説明

バッテリテスタ

【課題】ISS車用バッテリでも適正に状態を判定可能なバッテリテスタを提供する。
【解決手段】バッテリテスタ1は、OCVと、CCAと、バッテリの状態との関係を定め、バッテリの状態に要充電しきい値を介して隣接する良好領域と要充電領域とを含み、バッテリの種類に対応して少なくとも要充電しきい値が異なる複数の判定マップを記憶しており、電圧測定回路3で測定されたOCVおよび抵抗R1、R2の両端電圧、電流測定回路41、42で測定された抵抗R1、R2に流れる電流からバッテリ10のCCAを算出し、入力操作部6で入力されたバッテリ10の種類を特定するための情報に応じて判定マップを切り替え、切り替えた判定マップに測定されたOCVおよび算出したCCAを当てはめてバッテリ10の状態を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバッテリテスタに係り、特に、判定マップを用いてバッテリの状態を推定するバッテリテスタに関する。
【背景技術】
【0002】
UPS、非常灯、非常放送設備、電話交換機、通信機器基地局など、非常時のバックアップを想定した機器や、自動車、電動車などでバッテリが使用されている。これらの機器はバッテリの劣化や放電などにより機能を発揮できなくなる。これを避けるため、バッテリの性能が低下しているかを確認する装置がある。このような装置として、例えば、バッテリ放電機能を持たないバッテリ監視装置やバッテリ放電機能を持つバッテリテスタが知られている。
【0003】
バッテリテスタは、バッテリをパルス放電させ、その時の電圧、電流から求めた内部抵抗や電導度(内部抵抗の逆数)の値を表示したり、コールドクランキングアンペア(CCA)に換算し表示したりする。また、バッテリテスタは、バッテリの充電状態(SOC)についても検出可能であり、電流が流れていない状態かごくわすがしか電流が流れていない状態でのバッテリ電圧から推定し表示したりしている。
【0004】
劣化バッテリでの健康度(SOH)や容量は、複素インピーダンスの周波数分散データへのカーブフィッティングにより等価回路のパラメータを測定することから求めることができるが、印加波形が正弦波となるため、装置が高コストであり一般的ではない。
【0005】
一般的なバッテリテスタは、定抵抗放電によるものであり(例えば、特許文献1参照)、大きく分けて、100Aの大電流で5秒程度バッテリを放電させるものと、1A〜100Aで1ms〜10msの放電させるものがある。前者はエンジン始動時の電流を模擬したものであり、エンジン始動用バッテリの試験方法としては妥当性がある。後者は、単発パルス時間幅が充分短いので、複数回放電するのが一般的であり、得られた複数のデータは平均化処理など精度向上のための処理に利用する。後者は一般に装置が小さく、近年普及してきている。
【0006】
このようなバッテリテスタでは、バッテリの充電が必要か否かを判定するための要充電判定しきい値の開回路電圧(OCV)として、一般に12.6V程度の電圧が採用されてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4414757号公報(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、近年普及してきた、アイドルストップ・スタート(ISS)車用や、回生充電を含む充電制御車用のバッテリではSOCが低い状態でバッテリが使用されるので、要充電しきい値のOCVとして通常自動車用と同じ12.6Vを用いると要充電判定が頻発する。
【0009】
本発明は上記事案に鑑み、ISS車用や充電制御車用のバッテリでも適正に状態を判定可能なバッテリテスタを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、定抵抗を有しバッテリに並列接続される通電回路と、前記バッテリの開回路電圧(OCV)および前記通電回路の定抵抗の両端電圧を測定する電圧測定手段と、前記通電回路に流れる電流を測定する電流測定手段と、前記バッテリの種類を特定するための情報を入力するための入力手段と、判定マップを記憶した記憶手段と、前記記憶手段に記憶された判定マップを用いて前記バッテリの状態を推定する制御手段と、を備え、前記記憶手段は、バッテリのOCVまたは充電状態(SOC)と、バッテリのコールドクランキングアンペア(CCA)または健康度(SOH)または内部抵抗(Ir)と、バッテリの状態との関係を定めたマップであって、前記バッテリの状態に要充電しきい値を介して隣接する良好領域と要充電領域とを含み、バッテリの種類に対応して少なくとも前記要充電しきい値が異なる複数の判定マップを記憶しており、前記制御手段は、前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVおよび前記定抵抗の両端電圧、並びに、前記電流測定手段で測定された前記通電回路に流れる電流の値から前記バッテリのCCAまたはSOHまたはIrの値を算出するとともに、必要に応じて前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVから前記バッテリのSOCの値を算出し、前記入力手段で入力された前記バッテリの種類を特定するための情報に応じて前記判定マップを切り替え、該切り替えた判定マップに前記測定されたOCVまたは前記算出したSOC、および前記算出したCCAまたはSOHまたはIrの値を当てはめて前記バッテリの状態を推定する、ことを特徴とする。
【0011】
本発明において、バッテリの種類を特定するための情報に、バッテリの型式、バッテリのタイプおよびバッテリが搭載された車両のタイプの少なくとも一つを含むようにしてもよい。このとき、バッテリのタイプにアイドルストップ・スタート(ISS)車用バッテリおよび充電制御車用バッテリの少なくとも一方を含み、バッテリが搭載された車両のタイプにISS車および充電制御車の少なくとも一方を含むことが好ましい。また、入力手段によりオペレータにバッテリの種類を特定するための情報を選択させるための画面を表示する表示手段をさらに備えるようにしてもよい。さらに、バッテリの種類を特定するための情報を外部から取得するための取得手段を備え、制御手段は、取得手段で取得したバッテリの種類を特定するための情報に応じて判定マップを切り替え、該切り替えた判定マップに測定されたOCVまたは算出したSOC、および算出したCCAまたはSOHまたはIrの値を当てはめてバッテリの状態を推定するようにしてもよい。
