説明

ハイブリッド車両の駆動制御装置

【課題】 目的地までの経路の道路状況に応じて燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定する。
【解決手段】 発進と停止が予測される地点で目的地までの経路を複数の区間に区分し、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴とに基づいて各区間ごとに車速パターンを推定し、車速パターンとエンジンの燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるように各区間ごとのエンジンとモーターの運転スケジュールを設定するようにした。これにより、定常走行時のみならず、車両の減速および制動時のエネルギー回収による燃費改善と、加速時の燃費増加とを考慮して、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴に応じた正確な燃料消費量を求めることができ、燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定することができる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はハイブリッド車両の駆動制御装置に関し、特に、目的地までの経路の道路状況に応じて燃料消費量が最少となるようにエンジンとモーターの運転スケジュールを設定するものである。
【0002】
【従来の技術】予測された走行負荷とエンジン負荷とに基づいて燃料消費量が最少となる補機の運転スケジュールを立案し、このスケジュールにしたがって補機を運転するようにした内燃機関の補機駆動制御装置が知られている(例えば、特開平9−324665号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上述した従来の装置では、定常走行のみに基づいて走行負荷とエンジン負荷とを決定しており、減速および制動時のエネルギー回収による燃費減少と、加速時の燃費増加とを考慮していないため、燃料消費量が充分に低減されないという問題がある。
【0004】本発明の目的は、目的地までの経路の道路状況に応じて燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】一実施の形態の構成を示す図1および図2に対応づけて本発明を説明すると、(1) 請求項1の発明は、車両を駆動する電力をバッテリー15からモーター4へ供給するとともに、エンジン2によりモーター1を駆動して発電した電力とモーター4による車両制動時の回生電力とをモーター1,4からバッテリー15へ供給し、エンジン2とモーター4のいずれか一方または両方により車両を駆動するハイブリッド車両の駆動制御装置に適用される。そして、目的地までの経路を探索する経路探索手段34と、経路の道路状況を検出する道路状況検出手段34と、発進と停止が予測される地点で経路を複数の区間に区分する経路区分手段16と、運転者の運転履歴を記録する運転履歴記録手段35と、道路状況と運転履歴とに基づいて各区間ごとに車速パターンを推定する車速推定手段16と、車速パターンとエンジン2の燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるように各区間ごとのエンジン2とモーター1,4の運転スケジュールを設定する運転スケジュール設定手段16とを備える。
(2) 請求項2のハイブリッド車両の駆動制御装置は、運転スケジュール設定手段16によって、エンジン2により走行した場合にエンジン2の運転効率が低くなる区間を、モーター4により走行して他の区間で発電を行う場合の燃料消費量と、エンジン2により走行した場合の燃料消費量とを比較して、前者が後者よりも少ない場合にモーター4による走行区間に選定するようにしたものである。
(3) 車両を駆動する電力をバッテリー15からモーター4へ供給するとともに、エンジン2によりモーター1を駆動して発電した電力とモーター4による車両制動時の回生電力とをモーター1,4からバッテリー15へ供給し、エンジン2とモーター4のいずれか一方または両方により車両を駆動するハイブリッド車両の駆動制御装置に適用される。そして、目的地までの経路を探索する経路探索手段34と、経路の道路状況を検出する道路状況検出手段34と、所定時間以上継続してモーター4による回生制動が行われる区間の始点を境にして経路を複数の区間に区分する経路区分手段16と、運転者の運転履歴を記録する運転履歴記録手段35と、道路状況と運転履歴とに基づいて車速パターンを推定する車速推定手段16と、車速パターンとエンジン2の燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるようにエンジン2とモーター1,4の運転スケジュールを設定する運転スケジュール設定手段16とを備える。
