説明

ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線

【課題】コネクタの端子と圧接加工機の圧接パンチとの距離が従来に比べて小さい場合であっても、圧接加工時における外観不良の発生を有効に防止し得る電線、すなわち多様な圧接コネクタの種類や圧接加工の条件に対応して適用可能な電線の絶縁被覆材として好適に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線を提供する。
【解決手段】(A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部と、(B)金属水和物120〜250質量部とを含有するように、樹脂組成物を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線に関する。
【背景技術】
【0002】
電気・電子機器の内部配線に用いられる絶縁電線の被覆材(以下、単に「絶縁被覆材」という。)としては、ポリ塩化ビニル(PVC)コンパウンド又は分子中に臭素原子若しくは塩素原子を含有するハロゲン系難燃剤を配合したエチレン系共重合体を主成分とする樹脂組成物がよく知られている。しかし、適切な処理を施すことなくこれらを廃棄した場合、絶縁被覆材に配合されている可塑剤や重金属安定剤が溶出したり、これらを燃焼させると、絶縁被覆材に含まれるハロゲン化合物から腐食性ガスやダイオキシン類が発生することがあり、近年、このことが問題となっている。このため、有害な重金属の溶出やハロゲン系ガス等の発生の恐れがないノンハロゲン難燃材料で電線を絶縁被覆する技術が検討されている。
【0003】
ノンハロゲン難燃材料においては、ハロゲンを含有しない難燃剤を樹脂に混合することによって難燃性を発現させている。このようなハロゲンを含有しない難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の金属水和物が、また、この難燃剤が混合される樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン系共重合体(エチレン・1−ブチン共重合体、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・アクリル酸エチル共重合体、エチレン・プロピレン・ジエン三元共重合体等)が用いられている。
【0004】
機器内配線には、安全性の面から非常に高い難燃性基準、例えば、UL規格のVW−1を満たすことや、良好な圧接加工性が求められる。ここで、「圧接加工性」とは、図1、図2及び図3に示すように、樹脂製のストレインリリーフ部分23を有する枠体22と金属製の端子21で構成されるコネクタ2に、図3に示す圧接パンチ(打ち込み歯)3と呼ばれる押込み具で絶縁電線1を挿入嵌合し、端子21が絶縁電線1の絶縁被覆材12を突き破って導体11と接触することにより、絶縁電線1とコネクタ2とを接続する場合における作業性を意味する。
【0005】
この圧接加工は、接続に当たり、絶縁電線1の端末の絶縁被覆材12を除去して導体11を露出させるストリップ作業を省略することができ、複数の絶縁電線1を一括して接続できることから、接続作業性に優れた方法として実用化されている。配線に求められる圧接加工性としては、特に、圧接加工時に外観不良を生じないことが重要である。外観不良には、図4に示すように、コネクタ2の枠体22のストレインリリーフ部分23で絶縁被覆材12に変形が生じて判定基準4よりも盛り上がってしまい絶縁電線1がコネクタ2から抜け易くなることと、端子21と導体11とが接触している部分の周囲に絶縁被覆材12の破れが伝播して導体11が露出してしまい導体11が劣化し易くなることがある。難燃性及び圧接加工性に優れた機器内配線の絶縁被覆材12として適用可能なノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、例えば、下記の特許文献1〜3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−114878号公報
【特許文献2】特開2005−036226号公報
【特許文献3】特開2005−048168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、図1〜4に示すように、略U字形の端子21(以下、単に「略U字端子」ともいう。)の直上では、絶縁被覆材12が上方に押し上げられる一方で、その近傍では、圧接パンチ(打ち込み歯)3によって絶縁被覆材12が下方に押え付けられる。そのため、略U字端子21と圧接パンチ(打ち込み歯)3との間の絶縁被覆材12には大きな歪みが生じる。この歪みに絶縁被覆材12が耐え切れずに破断するため略U字端子21の周囲での絶縁被覆材12の破れが伝播して導体11の露出が起こる(図5参照)。
【0008】
