説明

バナジン酸ビスマス顔料

【課題】高い黄色度を発揮することを可能にする、バナジン酸ビスマス顔料、並びに例えば、塗料、プラスチック、セラミックス等の幅広い分野で用いることができること、高い着色力を発揮すること、使用に際する環境への負荷の発生が抑制されること、黄色着色物の低コストでの製造を可能にすること等の少なくともいずれかを可能にする、黄色顔料を提供すること。
【解決手段】平均組成式(I):
【化1】


(式中、Aは希土類元素であり、xは0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有したものであるバナジン酸ビスマス顔料;並びに該バナジン酸ビスマス顔料からなる黄色顔料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高着色力を有する新規バナジン酸ビスマス顔料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、バナジン酸ビスマスは、これを黄色顔料として一般樹脂及びエンジニヤリングプラスチック樹脂の着色、塗料、インキ、セラミックス、建材等に使用することが知られている(特許文献1)。
【0003】
また、バナジン酸ビスマスの特性を向上させるための方法が提案されている。例えば、ビスマスあるいはバナジウムを部分的に他の元素で置換する方法(特許文献2及び3)、バナジン酸ビスマスにフッ化物やオキシフッ化物を含有させる方法(特許文献4)、バナジン酸ビスマスに付加的にリン酸ビスマスのリンを含有させる方法(特許文献5)、バナジン酸ビスマスの形態を突起状に制御する方法(特許文献6)、及びバナジン酸ビスマスの表面を他の物質でコートする方法(特許文献7)などがある。
【0004】
しかしながら、上記特許文献1〜7それぞれに記載の顔料は、L***表色系座標において、黄色度を表すb*値が60よりも小さく、用途によっては、黄色の着色力が不十分であるという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5−124820号公報
【特許文献2】特開平5−271568号公報
【特許文献3】特開平11−349332号公報
【特許文献4】特開2000−86930号公報
【特許文献5】特開平10−139440号公報
【特許文献6】特開2004−155876号公報
【特許文献7】特開平10−72555号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、高い黄色度を発揮することを可能にする、バナジン酸ビスマス顔料を提供することを1つの目的とする。また、本発明は、例えば、塗料、プラスチック、セラミックス等の幅広い分野で用いることができること、高い着色力を発揮すること、使用に際する環境への負荷の発生が抑制されること、黄色着色物の低コストでの製造を可能にすること等の少なくともいずれかを可能にする、黄色顔料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、平均組成式(I):
【0008】
【化1】

(式中、Aは希土類元素であり、xは0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有したものである、バナジン酸ビスマス顔料に関する。平均組成式(I)において、xの値は、好ましくは、0.05以上0.15以下である。また、本発明は、前記バナジン酸ビスマス顔料を含む黄色顔料に関する。かかる黄色顔料は、好ましくは、CIEのL***表色系座標のb*値で表される黄色度が少なくとも60以上であり、さらに好ましくは黄色度が85以上である。
【発明の効果】
【0009】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、高い黄色度を発揮するという優れた効果を有する。また、本発明の黄色顔料は、例えば、塗料、プラスチック、セラミックス等の幅広い分野で用いることができること、高い着色力を発揮すること、使用に際する環境への負荷の発生が抑制されること、黄色着色物の低コストでの製造を可能にすること等の少なくともいずれかを達成するという優れた効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】バナジン酸ビスマス顔料のX線回折パターンを示す図。図中、(A)〜(D)は、それぞれ、試験例3、4、14及び21を示す。
【図2】バナジン酸ビスマス顔料の紫外可視反射スペクトルを示す図。図中、(A)〜(D)は、それぞれ、試験例3、4、14及び21の結果を示す。
【図3】試験例8のバナジン酸ビスマス顔料の紫外可視反射スペクトルを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、前記したように、平均組成式(I):
【0012】
【化2】

