説明

バイオマススラリーをガス化する超臨界水ガス化システム

【課題】バイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システムにおいて、導管の閉塞を高いレベルで抑制する。
【解決手段】
有機物及び無機固形物が懸濁されたバイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システム100であって、バイオマススラリーを流す導管113における、バイオマススラリーの粘性率が無機固形物の分離に適した値まで低下される位置に、無機固形物を分離する分離部(沈降分離器105)を配置した。分離部が配置される位置は、バイオマススラリーの粘性率が水と同等となるまで加熱される位置であり、具体的には第二熱交換機104と第一加圧熱水処理装置106の間である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システムに関する。
【背景技術】
【0002】
家畜糞尿などのバイオマスを原料としたエネルギー変換技術の開発がなされている。バイオマスを原料としたエネルギー変換技術として、バイオマススラリーを加圧熱水処理することで可燃性ガスを得ることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−274013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
バイオマススラリーには、カルシウム分等の無機固形物が含まれており、バイオマススラリーが流れる導管が閉塞されてしまう虞がある。導管の閉塞を抑制するため、前処理において無機固形物を微粉砕し、計算上堆積の生じない流速でバイオマススラリーを流しているが、閉塞が生じてしまうことがある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、導管の閉塞を高いレベルで抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するため、本発明は、有機物及び無機固形物が懸濁されたバイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システムであって、前記バイオマススラリーを流す導管における、前記バイオマススラリーの粘性率が前記無機固形物の分離に適した値まで低下する位置に、前記無機固形物を分離する分離部を配置したことを特徴とする。
【0007】
本発明の超臨界水ガス化システムによれば、バイオマススラリーの粘性率が低下しても、無機固形物は固体を維持している。これにより、分離部において、無機固形物を容易に分離できる。その結果、導管の閉塞を高いレベルで抑制できる。
【0008】
上記超臨界水ガス化システムにおいて、前記分離部が、前記バイオマススラリーの粘性率が水と同等となるまで加熱される位置に配置されている場合には、分離部において無機固形物を容易に分離できる。その結果、導管の閉塞を高いレベルで抑制できる。なお、粘性率に関して水と同等とは、バイオマススラリーの粘性率に関して水とみなせる範囲の値を意味する。
【0009】
上記超臨界水ガス化システムにおいて、前記バイオマススラリーの原料を攪拌する攪拌機と、前記攪拌機で攪拌されたバイオマススラリーを下流側へ送出するポンプと、前記ポンプから供給されたバイオマススラリーを加熱する加熱部と、前記加熱部で加熱されたバイオマススラリーを加圧熱水処理する加圧熱水処理部とを設け、前記分離部を、前記加熱部と前記加圧熱水処理部とを接続する導管に配置した場合には、加圧熱水処理部で処理が行われる前に無機固形物を取り除くことができる。
【0010】
上記超臨界水ガス化システムにおいて、前記分離部が、上流側導管と下流側導管との間に、前記無機固形物を沈降させるための沈降室を形成する沈降分離器である場合には、簡単な構成で無機固形物を取り除くことができる。
【0011】
上記超臨界水ガス化システムにおいて、前記攪拌機が、前記バイオマススラリーの原料を非金属系触媒とともに攪拌する場合には、導管の閉塞をより高いレベルで抑制できる。
【0012】
上記超臨界水ガス化システムにおいて、前記バイオマススラリーが、動物の排泄物を原料としている場合には、廃棄物である排泄物からエネルギーを回収できる。この場合において、前記分離部は、前記導管の途中におけるスラリー温度が200℃以上となる位置に配置されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、バイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システムにおいて、導管の閉塞を高いレベルで抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】実験装置を説明する図である。
【図2】実験条件を説明する図である。
