説明

ハイブリッドインフレーター

【課題】作動時におけるガス発生剤の着火性が良好で、かつ、燃焼ガスと加圧ガスとを均等に混合させた状態で、外部に吐出可能なハイブリッドインフレーターを提供すること。
【解決手段】ハイブリッドインフレーター1は、略中央に略円筒状の内側壁15からなるガス混合室37を配置させ、ガス混合室37の外周側を全周にわたって囲むように、内部に加圧ガスPGを封入させたガス封入室22を、配置させている。ガス封入室22が、単独ガス封入部23と、加圧ガス雰囲気下でガス発生剤を内部に充填させたガス発生剤収納部27と、を備える。単独ガス封入部23とガス発生剤収納部27とは、燃焼ガスを単独ガス封入部23内に流入可能な流入部35を有した区画壁17によって区画される。単独ガス封入部23とガス混合室37とを連通する連通孔38が、内側壁15の周方向に沿った方向側で流入部35から離れて配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作動時に、点火装置の着火により発生する燃焼ガスと、封入済みの加圧ガスと、の混合ガスを、ガス吐出口から吐出させる構成とされて、外形形状を略円板状としたディスクタイプのハイブリッドインフレーターに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ハイブリッドインフレーターとしては、ガス発生剤を充填させたガス発生剤収納室を、中央に配置させ、ガス発生剤収納室の外周側に、加圧ガスを封入させたガス封入室を、配置させた構成のものがあった。この従来のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤収納室とガス封入室とを連通する連通路は、作動前には第1の破裂板により閉塞されており、点火装置の作動時において、ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスによる内圧上昇時に、第1の破裂板が作動して、燃焼ガスが連通路を経て、ガス封入室内に流入し、加圧ガスと燃焼ガスとからなる混合ガスが、第2の破裂板を破裂させて、ガス吐出口から外部へ吐出される構成であった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表平6−508320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤収納室は、第1の破裂板により、ガス封入室と区画されて、内圧を大気圧と同一としていることから、点火装置の作動時におけるガス発生剤の着火性が良好でない場合があり、ガス発生剤の着火性を向上させる点に、改善の余地があった。
【0005】
また、従来のハイブリッドインフレーターでは、混合ガスは、ガス封入室から、断面略逆T字形状の流出路を経て、ガス吐出口から外部へ吐出される構成であることから、燃焼ガスと加圧ガスとを均等に混合できず、加圧ガスを充分に昇温させた状態で、ガス吐出口から外部へ吐出させる点に課題があった。
【0006】
本発明は、上述の課題を解決するものであり、作動時におけるガス発生剤の着火性が良好で、かつ、燃焼ガスと加圧ガスとを均等に混合させた状態で、外部に吐出可能なハイブリッドインフレーターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るハイブリッドインフレーターは、作動時に、点火装置の着火により発生する燃焼ガスと、封入済みの加圧ガスと、の混合ガスを、ガス吐出口から吐出させる構成とされて、外形形状を略円板状としたディスクタイプのハイブリッドインフレーターであって、
略中央に、軸方向を中心軸に略沿わせた略円筒状の内側壁に周囲を囲まれて構成されて燃焼ガスと加圧ガスとを混合させるガス混合室と、ガス吐出口を有した吐出室と、を、中心軸に沿って直列的に配置させ、
ガス混合室の外周側を全周にわたって囲むように、内部に加圧ガスを封入させたガス封入室を、配置させる構成とし、
ガス封入室が、
内部に前記加圧ガスのみを封入させている単独ガス封入部と、
加圧ガス雰囲気下において、燃焼時に燃焼ガスを発生可能なガス発生剤を内部に充填させたガス発生剤収納部と、
を備える構成として、
単独ガス封入部とガス発生剤収納部とは、着火時の燃焼ガスを単独ガス封入部内に流入可能な流入部を有した区画壁によって、相互に区画され、
ガス発生剤収納部内に配置される点火装置が、作動時に破裂する第1破裂板によって、ガス発生剤収納部と区画して配置され、
ガス混合室と吐出室との間に、第2破裂板によって閉塞される流出孔が配設されるとともに、第2破裂板が、ガス混合室内で昇温された混合ガスの圧力により破裂する構成とされ、
