないことを示している。しかしながら、図27は、両方の存在下では、30分の全体的虚血、次いで45分の血液流動後にRPP(速度加圧産物、rate pressure product)の回復の実質的な改善が観察されるのみであることを示している。さらに、虚血/再潅流損傷の結果としての心臓浮腫が予防された。
【0228】
図15に関して述べると、虚血心臓の様々な解剖領域における15N−TPL濃度は、100分にわたる虚血の間中高められている。TPL組織濃度の上昇は、PNAによる心臓機能(図27)の保護に有利にはたらき得る。
【0229】
PNAによって脳および中枢神経系並びに心臓および心臓血管系における虚血/再潅流損傷からの保護作用が与えられることを立証するため(上記の通り)、3カ月令で体重35−40gのCD−1マウスに、30%酸素/70%一酸化二窒素の連続気流中1.5%イソフルランによる麻酔をかけた。動物を、同側共通頚動脈(CCA)を閉鎖するヤングらの方法(Stroke 25: 165-170,1994)により中間脳動脈(MCA)閉鎖および再潅流に付した。MCA閉鎖のちょうど1時間前(前虚血群)または1時間の虚血後の再潅流直後(再潅流後群)に、PNAまたはひと血清アルブミンの対照溶液を静脈内注射した。用量は体重の0.5%(v/w)であった。手術中体温を36.5−37.5℃の範囲内に維持した。平均動脈圧および血中気体を4動物で測定し、有効な対照群を確保した。
【0230】
再潅流の24時間後、ベダーソンらにより記載された(Stroke 17: 472-476, 1986)神経学的欠損について動物を評価した。神経学的欠損を次の尺度により評価した:0+観察可能な欠損は無し、1+右前足を伸ばせない、2+右へ回転する、3+右へ倒れる、4+自然歩行できない。神経学的評価後、動物を断頭し、脳を迅速に摘出し、組織分析用に冷凍した。20μm厚さの冠状縫合切片を脳の前方先端部から0.5mm間隔で切断し、クレシルバイオレットで染色することにより、梗塞を評価した(n+動物)。連続切片において梗塞部の大きさ(mm2で測定)を総和することにより、梗塞部容積を計算した。
【0231】
図30に関して述べると、虚血開始前または再潅流直後のいずれかにPNAで処置した場合、再潅流の24時間後に測定された(n=7)神経学的欠損は顕著に低減化されている。図31に関して述べると、脳虚血前または再潅流直後のいずれかにPNAで処置した場合、再潅流の24時間後に測定された梗塞容積は顕著に減少していた。虚血開始前に処置された動物では、梗塞容積は、対照動物での70.378mm3±12.812に対してPNA処置動物では6.956mm3±4.910であった。再潅流直後に処置された動物の場合、梗塞容積は、対照動物での62.636mm3±12.372に対してPNA処置動物では13.710mm3±6.644であった。
【0232】
図32および32Aは、梗塞容積および同側脳半球容積から計算された梗塞%値および梗塞領域をそれぞれ示す。PNA前虚血処置された動物の場合、梗塞%値は、虚血前対照での42.462%±5.001と比べて、5.148%±3.237であった。再潅流直後に処置された動物の場合、これらの値はPNA処置動物では9.210%±4.080および対照動物では37.782%±8.030であった(平均±SEM、N+7)。図33は、虚血開始前または再潅流直後のいずれかにPNA処置を行うと、再潅流の24時間後に測定したところ、脳半球拡大は顕著に低減化されたことを示している。虚血前処置された動物は本質的に全く拡大を示さなかったが(0.094%±0.094)、虚血前対照は13.916%±3.491の拡大を示した。再潅流開始時にPNAで処置された動物は、22.994%±8.562の対照値と比べて3.056%±2.053の拡大を示した。
【0233】
図30−33におけるデータは、局所脳虚血開始前または再潅流直後のいずれかにPNAで処置した場合、神経学的欠損、梗塞容積、梗塞%および脳半球拡大により測定したところ、卒中損傷に対する統計学的に有意な保護効果が得られたことを示している。一目瞭然であるが、神経学的欠損評価は脳浮腫および梗塞の組織学的測定値と明確に相関していた。
【0234】
血管空間において遊離基カスケードを緩和することにより機能する別の化合物の場合と比べた、PNAにより与えられる保護効果の比較レベルを測定するため、正常マウスにおいてPNAがもたらす保護効果を、SOD−1 Tgマウスにおいて過剰発現されたSODによりもたらされる比較的高度の保護効果とを比較する試験を行った。Chan, P.H., C.J. Epstein, H. Kinouchi, H. Kamii, G. Yang, S.F. Chen, J. Gafni, およびE. Carlson(1994)。卒中および脳外傷における神経保護効果の試験用モデルとしてSOD−1形質転換マウス。Ann. N.Y. Acad. Sci. 738:93-103。Chan, P.H., C.J. Epstein, H. Kinouchi, S. Imaizumi, E. Carlson, およびS.F. Chen(1993)。虚血性脳損傷における超酸化物不均化酵素の役割:局所脳虚血後の形質転換マウスにおける浮腫および梗塞の縮小。Molecular Mechanisms of Ischemic Brain Damage, K. Kogure および B.K. Siesjo, eds. Amsterdam: Elsevier. pp. 97-104中。Kinouchi, H., C.J. Epstein, T. Mizui, E. Carlson, S.F. Chen およびP.H. Chan(1991)。CuZnスーパーオキサイド・ディスムターゼを過剰発現する形質転換マウスにおける局所脳虚血損傷の減衰。Proc. Natl. Acad. Sci. USA 88:11158-11162。Imaizumi, S., V. Woolworth, およびR.A. Fishman(1990)。リポソーム封入スーパーオキサイド・ディスムターゼは、ラットでの脳虚血における脳梗塞を低減化させる。Stroke 21: 1312-1317。Liu, T.H., J.S. Beckman, B.A. Freeman, E.L. Hogan, およびC.Y. Hsu(1989)。ポリエチレングリコール−複合スーパーオキサイド・ディスムターゼおよびカタラーゼは、虚血性脳損傷を低減化する。Am. J. Physiol. 256:H586-H593。Chan, P.H., S. Longar, およびR.A. Fishman(1987)。