説明

ノンハロゲン難燃電線・ケーブル

【課題】 可とう性と機械的強度を両立したノンハロゲン難燃電線・ケーブルを提供する。
【解決手段】 ポリオレフィン40〜95重量部と、無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマ60〜5重量部とのブレンドポリマ100重量部に対し、金属水酸化物を30〜150重量部混和してなる樹脂組成物3,6を被覆したノンハロゲン難燃電線1・ケーブル10であって、上記無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマがマレイン酸変性エチレン・プロピレンコポリマ、もしくはマレイン酸変性エチレン・ブテンコポリマである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環境負荷の小さなノンハロゲン難燃電線・ケーブルに係り、特に、可とう性と機械的強度の両立を図ったノンハロゲン難燃電線・ケーブルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ポリ塩化ビニルやハロゲン系難燃剤を使用しない環境負荷の小さなノンハロゲン難燃電線・ケーブルは、いわゆるエコ電線・ケーブルとして急速に普及している。これら従来のノンハロゲン難燃電線・ケーブルでは、電線の絶縁体やケーブルのシースとして、ポリオレフィンに水酸化マグネシウムをはじめとするノンハロゲン難燃剤を多量に混和した樹脂組成物を用いたものが一般的である。
【0003】
さらに、最近のトレンドの一つとして、可とう性に優れたノンハロゲン材料からなる樹脂組成物を用いた電線・ケーブルが求められている。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開2004−256621号公報
【特許文献2】特開2004−196877号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
電線・ケーブルに可とう性を付与するには、ゴム系の軟質材料を樹脂組成物のベースに用いるのがよい。しかしながら、ゴム系の軟質材料は機械的強度が低いため、架橋して機械的強度を高める必要があり、非架橋系の樹脂組成物には適用しにくい。
【0007】
また、電線・ケーブルのリサイクルを可能にするためには、樹脂組成物を架橋しない方がよい。
【0008】
このように、非架橋の樹脂組成物を用いて、電線・ケーブルの可とう性と機械的強度を両立することは困難であった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、可とう性と機械的強度を両立したノンハロゲン難燃電線・ケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、ポリオレフィン40〜95重量部と、無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマ60〜5重量部とのブレンドポリマ100重量部に対し、金属水酸化物を30〜150重量部混和してなる樹脂組成物を被覆したノンハロゲン難燃電線・ケーブルであって、上記無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマがマレイン酸変性エチレン・プロピレンコポリマ、もしくはマレイン酸変性エチレン・ブテンコポリマであるノンハロゲン難燃電線・ケーブルである。
【0011】
請求項2の発明は、上記金属水酸化物は平均粒径が0.5μm以下であり、かつその表面がメタクリルシランにより処理されている請求項1記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブルである。
【0012】
請求項3の発明は、上記樹脂組成物を被覆して非架橋で作製した請求項1または2記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブルである。
【0013】
請求項4の発明は、上記ノンハロゲン難燃電線・ケーブルの10%モジュラスが3MPa以下である請求項1〜3いずれかに記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブルである。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、可とう性と機械的強度を両立したノンハロゲン難燃電線・ケーブルを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の好適な実施の形態を説明する。
【0016】