単独ガス封入部とガス混合室とを連通する連通孔が、内側壁に形成されるとともに、ガス発生剤収納部から流入する燃焼ガスを、単独ガス封入部内を経て連通孔からガス混合室内へ流入可能に、内側壁の周方向に沿った方向側で、流入部から離れた位置に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤を充填させているガス発生剤収納部が、ガス封入室内に配置されており、加圧ガス雰囲気下に置かれている。そして、このガス発生剤収納部は、点火装置とは、第1破裂板によって区画される構成である。すなわち、本発明のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤収納部の内圧が、ガス封入室の内圧と同一で、大気圧よりも高圧下にあることから、点火装置の作動時におけるガス発生剤の着火性が、従来のハイブリッドインフレーターよりも良好となる。そのため、点火装置の作動によって、第1破裂板が破裂し、ガス発生剤が一旦燃焼を開始すれば、ガス発生剤全体を迅速に燃焼させることができて、ガス封入室における単独ガス封入部内の加圧ガスを迅速に昇温させることができ、第2破裂板の破裂後に、ガス吐出口から、混合ガスを迅速に吐出させることができる。
【0009】
また、本発明のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤収納部と単独ガス封入部とを区画する区画壁に形成される流入部が、単独ガス封入部とガス混合室とを連通させるように内側壁に形成される連通孔と、内側壁の周方向に沿った方向側で、離れて配置されていることから、流入部を経て単独ガス封入部内に流入する燃焼ガスを、ダイレクトに連通孔側へ向かうことを抑制して、単独ガス封入部内に確実に流入させることができて、単独ガス封入部内に封入される加圧ガスを円滑に昇温させることができる。さらに、本発明のハイブリッドインフレーターでは、単独ガス封入部内に流入した燃焼ガスと、単独ガス封入部内に封入される加圧ガスと、を、連通孔を経てガス混合室内に流入させた後、吐出室のガス吐出口から外部に吐出させる構成である。そのため、燃焼ガスと加圧ガスとは、連通孔により一旦流れを狭められた状態で、ガス混合室内に流入し、その後、ガス混合室内で拡散されることから、ガス混合室内で、燃焼ガスと加圧ガスとを均等に混合させることができ、加圧ガスを十分に昇温させることができる。
【0010】
したがって、本発明のハイブリッドインフレーターでは、作動時におけるガス発生剤の着火性が良好で、かつ、燃焼ガスと加圧ガスとを均等に混合させた状態で、外部に吐出させることができる。
【0011】
また、本発明のハイブリッドインフレーターでは、連通孔が、ガス混合室とガス封入室(単独ガス封入部)とを区画する略円筒状の内側壁に、形成されていることから、ガス混合室内に流入する燃焼ガスと加圧ガスとは、連通孔に対向して配置されるガス混合室(内側壁)の内側面に当たって偏向された後、吐出室に向かうこととなり、ガス混合室(内側壁)の内側面により、燃焼ガスに含まれる残渣を捕捉することができる。そのため、本発明のハイブリッドインフレーターでは、残渣を極力除去した状態で、ガス吐出口から、燃焼ガスと加圧ガスとの混合ガスを吐出させることができる。
【0012】
さらに、本発明のハイブリッドインフレーターにおいて、ガス発生剤収納部を構成する区画壁の外形形状を、ガス混合室の外周側を囲むような略円弧状として、流入部を構成する流入孔を、内側壁の周方向に沿った方向の両端側に配設させるとともに、点火装置を、ガス発生剤収納部における内側壁の周方向に沿った方向の中央付近に、配設させて構成し、
連通孔を、内側壁の周方向に沿った方向側において、流入孔間の略中央となる位置に、配置させる構成とすることが好ましい。
【0013】
上記構成のハイブリッドインフレーターでは、ガス発生剤収納部を構成する区画壁が、流入孔を、内側壁の周方向に沿った方向側の両端側に配設させ、点火装置を、内側壁の周方向に沿った方向側の中央付近に配設させていることから、作動時に、ガス発生剤を内側壁の周方向に沿った方向側の中央側から迅速に燃焼させることができて、ガス発生剤が燃焼して発生する燃焼ガスを、内側壁の周方向の両端側の流入孔から、バランスよく、単独ガス封入部内に流入させることができる。また、上記構成のハイブリッドインフレーターでは、連通孔が、内側壁の周方向に沿った方向側において、流入孔間の略中央となる位置に、配置されていることから、各流入孔から流入した燃焼ガスは、単独ガス封入部の内側面に沿って流れ、単独ガス封入部とガス混合室とを連通する連通孔付近で相互にぶつかり合うような態様となる。そして、相互にぶつかり合って混ざり合った状態の燃焼ガスが、連通孔を経て、ガス混合室内に流入することとなり、ガス混合室内において、加圧ガスと燃焼ガスとを、一層均等に混合させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態であるハイブリッドインフレーターの縦断面図である。