外傷後脳浮腫に対するリポソーム包括スーパーオキサイド・ディスムターゼの保護効果。Ann. Neurol. 21:540-547。体重の1%v/w割合のPNA(20gマウスでは200μl)を、麻酔した動物に静脈内注射した。10分後、ナイロン縫糸を用いてルミナール遮断により、中間冠状動脈(MCA)を閉塞させた。虚血、再潅流の1時間後、および再潅流の24時間後、動物を神経学的機能について評価し、梗塞および浮腫の組織学的測定のために殺した。図34Aおよび34Bに関して述べると、対照マウス処置マウスの脳から取った典型的冠状縫合切片を、虚血損傷領域は染料を吸収しないため正常組織のみを染色するクレシルバイオレットで染色した。対照脳は、関与した脳半球の広範囲におよぶ虚血損傷を示し、その脳半球を同じ脳の反対側半球と比べるとかなりの浮腫が見られる。反対に、処置マウスの脳では、関与した脳半球は正常であり、大きさ、形状および染色密度の点で反対側半球と対称である。図34Cに示されている連続切片は、典型的対照動物の脳全体におよぶ虚血損傷の解剖学的分布、および典型的処置動物の脳の正常な様相を示す。対照動物対PNA処置動物における梗塞領域は図32Aに定量されており、このモデルではPNA処置により梗塞に対して本質的に完全な保護効果が得られることを示している。下表は、処置動物における神経学的欠損、梗塞パーセント(連続切片における梗塞領域から算出)、および脳半球拡大に関するデータを要約している。すなわち、PNAを注入すると、3倍過剰発現された形質転換SODの場合よりもかなり高度の保護効果が得られる。
【表3】

【0235】
また、塞栓および/または血圧低下から生じる心肺バイパスおよび他の外科的方法が施されている外科患者における虚血損傷、およびそれに伴う後続の再潅流損傷のかなりの発生の証拠が増加している。主たる標的臓器は、脳、心臓および腎臓である。
【0236】
外科手術/周囲手術による卒中設定における予防的治療のモデルとして、MCA閉塞前および再潅流後の両方でPNAをマウスに投与した。アルブミン単独でも脳虚血に対して中程度の保護作用を呈し得るため、PNAを対照としてHSAおよび食塩水の両方により試験した。図35および36に関して述べると、図35の食塩水処置ラットは広範囲におよぶ梗塞を示すが、図36のPNAラットの場合総体的に目立った梗塞は全く示さない。組織分析(図37Aおよび37B)は、食塩水処置ラットが192±17mm3の平均梗塞容積を有したことを示している。アルブミンで処置すると、81±26mm3の著しく小さい(p<0.01)平均梗塞容積が得られ、PNAで処置すると、アルブミン単独の場合の約2倍もの縮小が認められ、平均梗塞容積は18±223であった(p<0.05対アルブミン、p<0.01対食塩水)。
【0237】
ラットMCAOモデルにおける組織分析と平行して、磁気共鳴イメージ診断試験は、MCA閉塞開始時に存在するとき、PNAは、脳虚血中に拡散加重イメージ診断(DWI)過強度の出現を遅らせることを示している(図39)。さらに、再潅流損傷に対してPNAが呈する保護作用は、再潅流後のDWI過強度の急速な消失により示される。
【0238】
マウスにおける脳虚血に関する保護作用を立証するこれらの結果に加えて、本発明の化合物は、卒中のラットモデルにおいて効力を示した。
【0239】
図35aおよび35bに関して述べると、規定食塩水で処置されたラット(図35)およびPNAで処置されたラット(図36)の脳の典型的冠状縫合切片において、食塩水群では重大な組織壊死を示し、PNA処置群での壊死は顕著に少ない。ラットに対し、2時間のMCA縫合閉塞、次いで22時間の再潅流を行った。薬剤または食塩水を体重の1%(v/w)の全用量で投与(IV)し、その際次の要領で分割した。すなわち、全用量の1/2はMCA閉塞の5分前に与えられ、全用量の1/4は抜糸してMCAを再潅流させる5分前に与えられ、全用量の最後の1/4は再潅流の2時間後に与えられた。脳切片をTTCで染色した。 図37Aおよび37Bに関して述べると、一時的MCA閉塞に見舞われ、食塩水、ヒト血清アルブミン(25g/dl溶液として投与、体重の1%の全用量)またはPNAで処置されたラットにおける梗塞容積および梗塞%の組織分析により、虚血/再潅流損傷に対する脳組織の保護効果が示される。PNAで処置された動物は約2±3%梗塞を示し、アルブミンで処置された動物は約11±4%梗塞を示し、食塩水で処理された動物は約22±4%梗塞を示した。アルブミン単独ではPNAの場合と比べて保護効果は約50%であるという事実は、卒中治療における血漿膨張の潜在的役割を示唆している。従って、高張食塩水にPNAを溶かすと、卒中治療におけるその効力はさらに改善され得る。この実験でアルブミンがかなりの保護効果を呈したという事実は、卒中治療における血漿膨張に潜在的に有益な役割を果たしていることを示唆している。PNAがアルブミンの約2倍の保護作用を呈したという事実は、卒中における高張性または高浸透性療法の効力を高める場合にポリニトロオキシル化合物が有用であり得ることを示している。
【0240】
図38に関して述べると、かなりの量の自然発生常磁性物質がインビボでは存在しないため、活性PNA結合ニトロキシドの濃度はインビボEPR分光法により測定され得る。この実験では、ラットにおいてPE50ポリエチレン管を用いて大腿動静脈シャントを設けた。管の一部をEPR分光計の空洞に入れることにより、シャントを通って流れる血液のスピン密度の測定をした。反対側の大腿静脈でカテーテルによりPNAを注入し、PNA注射後の時間の関数として血液のスピン密度を測定した。標準曲線(図示せず)と比較すると、2時間間隔で3回注射すると、PNAのEPRシグナルは、5時間ニトロキシド1−6ミリモルの範囲のレベルで血液中で維持されることが示された。
【0241】
図39に関して述べると、拡散加重磁気共鳴イメージ診断(DWI)は、水の見かけ上の拡散係数(ADC)の変化を表すことが示された。卒中では、DWIにおける過強度が、虚血中における脳損傷の経過の即時指標であると考えられる。この実験では潅流加重イメージ診断(PWI)を使用することにより、MCAの閉塞および再潅流が確認された(イメージは示さず)。この図は、ラットにおける1.5時間にわたるMCA閉塞の前、最中および後に得られたDWIイメージを示し、各列は同じ脳の3平面で得られたイメージを示す。列Aは、MCA閉塞前にはDWI過強度が全く存在しないことを示している。列Bは、MCA閉塞の30分後、DWI過強度領域が出現し始め、MCA閉塞1時間で明確に特定されることを示している(列C)。比較した場合、対照イメージ(図示せず)では、明確なDWIイメージは典型的にはMCA閉塞の5−10分以内に現れる。すなわち、虚血開始前に存在するとき、PNAは実質的に脳での虚血性損傷の進行を減速させ得る。列Dは、再潅流の8分後に得られたイメージを示す。DWIイメージが本質的に消失してしまうことから、虚血中に生じるADC変化がPNAの存在下では再潅流時に急速に消散したことを示している。比較した場合、対照イメージは典型的には再潅流後にDWIイメージの進行を示しており、これは再潅流損傷を表すものである。列EおよびFは、各々再潅流の1および2時間後に得られたイメージを示し、DWIイメージが存在しないことを確認している。この動物をMCA閉塞24時間後に殺すと、皮質梗塞は全く無く、基底神経節に小さな梗塞を有することが組織学的に見いだされた。
