説明

バウヒニア抽出物

【課題】バウヒニア属から得られる低血糖活性を有するバウヒニア属の植物抽出物、その製造方法及びそれを用いた食物補充剤組成物を提供すること。
【解決手段】バウヒニア・フォルティフィカタの葉を30〜70容積%の水を含むエタノールと水の混合物を溶媒として抽出することにより低血糖活性を有する植物抽出物を抽出し、それを用いて食物補充剤組成物を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低血糖活性を有する植物抽出物、該抽出物を製造する方法、ならびに糖尿病の治療に該抽出物を使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
真性糖尿病(diabetes mellitus)は世界保健機関(WHO)によって流行病として指定された唯一の非感染疾病である("真性糖尿病の予防",World Health Organization Technical Report Series, No.844 (1994))。すべてのタイプの糖尿病の罹患率は世界人口の2.3%と推定され、糖尿病患者の数は毎年4〜5%で増加している。65才以上の人の40〜45%がタイプ2糖尿病を有するか又はその前兆状態、グルコース耐性障害(impared glucose tolerance;IGT)があると予測されている。米国では、糖尿病人口の〜10%が、膵臓のβ-細胞機能の喪失及びインスリンの絶対的不足を特徴とする自己免疫病であるタイプ1糖尿病を患っている。糖尿病人口の残りはタイプ2糖尿病又はIGTを患っており、これはインスリンに適切に応答する能力が身体(からだ)にないことに関係するけれども、さらに複雑な原因がある(American Diabetes Association, Diabetes Care, 22(Suppl.1), S27 (1999))。糖尿病はライフスタイルを変えることと投薬の組み合わせによって治療することができる。しかしながら、糖尿病に潜在する代謝障害もまた蛋白質とリピド(脂質)の代謝に影響を及ぼし、末梢性神経損傷、腎臓傷害、血液循環傷害、及び眼の網膜に対する傷害を含む重い合併症の原因となる。糖尿病は、西洋人の間では盲目と切断(手術)の主要な原因であり、1998年の米国の直接医療費のみで〜440億ドルと推定されている(Am.Diabetes Association, Diabetes Care 22(Suppl.1), S27 (1999))。
【0003】
英国の将来に関する糖尿病研究(UKPDS)(タイプ2糖尿病の長期研究)は、血糖レベル(ヘモグロビンとして測定:HbA1C)及び血圧の厳格な管理が合併症の発病率を実質的に減少させることを示した(R.C.Turner, C.A.Cull, V.Frighi, R.R.Holman; J.Am.Med.Assoc., 281, 2005 (1999))。タイプ2糖尿病に対する現行の治療戦略は限定的であり、インスリン治療及びスルホニル尿素、メトホルミンやチアゾリジンジオンなどの経口低血糖剤(OHAs)を必要とする。単一の治療法では目標血糖値を維持することが難しくなっているので、これらの薬剤の1つ以上による組み合わせ治療法が現在のところ実現性のあるオプションとなっている(R.C.Turner, C.A.Cull, V.Frighi, R.R.Holman, J.Am.Med.Assoc., 281, 2005 (1999); UK Prospective Diabetes Group, Lancet, 352, 837 (1998))。
【0004】
一方、植物は古代の頃から医薬の原料であり、多くの民族グループが糖尿病に対してお気に入りの医薬(実在のまたは非実在の)を持っていた。合成薬剤又は単離された天然生成物が治療上の使用で少なからず医薬植物やその抽出物にとって変わっている。低血糖効果を有する植物の国際的研究の例には次のものが含まれる:
ブルーベリの葉(Allen,1927)、ファトシア・ホリダ(Fatsia horrida)、プテロカルプス・マルスピゥム(Pterocarpus marsupium)、ユージェニア・ジャンボラナ(Eugenia jambolana)及びアスペルジクス・ニジエル(Aspergicus niger)(Krall,1971)、アロエ・バルバデンシス(Aloe barbadensis)及びオプンチア・ストレプタカンタ(Opunthia streptacantha)(Frati-Mnuariら,1988)。
【0005】
E.M.K.Russo, A.A.J.Reichelt, J.R.De-Sa, R.P.Furlanetto, R.C.S.Moises, T.S.Kasamatus及びA.R.Chacra; "正常及び糖尿患者におけるミルシアユニフローラ(Myrcia uniflora)とバウヒニア・フォルティフィカタ(Bauhinia fortificata)の葉の抽出物の臨床試験",Brazillian J Med Bio Res (1990) 23, 11-20;において、2グループの正常被験者(各10人)と2グループのタイプII糖尿病患者(M.unifloraグループで18人,B.fortificataグループで16人)での無作為交差二重盲検試験(randomized cross-over double-blind studies)でM.uniflora及びB.fortificataとプラシーボ(placebo:偽薬)の低血糖効果が比較された。各植物による治療計画が56日続いた。M.uniflora及びB.fortificataの葉の水での浸出液を摂取後(1日当り3gの葉相当)、血漿中グルコースレベル(濃度)又はglycated hemoglobin(ヘモグロビン)に対して急性又は慢性の効きめがどのグループでも見られなかった。しかしながら、糖尿グループの血漿中インスリンレベルはプラシーボ摂取後よりはM.uniflora摂取後の方が低かった。プラシーボ又はB.fortificataの使用後どの臨床的パラメータにも相違はなかった。M.uniflora又はB.fortificataの葉から調製した浸出液は正常の被験者又はタイプII糖尿患者に対して低血糖効果がないと結論される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】R.C.Turner, C.A.Cull, V.Frighi, R.R.Holman, J.Am.Med.Assoc., 281, 2005, 1999
【非特許文献2】UK Prospective Diabetes Group, Lancet, 352, 837, 1998
【非特許文献3】E.M.K.Russo, A.A.J.Reichelt, J.R.De-Sa, R.P.Furlanetto, R.C.S.Moises, T.S.Kasamatus及びA.R.Chacra; “正常及び糖尿患者におけるミルシアユニフローラ(Myrcia uniflora)とバウヒニア・フォルティフィカタ(Bauhinia fortificata)の葉の抽出物の臨床試験”,Brazillian J Med Bio Res (1990) 23, 11-20
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
タイプ2糖尿病の治療に有用な経口低血糖剤への要求は依然として存在する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
発明者らは、驚いたことに、バウヒニア属(はかまかずら属)の各種の抽出物が低血糖活性を示し、経口低血糖剤として有用であることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】グルコースクリアランスの反応速度を示す図: 2gグルコース/kg体重投与後(0分:投与直前)の時間による血漿中グルコース濃度[mg/dl]変化(実施例22〜25)。
【図2】グルコースクリアランスの反応速度を示す図: 2gグルコース/kg体重投与後(0分:投与直前)の時間による血漿中グルコース濃度変化[mg/dl](実施例26〜28)。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の第1の実施態様はしたがって、バウヒニア属の各種から得られることが特徴である、低血糖活性を有する植物抽出物である。
