説明

バリウム−フリーのX線不透過性ガラス及びその使用

【課題】特に歯科用ガラス及び光学ガラスとして適し、非常に良好な耐薬品性を有するBaO−フリー及びPbO−フリーのX線不透過性ガラスを提供する。
【解決手段】せいぜい不純物を除きBaO−フリー及びPbO−フリーであるX線不透過性ガラスは、LaとZrOを付加したSiO−Al−SrO−RO系であり、酸化物基準の質量%表示で、SiO 55〜75%、B 0〜9%、Al 0.5〜4%、LiO 0〜2%、NaO 0〜7%、KO 0〜9%、CsO 0〜15%、SrO 4〜17%、CaO 0〜11%、MgO 0〜<3%、ZrO 1〜<11%、La 1〜10%、SnO 0〜4%、LiO+NaO+KO 0.5〜12%、SrO+CsO+La+SnO+ZrO ≧10%を含有し、1.50〜1.58の屈折率n及び少なくとも300%のアルミニウム等価厚を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バリウム−フリー及び鉛−フリーのX線不透過性ガラス及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科分野において、ポリマー・ベースの歯科用組成物は、歯の修復のためにますます使用されている。これらのポリマー・ベースの歯科用組成物は、通常、有機樹脂の母材と種々の無機フィラーとからなる。無機フィラーは、主に、ガラス粉末、(ガラス)セラミックス、シリカ又は他の結晶性物質(例えばYbF)、ゾル−ゲル材料あるいはアエロジル(Aerosil:登録商標)からなり、また、それらは充填材としてポリマー・ベース組成物に添加される。
【0003】
ポリマー・ベースの歯科用組成物の使用は、アマルガムの可能性のある有害な副作用を回避し、かつ改善された審美的な印象を達成するようにするものである。ポリマー・ベースの歯科用組成物の選択に応じて、それらは、歯の様々な修復手段のために、例えば、歯充填物のために、また、歯冠、ブリッジ及びインレー、オンレーなどの部品の留め具のためにも使用することができる。
【0004】
そのような充填材は、硬化の間に樹脂母材の重合によって生ずる収縮を最小限にするようにするためのものである。例えば、歯壁と充填物との間に強い接着があると、過度の重合収縮により歯壁の破損につながることがある。接着が不充分な場合、過度の重合収縮は歯壁と充填物との間の周辺クラックの形成をもたらすことがあり、これは二次カリエスを促進することができる。さらに、フィラーは特定の物理的、化学的要求を満たさねばならない。
【0005】
充填材は、非常に微細な粉末を製造するために加工されねばならない。粉末がより微細であるほど、充填物の外観はより均質になる。同時に、充填物の艶出性は改善され、これは、攻撃され得る表面積の減少により、改善された耐摩耗性、従って充填物のより大きな耐久性をもたらす。粉末が容易に加工されることを可能にするためには、粉末が凝集しないことも望まれる。この望ましくない作用は、特にゾル−ゲル法によって製造された充填材の場合に生じる。
【0006】
さらに、フィラーが機能処理されたシランでコーティングされた場合、歯科用組成物の処方をより容易にし、機械的性質を改善するので有利である。この場合、通常、フィラー粒子の表面は、少なくとも部分的に、主として機能処理されたシランでコーティングされる。
【0007】
さらに、ポリマー・ベースの歯科用組成物のその全体の、従ってまたフィラーは、それらの屈折率及び色において、できるだけ天然の歯材料とよく調和すべきであり、それにより、理想的にはほとんどまわりの健康な歯材料と判別できないようにする。粉砕されたフィラーの非常に小さな粒度は、同様に、この審美的な評価基準にも役割を果たす。
【0008】
また、歯の修復処置の充分な耐熱衝撃性を確保するためには、その使用範囲、即ち通常−30℃〜+70℃の間でのポリマー・ベースの歯科用組成物及びその中にフィラーとして存在するガラス材料からなる全系の熱膨張が天然の歯材料のそれと調和することも重要である。過度に大きな温度変化も、ポリマー・ベースの歯科用組成物と周囲の歯材料との間にクラックを形成でき、これは二次カリエスのための好適な攻撃ポイントを生じ得ることになる。一般に、非常に低い熱膨張率を有するフィラーが、樹脂母材の大きな熱膨張を補償するために使用される。
【0009】
酸、アルカリ及び水に対するフィラーの良好な耐薬品性、及び例えば噛む動作による負荷下での良好な機械的安定性もまた、歯の修復手段にとっての長期の耐用年数に寄与することができる。フィラーは、同様にフッ化物による歯の処理に耐性があるべきである。
【0010】
患者の治療については、X線像で歯の修復手段が見えることも絶対必要である。樹脂母材はX線像において一般に不可視であるので、フィラーは必要なX線吸収をもたらさねばならない。X線照射を充分に吸収するこのタイプのフィラーは、X線不透過性といわれる。フィラーの構成成分、例えばガラスの特定の成分又は添加剤は、一般にX線不透過性の要因となる。これらのような添加物もX線不透過剤として知られている。広く用いられているX線不透過剤はYbFであり、結晶の粉砕形態で添加することができる。
【0011】
DIN ISO 4049によれば、歯科用ガラス又は材料のX線不透過性は、アルミニウムのX線吸収に関連してアルミニウム等価厚(Aluminium equivalent thickness:ALET)として報告されている。ALETは、テストされる材料の2mm厚サンプルと同じ吸収を示すアルミニウム・サンプルの厚さである。従って、200%のALETは、厚さ2mmの平行表面を有するガラス・プレートが、4mm厚のアルミニウム・プレートとほぼ同じX線減衰を生じることを意味する。同様に、500%のALETは、厚さ2mmの平行表面を有するガラス・プレートが、10mm厚のアルミニウム・プレートとほぼ同じX線減衰を生じることを意味する。
【0012】
使用されるポリマー・ベースの歯科用組成物は、通常、カートリッジから窪み(キャビティ)へ導入され、窪み内で型取られるので、硬化されていない状態ではしばしばチキソトロピーであるべきである。これは、圧力が付加されるとその粘度が減少するが、圧力の作用がないときには寸法的に安定していることを意味する。
【0013】
ポリマー・ベースの歯科用組成物の中でも、歯科用セメントと複合材とはさらに区別をすべきである。例えばガラス・アイオノマー・セメントとしても知られている歯科用セメントの場合には、フィラーの有機母材との化学反応が歯科用組成物の硬化をもたらし、その結果として、フィラーの反応性は歯科用組成物の硬化特性及び従ってそれらの加工性に影響する。例えば紫外光の作用下で、フリーラジカル表面硬化によって先行され得る硬化プロセスはしばしばこれに含まれる。ガラスは、化学反応を引き起こすか、それに関与するフィラーとして、でなければ反応に関与しない不活性の粒状材料として供することができる。そのときには、化学反応は、ガラス・アイオノマー・セメント中に同様に存在するさらに他のフィラーによって引き起こされる。