近年における各種のコネクタ及び圧接加工機の開発の進展とともに、用いられるコネクタと圧接加工機との組み合わせも多様化し、その組み合わせによって、圧接パンチ(打ち込み歯)3と略U字端子21との間の距離も異なるようになっている(図6参照。なお、図6においては、圧接パンチ(打ち込み歯)3と略U字端子21との間の距離を、a,b,c,dで示す)。このような状況下においては、圧接パンチ(打ち込み歯)3と略U字端子21との間の距離を大きく確保することが可能な場合に比べて、この距離を小さくせざるを得ない場合には、絶縁被覆材に生じる歪みは大きくなる傾向にあり、被覆材の破断に伴う導体の露出が起こり易くなってきている。このため、圧接パンチ(打ち込み歯)と略U字端子との間の距離の大小に左右されることなく、被覆材の破れが伝播することによる導体の露出が起こり難い絶縁被覆材の開発が求められている。
【0009】
なお、上述の圧接加工時の外観不良のうち、ストレインリリーフ部分における絶縁被覆材の変形は、圧接加工時にストレインリリーフ部分との摩擦によって絶縁被覆材にせん断応力が加わり、塑性変形したものである。絶縁被覆材の降伏応力、すなわち応力が増加することなしに歪みが増加する時の応力は塑性変形が始まる応力であり、この応力を、摩擦によるせん断応力より大きくすることができれば変形を防止することができると考えられる。しかし、樹脂材料一般には、弾性変形と塑性変形とが同時に起こるという特徴があるため、降伏応力を定義することができない場合も多い。そこで、塑性変形が大きくなり始める時の応力の目安として、引張試験における伸び50%時の応力(50%モジュラス)を変形し難さの目安とした。
【0010】
また、略U字端子の周囲における絶縁被覆材の破れの伝播は、絶縁被覆材が歪みに耐え切れずに発生する。従って、絶縁被覆材の破断伸びが大きければ破れの伝播は起こり難いことになる。高度に難燃化したノンハロゲン樹脂組成物では、50%モジュラスと破断伸びをともに大きくすることは困難であった。
【0011】
従って、本発明の目的は、コネクタの端子と圧接加工機の圧接パンチとの距離が従来に比べて小さい場合であっても、圧接加工時における外観不良の発生を有効に防止し得る電線、すなわち多様な圧接コネクタの種類や圧接加工の条件に対応して適用可能な電線の絶縁被覆材として好適に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上述の問題に鑑みなされたものであり、本発明者らは、鋭意研究の結果、種々の懸案が絶縁被覆材を所定の配合の組成物から構成することによって解決できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明によって以下のノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線が提供される。
【0013】
[1](A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部と、(B)金属水和物120〜250質量部とを、含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【0014】
[2]前記(A)樹脂成分を構成する前記(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種又は2種以上のエチレン・α−オレフィン共重合体からなる前記[1]に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【0015】
[3]前記(A)樹脂成分を構成する前記(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体は、無水マレイン酸である前記[1]又は[2]に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【0016】
[4]前記(A)樹脂成分を構成する前記(a3)エチレン系共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、及びエチレン・エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つの共重合体である前記[1]〜[3]のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【0017】
[5]前記[1]〜[4]のいずれかに記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を含む絶縁被覆材によって、導体の表面が被覆されてなる絶縁電線。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、コネクタの端子と圧接加工機の圧接パンチとの距離が従来に比べて小さい場合であっても、圧接加工時における外観不良の発生を有効に防止し得る電線、すなわち多様な圧接コネクタの種類や圧接加工の条件に対応して適用可能な電線の絶縁被覆材として好適に用いられるノンハロゲン難燃性樹脂組成物及びそれを用いた絶縁電線が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】電線をコネクタに挿入嵌合して、圧接加工した状態を示す斜視図である。