【図3】流量一定時におけるバイオマススラリーの圧力損失を説明する図である。
【図4】温度及び流量を変化させた場合におけるバイオマススラリーの圧力損失を説明する図である。
【図5】乗則モデルの係数nを温度毎に示す図である。
【図6】乗則モデルの係数Kを温度毎に示す図である。
【図7】超臨界水によるバイオマスガス化システムの構成を示す図である。
【図8】沈降分離器の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
<バイオマススラリーの流動特性について>
以下、本発明の実施形態について説明する。まず、バイオマススラリーの流動特性について説明する。ここでは、図1に示す実験装置1を用いて、測定管2内におけるバイオマススラリーの流動状態を確認した。
【0016】
この実験装置1は、測定管2と、差圧計3と、熱電対4と、第一ピストンポンプ5と、ポンプ6と、水タンク7と、予熱器8と、圧力計9と、クーラ10と、第二ピストンポンプ11と、背圧弁12等を備えている。
【0017】
測定管2は、図7に矢印で示すバイオマスガス化システム100の導管113に相当する部分である。この実験装置1では、断熱材を巻いたSUS316管であって、長さが510mm、内径が3mm、外径が4mmのものを用いている。差圧計3は、測定管2の入口端と出口端の差圧を測定するものである。この差圧計3によって、測定管2を流れる流体(バイオマススラリ−,水蒸気)の圧力損失が測定される。熱電対4もまた測定管2の入口端と出口端のそれぞれに設けられ、測定管2に流れ込む流体温度と、測定管2から排出された直後の流体温度とを測定する。
【0018】
第一ピストンポンプ5は、測定対象となるバイオマススラリーを注入するものである。ポンプ6は、水タンク7に貯留された水を送出するものである。この実験装置1では、ポンプ6の下流側が二股に分かれており、一方が第一ピストンポンプ5の下流端に接続され、他方が予熱器8の上流側端部付近に設けられた第一3方弁13に接続されている。また、第一ピストンポンプ5の上流端と第一3方弁13との間には第一バルブ14が設けられている。これらの第一3方弁13と第一バルブ14とを適宜切り換えることで、第一ピストンポンプ5内のバイオマススラリーや水タンク7内の水を測定管2に選択的に供給できる。
【0019】
予熱器8は、測定管2に供給される流体を加熱するものであり、加熱温度を適宜調整できるように構成されている。圧力計9は、測定管2から排出されて導管を流れる流体の圧力を測定する。クーラ10は、圧力計9による圧力測定箇所よりも下流側に設けられており、導管を流れる流体を冷却する。
【0020】
第二ピストンポンプ11は、クーラ10で冷却されたバイオマススラリーを回収する部分である。この実験装置1では、クーラ10の下流側が二股に分かれており、一方が第二バルブ15を介して第二ピストンポンプ11の上流端に接続され、他方が第二ピストンポンプ11よりも下流側に設けられた第二3方弁16に接続されている。また、第二ピストンポンプ11の下流端も第二3方弁16に接続されている。さらに、第二3方弁16の下流側には、背圧弁12が設けられている。これらの第二バルブ15と第二3方弁16とを適宜切り換えることで、クーラ10で冷却された流体を第二ピストンポンプ11に導入したり、第二ピストンポンプ11をバイパスして背圧弁12に導いたりできる。そして、背圧弁12よりも下流側の導管は大気開放され、先端部分が水タンク7に挿入されている。
【0021】
この実験装置1では、流体の流れる経路を、水循環経路とスラリー供給経路とに切り換えることができる。
【0022】
すなわち、水循環経路では、第一バルブ14を閉じ、ポンプ6からの水が予熱器8に導かれるように第一3方弁13を切り換える。また、第二バルブ15を閉じ、クーラ10からの水が背圧弁12に導かれるように第二3方弁16を切り換える。これにより、水タンク7の水は、ポンプ6で吸い上げて予熱器8に導入され、測定管2に流入される。測定管2から排出された水はクーラ10へ導入されて冷却された後、背圧弁12を通じて水タンク7に戻される。
【0023】
一方、スラリー供給経路では、第一バルブ14を開き、第一ピストンポンプ5からのバイオマススラリーが予熱器8に導かれるように第一3方弁13を切り換える。また、第二バルブ15を開き、クーラ10からのバイオマススラリーが第二ピストンポンプ11に導かれるように第二3方弁16を切り換える。これにより、第一ピストンポンプ5から供給されたバイオマススラリーが予熱器8に導入され、測定管2に流入する。測定管2から排出されたバイオマススラリーはクーラ10へ導入され、第二ピストンポンプ11の内部に回収される。
【0024】