【0013】
(式中、Aは希土類元素であり、xは0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有する、バナジン酸ビスマス顔料である。
【0014】
なお、本明細書において、「バナジン酸ビスマス顔料」は、平均組成式(I)を満たす組成を有する単相からなる固溶体であってもよく、全体として平均組成式(I)を満たす組成に相当する複数の酸化物及び/又は複数の固溶体からなる混合物であってもよい。
【0015】
また、本明細書において、黄色度は、色彩を、色彩色差計により測定し、国際照明委員会によって1976年に規格化されたL***表色系座標により与えられる座標に基づき評価されうる。なお、前記L*は、反射率の尺度(明/暗シェーディング)を与え、100(白色)から0(黒色)まで変動する。a*及びb*は、色の傾向の値であり、正のa*=赤色、負のa*=緑色、正のb*=黄色、負のb*=青色である。すなわち、L*は、黒色から白色までの変化、a*は、緑色から赤色までの変化、そしてb*は、黄色から青色までの変化をそれぞれ表す。
【0016】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料の平均組成式(I)において、Aは希土類元素である。即ち、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luのうち少なくとも1種類から選ばれるものであり、特に限定されないが、所望の黄色度に応じて、設定されうる。例えば、L***表色系座標において、b*値が60以上となる高い黄色度を示す黄色顔料を製造する場合には、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、Aの希土類元素としてLaが含まれることが好ましい。また、例えば、L***表色系座標において、b*値が60未満の黄色度を示す黄色顔料を製造する場合には、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、前記Aの希土類元素がLa以外であればよい。
【0017】
また、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)を満たすものであればよく、特に限定されないが、所望の黄色度に応じて、設定されうる。例えば、L***表色系座標において、b*値が60以上となる高い黄色度を示す黄色顔料を製造すべく、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、xの値が0.02〜0.2の範囲にある組成である。また、L***表色系座標において、例えばb*値が85以上となる、より高い黄色度を示す黄色顔料を製造する場合には、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、xの値が0.05〜0.15の範囲にある組成であることが好ましい。また、L***表色系座標において、例えばb*値が60以上85未満の黄色度を示す黄色顔料を製造する場合には、本発明のバナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、前記xの値が0.02〜0.05、また0.15〜0.2の範囲にある組成であることが好ましい。さらに、L***表色系座標において、例えばb*値が60未満の黄色度を示す黄色顔料を製造する場合には、バナジン酸ビスマス顔料の組成は、平均組成式(I)において、前記xの値が0.02〜0.2の範囲外になり得る。
【0018】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、X線回折パターンにおいて、高い結晶性を有する単斜晶構造の相を主成分とすることが示される複合酸化物である。なお、本発明のバナジン酸ビスマス顔料では、高い黄色度を発揮するものであれば、組成によって、正方晶構造のバナジン酸ビスマス等が不純物として観測されるものであってもよい。
【0019】
また、本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、分光反射スペクトルにおいて、青色光に相当する500nm以下の波長の光の反射率が小さくなる、すなわち、青色光に相当する500nm以下の波長の光を吸収することが示される複合酸化物である。なお、青色は黄色の補色であるため、本発明のバナジン酸ビスマス顔料では、500nm以下の波長の反射率が小さくなるほど、当該バナジン酸ビスマス顔料の黄色度が大きくなる。前記分光反射スペクトルの特徴は、例えば、本発明のバナジン酸ビスマス顔料において、平均組成式(I)において、AがLaであり、さらにxの値が、0.05以上0.15以下である場合に見られうる。かかる分光反射スペクトルは、分光光度計により測定されうる。
【0020】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、特に限定されないが、例えば、液相反応による方法、固相反応による方法等により製造されうる。本発明には、かかるバナジン酸ビスマス顔料の製造方法も包含される。
【0021】
前記液相反応による方法としては、例えば、所定の化合物(ビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物)の酸溶液それぞれ、該化合物の水溶液それぞれ、又は該化合物のエタノール溶液それぞれを混合し、得られた混合物に沈殿剤を添加し、得られた産物を密閉容器内において加熱して、所望のバナジン酸ビスマス顔料を得る方法(以下、「液相反応法1」ともいう);前記化合物の酸溶液それぞれ、該化合物の水溶液それぞれ又は該化合物のエタノール溶液それぞれを混合し、得られた混合物に沈殿剤を添加し、得られた産物から溶媒を留去し、得られた前駆体を焼成して、所望のバナジン酸ビスマス顔料を得る方法(以下、「液相反応法2」ともいう)等が挙げられる。なお、前記化合物の酸溶液、該化合物の水溶液又は該化合物のエタノール溶液は、反応により、平均組成式(I)により表される組成からなる複合酸化物になりうる溶液である。
【0022】
