説明

バーチカルエンジン

【課題】所要のエンジンオイルの流量を確保でき、レイアウト上の設計の自由度が大きいオイルポンプを有するバーチカルエンジンを提供する。
【解決手段】カムシャフト26とクランクシャフト21とを同期回転させるタイミングベルト25とは別の動力伝達手段(ポンプ駆動ギア列)46によってオイルポンプ本体43に伝達される動力を増速することにより、オイルポンプ41を小型化してもエンジンオイルの流量を確保し、レイアウトの自由度を大きくした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機等に搭載されるバーチカルエンジンに関し、詳しくは、オイルポンプの駆動構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
船外機用のバーチカルエンジンでは、クランクシャフトやカムシャフトによって直結駆動されるオイルポンプが装着されることが多い。直結型以外のオイルポンプとしては、例えば、クランクシャフトに一体化されたドライブギアと、アイドラギアと、カムシャフトに一体化されたドリブンギアとからなるギア列を有し、このギア列をギアポンプとして機能させるものが提案されている(特許文献1参照)。また、カムシャフトをクランクシャフトと同期回転させるタイミングチェーン等により、オイルポンプを駆動するものが提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開2000−297654
【特許文献2】特開2001−73729
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述したクランクシャフト直結型のオイルポンプは、エンジン部品の中で比較的大径のクランクシャフトにオイルポンプのロータを組み付けるため、オイルポンプが大型化すると同時に、摩擦損失も増大する問題がある。一方、カムシャフト直結型のオイルポンプは、エンジン部品の中で比較的小径のカムシャフトにオイルポンプのロータを組み付けるため、オイルポンプを小型化できる。しかし、カムシャフトの回転数はクランクシャフトの回転数の2分の1となるので、要求されるオイル流量を確保するためには、ロータを大型化する、あるいはロータ幅を広くする必要がある。したがって、直結型の場合、どちらのオイルポンプも、大型化による設置スペースの増大と摩擦損失の増大とが問題となった。
【0004】
一方、特許文献1および特許文献2に記載された発明は、上述した課題を解決するものであるが、これらの発明は、カムシャフトをクランクシャフトと同期回転させるための動力伝達部材によってオイルポンプを駆動するものであるため、レイアウト設計上の制約が大きくなるなどの問題があった。
【0005】
そこで、本発明は、必要なエンジンオイルの流量を確保でき、レイアウトの容易なオイルポンプを有するバーチカルエンジンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明に係るバーチカルエンジンは、概ね鉛直方向に配置されたクランクシャフト(21)と、当該クランクシャフト(21)と同期回転するカムシャフト(26)と、エンジンオイルの送給に供されるオイルポンプ(41)とを備えたバーチカルエンジン(4)であって、前記カムシャフト(26)は、第1の動力伝達手段(25)を介し、前記クランクシャフト(21)によって回転駆動され、前記オイルポンプ(41)は、第2の動力伝達手段(42)を介し、前記カムシャフト(26)によって前記クランクシャフト(21)と同等またはそれよりも高い回転数をもって回転駆動されることを特徴とする。
【0007】
第2の発明に係るバーチカルエンジンは、前記第1の動力伝達手段(25)は、カムシャフト(26)の上端側に設置され、前記第2の動力伝達手段(42)は、カムシャフト(26)の下端側に設置されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
第1の発明においては、第2の動力伝達手段が、回転数を増速させてオイルポンプに回転力を伝達する。したがって、ロータを大型化したり、ロータ幅を広くしたりせずに、必要なエンジンオイルの流量を確保することができ、摩擦損失の低減やレイアウトの容易化等を実現できる。
【0009】
また、第1の発明は、カムシャフトをクランクシャフトと同期回転させる第1の動力伝達手段(タイミングベルト等)とは別に、オイルポンプ用の第2の動力伝達手段を備えているので、レイアウトの自由度が大きくなる。本発明を空きスペースの少ない船外機用エンジンに使用した場合であっても、小型でレイアウトの容易なオイルポンプは、従来は設置が困難だった狭いスペースにも設置可能である。また、このような狭いスペースにオイルポンプを設置すると、他の部品の設置や大型化が可能となる。
【0010】
第2の発明においては、第1の動力伝達手段と第2の動力伝達手段とを上下に分離しているため、タイミングベルトの交換等のメンテナンスが容易となる。また、オイルポンプは、小型であるので船外機用バーチカルエンジンの下部の小さいスペースにも設置できる。また、カムシャフトの下方にオイルパンを設けた場合、オイルパン内に第2の動力伝達手段が配置されることになり、エンジンオイルの循環経路等を簡素化できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明に係る4ストロークバーチカルエンジンの1実施形態を詳細に説明する。図1は、実施形態に係る4ストロークバーチカルエンジンを搭載した船外機の上部側面を模式的に描いたものである。図2は、実施形態に係る動力伝達手段の平面図である。図3は、図2中のIII−III断面図である。
【0012】
≪実施形態の構成≫
実施形態の船外機1は、スターンブラケット2を介して船尾板3に取り付けられている。4ストロークバーチカルエンジン(以下、単にエンジンと記す)4は、水平方向のチルトシャフト5を軸にして回転できるように、マウントケース6上に搭載されている。マウントケース6は、スターンブラケット2に連結されたスイベルケース7と実質的に一体をなす。また、マウントケース6上に搭載されたエンジン4の略全体は、着脱自在なエンジンカバー8で覆われている。なお、エンジン4は、図1の左からクランクケース9、シリンダブロック10、シリンダヘッド11、およびヘッドカバー12を有している。