【図2】図1の要部平面図である。
【図3】電線がコネクタのストレインリリーフ部分に挿入嵌合される状態を示す断面図である。
【図4】電線の被覆がコネクタのストレインリリーフ部分で変形される状態を示す断面図である。
【図5】電線の導体がコネクタの端子周辺で露出される状態を示す平面図である。
【図6】コネクタの端子と押込み具(圧接加工機の圧接パンチ(打ち込み歯))との位置関係を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[実施の形態の要約]
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、樹脂成分と金属水和物とを含有する樹脂組成物において、(A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部と、(B)金属水和物120〜250質量部とを含有するものである。また、本実施の形態に係る絶縁電線は、絶縁被覆材によって導体の表面が被覆されてなる電線において、上述のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を含む絶縁被覆材によって、導体の表面が被覆されてなるものである。
【0021】
ここで、「融解ピーク温度」とは、示差走査熱量測定(DSC)において、加熱速度10℃/分で昇温した時のDSC曲線の吸熱ピークの頂点の温度を意味する。ピークが重なって2個以上存在する場合は、吸熱流量の大きい方のピークの頂点の温度とする。2個以上の吸熱ピークは、ポリプロピレンが、プロピレンと他の少量成分との共重合体である場合、又は他の少量ポリマー成分との混合物である場合に現れる。本発明において、樹脂組成物中のポリプロピレンの有効性は、主たる成分が高い融解ピーク温度を有する場合にもたらされる。
【0022】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係るノンハロゲン難燃性樹脂組成物について説明する。本実施の形態のノンハロゲン難燃性樹脂組成物は、(A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部と、(B)金属水和物120〜250質量部とを含有する。以下、本実施の形態のノンハロゲン難燃性樹脂組成物の各組成成分について説明する。
【0023】
(A)樹脂成分
本実施の形態の樹脂組成物において、(A)樹脂成分は、上述のように(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む。以下、(A)樹脂成分の各構成成分(a1)〜(a3)について説明する。
【0024】
(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン
融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン(以下、単に「(a1)成分」ということがある)は、樹脂組成物の50%モジュラスを大きくするのに有効な成分であり、融解ピーク温度が160℃以上のものを用いる。融解ピーク温度160℃未満であると、樹脂組成物の50%モジュラスを大きくする効果が十分でない。また、融解ピーク温度の上限は、この効果との関係で特に制限はないが、180℃以下であることが好ましい。
【0025】
(a1)成分の配合量は、(A)樹脂成分100質量%中、35〜70質量%である。35質量%未満であると、樹脂組成物の50%モジュラスを大きくする効果が十分でなく、70質量%を超えると、樹脂組成物の破断伸びが極端に低下する。中でも、(a1)成分の配合量は、40〜60質量%であることが好ましい。
【0026】
(a1)成分として用いられるポリプロピレンとしては、例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレン等を挙げることができる。中でも、ホモポリプロピレンやブロックポリプロピレンが好ましく、ブロックポリプロピレンがさらに好ましい。これらのポリプロピレンは、プロピレンと少量の共重合成分から重合されるもので、共重合成分としては、エチレン、α−オレフィン(例えば、1−ブチン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等)を挙げることができる。(a1)成分としてのポリプロピレンは、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0027】
(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体