【0011】
好ましい抽出物は、N0-STZラットモデルによる経口グルコース耐性テストにおける血漿中グルコース濃度対時間曲線の下部面積が著しく減少することが特徴である。
【0012】
N0-STZラットモデルはPortha B., Picon L., Rosselin G., Diabetologia, 1979, 17, 371-377に記載されている。経口グルコース耐性テスト(Oral Glucose Tolerance Test;OGTT)はWilkerson:真性糖尿病における診断、経口グルコース耐性テスト:診断及び治療, p.31-34, NY. American Diabetes Associations, 1964に記載されている。適宜の抽出物投与量が1日2回5日間の間N0-STZラットに胃管注入される。最後の投与の3時間後、1kgの体重当り2gのグルコースを投与することによって経口グルコース耐性テスト(OGTT)が目覚めているラットで実施される。グルコース投与の直前(0分)と投与後30、60、90、120及び180分後に血液のサンプルが採集される。
【0013】
本発明の好ましい抽出物は、血漿中グルコース濃度対時間曲線の下部面積がコントロールに対して10%以上、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、最も好ましくは35%以上の減少を示す。
【0014】
抽出物をN0-STZラットモデルにしたがうラットに使用したとき、当初(本来)の基礎糖血に対する絶食時血漿中グルコースが著しく減少する抽出物がさらに好ましい。絶食時血漿中グルコース濃度(表4)は、5日目にグルコースの投与前2時間の絶食後に得られる血液サンプルで測定される。さらに、本発明が手にしている好ましい抽出物は絶食時血漿中グルコース濃度が当初の基礎糖血に対してが著しい減少を示す。好ましい抽出物は絶食時血漿中グルコース濃度が当初の基本糖血に対して10%以上、さらに好ましくは28%以上の減少を示す。
【0015】
本発明の抽出物は、はかまかずら(バウヒニア)種のどれからでも得ることができ、そのうち下記の種類が知られている:
バウヒニア・カンディカン(Bauhinia candicans)、バウヒニア・チャンピオニイ(Bauhinia championii)、バウヒニア・フォルティフィカタ(Bauhinia fortificata=Bauhinia forticata)、バウヒニア・マンカ(Bauhinia manca)、バウヒニア・パープレア(Bauhinia purpurea)、バウヒニア・ラセモサ(Bauhinia racemosa)、バウヒニア・レチクラタ(Bauhinia reticulata)、バウヒニア・トメントーサ(Bauhinia tomentosa)、バウヒニア・バリエガタ(Bauhinia variegata)、バウヒニア・チエィランタ(Bauhinia cheilantha)、バウヒニア・グアネンシス(Bauhinia guanensis)、バウヒニア・レフューサ(Bauhinia refusa)、バウヒニア・グラウカ(Bauhinia glauca)、バウヒニア・パウレチア(Bauhinia pauletia)、バウヒニア・ウングラトー(Bauhinia unglato)、バウヒニア・マクロスタチャ(Bauhinia macrostachya)及びバウヒニア・スプレンデン(Bauhinia splendens)。抽出物は好ましくはBauhinia fortificata(=Bauhinia forficata)から得られる。
【0016】
原則として植物の全空中部分が抽出用として使用できる。最良の結果は葉の抽出物、特にバウヒニアの若葉からの抽出物で得られる。それ故本発明では若葉からの抽出物が特に好ましい。
【0017】
我々の研究では、バウヒニア抽出物の高活性が、抽出物の種々の成分の組合わせによることを示している。
【0018】
抽出物から確認された成分は次のとおり:
・Bauhinia candicansから: ルチン、ケルセチン、ケルシトリン、イソケルセチン(イソケルシトリン)、カムペステロール、スチグマステロール、コレステロール、スチグマスト-3,5-ジエン-7-オン、トリアコンタノール、コリン、トリゴネリン、トリゴネリンアセテート、ケトフェロール-3-ルチノシド、ケンフェロール-3-ルチノシド-7-ラムノシド、シトステロール-3-グリコシド(空中部)、シトステロール-3-O-β-D-キシロピラノシド、シトステロール-3-O-α-D-リブノノソフラノシド、3-O-メチル-D-イノシトール(Dピニット)、シトステロール-3-O-D-キシルロノフラノシド;
・Bauhinia championitから: 5,6,7,5'-テトラメチレンジオキシ-3',4'-メチレンジオキシフラボン、5,6,7,5,3',4',5'-ヘキサメトキシフラボン、5,7,5'-トリメトキシ-3',4'-メチレンジオキシフラボン;
・Bauhinia fortificataから: ケルセチン、ケルセチン-3,7-O-α-ジラムノシド、イソケルセチン、ケンフェロール-3-ルチノシド、ルチン、ケルシトリン、カムペステロール、スチグマステロール、コレステロール、スチグマスト-3,5-ジエン-7-オン、トリアコンタノール、コリン、トリゴネリン、ケンフェロール、ケンフェロール-7-O-α-ラムノシド、ケンフェロール-3-ルチノシド-7-ラムノシド、ケンフェロール3,7-ジラムノシド(ケンフェリトリン)、シトステロール-3-グリコシド(空中部)、3-O-メチル-D-イノシトール(D-ピニット)、β-シトステロール、ダウコステロール、ルペオール、サポニン、タンニン、アストラガリン;
・Bauhinia mancaから: p-クマル酸、フェルラ酸、フィトステロール、桂皮酸、没食子酸、エピカテキン-3-没食子酸塩、5,7-ジヒドロキシクロモン、ヒドロキシ-プロピオグアカコン、オブツスチレン(obutustyren)、イソリキチゲニン-4-メチルエーテル、リキリチゲニン-4'-メチルエーテル、2,4'-ジヒドロキシ-4-メトキシジヒドロカルコン、4'-ヒドロキシ-7,3'-ジメトキシフラバン、3',4'-ジヒドロキシ-7-メトキシフラバン、シリンガレジノール、5,5'-ジメキトシルアリシレジノール(5,5'-dimethoxylariciresinol)、クリソエリオール(chrysoeriol)、ルテオリン-5-3'-ジメチルエーテル;
・Bauhinia purpureaから: 6'-(スチグマスト-5-エン-7-オン-3-O-グルコピラノシジル)-ヘキサデカノエート、3-ヒドロキシスチグマスト-5-エン-7-オン、オレアノール酸、6,8-ジメチルクリシン、クリシン、イソケルセチン(イソケルシトリン)、アストラガリン、2,3-ジヒドロキシプロピル-オレエート、2,3-ジヒドロキシプロピリンオレエート、2,3-ジヒドロキシプロピル-16-ヒドロキシヘキサデカノエート、6-ブチル-3-ヒドロキシフラバボン(6-(3"-オキソブチル)-タキシフォリン、5,6-ジヒドロキシ-7-メトキシフラボン6-O-D-キシロピリノース;
・Bauhinia racemosaから: ケンフェロール、ケルセチン、ケンフェロール-3-O-ラムノシド、ケルシトリン、D-O-メチルラセモソール、パカリン(pacharin);
・Bauhinia reticulataから: ケルセチン、ケルシトリン;
・Bauhinia tomentosaから: ルチン、ケルセチン、イソケルセチン(イソケルシトリン);
・Bauhinia variegataから: アピゲニン、アピゲニン-7-O-グルコシド、ケンフェロール-3-ガラクトシド、ケンフェロール-3-ラムノ-グリコシド、ケンフェロール-3-グルコシド(アストラガリン)、シトステロール、ルペオール、ナリンゲニン-4'-ラムノグルコシド、ナリンギン5,7-ジメチル-エーテル-4'-ラムノグリコシド、5,7-ジヒドロキシフラボナノン-4'-O-L-ラムノピラノシル-β-D-グルコピラノシド(ナリンゲニンアグリコン)、加水分解結果から:葉、花、種中のケルセチン、種中のミリセチン、果皮由来のジヒドロキシケルセチン(タキシフォリン)、花中のケンフェロール、花中のケンフェロールのメチルエステル、葉中のケルセチンのメチルエステル、タキシフォリン、ルチン、ケルセチン、ケルシトリン、イソケルセチン(イソケルシトリン);