(4) 請求項4のハイブリッド車両の駆動制御装置は、運転スケジュール設定手段16によって、回生制動区間の始点におけるバッテリー15の充電状態が、回生制動区間で発生する回生電力量をバッテリー15へ回収可能な充電状態となるように、エンジン2とモーター1,4の運転スケジュールを設定するようにしたものである。
(5) 請求項5のハイブリッド車両の駆動制御装置は、運転スケジュール設定手段16によって、回生制動区間の始点までのエンジン2の運転効率が低い区間をモーター4による走行区間またはモーター4とエンジン2による走行区間に選定し、その区間でバッテリー15を消費して回生電力量を回収可能な充電状態にするようにしたものである。
【0006】上述した課題を解決するための手段の項では、説明を分かりやすくするために一実施の形態の図を用いたが、これにより本発明が一実施の形態に限定されるものではない。
【0007】
【発明の効果】(1) 請求項1の発明によれば、発進と停止が予測される地点で目的地までの経路を複数の区間に区分し、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴とに基づいて各区間ごとに車速パターンを推定し、車速パターンとエンジンの燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるように各区間ごとのエンジンとモーターの運転スケジュールを設定するようにしたので、定常走行時のみならず、車両の減速および制動時のエネルギー回収による燃費改善と、加速時の燃費増加とを考慮して、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴に応じた正確な燃料消費量を求めることができ、燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定することができる。
(2) 請求項2の発明によれば、エンジンにより走行した場合にエンジンの運転効率が低くなる区間を、モーターにより走行して他の区間で発電を行う場合の燃料消費量と、エンジンにより走行した場合の燃料消費量とを比較して、前者が後者よりも少ない場合にモーターによる走行区間に選定するようにしたので、燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定することができる。
(3) 請求項3の発明によれば、所定時間以上継続してモーターによる回生制動が行われる区間の始点を境にして経路を複数の区間に区分し、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴とに基づいて車速パターンを推定し、車速パターンとエンジンの燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるようにエンジンとモーターの運転スケジュールを設定するようにしたので、定常走行時のみならず、車両の減速および制動時のエネルギー回収による燃費改善を考慮して、目的地までの経路の道路状況と運転者の運転履歴に応じた正確な燃料消費量を求めることができ、燃料消費量が最少となるエンジンとモーターの運転スケジュールを設定することができる。
(4) 請求項4の発明によれば、回生制動区間の始点におけるバッテリーの充電状態が、回生制動区間で発生する回生電力量をバッテリーへ回収可能な充電状態となるように、エンジンとモーターの運転スケジュールを設定するようにしたので、車両の制動エネルギーを完全に回収することができ、目的地までの燃料消費量を最少にすることができる。
(5) 請求項5の発明によれば、回生制動区間の始点までのエンジンの運転効率が低い区間をモーターによる走行区間またはモーターとエンジンによる走行区間に選定し、その区間でバッテリーを消費して回生電力量を回収可能な充電状態にするようにしたので、車両の制動エネルギーを完全に回収しながら目的地までの燃料消費量をさらに低減することができる。
【0008】
【発明の実施の形態】図1および図2に一実施の形態の構成を示す。図1において、太い実線は機械力の伝達経路を示し、太い破線は電力線を示す。また、細い実線は制御線を示し、二重線は油圧系統を示す。この車両のパワートレインは、モーター1、エンジン2、クラッチ3、モーター4、無段変速機5、減速装置6、差動装置7および駆動輪8から構成される。エンジン2とモーター4との間にはクラッチ3が介装されており、モーター1の出力軸と、エンジン2の出力軸と、クラッチ3の入力軸3aとが互いに連結されるとともに、クラッチ3の出力軸3bと、モーター4の出力軸と、無段変速機5の入力軸とが互いに連結される。なお、ハイブリッド車両のパワートレインの構成はこの実施の形態に限定されない。