【0242】
実施例12
【0243】
ヘモグロブリンを基剤とする赤血球代用物質(HRCS)の血管拡張およびバソニュートラル製剤
【0244】
図13は、ヘモグロビン基剤の酸素担体(HBOC)、具体的にはDBBF−Hbの血管収縮効果に対する本発明の組成物の効果を示す。この血管収縮作用は、この溶液の10%v/v最高負荷注入時における平均動脈圧(MAP)の増加を測定することにより、意識のあるラットモデルにおいて証明される。図13に関して述べると、点線は、HBOC注入後の時間の関数として平均動脈圧を示す。本発明によると、放射線防護、ERIおよび虚血/再潅流損傷保護に使用される同じPNAおよびTPL溶液は、広い範囲の酵素様およびラジカル解毒機能を有することが示される。PNAまたはTPLは、HBOCと単独で注射されると、抗高血圧作用を全く有しないことが見いだされた。さらに、意識のあるラットでは、PNA(5g/dl)またはTPL(100ミリモル)単独、10%v/v最高負荷により大した血管拡張効果は得られない。しかしながら、10%v/vで最高負荷されたPNA(5%/dl)/TPL(100ミリモル)からは、顕著で持続的な血管拡張効果が得られることが観察された(図29)。この血管拡張効果は、これらのラットにおける持続的血漿TPLレベルと一致する(図14)。PNAが存在しない場合、これらのラットにおけるTPLの血漿半減期は60秒未満である。従って、等容量のPNA(5g/dl)/100ミリモルTPLをDBBF−Hb7.8g/dlおよびこれらのラットにおける最高負荷20%v/vを混合することにより、血管作用のないHRCS製剤が生成される(図13)。図29で観察される血圧降下作用は血管平滑筋におけるTPLの持続的上昇(図14)と一致し、一酸化窒素の破壊を阻止するため(すなわち、超酸化物による内皮誘導弛緩因子(EDRF))、ラットにおいて血管拡張を促進し、MAPを低下させる(図29)。血管作用のないHRCS製剤の場合(図13)、HBOCおよびPNA/TPLの血管収縮および血管拡張活性は、インビボでの一酸化窒素レベルに対する互いの効果を相殺した。従って、HRCSのこの血管作用のない製剤は、遊離基および酸化的ストレスの全体的保護作用に基づき、目下臨床開発においてHBOCの顕著に改善されたものである。
【0245】
実施例13
【0246】
脂質酸化の阻害
【0247】
脂質の酸化は、脳および中枢神経系に対する再潅流損傷およびアテローム性動脈硬化並びに組織損傷に関与する。本発明のニトロキシド標識高分子は、脂質酸化を緩和することが証明されている。
【0248】
ヘパリンで凝血防止した血液約60mlを、健康な非喫煙者から採取した。4℃で20分間2000gで血液を遠心分離後、EDTA(1mg/mL)−抗凝血化静脈血から血漿LDLを製造した。血液、血漿およびLDL試料を、氷上弱い光の下で処理することにより、LDL抗酸化剤の光酸化を阻止した。レートゾーン密度勾配超遠心分離により、LDLを血漿から単離した。5gのKbrを10mLの血漿に加えることにより、血漿密度を1.3g/mLに上昇させた。10〜15分ティッパーで間穏やかに混合することにより、KBrを血漿に溶かした。各KBr−血漿試料を、イージーシールのポリアロマー超遠心分離管中23mLの氷冷0.9%NaCl下で層状に重ねた。密閉した管を、4℃で3時間50000rpm(302000g)で遠心分離した。遠心分離後、針で管の底に穴をあけ、5mL/分の速度で管中にフルオリネートをポンプ注入することにより、密度勾配を分画した。内容物を管の上部から集め、分画採取器に移した。非常に低密度のリポタンパク質を含有する勾配の最初の12mLを廃棄した。それに続いて、各々1.2mLの6分画を集めた。4番目の分画からは、暗黄色LDLピークが全般的に見いだされた。LDLを、ピーク分画+ピーク後の1分画およびピーク前の2分画からプールした。このLDLからは、アガロース電気泳動後に単一β−泳動帯が得られ、LDLが他のリポタンパク質による汚染を伴わないことを示していた。使用前に3回、LDL試料を6LのHBSS緩衝液に対して透析した。単離されたLDL試料を暗所で氷上貯蔵した。LDLタンパク質含有量を、標準物質として牛血清アルブミンを用いるペーターソン−ロウリー法により測定した。
【0249】
ヘミンおよびH2O2でのLDLの酸化により脂質酸化を測定した。LDL200μg/mLを、5マイクロモルのヘミンおよび50マイクロモルのH2O2を含むキュベットに加えた。最終検定容量は、pH7.4のHBSS緩衝液中2〜3mLであった。H2O2を加えることにより、検定を開始させた。実験によっては、PNA+TPLを、HBSS中1:100、1:1000および1:10000で希釈した。様々な時点で試料を除去し、チオバルビツロン酸還元性物質(TBARS)の測定を行った。チオバルビツロン酸、塩酸、トリクロロ酢酸(trichlorocetic acid)および蒸留水を含む500μLのチオバルビツロン酸試薬に試料を加えることにより、これは行われた。DSMO中ブチル化ヒドロキシトルエンを0.1mg/mLの最終濃度で加えることにより、後続の加熱段階中におけるTBARSの自然形成を阻止した。100゜で15分間加熱後、試料を室温に冷却し、10000gで10分間遠心分離した。澄明上清を、吸光係数1.56×105モル/L−1cm−1で532nmでの分光測光法により分析し、LDLタンパク質1ミリグラム当たりのTBARSのナノモル数として結果を表す。図35a−35dは、ヘミンH2O2に応じたLDL酸化の時間推移を説明している。これら4種の独立実験では、1:100、1:1000、1:10000でのPNA+TPLの存在下におけるLDLの酸化までの時間は強力に抑制されている。TBARS形成を反映する光学密度の増加は、1:100および1:10000PNA+TPLにより実験1および2で遮断されている。
【0250】
実施例14
【0251】