本実施の形態に係るノンハロゲン難燃樹脂組成物は、ポリオレフィン40〜95重量部と、無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマ(マレイン酸変性エチレン系コポリマ)60〜5重量部とのブレンドポリマ100重量部に対し、難燃剤としての金属水酸化物を30〜150重量部混和してなる。
【0017】
ポリオレフィンとしては、高、中、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・プロピレンコポリマ、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマ、エチレン・メチルアクリレートコポリマ、エチレン・エチルアクリレートコポリマ、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、超低密度ポリエチレン、エチレン・酢酸ビニルコポリマ、エチレン・ブテンコポリマ、エチレン・メチルメタアクリレートコポリマ、エチレン・オクテンコポリマ、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)等を使用する。
【0018】
電線・ケーブルに優れた可とう性を付与するには、ポリオレフィンとしてエチレン・プロピレンコポリマ、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマ、エチレン・ブテンコポリマ、エチレン・オクテンコポリマが特に望ましい。
【0019】
一方、マレイン酸変性エチレン系コポリマとしては、軟質のポリマであるエチレン・プロピレンコポリマ、もしくはエチレン・ブテンコポリマを無水マレイン酸で変性したもの(マレイン酸変性エチレン・プロピレンコポリマ、もしくはマレイン酸変性エチレン・ブテンコポリマ)を用いる。
【0020】
これらマレイン酸変性エチレン・プロピレンコポリマと、マレイン酸変性エチレン・ブテンコポリマとは、従来から使用されている硬質のマレイン酸変性ポリマ(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン・エチルアクリレートコポリマ、エチレン・酢酸ビニルコポリマのマレイン酸変性タイプ)に比べて非常に柔軟性に優れていることを特長としている。
【0021】
ポリオレフィンのブレンド量を40〜95重量部とし、マレイン酸変性エチレン系コポリマのブレンド量を60〜5重量部としたのは、マレイン酸変性エチレン系コポリマのブレンド量が5重量部未満では、金属水酸化物との接着が弱く、電線・ケーブルの機械的強度が十分に得られないからである。また、マレイン酸変性エチレン系コポリマのブレンド量が60重量部を超えると、電線・ケーブルの伸びが大幅に低下するからである。
【0022】
金属水酸化物としては、水酸化マグネシウム(Mg(OH)2 )、水酸化アルミニウム(Al(OH)3 )、ハイドロタルサイト、カルシウムアルミネート水和物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム等を使用する。水酸化マグネシウムとしては、合成水酸化マグネシウム、天然鉱石を粉砕した天然水酸化マグネシウム、Niなど他の元素と固溶体となったものなどを用いる。
【0023】
ブレンドポリマ100重量部に対し、金属水酸化物の混和量を30〜150重量部としたのは、混和量が30重量部未満では、電線・ケーブルの難燃性が不十分であり、混和量が150重量部を超えると、電線・ケーブルの機械的特性が大幅に低下するからである。
【0024】
金属水酸化物は、例えば、平均粒径が0.5μm以下であり、かつその表面がメタクリルシランにより処理されているとよい。
【0025】
金属水酸化物の平均粒径が0.5μmを超えると、粒径が大きくなって樹脂組成物中に金属水酸化物が均一に分散しにくくなり、電線・ケーブルの機械的強度が下がり、加熱変形も大きくなるため、0.5μm以下が好ましい。
【0026】
また、メタクリルシランは、ビニルトリメトキシシランやビニルトリエトキシシランなどの一般的なシランカップリング剤に比べ、分子量が大きく、直鎖状で長い構造を有する。この長い構造は、短いものに比べて、応力を受けた時の緩和効果が大きく、結果として引張強さや伸びなどの特性が高くなると考える。
【0027】
金属水酸化物にメタクリルシランの溶液を噴霧あるいは含浸させた後、これを乾燥させることで、金属水酸化物の表面にメタクリルシランを付着させることができる。このメタクリルシランで表面処理した金属水酸化物をブレンドポリマに混和する。
【0028】
なお、本実施の形態に係る樹脂組成物においては、上述した成分に加えて、架橋助剤、難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、安定剤、充填剤、着色剤、シリコーン等を適宜添加してもよい。
【0029】