(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体(以下、単に「(a2)成分」ともいう。)は、(B)金属水和物を受容し、樹脂組成物の破断伸びを大きくするのに有効な成分であり、融解ピーク温度が90℃以下のものを用いる。融解ピーク温度90℃を超えると、樹脂組成物の破断伸びを大きくする効果が十分でない。また、融解ピーク温度の下限は、この効果との関係で特に制限はないが、融解ピーク温度が30℃未満であると、測定が極めて困難になる。
【0028】
(a2)成分の配合量は、(A)樹脂成分100質量%中、30〜60質量%である。30質量%未満であると、樹脂組成物の破断伸びを大きくする効果が十分でなく、60質量%を超えると、樹脂組成物の50%モジュラスが不足する。中でも、(a2)成分の配合量は、35〜55質量%であることが好ましい。
【0029】
(a2)成分として用いられるエチレン・α−オレフィン共重合体としては、例えば、エチレンと炭素数3〜8のα−オレフィンとの共重合体を、好適例として挙げることができる。炭素数3〜8のα−オレフィンとしては、例えば、プロピレン、1−ブチン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテン等を挙げることができる。エチレン・α−オレフィン共重合体としては、LDPE(低密度ポリエチレン)、LLDPE(直鎖状低密度ポリエチレン)、VLDPE(超低密度ポリエチレン)、及びシングルサイト触媒存在下に合成されたエチレン・α−オレフィン共重合体等を挙げることができる。(a2)成分としてのエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体
(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体(以下、単に「(a3)成分」ともいう。)は、(B)金属水和物と(A)樹脂成分との密着性を向上させ、樹脂組成物の50%モジュラスを大きくするのに有効な成分である。
【0031】
(a3)成分の配合量は、(A)樹脂成分100質量%中、5〜20質量%である。5質量%未満であると、樹脂組成物の50%モジュラスを大きくする効果が十分でなく、20質量%を超えると、樹脂組成物の破断伸びが極端に低下する。中でも、(a3)成分の配合量は、5〜10質量%であることが好ましい。
【0032】
(a3)成分として用いられる不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体としては、例えば、エチレン・酢酸ビニル共重合体;エチレン・メチルアクリレート共重合体及びエチレン・エチルアクリレート共重合体等のエチレン・アクリル酸エステル共重合体;エチレン・メチルメタクリレート共重合体及びエチレン・エチルメタクリレート共重合体等のエチレン・メタクリル酸エステル共重合体等を挙げることができる。中でも、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体及びエチレン・エチルアクリレート共重合体が好ましい。不飽和カルボン酸としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等を挙げることができる。不飽和カルボン酸の誘導体としては、例えば、無水マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸モノエステル、イタコン酸モノエステル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、マレイン酸ジエステル、フマル酸ジエステル、イタコン酸ジエステル等を挙げることができる。不飽和カルボン酸又はその誘導体の中でも、無水マレイン酸が好ましい。(a3)成分としての不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
(B)金属水和物
本発明の樹脂組成物において、(B)金属水和物は、難燃剤として用いられる。(B)金属水和物の(A)樹脂成分に対する組成比は、(A)樹脂成分100質量部に対して120〜250質量部、好ましくは、150〜200質量部である。120質量部未満であると実用に耐えられる難燃性が得ることができず、250質量部を超えると、本来の破断伸びが低下してしまう。
【0034】
本発明の樹脂組成物における(B)金属水和物としては、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等を挙げることができる。これらの(B)金属水和物は、適宜用いられることができるが、その粒径としては、0.1〜2.0μmの範囲の粒子径を有しているもので、凝集がないものが好ましい。また、加工性を向上させること等を目的として、脂肪酸、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、チタネート系カップリング剤、リン酸エステル類等によって、その表面が処理されたものであってもよい。
【0035】
(C)その他の成分