【0012】
また、本発明において、制御手段は、電圧測定手段で測定されたバッテリのOCVおよび定抵抗の両端電圧、並びに、電流測定手段で測定された通電回路に流れる電流の値からバッテリのオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値を算出し、電圧測定手段で測定されたバッテリのOCV、算出したオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値からバッテリのCCAまたはSOHまたはIrの値を算出するとともに、必要に応じて電圧測定手段で測定されたバッテリのOCVからバッテリのSOCの値を算出するようにしてもよい。このとき、記憶手段に記憶された複数の判定マップは、OCVと、CCAと、バッテリの状態との関係を定めたマップであり、制御手段は、測定されたOCVと、算出したオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値とからCCAの値を算出し、切り替えた判定マップに測定されたOCVおよび算出したCCAの値を当てはめてバッテリの状態を推定するようにしても、または、記憶手段に記憶された複数の判定マップは、SOCと、SOHまたはIrと、バッテリの状態との関係を定めたマップであり、記憶手段は、バッテリのOCVとSOCとの関係を定めた第1の関係マップ、およびバッテリの電荷移動抵抗とSOHまたはIrとの関係を定めた第2の関係マップをさらに記憶しており、制御手段は、測定されたOCVを第1の関係マップに当てはめてバッテリのSOCの値を算出するとともに、算出した電荷移動抵抗値を第2の関係マップに当てはめてバッテリのSOHまたはIrの値を算出し、切り替えた判定マップに算出したSOC、およびSOHまたはIrの値を当てはめてバッテリの状態を推定するようにしてもよい。
【0013】
さらに、本発明において、制御手段によるバッテリの状態の推定結果を表示する第2の表示手段をさらに備えるようにしてもよい。このとき、第2の表示手段は、バッテリが良好な状態にあることを表示するためのLED、バッテリが要充電状態にあることを表示するためのLED、およびバッテリが要交換状態にあることを表示するためのLEDを有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、制御手段により、入力手段で入力されたバッテリの種類を特定するための情報に応じて、バッテリの種類に対応して少なくとも要充電しきい値が異なる複数の判定マップを切り替えて(バッテリの種類に対応した判定マップを選択して)バッテリの状態を推定するので、ISS車用や充電制御車用のバッテリでも適正に状態を判定することができる、という効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明が適用可能な実施形態のバッテリテスタの平面図である。
【図2】実施形態のバッテリテスタのブロック回路図である。
【図3】実施形態のバッテリテスタのマイクロプロセッサのCPUが実行するバッテリ状態推定ルーチンのフローチャートである。
【図4】バッテリに通電する電流の印加波形を示す説明図である。
【図5】スイッチをオン状態に制御する周波数のナイキストプロットである。
【図6】周波数の誤差に起因する内部抵抗の誤差を示す説明図である。
【図7】実施形態のバッテリテスタのマイクロプロセッサのROMに格納された、開回路電圧(OCV)と、コールドクランキングアンペア(CCA)と、バッテリ状態との関係を表す通常自動車用バッテリの判定マップの説明図である。
【図8】実施形態のバッテリテスタのマイクロプロセッサのROMに格納された、開回路電圧(OCV)と、コールドクランキングアンペア(CCA)と、バッテリ状態との関係を表すISS車用および充電制御車用バッテリの判定マップの説明図である。
【図9】実施形態のバッテリテスタのマイクロプロセッサのROMに格納された、バッテリの開回路電圧と充電状態との関係を表す関係マップの説明図である。
【図10】実施形態のバッテリテスタのマイクロプロセッサのROMに格納された、バッテリの内部抵抗と健康度との関係を表す関係マップの説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明を、ハンディータイプで自動車用の複数種類のバッテリの状態を推定可能なバッテリテスタに適用した実施の形態について説明する。なお、本例では、説明を簡単にするために、通常自動車用バッテリ、並びにアイドルストップ・スタート(ISS)車用および充電制御車用バッテリの状態を推定可能なバッテリテスタを例示する。
【0017】
<外観構成>
図1に示すように、本実施形態のバッテリテスタ1は、矩形状のテスタ本体と、テスタ本体から導出されテスト(検査)対象となるバッテリの正負極外部端子にそれぞれ接続するための2つのクリップとを有している。
【0018】
テスタ本体の正面には、上から順に、バッテリテスタ1によるテスト対象バッテリ(図2の符号10も参照)の状態推定結果を印刷するミニプリンタ8、3つのLEDを有しテスト対象バッテリの状態を表示する表示部12、液晶表示装置(LCD)7、5つのプッシュキーを有しLCD7に表示された画面からテスト対象バッテリの種類を特定するための情報を選択するための入力操作部6が配設されている。また、ミニプリンタ8の下部から表示部12にかけて対応するテスタ本体の側面(図1の右側)にはUSB端子11が配されている。
【0019】
ミニプリンタ8は、交換可能なフープ状印刷用紙を内蔵しており、印刷済の用紙部を外側(図1の紙面手前側)に排出する機能を有している。印刷用紙は開閉蓋を介してミニプリンタ8内に内蔵される。また、ミニプリンタ8は、排出された印刷済の用紙部の端を切り取るためのギザギザ状のカッタを有している。
【0020】
表示部12は、テスト対象バッテリが良好な状態にあることを表示するための緑色LED、テスト対象バッテリが要充電状態にあることを表示するための黄色LED、テスト対象バッテリが要交換状態にあることを表示するための赤色LEDを有している。なお、これらのLEDは、抵抗とトランジスタ等のスイッチ素子とを有しテスタ本体内部に配された作動部(表示部12の一部)から供給された電力により点灯する。
【0021】
LCD7は、マイクロプロセッサ(図2の符号2参照)の指示に従い、テスト対象バッテリの種類を特定するための情報をオペレータ(ユーザ)に選択させるための画面を表示する。