【図2】実施形態のハイブリッドインフレーターの斜視図である。
【図3】実施形態のハイブリッドインフレーターの概略横断面であり、図1のIII−III部位に対応する。
【図4】実施形態のハイブリッドインフレーターの概略縦断面であり、図3のIV−IV部位に対応する。
【図5】実施形態のハイブリッドインフレーターの作動時の状態を順に示す縦断面図である。
【図6】実施形態のハイブリッドインフレーターの作動時の状態を示す横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明すると、実施形態のハイブリッドインフレーター(以下、単に「インフレーター」と省略する)1は、図1〜4に示すように、外形形状を略円板状としたディスクタイプとされるもので、円柱状のハウジング3の内部において、中心に、ガス混合室37と吐出室40とを配置させ、ガス混合室37の周囲に、ガス混合室37の周囲を全周にわたって囲むようにガス封入室22を配置させて、構成されている。ガス封入室22は、単独ガス封入部23とガス発生剤収納部27とを備えるもので、ガス発生剤収納部27と単独ガス封入部23とは流入部としての流入孔35を介して相互に連通され、単独ガス封入部23とガス混合室37とは連通孔38を介して相互に連通されている。
【0016】
なお、実施形態では、特に断らない限り、ハウジング3の中心軸O(図1参照)に沿った方向を上下方向とし、ハウジング3における後述する天板部5側を上方、底板部12側を下方として、説明する。
【0017】
ハウジング3は、それぞれ、鋼等の金属素材からなるカップ状の天井側部4と底側部11とを備えて構成されている。
【0018】
ハウジング3の上部側を構成する天井側部4は、円板状の天板部5と、天板部5の外周縁から下方へ円筒状に延びる周壁部8と、を備えて構成されている。天板部5の中央には、円柱状に上方へ突出する突出部6が、配設されている。突出部6は、吐出室40の外壁を構成するものであり、突出部6における円筒状の周壁6aには、ハウジング3の中心軸Oの直交方向に混合ガスMGを吐出する円形に開口した複数のガス吐出口41が、形成されている。実施形態の場合、ガス吐出口41は、図1,2に示すように、ハウジング3の中心軸Oを中心として放射状に4個形成されている。周壁部8の下端には、外方へ突出するフランジ部9が配設され、フランジ部9には、インフレーター1を所定箇所に取り付けるための取付孔9aが、形成されている。ハウジング3の下部側を構成する底側部11は、円板状の底板部12と、底板部12の外周縁から上方へ円筒状に延びる周壁部13と、を備えて構成されている。底板部12において、外周縁近傍となる位置(実施形態の場合、図1,3において後述する内側壁15の左側となる位置)には、ガス発生剤収納部27内に配置される点火装置としてのスクイブ29を、周縁で保持させるための貫通孔12aが、形成されている。また、底側部11において、底板部12の外周縁から上方に延びる周壁部13は、先端13aを、天井側部4のフランジ部9の下面9bに溶接されている。
【0019】
ハウジング3内における中央には、図1,3,4に示すように、軸心を中心軸Oと一致させるようにして、略円筒状の内側壁15が、配置されている。この内側壁15は、ガス混合室37を構成するもので、鋼等の金属素材から形成されている。内側壁15は、実施形態の場合、内径寸法を、突出部6の外径寸法より僅かに大きく設定されており、突出部6の直下において、上下両端側を、ハウジング3における天板部5と底板部12とにそれぞれ溶接により連結されて、ハウジング3内に配置されている。この内側壁15において、ガス発生剤収納部27から、内側壁15の周方向に沿った方向側で離れた領域(実施形態の場合、図1における右端側)には、略円形の開口15aが、貫通して形成されている。詳細には、この開口15aは、中心を、内側壁15において、図3における前後の中央と略一致させるようにして、形成されている(図3参照)。すなわち、開口15aは、内側壁15の軸直交方向に沿って、内側壁15の軸心側に向かうように開口されている。また、この開口15aは、内径寸法を、内側壁15の内径寸法より小さくするように、開口されている。この開口15aは、単独ガス封入部23とガス混合室37とを連通する連通孔38を構成するもので、実施形態の場合、図1に示すように、内側壁15の下端近傍となる領域を除いて、上下方向に沿って3個並設されている。そして、実施形態のインフレーター1では、ハウジング3内における内側壁15の外周側の領域が、加圧ガスPGを封入させたガス封入室22を構成することとなる。
【0020】