本実施の形態の樹脂組成物においては、上述の(A)樹脂成分及び(B)金属水和物のほかに、必要に応じて、(C)その他の成分として、例えば、滑剤、加工助剤、難燃助剤、無機充填剤、架橋剤、架橋助剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、安定剤、相溶化剤、カーボンブラック、着色剤等の添加物を本発明の目的を損なわない範囲で適宜加えてもよい。
【0036】
酸化防止剤としては、4,4’−ジオクチル・ジフェニルアミン、N,N’−ジフェニル−p−フェニレンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの重合物等のアミン系酸化防止剤、ペンタエリスリチル−テトラキス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、オクタデシル−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキジフェニル)プロピオネート、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン等のフェノール系酸化防止剤、ビス(2−メチル−4−(3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ)−5−t−ブチルフェニル)スルフィド、2−メルカプトベンヅイミダゾール及びその亜鉛塩、ペンタエリスリトール−テトラキス(3−ラウリル−チオプロピオネート)等のイオウ系酸化防止剤等を挙げることができる。
【0037】
金属不活性剤としては、N,N’−ビス(3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル)ヒドラジン、3−(N−サリチロイル)アミノ−1,2,4−トリアゾール、2,2’−オキサミドビス−(エチル3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等を挙げることができる。
【0038】
難燃助剤、充填剤としては、カーボン、クレー、酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化モリブデン、三酸化アンチモン、シリコーン化合物、石英、タルク、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、ほう酸亜鉛、ホワイトカーボン等を挙げることができる。
【0039】
滑剤としては、炭化水素系、脂肪酸系、脂肪酸アミド系、エステル系、アルコール系、金属石けん系等を挙げることができる。
【0040】
[第2の実施の形態]
本発明の第2の実施の形態に係る絶縁電線について説明する。本実施の形態の絶縁電線は、上述のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を含む絶縁被覆材によって、導体の表面が被覆されてなる構成を有する。以下、各構成成分について説明する。
【0041】
(導体)
本実施の形態の絶縁電線に用いられる導体としては、例えば、軟銅の単線又は撚線を用いることができる。また、単線又は撚線の各素線は裸線の他、錫めっき、ニッケルめっき、銀めっき、金めっき等を用いることができる。銅による樹脂組成物の金属害劣化を抑制する観点から、めっき線が好ましく、錫めっき線がさらに好ましい。線径としては、0.38〜0.61mmが好ましい。
【0042】
(絶縁被覆材)
本実施の形態の絶縁電線に用いられる絶縁被覆材は、上述のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を含む。絶縁被覆材は、例えば、上述の樹脂組成物を導体に押出被覆して形成することができる。絶縁被覆材の肉厚としては特に制限はないが、例えば、通常0.1〜5mm程度であり、0.14〜0.25mmが好ましい。0.1mm未満であると、電気絶縁性が不足し、十分な定格電圧を得ることができないことがあり、5mmを超えると、電線の外径が太くなり、機器内での配線性、省スペース性が低下することがある。
【0043】
本実施の形態の絶縁電線において、樹脂組成物を導体に押出被覆してそのまま絶縁被覆材を形成してもよく、さらに耐熱性を向上させることを目的として、押出被覆後の絶縁被覆材を架橋させてもよい。架橋を行う場合の方法として、常法による電子線照射架橋や化学架橋を用いることができる。
【0044】
電子線照射架橋の場合は、樹脂組成物を押出被覆して絶縁被覆材を形成した後に、常法により電子線を照射することにより架橋を行うことができる。電子線の線量は、1〜30Mradが好ましく、効率よく架橋を行うために、トリメチロールプロパントリアクリレート等のメタクリレート系化合物、トリアリルシアヌレート等のアリル系化合物、N,N’−1,3−フェニレンジマレイミド等のマレイミド系化合物、ジビニルベンゼン等のジビニル系化合物等の多官能性化合物を架橋助剤として樹脂組成物に加えてもよい。
化学架橋の場合は、有機過酸化物を架橋剤として樹脂組成物に加え、押出被覆した後に常法により加熱処理することにより架橋を行うことができる。
【実施例】