【0014】
他方、充填複合材としても知られる複合材は、化学的に非常に不活性なフィラーをさらに含んでいる。何故なら、それらの硬化挙動は樹脂母材自体の構成成分によって、従って初期に決定され、フィラー及び/又は粒状材料の化学反応はしばしばここでは望ましくないためである。
【0015】
ガラスはそれらの様々な組成のために広範囲の特性を有する材料のクラスを代表しているので、それらはしばしばポリマー・ベースの歯科用組成物のためにフィラーとして使用される。純粋な形態で又は混合物の成分として、歯科用材料としての他の使用は、例えばインレー、オンレー、歯冠及びブリッジ用の化粧材、人工歯用の材料、あるいは補綴、防腐及び/又は予防の歯科処置用の他の材料のために同様に可能である。歯科用材料として使用されているこのようなガラスは、一般に歯科用ガラス(デンタル・ガラス)と呼ばれている。
【0016】
前述した歯科用ガラスの特性とは別に、歯科用ガラスは、健康を損なう副作用が可能なためにバリウム酸化物(BaO)を含有しないこと、及び毒性の酸化鉛(PbO)を含有しないことも望ましい。
【0017】
さらに、歯科用ガラスには成分として酸化ジルコニウム(ZrO)を含有することが同様に望ましい。ZrOは歯科及び光学の技術分野で広く使用されている材料である。ZrOは、非常に生体適合性であり、温度変動への感受性がない。それは、歯冠、ブリッジ、インレー、動作作業及びインプラントの形態で多くのタイプの歯科治療に使用される。
【0018】
従って、歯科用ガラスは、特に高品質のガラスである。このようなガラスは、同様にまた、光学用途、特にガラスのX線不透過性から利益が得られる用途に使用することができる。X線不透過性は、ガラスがX線スペクトルの領域で電磁線を吸収することを意味するので、そのようなガラスは同時にX線のためのフィルタとして作用する。感受性のある電子部品はX線によって損傷され得る。電子イメージセンサーの場合には、X線量の透過が、例えば、センサーの対応する領域を損傷するかもしれないし、あるいは例えば画像及び/又はノイズ画素の障害として感知することができる望ましくないセンサー信号を生じ得る。従って、特定の応用においては、適切なガラスにより電子部品を入射電磁線のスペクトルからろ過して除くことにより、X線照射から電子部品を保護することが必要か、あるいは少なくとも有利である。
【0019】
多数の歯科用ガラス及び同様の光学的ポジションあるいは比較可能な化学組成を有する他の光学ガラスが先行技術に記述されているが、これらのガラスは、生産及び/又は使用において相当な不利益を有する。特に、多くのガラスは、比較的大きな割合のフッ化物及び/又はLiOを有し、これらは溶解及び再溶解中に非常に容易に蒸発し、その結果として、ガラス組成の正確な設定を困難にする。
【0020】
米国特許第5,976,999号(特許文献1)及び米国特許第5,827,790号(特許文献2)は、なかんずく歯科用陶材として使用されるガラス状セラミック組成物に関する。CaOとLiOは、それぞれ少なくとも0.5質量%及び0.1質量%の量で存在しなければならない。ZrO、SnO及びTiOよりなる群からの2つの主成分とは別に、その中では少なくとも0.5質量%の量のCaOが必須と思われる。これらの成分は、増大した屈折率n及びほんの低いX線不透過性を生じる。これらの2つの文献において、ガラスはまた少なくとも10質量%のBを含有しなければならない。少なくとも5質量%又は少なくとも10質量%のアルカリ金属含有量と組み合わされた比較的高いB割合は、ガラスの耐薬品性が受け入れられないほど毀損されるという結果を生じ、従ってこれらのガラスは歯科用ガラスに適さない。
【0021】
複合材におけるフィラーとしての使用のための化学的に不活性な歯科用ガラスは、ドイツ特許出願公開DE 198 49 388A1(特許文献3)のサブジェクト・マターである。そこに提案されたガラスは、かなりの含有量のZnOとFを含有しなければならない。これらは、樹脂母材との反応をもたらすことができ、これはまたそれらの重合特性に作用することができる。さらに、記述されたガラスが充分なX線不透過剤及びFを含有することができるように、SiO含有量は20〜45質量%に制限される。
【0022】
国際公開WO 2005/060921A1(特許文献4)には、特に歯科用複合材料に適すると言われるガラス・フィラーが記載されている。これは、9〜20モル%のアルカリ金属酸化物を含んでいる。この文献の目的は、粒子周囲でのそのアルカリ金属イオン濃度が、それらの中間でのアルカリ金属イオン濃度よりも低いガラス粒子を提供することにある。このことは、記載されたガラスは耐薬品性がなく、さもなければ、この濃度範囲を達成することができないことを意味する。要求される低い耐薬品性は、出発ガラス中のアルカリ金属の上記割合によって達成されると考えることができる。
【0023】
ヨーロッパ特許EP 0885606 B1(特許文献5)には、歯科用材料のためのフィラーとして供されるアルカリ金属ケイ酸塩ガラスが記載されている。少なくとも5質量%のAl含有量は、高いSiO含有量を有するガラスの粘度を増大し、従って非常に高い溶解温度につながる。さらに、ガラスはフッ素を含まなければならない。しかしながら、ガラスの溶解中、フッ化物は容易に蒸発する傾向があり、これは、ガラス組成を正確に設定することを困難にしており、不均質性につながる。さらに、この系においてガラスにX線不透過性を付与する成分CaOの割合は、0.5〜3質量%であり、少なくとも300%のALETを有する所望のX線不透過性を達成するためには低すぎる。
【0024】
ドイツ特許出願公開DE 4443173A1(特許文献6)は、12質量%を超えるZrO含有量を有し、また他の酸化物を含んでいる高ジルコニウムガラスに関する。このようなフィラーは、特に過度に迅速で制御できないように硬化し得る非常に最近のエポキシ・ベース歯科用組成物にとって反応的すぎる。この量の酸化ジルコニウムは、失透し易くする傾向がある。これは、恐らく核形成及び引き続いての結晶化を伴う相凝離を引き起こす。さらに、このようなガラスは、溶解装置に過度にストレスを与えない高すぎない溶解温度を確保するために、高いアルカリ金属含有量でのみ製造することができる。しかしながら、そのような高いアルカリ金属含有量は、ガラスの低い耐薬品性という不利益をもたらす。