・ Bauhinia guanensis(幹の樹皮中)から: ベータ-シトステロール、スチグマステロール、3-O-グルコピラノシルスチグマスタ-5-22-ジエン、3-O-グルコピラノシル-シトステロール、4'-ヒドロキシ-7-メトキシフラバン、ラパコール。
【0019】
我々の結果は、我々の発明の抽出物の低血糖活性が強いことを示している。その効果はメトホルミンのような純粋な活性物で得られる効果に匹敵するものである。
【0020】
我々は抽出物の強力な効果は2つ以上の異なる活性物の組み合わせによるものと考える。この活性物の少なくとも1つは、アピゲニンのようなフラボン又はフラボノイド、アピゲニン-7-O-グルコシド、イソケルセチン(イソケルシトリン)、ケンフェロール-3-ルチノシド、ケンフェロール-3-ガラクトシド、ケンフェロール-3-ラムノグリコシド、ケンフェロール-3-グルコシド(アストラガリン)、ナリンゲニン-4'-ラムノグルコシド、ナリンギン、ケルセチン、ケルセチン-3,7-O-α-ジラムノシド、ケルシトリン、5,7-ジメチル-エーテル-4'-ラムノグリコシド、ルチン、5,7-ジヒドロキシフラバノン-4'-O-L-ラムノピラノシル-β-D-グルコピラノシド(ナリンゲニンアグリコン)、であると推定され、好ましくは少なくとも1つの活性物はケルセチン、イソケルセチン又はルチンから選ばれる。
【0021】
イソケルセチンの研究によればこの活性物のみである程度の低血糖活性を示す。それ故低血糖活性を有する薬剤の製造にイソケルセチンを使用することが手中にしている本発明の実施態様である。
【0022】
バウヒニア抽出物のさらに別の成分としてポリペプチド、ポリサッカリド、ステロイド及びサポニンが含まれる。本発明の望ましい実施態様では1つ以上の抽出活性物がこの群から選ばれる。
【0023】
これらの分析結果に関係なく、極性溶媒混合物でバウヒニア属の各種の一定部分を抽出し、その後溶媒を分離することによって得られる抽出物が、すぐれた活性を示すことがわかった。
【0024】
したがって我々の発明のさらに別の実施態様は、a)バウヒニア属の各種の一定部分を極性溶媒の混合物で抽出し、b)該溶媒を分離することによるバウヒニア抽出物の製造方法であり、さらにこの方法によって得られる1つ又は複数の抽出物である。
【0025】
極性溶媒の混合物は、1つの溶媒として水を、水より極性が少ない溶媒から選ばれる1つ以上の別の溶媒とを含むのが好ましい。そのような溶媒の好ましいリストにはメタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、アセトニトリル、アセトン及び酢酸エチルが含まれる。好ましい溶媒混合物は10〜90容積%の水を含み、特に好ましくは30〜70容積%の水を含む。
【0026】
抽出方法は例えば次のようにして実現できる:
バウヒニアの乾燥した葉が、エタノール濃度が50容積%のエタノールと水の混合物で抽出される。抽出は20〜90℃、好ましくは50〜90℃、特に好ましくは約70℃の温度で行われる。溶媒を濾過分離後収量を最適化するためこの方法を繰り返すことができる。得られた抽出物が濃縮され濃縮物が乾燥される。好ましい乾燥方法は噴霧乾燥である。この噴霧乾燥に好適な条件が実施例1に示されている。
【0027】
糖尿病治療において手中の本発明抽出物の有利点は次のとおり:
・グルコース耐性の改善、
・グルコース消滅速度の勾配によってみられるようなグルコースクリアランス値の増加、
・グルコースに応答するインスリン分泌に対して影響がないこと。
約150mg抽出物/kg体重で1日2回の投与での治療中、グルコース耐性の向上が非常に良好であることがわかった。
【0028】
これらの条件が治療に対して最善であると思われる。
【0029】
これらの利点によって、ここに記載されるバウヒニア抽出物の薬剤としての使用、特に低血糖活性を有する薬剤の製造及び/又は血漿中グルコースクリアランスに影響を及ぼす好適な薬剤の製造及び/又は血漿中グルコース濃度に影響を与える好適な薬剤の製造への使用が本発明の他の実施態様である。
【0030】
さらに別の有利な点は、恐らく抽出物中のフラボノイドの含量に起因する抽出物の抗酸化活性である。したがってさらに別の実施態様はバウヒニア抽出物の抗酸化剤としての使用である。