前記液相反応による方法において、用いられるビスマス化合物、希土類化合物、及びバナジウム化合物としては、酸、水又はエタノールに可溶な化合物が挙げられる。酸、水又はエタノールに可溶なビスマス化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、酸化ビスマス、硝酸ビスマス、オキシ硝酸ビスマス、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、硫酸ビスマス、酢酸ビスマス、クエン酸ビスマス等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、酸化ビスマスが望ましい。酸、水又はエタノールに可溶な希土類化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、希土類元素の酸化物、硝酸塩、硝酸アンモニウム塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、硝酸塩が望ましい。酸、水又はエタノールに可溶なバナジウム化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、バナジン酸アンモニウム、五酸化バナジウム等が挙げられ、取扱いが容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、バナジン酸アンモニウムが望ましい。なお、前記液相反応による方法では、これらの化合物のうち、水和物を形成しうる化合物については、その様態のまま使用してもよい。前記ビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物は、高純度(例えば、99.9%以上)であることが望ましい。
【0023】
また、前記沈殿剤としては、特に限定されないが、他の金属の混入を防ぐという観点から、例えば、アンモニア、尿素、炭酸水素アンモニウム、炭酸アンモニウム、ヘキサメチレンジアミン、これらの水溶液等が挙げられる。かかる沈殿剤は、前記ビスマス化合物、希土類化合物、及びバナジウム化合物の種類に応じて、適宜選択されうる。
【0024】
前記液相反応法1による方法では、密閉容器内における加熱において、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料が生成しうる温度範囲内で、温度をできるだけ低く制御することにより、平均1次粒子径が1μm以下の微粒子のバナジン酸ビスマス顔料を製造することができる。このように製造される本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、分散性に優れ、とりわけ、常温や比較的低温(例えば、0℃〜350℃等)において、高い分散安定性を発現するため、塗料、絵の具等のように、高い分散性が要求され、常温や比較的低温で使用される用途の顔料として有利である。
【0025】
前記液相反応法1による方法において、密閉容器内における加熱温度は、80℃〜300℃であればよく、特に限定されないが、例えば、b*値が60以上となる高い黄色度を示す黄色顔料を製造する観点から、150℃以上、好ましくは、200℃以上、より好ましくは、230℃以上であり、より小さい粒子径の粒子を得る観点から、300℃以下、好ましくは、280℃以下、より好ましくは、250℃以下であることが望ましい。
【0026】
前記液相反応法1による方法において、密閉容器内における加熱時間は、5〜100時間であればよく、特に限定されないが、例えば、b*値が60以上となる高い黄色度を示す黄色顔料を製造する観点から、好ましくは、48時間以上、より好ましくは、72時間以上であることが望ましい。
【0027】
また、前記液相反応法2による方法では、焼成において、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料が生成しうる温度範囲内で、焼成温度をできるだけ低く制御することにより、平均粒子径が1μm以下の微粒子のバナジン酸ビスマス顔料を製造することができる。このように製造される本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、分散性に優れ、とりわけ、常温や比較的低温(例えば、0℃〜350℃等)において、高い分散安定性を発現するため、塗料、絵の具等のように、高い分散性が要求され、常温や比較的低温で使用される用途の顔料として有利である。
【0028】
前記液相反応法2による方法により、前記微粒子のバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合の焼成温度は、特に限定されないが、例えば、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料を安定に生成させる観点から、100℃以上、好ましくは、150℃以上であり、より小さい粒子径の粒子を得る観点から300℃以下、好ましくは、250℃以下であることが望ましい。前記微粒子のバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合の焼成は、かかる温度で数時間維持することにより行われるが、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料を安定に生成させる観点から、3時間以上、好ましくは、6時間以上、粒成長や焼結の抑制、及び製造時間の短縮の観点から、100時間以下、好ましくは、30時間以下であることが望ましい。また、焼成雰囲気条件は、ビスマス化合物及び/又はバナジウム化合物の還元を抑制し、黄色の着色力をより向上させる観点から、空気、酸素ガス、酸素とアルゴンとの混合ガス、酸素と窒素との混合ガス等の酸化性雰囲気条件であることが望ましい。
【0029】
前記液相反応法1ないし2による方法において、ビスマス化合物と希土類化合物とバナジウム化合物との混合比(モル比)は、平均組成式(I)を満たす範囲で適宜設定されうる。とりわけ、ビスマス化合物と希土類化合物との混合比は、黄色の着色力をより向上させる観点から、ビスマス/希土類元素(モル比)に換算して、80/20以上、好ましくは、85/15以上であり、同じく黄色の着色力をより向上させる観点から、99/2以下、好ましくは、95/5以下であることが望ましい。即ち、平均組成式(I)において、xの値が0.02以上0.2以下であることが好ましく、xの値が0.05以上0.15以下であることがさらに望ましい。
【0030】
前記液相反応法1により、例えば、平均組成式(II):
【0031】
【化3】