【0025】
ドイツ特許出願公開DE 199 45 517A1(特許文献7)には、同様に、歯科分野での応用において前記文献のガラスに関連したのと同じ問題をもたらす高ジルコニウムガラスが記載されている。
【0026】
特開2004−002062号公報(特許文献8)には、フラット・スクリーン・ディスプレイ用のガラス基板が開示されている。開示されたガラスは、主にBaOと共にSrOを含んでおり、また高い割合のAlとMgOを含んでいる。ガラスの可融性を確保するためには、成分Al、SrO、BaO及びMgOが網状変換剤として必要である。これらのガラスもまた歯科用ガラスとしての使用に検討されることはなく、なぜならば、それらはBaOを含むことができ、あるいは低いBaO変形例においても所望のX線不透過性に近いものはないからである。それとは別に、Al含有量は、高SiOガラスの粘度の上昇につながり、従って製造のために高い溶解温度が必要になる。MgOの高い含有量は、低い屈折率及び同時に高いX線不透過性を持っているべきである歯科用途のガラスにおいては不利である。MgOは、他のアルカリ土類金属酸化物CaO、SrO及びBaOと同じ程度にX線不透過性を増大させないが、その存在は主として屈折率nを増大させることが知られており、従って、低い屈折率と高いX線不透過性の所望のバランスを達成し難くし得る。
【0027】
先行技術で述べられているガラスは全て、耐候性がほとんどないか、あるいは反応性がありすぎるか、及び/又はX線不透過性でないか、環境及び/又は健康を損なう成分を含んでいるかのいずれかである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】米国特許第5,976,999号
【特許文献2】米国特許第5,827,790号
【特許文献3】ドイツ特許出願公開DE 198 49 388A1
【特許文献4】国際公開WO 2005/060921A1
【特許文献5】ヨーロッパ特許EP 0885606 B1
【特許文献6】ドイツ特許出願公開DE 4443173A1
【特許文献7】ドイツ特許出願公開DE 199 45 517A1
【特許文献8】特開2004−002062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明の目的は、1.50〜1.58の比較的低い屈折率nを有するバリウム−フリー及び鉛−フリーのX線不透過性ガラスを提供することにある。ガラスは歯科用ガラスとして及び光学ガラスとして適し、また製造するのに低コストであるべきであるが、それにも拘わらず、高品質を有し、身体に適合性があるべきであり、受動的で活性な歯保護に適しているべきであり、また加工性、周囲のポリマー母材の結合挙動及び長期間の安定性と強度に関して優れた特性を有するべきである。最近の歯の処理及び歯科技術における要求に応えるために、本発明に係るガラスはまた非常に優れた耐薬品性を有するべきである。
【0030】
さらに、本発明に係るガラスのベース母材は、歯の色に調和可能とするために最適の色軌跡を許容し、及び/又は光学応用の場合には電磁線の透過スペクトルを許容するために、せいぜい不純物を除いて、Fe、CoO、NiO、CuOなどの着色付与成分を含有するべきでない。さらに、ガラスは、散乱をもたらしたり同様に色印象を変える二次ガラス相及び/又は着色付与粒子を含有するべきでない。1つ以上の他のガラス相はガラスの安定性を低減する。
【課題を解決するための手段】
【0031】
前記目的を達成するために、本発明によれば、酸化物基準の質量%表示で以下の成分:
SiO 55〜75%、
0〜9%、
Al 0.5〜4%、
LiO 0〜2%、
NaO 0〜7%、
O 0〜9%、
CsO 0〜15%、
SrO 4〜17%、
CaO 0〜11%、
MgO 0〜<3%、
ZrO 1〜<11%、
La 1〜10%、
SnO 0〜4%、
LiO+NaO+KO 0.5〜12%、
SrO+CsO+La+SnO+ZrO ≧10%
を含有し、せいぜい不純物を除いてBaO及びPbOを含有せず、1.50〜1.58の屈折率n及び少なくとも300%のアルミニウム等価厚を有するX線不透過性ガラスが提供される。
【0032】
さらに本発明によれば、それらのガラス粉末、歯科用ガラス、特に歯修復用複合材のフィラーとしての使用や、ガラス・アイオノマー・セメントにおけるフィラー又は不活性粒状材料、歯科用組成物におけるX線不透過剤や、光学要素としての使用、電子部品、ディスプレイ技術、光電池、OLED、生化学用途などのためのカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての使用、ランプガラス、PVDプロセスにおけるターゲット材料、ガラスファイバーのコアガラス及び/又はクラッドガラス、光導波路、放射性物質埋め込み用の材料、医薬品を包装するための容器材料、複合材料中の補強材としての使用など、種々の分野における用途も提供される。好ましい実施態様及び用途は、従属請求項に示されている。
【発明の効果】
【0033】
本発明のガラスは、1.50〜1.58の屈折率nを有する。従って、この屈折率範囲において利用可能な歯科用ポリマー及び/又はエポキシ樹脂に非常によく調和し、その結果、自然な外観に関して歯科用ガラス/ポリマー複合材に必要な自然外観について審美的な要求を満たす。
【0034】
本発明のガラスは、バリウム及び鉛及び有利には健康に問題がある他の物質を用いることなく、所望のX線吸収に関してバリウム及び/又は鉛含有歯科用ガラスの特性を達成する。ここで、用語「・・・フリー」は、例えば大気汚染及び/又は用いられる原料中の不純物により生じ得るせいぜい不可避の不純物を除いてこれらの成分が存在しないことを意味する。しかしながら、望ましくない材料によるガラスの汚染でさえ、一般に100ppmを超えてはならず、好ましくは、Feの場合50ppm以下、PbOの場合30ppm以下、Asの場合5ppm以下、Sbの場合20ppm以下、及び他のものの場合100ppm以下であるべきである。BaOは、常に原料中のSrOと緊密に関係している。SrO原料の純度に依存して、0.37質量%以下のBaOは本発明のガラス中に存在できる。これらの限度は「せいぜい不純物を除いて、・・・フリーである」という表現に包含される。当然のことながら、本発明のガラス中に上述の望ましくない物質が完全に存在しないことが特に好ましい。
【0035】