次に、この実験で用いられるバイオマススラリーについて説明する。バイオマススラリーの原料となる原料スラリーは採卵鶏糞を用いた。この原料スラリーに関し、粉砕後に90℃の恒温槽で乾燥させ、乾燥前後の減少重量に基づいて原料スラリーの含水率を決定した。そして、原料スラリーを粉砕した後、425μmのふるいにかけて粒度を調整し、決定した含水率に応じた量の水を加えた。また、非金属系触媒(SCWG触媒)として活性炭を添加した。活性炭の原料は椰子殻であり、平均粒度が10.5μmのものを用いた。図2に示すように、活性炭添加前におけるバイオマススラリーの含水率は0.97とし、バイオマススラリーにおける活性炭の添加率は0.005とした。
【0025】
本実験では、測定管2に供給される流体の温度を予熱器8で上昇させる。測定管2の入口と出口に設置する熱電対4で流体の温度を測定し、測定結果に基づいて予熱器8の動作を制御する。第一ピストンポンプ5にはバイオマススラリーを予め充填しておく。流体温度(すなわち測定管2の温度)が目標温度に達するまでは、流体の流れる経路を水循環経路にして予熱器8で加熱された水を測定管2に供給する。流体温度が目標温度に達したならば、流体の流れる経路をスラリー供給経路に切り換える。これにより、第一ピストンポンプ5に充填されたバイオマススラリーが予熱器8に供給され、この予熱器8で加熱された後に測定管2に供給される。そして、状態が安定するのを待って差圧計3で圧力損失を測定する。
【0026】
図2に示すように、本実験では、流量を100,150,200,300mL/minの4段階に変化させた。そして、バイオマススラリーの供給温度(入口温度)を25,50,100,150,200,300℃の6段階に変化させた。また、管内のスラリー圧力は25MPaに定めた。
【0027】
ここで、圧力損失の計算について述べる。円管内流動の圧力損失は、次式(1)に示すFanningの式によって表される。
【数1】

【0028】
また、次式(2)で示す乗則モデルで整理すると、圧力損失はべき乗計数n,Kによって、層流では次式(3)、乱流では次式(4),(5)で表されることが知られている。
【数2】

【0029】
なお、上記各式において、△Pは圧力損失、fは管摩擦係数、ρは密度、uは平均流速、Lは管長さ、Dは管内径、Rは管半径、τはせん断応力である。
【0030】
以下、実験結果について述べる。
【0031】
図3には、流量300mL/minの場合におけるバイオマススラリーの圧力損失値を示す。バイオマススラリーの供給温度が100℃の場合、水の圧力損失値は約2.5kPa/mであったのに対し、バイオマススラリーの圧力損失は約4.3kPa/mであった。すなわち、バイオマススラリーの圧力損失値は、水の圧力損失値よりも十分に大きかった。
【0032】
これに対し、バイオマススラリーの供給温度が200℃の場合、水の圧力損失値は約2.5kPa/mと変わらなかったのに対し、バイオマススラリーの圧力損失は約2.3kPa/mと、100℃の場合よりも大きく低下して水の圧力損失値よりも僅かに小さい値を示した。
【0033】
同様に、バイオマススラリーの供給温度が300℃の場合、水の圧力損失値は僅かに上昇して約2.7kPa/mであったのに対し、バイオマススラリーの圧力損失は約2.5kPa/mと、200℃の場合よりも僅かに上昇したものの、100℃の場合よりは大きく低下して水の圧力損失値よりも小さい値を示した。
【0034】
高温では水熱分解が進行して粘性率が低下し、水の粘性率に近づくことから、本実験の条件においては、200℃以上の高温状態になるとバイオマススラリーの圧力損失値が水の圧力損失値と同等になることが確認された。
【0035】
図4には、バイオマススラリーの供給温度を200℃以下とし、温度と流量の組み合わせを変えた場合におけるバイオマススラリーの圧力損失を示す。図4の結果より、圧力損失は温度増加に伴い減少することが確認された。さらに、200℃以外の各温度(25℃〜150℃)において、圧力損失は、流量の増加に伴って直線的に増加している。このことから、常温においてニュートン流体であるバイオマススラリーが、200℃以上に昇温されることで非ニュートン流体として振る舞うことが推認された。
【0036】
これを理由とし150℃以下で層流とし、150℃以上で乱流として計算すると、図5に示すように、すべての温度でべき乗則モデル係数のn値は1前後となった。K値に関しては、図6に示すように、温度上昇に伴って水の粘性率に近づき、200℃でほぼ水の粘性率となった。モデル係数によって計算された圧力損失値と実験より測定された圧力損失値との間でよい一致が得られることが確認できた。
【0037】
以上説明したように、本実験によって、バイオマススラリーとして鶏糞スラリーを用いた場合、スラリー温度を200℃以上とすることで、バイオマススラリーが水と同等の粘性率を示すことが確認できた。なお、本実験では鶏糞スラリーを用いたが、動物の排泄物を原料したバイオマススラリーであれば、同様の結果が期待できると推察される。
【0038】
<バイオマスガス化システムへの応用について>