【0022】
入力操作部6は、円形のエンター(決定)キーの周りに、上下左右にそれぞれ上スクロールキー(△)、下スクロールキー(▽)、メニューキー、リターンキーが円環状に配され、全体として円形状の形状を有している。エンターキーはオペレータがLCD7に表示された画面の選択項目の決定を行うときに押下され、上下スクロールキーはLCD7に表示された画面の選択項目を上下にスクロールするときに押下され、メニューキーはLCD7にメニュー画面を表示するときに押下され、リターンキーはLCD7に表示された画面の前画面に戻るときに押下される。
【0023】
USB端子11は、USBメモリやUSBケーブルと接続するためのもので、USBメモリやUSBケーブルを介して接続されたパーソナルコンピュータ(PC)から(外部から)、入力操作部6による入力に代えて(または入力操作部6による入力とともに)、テスト対象バッテリの種類を特定するための情報を取得するために用いられる。
【0024】
<内部構成>
図2に示すように、バッテリテスタ1は、自動車用のテスト対象バッテリ(以下、単にバッテリという。)10の正極外部端子および負極外部端子にそれぞれ正負極クリップを介して接続される。図2では、オペレータ(ユーザ)により正負極クリップを介してバッテリテスタ1がバッテリ10の正負極外部端子にそれぞれ接続された状態を示している。
【0025】
正負極クリップは、正極外部端子と負極外部端子とに接続される際の誤接続を防ぐために、クリップを覆うカバーの色が異なっている。本例では、バッテリ10の正極外部端子に接続するためのクリップに赤色、負極外部端子に接続するためのクリップに黒色のカバーが用いられている。また、本例では、正極外部端子に接続される正極クリップには、サーミスタTH等の温度センサが固着している。
【0026】
正負極クリップには、第1のスイッチSW1と第1の抵抗R1とが直列に接続された第1の通電回路と、第2のスイッチSW2と第2の抵抗R2とが直列に接続された第2の通電回路とがそれぞれ並列に接続されている。第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2は、例えば、FET等のスイッチング素子で構成することができる。
【0027】
正負極クリップには、バッテリ10の開回路電圧値(OCV)を測定する電圧測定回路3が接続されている。電圧測定回路3は、さらに、第1のスイッチSW1を閉じたとき(オン状態としたとき)の第1の抵抗R1の両端電圧値(V1)、および、第2のスイッチSW2を閉じたときの第2の抵抗R2の両端電圧値(V2)を測定するために、第1の抵抗R1の両端および第2の抵抗R2の両端にも接続されている。電圧測定回路3は、インピーダンス等による影響を低減させる差動増幅回路およびデジタル電圧値を出力するためのA/Dコンバータを含んで構成されている。電圧測定回路3の出力側はマイクロプロセッサ2に接続されている。
【0028】
本例では、電圧測定回路3を構成するA/Dコンバータに、自動車用12Vモノブロック電池のJIS規格電池で一番大きな245H52形電池(公称容量:176Ah)でも、2Aで10LSB以上の値として分極が測定できる20Vフルスケール16ビットA/Dコンバータを使用した。10LSB以上を基準とした理由は、通常A/Dコンバータは3LSB程度の誤差を含むため、有意な電圧測定値であるためには、測定値が3LSBより充分大きな値である必要があるからである。なお、本例ではA/Dコンバータは10μsのサンプリング速度で作動する。
【0029】
また、バッテリテスタ1は、ホール素子HS等の電流センサを介して第1の通電回路(第1の抵抗R1)に流れる電流値(I1)および第2の通電回路(第2の抵抗R2)に流れる電流値(I2)を測定する第1電流測定回路41および第2電流測定回路42を有しており、これらの電流測定回路の出力側はそれぞれマイクロプロセッサ2に接続されている。また、上述した温度センサTHは温度測定回路5に接続されており、温度測定回路5の出力側はマイクロプロセッサ2に接続されている。第1電流測定回路41、第2電流測定回路42および温度測定回路5はそれぞれA/Dコンバータを含んで構成されている。なお、本例では、第1電流測定回路41および第2電流測定回路42のA/Dコンバータは、電圧測定回路3のA/Dコンバータと同じく10μsのサンプリング速度で作動する。
【0030】
このように第1の抵抗R1、第2の抵抗R2の両端電圧を測定するのは、FET等で構成される第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2のオン状態での抵抗の影響による誤差を低減させるためであり、また、これらの抵抗に流れる電流を別々の電流測定回路で測定するのは、後述するように2つの抵抗に流れる電流値が1桁異なるため測定電流値に則した電流測定回路で測定することで誤差を低減させるためであり、ひいては、後述するバッテリ10のオーミックな抵抗成分および電荷移動抵抗成分を精度よく測定するためである。
【0031】
また、第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2はマイクロプロセッサ2に接続されており、マイクロプロセッサ2から出力される信号に従ってオン、オフが制御される。
【0032】
さらに、マイクロプロセッサ2には、上述したミニプリンタ8、表示部12、LCD7、入力操作部6、USB端子11が接続されている。
【0033】
マイクロプロセッサ2は、中央演算処理装置として機能するCPU、CPUのワークエリアとして働くRAM、CPUのプログラムや後述するマップ、式、第1の抵抗R1および第2の抵抗R2の抵抗値等のデータが格納されたROMを含んで構成されている。
【0034】
ここで、第1、第2の通電回路を構成する第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2のマイクロプロセッサ2によるオン制御時間および第1、第2の通電回路の抵抗の抵抗値について説明する。
【0035】
1.スイッチのオン制御時間