白血球活性化の阻害
【0252】
白血球と内皮細胞および血小板との相互作用は、局所および全身的虚血/再潅流損傷から臓器移植の拒絶におよぶ範囲の幾つかの有害な生理学的条件に対する微循環的応答、および様々な酸化性新種(novae)に対する生体応答の指標である。Lehrら、PNAS、791:7688(1984年8月)も参照。反応性酸素物質の伝達物質的役割については、多くのインビトロおよびインビボモデルで詳細に記録されているため、抗酸化剤およびラジカルスカヴェンジャーを適用することにより、白血球活性化、集合および内皮接着およびそれに続く微循環的機能不全は打ち消された。シリアンゴールデンハムスターにおける背面スキンフォールドチャンバーモデルを用いて、タバコの煙に誘発された白血球回転および小動脈および小静脈の内皮細胞への接着並びに血流中における白血球/血小板集合体の形成に対する2種の異なるポリニトロオキシル化担体の阻害作用を試験すると(Lehr et al., PNAS 91:7688, 1994)、HBOC(DBBF−橋かけヘモグロビン)は、食塩水処置対照と比べた場合白血球活性化に対する効果を全く有しなかったことが証明されている。しかしながら、ポリニトロオキシル化HBOCは、本質的に完全に白血球活性化を阻止した。使用された用量で活性化が阻止されている下表において観察されるところによると、アルブミンがある程度の保護作用を呈することは分かる。しかしながら、その表は、PNAもまた活性化を阻止したことを示しており、表に示されたHBOCおよびポリニトロオキシル−HBOC結果から、PNAの方が低蛋白質濃度でもアルブミンよりも優れた保護作用を呈することが予測される。上記の通り、ポリニトロオキシル化アルブミンおよびポリニトロオキシル化安定化ヘモグロビンに基づく酸素担体は、下表に示されているように内皮細胞および血小板との有害な白血球相互作用を有効に阻止する。
【表4】

実施例15
【0253】
皮膚病、特に乾癬への局所適用
【0254】
遊離基レベルが高い場合または遊離基カスケードが真皮で現れている場合の皮膚における幾つかの疾患の根元的な原因に向けて多くの研究が為されてきた。乾癬の場合、原因は多面的であるが、炎症プロセスの最終作用物質は、スーパーオキサイドおよび他の傷害性酸素基であると思われる。皮膚細胞および白血球は、両方とも乾癬における病的遊離基レベルの一因となっていることが報告されている。乾癬患者の病変および非関連皮膚からの皮膚線維芽細胞は、正常対照よりも高い(各々150%および100%)ことが報告された。Er-Raki A, Charveron M, および Bonafe JL 1993。乾癬患者の皮膚線維芽細胞におけるスーパーオキサイドアニオン生産の増加。Skin Pharmacol. 6:253-258。乾癬血清は、多形核白血球(PMNs)によるスーパーオキサイド発生を増加させることが報告された。 Miyachi Y および Niwa Y 1983。多形核白血球による酸素中間体の生成に対する乾癬血清の効果。Arch. Dermatol. Res. 275:23-26。乾癬患者からのPMNsにおけるSODレベルは、正常よりも顕著に低いことが報告された。Dogan P, Soyuer U, およびTanrikuli G 1989。乾癬における、多形核白血球でのスーパーオキサイド・ディスムターゼおよびミエロペルオキシダーゼ活性、および血清セルロプラスミンおよび銅レベル。Br. J. Dermatol. 120:239-244。スーパーオキサイド・ディスムターゼmRNAおよび免疫反応性酵素は、乾癬皮膚で増加されることが報告されたが、遊離基レベルの上昇を補う試みの表れであると思われる。Kobayashi T, Matsumoto M, Iizuka H, Suzuki K, および Taniguchi N 1991。乾癬、へん平上皮細胞癌腫および基底細胞上皮腫におけるスーパーオキサイド・ディスムターゼ:免疫組織化学試験。Br. J. Dermatol. 124:555-559。遊離基スカベンジャーは、乾癬に関する実験的試験で有益に作用することが報告されたため、遊離基を無毒化する薬剤であれば、乾癬病変部位で遊離基の傷害性効果を阻止することにより炎症プロセスを遮断し得ることになる。Haseloff RF, Blasio IE, Meffert H, および Ebert B. 1990。安息香酸および誘導体のヒドロキシル基スカベンジングおよび抗乾癬活性。Free Radical Biol. Med. 9:111-115。
【0255】
マウスにおけるインビボEPR分光法を用いることにより、本発明の化合物の有効性が、皮内PNAおよび静脈内15N−TPLの薬物動態分析から測定され得る。
【0256】
特注の橋絡式ループ-ギャップ表面共鳴器、吸収マイクロ波ブリッジを、マウスにおける1.25GHz(L−帯)でのインビボEPR分光法に使用した。この機器を用いることにより、マウスの体における特異部位での局所TPLおよびPNA濃度を測定した。麻酔されたマウスを2つの鋳型に挟んで「サンドイッチ」にし、後頭部の分光測光用には仰向け姿勢または腹部の分光測光用にはうつ伏せ姿勢でループ-ギャップ表面共鳴器、吸収マイクロ波ブリッジに配置させた。15N−TEMPOLの静脈内注射には尾部静脈カニューレを使用した。この注射部位は共鳴器からは遠位にあった。
【0257】
図40Aは、動物の背部における注射部位で測定された、皮内注射されたPNA(100μlの10g/dl PNA溶液)のEPRスペクトルを示す。
【0258】
図40Bは、動物背部における皮内PNA注射部位で測定された、皮内PNAおよび静脈内15N−TPLの混成スペクトルを示す。広い不斉中心ピークはPNA濃度のみを表し、左方への鮮明な低視野ピークは15N−TPL濃度のみを表す。スペクトルは、15N−TPLが尾部静脈から注射された1分後に得られた。15N−TPL用量は、体重の1%(w/w)割合の15N−TPLストック溶液(20mg/mlまたは〜115ミリモル、乳酸化リンガー溶液中)であり、約1.15ミリモルの血液濃度が得られた。図40Bは、15N−TPLシグナルを適応させるために図40Aで使用された機器利得の約1/5で記録された。図40Cは、5N−TPLの尾部静脈注射30分後に得られたEPRスペクトルを示す。特異的15N−TPLおよびPNAピークは、明らかに区別可能なままである。
【0259】