X線吸収、従ってX線不透過性は、本発明によれば、主としてSrOの含有量及びさらに本発明のガラス中に10質量%以上の組合せ量で存在する成分CsO及び/又はLa及び/又はSnO及び/又はZrOによって達成される。理想的に高吸収性の成分の高い含有量によってX線不透過性を達成することを試みた初期の歯科用ガラスとは対照的に、本発明によるX線不透過性は、好ましくは、X線不透過性に有効なこれらの成分の適切な組合せによって達成される。このようにして、ガラスの光学特性になされる特に厳密な要求及びまた非常に良好な耐薬品性を達成することができる。SrO及びさらに他の成分CsO及び/又はLa及び/又はSnO及び/又はZrOの合計含有量は、好ましくは少なくとも11質量%、特に12質量%で、特に好ましくは少なくとも15質量%である。
【0036】
SrOは、本発明のガラス中に常に存在する。その含有量は4〜17質量%である。好適な範囲は4〜16質量%であり、より好ましくは5〜15質量%、特に好ましくは6〜14質量%である。本発明によれば、他のX線不透過剤と組み合わせて、SrOは、ガラスの良好なX線不透過性を確保する。65keVの操作電圧の領域において、従来のタングステンX線管の範囲においてガラス中のSrOのX線吸収スペクトルは次善のものであるが、驚くべきことに、ここに記載した他の物質との組合せにより非常に良好なX線不透過性を達成することができることが見出された。
【0037】
本発明のガラスは、少なくとも300%、好ましくは少なくとも350%、特に好ましくは少なくとも390%のアルミニウム等価厚(ALET)を有する。このことは、本発明のガラスで作成され、平行の表面及び2mmの厚さを有するガラス・プレートは、6mmの厚さを有するアルミニウム・プレートとほぼ少なくとも同じX線減衰を生じるということを意味する。
本発明の他の効果は、以下の説明からさらに明らかであろう。
【発明を実施するための形態】
【0038】
ベース成分として、本発明のガラスは、ガラス形成成分として55〜75質量%の割合でSiOを含有する。これより高いSiO含有量は、不利なことに高い溶融温度になり易く、またさらに、所望のX線不透過性を達成することができなくなる。これよりも少ない含有量は耐薬品性に悪影響を及ぼし得る。本発明のガラスの好ましい実施態様は、SiO含有量が56〜74質量%、特に好ましくは>59〜70質量%の量である。
【0039】
は、本発明のガラスにおいては単に任意成分であり、0〜9質量%の範囲で存在できる。Bは融剤として供される。溶融温度を低下させることに加えて、Bの使用は、同時に本発明のガラスの結晶化安定性を改善する。約9質量%よりも高い含有量は、この系においては、良好な耐薬品性を害しないようにするためには推奨されない。Bは0〜7質量%、特に好ましくは0〜4質量%の割合で使用することが好ましい。Bが本発明のガラス中に存在する場合、同様に、ティンダル効果と類似している凝離した領域における望ましくない散乱を回避するために、ガラスへ0.5質量%以上の少量のアルカリ金属酸化物を導入することが好ましい。
【0040】
本発明のガラスにおいては、Alは0.5〜4質量%の範囲で存在しなければならない。Alは、なかんずく、良好な耐薬品性を可能にする。しかしながら、ガラスを溶融困難にするような割合まで、特に熱間加工範囲において、ガラスの粘度が増大しないようにするためには、Al含有量は約4質量%を超過すべきではない。Al含有量の上限は、好ましくは3.5質量%、より好ましくは僅かに3質量%、特に好ましくは僅かに2質量%である。
【0041】
アルカリ金属酸化物は、ガラスの耐薬品性を低減し得るが、他方ではガラスがともかく溶解し得るようにするために必要である。本発明によれば、アルカリ金属酸化物LiO及び/又はNaO及び/又はKOの合計量は、0.5〜12質量%、好ましくは0.5〜11質量%、より好ましくは2〜10質量%、特に好ましくは3〜9質量%である。本発明は、特定された範囲におけるこれらアルカリ金属のバランスを講じている。特に、本発明のガラスにおいて、LiO及び/又はNaO及び/又はKOよりなる群からのアルカリ金属酸化物は、ガラス母材の凝離、従ってティンダル効果と類似している望ましくない散乱を阻止する。従って、アルカリ金属酸化物は少なくとも0.5質量%の合計量で存在する。さらに、Bと共にアルカリ金属酸化物は受け入れ可能な温度でガラスの溶解を助ける。しかしながら、本発明のガラスの非常に高い耐性を達成することができるためには、上記アルカリ金属酸化物は最大12質量%を超えるべきではない。
【0042】
より具体的には、これらのアルカリ金属酸化物の含有量は、本発明によれば、LiOは0〜2質量%、好ましくは0〜1質量%、特に好ましくは0〜<1質量%である。LiOの非常に低い割合は、非常に良好な耐薬品性を達成することを助ける。この理由のために、特に非常に好ましいガラスはまた、せいぜい不純物を除いてLiO−フリーである。
【0043】
NaOの含有量は、LiOの含有量よりも高くし得る。本発明によれば、NaOは、0〜7質量%、好ましくは0〜5質量%、より好ましくは0〜4質量%、特に好ましくは0〜3質量%の量で存在する。
【0044】
Oは、0〜9質量%の量で本発明のガラス中に存在し得る。好ましい範囲は、0〜8質量%、より好ましくは0〜7質量%、特に好ましくは0〜6質量%である。LiO、NaO及びKOは、SiO及びZrOを含有するガラスのより良好な融解に特に寄与することができる。
【0045】
CsOは、同様に溶融特性を改善するのに寄与するが、本発明によれば、同時にX線不透過性を増大させ、かつ他の成分と共同して屈折率を調節するのに供される。本発明によれば、本発明に係るガラス中に、CsOは0〜15質量%、好ましくは1〜14質量%、より好ましくは2〜13質量%、特に好ましくは3〜12質量%の量で存在する。アルカリ金属Csは、アルカリ金属Li、Na、K及びRbに比べてガラス母材中でより不動性である。従って、上記アルカリ金属よりも、浸出する割合がより少なく、従って耐薬品性を毀損する割合がより少なくなる。
【0046】
本発明のガラスは、CaOとMgOからなる群からのアルカリ土類金属を制限された割合で含有することができる。CaOの割合は、0〜11質量%、好ましくは0〜10質量%、より好ましくは0〜8質量%、特に好ましくは0〜7質量%である。MgOは同様に任意であり、0〜<3質量%、好ましくは0〜<2質量%、特に好ましくは0〜<1質量%の量で存在することができる。特に非常に好ましい実施態様は、せいぜい不純物を除いてMgOを含有しない本発明のガラスを提供する。前記したように、MgOは、低い屈折率及び同時に高いX線不透過性を持つように意図される歯科用途のガラスにおいて、不利になり得る。MgOは、X線不透過性を他のアルカリ土類金属酸化物CaO、SrO及びBaOと同じ程度に増大させず、なぜならば、MgOのX線吸収端が他の3つのX線吸収端よりはるかに下であり、医学分野で使用されるタングステンX線管の領域においてほんの小さな影響を及ぼすだけであるためである。MgOは、単に屈折率を増大させ、従って低い屈折率と高いX線不透過性のバランスを達成することをより難しくする。