【0013】
マウントケース6は、エクステンションケース13の上端に結合されている。そのマウントケース6内で、図示されていないスクリューに至る駆動シャフト14とクランクシャフト21とが連結されている。
【0014】
クランクシャフト21は略鉛直に配置されている。クランクシャフト21は、シリンダ22内で往復運動するピストン23にコンロッド24を介して連結されるとともに、第1の動力伝達手段であるタイミングベルト25を介してカムシャフト26を回転駆動する。カムシャフト26はクランクシャフト21の2分の1の回転数で同期回転し、吸気弁28および排気弁29はカムシャフト26に形成されたカム27によって駆動されてエンジン4の各行程と同期して開閉する。タイミングベルト25は、クランクシャフト21の上端に一体化されたクランクプーリ30とカムシャフト26の上端に一体化されたカムプーリ31とに噛み合わせられている。
【0015】
オイルポンプ41は、アッパケース42aとロアケース42bとからなるハウジング42を備えており、ハウジング42内にはオイルポンプ本体43、ドライブギア44およびドリブンギア45が保持され、ハウジング42下面にはオイルパン48が締結される。
【0016】
ドライブギア44と、ドリブンギア45とは、オイルポンプ本体43に動力を伝達するポンプ駆動ギア列46(第2の動力伝達手段)を構成し、カムシャフト26の回転を増速してオイルポンプシャフト47に伝達する。ドライブギア44は、先端に凹状部50aが形成されたシャフト50と一体となっており、この凹状部50aがカムシャフト26の下端に形成された凸状部26aに係合する。ドライブギア44と噛み合っているドリブンギア45の歯数は、ドライブギア44の歯数の2分の1以下である。このため、ドリブンギア45はカムシャフト26の回転速度の2倍以上、つまりクランクシャフト21の回転速度以上の速度で回転駆動する。また、ポンプ駆動ギア列46は、クランクシャフト21の下方に設置されたオイルパン48の中に配置される。
【0017】
オイルポンプ本体43はオイルポンプシャフト47と、インナーロータ(図示せず)と、アウターロータ(図示せず)とを備えた公知のトロコイドポンプである。オイルポンプシャフト47は、ドリブンギア45と一体になっており、ドリブンギア45の回転をインナーロータおよびアウターロータに伝達する。したがって、ドライブギア44に駆動されてドリブンギア45が回転するとオイルポンプ本体43のインナーロータおよびアウターロータも回転し、オイルポンプ41から吐出されたエンジンオイルがエンジン4の各部に供給される。
【0018】
≪実施形態の作用≫
この船外機1は、クランクシャフト21の回転を図示されていないスクリューに伝達することによって、船外機1が取り付けられた船舶に推進力を与える。
【0019】
ドライブギア44はクランクシャフト21と比較して小径のカムシャフト26と係合するので、ドライブギア44を比較的小さくできる。また、オイルポンプ本体43に伝達される動力がドリブンギア45によって増速されるので、小型のオイルポンプ41であってもエンジンオイルの流量を確保でき、オイルポンプ本体43を大型にする必要はない。したがって、オイルポンプ41を小型にできるので、摩擦損失の増大やレイアウト上の制約という問題を防ぐことができる。
【0020】
また、カムシャフト26の駆動手段であるタイミングベルト25(第1の動力伝達手段)と、オイルポンプ41の駆動手段であるポンプ駆動ギア列46(第2の動力伝達手段)とを分離したことによって、オイルポンプ41の配置位置の自由度が増大する。そして、タイミングベルト25を上部に、ポンプ駆動ギア列46およびオイルポンプ41を下部に配置したことによって、タイミングベルト25の交換等のメンテナンスが容易となる。
【0021】
また、従来はスペースの都合上設置することが困難であったカムシャフト26の下方にオイルポンプ本体43を設置し、オイルパン48内にポンプ駆動ギア列46を配置したことによって、エンジンオイルの循環経路等が簡素化でき、エンジンオイルの循環経路等に関する部品を減らして製造コストを削減でき、他の部品の設置や大型化が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る4ストロークバーチカルエンジン搭載した船外機の上部側面図である。
【図2】本発明に係る動力伝達手段の平面図である。
【図3】本発明に係る動力伝達手段の図2中のIII−III断面の断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 船外機
4 4ストロークバーチカルエンジン
21 クランクシャフト
25 タイミングベルト(第1の動力伝達手段)
26 カムシャフト
41 オイルポンプ
42 ハウジング
43 オイルポンプ本体
44 ドライブギア
45 ドリブンギア
46 ポンプ駆動ギア列(第2の動力伝達手段)
47 オイルポンプシャフト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
概ね鉛直方向に配置されたクランクシャフトと、当該クランクシャフトと同期回転するカムシャフトと、エンジンオイルの送給に供されるオイルポンプとを備えたバーチカルエンジンであって、
前記カムシャフトは、第1の動力伝達手段を介し、前記クランクシャフトによって回転駆動され、
前記オイルポンプは、第2の動力伝達手段を介し、前記カムシャフトによって前記クランクシャフトと同等またはそれよりも高い回転数をもって回転駆動されることを特徴とするバーチカルエンジン。
【請求項2】
前記第1の動力伝達手段は、カムシャフトの上端側に設置され、
前記第2の動力伝達手段は、カムシャフトの下端側に設置されたことを特徴とする、請求項1に記載されたバーチカルエンジン。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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