皮内PNA注射部位での15N−TPLの薬物動態は、図41に示されており、これは15N−TPL特異的ピークの強度対時間のプロットである。15N−TPLシグナルは尾部静脈注射直後に増加し、注射後2分未満で最大値に達し、次いで定常状態レベルに減衰した。残留定常状態レベルは、初期15N−TPL濃度の17%に相当し、全身水分に完全分布していると思われる。初期減衰は、TPLから反磁性(EPR−サイレント)TPHへの熟知された還元を表している。残留15N−TPLシグナルの持続性は、皮内PNAによる15N−TPHから15N−TPLへの再酸化に起因すると考えられる。
【0260】
図42Aおよび42Bに関して述べると、PNAによる皮内再酸化を証明するため、15N−TPLの局所薬物動態が試験され、30秒の半減期を示した。皮内PNAが存在しない場合、15N−TPLから15N−TPHへの減衰は完全である。 皮膚における15N−TPHの存在は、腹部でのPNAの皮内注射により証明される。皮内PNA(100μl、10g/dl)は、注射部位において局所的に15N−TPLを再生および持続させる。15N−TPHのインビボ再酸化の薬物動態は、図42Aおよび42Bを比較することにより示される。PNAの皮内注射後+5分で、15N−TPHの再酸化は本質的に完全になる。
【0261】
実施例16
【0262】
遊離基傷害性--腎臓損傷
【0263】
横紋筋融解の動物モデルにおいて、グリセリンのボーラス注射を主要筋中に行うことにより、ヘム誘導腎臓損傷を誘発する。ポリニトロキシドアルブミンは、対照としてアルブミンによる生存試験でグリセリン誘発腎臓損傷を低減化させることが示されている。体重約275gの雄スプラーグ-ドーリーラットを、基線血清クレアチニンを測定させた後、一夜(16時間)脱水状態にした。翌朝、1.25mlのポリニトロキシドアルブミンおよびTEMPOL(10g/dl)またはアルブミン(10g/dl)を、尾部静脈注射により投与した。注射直後、グリセリンのIM注射(水中50%v/v、10ml/Kg)を行い、用量の1/2を各腹側大腿筋に投与した。最初の注射の2時間後、さらに同一用量を尾部静脈注射により投与した。図43に関して述べると、次の10日間、生存および血清クレアチニンをモニターした。この期間の最後に、試験された全ラットは、死に瀕しているかまたは回復の徴候を示していた(下降する血清クレアチニン)。 ここに記載されている特定実施例は、教示的なものであって、通常熟練者が本発明を適用し得る適用法に対する限定として解されるべきではない。修正および他の用途も当業界の熟練者に利用可能であり、それらは後記請求の範囲により特定されている本発明の意図するものに包含される。上記に示された参考文献および出版物を具体的に引用して説明の一部とする。
【図面の簡単な説明】
【0264】
【図1】図1Aおよび1Bは、(A)第1日および(B)第30日に記載された4−アミノTEMPO標識O−ラフィノース重合ヘモグロビンの電子スピン共鳴スペクトル(TEMPO:2,2,6,6テトラメチルピペリジン−1−オキシル)を示す。図1Cは、第1日に記録された非標識ヘモグロビンの同量で希釈した図1Aのサンプルのスペクトルを示す。図1Dは、第30日に記録された図1Cのサンプルである。
【0265】
【図2】図2Aおよび2Bは夫々、4−(2−ブロモアセトアミド)−TEMPOがω−アミノヘキシルアガロースと、および4−アミノTEMPOが1,4−ビス(2:3−エポキシプロポキシ)ブタン−活性アガロースとうまく共有結合していることを表わす電子スピン共鳴スペクトルである。
【0266】
【図3】図3Aおよび3Bは夫々、4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPOおよび3−マレイドプロキシルが3,5−ビス−ブロモシリシル−ビスフマレート(DBBF)橋かけ結合またはジアスピリン橋かけ結合ヒトヘモグロビン(HBOC)とうまく共有結合がしていることを表す電子スピン共鳴スペクトルである。
【0267】
【図4】図4Aは4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPOのESRスペクトルである。図4Bは4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO標識HBOCのESRである。図4Cは、室温で記録された乳酸化リンガー溶液中の15ND17のESRスペクトルである。
【0268】
【図5】図5は、相違する分子比率のニトロキシドを有する4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO標識HBOCのESRスペクトルである。図5Aは2:1、図5Bは4:1、図5Cは8:1である。機器の感受性が図5Aから図5B、図5Cと割合に応じて低下し、中心ピーク(Mo)が同じピークの高さを有するであろうスペクトルを記録した。
【0269】
【図6】図6は、4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO標識HBOCと15ND17−TEMPOLとの混合物のESRスペクトルであって、前者の中心ピーク(下向き矢印)および後者の高フィールドピーク(上向き矢印)が同じ強さに調整された。これは、図4Bおよび図4CからのESRスペクトルの重ね写しである。
【0270】
【図7】図7は、マウスでの4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO標識HBOCの血漿半減期を示す。図7Aは、図6に示されたサンプル0.5ml静注約10分後のマウス尾で記録したニトロキシドシグナルのESRスペクトルである。図7Bは、機器感受性の10倍で記録された図7Aの中心ピーク(Mo)シグナル強度における時間依存(間隙時間30分)低下を示す。図7Cは、間隙の最後における図7Bからの続きである。
【0271】
【図8】図8は、4−(2−ブロモアセタミド)−TEMPO標識HBOC(Hb 8g/dl、TEMPO対Hb 8:1)および15ND17−TEMPOL(マウス32g中0.5mg)の混合物の血漿半減期を示す。これは、注入ニトロキシドをすぐに記録するためのカニューレをつけたマウスの尾から記録された。注入前のサンプルのSERスペクトルは図6に示す。図8Aは0.5分間隙で記録された5ESRスペクトルであり、磁場強度は各スキャン間で2ガウス増大し、機能時間としてのシグナル強度における低下を表した。図8Bは、6ESRスペクトルのくり返し記録の図8Aからの続きであり、磁場強度が2ガウス低下する以外は各スキャン間で同じ時間間隔である。
【0272】
【図9】図9Aおよび9Bは夫々、4−アミノ−TEMPO標識およびO−ラフィノース橋かけ結合および重合化ヒトヘモグロビンおよびグルタアルデヒドで重合化された3−マレイミド−プロキシル標識DBBF−ヘモグロビンを示す電子スピン共鳴スペクトルである。