【0009】クラッチ3の締結時にはエンジン2のみ、またはエンジン2とモーター4とが車両の推進源となり、クラッチ3の解放時にはモーター4のみが車両の推進源となる。エンジン2とモーター4のいずれか一方または両方の駆動力は動力伝達機構、すなわち無段変速機5、減速装置6および差動装置7を介して駆動輪8へ伝達される。無段変速機5には油圧装置9から圧油が供給され、ベルトのクランプと潤滑がなされる。油圧装置9のオイルポンプ(不図示)はモーター10により駆動される。
【0010】モータ1,4,10は三相同期電動機または三相誘導電動機である。モーター1はクラッチ3締結時のエンジン2の始動とクラッチ3解放時の発電に用いられ、モーター4は車両の推進と発電制動に用いられる。モーター10は油圧装置9のオイルポンプ駆動用である。なお、モーター1,4,10には交流機に限らず直流電動機を用いることもできる。
【0011】クラッチ3はパウダークラッチであり、伝達トルクを調節することができる。なお、このクラッチ3に乾式単板クラッチや湿式多板クラッチを用いることもできる。無段変速機5はベルト式やトロイダル式などの無段変速機であり、変速比を無段階に調節することができる。
【0012】モーター1,4,10はそれぞれインバーター11,12,13により駆動される。インバーター11〜13は共通のDCリンク14を介してメインバッテリー15に接続されており、メインバッテリー15の直流充電電力を交流電力に変換してモーター1,4,10へ供給するとともに、モーター1,4の交流発電電力を直流電力に変換してメインバッテリー15を充電する。なお、インバーター11〜13は互いにDCリンク14を介して接続されているので、回生運転中のモーターにより発電された電力をメインバッテリー15を介さずに直接、力行運転中のモーターへ供給することができる。メインバッテリー15には、リチウム・イオン電池、ニッケル・水素電池、鉛電池などの各種電池や、電機二重層キャパシターいわゆるパワーキャパシターを用いることができる。
【0013】コントローラー16はマイクロコンピューターとメモリなどの周辺部品を備え、エンジン2の回転速度や出力トルク、クラッチ3の伝達トルク、モーター1,4,10の回転速度や出力トルク、無段変速機5の変速比などを制御する。
【0014】コントローラー16には、図2に示すように、キースイッチ20、セレクトレバースイッチ21、アクセルセンサー22、ブレーキスイッチ23、車速センサー24、バッテリー温度センサー25、バッテリーSOC検出装置26、エンジン回転センサー27、スロットルセンサー28、車間距離センサー29が接続される。
【0015】キースイッチ20は車両のキーがON位置またはSTART位置に設定されるとオン(閉路)する。セレクトレバースイッチ21はパーキングP、ニュートラルN、リバースR、ドライブDの各スイッチを備え、車両のセレクトレバー(不図示)の設定位置に応じたスイッチがオンする。アクセルセンサー22はアクセルペダル(不図示)の踏み込み量を検出し、ブレーキスイッチ23はブレーキペダル(不図示)の踏み込み状態を検出する。車速センサー24は車両の走行速度を検出し、バッテリー温度センサー25はメインバッテリー15の温度を検出する。また、バッテリーSOC検出装置26はメインバッテリー15の充電状態(SOC)を検出し、エンジン回転センサー27はエンジン2の回転速度を検出する。さらに、スロットルセンサー28はエンジン2のスロットルバルブ開度を検出し、車間距離センサー29は先行車との車間距離を検出する。
【0016】コントローラー16にはまた、エンジン2の燃料噴射装置30、点火装置31、バルブタイミング調整装置32、スロットルバルブ調整装置33、ナビゲーション装置34、運転履歴記録装置35、補助バッテリー36が接続される。コントローラー16は燃料噴射装置30を制御してエンジン2への燃料の供給と停止および燃料噴射量を調節するとともに、点火装置31を制御してエンジン2の点火を行い、バルブタイミング調整装置32を制御してエンジン2の吸気バルブの閉時期を調節する。コントローラー16はさらに、スロットルバルブ調整装置33を制御してエンジン2のトルクを調節するとともに、インバーター11、12、13を制御してモーター1、4、10のトルクと回転速度を調節する。