【0031】
酸化性の傷害が糖尿病と関連していることがわかった(Eds.L.Packer, P.Rosen, H.Tritscheler, G.King, A.Azzi; 糖尿病治療における抗酸化剤; New York-Basel; Marcel Dekker Inc., 2000)。タイプ2真性糖尿病(以前にはNIDDMと呼ばれた)の原因において、フリーラジカルの損傷とリピド過酸化に対してある役割が提案されている。フリーラジカルがインスリン分泌を減少させ(インスリン欠乏を起す)、インスリン作用を阻害させて(インスリン耐性を引き起す)タイプ2の糖尿病の原因となる特定のメカニズムに関する証拠がある。
【0032】
高レベルの血清や組織の抗酸化剤(特に高血清ビタミンE)を有する人はタイプ2糖尿病になるリスクが低いと云う若干の疫学的データがある。糖尿病患者では酸化性ストレスが増加すると仮定されている。タイプ2糖尿病でストレスが増加する原因を引き起すものは高血糖症、低インスリン血症、及び血清抗酸化剤活性の変化である。
【0033】
不十分に管理された糖尿病は酸素ラジカルに対する細胞防御メカニズムの障害が特徴である(J.Aaseth, O.W.Boe, "The biochemical basis of diabetic complications - a role of oxidative stress?" in: natural antioxidants and anticarcinogens in nutrition, health and disease, Cambridge, RSC, 1999, p.74〜77)。特に、糖尿状態ではグルタチオンレベル(濃度)が内皮細胞、網膜細胞や他の組織内で大きく減少する。アスコルビン酸濃度が細胞外及び細胞内で減少する。血清ビタミンE濃度が低いと報告されている。リピド過酸化の増加、超酸化ラジカルの発生の増加、過酸化水素の組織濃度の増加などがみられる。
【0034】
殆んどの糖尿合併症に存在するミクロ循環障害、キャピラリ低酸素症や虚血症候群は反応性酸素種の生成に関連している。酸化性ストレスの細胞因果関係発生の可能性のあるメカニズムのなかに転写要因NF-κBの賦活がある。細胞形質中に不活性の形態として存在するこのマルチ蛋白質錯体の賦活が糖尿病の病因中で枢要な役割を演じるものと考えられている。
【0035】
糖尿病と戦うための現在の戦略は主として高血糖制御に焦点が合わされている。しかしながら、タイプ2糖尿患者のたった30%しか、さらなる合併症を防止するのに必要な血糖コントロール濃度を達成することができない(Packerら,2000)。
【0036】
酸化性ストレスをコントロールする追加治療方法は、腎障害(腎臓病及び終には腎臓機能不全)、網膜症(盲目をもたらすレチナール変化)、神経障害(異なるタイプの神経傷害)、及び導管症(アテローム性動脈硬化症及び末梢血管症)などの主要な最近の糖尿病合併症に関連する微細血管や神経血管の異常を防ぐことができる。
【0037】
血糖コントロールに加えて酸化性ストレスのコントロールは糖尿病の治療に対する重要なアプローチである(Aaseth及びBoe,1999)。それ故、手中の本発明にしたがう抽出物による糖尿病治療法は、1成分を使用して効果が達成されるので特に有利である。
【0038】
ビタミンC及びE、α-リポ酸、フラボノイド、グルタチオン、カロテノイド、コエンザイム(補酵素)Q10、蛋白質結合亜鉛及びセレニウムを含む多くの抗酸化剤を、薬剤の抗酸化活性をさらに向上させるため、バウヒニア抽出物と一緒に使用することができる。
【0039】
ここに記載したバウヒニア抽出物は薬剤として又は食事栄養補給剤として有用である。代表的な処方においてはここに記載のバウヒニア抽出物を0.01〜99重量%含む。
【0040】
組成物は例えば粉、カプセル、糖衣錠又は錠剤の形態であってもよく、通常は、当業者既知のこれら使用形態を製造するに必要な補助剤を含んでいる。
【0041】