また、ハウジング3内において、連通孔38から離れた領域(実施形態の場合、図1,3における左側の領域)には、外形形状を、ガス混合室37を構成する内側壁15の外周側における左側半分を囲むような略半円弧状としたカップ17が、配置されている。このカップ17は、ガス発生剤収納部27を構成するもので、板金素材から形成されて、有底として上方を開口させて構成されるとともに、上下方向に略沿って配設される側壁18を、内側壁15と、ハウジング3の周壁部8,12と、に近接させ、かつ、下端側を閉塞する底壁19を、ハウジング3の底板部12より上方に位置させ、底板部12との間に隙間を有するように、構成されている。また、このカップ17は、ガス発生剤収納部27と単独ガス封入部23とを区画する区画壁を構成している。このカップ17の底壁19と底板部12との間の隙間は、スクイブ29の後述するホルダ31を挿入させるための隙間である。そして、ホルダ31の配置位置を除いた領域には、底壁19と底板部12との間の隙間を埋めるような板金素材からなるスペーサ21が、配置されている(図4参照)。カップ17における底壁19において、内側壁15(ハウジング3)の周方向の略中央となる位置には、周囲を後述する第1破裂板33に覆われた状態のスクイブ29を挿通可能な挿通孔19aが、形成されている(図1参照)。また、カップ17の上方側の開口は、図1,4に示すように、別体の金属製の蓋体20により閉塞されている。この蓋体20は、カップ17内に充填されるガス発生剤28を押えて、カップ17内でのガス発生剤28の移動を抑制するためのものである。
【0021】
カップ17の側壁18において、内側壁15の周方向に沿った方向側の両端18a,18b側には、図3に示すごとく、側壁18を貫通するように、開口18cが形成されている。詳細には、カップ17は、ハウジング3の中心軸Oを通る図3における左右方向に沿った線を中心として前後で対称形とされるもので(図3参照)、カップ17の側壁18(区画壁)において、内側壁15の周方向の両端18a,18bは、水平方向側の断面形状を、図3における右側に突出させるような略半円弧状として構成されており、先端を、内側壁15(ハウジング3)の中心軸Oより右方であって、かつ、内側壁15の右縁よりも右方に突出せず、内側壁15の右縁より僅かに左方となる位置に、配置されている(図3参照)。そして、この両端18a,18bに形成される開口18cは、カップ17内に充填されるガス発生剤28を挿通不能な大きさとして、かつ、側壁18の先端側に、それぞれ、上下方向に沿って複数個形成されている。実施形態の場合、各開口18cは、図3における前後で対称となるように、形成されている。これらの開口18cは、ガス発生剤28が燃焼して発生する燃焼ガスFGを単独ガス封入部23内に流入可能な流入部としての流入孔35を、構成するものである。そして、連通孔38(開口15a)は、前述したごとく、中心を内側壁15の前後の中央に一致させるようにして、ハウジング3(内側壁15)の周方向に沿った方向側において、流入孔35,35間の略中央となる位置に、配置されている。すなわち、各流入孔35と連通孔38とは、内側壁15の周方向に沿った方向側で相互に離隔するように、それぞれ、各中心と中心軸Oとを通る線の交差角度αを、76°程度とされて(図3参照)、内側壁15(ハウジング3)の中心軸O側から見て周方向にずれた位置に、配置されている。そのため、実施形態のインフレーター1では、各流入孔35から流出した燃焼ガスFGは、ダイレクトに連通孔38側に向かって流れず、ハウジング3における周壁部8,13の内周面に沿って単独ガス封入部23内を流れることとなる(図6参照)。
【0022】
実施形態のインフレーター1では、上述したごとく、ハウジング3内において、内側壁15の外周側の領域(天板部5、底板部12、周壁部8,13、及び、内側壁15により囲まれる領域)が、内部に加圧ガスPGを封入させたガス封入室22を構成しており、ガス封入室22は、内側壁15の内側の領域からなるガス混合室37の外周側を全周にわたって囲んでいる。実施形態の場合、ガス封入室22内に封入される加圧ガスPGとしては、アルゴン等の不活性ガスが使用されている。また、実施形態の場合、ガス封入室22に封入される加圧ガスPGは、10〜35MPaの内圧で封入されている。
【0023】