【0017】ナビゲーション装置34は、GPS受信機により現在地を検出する衛星航法装置と、ジャイロコンパスなどにより走行経路を検出する自立航法装置と、ビーコン受信機により交通情報や道路情報を受信する路車間通信装置(VICSやFM多重放送など)と、道路地図データベースとを備え、目的地までの経路を探索するとともに、探索経路上の道路状況を検出する。運転履歴記録装置35は、走行経路の道路状況と運転者ごとの走行パターンを記録する。補助バッテリー36はコントローラー16などの制御機器へ電源を供給する。
【0018】次に、燃料消費量を最少にするためのエネルギーの蓄積と消費スケジューリングに対するこの実施の形態の基本的な方法を説明する。第1のスケジューリング方法は、例えば前方に降坂路がある場合には、そこでエネルギーを回収してバッテリーを充電できるので、予めモーター走行や空調装置のコンプレッサー(不図示)などの補機類を駆動してバッテリーのSOCを低下させておき、降坂路でエネルギーを最大限に回収する。これにより、エネルギーの回収率が向上し、その分だけ燃料消費量を低減することができる。
【0019】第2のスケジューリング方法は、エンジンの運転効率の低い区間をモーターにより走行する。例えば図3(a)に示すように50km/hで2分間走行した後に20km/hで5分間走行する場合には、車両の走行に必要な出力(正値が駆動力を表し、負値が制動力を表す)は図3(b)に示すように3.8kwで2分間の後、1kwで5分間のパターンとなる。この走行パターンをエンジン2のみで走行した場合には、図4に示すエンジン2の燃料噴射特性から燃料噴射量が図3(c)に示すようなパターンとなり、この経路の燃料消費量を次のように求めることができる。
【数1】0.5cc/sec×2min×60sec+0.2cc/sec×5min×60sec=120cc
【0020】図5にエンジン2の出力特性と効率特性を示す。この特性図から明らかなように、一般にエンジンは低速になるほど効率が低下する。そこで、図3に示す走行パターンの内、効率の低い20km/hの走行区間をモーター4により走行し、この区間でモーター4により消費される電力量を、50km/hのエンジン2による走行区間で予め発電してメインバッテリー15に蓄電する、という充放電スケジュールを立てる。
【0021】エンジン2により50km/hで定常走行しながらモーター1で発電を行う場合には、図5に示すように、エンジン回転数[rpm]を変えずにエンジントルクを増加し、エンジン2の運転点を最良効率線上に移動するのが最良である。この運転点でエンジン2を運転すると、図5に示すように8.8kwのエンジン出力が得られるので、50km/hの定常走行のための所用出力3.8kwを差し引いても5kwの発電が可能になる。なお、厳密には発電用モーター1の発電効率などの分だけ発電量が少なくなる。
【0022】モーター4による20km/h走行区間の所用電力量(所用電力の時間積分値)は、
【数2】1kw×5min÷60min=1/12 kwhこの電力量1/12[kwh]を、エンジン2による50km/h走行区間において発電電力5kwで発電した場合の発電時間は、
【数3】(1/12)kwh/5kw=1/60h=1min1分間でよいことになる。また、図4に示す燃料噴射特性から、この発電時の燃料噴射量は1.0cc/sec必要なことが分かる。
【0023】したがって、図3(a)に示す走行パターンに対して、エンジン2の運転効率の低い20km/h区間をモーター4により走行する場合の燃料噴射量パターンは、図3(d)に示すようなパターンになる。この図3(d)に示す燃料噴射量パターンでの経路全体の燃料消費量は、
【数4】1cc/sec×1min×60sec+0.5cc/sec×1min×60sec=90ccとなり、エンジン2のみで走行する場合(図3(c))の燃料消費量120cc(数式1)よりも少なくなる。
【0024】このように、目的地までの経路上において、エンジンにより走行した場合に運転効率が低くなる区間を、モーターにより走行して他の区間で発電を行う場合の燃料消費量と、エンジンにより走行した場合の燃料消費量とを比較して、前者が後者よりも少ない場合にモーターによる走行区間に選定する、つまり、エンジンにより走行すると運転効率が低くなる区間をモーターにより走行し、その分の電力量をエンジンにより走行しても運転効率が高い区間で発電を行うようにする。これにより、経路全体での燃料消費量を低減することができる。
【0025】以上説明したエネルギーの蓄積と消費スケジューリングの第1の方法と第2の方法から明らかなように、目的地までの経路における道路状況や乗員の過去の運転履歴に基づいて、燃料消費量が最少となるエネルギーの蓄積と消費スケジュール、つまりバッテリーの充放電スケジュールを立てることができる。