図4に示すように、0.5ms30Aと0.5s2Aのパルスを組み合わせた波形を、JIS−D5301の通常自動車用鉛蓄電池80D26に印加した。30A、2Aとした理由については後述する(「2.第1、第2の通電回路の抵抗の抵抗値」参照)。電気化学セルの抵抗は一般に時間依存性があり、複素インピーダンスの周波数分散解析がバッテリの特性評価に用いられる。図5に示すように、80D26の虚数部−実数部インピーダンス応答は、円弧とその右側に伸びる直線からなっており、1Hzで虚数部が極小値をとり、1kHzで虚数部がゼロとなる。これは、一般に知られるランドレス(Randles)等価回路と呼ばれる、電気化学システム等価回路モデルに対応するものであり、高周波側の虚数部がゼロのときの実数部の抵抗がオーミックな抵抗Rohmで、より低周波数側での虚数部が極小値をとっている周波数での実数部の値が、オーミックな抵抗Rohmと電荷移動抵抗Retの和である。
【0036】
オーミックな抵抗Rohm、電荷移動抵抗Retは、Rohm=1kHz抵抗、Ret=1Hz抵抗−1kHz抵抗と表すことができる。直流パルスの場合に換算すると、Rohm=パルス幅0.5ms抵抗=(パルス前電圧−0.5ms電圧)/0.5ms電流と表すことができる。0.5ms電流はバッテリテスタ1の内部を流れる電流として扱う。これは、負荷放電中や充電用電源で充電中に試験しないことを想定しているためである。負荷放電中や充電用電源で充電中に試験する場合はクランプメータなど、それらの充放電電流も測定し0.5ms電流に加える必要があり、コストの制約がなければそのようにしてもよい。ただし、負荷放電中や充電用電源で充電中に試験しないよう手順を明記すれば済むことなので、クランプメータを省いてコストを下げるほうが望ましい。また、Ret=パルス幅0.5s抵抗−パルス幅0.5ms抵抗と表すことができる。なお、本実施形態における具体的なオーミックな抵抗Rohm、電荷移動抵抗Retの算出式については後述する。
【0037】
図5を参照すると、極小値近辺は曲線の傾きが大きいので、周波数がずれて測定点が多少ずれても測定されるインピーダンスの実数成分はあまり変わらないように思われる。(テスト対象)バッテリ10の状態を精度よく判定するには、バッテリでのオーミックな抵抗Rohmと電荷移動抵抗Retを測定するのに適した周波数を用い、それらの周波数で測定した電圧値および電流値を用いてバッテリの劣化を推定することが望ましい。測定する周波数がばらついたり、バッテリのばらつきのために周波数とインピーダンスとの対応がずれたりした場合の誤差が小さくなる周波数を選ぶことが好ましい。
【0038】
周波数に起因するR実数成分測定誤差の指標を−dR実数成分/dln(周波数f)と表し、各周波数でこの値を図5の実験データを元に計算したところ、図6が得られた。例えば、図5を測定した周波数が35個の場合、f(1),f(2),・・・,f(35)で表すと、f(1)=0.01、f(2)=f(1)×1.4678、f(3)=f(2)×1.4678、f(35)=f(34)×1.4678で計算し周波数を決め、周波数f(n)で実測されたR実数成分をR(n)と表すと、−dR実数成分/dln(周波数f)≒−(R(n)−R(n−1))/(ln(f(n))−ln(f(n−1)))として図6を計算できる。図6を参照すると、0.5〜2Hz(パルス幅換算1s〜0.25ms)の低周波と300Hz〜3kHz(パルス幅換算1.7ms〜0.17ms)の高周波領域で誤差が小さくなっていることが分かる。
【0039】
バッテリテスタとして利用する場合は、これらの2つの領域の周波数に相当する短いパルス幅1.7ms〜0.17msと、長いパルス幅1s〜0.25msとで通電し、その際の電圧値、電流値からバッテリのオーミックな抵抗Rohmおよび電荷移動抵抗Retを算出すればよい。
【0040】
このため、本実施形態では、マイクロプロセッサ2のCPUによる第1のスイッチSW1のオン時間を短いパルス幅内の0.5ms、第2のスイッチSW2のオン時間を長いパルス幅内の0.5sに設定し、異なる時間にこれら2つのスイッチをオン状態に制御、より具体的には、第2のスイッチSW2をオフ状態とし第1のスイッチSW1を短いパルス幅(0.5ms)でオン状態に制御した後直ちに、第1のスイッチSW1をオフ状態とし第2のスイッチSW2を長いパルス幅(0.5s)でオン状態に制御する構成とした。なお、バッテリ10のオーミックな抵抗Rohmおよび電荷移動抵抗Retを算出するには、バッテリ10の開回路電圧も測定する必要があり、その測定タイミングはバッテリテスタ1による通電の前後いずれかに限られるが、第1、第2の通電回路の通電による分極の影響を避けるため、第1、第2の通電回路の通電前が好ましい。また、第1のスイッチSW1をオン状態に制御した直後に、第2のスイッチSW2をオン状態に制御するのは、逆の場合やその間にインターバルを設ける場合と比べバッテリの残存容量の変化による影響が小さいと考えたからである。
【0041】
2.第1、第2の通電回路の抵抗の抵抗値
バッテリ10に通電する電流は複数回連続でも単発でも構わないが、時間を短くするという意図と、バッテリテスタ1の温度が上昇することによる制御・測定系への悪影響を除くため、温度上昇が5K以下になるよう波形連続印加回数を設定することが望ましい。また、短時間でオペレータが多数のバッテリを連続テストする可能性もあるので、その場合でも温度が異常に高くならないように余裕をもった設計とする必要がある。温度上昇を抑制するため、バッテリテスタ1の内部は熱伝導率および熱容量が比較的大きな材料で充填されていることが望ましい。このような材料には、例えば、シリコン粒子をフィラーに使ったエポキシ樹脂が挙げられる。以下の式(1)によって、1回のテストでの波形連続印加回数nの上限が概算できる。
【0042】
【数1】

【0043】
例えば、波形が100Hz0A〜1A矩形波(0A5ms+1A5ms)の場合、単発波形電気量=5mCとなる。短時間ユーザ連続テスト回数を50回とし、テスタ内部は酸化ケイ素などセラミックのフィラーを使った樹脂が充填され、バッテリテスタ熱容量を80J/Kとすると、n=133回となる。これを時間に直すと、133回/100Hz=1.3秒となる。これは1回のテストの時間として十分短い時間である。このため、例えば、133回波形を印加して平均化処理を行うことで推定精度を上げるようにしてもよい。
【0044】
発熱が大きいと抵抗の抵抗値が変動して電流測定精度が悪くなったり、ひどい場合には部品が壊れたり、テスタ表面まで熱くなり手で持てなくなる可能性がある。このため、発熱の問題を避ける点も考慮し、上述したように、長いパルス幅のパルスでは電流を小さくし2Aとした。
【0045】