【0047】
さらに、本発明のガラスは、1質量%以上、11質量%未満の割合でZrOを含有しなければならない。このジルコニウム含有量は機械的性質を改善し、特にこの場合、引張強度及び圧縮強度を改善し、またガラスの脆性を低減する。さらにこの成分は、ガラス中のSrOの割合に応じてX線不透過性に同様の寄与をする。しかしながら、その高すぎる含有量は、特に歯科用ポリマーの環境においてガラスが反応的なものになることにつながり得る。ガラスは、他方では、特に複合材料中の歯科用ポリマーに対して少なくとも非常に不活性であるべきであり、例えば、その重合挙動に干渉するべきではない。好ましいZrO含有量は、1質量%以上、10質量%未満、好ましくは2〜9.5質量%、特に好ましくは2〜9質量%である。
【0048】
ZrOはケイ酸塩ガラスに難溶性であり、従って凝離が容易に生じ得るので、ZrOの上記含有量は超過されるべきではない。過剰に高いZrO含有量の場合に、特に同様に高いSiO含有量と組み合わされて形成され得る凝離領域は、チンダル効果と同様に、通過する光を散乱する中心として作用する。歯科用ガラスの場合には、これらの散乱中心は審美的な印象を害し、これがなぜ凝離したガラスは一般に歯科への応用で望まれないかという理由である。また、光学ガラスでは、散乱中心は、一般に送信に対する悪影響を有し、従って、凝離したガラスは殆どの光学的応用においても同様に望ましくない。さらに、凝離したガラスは、様々な組成の相のために、従って種々の浸出特性のために、耐性の低減につながり得る。
【0049】
Laは本発明のガラス中に1〜10質量%の量で存在する。前述したように、Laは、任意にSrO及びZrOと共に、また任意にCsO及び/又は任意にSnOと共に、ガラスのX線不透過性を確実なものとする。La含有量は、好ましくは2〜8質量%、より好ましくは3〜7質量%、特に好ましくは3〜6質量%である。
【0050】
CsOと同様に、SnOは、少なくとも300%のALETを有する高いX線不透過性を達成するために、任意成分として本発明のガラス中に存在することができる。この成分は、La及び/又はTaと同じ程度に屈折率を増大させないという利点を有する。従って、SnOはまた、高いX線不透過性と組み合わせて1.5〜1.58の低い屈折率に設定するのを助ける。従って、それは0〜4質量%の量でガラス中に存在することができる。それは、好ましくは0〜3質量%の量で本発明に係るガラス中に存在する。
【0051】
本発明のガラスは、任意には、せいぜい不純物を除いて、CeO−フリー及びTiO−フリーである。それらのUV範囲における吸収のために、CeOとTiOは、望ましくない黄色系着色が得られるようにガラスのUV端をシフトする。
【0052】
高いX線不透過性及びそれに応じてアルミニウム等価厚の特に高い値を達成するために、本発明のガラスの好ましい実施態様では、ガラス中に存在するSrO、CsO、La、ZrO及び/又はSnOの合計量は、>18質量%、好ましくは>20質量%、より好ましくは>21質量%、特に好ましくは>22質量%である。
【0053】
ガラスが分解しないことを確保するために、ZrO含有量に対するSiO含有量の比率の数値は、少なくとも6.5、特に好ましくは7より大きいことが好ましい。
【0054】
本発明のガラスは、好ましくは、WO及び/又はNb及び/又はHfO及び/又はSc及び/又はY及び/又はYbを、個々にあるいは所望の組合せで各々の場合に0〜3質量%の量で任意にさらに含有することができ、Taは所望の組合せで0〜5質量%の量で任意に含有することができる。
【0055】
本発明はまた、B−フリー(せいぜい不可避の不純物を除く)である本発明のガラスを提供する。
【0056】
前述したように、本発明のガラスは、望ましくない成分BaO及びPbOを含有しない(せいぜい上記不純物を除く)。環境及び/又は健康に有害な他の物質の添加も、好ましくは回避される。
【0057】
ガラスの特に良好な溶解特性を確保するために、本発明によれば、同様に、MgO及び/又はCaO及び/又はSrOの合計含有量が17質量%未満であると規定する。ガラスを溶解することが困難な場合、過度のストレスが溶解装置にかかり、ガラスを溶解することが非常に困難となり、一般にもはや経済的に生産することができなくなる。
【0058】
本発明に係るガラスのガラス転移温度Tgは、好ましくは少なくとも570℃である。従って、ガラスは高い耐熱性を有し、他の応用分野、特に後述するような応用分野に適したものとなる。
【0059】
本発明のガラスの20℃から300℃までの温度範囲で測定された線熱膨張率α(20−300)は、好ましくは7×10−6/K未満である。特にポリマーのフィラー材料として使用された時、低い熱膨張率は、本発明のガラスがポリマーの当然高い熱膨張を補うことを可能にする。その結果、ポリマー含有歯科用組成物は、天然の歯材料に一層よく調和する熱膨張が得られる。
【0060】
前述したように、本発明のガラスは、特に化学的攻撃に耐性があり、即ちそれらは特に耐薬品性がある。それらは、好ましくは、クラス2もしくはそれより良好なDIN 12116による耐酸性S、クラス1のDIN ISO 695による耐アルカリ性L、及びクラス2もしくはそれより良好なDIN ISO 719による耐水性HGBを有する。耐アルカリ性L及び耐酸性Sについての試験は、従来使用されたテスト標準DIN ISO 10629及びISO 8424よりも非常に要望されており、その結果、本発明のガラスは、特に改善された耐アルカリ性及び耐酸性を有している。
【0061】
同様に、本発明は、NaFによる攻撃に対して非常に良好な耐性を持つように本発明のガラスを規定している。試験方法は、実施例に関連して本明細書中により詳細に後述する。この試験は、フッ素及び/又はフッ化物に対するガラスの耐性をテストすることを狙いとしている。これらの材料は強くガラスを攻撃することができるが、なかんずく歯科医により、歯磨き材料に及び/又は健康な歯材料のフッ素処理及び/又は強化のためにしばしば使用される。
【0062】
従って、本発明のガラスはすべて、非常に良好な耐薬品性で特徴付けられ、これは樹脂母材との反応に関して高い不活性をもたらし、従って歯科用組成物全体の非常に長期間の耐用年数をもたらす。
【0063】
さらに本発明の好適な実施態様においては、本発明のガラスはまた、好ましくは特許請求の範囲及び/又は本明細書に記載されていない他の成分は含有しない。このことは、そのような実施態様においては、ガラスは本質的に特定された成分から成る、ことを意味している。ここで、「本質的に・・・成る」という表現は、他の成分は高々不純物としては存在し得るが、個々の成分としてガラス組成物に故意に加えられていないことを意味する。