【0026】図6は、一実施の形態の充放電スケジュールの決定処理と、その充放電スケジュールに沿って車両を運行する処理を示すプログラムのフローチャートである。このフローチャートにより、一実施の形態の動作を説明する。
【0027】コントローラー16は所定時間ごとにこのプログラムを実行する。ステップ1において、ナビゲーション装置34で目的地を設定し、目的地までの最適経路を探索する。なお、例えば通勤路などのように繰り返し走行する頻度が高い経路と走行時刻などを予めナビゲーション装置34に記録しておき、記録経路を記録時刻とほぼ同じ時刻に走行する場合には記録経路から目的地を推定し、乗員が目的地を設定しなくても自動的に目的地と目的地までの経路を設定するようにしてもよい。
【0028】ステップ2では、目的地までの経路の道路種別、交差点、信号機、道路の曲率および勾配などの情報や、VICSなどにより提供される渋滞情報や交通規制情報をナビゲーション装置34から読み込む。
【0029】ステップ3で、運転履歴記録装置35から過去の運転履歴を読み込む。運転履歴テーブルには、図7に示すように道路種別ごとに走行速度、発進時の加速度、停止時の減速度などの過去の平均値が記録されている。なお、運転履歴を運転者ごとに記録しておき、運行開始時に運転者に選択させるようにしてもよい。また、運転履歴テーブルの道路種別は、道路の幅員や車線数、信号機の設置間隔などによって細分化してもよく、頻繁に通る道路については個別に運転履歴を記録するようにしてもよい。
【0030】ステップ4では、ステップ2で読み込んだ目的地までの道路状況と、ステップ3で読み込んだ乗員の過去の運転履歴とに基づいて、目的地までの経路上の運転パターン、すなわち走行速度パターンを予測する。まず、目的地までの経路を、信号機や交差点、料金所、カーブ、合流、車線減少など、停止と発進が予測される地点で区分する。次に、運転履歴テーブルを参照して各区間ごとに道路種別に応じて走行速度Vm、発進加速度Amおよび停止減速度Dmを読み出し、図8に示すように区間ごとに発進地点からの加速度をAm、走行速度をVm、停止地点までの減速度をDmとして、走行速度パターンを作成する。なお、信号機や交差点での停止は過去の運転履歴から推定してもよく、また、信号機のサイクルに関する情報が得られる場合にはそれに基づいて予測してもよい。さらに、過去の運転履歴がない場合には、走行速度を法定速度とし、加減速度を一般的な運転者の平均値とすればよい。
【0031】図9に目的地までの経路の一例を示す。この経路は、(a)に示すように出発地から一般道路を走行して市街地に入り、高速道路を経由して再び一般道路を走行し、目的地に至る経路であり、ナビゲーション装置34によって途中の市街地では渋滞が発生しており、高速道路を出てからの一般道路には降坂路と登坂路があることが分かっている。このような道路状況の経路において、上述したように、停止と発進が予測される地点で経路を区分し、各区間ごとに道路状況と運転履歴データとに基づいて(b)に示す走行速度パターンを予測する。
【0032】ステップ5において、各区間の走行速度パターンに基づいて走行に必要な出力(仕事率)P(w)を次式により演算する。
【数5】P={μ・M・g+(ρ・Cd・A・vsp2)/2+M・acc・g+M・g・sinθ}・vsp/3.6ここで、Mは車重[kg]、μは転がり抵抗係数、ρは空気密度[kg/m3]、Cdは空気抵抗係数、Aは前影投影面積[m2]、gは重力加速度[m/sec2]、θは道路勾配[rad]を示す。また、上式の第1項は転がり抵抗を、第2項は空気抵抗を、第3項は加速抵抗を、第4項は勾配抵抗をそれぞれ表す。図9(a)の道路状況と(b)の走行速度パターンに対する出力演算結果を(c)に示す。図9(c)において、車両の走行に必要な出力の正値が駆動力を表し、負値が制動力を表す。
【0033】ステップ6で、図10に示すサブルーチンを実行して目的地までの経路の充放電スケジュールを決定する。
【0034】図10のステップa1において、目的地までの経路の出力パターン(図9(c)参照)を検索して所定時間、例えば1分以上継続して回生制動を行う区間(以下、単に継続回生区間と呼ぶ)の有無を調査する。継続回生区間があればステップa2へ進み、なければステップa6へ進む。図9に示す例では、高速道路の出口料金所手前から一般道路の降坂路までの区間が継続回生区間に該当する。
【0035】続くステップa2では、継続回生区間の始点を境にして目的地までの経路を区分し、各区間をスケジューリング区間とする。図9に示す例では、高速道路の出口料金所手前の減速開始点から継続回生区間が始まるので、その減速開始点を境にして経路を2つのスケジューリング区間に区分する(図9の■地点)。なお便宜上、出発地から減速開始点までをスケジューリング区間1とし、減速開始点から目的地までをスケジューリング区間2とする。スケジューリング区間2は、継続回生区間を含むスケジューリング区間である。なお、以下の説明では図9に示すスケジューリング区間を例に上げて説明するが、本発明はこの図9に示す経路の走行パターンに限定されるものではない。