バイオマススラリーを前述の高温まで加熱することで水と同等の粘性率となる。一方、この温度においてカルシウム分等の無機固形物は固体状である。このため、粘性率が低下する温度までバイオマススラリーを加熱することにより、導管を閉塞させる一因である無機固形物をバイオマススラリーから容易に分離できる。
【0039】
従って、バイオマスガス化システムの導管における、バイオマススラリーの粘性率が無機固形物の分離に適する値まで低下した位置に、この無機固形物を分離する分離器を設けることで、無機固形物を効率よく分離でき、導管の閉塞を抑制できる。以下、このように構成した超臨界水によるバイオマスガス化システム100について説明する。
【0040】
図7に示すバイオマスガス化システム100は、攪拌機101、第一高圧ポンプ102、第一熱交換機103、第二熱交換機104、沈降分離器105、第一加圧熱水処理装置106、第二高圧ポンプ107、第三熱交換機108、加熱装置109、第二加圧熱水処理装置110、減圧/冷却装置111、ガス分離器112を備えている。そして、これらの各部が高温高圧に耐性を有する金属製(SUS製)の導管113によって接続されている。
【0041】
攪拌機101は、原料スラリー及び非金属系触媒を水とともに撹拌混合する装置である。原料スラリーとしては動物の排泄物を用い、非金属系触媒としては活性炭を用いている。原料スラリー及び非金属系触媒に関し、好適には先の実験で説明したように、鶏糞スラリーと椰子殻活性炭の組み合わせが好適に用いられる。
【0042】
第一高圧ポンプ102は、攪拌機101で作製されたバイオマススラリーを高圧にして下流側に送出する装置である。本実施形態では圧力が4MPaとなるように加圧して送出している。第一熱交換機103、及び、第二熱交換機104は、第一高圧ポンプ102から供給されたバイオマススラリーを熱交換によって段階的に加熱する装置であり、バイオマススラリーを加熱する加熱部に相当する。
【0043】
具体的には、第一熱交換機103は、第一加圧熱水処理部から排出された高温(240℃〜250℃程度)のバイオマススラリーを熱源として、第一高圧ポンプ102から供給された常温のバイオマススラリーを加熱する。第二熱交換機104は、第三熱交換機108から排出されたバイオマススラリー分解物を熱源として、第一熱交換機103で加熱されたバイオマススラリーを加熱する。すなわち、有機物が分解されてバイオマススラリーの粘性率が水と同程度になるまで加熱している。
【0044】
沈降分離器105は、第二熱交換機104で加熱されて粘性率の低くなったバイオマススラリーから、炭酸カルシウムなどの無機固形物を分離する。なお、この沈降分離器105については、後で説明する。
【0045】
第一加熱水処理装置は、沈降分離器105から排出されたバイオマススラリーを加圧状態で熱水処理する部分である。ここでの熱水処理は、温度が240℃〜250℃程度であって圧力が4MPaの条件で行われる。この熱水処理によって有機物の分解がさらに進行する。ここで、第一加熱水処理装置に供給されるバイオマススラリーは、沈降分離器105で無機固形物が除去されたものである。この無機固形物は導管113を閉塞させる原因となるので、沈降分離器105よりも後段の各プロセスにおいて、導管113の閉塞を防止することができる。
【0046】
第一加熱水処理装置で加圧熱水処理されたバイオマススラリーは、第一熱交換機103の熱源として用いられた後に、第二高圧ポンプ107へ供給される。第二高圧ポンプ107は、導管113内におけるバイオマススラリーの圧力を高めた状態で下流側に供給する装置である。この第二高圧ポンプ107により、バイオマススラリーの圧力が22.1MPa以上になるまで高められる。本実施形態では、バイオマススラリーの圧力が25MPaとなるように第二高圧ポンプ107が運転されている。
【0047】
第三熱交換機108は、第二加圧熱水処理装置110から供給されたバイオマススラリー分解物を熱源として第二高圧ポンプ107から送出されたバイオマススラリーを加熱する。加熱装置109は、第三熱交換機108から排出されたバイオマススラリーを、第二加熱水処理装置での加圧熱水処理に適した温度まで加熱する。具体的には374℃以上の温度となるように加熱する。本実施形態では、バイオマススラリー温度が600℃となるように加熱装置109が運転されている。
【0048】
第二加圧熱水処理装置110は、第一加熱水処理装置で処理された後のバイオマススラリーを熱水処理し、燃料ガスを生成する装置である。この第二加圧熱水処理装置110では、第一加熱水処理装置よりも高温かつ高圧で熱水処理を行っている。具体的には、温度を374℃以上とし、圧力を22.1MPa以上とすれば、燃料ガスを生成することができる。ここで、タールやチャーの発生を抑制するとともに反応効率を高めるために温度を600℃とし、圧力を25MPa〜35MPaとすることが好ましい。本実施形態では、さらに、システム100を構成する各部の負担や劣化防止並びに省エネルギーの観点から、温度を600℃とし、圧力を25MPaとしている。