一方、1.7ms〜0.17msの短いパルス幅の電流は、JIS−D5301に規定された各種電池型式のバッテリにおいて劣化バッテリの検出に適した電流を調べたところ30Aとなったので、30Aとした。劣化バッテリの検出に適しているかどうかは、同一規格の新品バッテリと劣化バッテリで各種電流で放電して内部抵抗を測定し、新品バッテリと劣化バッテリで内部抵抗の違いが大きい電流を劣化バッテリの検出に適していると判断した。1.7ms〜0.17ms30Aでは発熱の問題は起き難いので、短いパルスでは発熱を理由に電流を制限する必要はなかった。
【0046】
以上を前提に、本実施形態では、第1の抵抗R1に巻き線型の0.4Ω(誤差精度5%)の定抵抗、第2の抵抗R2に巻き線型の6Ω(誤差精度5%)の定抵抗を用いた。なお、これらの抵抗値では、図4に示すV1が約300mV、V2が約100mVとなる。
【0047】
<動作>
次に、マイクロプロセッサ2のCPU(以下、単にCPUという。)が実行するバッテリ状態推定ルーチンについて説明する。オペレータが正負極クリップをそれぞれ正負極端子に接続すると、図示を省略した電圧センサがバッテリ10の電圧を感知し内蔵電池による電力を上述した各部に供給することでマイクロプロセッサ2のROMに格納されたプログラムやデータをRAMに展開する等の初期設定処理を経てバッテリ状態推定ルーチンが開始される。
【0048】
図3に示すように、バッテリ状態推定ルーチンでは、まずステップ102において、バッテリ10の種類を特定するための情報の入力(選択)を要求する画面をLCD7に表示する。バッテリ10の種類を特定するための情報としては、バッテリ10の型式(例えば、通常自動車用バッテリでJIS−D5301規格の55D23や、ISS車用バッテリで電池工業会のSBA0101規格のQ55)、バッテリ10のタイプ(例えば、通常自動車用バッテリ、ISS車用バッテリ、充電制御車用バッテリ)、バッテリ10が搭載された車両のタイプ(例えば、通常自動車用、ISS車、充電制御車)を挙げることができる。
【0049】
オペレータは、例えば、入力操作部6のメニューキー等を操作してバッテリ10の型式、バッテリ10のタイプ、バッテリ10が搭載された車両のタイプのいずれでバッテリ10の種類を特定するための情報を入力するかを表すメニュー画面をLCD7に表示させ、入力操作部6の決定キーを押下して自己が入力(選択)を希望する入力(選択)画面をLCD7に表示させる。入力画面には、例えば、オペレータがバッテリ10の型式を選択した場合には、バッテリの型式の一覧画面が表示される。オペレータは、一覧画面を参照し上下スクロールキー等を操作してバッテリ10の型式を選択し決定キーを押下することにより、バッテリ10の種類を特定するための情報を入力する。オペレータがバッテリ10のタイプやバッテリ10が搭載された車両のタイプを選択した場合も同様に、バッテリのタイプやバッテリが搭載された車両のタイプの一覧画面が表示され、オペレータは、上下スクロールキー等を操作してバッテリ10の型式を選択し決定キーを押下することにより、バッテリ10の種類を特定するための情報を入力する。
【0050】
なお、通常自動車用バッテリの型式はJIS−D5301規格で定められており、ISS車用バッテリの型式は電池工業会のSBA0101規格で定められている。回生充電を含む充電制御車用バッテリの型式は通常自動車用バッテリと同じであるが上面に充電制御車用であることを表すシールが貼ってあるので充電制御車であることを確認することができる。
【0051】
また、バッテリテスタ1はUSB端子11を有しているので、以上のようなLCD7および入力操作部6によるバッテリ10の種類を特定するための情報の入力方法に代えて、USB端子11にUSBケーブルを介して接続されたPCからバッテリ10の種類を特定するための情報を送信することにより、バッテリ10の種類を特定するための情報を入力するようにしても、またはUSB端子11にバッテリ10の種類を特定するための情報を記憶したUSBメモリを接続して入力操作部6を操作してバッテリ10の種類を特定するための情報を入力するようにしてもよい。
【0052】
一方、CPUは、ステップ104において、バッテリ10の種類を特定するための情報が入力(選択)されるまで待機し、入力(選択)されると、次のステップ106において、バッテリ10の種類を特定する。その際、例えば、バッテリ10の型式やバッテリ10が搭載された車両のタイプでバッテリ10の種類を特定するための情報が入力(選択)された場合には、対応するテーブルを参照して、バッテリ10の種類を特定する(例えば、バッテリ10の型式としてQ55が選択されたときやバッテリが搭載された車両のタイプとしてISS車が選択されたときは、ISS車用バッテリと特定する。)。
【0053】
次いでステップ108において、CPUは電圧測定回路3から出力されたバッテリ10の開回路電圧値(OCV)を取り込む。なお、第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2はオフ状態のままである。また、ステップ108では、温度測定回路5から出力された温度値も取り込む。
【0054】
次にステップ110では、第1のスイッチSW1を0.5msの間オン状態に制御し、次のステップ112において、第1のスイッチSW1がオン状態に制御されている間に、電圧測定回路3から出力された第1の抵抗R1の両端電圧値(V1)および第1電流測定回路41から出力された第1の抵抗R1に流れる電流値(I1)を取り込む。なお、この状態で、第2のスイッチSW2はオフ状態のままである。
【0055】
次いでステップ114では、第1のスイッチSW1をオフ状態、第2のスイッチSW2を0.5sの間オン状態に制御し、次のステップ116において、第2のスイッチSW2がオン状態に制御されている間に、電圧測定回路3から出力された第2の抵抗R2の両端電圧値(V2)および第2電流測定回路42から出力された第2の抵抗に流れる電流値(I2)を取り込む。この取り込みが終了すると、第2のスイッチSW2をオフ状態に制御する。
【0056】
次に、ステップ118において、測定した開回路電圧値(OCV)、第1の抵抗R1の両端電圧値(V1)、第1の抵抗R1に流れる電流値(I1)、第2の抵抗R2の両端電圧値(V2)、第2の抵抗R2に流れる電流値(I2)から、下式(2)により、コールドクランキングアンペア(CCA)値を演算(算出)する。上述したように、OCV、V1、I1、V2、I2は、10μs毎に測定されるので、測定したそれぞれの平均値をOCV、V1、I1、V2、I2としてもよい。なお、CPUは、CCAを演算する際に、ROMに格納されRAMに展開されたRohmからRohmへの変換マップおよびRetからRetへの変換マップを参照する。