【0064】
しかしながら、本発明はまた、さらに他のガラスのためのベースとしての本発明のガラスも提供し、この場合、前記した本発明のガラスにさらに他の成分を5質量%まで加えることができる。そのような場合、本発明によれば、ガラスは、少なくとも95質量%程度までが前記したガラスから成る。
【0065】
言うまでもなく、この目的のために慣用の酸化物を加えることによりガラスの色外観を修正することも可能である。ガラスに色を付与するのに適している酸化物は当業者に知られており;例としてはCuO及びCoOを挙げることができ、それらはこの目的のためには好ましくは0〜0.5質量%の量で加えることができる。さらに、ガラスは、例えば0〜3質量%の量のAgOの添加により防腐機能を付与することができる。
【0066】
本発明はまた、本発明のガラスからなるガラス粉末をさらに包含する。ガラス粉末は、例えばドイツ特許DE 41 00 604C1に記載されているように公知の方法によって製造される。本発明に係るガラス粉末は、好ましくは50μm以下、特に好ましくは20μm以下の平均粒度を有する。0.1μmの平均粒度が下限として達成でき、勿論、これより小さな平均粒度も本発明に包含される。上述のガラス粉末は、一般に、フィラー及び/又は歯科用ガラスとして本発明のガラスの使用のための出発材料として供することができる。
【0067】
好適な実施態様においては、ガラス粉末の表面は常法によりシラン化される。シラン化は、ポリマー・ベースの歯科用組成物のポリマー母材への無機フィラーの結合を改善することができる。
【0068】
前述したように、本発明のガラスは、歯科用ガラスとして好適に使用することができる。好ましくは、歯の修復のための複合材におけるフィラーとして、特に好ましくは実質的に化学的に不活性なフィラーを必要とするエポキシ樹脂に基づく複合材用の充填材として用いられる。本発明は、同様に、歯科用組成物、特にポリマー・ベースの歯科用組成物におけるX線不透過剤としての本発明のガラスの使用を提供する。本発明のガラスは、例えばYbFのような高価な結晶性のX線不透過剤と置き換えるのに適している。本発明のガラスは、同様に、ガラス・アイオノマー・セメント中のフィラーとして適しており、またその使用に供される。同様に、本発明のガラスを、ガラス・アイオノマー・セメント中の不活性の粒状材料として使用することが可能である。特に好ましいのは、ポリマー補強ガラス・アイオノマー・セメント中の不活性の粒状材料としての使用である。ポリマー補強ガラス・アイオノマー・セメントは、ほんの数年の間に入手可能なクラスの材料であり、それら自身、非常に長時間を要し得るセメントの硬化反応を示すが、初期に硬化可能なようにするために前述した複合材料のような樹脂母材をも含んでいる。
【0069】
従って、本発明のガラスは、歯科用ポリマーを含有する歯科用ガラス−ポリマー複合材の製造のために好適に使用される。ここで、歯科用ポリマーは、好ましくはアクリレート、メタクリレート、2,2−ビス[4-(3-メタクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン(ビス−GMA)、トリエチレングリコールメタクリレート(TEGDMA)、ウレタンメタクリレート(UDMA)、アルカンジオールジメタクリレート又はシアノアクリレートに基づく紫外線硬化性樹脂である。
【0070】
本発明は、同様に、本発明のガラスを含んでいる光学要素としての本発明のガラスの使用も包含する。本発明の目的のためには、光学要素は、すべての対象物、特に光学適用のために使用することができる構成部品である。これらは、それらの中を光が通過する構成部品であり得る。そのような構成部品の例は、カバーガラス及び/又はレンズ要素であるが、例えば鏡、ガラス・ファイバーなどの他の構成部品の支持体もある。
【0071】
カバーガラスは電子部品を保護するために好適に使用される。言うまでもなく、これらは同様にオプトエレクトロニクス構成部品も包含する。カバーガラスは、通常、平坦な平行表面を有するガラス・プレートの形態であり、好ましくは、周囲環境の影響から電子部品を保護するが、例えば光などの電磁線がカバーガラスを通り抜けて電子部品と相互作用するように、電子部品の上に取り付けられる。そのようなカバーガラスの例は、光学キャップ内にある電子イメージセンサーの保護のための要素、ウエハー・レベル・パッケージにおけるカバー・ウエハー、光電池のためのカバーガラス及び有機エレクトロニクス用の保護ガラスである。カバーガラスについてのさらに他の用途は、当業者にとって周知である。さらに、例えばカバーガラスが、少なくとも、好ましくはレンズの形態をとることができる光学構造を有する領域に設けられる場合、光学機能をカバーガラスに一体化させることも可能である。マイクロレンズと共に設けられるカバーガラスは、通常、デジタル・カメラのイメージセンサー用のカバーガラスとして使用され、マイクロレンズは、通常、イメージセンサーに斜め方向に当たる光を個々のセンサー要素(ピクセル)上に集める。言うまでもなく、電子部品が基板ガラスに埋設され及び/又はそれに適用された電子部品用の基板ガラスとして、本発明のガラスを使用することも可能である。
【0072】
その光学特性のために、本発明のガラスは、同様に光学用途のために使用することもできる。非常に化学的に不活性であるために、例えばシリコンをベースとする光電池及び有機的な光電池をカバーする光電池における基板ガラス及び/又はカバーガラスとしての使用、及び/又は薄膜光電池モジュール用の支持体材料としての使用に適している。本発明のガラスのX線吸収は、なかんずく、地球の大気の外側では特に強いX線にさらされ得るので、宇宙旅行応用において光電池モジュールを用いるときに特に有利である。さらに、高いX線吸収特性により、X線保護ガラスとして全く一般的に使用することが可能である。
【0073】
本発明のガラスはまた、その特性のためにOLEDs(有機発光ダイオード類)のカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての応用分野においても優れることが見出された。例えば、その耐薬品性により、ガラスとOLED物質との間の望ましくない相互作用も回避することができ、あるいは少なくとも抑制することができる。
【0074】
本発明のガラスは、生化学用途、特に分子篩プロセス用のカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての使用にも適している。
