説明

ノズルシステム

【課題】汚染物質回収用の液体中の汚染物質の濃度が飽和しにくいノズルシステムを実現する。
【解決手段】ノズルの先端から押出した液体で試料表面を掃引し、掃引後の液体をノズルで吸引して試料表面の汚染物質を回収するノズルシステム(1)は、先端の押出口(122a)とはキャピラリー(122)で連通する液溜(120)を有するノズル(100)と、前記液溜の液体(140)の一部(140a)を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して試料表面(400)を掃引し、掃引の途中で前記液体を前記キャピラリーを通じて前記液溜に吸引して内部液体(140b)と混合・希釈し、混合・希釈後の前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して掃引を再開する掃引手段を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はノズルシステムに関し、特に、ノズルの先端から押出した液体で試料表面を掃引し、掃引後の液体をノズルで吸引して試料表面の汚染物質を回収するノズルシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程では、シリコンウェーハ上の汚染物質の有無を調べるために、試料表面を液体で掃引して汚染物質を液体に吸収させ、掃引後の液体を回収して分析することが行われる。液体による掃引は、水平面内で回転する試料の面上で、先端から液体が押出されたノズルを横方向に移動させることによって行われ、液体の回収は、ノズルで液体を吸引することにより行われる(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】米国特許第6,960,265号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ノズルから押出された液体中では、汚染物質の濃度が掃引の進行とともに増加する。このため、汚染物質の種類や汚染の程度によっては、掃引途中で汚染物質の濃度が飽和し、それ以上吸収できなくなる場合がある。
【0004】
そこで、本発明の課題は、汚染物質回収用の液体中の汚染物質の濃度が飽和しにくいノズルシステムを実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するための手段としての本発明は、ノズルの先端から押出した液体で試料表面を掃引し、掃引後の液体をノズルで吸引して試料表面の汚染物質を回収するノズルシステムであって、先端の押出口とはキャピラリーで連通する液溜を有するノズルと、前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して試料表面を掃引し、掃引の途中で前記液体を前記キャピラリーを通じて前記液溜に吸引して内部液体と混合・希釈し、混合・希釈後の前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して掃引を再開する掃引手段を具備することを特徴とするノズルシステムである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、ノズルの先端から押出した液体で試料表面を掃引し、掃引後の液体をノズルで吸引して試料表面の汚染物質を回収するノズルシステムは、先端の押出口とはキャピラリーで連通する液溜を有するノズルと、前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して試料表面を掃引し、掃引の途中で前記液体を前記キャピラリーを通じて前記液溜に吸引して内部液体と混合・希釈し、混合・希釈後の前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して掃引を再開する掃引手段を具備するので、汚染物質回収用の液体中の汚染物質の濃度が飽和しにくいノズルシステムを実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、図面を参照して発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、発明を実施するための最良の形態に限定されるものではない。
図1に、ノズルシステム1の構成を模式的に示す。ノズルシステム1は、発明を実施するための最良の形態の一例である。ノズルシステム1の構成によって、ノズルシステムに関する発明を実施するための最良の形態の一例が示される。
【0008】
図1に示すように、ノズルシステム1は、ノズル100、シリンジポンプ200およびコントローラ300を有する。ノズル100の先端は、試料400の表面に狭い間隔で対向する。試料400は、例えばシリコンウェーハ等である。
【0009】
ノズル100は、内部に液溜120を有する筒となっている。液溜120は、キャピラリー122およびキャピラリー124を通じて、筒先側の端面132および筒元側の端面134にそれぞれ開口している。キャピラリー122の内径は、液溜120の内径よりかなり小さい。ノズル100は、本発明におけるノズルの一例である。液溜120は、本発明における液溜めの一例である。キャピラリー122は、本発明におけるキャピラリーの一例である。
【0010】
筒先側の端面132は円形である。端面132の外縁132aは、先端方向に突き出ている。これによって、端面132は凹面となる。キャピラリー122は、ノズル100の中心軸から大きく偏心して設けられる。このため、キャピラリー122の開口122aは、図2に示すように、外縁132aのごく近傍に位置する。この開口122aを通じて、液溜120への液体の吸引および液溜120からの液体の押出しが行われる。開口122aは、本発明における押出口の一例である。
【0011】
液体の吸引および押出しは、筒元側のキャピラリー124にチューブ126で接続されたシリンジポンプ200によって行われる。シリンジポンプ200は、コントローラ300によって制御される。コントローラ300は、また、ノズル100および試料400の運動を制御する。シリンジポンプ200およびコントローラ300は、本発明における掃引手段の一例である。
【0012】
ノズルシステム1の動作を説明する。先ず、図示しない貯蔵部から液体をノズル100で吸い上げて、液溜120内に溜込む。これによって、図3に示すように、液溜120に液体140が溜込まれる。溜込まれる液量は、例えば500μLである。
【0013】
次に、液溜120中の液体140の一部をキャピラリー122を通じて開口122aから押出す。これによって、図4に示すように、ノズル100の端面132と試料400の表面の間の隙間が液体で満たされる。試料400の表面は疎水性なので、液体は広がることなく表面張力によって概ね饅頭形の液滴となる。以下、押出された液体を液滴140aといい、液溜120に残る液体を残留液140bという。