【0032】
の組成を有するバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合、該バナジン酸ビスマス顔料は、具体的には、例えば、
(A)Bi(NO33水溶液と、La(NO33水溶液と、NH4VO3硝酸溶液とを、大気雰囲気中、Bi:La:V(モル比)が0.9:0.1:1となるように混合し、得られた混合物を室温で1時間攪拌する工程、
(B)前記工程(A)で得られた産物に、アンモニア水を滴下しながら、添加する工程、
(C)前記工程(B)で得られた溶液のpHをpH6に調整し、調整後の溶液を大気雰囲気中、室温で12時間攪拌する工程、及び、
(D)前記工程(C)で得られた産物を内壁がテフロン、外壁が真鍮からなる耐圧容器に入れ、内容物が漏れないように密閉したのち、容器全体を、大気雰囲気中、80〜300℃で72時間加熱する工程、
を行なうこと等により製造されうる。
【0033】
前記液相反応法2により、例えば、平均組成式(II)の組成を有するバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合、該バナジン酸ビスマス顔料は、具体的には、例えば、
(a)Bi(NO33水溶液と、La(NO33水溶液と、NH4VO3硝酸溶液とを、大気雰囲気中、Bi:La:V(モル比)が0.9:0.1:1となるように混合し、得られた混合物を室温で1時間攪拌する工程、
(b)前記工程(a)で得られた産物に、アンモニア水を滴下しながら、添加する工程、
(c)前記工程(b)で得られた溶液のpHをpH6に調整し、大気雰囲気中、室温で12時間攪拌後、得られた産物から、ロータリーエバポレーター等により溶媒を留去する工程、及び、
(d)前記工程(c)で得られた固形物を、大気雰囲気中、100〜300℃で6時間以上焼成する工程、
を行なうこと等により製造されうる。
【0034】
前記液相反応法1ないし2において、黄色度が85以上となるような高い黄色度のバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合は、液相反応法1により製造することが好ましい。
【0035】
前記固相反応による方法としては、所定の化合物(ビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物)の混合物を焼成する固相反応法等が挙げられる。前記化合物の混合物は、焼成により、平均組成式(I)により表される組成からなるバナジン酸ビスマス顔料になりうる混合物である。
【0036】
前記固相反応による方法において、用いられるビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物としては、酸化物(特に限定されないが、例えば、酸化ビスマス、希土類酸化物、五酸化バナジウム等)、高温で分解し酸化物になりうる化合物等が挙げられる。
前記高温で分解し酸化物になりうるビスマス化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、水酸化ビスマス、次炭酸ビスマス、硝酸ビスマス、オキシ硝酸ビスマス、塩化ビスマス、オキシ塩化ビスマス、酢酸ビスマス、クエン酸ビスマス、これらの水和物等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、硝酸ビスマスである。
前記高温で分解し酸化物になりうる希土類化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、希土類元素の水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硝酸アンモニウム塩、塩化物、硫酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、及びこれらの水和物等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、希土類元素炭酸塩である。
前記高温で分解し酸化物になりうるバナジウム化合物としては、具体的には、特に限定されないが、例えば、水酸化バナジウム、バナジン酸アンモニウム、炭化バナジウム、オキシ硫酸バナジウム、オキシしゅう酸バナジウム、塩化バナジウム、オキシ二塩化バナジウム、ヨウ化バナジウム等が挙げられ、なかでも、入手が容易であり、安価であるという観点から、好ましくは、バナジン酸アンモニウムである。前記セリウム化合物、ケイ素化合物、及びビスマス化合物は、高純度(例えば、99.9%以上)であることが望ましい。
【0037】