【0057】
【数2】

【0058】
次に、ステップ120において、ステップ106で特定されたバッテリの種類に対応する判定マップに、測定したOCVと演算したCCAとを当てはめてバッテリ10の状態を推定する。
【0059】
本例の判定マップは、OCVと、CCAと、バッテリの状態の関係を定めたものであるが、図7に通常自動車用バッテリの判定マップ、図8にISS車用および充電制御車用バッテリの判定マップの例を示す。これらの判定マップでは、新品バッテリでは理想的には図7および図8の縦軸100%の位置になるはずであるが、劣化するに従い下がるため75%の位置を良好/要交換判定のしきい値に設定した。しかし、良好/要交換判定のしきい値はこれに限られるものではない。
【0060】
また、これらの判定マップは、バッテリの状態に要充電しきい値を介して隣接する良好領域と要充電領域とを含んでいる。通常自動車用バッテリの判定マップ(図7)では、要充電しきい値が12.6Vであるのに対し、ISS車用および充電制御車用バッテリの判定マップ(図8)では、要充電しきい値が12.4Vに設定されている。ISS車や回生充電を含む充電制御車ではSOCが低い状態でバッテリが使用されるため、要充電しきい値のOCVが通常自動車用バッテリと同じ12.6Vでは要充電判定が頻発する。通常自動車用バッテリでは低SOCで使用されると短寿命となるが、ISS車用や充電制御車用バッテリは低SOCで使用しても問題を生じない設計がなされている。このため、要充電しきい値を12.4V程度に下げることで誤った要充電判定を避けることができる。
【0061】
さらに、本例の判定マップでは、バッテリの状態として、「劣化セル交換」、「良好要充電」、「良好」、「充電後再テスト」および「劣化交換」の5つに分類されているが、より多くまたは少なく分類するようにしてもよい。なお、図7、図8に示した判定マップにおいて、「充電後再テスト」と「劣化交換」とを画する斜線をCCA=0%まで延ばしたときのOCVは11.8Vである。
【0062】
次のステップ122では、バッテリ10の充電状態(SOC)や健康度(SOH)を推定し、タッチパネルに表示する。すなわち、図9に示すように、開回路電圧(OCV)と充電状態(SOC)との関係を定めた関係マップにステップ108で測定した開回路電圧値(OCV)を当てはめてバッテリ10の充電状態(SOC)を推定する。また、図10に示すように、ROMには電荷移動抵抗Retと健康度(SOH)との関係を定めた第2の関係マップに実測したRetを当てはめてバッテリ10の健康度(SOH)を推定する。オーミックな抵抗とSOHは一般に対応する性質のものではないが、一方、電荷移動抵抗は電極の有効表面積や電解液中の電極反応種(硫酸)濃度に依存するので、鉛電池のような充電状態(SOC)によって有効表面積や電極反応種(硫酸)濃度が変わる電池系において電荷移動抵抗はSOHと対応する。残容量はSOHと1対1に対応する量なので、残容量を推定することもできる。なお、これらSOH、SOCを推定するにあたり、所定の温度でのSOH、SOCに温度補正することが好ましい。
【0063】
また、ステップ122では、バッテリテスタ1によるバッテリ10の状態の推定(テスト)結果として、バッテリ10が良好な状態にあるときは表示部12の緑色LEDを、バッテリ10が要充電状態にあるときは表示部12の黄色LEDを、バッテリ10が要交換状態にあるときは表示部12の赤色LEDを、それぞれ所定時間(例えば、2分)点灯させる。さらに、入力操作部6を介して、測定結果や推定結果についてミニプリンタ8への出力指示がある場合には、指示に従い出力(印刷)する。ステップ122での処理が終了すると、バッテリ状態推定ルーチンは終了する。
【0064】
(作用効果等)
次に、本実施形態のバッテリテスタ1の作用効果等について説明する。
【0065】
本実施形態のバッテリテスタ1では、ROMに、OCVと、CCAと、バッテリの状態との関係を定めたマップであって、バッテリの状態に要充電しきい値を介して隣接する良好領域と要充電領域とを含み、バッテリの種類に対応して少なくとも要充電しきい値が異なる複数の判定マップ(図7、8参照)が記憶されており、これらの判定マップはRAMに展開されている。入力操作部6で入力(選択)されたバッテリの種類を特定するための情報に応じて、バッテリの種類に対応して要充電しきい値が異なる判定マップを切り替えて(バッテリの種類に対応した判定マップを特定して)バッテリの状態を推定する(ステップ106、120)。このため、ISS車用や充電制御車用バッテリでも誤った要充電判定を避け、適正にバッテリ10の状態を判定することができる。
【0066】
また、本実施形態のバッテリテスタ1によれば、マイクロプロセッサ2は、バッテリ10のオーミックな抵抗Rohmと電荷移動抵抗Retとを算出する際の、周波数誤差がほぼ最小となるパルス幅内で第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2をオン状態に制御する。このため、マイクロプロセッサ2は、バッテリ10の開回路電圧値(OCV)と、第1のスイッチSW1を短いパルス幅(0.5ms)でオン状態に制御した状態で測定した第1の抵抗R1の両端電圧値(V1)および第1の抵抗R1に流れる電流値(I1)とからバッテリ10のオーミックな抵抗成分Rohmを適正に検出でき(式(2)参照)、このオーミックな抵抗成分Rohmと、バッテリ10の開回路電圧値(OCV)と、第2のスイッチSW2を長いパルス幅(0.5s)でオン状態に制御した状態で測定した第2の抵抗R2の両端電圧値(V2)および第2の抵抗に流れる電流値(I2)とからバッテリ10の電荷移動抵抗Retを適正に検出できるため(式(2)参照)、バッテリ10の状態を精度よく推定することができる。
【0067】
また、本実施形態のバッテリテスタ1によれば、第1および第2の通電回路に流れる通電パルスが長いパルス幅(0.5s)でも1s以下であり、通電電流(30A)もエンジン始動を模擬する程の大電流とする必要がないため、発熱を抑制し、第1の抵抗R1、第2の抵抗R2を小さくでき装置全体の小型化を図ることができる。
【0068】