【0036】次に、設定した各スケジューリング区間に対してステップa3〜a6の処理を行う。ステップa3では、スケジューリング区間の始点におけるSOCが、予め設定した下限値SOCminの近傍であるか否かを判定する。スケジューリング区間の始点におけるメインバッテリー15のSOCが下限値SOCmin近傍であれば、そのスケジューリング区間の回生電力量を最大限に受け容れることができるから、ステップa6へ進む。なお、スケジューリング区間の始点におけるSOCは、その前のスケジューリング区間におけるエンジン2とモーター4の走行分担に基づいて予測する。図9に示す例では、スケジューリング区間1の始点におけるSOCは出発地におけるSOCである。また、継続回生区間を含むスケジューリング区間2の始点におけるSOCは、その前のスケジューリング区間1のエンジン2とモーター4の走行分担に基づいて予測する。そして、継続回生区間を含むスケジューリング区間2の始点におけるSOC予測値が、予め設定した下限値SOCminの近傍であるか否かを判定する(図9の■地点)。継続回生区間の始点におけるメインバッテリー15のSOCが下限値SOCmin近傍であれば、継続回生区間の回生電力量を最大限に受け容れることができるから、ステップa6へ進む。
【0037】スケジューリング区間の始点におけるSOC予測値が下限値SOCminの近傍にない場合はステップa4へ進む。ステップa4では、スケジューリング区間の回生電力量でメインバッテリー15の充電を行った場合に、SOCが予め設定した上限値SOCmaxを越えてしまうか否かを判定する。つまり、スケジューリング区間の始点におけるSOC(上記予測値)と上限値SOCmaxとの差(SOCmax−SOC)の電力量換算値P(SOCmax−SOC)が、そのスケジューリング区間の回生電力量Cよりも少ない場合は、メインバッテリー15のSOCが大き過ぎて回生電力量Cを受け容れるだけの能力がないと判断し、ステップa5へ進み、そうでなければステップa5をスキップする。
【0038】例えば、継続回生区間であるスケジューリング区間2では、区間始点におけるメインバッテリー15のSOC(上記予測値)と上限値SOCmaxとの差(SOCmax−SOC)の電力量換算値P(SOCmax−SOC)が、継続回生区間2の回生電力量Cよりも少ない場合は、メインバッテリー15のSOCが大き過ぎて回生電力量Cを受け容れるだけの能力がないと判断し、ステップa5へ進み、そうでなければステップa5をスキップする(図9の■地点)。
【0039】ステップa5では、上述したエネルギーの蓄積と消費スケジューリングの第1の方法にしたがって、メインバッテリー15が継続回生区間の回生電力量Cを最大限に受け容れることができるように、継続回生区間の直前のスケジューリング区間でメインバッテリー15を消費してSOCを低減する。つまり、継続回生区間の直前のスケジュール区間において、モーター4による走行区間(モーター4によるエンジン2のアシスト走行区間を含む)を選定し、そのモーター走行区間ではメインバッテリー15からモーター4に電力を供給して消費する。図9に示す例では、メインバッテリー15が継続回生区間の回生電力量Cを最大限に受け容れることができるように、継続回生区間の直前のスケジューリング区間1でメインバッテリー15を消費してSOCを低減する。つまり、継続回生区間の直前のスケジュール区間1において、モーター4による走行区間(モーター4によるエンジン2のアシスト走行区間を含む)を選定し、そのモーター走行区間ではメインバッテリー15からモーター4に電力を供給して消費する。
【0040】メインバッテリー15のSOCを低減するためのモーター4による走行区間の選定方法を説明する。基本的には、継続回生区間の直前のスケジューリング区間内の、エンジン2が最も効率の低い運転点で運転される区間を、モーター4による走行区間に選定する。図9に示す例では、スケジューリング区間1の市街地の渋滞区間(■区間)が該当する。なお、単一の区間だけでメインバッテリー15のSOCを充分に低減できない場合には、複数の区間をモーター走行区間として選定してもよい。また、エンジン2の効率の低い運転区間がない場合には、少しでもエンジン効率を上げることができるようなモーター4によるエンジン2のアシスト走行区間を選定してもよいし、あるいはエンジン2の運転効率が低い車両加速時にモーター4により駆動するようにしてもよい。