そして、実施形態のインフレーター1では、ハウジング3と内側壁15とカップ17とにより周囲を囲まれる領域が、ガス封入室22において、加圧ガスPGのみを封入させた単独ガス封入部23を構成することとなる(図1,3参照)。すなわち、単独ガス封入部23は、内側壁15(ガス混合室37)の右側半分の外周側を囲むような略半円弧状の領域から、構成されている。さらに換言すれば、実施形態のインフレーター1では、図3に示すように、ガス混合室37(内側壁15)の外周側におけるガス封入室22の領域を、カップ17に囲まれた領域から構成されるガス発生剤収納部27と、単独ガス封入部23と、によって、二分して、ガス混合室37の外周側を、ガス発生剤収納部27と単独ガス封入部23とにより囲んでいる構成である。なお、実施形態のインフレーター1では、単独ガス封入部23(ガス封入室22)とガス混合室37とは連通孔38により連通されていることから、加圧ガスPGは、ガス封入室22内のみならず、ガス混合室37内にも充満されている。また、ハウジング3の底板部12において、単独ガス封入部23を構成する領域には、加圧ガスPGをガス封入室22に封入するために開口した封入口24と、加圧ガスPGの封入後に封入口24を塞ぐ封止ピン25と、が、配設されている(図1参照)。
【0024】
カップ17に囲まれる領域から構成されるガス発生剤収納部27内には、加圧ガスPG雰囲気下において、図1に示すように、燃焼時に燃焼ガスFGを発生可能なガス発生剤28が、充填されるとともに、ガス発生剤28に点火可能な点火装置としてのスクイブ29が、配置されている。なお、図3,4では、ガス発生剤を省略しているが、ガス発生剤28は、カップ17内の全域にわたって、充填されている。
【0025】
ガス発生剤28としては、燃焼時に燃焼ガスFGを発生可能な所定の薬剤を、所定形状に成形したものを使用可能である。詳細には、ガス発生剤28としては、燃焼時に加圧ガスPGを昇温可能な火炎を発生させつつ、窒素ガス等の燃焼ガスFGを発生可能とされる通常のインフレーターにおいてガス発生剤として用いられる非アジ化系のガス発生剤を使用することができ、具体的には、グアニジン系、アミノテトラゾール系、トリアジン系、ヒドラジン系、トリアゾール系、アゾジカルボンアミド系、ビテトラゾール系等のものを使用することができる。なお、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤28と加圧ガスPGとの充填比率は、ガス発生剤28を燃焼させて発生する燃焼ガスFGと、加圧ガスPGと、のモル比を、燃焼ガスFG/加圧ガスPG>1とするように、設定されている。
【0026】
スクイブ29は、実施形態の場合、図3に示すように、カップ17(ガス発生剤収納部27)における内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の略中央となる位置に配置されるもので、スクイブ本体30と、スクイブ本体30を保持するホルダ31と、を備えている(図1参照)。スクイブ本体30は、ガス発生剤収納部27内に充填されるガス発生剤28に点火可能にガス発生剤28側に配置される点火部30aと、点火部30aからハウジング3の中心軸Oに沿って下方に延びる一対の導電性ピン30bと、を備えている。このスクイブ本体30は、点火部30aにおけるガス発生剤28側となる上面側を露出させ、かつ、導電性ピン30bをインフレーター1外となる下方に露出させるように、ホルダ31に保持されている。ホルダ31は、点火部30a側に配置される大径部31aと、大径部31aから下方に伸びて導電性ピン30bの外周側を覆う円筒状のカバー部31bと、を備えている。カバー部31bは、外径寸法を大径部31aより小径とされて、下方を開口させて構成されている。このホルダ31は、カバー部31bを貫通孔12aから突出させつつ、大径部31aを貫通孔12a周縁に保持させるようにして、ハウジング3の底板部12に保持される構成である。
【0027】
また、実施形態のインフレーター1では、スクイブ29は、作動時に破裂する第1破裂板33によって、周囲を覆われ、ガス発生剤収納部27と区画して、配置されている。第1破裂板33は、ガス発生剤収納部27内の気密性を確保して、スクイブ29とハウジング3との間の隙間から加圧ガスPGが漏れるのを防止するために配置されている。詳細には、第1破裂板33は、点火部30aの作動時に破裂可能な薄肉の金属板から構成されるもので、図1に示すように、スクイブ本体30における点火部30aからホルダ31の大径部31aにかけての外周側を、略全面にわたって隙間なく覆うように、構成されている。
【0028】
そして、ガス発生剤収納部27は、上述したごとく、カップ17の側壁18(区画壁)に形成される開口18cからなる流入孔35により、単独ガス封入部23と連通されている。
【0029】
ガス混合室37は、上述したごとく、内側壁15と、ハウジング3における天板部5及び底板部12と、により囲まれる領域から、構成される。また、ガス混合室37は、内側壁15に形成される開口15aからなる連通孔38により、単独ガス封入部23と連通されており、作動前の状態では、内部に加圧ガスPGが充満されている。
【0030】