前記固相反応法による方法において、ビスマス化合物と希土類化合物とバナジウム化合物との混合は、メノウ乳鉢等による手動混合、通常、工業的に用いられているボールミル、V型混合機、攪拌装置等による機械的な混合等により行なわれうる。
【0038】
前記固相反応法による方法において、ビスマス化合物と希土類化合物とバナジウム化合物との混合比(モル比)は、平均組成式(I)を満たす範囲で適宜設定されうる。とりわけ、ビスマス化合物と希土類化合物との混合比は、黄色の着色力をより向上させる観点から、ビスマス/希土類元素(モル比)に換算して、80/20以上、好ましくは、85/15以上であり、同じく黄色の着色力をより向上させる観点から、99/2以下、好ましくは、95/5以下であることが望ましい。即ち、平均組成式(I)において、xの値が0.02以上0.2以下であることが好ましく、xの値が0.05以上0.15以下であることがさらに望ましい。
【0039】
前記固相反応法による方法においては、混合後、得られた混合物を焼成することにより、本発明のバナジン酸ビスマス顔料が得られる。
【0040】
前記固相反応法による方法において、焼成温度は、用いられるビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物それぞれの種類に応じて適宜設定することができ、特に限定されないが、例えば、反応を容易に進行させる観点から、550℃以上、好ましくは、600℃以上であり、粒成長や焼結を抑制する観点から、850℃以下、好ましくは、800℃以下であることが望ましい。ビスマス化合物、希土類化合物及び/又はバナジウム化合物として、前記高温で分解し酸化物になりうる化合物を用いた場合、該化合物を予め酸化物にするため及び/又は該化合物の水分を予め除去するため、焼成の前に、例えば、500℃以上1000℃未満の温度範囲にて仮焼してもよい。
【0041】
また、前記固相反応法による方法において、焼成時間は、前記焼成温度、用いられるビスマス化合物、希土類化合物及びバナジウム化合物それぞれの種類に応じて適宜設定することができ、例えば、焼成温度が600℃〜800℃である場合、固相反応を完結させる観点から、1時間以上、好ましくは、3時間以上、粒成長や焼結の抑制、及び製造時間の短縮の観点から、100時間以下、好ましくは、30時間以下であることが望ましい。
【0042】
前記固相反応法による方法において、焼成雰囲気としては、ビスマス及び/又はバナジウムの還元を抑制し、黄色の着色力をより向上させる観点から、空気、酸素ガス、酸素とアルゴンとの混合ガス、酸素と窒素との混合ガス等の酸化性雰囲気が望ましい。また、反応を促進させる観点から、焼成雰囲気中に水蒸気を共存させてもよい。
【0043】
前記固相反応法による方法により、例えば、平均組成式(II)の組成を有するバナジン酸ビスマス顔料を製造する場合、該バナジン酸ビスマス顔料は、Bi23とLa23とV25とを0.9:0.1:1(モル比)となるように、混合し、得られた混合物を、大気雰囲気中、550℃〜850℃で焼成すること等により、製造されうる。
【0044】
前記製造方法により得られる本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、例えば、ボールミル、ジェットミル等を用いて、さらに粉砕されてもよい。また、前記製造方法により得られるバナジン酸ビスマス顔料は、洗浄及び/又は分級されてもよい。得られるバナジン酸ビスマス顔料の結晶性を高める観点から、前記製造方法により得られるバナジン酸ビスマス顔料は、さらに再焼成させてもよい。
【0045】
本発明のバナジン酸ビスマス顔料は、黄色顔料として用いる場合の分散性を向上させ、黄色の着色力をより向上させる観点から、平均粒子径が、10nm以上、好ましくは、100nm以上であり、例えば、黄色顔料として塗料、プラスチック等に配合する際の分散性をより向上させる観点から、10μm以下、好ましくは、1μm以下である粒子形状を有することが望ましい。
【0046】
なお、本明細書において、前記平均粒子径は、走査型電子顕微鏡により直接観察測定され、二軸算術平均径(複合酸化物の粒子の最大径と最小径との和の平均値)により算出された値をいう。
【0047】
本発明の黄色顔料は、本発明のバナジン酸ビスマス顔料を含む黄色顔料である。
【0048】