【0045】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によっていかなる制限を受けるものではない。
【0046】
(実施例1)
密閉式混練機を用いて、表1及び表2に示す配合組成で、各構成成分を混合し、材料温度200℃まで混練したものを、オープンロール機を使用してシート化した後、ペレット化した。このようにして、実施例1のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を得た。得られた樹脂組成物を、40mmφ押出機を用いて、外径0.48mmの錫めっき銅線(外径0.16mmの素線7本撚り)に被覆厚さ0.15mmで押出被覆した。この後、これに加速電子線を1Mrad照射して、絶縁電線を得た。なお、表2は、表1に示す配合組成における各構成成分を具体的に示したものである。
【0047】
(実施例2〜5)
配合組成を表1及び2に示すものに変えたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性樹脂組成物及び絶縁電線を得た。なお、実施例5においては加速電子線を照射しなかった。
【0048】
(比較例1〜9)
配合組成を表1及び2に示すものに変えたこと以外は、実施例1と同様にして難燃性樹脂組成物及び絶縁電線を得た。
【0049】
【表1】

【0050】
【表2】

【0051】
(特性の評価)
得られた難燃性樹脂組成物からなる絶縁被覆材及び絶縁電線について、以下に示す特性の評価を行った。すなわち、絶縁被覆材の引張特性、並びに絶縁電線の圧接加工性及び難燃性の評価を行った。結果を表1に示す。なお、表1において、特性が判定基準を満足するもの(合格)は、○と表記し、満足しないもの(不合格)は、×と表記した。
【0052】
(絶縁被覆材の引張特性の評価)
得られた絶縁電線から導体を抜き取り、絶縁被覆材の引張試験を引張速度500mm/分、標線間距離25mmの条件で行った。破断伸びと応力伸び曲線から求めた50%モジュラスについて、各試料3試験片の平均値を求めた。CAE解析により50%モジュラスと破断伸びの目標値をそれぞれ21MPa以上、300%以上に設定した。
【0053】
(絶縁電線の圧接加工性の評価)
得られた絶縁電線を、配線ピッチ1.5mm、端子数15のコネクタに圧接した。コネクタとしては、ストレインリリーフ部分で絶縁電線を通過させる隙間の幅が最小の部分で0.32mm、略U字端子で導体を嵌め込む隙間の幅が最小の部分で0.20mm、略U字端子の厚さ(絶縁電線の長さ方向)が0.18mmのコネクタを用いた。コネクタの端子と圧接パンチの距離は、最小のところで0.02mmになる条件で行った。圧接した10試料の絶縁電線150本について、ストレインリリーフ部分での絶縁被覆材の変形と端子周囲での絶縁被覆材の破れとを観察し、以下の基準で不合格が一つもないことを目標とした。絶縁被覆材の変形については、図3に示すように、ストレインリリーフ部分23の先端(符号4の2点鎖線で示す)より上方に絶縁被覆材12が盛り上がったものを不合格とし(×と表記)、盛り上がらなかったものを合格とした(○と表記)。絶縁被覆材12の破れについては、略正面方向からみて導体11が露出したものを不合格とした(×と表記)。
【0054】
(絶縁電線の難燃性の評価)
得られた絶縁電線について、試験規格UL1581の1080項に記載のVW−1垂直難燃試験を実施した。試験は、垂直に固定した絶縁電線試料に15秒接炎、15秒休止を5回繰り返した後に、60秒以内に消炎するか、下部に敷いた脱脂綿が燃焼落下物によって類焼するか、試料の上部に取り付けたクラフト紙が燃えたり、焦げたりするかを判別するものである。ここでは、5試料を試験して、いずれも60秒以内に消炎し、下部の脱脂綿及び上部のクラフト紙の類焼がないものを合格とした(○と表記)。
【0055】
(評価の結果)
表1から分かるように、実施例1〜5は、ノンハロゲン難燃性樹脂組成物(絶縁被覆材)の組成を、(A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部に対し、(B)金属水和物を120〜250質量部に調整したものであるが、実施例1〜5のいずれも、絶縁被覆材の引張特性並びに絶縁電線の圧接性及び難燃性の判定基準を満足する。圧接加工時の外観不良を防止する上で重要な50%モジュラスと破断伸びとはトレードオフの関係にあるが、(A)樹脂成分を構成する、(a1)成分として50%モジュラスの高いポリプロピレン、(a2)成分として(B)金属水和物の受容性が高いエチレン・α−オレフィン共重合体、(a3)成分として(B)金属水和物と(A)樹脂成分の密着性を高める不飽和カルボン酸誘導体で変性されたエチレン系共重合体を、上述の配合量でブレンドすることによって、50%モジュラスと破断伸びとの両立が可能になったのである。
【0056】
一方、比較例1〜9の場合、いずれも50%モジュラスと破断伸びとの両立を達成することはできなかった。すなわち、
【0057】