【0041】次に、エンジン2では運転効率が低いとしてモーター4による走行またはアシスト走行を決定した区間が長い場合には、メインバッテリー15のSOCが必要以上に減少し過ぎて下限値SOCmin以下になることがある。このような場合には、ステップa6でモーター走行区間でのバッテリー消費に備えて事前に発電することを検討する。
【0042】モーター走行に備えた事前の発電については、基本的には上述したエネルギーの蓄積と消費スケジューリングの第2の方法に従うが、ただし、継続回生区間の始点でのメインバッテリー15のSOCが、継続回生区間の回生電力量を完全に回収できる値を超えないようにしなければならない。
【0043】図9に示す例では、スケジューリング区間1でモーター4による走行を決定した区間■の直前の一般道路において、モーター1により発電を行う(■区間)。この時、スケジューリング区間1の始点(出発地)でのメインバッテリー15のSOCと、モーター4による走行区間でのメインバッテリー15の消費量とに基づいて、継続回生区間の始点(スケジューリング区間2の始点)でのSOCが、継続回生区間の回生電力量を完全に受け容れることができる値以上にならないように、発電量を調節する。具体的には、継続回生区間始点でのバッテリーSOCがSOC4以下にする必要があり、スケジューリング区間1の始点(出発地)でのバッテリーSOCをSOC1とし、発電量のSOC換算値をSOC2とし、モーター走行区間でのバッテリー消費量のSOC換算値をSOC3とすると、
【数6】
(SOC1+SOC2−SOC3)≦SOC4の関係を満たすように発電量を調節する。
【0044】ステップa7では、次に処理するスケジューリング区間が最終区間かどうかを確認し、最終スケジューリング区間であればステップa8へ進み、そうでなければステップa3へ戻って上述した処理を繰り返す。ステップa8では、最終スケジューリング区間における充放電スケジュールを検討する。図9に示す例では、最終スケジューリング区間2において、継続回生区間で回生電力量を完全に回収してメインバッテリー15を充電した後、登坂路でモーター4を駆動してエンジン2をアシストし、メインバッテリー15を消費する。
【0045】以上のように充放電スケジュールが決定したら図6のステップ7へリターンし、ステップ7で、ナビゲーション装置34から自車位置と目的地までの経路上の道路状況を読み込む。この時、車間距離センサー29で検出した車間距離が短く、且つ走行速度が低い場合には渋滞していると判断してもよい。続くステップ8でステップ1で設定した経路から外れたか否かを判定し、経路を変更した場合はステップ1へ戻り、そうでなければステップ9へ進む。ステップ9では、収集した道路状況から目的地までの経路上で新たに渋滞が発生するなど、道路状況が変化したか否かを確認し、道路状況の変化があればステップ3へ戻り、特に変化がなければステップ10へ進む。ステップ10において、目的地に到達したかどうかを判定し、目的地に到達したら処理を終了し、到達していなければステップ7へ戻って上記処理を繰り返す。
【図面の簡単な説明】
【図1】 一実施の形態の構成を示す図である。
【図2】 図1に続く、一実施の形態の構成を示す図である。
【図3】 エネルギーの蓄積と消費スケジューリングの方法を説明するための図である。
【図4】 エンジンの燃料噴射特性を示す図である。
【図5】 エンジンの出力特性と効率特性を示す図である。
【図6】 一実施の形態の充放電スケジュールの決定処理と、充放電スケジュールの実施処理とを示すプログラムのフローチャートである。
【図7】 運転履歴テーブルを示す図である。
【図8】 走行速度パターン例を示す図である。
【図9】 目的地までの経路の一例を示す図である。
【図10】 充放電スケジュール決定のサブルーチンを示すフローチャートである。
【符号の説明】
1 モーター
2 エンジン
3 クラッチ
3a 入力軸
3b 出力軸
4 モーター
5 無段変速機
6 減速装置
7 差動装置
8 駆動輪
9 油圧装置
10 モーター
11,12,13 インバーター
14 DCリンク
15 メインバッテリー
16 コントローラー
20 キースイッチ
21 セレクトレバースイッチ
22 アクセルセンサー
23 ブレーキスイッチ
24 車速センサー
25 バッテリー温度センサー
26 バッテリーSOC検出装置
27 エンジン回転センサー
28 スロットルセンサー
29 車間距離センサー
30 燃料噴射装置
31 点火装置
32 バルブタイミング調整装置
33 スロットルバルブ調整装置
34 ナビゲーション装置
35 運転履歴記録装置
36 補助バッテリー

【特許請求の範囲】