本発明の黄色顔料は、Bi(ビスマス)と希土類元素とV(バナジウム)との複合酸化物を含むものであるため、使用する環境への負荷の発生を抑制することができるという優れた効果を発揮する。本発明の黄色顔料は、平均組成式(I)を満たす組成を有するバナジン酸ビスマス顔料を含むものであるため、彩度が高く、高い黄色度を発現し、高い着色力を示すという優れた効果を発揮する。さらに、本発明の黄色顔料は、安価な原料から製造でき、低コストで製造できるという優れた効果を発揮する。また、本発明の黄色顔料は、少量でも強い着色力を有するため、黄色着色物を低コストで製造できるという優れた効果を発揮する。
【0049】
なお、本明細書において、前記「黄色着色物」とは、例えば、特に限定されないが、プラスチック、ペイント、ワニス、ゴム、紙、インク、化粧品、染料、無機結合剤、積層被覆材、セラミックス、釉薬等の着色対象物を黄色に着色したものをいう。
【0050】
本発明の黄色顔料は、本発明の目的を阻害しないものであれば、本質的に、平均組成式(I)で表される組成を有したバナジン酸ビスマス顔料からなるものであって、さらに他の物質(「微量物質」ともいう)が含まれるものであってもよい。前記微量物質としては、本発明の目的を阻害しないものであればよく、特に限定されないが、例えば、ジルコニウム、チタン、モリブデン、タングステン等が挙げられる。
【0051】
本発明の黄色顔料は、本発明のバナジン酸ビスマス顔料を含むものであるため、高温(例えば、複合酸化物が、前記液相反応法により製造されたものである場合、高温、例えば、250℃以上800℃未満の温度範囲等)にて使用された場合でも、その色が変化せず、化学的に安定であり、耐熱性に優れる。そのため、塗料や絵の具等の常温や比較的低温で使用される顔料だけでなく、エンジニヤリングプラスチック樹脂等の高温成形材料、建材、セラミックス、陶磁器等の幅広い分野において顔料として用いられうる。
【0052】
本発明の黄色顔料は、分散性を向上させ、黄色の着色力をより向上させる観点から、平均粒子径が、10nm以上、好ましくは、100nm以上であり、例えば、塗料、プラスチック等に配合する際の分散性をより向上させる観点から、10μm以下、好ましくは、1μm以下である粒子形状を有するバナジン酸ビスマス顔料からなるものが望ましい。
【0053】
また、本発明の黄色顔料は、着色力が大きいため、小さい平均粒子径の粒子形態として、高分散状態で使用した場合でも鮮やかな色彩を示すという優れた性質を発現する。したがって、本発明の黄色顔料によれば、着色対象物、特に限定されないが、例えば、プラスチック、ペイント、ワニス、ゴム、紙、インク、化粧品、染料、無機結合剤、積層被覆材、セラミックス、釉薬等の低コストでの着色が可能となる。本発明の黄色顔料を用いる着色対象物の着色方法としては、特に限定されないが、例えば、着色対象物の製造の際に、該黄色顔料を混合又は練りこむ工程を含む方法等が挙げられる。なお、本発明の黄色顔料は、他の色を呈する顔料と組み合わせて用いることもできる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0055】
(液相反応法1によるバナジン酸ビスマス顔料の製造)
1.08gのNH4VO3を3mol/dm3濃度の硝酸水溶液30cm3に溶解した後、0.5mol/dm3濃度のBi(NO33水溶液16.2cm3と0.1mol/dm3濃度のLa(NO33水溶液9.0cm3とを化学量論比で混合し、室温で1時間攪拌した。得られた溶液のpHを、3mol/dm3濃度のアンモニア水を用いて、pH6となるように調節して室温で12時間撹拌した。得られた産物を、テフロン製のボトルに入れ、さらにこれを真鍮製の容器内に密閉し、200℃(試験例3)あるいは230℃(試験例4)で72時間加熱して、バナジン酸ビスマス顔料を得た。
得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を、色彩色差計(商品名:CR−300、コニカミノルタセンシング株式会社製)により測定し、国際照明委員会によって1976年に定められたL***表色系で与えられる色度座標によって定量化した。ここで、L*は、反射率の尺度(明/暗シェーディング)を与え、100(白色)から0(黒色)まで変動する。a*及びb*は、色の傾向の値であり、正のa*=赤色、負のa*=緑色、正のb*=黄色、負のb*=青色である。すなわち、L*は、黒色から白色までの変化、a*は、緑色から赤色までの変化、そしてb*は、黄色から青色までの変化をそれぞれ表す。
その結果、試験例4のバナジン酸ビスマス顔料は、L*=92.8、a*=−14.6、b*=86.6の色度座標を有し、鮮やかな黄色を呈する粉末の顔料であることがわかった。ついで、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。その結果、前記顔料は、平均組成式(II):
【0056】
【化4】