比較例1は、融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレンの配合量が多く、融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・1−オレフィン共重合体の配合量が少ないもので、破断伸びが小さく、圧接加工において被覆破れが伝播拡大し、導体が露出するに至る。
【0058】
比較例2は、融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレンの配合量が少なく、融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体の配合量が多いもので、50%モジュラスが小さく、圧接加工において被覆の変形が発生する。
【0059】
比較例3は、不飽和カルボン酸誘導体で変性されたエチレン系共重合体の配合量が多いもので、破断伸びが小さく圧接加工において被覆破れが伝播拡大し、導体が露出するに至る。
【0060】
比較例4は、不飽和カルボン酸誘導体で変性されたエチレン系共重合体の配合量が少ないもので、50%モジュラスが小さく、圧接加工において被覆の変形が発生する。
【0061】
比較例5は、融解ピーク温度が90℃より高いエチレン・α−オレフィン共重合体が配合され、融解ピーク温度90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体の配合量が少ないもので、破断伸びが小さく圧接加工において被覆破れが伝播拡大し、導体が露出するに至る。
【0062】
比較例6は、ポリプロピレンの融解ピーク温度が160℃未満のもので、50%モジュラスが小さく、圧接加工において被覆の変形が発生する。
【0063】
比較例7は、水酸化マグネシウムの配合量が少ないもので、難燃性が低く、VW−1試験にて消炎しない。
【0064】
比較例8は、水酸化マグネシウムの配合量が多いもので、破断伸びが小さく、圧接加工において被覆破れが伝播拡大し、導体が露出するに至る。
【0065】
比較例9は、従来技術を用いたノンハロゲン難燃材料を絶縁被覆材としたもので、50%モジュラスと破断伸びとが小さく、圧接加工において被覆破れが伝播拡大し、導体が露出するに至るうえに、被覆の変形が発生する。
【符号の説明】
【0066】
1 絶縁電線
11 導体
12 絶縁被覆材
2 コネクタ
21 端子
22 枠体
23 ストレインリリーフ部分
3 圧接パンチ
31 圧接パンチの位置の平面図への投影
4 ストレインリリーフ部分での被覆の盛り上がりの判定基準となる線
a,b,c,d 端子と圧接パンチの距離

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)樹脂成分[(a1)融解ピーク温度が160℃以上のポリプロピレン35〜70質量%、(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体25〜60質量%、及び(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体で変性されたエチレン系共重合体5〜20質量%を含む]100質量部と、
(B)金属水和物120〜250質量部とを、含有するノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項2】
前記(A)樹脂成分を構成する前記(a2)融解ピーク温度が90℃以下のエチレン・α−オレフィン共重合体は、1種又は2種以上のエチレン・α−オレフィン共重合体からなる請求項1に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(A)樹脂成分を構成する前記(a3)不飽和カルボン酸又はその誘導体は、無水マレイン酸である請求項1又は2に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(A)樹脂成分を構成する前記(a3)エチレン系共重合体は、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、及びエチレン・エチルアクリレート共重合体からなる群から選ばれる少なくとも1つの共重合体である請求項1〜3のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のノンハロゲン難燃性樹脂組成物を含む絶縁被覆材によって、導体の表面が被覆されてなる絶縁電線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−14720(P2013−14720A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149927(P2011−149927)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【出願人】(300055719)日立電線ファインテック株式会社 (96)
【Fターム(参考)】