さらに、本実施形態のバッテリテスタ1によれば、マイクロプロセッサ2は、第2のスイッチSW2をオフ状態とし第1のスイッチSW1を短いパルス幅(0.5ms)でオン状態に制御した後直ちに、第1のスイッチSW1をオフ状態とし第2のスイッチSW2を長いパルス幅(0.5s)でオン状態に制御するため、バッテリ10の残存容量の変化による影響を低減でき、バッテリ10の状態を精度よく推定することができる。
【0069】
また、本実施形態のバッテリテスタ1によれば、マイクロプロセッサ2は、開回路電圧値(OCV)、第1の抵抗R1の両端電圧値(V1)および第1の抵抗R1に流れる電流値(I1)と、第2の抵抗R2の両端電圧値(V2)および第2の抵抗R2に流れる電流値(I2)とからバッテリ10の電荷移動抵抗値Retを算出し、算出した電荷移動抵抗値Retを、ROMに予め格納されたバッテリ10の電荷移動抵抗値Retと健康度との関係を定めた関係マップに当てはめてバッテリ10の健康度(SOH)を推定するとともに、開回路電圧値(OCV)を、開回路電圧と充電状態との関係を定めた関係マップに当てはめてバッテリ10の充電状態(SOC)を推定するので、バッテリ10の状態を詳しく検出することができる。
【0070】
さらに、本実施形態のバッテリテスタ1によれば、温度センサを有する温度測定回路5で測定された温度値により、算出したオーミックな抵抗Rohmおよび電荷移動抵抗Retを−18℃での値に温度補正するので、コールドクランキングアンペア値を精度よく算出することができ、その結果、バッテリ10の状態を適正に推定することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、OCVと、CCAと、バッテリの状態との関係を定めた複数の判定マップを例示したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、OCVに代えてSOCを用いるようにしてもよい。OCVからSOCへの変換は、例えば、図9に示した関係マップを用いて行うことができる。また、CCAに代えてSOHやバッテリの内部抵抗(Ir)を用いるようにしてもよい。上述したように、電荷移動抵抗値Retと健康度(SOH)には相関があり(図10も参照)、SOHと内部抵抗(Ir)とに相関があることは知られているため、電荷移動抵抗値RetからSOH、Irを求めることができる。従って、例えば、SOCと、SOHまたはIrと、バッテリの状態との関係を定めた複数の判定マップを用いる場合には、OCVとSOCとの関係を定めた第1の関係マップ、電荷移動抵抗とSOHまたはIrとの関係を定めた第2の関係マップもROMに記憶しておき、測定したOCVを第1の関係マップに当てはめてSOCの値を算出するとともに、式(2)で算出した電荷移動抵抗値を第2の関係マップに当てはめてSOHまたはIrの値を算出し、バッテリ10の種類に対応する判定マップに算出したSOC、およびSOHまたはIrの値を当てはめてバッテリ10の状態を推定するようにしてもよい。さらに、本実施形態ではCCA(%)を例示したが、これに代えてCCA(A)を用いるようにしてもよい。
【0072】
また、本実施形態では、バッテリテスタ1によるバッテリ10の状態の推定結果を表示部12のLEDを点灯させることで表示する例を示したが、本発明はこれに限ることなく、例えば、LCD7で表示するようにしてもよい。さらにまた、本実施形態では、バッテリテスタ1の判定精度を高めるために、第1、第2の2つの通電回路を例示したが、本発明はこれに限らず、1つの通電回路を用いて判定するバッテリテスタにも適用可能である。
【0073】
さらに、本実施形態では、図7、8に示したように、全域の判定マップを例示したが、OCV、CCAともに離散値としたテーブルを判定マップとし、CPUが離散値間の数値を按分計算により補完するようにしてもよい。
【0074】
また、本実施形態では、コストの点を考慮し、電圧測定回路3を単一のものとしたが、本発明はこれに限らず、バッテリ10の開回路電圧を測定する開回路電圧測定部、第1の抵抗R1の両端電圧を測定する第1電圧測定部および第2の抵抗R2の両端電圧を測定する第2電圧測定部の3つの電圧測定部で構成するようにしてもよい。
【0075】
また、本実施形態では、電流測定精度を高めるために、第1の抵抗R1に流れる電流を測定する第1電流測定回路41と、第2の抵抗R2に流れる電流を測定する第2電流測定回路42との2つの電流測定回路を例示したが、例えば、正極クリップと第2のスイッチSW2との間に電流センサを設け、第1のスイッチSW1および第2のスイッチSW2を閉じたときのバッテリ10に流れる電流を1つの電流測定回路で測定するようにしてもよい。この場合には、第1のスイッチSW1、第2のスイッチSW2のオン状態時の抵抗を考慮して第1の抵抗R1や第2の抵抗R2に流れる電流値を算出するようにすればよい。
【0076】
さらに、本実施形態では、バッテリ10の温度を測定するために、正極クリップに温度センサを固着しバッテリ10の正極外部端子の温度をバッテリ10の温度として測定した例を示したが、温度センサをバッテリ10に固定することでバッテリ10の温度を測定するようにしてもよい。そして、本実施形態では、オペレータが正負極クリップをそれぞれ正負極端子に接続することで、図示を省略した電圧センサがバッテリ10の電圧を感知し内蔵電池による電力を自動的に各部に供給することでバッテリ状態推定ルーチンが開始される例を示したが、バッテリテスタ1の電源をオンまたはオフとする電源スイッチを設け、オペレータが正負極クリップをそれぞれ正負極端子に接続し、電源スイッチをオンとすることでバッテリ状態推定ルーチンが開始されるようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明はISS車用や回生充電を含む充電制御車用のバッテリでも適正に状態を判定可能なバッテリテスタを提供するものであるため、バッテリテスタの製造、販売に寄与するので、産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0078】
1 バッテリテスタ
2 マイクロプロセッサ(制御手段、記憶手段、取得手段の一部)
3 電圧測定回路(電圧測定手段の一部)
6 入力操作部(入力手段)
7 液晶表示装置(表示手段)
8 ミニプリンタ
10 バッテリ
11 USB端子(取得手段の一部)
12 表示部(第2の表示手段)
41 第1電流測定回路(電流測定手段の一部)
42 第2電流測定回路(電流測定手段の一部)
R1 第1の抵抗(定抵抗の一部)
R2 第2の抵抗(定抵抗の一部)
SW1 第1のスイッチ