【0057】
を満たすバナジン酸ビスマス顔料であることがわかった。
【0058】
また、試験例3と同様の方法で、ビスマス化合物と希土類化合物とバナジウム化合物とを用いてバナジン酸ビスマス顔料を製造した。その結果、バナジン酸ビスマス顔料が、平均組成式(I):
【0059】
【化5】

【0060】
(式中、Aは希土類元素であり、xは0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である)
を満たす組成を有するものである場合、優れた黄色度を示すことが示唆された(試験例2,5,6)。
【0061】
平均組成式(I’):
【0062】
【化6】

【0063】
において、0.02≦x≦0.2を満たさないように変化させ、試験例3と同様の方法でバナジン酸ビスマス顔料を製造し、得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を前記と同様に定量化した(試験例1)。
以下に、組成を変化させたバナジン酸ビスマス顔料の色相を、L***表色系座標で表1に示す。また、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。前記組成を表1に示す。
【0064】
【表1】

【0065】
その結果、表1に示されるように、バナジン酸ビスマス顔料の組成によって、黄色度が異なることがわかる。具体的には、平均組成式(I’)において、xが0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である組成、すなわち、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料からなる黄色顔料によれば、b*=黄色値が60以上の高い黄色度を示すことがわかる。加えて、平均組成式(I’)において、xが0.05を超え0.15より小さい任意の正の数である組成であるバナジン酸ビスマス顔料は、b*=黄色値が85以上となり、さらに濃い黄色を呈することがわかる。
【0066】
(液相反応法2によるバナジン酸ビスマス顔料の製造)
1.08gのNH4VO3を3mol/dm3濃度の硝酸水溶液30cm3に溶解した後、0.5mol/dm3濃度のBi(NO33水溶液16.2cm3と0.1mol/dm3濃度のLa(NO33水溶液9.0cm3とを化学量論比で混合し、室温で1時間攪拌した。得られた溶液のpHを、3mol/dm3濃度のアンモニア水を用いて、pH6となるように調節して室温で12時間撹拌した。得られた産物を、180℃で蒸発乾固し、さらにこれをメノウ乳鉢で粉砕した後、大気中、300℃で6時間焼成して、バナジン酸ビスマス顔料を得た(試験例7)。
得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を、コニカミノルタセンシング株式会社製、色彩色差計(商品名:CR−300)により測定し、L***表色系で与えられる色度座標によって定量化した。その結果、前記バナジン酸ビスマス顔料は、L*=88.8、a*=−15.2、b*=79.6の色度座標を有し、鮮やかな黄色の色調を呈することがわかった。ついで、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。その結果、前記バナジン酸ビスマス顔料は、平均組成式(III):
【0067】
【化7】

【0068】
を満たすバナジン酸ビスマス顔料であることがわかった。試験例7で得られたバナジン酸ビスマス顔料の色度座標及び組成を表1に示す。
【0069】
(固相反応法によるバナジン酸ビスマス顔料の製造)
1.98gのBi23、0.15gのLa23、及び0.86gのV25を化学量論比で混合し、室温でメノウ乳鉢をもちいて30分間混合した。得られた混合物を、さらに遊星型ボールミルで3時間混合した。得られた産物を、マッフル炉を用いて、大気中、650℃で6時間焼成して、バナジン酸ビスマス顔料を得た(試験例14)。
得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を、コニカミノルタセンシング株式会社製、色彩色差計(商品名:CR−300)により測定し、L***表色系で与えられる色度座標によって定量化した。
その結果、前記バナジン酸ビスマス顔料は、L*=80.1、a*=7.1、b*=70.2の色度座標を有し、鮮やかな黄色の色調を呈することがわかった。ついで、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。その結果、前記バナジン酸ビスマス顔料は、平均組成式(IV):
【0070】
【化8】

【0071】
を満たすバナジン酸ビスマス顔料であることがわかった。
【0072】
前記平均組成式(I’)において、0.02≦x≦0.2を満たすように、又は満たさないように任意に変化させ、試験例14と同様の方法でバナジン酸ビスマス顔料を製造し(試験例8〜13、15〜18)、得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を前記と同様に定量化した。
以下に、組成を変化させたバナジン酸ビスマス顔料の色相を、L***表色系座標で表2に示す。また、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。前記組成を表2に示す。
【0073】
【表2】

【0074】
その結果、表2に示されるように、バナジン酸ビスマス顔料の組成の変化に伴って、黄色の着色力が変化することがわかる。具体的には、平均組成式(I’)において、xが0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である組成、すなわち、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料からなる黄色顔料によれば、b*=黄色値が60以上の高い黄色度を示すことがわかる。
【0075】
なお、前記バナジン酸ビスマス顔料について、走査型電子顕微鏡により直接観察測定し、二軸算術平均径(複合酸化物の粒子の最大径と最小径との和の平均値)により平均粒子径を算出した。その結果、例えば、試験例4のバナジン酸ビスマス顔料は、平均粒子径約0.1μmの粒子形状を有するものであった。
【0076】
一方、平均組成式(I’)におけるxが0≦x≦0.01あるいは0.2<x≦0.3であるバナジン酸ビスマス顔料(試験例8,9,17,18)は、L***表色系座標のb*が60より小さいため、黄色度の低いバナジン酸ビスマス顔料であることがわかる。
【0077】
前記平均組成式(I’)において、Laの少なくとも一部を他の希土類元素に代え、試験例14と同様の方法でバナジン酸ビスマス顔料を製造し、得られたバナジン酸ビスマス顔料の色彩を前記と同様に定量化した(試験例19〜22)。
以下に、組成を変化させたバナジン酸ビスマス顔料の色相を、L***表色系座標で表3に示す。また、前記バナジン酸ビスマス顔料について、蛍光X線分析装置(株式会社リガク製、商品名:ZSX−100e)を用いて、組成を求めた。前記組成を表3に示す。
【0078】
【表3】