【0049】
第二加圧熱水処理装置110から排出されたバイオマススラリー分解物は、第三熱交換機108及び第二熱交換機104の熱源として用いられた後、減圧/冷却装置111に導入される。減圧/冷却装置111は、バイオマススラリー分解物を冷却する装置である。バイオマススラリー分解物には爆発性の燃料ガスや水蒸気等が含まれるので、危険性を低減させたり、水蒸気を除去するために水に変換させたりするために冷却される。また、バイオマススラリー分解物の圧力は25MPaと極めて高い状態にあるので、扱い易い圧力まで低下させる。例えば0.3MPaまで低下させる。分離器は、減圧/冷却装置111で減圧及び冷却されたバイオマススラリー分解物を、燃料ガスと水とに分離する装置である。分離器としては、例えば気液分離器が用いられる。
【0050】
次に沈降分離器105について説明する。
【0051】
前述したように、沈降分離器105は、粘性率の低くなったバイオマススラリーから無機固形物を分離する装置である。例えば、図8に示すように、下方に向けて次第に縮径するテーパー部分を有する円筒状ハウジング105aによって構成され、内部空間が無機固形物を沈降させる沈降室105bとなっている。
【0052】
ハウジング105aの下端部には、排出バルブ105cが設けられている。この排出バルブ105cは定期的に開放され、沈降室105b内に溜まった無機固形物を外部に排出する際に用いられる。ハウジング105aの側面上部には第二熱交換機104からの上流側導管113Uが連通されている。上流側導管113Uの連通位置は、ハウジング105aの中心軸よりも外側にオフセットされている。ハウジング105aの上面には天井板105dが設けられており、その中心には上方へ向けて下流側導管113Lが立設されている。この下流側導管113Lは、流体を第一加圧熱水処理装置106に供給する。
【0053】
この沈降分離器105において、バイオマススラリーは上流側導管113Uから流入する。上流側導管113Uから流入したバイオマススラリーは、図中矢印で示すように、沈降室105b内を旋回しながら流れる。ここで、第二熱交換機104で加熱されたバイオマススラリーは、その粘性率が水と同程度になっている。一方、無機固形物はこの温度においても固体状である。このため、無機固形物は、沈降室105b内においてバイオマススラリーから容易に離脱する。また、旋回しながら流れる際に生じる遠心力によっても分離が促進される。
【0054】
このように、本実施形態のバイオマスガス化システム100では、バイオマススラリーの粘性率が水と同等となる位置に沈降分離器105を設けているので、導管113における閉塞の要因となる無機固形物を容易に分離することができる。
【0055】
以上の実施形態の説明は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれる。例えば、次のように構成してもよい。
【0056】
無機固形物を分離する分離器に関し、沈降分離器105を例示したが、これに限定されない。要するに、無機固形物を分離できれば他の形式の分離器を用いてもよい。そして、沈降分離器105を用いる場合、構成が簡単でありかつ耐圧耐熱素材(SUS等)で容器部分を作製すればよいので、高温高圧流体を扱うバイオマスガス化システム100への適用が容易である。
【0057】
分離器を設ける場所は、第二熱交換機104の後段に限られない。バイオマススラリーの粘性率が水と同等になる温度まで加熱されている位置であればよい。なお、本実施形態のように第一加圧熱水処理装置106よりも上流側に分離器を設けた場合には、無機固形物が分離された状態のバイオマススラリーに対して加圧熱水処理が行われるので、有機物の分解効率を高めることができる。
【0058】
加圧熱水処理に関し、第一加圧熱水処理装置106と第二加圧熱水処理装置110とを設けて、二段階で処理を行ったが、加圧熱水処理装置を1つだけ設けて1回の処理でガスへの分解まで行ってもよい。
【0059】
原料スラリーに関し、動物の排泄物(鶏糞スラリー)に限られない。加圧熱水処理で水熱分解される有機物であれば、原料となり得る。例えば、食品廃棄物であってもよい。
【0060】
非金属系触媒に関し、活性炭と同様の作用をするものであれば用いることができる。例えば、ゼオライトであってもよい。この非金属系触媒に関し、平均粒径200μm以下の粉末を用いることが好ましく、多孔質であることがより好ましい。これにより、表面積を増やして反応効率を高めるとともに、非金属系触媒によるシステム100内の機器、配管等の目詰まりを防止できる。
【符号の説明】
【0061】