【0075】
その高い耐熱性のために、本発明のガラスは、ランプ・ガラスとして、特にハロゲン・ランプ及び/又は蛍光管及び関連する建物における使用に適している。ランプにおける光発生メカニズムによりX線が生じた場合、本発明のガラスの特別の利点は、環境をX線から守ることができるということである。
【0076】
さらに、本発明は、物理的なプロセスによる本発明のガラスの蒸発、及び蒸発したガラスの部品上への蒸着を包含する。そのような物理的気相蒸着プロセス(略称:PVDプロセス)は当業者に知られており、例えばドイツ特許DE 102 22 964B4に記載されている。そのようなプロセスにおいて、本発明のガラスは蒸発されるべきターゲットとして供される。本発明のガラスが蒸着された部品は、ガラスの耐薬品性及びそのX線吸収の両方から利益を得ることができる。
【0077】
同様に、本発明のガラスは、ガラスファイバーの出発材料としても使用することができる。ここで、用語「ガラスファイバー」は、すべてのタイプのガラスファイバー、特にコアだけからなるファイバー、及びコアと、その外周面に沿ってコアを好ましくは完全に囲む少なくとも1つのクラッドを有する所謂コア−クラッドファイバー、を包含する。この場合、本発明のガラスは、コアガラス及び/又はクラッドガラスとして使用することができる。本発明のガラスの組成範囲内では、ガラスの屈折率nは、本発明に係るコアガラスが本発明に係るクラッドガラスより高い屈折率を有するように設定することができ、従って、光がコア−クラッド境界面での全反射の結果として非常に効率的に伝達される、所謂ステップインデックス型ファイバーが得られる。上記用語は、同様に、例えば国際公開WO 2009/100834 A1に記載されているような側面光放射(もしくは側面漏光)ファイバも包含する。
【0078】
さらに、本発明のガラスは、それらの高い安定性のために、またもし望まれればそれらのX線吸光度により、同様に、放射性廃棄物の安全な一時的及び/又は永久的保管用の、及びさらに放射性物質を埋め込むための母材材料として適している。
【0079】
このガラスはまた、容器ガラスとしての、あるいは薬剤製品のパッケージングのための使用において有利である。周囲媒体に対する高い耐性のために、内容物との相互作用は事実上妨げることができる。
【0080】
その良好な耐薬品性のために、他の応用分野は、特に、複合材料の補強材として及び/又はコンクリートの補強材として及び/又はコンクリートに埋め込まれる光導波路ファイバーとしての、本発明に係るガラスファイバーの使用である。
【実施例】
【0081】
以下、実施例を示して本発明についてさらに具体的に説明するが、本発明が下記実施例に限定されないことはもとよりである。
実施例1〜19
表1〜3に、本発明の好ましい組成範囲におけるガラスの実施例を示す。尚、組成に関する数値は、すべて質量%である。
【0082】
ALET値(アルミニウム等価厚)はすべて、DIN ISO 4049に基づく方法により決定されたが、デジタルX線装置を用いて決定された。それにより得られたグレイ−スケール値は、さらにイメージ分析ソフトウェアによって処理され、X線吸収はそれから決定された。
【0083】
各実施例に記載されているガラスは、以下のようにして製造した:
清澄剤なしで酸化物用の原料を計量し、次いで充分に混合する。ガラスバッチは非連続(バッチ式)溶解装置内で約1580℃で溶解され、次いで清澄、均質化される。ガラスは、約1600℃の注型温度で注型でき、またリボンとして、あるいは他の所望の寸法に加工できる。大容量の連続装置では少なくとも約100Kだけ温度を低くすることができる。
【0084】
さらに加工するために、冷却されたガラス・リボンは、10μm以下の平均粒度を有するガラス粉末を形成するために、ドイツ特許DE 41 00 604C1から公知の方法により、粉砕された。ガラス特性は、粉末へ粉砕されなかったガラス塊に基づいて決定された。ガラスはすべて、酸、アルカリ、水、及びNaFやNaF/酢酸などのフッ素含有物質に対する優れた耐薬品性を示した。
【0085】
表1〜3にはまた、屈折率n、ガラス転移温度Tg、20〜300℃での線熱膨張率α(20〜300℃)及び−30〜70℃でのα(−30〜70℃)が示されている。後者は本発明のガラスが歯科用ガラスとして使用される場合には特別に興味があり、何故ならば、使用中に−30〜70℃の温度範囲が起こり得るためである。
【0086】
さらに表1〜3には、本発明の各種ガラスの、耐酸性、耐アルカリ性、耐水性について得られた値により数値化された耐薬品性が示されている。ここで、SはDIN 12116による耐酸性のクラスを表わし、LはDIN ISO 695による耐アルカリ性のクラスを表わし、また、HGBはDIN ISO 719による耐水性のクラスを表わしている。
【0087】
さらに本発明のガラスの優れた耐薬品性を計量するために、特にフッ素及び/又はフッ化物に対する耐性をテストするより厳密な試験が行なわれた。歯磨き材料においてしばしば行われ、健康な歯材料をフッ素処理し及び/又は強くする役目をするフッ素含有成分に対する耐性は、NaF溶液及びNaF/酢酸溶液によって以下のようにテストされた:モノマー50%、及びレーザー光散乱(CILAS 1064L装置)によって測定された平均粒度(d50)3μmのシラン化されたガラス粉末50%からの複合材料の製造。テスト試料は、両側が研磨され、37℃〜100℃の温度で、0.001モルNaF溶液、及び0.001モルNaF溶液及び4%酢酸の溶液に16時間曝される。研磨された試料の表面は、耐性試験の前後にSEM(走査型電子顕微鏡)によって検査される。
【0088】
非常に良好な試料は変化を示さなかった。良好な試料は、モノマーとガラス粉末粒子の間にほんの僅かの界面クラックを示した。劣悪な試料は、ガラス粒子がモノマー母材から浸出されたことを示した。この試験を行なうための出費のために、この試験結果は本発明に係るガラスのすべての変形例についてまだ入手できていない。
【0089】
表1〜3に示されたガラスはすべて、20〜300℃の範囲において7×10−6/K未満の熱膨張率α(20−300)を有し、分析の測定精度の限度内でBaOを含有していない。
【0090】
BaO含有ガラスに比べて、表1〜3に示されているガラスは、少なくともそれと同じくらい良好なX線不透過性を有する。示されている実施例においては、399〜763%のALET値が達成されている。
【0091】
各実施例はまた、本発明のガラス系の屈折率nは、所望のALETを損なうことなく、用途に適応でき、特に1.53〜1.56の範囲内において用途に適応できることを実証している。その結果、特に歯科用組成物中のフィラーとして有利に使用することができるが、それだけでなく、なかんずく純度やまた耐薬品性及び耐熱性についての要求がなされる他の用途にも有利に使用することができる。さらに、妥当な努力で工業的に製造することができる。