望ましい食事栄養補給剤は、ビタミン、ミネラル、オリゴ成分、プロバイオチック(probiotics)、プレバイオチック(prebiotics)、脂肪酸、フラボノイド、ポリサッカライド、リポ酸又は植物抽出物などの付加的な栄養補給剤を0.01〜99重量%含んでいる。
【0042】
望ましい薬剤処方は、好ましくはビタミンC及びE、α-リポ酸、フラボノイド、グルタチオン、カロテノイド、コエンザイムQ10、蛋白結合亜鉛又はセレニウムを含む群から選ばれる付加的な抗酸化剤を0.01〜99重量%含む。
【0043】
本発明のある1つの実施態様では、スルホニル尿素、メトホルム及び/又はチアゾリジンジオンのような経口低血糖剤(OHAs)をさらに含む。これらの薬剤の1つ以上と本発明のバウヒニア抽出物による組み合わせ療法が望ましい治療の方法である。
【0044】
本発明を何ら限定することなく、抽出物を得る方法及び抽出物の品質が以下の実施例で説明される。
【実施例】
【0045】
実施例1: アルコール水抽出によるBauhinia fortificataドライ抽出物の製造
1.エタノール50(容積/容積)でのアルコール水抽出
Bauhinia fortificataの乾燥粉砕した葉1kgとアルコール水溶液(50%容積/容積)6Lをガラスの反応フラスコ中に入れ、連続的に攪拌しながら、リフラックス下に約1時間加熱した。濾紙付ブッフナー陶器フィルターを使用して抽出物を濾過する。第2の抽出工程で前回抽出に用いたのと同量のアルコール水溶液(50%)がガラス反応フラスコ中の残留物に加えられる。この混合物がリフラックスしながら1時間加熱され、次いで濾紙付ブッフナーフィルターを使用して濾過される。
2.前段濃縮
先に得られた抽出物が、ガラスの蒸発器/濃縮器中減圧下(500mmHg)で、全固形物が5.0〜6.0%の範囲になるまで濃縮される。
3.噴霧乾燥
濃縮物が以下の条件でミニスプレードライヤーB-191(Buchi)中で噴霧乾燥される:
入口温度: 120℃
出口温度: 65〜70℃
ポンプ: 15%
アスピレータ: 90%
空気量: 400ml/分
ポンプ流量: 〜220ml/分
クリーニングテンポライザー: 2
ライン圧力: 80psi(5.5バール=0.55MPa)
4.分析
抽出物が高圧液体クロマトグラフィ(HPLC)と薄層クロマトグラフィ(TLC)によって分析される(特徴が表わされる)。
【0046】
実施例2: 経口グルコース耐性テスト
実施例2a
実施例1の抽出物の効能を評価するのにN0-STZラットモデルが使用される。5日間、薬剤の適当服用(投与)量(表1)が、1日2回、8匹のN0-STZラットに胃管注入される。最後の服用3時間後に、目覚めているラットに2gグルコース/kg体重を服用させることによって経口グルコース耐性テスト(OGTT)が実施される。血液サンプルがグルコース服用直前(ゼロ分)、及び30、60、90ならびに120分後に採集される。
【0047】
我々の発明による実施例(実施例22)の結果(表2及び図1)が、コントロール(実施例23)で得られた結果、100mg/kgのメトホルミンを1日2回5日間投与したラット群に対して得られた結果(実施例24)及びBauhinia fortificataの若葉の水-抽出物に対して得られた結果(実施例25)と比較される。
【0048】
【表1】

【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
5日目にグルコースの投与前2時間の絶食後得られた血液サンプルから絶食時血漿中グルコース濃度(表4)が測定される。
【0052】
【表4】

【0053】
実施例22で得られた結果は実施例24での結果に匹敵するが、実施例25の結果は弱い効果を示す(表3及び4)。
【0054】
実施例2b
実施例1の抽出物の効能を評価するためN0-STZラットモデルが使用される。薬剤の適宜の投与量が、5日間、8匹のN0-STZラットの胃に胃管注入される。最後の投与の3時間後、目覚めているラットに2gグルコース/kg体重投与することによって経口グルコース耐性テスト(OGTT)が実施される。血液サンプルがグルコース投与直前(ゼロ分)及び30、60、90及び120分後に採集される。結果が表6、7及び図2に示されている。
【0055】
【表5】

【0056】
【表6】

【0057】
【表7】

【0058】