吐出室40は、上述したごとく、天板部5の突出部6内の領域から構成されるもので、ガス混合室37の直上に配置されて、複数(実施形態の場合4個)のガス吐出口41を備えて構成されている。そして、吐出室40は、ガス混合室37との間に、金属製の第2破裂板43によって閉塞される流出孔42を配設させている。流出孔42は、突出部6における下端側の領域から構成されるもので、ガス混合室37内で昇温された混合ガスMGの圧力の作用時に、第2破裂板43を破裂させることにより、開口することとなる。
【0031】
次に、実施形態のインフレーター1の製造について説明する。ハウジング3における天井側部4の突出部6の下端近傍には、予め、流出孔42を塞ぐように、第2破裂板43を溶接させておく。まず、ハウジング3における底側部11の底板部12に、内側壁15の下端側を溶接により連結させる。次いで、予め第1破裂板33により周囲を覆われた状態のスクイブ29を、ホルダ31のカバー部31bを貫通孔12aに挿通させるようにして、底板部12に載置させ、また、スペーサ21も底板部12に載置させる。そして、カップ17を、底壁19に形成される挿通孔19aにスクイブ29を挿通させるようにして、スペーサ21上に載置させる。その後、上側の開口から、カップ17内にガス発生剤28を充填させ、上方から蓋体20を被せて、カップ17の開口を閉塞させる。次いで、ハウジング3における天井側部4を上方から被せ、底側部11における周壁部13の先端13aをフランジ部9に溶接させると同時に、内側壁15の上端を天板部5に溶接させる。なお、実施形態のインフレーター1の製造には、摩擦溶接が用いられている。
【0032】
その後、底板部12に形成される封入口24から、ガス封入室22内に加圧ガスPGを封入させた後、封入口24を封止ピン25により塞げば、インフレーター1を製造することができる。
【0033】
実施形態のインフレーター1では、スクイブ29の作動時、まず、図5のAに示すように、第1破裂板33が破裂して、ガス発生剤収納部27内のガス発生剤28が着火されて燃焼し、燃焼ガスFGを発生させる。この燃焼ガスFGは、図6に示すように、流入孔35を経て単独ガス封入部23内に流入することとなり、単独ガス封入部23内の加圧ガスPGが昇温されることとなる。そして、昇温された加圧ガスPGと燃焼ガスFGとが、連通孔38を経てガス混合室37内に流入し、ガス混合室37内で混合されることとなり、ガス混合室37内の混合ガスMGが昇温されて、内圧を高められると、第2破裂板43を破裂させることとなり、図5のBに示すように、混合ガスMGが、流出孔42を経て、吐出室40のガス吐出口41から外部に吐出されることとなる。
【0034】
そして、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤28を充填させているガス発生剤収納部27が、ガス封入室22内に配置されており、加圧ガスPG雰囲気下に置かれている。そして、このガス発生剤収納部27は、点火装置としてのスクイブ29とは、第1破裂板33によって区画される構成である。すなわち、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤収納部27の内圧が、ガス封入室22の内圧と同一で、大気圧よりも高圧下にあることから、スクイブ29の作動時におけるガス発生剤28の着火性が、従来のハイブリッドインフレーターよりも良好となる。そのため、スクイブ29の作動によって、第1破裂板33が破裂し、ガス発生剤28が一旦燃焼を開始すれば、ガス発生剤28全体を迅速に燃焼させることができて、ガス封入室22における単独ガス封入部23内の加圧ガスPGを迅速に昇温させることができ、第2破裂板43の破裂後に、ガス吐出口41から、混合ガスMGを迅速に吐出させることができる。
【0035】
また、実施形態のインフレーターで1は、ガス発生剤収納部27と単独ガス封入部23とを区画するカップ17(区画壁)の側壁18に形成される流入部としての流入孔35が、単独ガス封入部23とガス混合室37とを連通させるように内側壁15に形成される連通孔38と、内側壁15の周方向に沿った方向側で離れて配置されていることから、流入孔35を経て単独ガス封入部23内に流入する燃焼ガスFGを、ダイレクトに連通孔38側へ向かうことを抑制して、単独ガス封入部23内に確実に流入させることができて、単独ガス封入部23内に封入される加圧ガスPGを円滑に昇温させることができる。詳細には、実施形態のインフレーター1では、流入孔35から流出した燃焼ガスFGは、ダイレクトに連通孔38側に流れず、ハウジング3における周壁部8,13の内周面に沿って単独ガス封入部23内を流れることとなる(図6参照)。さらに、実施形態のインフレーター1では、単独ガス封入部23内に流入した燃焼ガスFGと、単独ガス封入部23内に封入される加圧ガスPGと、を、連通孔38を経てガス混合室37内に流入させた後、吐出室40のガス吐出口41から外部に吐出させる構成である。そのため、燃焼ガスFGと加圧ガスPGとは、連通孔38により一旦流れを狭められた状態で、ガス混合室37内に流入し、その後、ガス混合室37内で拡散されることから、ガス混合室37内で、燃焼ガスFGと加圧ガスPGとを均等に混合させることができ、加圧ガスPGを十分に昇温させることができる。