【0273】
【図10】図10Aおよび10Bは夫々、(A)3−ドキシルコレスタン含有および(B)16−ドキシルステアリン酸含有ヒトヘモグロビンを封入したリポソームの電子スピン共鳴スペクトルである。
【0274】
【図11】図11は、4−アミノ−TEMPOで標識され、デキストランで橋かけ結合されたニトロキシド標識のヘモグロビンの電子スピン共鳴スペクトルである。
【0275】
【図12】図12は、ニトロキシドが結合し、ヘモグロビン含有溶液が通過する固体マトリックスを含むフィルターカートリッジの具体的態様である。
【0276】
【図13】図13は、覚醒ラットにおけるリンガー乳酸化溶液中の10%v/vDBBF−Hb 7.8g/dlおよび10%v/vDBBF−Hb 7.8g/dl+ポリニトロキシドアルブミン(PNA)5g/dl+TPL100mM 10%v/v(実線)の静注に対するマウスの平均動脈圧(MAP)の反応を示す。ラットは試験の約7日前に手術および麻酔から回復していた。
【0277】
【図14】図14は、静注後のTPL血漿濃度と時間の関係を示す。血漿サンプルは図13で記述したラットから得た。濃度はEPRスピン密度測定によった。
【0278】
【図15】図15A、15Bおよび15Cは夫々、電子常磁性共鳴(EPR)スペクトルであり、15Aはリン酸ナトリウム緩衝液50Mm中TPL(2mM)、pH7.6、15Bは同じ緩衝液中TPH(2mM)、15Cはポリニトロキシドアルブミン(PNA)である。EPR分光計の条件は次の通りである。マイクロウェーブ力:8mW、リシーバー・ゲイン:100e+03、変調振幅:0.5G、変調周波数:100KHz、マイクロウェーブ周波数:9.43GHz、掃引幅:200G。
【0279】
【図16】図16は、12Gray放射におけるチャイニーズハムスターV79細胞の生存分画を示す棒グラフである。V79細胞はX線照射10分前に前処置された。TPHまたはPNA単独では放射線保護作用は観察されなかった(2%生存を示す棒は非処置の対照と変わりがない)。TPHおよびPNAの作用を含むサンプルについての棒によって放射線保護の増加が示された(8%生存)。
【0280】
【図17】図17は、PNAによるTPHのTPLへの変換を示す。一定濃度25mMのTPHに、リン酸ナトリウム緩衝液50mM中、pH7.6でPNAの濃度を増加して混合した。TPL/TPHの比率を25mM PNA濃度に対して表記した。この比率は変換効率を示す。TPL濃度は、TPH25mMと7種の異なる濃度のPNAを室温で30分間インキュベートし、次いで1時間5000×gで10KD膜セントロコン(centrocon)分離を行って測定した。濾液におけるTPLの高フィールドEPRピーク強度はTPL標準線で目盛をつけ、プロットして表記した。
【0281】
【図18】図18は、スキャン間における約1Gでフィールド強度を増大せしめて記録したマウスの尾の15EPRスペクトルの継続的記録である。スキャン数は15N TPLの高フィールドピーク(M−1/2)で標記した。マウスは40mM 15N TPL0.5mlであらかじめ注射した。このTPLは半減期2分間でTPHに還元した(結果は示していない)。PNAと15N TPLの混合物のマウス尾静脈への第2回目の注射は、同じ速度の15N−TPL消失(2分間までの半減期を有する30秒間隙で記録したピーク1−5参照)を示し、次いでピーク強度の同様の速い回復(ピーク5−7参照)があった。TPLのピーク強度は半減期13分間に遅くなる(ピーク7−15、1分間隙で記録、参照)。15N−TPLピーク(TPL)のクラスター(M+1/2およびM−1/2)間のポリニトロキシドアルブミン(PNA)の中心(Mo)ブロード共鳴ピーク(A)も半減期13分間に遅くなるようであった。このように、15N−TPLの使用はインビボにおけるTPHからPNA上の14Nニトロキシドへのスピン移送を明白に示す。図18B、18Cおよび18Dは、3種の相違するニトロキシド標識ヒトタンパク質によるTDPSの活性化を示すESRスペクトルである。図18Bおよび18Dはニトロキシドの相違する物質で標識したアルブミンによるTOPS活性化を示す。図18Cは、ニトロキシド標識ヘモグロビンを基にする酸素担体である。図18Bは、リン酸ナトリウム緩衝液pH7.8中2分間の(1)50Mm TOPSのみ、(2)43Mmのみ(3)TOPS(50Mm)と混合したPNA(43mM)を示す。図18Cはリン酸ナトリウム緩衝液pH7.8中2分間の(1)50Mm TOPSのみ、(2)15Mm PN−HBOC、(3)PN−HBOC(15mM)を示す。図18Dはリン酸ナトリウム緩衝液pH7.8中2分間の(1)50mMのみ、(2)10Mm B3T標識アルブミンのみ、(3)TOPS(50mM)との混合のB3T−標識アルブミン(10mM)を示す。
【0282】
【図19】図19は、C57マウスにおけるPNAの存在下または非存在下においてのTPLおよびTPHの薬物動力学を示す。EPR高磁場ピーク強度をモニターすることにより測定した任意の単位におけるTPLの血漿レベルを、静脈内投与によるTPL(2mMのみ)(□)、腹腔投与によるTPL275mg/kg(◇)、および静脈投与によるPNAに続けて腹腔投与によるTPH100mg/kg(○)を時間軸(分)の関数としてプロットした。
【0283】
【図20】図20は、静脈内投与によるPNA0.5ml/マウス処理に続けて10分後にPBS緩衝液で処理(■)、0.5mlPBSに続けて10分後に腹腔(ip)投与によるTPL200mg/kg処理(●)、静脈内投与によるポリニトロオキシドアルブミン0.5ml/マウス処理に続けて10分後にTPL200mg/kgで処理(◆)した後に10グレイの放射線にさらしたC57マウス(10匹/各グループ(N=10))の30日間の生存試験を示す。
【0284】
【図21】図21は、静脈内投与によるPNA0.5ml/マウス処理に続けて10分後にPBS緩衝液で処理(■)、0.5mlPBSに続けて10分後に腹腔投与によるTPL200mg/kgで処理(●)、静脈内投与によるポリニトロオキシドアルブミン0.5ml/マウスに続けて10分後にTPL50mg/kgで処理(◇)した後に10グレイの放射線にさらしたC57マウスの30日間の生存試験を示す。
【0285】
【図22】図22Aは、TPLおよびポリニトロオキシドアルブミン充填ラット心臓の3次元の立体(25×25×25mm3)EPR像(全体像)である。像は虚血の2.5時間後に得られた144の投影図を用いて再構成された。図22Bは、同じ像の分断図である。データ時のパラメーターは以下の通りであった:スペクトル窓:7.0G;立体窓:25mm;最大勾配:49.3G/cm。