抽出物が150mg/kの投与量で1日2回与えられるとき(実施例27)、曲線の下部の面積が著しく減少する(コントロールに対して-35%;p<0.05;Dunettのテスト;表7)。抽出物が1日に1回与えられる場合(実施例28)は、該面積は僅かに減少するが、コントロール(実施例26)とは大きくは違わない。
【0059】
実施例3: 抽出物の抗酸化潜在能力
実施例1の抽出物の抗酸化ポテンシァルがHalliwell,B.; Eschbach,R.; Lohliger,J.; Aruoma,O.I.; Food.Chem.Toxicol, Vol 33, p.601〜67, 1995にしたがって、Trolox Equivalent Antioxidant Activity(TEAC-Assay), EC50(DPPH-Assay)及び相対的抗酸化効率(RAE;Lipid-Assay)として測定される。
【0060】
【表8】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口低血糖作用を有するバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物であって、
前記抽出物が、
a)バウヒニア・フォルティフィカタの葉を30〜70容積%の水を含むエタノールと水の混合物を溶媒として抽出し、b)該溶媒を分離することによって得られる
ものであることを特徴とするバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物。
【請求項2】
前記葉が若い葉である、請求項1に記載のバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物。
【請求項3】
前記経口低血糖作用が、経口により血漿グルコース濃度の降下を生じさせる作用である請求項1または2に記載のバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物。
【請求項4】
経口低血糖作用を有するバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物の製造方法であって、
a)バウヒニア・フォルティフィカタの葉を30〜70容積%の水を含むエタノールと水の混合物を溶媒として抽出し、b)該溶媒を分離することによってバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物を得る
ことを特徴とするバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物の製造方法。
【請求項5】
前記経口低血糖作用が、経口により血漿グルコース濃度の降下を生じさせる作用である請求項4に記載のバウヒニア・フォルティフィカタの抽出物の製造方法。
【請求項6】
1〜99重量%の請求項1又は2に記載のバウヒニア抽出物と、0.01〜99重量%の追加補充物を含み、経口低血糖作用を得るための食物補充剤組成物。
【請求項7】
前記追加補充物がビタミン、ミネラル、オリゴ成分、プロバイオチックス(probiotics)、プレバイオチックス(prebiotics)、フラボノイド、脂肪酸、ポリサッカライド、リポ酸又は植物抽出物であることを特徴とする請求項6に記載の食物補充剤組成物。
【請求項8】
前記経口低血糖作用が、経口により血漿グルコース濃度の降下を生じさせる作用である請求項6または7に記載の食物補充剤組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−102144(P2012−102144A)
【公開日】平成24年5月31日(2012.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−25050(P2012−25050)
【出願日】平成24年2月8日(2012.2.8)
【分割の表示】特願2003−516541(P2003−516541)の分割
【原出願日】平成14年7月1日(2002.7.1)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】