【0079】
その結果、表3に示されるように、バナジン酸ビスマス顔料に含有される希土類元素の変化に伴って、黄色の着色力が変化することがわかる。具体的には、平均組成式(I’)において、AにLaが含まれる組成を有したバナジン酸ビスマス顔料からなる黄色顔料によれば、b*=黄色値が60以上の高い黄色度を示すことがわかる。
【0080】
<粉末X線回折>
試験例1〜22のバナジン酸ビスマス顔料について、粉末X線回折装置(株式会社リガク製、商品名:Multiflex)を用いて、X線回折パターンを分析した。その結果の代表例を、図1及び図2に示す。
【0081】
その結果、図1に示されるように、試験例3、4、14及び21のいずれのバナジン酸ビスマス顔料においても、単斜晶シーライト構造の回折ピークが観測された。
【0082】
<紫外可視反射スペクトル>
試験例1〜22のバナジン酸ビスマス顔料について、紫外可視分光光度計(株式会社島津製作所製、商品名:UV−2550)を用いて、紫外可視反射スペクトルを測定した。その結果の代表例を、図2に示す。
【0083】
その結果、図2において、試験例3、4、14及び21に示されるように、図3に示される試験例8と比較して、波長500nm以下における分光反射率がより低く、黄色の補色である青色光をより強く吸収するため、平均組成式(I’)において、xが0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である組成、すなわち、平均組成式(I)を満たす組成を有したバナジン酸ビスマス顔料は、強い黄色の着色を示すことがわかる。
【0084】
<耐熱性評価>
平均組成式(V):
【0085】
【化9】

【0086】
の組成を満たすバナジン酸ビスマス顔料を、室温、200℃、400℃、600℃で1時間、5時間又は24時間加熱処理を施した。対照として、同じ組成を有する未処理の黄色顔料を用いた。その後、得られた顔料の色彩を、色彩色差計(コニカミノルタセンシング株式会社製、商品名:CR−300)により測定し、L***表色系で与えられる色度座標によって定量化を行なうことにより、前記黄色顔料を評価した。
【0087】
その結果、1時間加熱処理を行なった場合、室温から600℃まではb*=黄色値に変化がみられなかったため、少なくとも室温から600℃の範囲では安定に存在することがわかった。また、加熱処理の時間を変えても同様の結果が得られたため、耐熱性は加熱時間よりもむしろ加熱温度に大きく依存することがわかる。
【0088】
<安定性評価>
平均組成式(V):
【0089】
【化10】

【0090】
の組成を満たすバナジン酸ビスマス顔料からなる黄色顔料を、アルカリ(アンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、炭酸アンモニウム水溶液等)、酸(希塩酸、希硝酸、希硫酸等)、アルコール(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ヘキサノール等)、及び脱イオン水に、24時間含浸させた。対照として、同じ組成を有する未処理の黄色顔料を用いた。その後、得られた顔料の色彩を、コニカミノルタセンシング株式会社製、色彩色差計(商品名:CR−300)により測定し、L***表色系で与えられる色度座標によって定量化を行なうことにより、前記黄色顔料を評価した。
【0091】
その結果、アルカリ処理、アルコール処理、及び水処理を行った顔料と未処理の試料においては、b*=黄色値が不変であったため、前記黄色顔料は、アルカリ、アルコール及び水それぞれに対して安定であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0092】
本発明の黄色顔料は、塗料、プラスチック、セラミックス等の着色等の幅広い分野で利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均組成式(I):
【化1】

(式中、Aは希土類元素であり、xは0.02≦x≦0.2を満たす任意の正の数である)を満たす組成を有してなる、バナジン酸ビスマス顔料。
【請求項2】
AがLaであり、La対Biのモル比が0.05ないし0.15である請求項1記載の式(I)で表わされるバナジン酸ビスマス顔料。
【請求項3】
請求項1又は2記載のバナジン酸ビスマス顔料を含む黄色顔料。
【請求項4】
CIEのL***表色系座標のb*値で表される黄色度が85以上である、請求項3記載の黄色顔料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−178638(P2011−178638A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−46744(P2010−46744)
【出願日】平成22年3月3日(2010.3.3)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】