【0286】
【図23】図23は、3次元立体像から得られたTPLおよびPNA充填ラット心臓のEPR像(25×25mm2)であり、虚血持続時間(156分)の指標として時間が示されている。データ時のパラメーターは以下の通りであった:取得時間:10分間;スペクトル窓:7.0G;立体窓:25mm;最大勾配:49.3G/cm。
【0287】
【図24】図24は、2つの虚血心臓における15N−TempolEPRの強度と、虚血の持続時間を示す。上部の線は2mMTPL+PNAで処理(●)した心臓を示し、下部の線は2mMTPLのみで処理(■)した心臓を示す。実線は、測定された強度データに二乗指数的に一致する。半減期はそれぞれ0.4分、2.9分(■)、および3.3分、30.1分(●)である。
【0288】
【図25】図25は、連続像において時間がデジタル(分:秒)で示された虚血の持続時間の関数としての、TPL+PNA充填ラット心臓の横断薄片の2次元横断面(25×25mm2)EPR像である。像は3次元の立体像から得られた。データ時パラメーターは図23と同様であった。
【0289】
【図26】図26は未処置の対照心臓(○)、2mMTPLで処置(●)、およびPNA(4g/dl)+2mMTPL(▲)で処置したものにおける冠動脈血流の回復の測定を示す。心臓を30分間、全身虚血の状態とし、45分間再灌流した。
【0290】
【図27】図27は未処置の対照心臓(○)、2mMTPLで処置したもの(●)、およびPNA4g/dl+TPL2mM(▲)における速度加圧生成物(RPP)の回復の測定を示す。心臓を30分間、全身虚血の状態とし、ついで45分間再灌流させた。
【0291】
【図28】図28は、図25で示される像から得られた15N−TPL+PNAで処置したラット心臓におけるTempolのEPRシグナル強度と、虚血の持続時間とのグラフである。強度値は、以下のように対応する3次元立体像の特定部位で得られた:LAD(●),大動脈(■)、LV−尖(▼)および組織(▲)。
【0292】
【図29】図29は、意識下のラットにおける7.8g/dl10%v/vDBBF−Hb+PNA7.5g/dl+TPL100mM10%v/v(n=4)の静脈内注入に対応する平均動脈圧(MAP)を示す。ラットは実験の約7日前に手術および麻酔から回復させた。
【0293】
【図30】図30は、PNAで処置したマウスにおける神経学的欠損の減少を示す。MCA/CCA閉塞により1時間、焦脳虚血とし、次いで再灌流させた。マウスを虚血の開始前にPNA(プレPNA)またはヒト血清アルブミン(HSA)で処置するか、または再灌流後すぐに(ポストPNA、ポストHSA)処置し、再灌流の24時間後に神経状態を解析した。PNAまたはヒト血清アルブミンの用量は、体重の0.5%(v/w)であった。
【0294】
【図31】図31は、PNAで処置したマウスにおける梗塞容積の減少を示す。MCA/CCA閉塞により1時間、局所脳虚血とした後、ついで再灌流した。マウスを虚血の開始前にPNA(プレPNA)またはヒト血清アルブミン(プレHSA)で処置するか、または再灌流後すぐに処置し(ポストPNA、ポストHSA)、再灌流の24時間後に組織解析を行う。PNAまたはアルブミンの用量は、体重の0.5%(v/w)であった。梗塞容積を、脳の前面先端から0.5mm間隔でとった連続頭頂部分における梗塞面積を総和することにより計測した。結果は平均±SEM、n=7で示した。
【0295】
【図32】図32は、PNAで処置したマウスにおける梗塞の減少をパーセンテージで示した。MCA/CCA閉塞により1時間局所脳虚血とし、ついで再灌流した。マウスを虚血の開始前にPNA(プレPNA)またはヒト血清アルブミン(プレHSA)で処置するか、または再灌流後すぐに処置し(ポストPNA、ポストHSA)、24時間再灌流した後、組織学的解析を行った。PNAまたはアルブミンの用量は体重の0.5%(v/w)であった。梗塞のパーセントを(梗塞容積/同側大脳半球容積)×100で計算した。結果は平均±SEM、n=7で表記した。
【0296】
【図32A】図32Aは、対照とPNA処置マウスの脳の連続断片における発作障害の測量を示す。一連の20μmの厚さの頭頂組織断片を同じ脳の前頂から500μm間隔でとり、脳虚血を断片当たりの梗塞面積(mm2、平均±S.D.)として測量した。対照(■)と比較して、PNA処理マウス(●)における梗塞面積の相違は2本の線の間の面積である(p<0.05スチューデントのt−検定による)。
【0297】
【図33】図33は、PNAで処置したマウスにおける大脳半球拡大の減少を示す。動物を、MCA/CCA閉塞により1時間局所脳虚血とした後、再灌流を行った。動物を、虚血の開始前にPNA(プレPNA)またはヒト血清アルブミン(プレHSA)で処置するか、または再灌流後すぐに処置し(ポストPNA、ポストHSA)、24時間再灌流した後に組織学的解析を行った。PNAまたはアルブミンの用量は体重の0.5%(v/w)であった。パーセント大脳半球拡大を(同側大脳半球容積−反対側の大脳半球容積反対側の大脳半球容積)×100として計算した。結果は平均±SEM、n=7として表記した。
【0298】
【図34】図34Aおよび34Bは、局所脳虚血(1時間)および再灌流(24時間)したPNA処置マウスと対照マウスにおける脳梗塞の減少を示した代表的な頭頂断片を示す。20μmの厚さの断片を、虚血組織にあまり取り込まれないクレシルバイオレットで染色した。図34Aは、未処置動物の脳断片であり、実質的に全ての大脳半球における広範囲に及ぶ虚血障害(非染色部分)を示す。浮腫は、同じ脳の反対側の大脳半球と比較して梗塞された大脳半球が拡大するに伴い出現する。図34Bは、PNA処置動物の脳の断片であり、正常な組織構造および浮腫がないことを示す。これは、PNAが発作障害を防御することを示す。図34Cは、PNA処置マウスと対照マウスにおける発作障害の減少を示す代表的な組織学的断片である。動物を脳虚血(1時間)および再灌流(24時間)させた。処置マウスに、虚血前および再灌流の開始時にPNAを静脈内投与した。各用量は体重の1%(v/w)に等しかった。虚血の解剖学的範囲を実証するために、20μmの厚さの頭頂断片を脳の前面先端から500μmの間隔で作成し、クレシルバイオレットで染色した。虚血組織は染色されなかった。未処置動物(左パネル)は、実質的に全ての大脳半球に虚血障害のあることを示す。顕著に対照的なことには、PNA処置動物(右パネル)は全脳を通じて正常な組織のあることを示す。
【0299】