【請求項1】車両を駆動する電力をバッテリーからモーターへ供給するとともに、エンジンにより前記モーターを駆動して発電した電力と前記モーターによる車両制動時の回生電力とを前記モーターから前記バッテリーへ供給し、前記エンジンと前記モーターのいずれか一方または両方により車両を駆動するハイブリッド車両の駆動制御装置において、目的地までの経路を探索する経路探索手段と、前記経路の道路状況を検出する道路状況検出手段と、発進と停止が予測される地点で前記経路を複数の区間に区分する経路区分手段と、運転者の運転履歴を記録する運転履歴記録手段と、前記道路状況と前記運転履歴とに基づいて前記各区間ごとに車速パターンを推定する車速推定手段と、前記車速パターンと前記エンジンの燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるように前記各区間ごとの前記エンジンと前記モーターの運転スケジュールを設定する運転スケジュール設定手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項2】請求項1に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置において、前記運転スケジュール設定手段は、前記エンジンにより走行した場合に前記エンジンの運転効率が低くなる区間を、前記モーターにより走行して他の区間で発電を行う場合の燃料消費量と、前記エンジンにより走行した場合の燃料消費量とを比較して、前者が後者よりも少ない場合に前記モーターによる走行区間に選定することを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項3】車両を駆動する電力をバッテリーからモーターへ供給するとともに、エンジンにより前記モーターを駆動して発電した電力と前記モーターによる車両制動時の回生電力とを前記モーターから前記バッテリーへ供給し、前記エンジンと前記モーターのいずれか一方または両方により車両を駆動するハイブリッド車両の駆動制御装置において、目的地までの経路を探索する経路探索手段と、前記経路の道路状況を検出する道路状況検出手段と、所定時間以上継続して前記モーターによる回生制動が行われる区間の始点を境にして前記経路を複数の区間に区分する経路区分手段と、運転者の運転履歴を記録する運転履歴記録手段と、前記道路状況と前記運転履歴とに基づいて車速パターンを推定する車速推定手段と、前記車速パターンと前記エンジンの燃料消費特性とに基づいて、目的地までの燃料消費量が最少となるように前記エンジンと前記モーターの運転スケジュールを設定する運転スケジュール設定手段とを備えることを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項4】請求項3に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置において、前記運転スケジュール設定手段は、前記回生制動区間の始点における前記バッテリーの充電状態が、前記回生制動区間で発生する回生電力量を前記バッテリーへ回収可能な充電状態となるように、前記エンジンと前記モーターの運転スケジュールを設定することを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。
【請求項5】請求項4に記載のハイブリッド車両の駆動制御装置において、前記運転スケジュール設定手段は、前記回生制動区間の始点までの前記エンジンの運転効率が低い区間を前記モーターによる走行区間または前記モーターと前記エンジンによる走行区間に選定し、その区間で前記バッテリーを消費して前記回生電力量を回収可能な充電状態にすることを特徴とするハイブリッド車両の駆動制御装置。

【図4】
image rotate


【図5】
image rotate


【図1】
image rotate


【図7】
image rotate


【図8】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図6】
image rotate


【図9】
image rotate


【図10】
image rotate


【公開番号】特開2000−333305(P2000−333305A)
【公開日】平成12年11月30日(2000.11.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−140154
【出願日】平成11年5月20日(1999.5.20)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【Fターム(参考)】