次に、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃電線・ケーブルの一例を説明する。
【0030】
図1に示すように、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃電線(絶縁電線)1は、導体2の上(外周)に、上述したノンハロゲン難燃樹脂組成物からなる絶縁体3を被覆し、非架橋で作製したものである。
【0031】
また、本実施の形態に係るノンハロゲン難燃ケーブル10は、2本並列の絶縁電線1を介在4と共に対撚りして構成されるコア5の外周に、上述したノンハロゲン難燃樹脂組成物からなるシース6を被覆し、非架橋で作製したものである。通常、絶縁体3に用いる樹脂組成物の配合と、シース6に用いる樹脂組成物の配合とは若干異なるが、詳細は後述する。
【0032】
このケーブル10は、例えば、丸形あるいは平形のエレベータ用ケーブル、キャブタイヤケーブルとして使用される。導体2としては、例えば、CuあるいはCu合金の撚り線、CuあるいはCu合金の単線を使用する。介在4としては、例えばポリプロピレンを使用する。
【0033】
本実施の形態の作用を説明する。
【0034】
電線1とケーブル10は、絶縁体3やシース6として、軟質の接着性ポリマであるマレイン酸変性エチレン−プロピレンコポリマ、もしくはマレイン酸変性エチレン−ブテンコポリマを配合した樹脂組成物を用いている。このため、硬質のマレイン酸変性ポリマを配合した従来の樹脂組成物を用いた電線やケーブルに比べ、非常に柔軟であり、可とう性を大幅に向上させることができる。
【0035】
例えば、後述する実施例において、電線1やケーブル10は、可とう性の指標である10%モジュラス(10%伸びにおける引張強さ)がいずれも3MPa以下であった。
【0036】
また、金属水酸化物は平均粒径が0.5μm以下と小さく、樹脂組成物中に金属水酸化物が均一に分散するので、電線1やケーブル10の機械的強度が上がり、加熱変形も小さい。電線1やケーブル10の作製時において、樹脂組成物の押出外観もよくなる。
【0037】
さらに、電線1とケーブル10は、ポリオレフィンに接着したマレイン酸変性ポリマ同士が、メタクリルシラン処理した金属水酸化物を介して疑似架橋されるので、非架橋でも十分な機械的強度を有する。
【0038】
したがって、電線1とケーブル10は、機械的強度(引張強さ)と可とう性を両立したものである。
【0039】
電線やケーブルに高難燃性が要求される場合、ブレンドポリマに金属水酸化物を多量に混和する必要があるが、この場合も機械的強度の低下が少ない。
【0040】
電線1とケーブル10は、本実施の形態に係る樹脂組成物を導体2やコア5に被覆して非架橋で作製され、樹脂組成物を架橋しないため、可とう性だけでなくリサイクル(再成形)が容易に可能であることも大きな特長である。
【0041】
電線1とケーブル10は、ハロゲン元素やリンを含まないので、燃焼時にハロゲン化水素やホスフィンなどの有害ガスが発生せず、火災時の安全性が高い。しかも、電線1とケーブル10は、重金属を含まないので、焼却、埋立などの廃却時に環境汚染を起こすこともなく、環境に優しい。
【0042】
本実施の形態に係る樹脂組成物は、図1の電線1やケーブル10に限定されず、例えば、エスカレータのハンドレール、エレベータ用のテールコード、難燃フィルムとしても応用可能である。
【実施例】
【0043】
(実施例(電線)1〜5)
表1に示したポリマ、酸化防止剤、難燃剤、充填材を100〜130℃に保持した混練機(8インチオープンロール)に投入して混練し、混練後の樹脂組成物を180℃に保持した40mm押出機(L/D=24)を用いて、断面積が2mm2 の銅撚り線(導体2)上に絶縁体3として厚さ1mmで押出被覆し、非架橋で図1の絶縁電線1を作製した。
【0044】
(実施例(シース)6〜8)
実施例3の絶縁電線1をポリプロピレン介在4と共に対撚りしたコア5の上に、180℃に保持した40mm押出機(L/D=24)を用いて、表1に示したポリマ、酸化防止剤、難燃剤、充填材からなる樹脂組成物をシース6として押出被覆し、非架橋で図1のケーブル10を作製した。
【0045】
(比較例(電線)1〜4)
表1に示した配合の樹脂組成物を用いて、実施例1〜5と同様にして絶縁電線を作製した。
【0046】
各電線・ケーブルの評価方法は以下のようにして行った。
【0047】
(1)引張特性
電線については、導体を抜き取って得られたチューブを用いてJIS C3005に準拠して引張試験を行った。また、ケーブルについては、シースを剥ぎ取り、これをダンベル3号で切り抜き、JIS K6251に準拠して引張試験を行った。引張速度はいずれも200mm/minとした。引張強さと伸びの目標は、それぞれ10MPa以上、350%以上とした。