【図35】図35は、PNAに浸し、MCA縫合閉塞の2時間後に染色した動物のラット脳の一連の染色頭頂断片である。
【0300】
【図36】図36は、食塩水(対照)に浸し、MCAの縫合閉塞の2時間後に染色した一連の動物のラット脳の染色頭頂断片である。
【0301】
【図37】図37Aおよび37Bは、一過性MCA閉塞後および食塩水、ヒト血清アルブミンおよびPNA投与後のラットにおける梗塞容積および梗塞パーセンテージの組織学的解析である。
【0302】
【図38】図38は、2時間間隔で3回PNA注入を行う、時間の関数として測定したラット血液のスピン強度である。
【0303】
【図39】図39は、閉塞およびMCAの再灌流の間のラット脳の拡散加重磁気共鳴像である。
【0304】
【図40】図40A、40Bおよび40Cは、麻酔したマウスの背中の皮膚におけるPNAおよび15N−TPLのEPRスペクトルである。PNA100μlを麻酔したマウスの背中の皮膚に皮内投与し、(A)で示されるスペクトルを記録した。ついで、15N−TPL(1%v/w、20mg/ml)を静脈内投与し、(B)で示されるスペクトルを1分後に記録した。30分後に(C)のスペクトルを記録した。
【0305】
【図41】図41は、静脈内15N−TPL(1%v/w)の薬物動力学を示し、PNAを皮内注入したマウスの背中の皮膚の部分で測定した。低磁場15N−TPLピークの強度を時間に対してプロットする。15N−TPLシグナルは注入後に上昇し、ついで5分以内に急速に下降し、これは生物還元を反映している。ここで示されるようにPNAの存在下においては、15N−TPLシグナルは5分後に安定し、少なくとも30分間は安定であり、これはPNAによる酸化を反映している。
【0306】
【図42】図42Aおよび42Bは、マウス腹部の皮膚の部分で測定した静脈内15N−TPL(1%v/w)の薬物動力学を示す。(A)低磁場ピーク強度は上昇および下降し、15N−TPLの注入後5分以内に下降する。(B)100μlPNAの皮内投与後の時間関数としての15N−TPLシグナル強度の増加は、少なくとも30分間維持した。
【0307】
【図43】図43は、筋肉にグリセロールを注入し、次いでTempolと共にポリニトロオキシドを用いておよび対照としてアルブミンを用いて腎障害をおこした横紋筋融解の動物モデルにおける10日間の生存率を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜透過性の第1のニトロキシド、実質的に膜非透過性の第2のニトロキシドおよび薬学的に許容される投与のための担体を含有し、
第1のニトロキシドがTEMPOL、プロキシルおよびドキシルからなる群から選択され、
第2のニトロキシドがポリニトロキシドで標識されたアルブミン、ヘモグロビン、リポソーム、デキストラン、シクロデキストランおよびヒドロキシエチルデンプンからなる群から選択される生体適合性高分子である組成物。
【請求項2】
第1のニトロオキシドがTEMPOLである、請求項1記載の組成物。
【請求項3】
ポリニトロキシドで標識された生体適合性高分子がアルブミンであり、ニトロキシドとアルブミンのモル比が7〜95である、請求項1または2記載の組成物。
【請求項4】
ポリニトロキシドで標識された生体適合性高分子がポリニトロキシドヘモグロビンである、請求項1または2記載の組成物。
【請求項5】
該組成物を投与した部位のイメージ向上を局在化するのに効果的である、請求項1〜4いずれかに記載の組成物。
【請求項6】
心臓または脳虚血においてEPRまたはMRI画像を得るために静脈内投与されるものである、請求項5記載の組成物。
【請求項7】
虚血再灌流損傷を軽減するためのものである、請求項1〜4いずれかに記載の組成物。
【請求項8】
脳血管系または心血管系における虚血または再灌流損傷の処置のためのものである、請求項7記載の組成物。
【請求項9】
皮膚層の虚血または再灌流損傷の処置のためのものである、請求項7記載の組成物。
【請求項10】
電離性放射より生物体を保護するために用いられる、請求項1〜4いずれかに記載の組成物。
【請求項11】
生物系における遊離基毒性による影響を減少するためのものである、請求項1〜4いずれかに記載の組成物。
【請求項12】
遊離基毒性効果が敗血症、潰瘍、白内障、放射被曝、炎症、脱毛症、虚血/再灌流損傷、閉鎖性頭部損傷、外傷、火傷、乾癬、加齢、脳卒中または腎不全からなる群より選択される疾患状態に関連するものである、請求項11記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18A】
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【図18B】
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【図18C】
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【図18D】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図32A】
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【図33】
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【図34A】
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【図34B】
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【図34C】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図40】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【公開番号】特開2008−74876(P2008−74876A)
【公開日】平成20年4月3日(2008.4.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−320959(P2007−320959)
【出願日】平成19年12月12日(2007.12.12)
【分割の表示】特願平8−529473の分割
【原出願日】平成8年3月29日(1996.3.29)
【出願人】(507374099)シンザイム・テクノロジーズ・インコーポレイテッド (1)
【氏名又は名称原語表記】SYNZYME TECHNOLOGIES, INC.
【Fターム(参考)】