【0092】
先行技術と比較して、本発明のガラスは、屈折率と膨張率の適応性及びまた絶えず非常に良好な化学安定性を、効率的なX線吸収と組み合わせて有するという更なる利点を有する。
本発明のガラスはまた、比較的容易に溶融し、従って効率的に製造することができる。
【0093】
【表1】

【0094】
【表2】

【0095】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物基準の質量%表示で以下の成分:
SiO 55〜75%、
0〜9%、
Al 0.5〜4%、
LiO 0〜2%、
NaO 0〜7%、
O 0〜9%、
CsO 0〜15%、
SrO 4〜17%、
CaO 0〜11%、
MgO 0〜<3%、
ZrO 1〜<11%、
La 1〜10%、
SnO 0〜4%、
LiO+NaO+KO 0.5〜12%、
SrO+CsO+La+SnO+ZrO ≧10%
を含有し、せいぜい不純物を除いてBaO及びPbOを含有せず、1.50〜1.58の屈折率n及び少なくとも300%のアルミニウム等価厚を有するX線不透過性ガラス。
【請求項2】
酸化物基準の質量%表示で以下の成分:
SiO 56〜74%、
0〜7%、
Al 0.5〜3.5%、
LiO 0〜1%、
NaO 0〜5%、
O 0〜8%、
CsO 1〜14%、
SrO 4〜16%、
CaO 0〜10%、
MgO 0〜<2%、
ZrO 1〜<10%、
La 2〜8%、
SnO 0〜3%、
LiO+NaO+KO 0.5〜11%、
SrO+CsO+La+SnO+ZrO ≧11%
を含有する請求項1に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項3】
酸化物基準の質量%表示で以下の成分:
SiO >59〜70%、
0〜4%、
Al 0.5〜2%、
LiO 0〜<1%、
NaO 0〜3%、
O 0〜6%、
CsO 3〜12%、
SrO 6〜14%、
CaO 0〜8%、
MgO 0〜<1%、
ZrO 2〜9%、
La 3〜6%、
SnO 0〜3%、
LiO+NaO+KO 3〜9%、
SrO+CsO+La+SnO+ZrO ≧15%
を含有する請求項1又は2に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項4】
酸化物基準の質量%表示でSrOとCsOとLaとSnOとZrOの合計含有量が>18%である請求項1乃至3のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項5】
SiOとZrOの含有量の比が、SiO/ZrO≧6.5である請求項1乃至4のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項6】
酸化物基準の質量%表示でさらに以下の成分:
WO 0〜3%、
Nb 0〜3%、
HfO 0〜3%、
Ta 0〜5%、
Sc 0〜3%、
0〜3%、
Yb 0〜3%
を含有する請求項1乃至5のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項7】
せいぜい極微量を除いてB及び/又はLiO及び/又はフッ化物を含有しておらず、また酸化物基準でZnOの含有量が5質量%未満である請求項1乃至6のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項8】
7×10−6/K未満の熱膨張率α(20−300)を有する請求項1乃至7のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項9】
クラス2もしくはそれより良好なDIN 12116による耐酸性S、クラス1のDIN ISO 10695による耐アルカリ性L、及びクラス2もしくはそれより良好なDIN ISO 719による耐水性HGBを有する請求項1乃至8のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラス。
【請求項10】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラスを酸化物基準で少なくとも95質量%の割合で含むX線不透過性ガラス。
【請求項11】
請求項1乃至9のいずれか一項に記載のX線不透過性ガラスからなるガラス粉末。
【請求項12】
−歯科用ガラスとしての、及び/又は
−歯修復用複合材におけるフィラーとしての、及び/又は
−ガラス・アイオノマー・セメントにおけるフィラー又は不活性粒状材料としての、及び/又は
−ポリマーベースの歯科用組成物におけるX線不透過剤としての、及び/又は
−光学要素としての、及び/又は
−電子部品のカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての、及び/又は
−ディスプレイ技術におけるカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての、及び/又は
−光電池におけるカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての、及び/又は
−OLED用のカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての、及び/又は
−生化学用途のためのカバーガラス及び/又は基板ガラスとしての、及び/又は
−ランプガラスとしての、及び/又は
−PVDプロセスにおけるターゲット材料としての、及び/又は
−ガラスファイバーのコアガラス及び/又はクラッドガラスとしての、及び/又は
−光導波路としての、及び/又は
−放射性物質埋め込み用の材料としての、及び/又は
−医薬品を包装するための容器材料としての、及び/又は
−複合材料中の補強材としての請求項1乃至10のいずれか一項に記載のガラスの使用。

【公開番号】特開2013−87054(P2013−87054A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−227207(P2012−227207)
【出願日】平成24年10月12日(2012.10.12)
【出願人】(504299782)ショット アクチエンゲゼルシャフト (346)
【氏名又は名称原語表記】Schott AG
【住所又は居所原語表記】Hattenbergstr.10,D−55122 Mainz,Germany
【Fターム(参考)】