SW2 第2のスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
定抵抗を有しバッテリに並列接続される通電回路と、
前記バッテリの開回路電圧(OCV)および前記通電回路の定抵抗の両端電圧を測定する電圧測定手段と、
前記通電回路に流れる電流を測定する電流測定手段と、
前記バッテリの種類を特定するための情報を入力するための入力手段と、
判定マップを記憶した記憶手段と、
前記記憶手段に記憶された判定マップを用いて前記バッテリの状態を推定する制御手段と、
を備え、
前記記憶手段は、バッテリのOCVまたは充電状態(SOC)と、バッテリのコールドクランキングアンペア(CCA)または健康度(SOH)または内部抵抗(Ir)と、バッテリの状態との関係を定めたマップであって、前記バッテリの状態に要充電しきい値を介して隣接する良好領域と要充電領域とを含み、バッテリの種類に対応して少なくとも前記要充電しきい値が異なる複数の判定マップを記憶しており、
前記制御手段は、前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVおよび前記定抵抗の両端電圧、並びに、前記電流測定手段で測定された前記通電回路に流れる電流の値から前記バッテリのCCAまたはSOHまたはIrの値を算出するとともに、必要に応じて前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVから前記バッテリのSOCの値を算出し、前記入力手段で入力された前記バッテリの種類を特定するための情報に応じて前記判定マップを切り替え、該切り替えた判定マップに前記測定されたOCVまたは前記算出したSOC、および前記算出したCCAまたはSOHまたはIrの値を当てはめて前記バッテリの状態を推定する、
ことを特徴とするバッテリテスタ。
【請求項2】
前記バッテリの種類を特定するための情報に、バッテリの型式、バッテリのタイプおよびバッテリが搭載された車両のタイプの少なくとも一つを含むことを特徴とする請求項1に記載のバッテリテスタ。
【請求項3】
前記バッテリのタイプにアイドルストップ・スタート(ISS)車用バッテリおよび充電制御車用バッテリの少なくとも一方を含み、前記バッテリが搭載された車両のタイプにISS車および充電制御車の少なくとも一方を含むことを特徴とする請求項2に記載のバッテリテスタ。
【請求項4】
前記入力手段によりオペレータに前記バッテリの種類を特定するための情報を選択させるための画面を表示する表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のバッテリテスタ。
【請求項5】
前記バッテリの種類を特定するための情報を外部から取得するための取得手段をさらに備え、前記制御手段は、前記取得手段で取得した前記バッテリの種類を特定するための情報に応じて前記判定マップを切り替え、該切り替えた判定マップに前記測定されたOCVまたは前記算出したSOC、および前記算出したCCAまたはSOHまたはIrの値を当てはめて前記バッテリの状態を推定することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のバッテリテスタ。
【請求項6】
前記制御手段は、前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVおよび前記定抵抗の両端電圧、並びに、前記電流測定手段で測定された前記通電回路に流れる電流の値から前記バッテリのオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値を算出し、前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCV、前記算出したオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値から前記バッテリのCCAまたはSOHまたはIrの値を算出するとともに、必要に応じて前記電圧測定手段で測定された前記バッテリのOCVから前記バッテリのSOCの値を算出することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のバッテリテスタ。
【請求項7】
前記記憶手段に記憶された複数の判定マップは、OCVと、CCAと、バッテリの状態との関係を定めたマップであり、前記制御手段は、前記測定されたOCVと、前記算出したオーミックな抵抗値および電荷移動抵抗値とからCCAの値を算出し、前記切り替えた判定マップに前記測定されたOCVおよび前記算出したCCAの値を当てはめて前記バッテリの状態を推定することを特徴とする請求項6に記載のバッテリテスタ。
【請求項8】
前記記憶手段に記憶された複数の判定マップは、SOCと、SOHまたはIrと、バッテリの状態との関係を定めたマップであり、前記記憶手段は、バッテリのOCVとSOCとの関係を定めた第1の関係マップ、およびバッテリの電荷移動抵抗とSOHまたはIrとの関係を定めた第2の関係マップをさらに記憶しており、前記制御手段は、前記測定されたOCVを前記第1の関係マップに当てはめて前記バッテリのSOCの値を算出するとともに、前記算出した電荷移動抵抗値を前記第2の関係マップに当てはめて前記バッテリのSOHまたはIrの値を算出し、前記切り替えた判定マップに前記算出したSOC、およびSOHまたはIrの値を当てはめて前記バッテリの状態を推定することを特徴とする請求項6に記載のバッテリテスタ。
【請求項9】
前記制御手段による前記バッテリの状態の推定結果を表示する第2の表示手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のバッテリテスタ。
【請求項10】
前記第2の表示手段は、前記バッテリが良好な状態にあることを表示するためのLED、前記バッテリが要充電状態にあることを表示するためのLED、および前記バッテリが要交換状態にあることを表示するためのLEDを有することを特徴とする請求項9に記載のバッテリテスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−72838(P2013−72838A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−214118(P2011−214118)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】