1…実験装置,2…測定管,3…差圧計,4…熱電対,5…第一ピストンポンプ,6…ポンプ,7…水タンク,8…予熱器,9…圧力計,10…クーラ,11…第二ピストンポンプ,12…背圧弁,13…第一3方弁,14…第一バルブ,15…第二バルブ,16…第二3方弁,100…バイオマスガス化システム,101…攪拌機,102…第一高圧ポンプ,103…第一熱交換機,104…第二熱交換機,105…沈降分離器,105a…円筒状ハウジング,105b…沈降室,105c…排出バルブ,105d…天井板,106…第一加圧熱水処理装置,107…第二高圧ポンプ,108…第三熱交換機,109…加熱装置,110…第二加圧熱水処理装置,111…減圧/冷却装置,112…ガス分離器,113…導管,113U…上流側導管,113L…下流側導管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物及び無機固形物が懸濁されたバイオマススラリーを超臨界水中で処理し、可燃性ガスを得る超臨界水ガス化システムであって、
前記バイオマススラリーを流す導管における、前記バイオマススラリーの粘性率が前記無機固形物の分離に適した値まで低下する位置に、前記無機固形物を分離する分離部を配置したことを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項2】
請求項1に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記分離部は、前記バイオマススラリーの粘性率が水と同等となるまで加熱される位置に配置されていることを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項3】
請求項2に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記バイオマススラリーの原料を攪拌する攪拌機と、
前記攪拌機で攪拌されたバイオマススラリーを下流側へ送出するポンプと、
前記ポンプから供給されたバイオマススラリーを加熱する加熱部と、
前記加熱部で加熱されたバイオマススラリーを加圧熱水処理する加圧熱水処理部とを有し、
前記分離部は、前記加熱部と前記加圧熱水処理部とを接続する導管に配置されていることを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項4】
請求項1から3の何れか1項に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記分離部は、上流側導管と下流側導管との間に、前記無機固形物を沈降させるための沈降室を形成する沈降分離器であることを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項5】
請求項1から4の何れか1項に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記攪拌機は、前記バイオマススラリーの原料を非金属系触媒とともに攪拌することを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項6】
請求項1から5の何れか1項に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記バイオマススラリーは、動物の排泄物を原料としていることを特徴とする超臨界水ガス化システム。
【請求項7】
請求項6に記載の超臨界水ガス化システムであって、
前記分離部は、前記導管の途中におけるスラリー温度が200℃以上となる位置に配置されていることを特徴とする超臨界水ガス化システム。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−6938(P2013−6938A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139701(P2011−139701)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名:第6回 バイオマス科学会議 発表論文集 発行日:平成23年1月12日 発行所:一般社団法人日本エネルギー学会 該当ページ:第154〜155ページ 公開者名:山崎慶彦、井上修平、松村幸彦、美濃輪智朗、清水嘉久、野口琢史、野田洋二、川井良文 (2)研究集会名:第6回 バイオマス科学会議 主催者名:一般社団法人日本エネルギー学会 公開日:平成23年1月13日 公開場所:大阪大学コンベンションセンター 文書の種類:ポスター 公開者名:山崎慶彦、井上修平、松村幸彦、美濃輪智朗、清水嘉久、野口琢史、野田洋二、川井良文
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、文部科学省、科学技術振興機構委託研究、「研究成果最適展開支援事業 本格研究開発 ハイリスク挑戦タイプ 超臨界スラリー固体分離型熱回収装置の開発」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(592148878)株式会社東洋高圧 (49)
【出願人】(596133119)中電プラント株式会社 (101)
【Fターム(参考)】