【0048】
(2)可とう性:10%モジュラス
可とう性は、上記引張試験と同様にして調整した試料を、テンシロンを用いてJIS K6251に準拠して引張試験を行い、伸びが10%時点での引張強さを測定した。引張速度は200mm/minとした。可とう性の目標は3.0MPa以下とした。
【0049】
(3)加熱変形
電線については、絶縁体と品質が同一なコンパウンドを幅15mm、長さ30mm、厚さ2mmの板状に成形したものを試料とし、JIS C3005に準拠して、75℃、1.5kgの荷重により実施した。シースについては、完成品から長さ30mmの試料を採取し、内面を平滑にして電線と同様の試験を行った。変形量が10%以下を合格とした。
【0050】
(4)難燃性
各電線およびケーブルをJIS C3005に準拠して60°傾斜における難燃性を評価した。評価の基準は、着火確認後、60秒以内に消火したものを合格、60秒を越えて燃焼するものを不合格とした。
【0051】
実施例1〜5、実施例6〜8、比較例1〜4の各電線・ケーブルの樹脂組成物の配合と、その評価結果を表1に示す。表1に示す配合量は重量部で示した。
【0052】
【表1】

【0053】
表1に示すように、実施例1〜5は、ポリオレフィンと軟質のマレイン酸変性ポリマとの比率が本発明の規定範囲内であり、引張強さが10.8〜13.6MPa、伸びが380〜600%といずれも目標に達し、引張特性が良好である。しかも、10%モジュラスが1.5〜2.8MPaといずれも目標に達し、可とう性に優れるだけでなく、加熱変形が小さく、難燃性にも優れている。
【0054】
また、実施例6〜8も、実施例1〜5と同様に、引張強さが12.4〜13.2MPa、伸びが480〜540%といずれも目標に達し、引張特性が良好である。しかも、10%モジュラスが1.3〜2.2MPaといずれも目標に達し、可とう性に優れるだけでなく、加熱変形が小さく、難燃性にも優れている。
【0055】
これに対し、比較例1は、ブレンドポリマがゴム系の材料のみからなり、マレイン酸変性ポリマを使用しないので、メタクリルシラン処理した平均粒径が0.3μmの水酸化マグネシウムを混和しても引張強さが低く、加熱変形も大きかった。
【0056】
比較例2は、マレイン酸変性ポリマが本発明の規定範囲外であるため、伸びが低下した。比較例3は、水酸化マグネシウムの混和量が155重量部と本発明の規定範囲を超えたため、引張強さが低下し、さらに可とう性も損なわれてしまった。比較例4は、水酸化マグネシウムが少ないため難燃性が不合格となった。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明の好適実施の形態であるノンハロゲン難燃電線・ケーブルの一例を示す横断面図である。
【符号の説明】
【0058】
1 ノンハロゲン難燃電線
2 導体
3 絶縁体(樹脂組成物)
6 シース(樹脂組成物)
10 ノンハロゲン難燃ケーブル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン40〜95重量部と、無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマ60〜5重量部とのブレンドポリマ100重量部に対し、金属水酸化物を30〜150重量部混和してなる樹脂組成物を被覆したノンハロゲン難燃電線・ケーブルであって、上記無水マレイン酸で変性したエチレン系コポリマがマレイン酸変性エチレン・プロピレンコポリマ、もしくはマレイン酸変性エチレン・ブテンコポリマであることを特徴とするノンハロゲン難燃電線・ケーブル。
【請求項2】
上記金属水酸化物は平均粒径が0.5μm以下であり、かつその表面がメタクリルシランにより処理されている請求項1記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブル。
【請求項3】
上記樹脂組成物を被覆して非架橋で作製した請求項1または2記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブル。
【請求項4】
上記ノンハロゲン難燃電線・ケーブルの10%モジュラスが3MPa以下である請求項1〜3いずれかに記載のノンハロゲン難燃電線・ケーブル。

【図1】
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【公開番号】特開2006−244894(P2006−244894A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−60386(P2005−60386)
【出願日】平成17年3月4日(2005.3.4)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】