【0036】
したがって、実施形態のインフレーター1では、作動時におけるガス発生剤28の着火性が良好で、かつ、燃焼ガスFGと加圧ガスPGとを均等に混合させた状態で、外部に吐出させることができる。
【0037】
また、実施形態のインフレーター1では、連通孔38が、ガス混合室37とガス封入室22(単独ガス封入部23)とを区画する略円筒状の内側壁15に、形成されていることから、ガス混合室37内に流入する燃焼ガスFGと加圧ガスPGとは、図5のBに示すように、連通孔38に対向して配置されるガス混合室37(内側壁15)の内側面15bに当たって偏向された後、吐出室40に向かうこととなり、ガス混合室37(内側壁15)の内側面15bにより、燃焼ガスFGに含まれる残渣を捕捉することができる。そのため、実施形態のインフレーター1では、残渣を極力除去した状態で、ガス吐出口41から、燃焼ガスFGと加圧ガスPGとの混合ガスMGを吐出させることができる。特に、実施形態のインフレーター1では、吐出室40内に、上方に向かうように流入した混合ガスMGは、吐出室40の上方を覆う壁部の下面に当たって偏向された状態で、ガス吐出口41から水平方向に沿うようにして吐出されることとなり、この吐出室40の上端側下面においても、残渣を捕捉することができる。
【0038】
さらに、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤収納部27を構成する区画壁(カップ17)の外形形状を、ガス混合室37の外周側を囲むような略円弧状として、流入孔35(開口18c)を、内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の両端18a,18b側に配設させて構成し、スクイブ29を、ガス発生剤収納部27における内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の中央付近に配設させている。そのため、実施形態のインフレーター1では、作動時に、ガス発生剤28を内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の中央側から迅速に燃焼させることができて、ガス発生剤28が燃焼して発生する燃焼ガスFGを、内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の両端18a,18b側に形成される流入孔35から、バランスよく、単独ガス封入部23内に流入させることができる。また、実施形態のインフレーター1では、単独ガス封入部23とガス混合室37とを連通する連通孔38が、内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側において、流入孔35,35間の略中央となる位置に、配置されていることから、各流入孔35,35から流入した燃焼ガスFG,FGは、単独ガス封入部23の内側面(周壁部8,13の内側面)に沿って流れ、連通孔38付近で相互にぶつかり合うような態様となる(図6のB参照)。そして、相互にぶつかり合って混ざり合った状態の燃焼ガスFGが、連通孔38を経て、ガス混合室37内に流入することとなり、ガス混合室37内において、加圧ガスPGと燃焼ガスFGとを、一層均等に混合させることが可能となる。
【0039】
勿論、このような点を考慮しなければ、スクイブを、ガス発生剤収納部におけるハウジング(内側壁)の周方向に沿った方向側の中央に配置させなくともよく、ガス発生剤収納部を構成する区画壁において、ハウジング(内側壁)の周方向に沿った方向側の一方の端部のみに、流入孔を配置させる構成としてもよい。また、流入孔が、ガス発生剤収納部を構成する区画壁において、ハウジングの周方向に沿った方向側の両端側に配置される構成であっても、内側壁に形成される連通孔を、どちらか一方の流入孔に接近させるように、配置させてもよい。
【0040】
なお、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤収納部27を構成するカップ17(区画壁)の外形形状を、ガス混合室37(内側壁15)の外周側を囲むような略半円弧状としているが、このカップ17(区画壁)の外形形状は、ガス発生剤28と加圧ガスPGとの封入比率によって適宜変更可能であり、例えば、ガス発生剤28の封入量が少ない場合には、カップ17(区画壁)は、半円より小さな円弧状となり、ガス発生剤28の封入量が多い場合には、カップ17(区画壁)は、半円より大きな円弧状となる。