【0014】
液滴140aの量は例えば100μLである。これによって、残留液140bの量は約400μLとなる。すなわち、液体140の一部が開口122aから押出されたときに液溜120に残留する液量は、押出された液量より多い。なお、押出量と残留量の大小関係はこれに限らず、両者を等しくするかあるいは残留量を押出量より少なくしても良い。
【0015】
この状態で、試料400の表面の掃引が行われる。掃引は、例えば、図5に示すように、試料400を表面に平行な面内で回転させながら、ノズル100を回転半径の方向(横方向)に移動させることによって行われる。このとき、ノズル100は、開口122aが、試料400の回転方向から見て下流側となる関係で、試料400と対向している。ただし、このような関係は必須ではない。
【0016】
1回転当たりのノズル100の横移動のピッチは、液滴140aの直径以下とされる。このようなピッチで、ノズル100を試料400の横方向の全範囲を移動させることにより、試料400の表面をくまなく掃引することができる。なお、掃引方法は、これに限らず、試料400の表面全体を掃引可能な適宜の方法であって良い。
【0017】
液滴140aで掃引することにより、試料400の表面上の汚染物質は、液滴140aに逐次取込まれる。これによって、液滴140aにおける汚染物質の濃度は、掃引の進行とともに次第に増加する。
【0018】
掃引の途中の所定の段階で掃引を中断し、液滴140aをキャピラリー122を通じて吸引して液溜120内に回収する。その際、吸引の進行とともに液滴140aが次第に小さくなって隙間が生じ、表面張力の関係で液体は外縁132aに沿って集まるようになるが、そのような状態になっても、開口122aが外縁132aのごく近くにあることにより、液滴140aは外縁132aに沿って吸い寄せられ、液滴140aは残らず吸い尽くされる。
【0019】
液滴140aの吸引に際しては、試料400の回転もしくはノズル100の移動またはそれらの組合せにより、ノズル100を、開口122aの偏心方向とは反対方向に試料表面に沿って相対的に移動させるのが良い。このようなノズル100の相対移動により、液滴140aを外縁132aに沿って開口122aまで送り込むことができ、開口122aを通じた液滴140aの吸引をさらに完璧にすることができる。
【0020】
液滴140aの吸引がキャピラリー122を通じて行われることにより、吸引される液滴140aの線速度が高くなる。このため、液滴140aは高速で液溜120に流入し、残留液140bとよく混じり合う。
【0021】
液滴140aを吸い尽くしたときは、図3に示したように、液溜め120には液体140の全量が収容される。この状態では、吸引された液滴140aと残留液140bがよく混じり合っているので、液滴140aと一緒に吸引された汚染物質は希釈され、その濃度が低下する。
【0022】
これに対して、押出口の内径が液溜の内径とあまり差がないノズルでは、液体を吸引しても、液体が全体的に上に移動するだけで、吸引した液体は残留液体と混じり合わず、したがって、汚染物質は希釈されない。
【0023】
汚染物質の希釈後に、再び液溜120中の液体140の一部を開口122aから押出す。これによって、図4に示したように、ノズル100の端面132と試料400の表面の間の隙間が、液滴140aで満たされる。液滴140a中の汚染物質は希釈により濃度が低下しているので、液滴140aの汚染物質吸収能力は、掃引開始時に匹敵する程度に回復している。
【0024】
この状態で、試料400の表面の掃引が再開される。掃引は、例えば、図5に示したように、試料400を表面に平行な面内で回転させながら、ノズル100を回転半径の方向に移動させることによって行われる。再開後の掃引は、汚染物質吸収能力が回復した液滴140aにより効率良く行われる。
【0025】
このようにして、液滴140aの汚染物質吸収能力の回復が、所定の掃引距離ごとに行われる。所定の掃引距離は、例えば、ノズル100が横方向に50mm移動する距離である。なお、それに限らず、掃引の周長または面積が所定値に達するたびに行うようにしても良い。
【0026】
掃引が終了したとき、液滴140aを開口122aを通じて吸引して液溜120内に回収する。液滴140aの吸引は、上記と同様にして行われる。これによって、液滴140aは、それに吸収された汚染物質とともに液溜120内に完全に回収される。
【0027】
回収後、液溜120中の液体140は、図示しない回収容器に吐出される。回収容器の液体は分析装置による成分分析に供される。分析装置としては、例えば、誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS)が用いられる。なお、分析装置はそれに限らず、誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−OES)等、適宜の分析装置であってよい。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明を実施するための最良の形態の一例のノズルシステムの構成を示す図である。
【図2】ノズル先端の平面図である。
【図3】ノズルが液体を吸引した状態を示す図である。
【図4】ノズルが液体を押出した状態を示す図である。
【図5】ノズルによる試料表面の掃引を示す図である。
【符号の説明】
【0029】
1 : ノズルシステム
100 : ノズル
120 : 液溜
122,124 : キャピラリー
122a : 開口
126 : チューブ
132 : 端面
132a : 外縁
140 : 液体
140a : 液滴
140b : 残留液
200 : シリンジポンプ
300 : コントローラ
400 : 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズルの先端から押出した液体で試料表面を掃引し、掃引後の液体をノズルで吸引して試料表面の汚染物質を回収するノズルシステムであって、
先端の押出口とはキャピラリーで連通する液溜を有するノズルと、
前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して試料表面を掃引し、掃引の途中で前記液体を前記キャピラリーを通じて前記液溜に吸引して内部液体と混合・希釈し、混合・希釈後の前記液溜の液体の一部を前記キャピラリーを通じて前記押出口から押出して掃引を再開する掃引手段
を具備することを特徴とするノズルシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−281757(P2009−281757A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−131536(P2008−131536)
【出願日】平成20年5月20日(2008.5.20)
【出願人】(505322131)株式会社 イアス (10)
【Fターム(参考)】