【0041】
また、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤収納部と単独ガス封入部とが、ガス封入室の領域を放射状に区画して、構成されているが、ガス発生剤収納部と単独ガス封入部との区画の仕方は、これに限られるものではなく、例えば、ガス封入室の領域を、ハウジングの軸方向に沿った上下で区画して、ガス発生剤収納部と単独ガス封入部とを区画してもよく、また、ガス封入室の領域を、ハウジングの軸直交方向に沿った内外で区画して、ガス発生剤収納部と単独ガス封入部とを区画してもよい。
【0042】
さらに、実施形態のインフレーター1では、ガス発生剤収納部を構成するカップ17を、板金製として、側壁18における内側壁15(ハウジング3)の周方向に沿った方向側の両端18a,18b側に、流入孔35を構成する開口18cを配置させているが、カップを構成する材料や、流入孔(流入部)の配置位置はこれに限られるものではなく、例えば、カップを連通孔と周方向に沿った方向側で離れた位置に配置させる構成であれば、カップを、パンチングメタルや燃焼ガスの発生時に消失しない金網等から形成し、カップの側壁(区画壁)の略全域から、燃焼ガスを単独ガス封入部内に流入させる構成としてもよい。
【符号の説明】
【0043】
1…ハイブリッドインフレーター、
3…ハウジング、
15…内側壁、
17…カップ、
18…側壁(区画壁)
22…ガス封入室、
23…単独ガス封入部、
27…ガス発生剤収納部、
28…ガス発生剤、
29…スクイブ(点火装置)、
33…第1破裂板、
35…流入孔(流入部)、
37…ガス混合室、
38…連通孔、
40…吐出室、
41…ガス吐出口、
42…流出孔、
43…第2破裂板、
FG…燃焼ガス、
PG…加圧ガス、
MG…混合ガス。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
作動時に、点火装置の着火により発生する燃焼ガスと、封入済みの加圧ガスと、の混合ガスを、ガス吐出口から吐出させる構成とされて、外形形状を略円板状としたディスクタイプのハイブリッドインフレーターであって、
略中央に、軸方向を中心軸に略沿わせた略円筒状の内側壁に周囲を囲まれて構成されて前記燃焼ガスと前記加圧ガスとを混合させるガス混合室と、前記ガス吐出口を有した吐出室と、を、中心軸に沿って直列的に配置させ、
前記ガス混合室の外周側を全周にわたって囲むように、内部に前記加圧ガスを封入させたガス封入室を、配置させる構成とし、
該ガス封入室が、
内部に前記加圧ガスのみを封入させている単独ガス封入部と、
前記加圧ガス雰囲気下において、燃焼時に前記燃焼ガスを発生可能なガス発生剤を内部に充填させたガス発生剤収納部と、
を備える構成として、
前記単独ガス封入部と前記ガス発生剤収納部とは、着火時の前記燃焼ガスを前記単独ガス封入部内に流入可能な流入部を有した区画壁によって、相互に区画され、
前記ガス発生剤収納部内に配置される前記点火装置が、作動時に破裂する第1破裂板によって、前記ガス発生剤収納部と区画して配置され、
前記ガス混合室と前記吐出室との間に、第2破裂板によって閉塞される流出孔が配設されるとともに、前記第2破裂板が、前記ガス混合室内で昇温された前記混合ガスの圧力により破裂する構成とされ、
前記単独ガス封入部と前記ガス混合室とを連通する連通孔が、前記内側壁に形成されるとともに、前記ガス発生剤収納部から流入する前記燃焼ガスを、前記単独ガス封入部内を経て前記連通孔から前記ガス混合室内へ流入可能に、前記内側壁の周方向に沿った方向側で、前記流入部から離れた位置に配置されていることを特徴とするハイブリッドインフレーター。
【請求項2】
前記ガス発生剤収納部を構成する前記区画壁が、外形形状を、前記ガス混合室の外周側を囲むような略円弧状として、前記流入部を構成する流入孔を、前記内側壁の周方向に沿った方向の両端側に配設させるとともに、前記点火装置を、前記ガス発生剤収納部における前記内側壁の周方向に沿った方向の中央付近に、配設させて構成され、
前記連通孔が、前記内側壁の周方向に沿った方向側において、前記流出孔間の略中央となる位置に、配置されていることを特徴とする請求項1に記載のハイブリッドインフレーター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−67359(P2013−67359A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−209388(P2011−209388)
【出願日】平成23年9月26日(2011.9.26)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】