説明

パイエル板形成誘導組成物

【課題】パイエル板の形成を誘導でき、食品素材として好適に用いることのできるパイエル板形成誘導組成物を提供すること。
【解決手段】ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分として含有するパイエル板形成誘導組成物。ヘミセルロースは、ヘミセルロース含有原料から得られたものが好ましく、穀物から得られたものがより好ましく、トウモロコシから得られたものが更に好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分とするパイエル板形成誘導組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒトをはじめとする生体は、微生物のような外来抗原や、あるいは腫瘍細胞のような内因性の異物的自己物質等に絶えずさらされており、これらに起因する各種疾患に対抗するための生体防御機構として免疫系を備えている。
【0003】
しかしながら、免疫系は、加齢、ストレス、疲労、不規則な生活や各種環境因子等に起因してその機能が低下し、これにより各種疾患や感染症が引き起こされやすくなると考えられている。高齢社会が進展し、多忙な現代社会は、免疫力の低下をもたらす要因が無数に存在する状態であるが、その中にあって、生体の防御機能である免疫力を強化することは、生体の恒常性の維持に重要であるとされている。
【0004】
したがって、免疫系を活性化させる免疫賦活物質は、食品や薬品として広い用途があり、例えば、下記特許文献1には、トウモロコシの外皮から得られるヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分とする免疫賦活剤が開示されている。この公報に開示されている免疫賦活剤は、脾臓細胞のConA刺激に対するサイトカイン生産能促進作用を有するものであって、血液やリンパ液などの循環器系を介する全身免疫系を賦活化させるものである。
【0005】
一方、疾患を引き起こす病原微生物は、主に消化管や呼吸器等の粘膜面を介して宿主に侵入し感染が成立することから、例えば下記非特許文献1に開示されているように、局所粘膜に存在する粘膜免疫系が感染防御に重要な役割をもたらすといわれている。
【0006】
また、粘膜免疫系は、全身免疫系とは異なる独特の制御機構を持つことが知られており、抗原が自己にとって好ましいものか、排除すべきものかを判断する働きを担っていることが知られている。すなわち、全身免疫系と同様の作用として、外来抗原や病原微生物の排除といった、いわゆる”正の免疫応答”の他に、食物として経口摂取した蛋白質抗原に対して、全身免疫系を不応答にする、いわゆる”負の免疫応答”も制御している。
【0007】
このため、粘膜免疫系を賦活することで、各種疾患や感染症等の予防・治療の他に、アレルギーの滅感作や、自己免疫疾患の治療・予防等ができると考えられている。
【0008】
このような粘膜免疫系を賦活化できる特性を有する食品素材として、下記特許文献2には、フラクトオリゴ糖を有効成分とする粘膜免疫賦活組成物が開示されている。
【0009】
また、下記特許文献3には、環状イヌロヘキサオースや環状イヌロヘプタオース等のシクロフラクタンを有効成分とする粘膜免疫賦活組成物が開示されている。
【特許文献1】特開2001−322942号公報
【特許文献2】特開2003−201239号公報
【特許文献3】特開2005−179195号公報
【非特許文献1】清野宏,石川博通,名倉宏 編、 「粘膜免疫」 pp.2−30(2001)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
粘膜関連リンパ組織と呼ばれている局所粘膜面におけるリンパ組織は、粘膜免疫系において中心的な役割を演じており、なかでも、腸管の代表的な粘膜関連リンパ組織であるパイエル板(Peyer’s patch)には、Th1型・Th2型CD4+T細胞、CD8+T細胞、IgA前駆B細胞、樹状細胞、マクロファージ等、粘膜免疫の誘導・制御に不可欠な免疫担当細胞が全て集まっており、パイエル板は粘膜免疫を制御する上で、司令塔として重要な役割を有するものであると考えられている。したがって、パイエル板の形成を増強することができれば、粘膜免疫系をより効果的に賦活化できるものと考えられる。
【0011】
上記特許文献2、3に開示されている難消化性糖類は、分泌型IgAや、抗体分泌因子(pIgA)などの生産能を増強させることで粘膜免疫系を賦活させるものであるが、その詳細については不明であった。
【0012】
また、上記特許文献1〜3のいずれにも、パイエル板の形成作用については何ら開示されていない。
【0013】
従って、本発明の目的は、パイエル板の形成を誘導でき、人体に安全で手軽に摂取することができるパイエル板形成誘導組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究した結果、ヘミセルロース及び/又はその部分分解物が、パイエル板の形成を誘導する作用を有することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分として含有することを特徴とする。
【0016】
本発明のパイエル板形成誘導組成物の有効成分であるヘミセルロース及び/又はその部分分解物は、安全性が高く、手軽に経口摂取できる。そして、粘膜関連リンパ組織の中心的な働きをするパイエル板の形成を誘導させることができるので、粘膜免疫系をより効果的に賦活化でき、各種疾患や感染症等の予防・治療、アレルギーの滅感作、自己免疫疾患の治療・予防等の効果が得られる。
【0017】
また、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、前記ヘミセルロースが、ヘミセルロース含有原料から得られたものであることが好ましく、穀物から得られたものであることがより好まく、トウモロコシから得られたものであることが更に好ましい。この態様によれば、より純度の高いヘミセルロースを容易に得ることができる。
【0018】
また、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、前記ヘミセルロースを、更に酵素処理、化学的処理、物理的処理から選ばれた1種以上の方法により処理して得られる、ヘミセルロースの部分分解物であることが好ましい。この態様によれば、ヘミセルロースを穏やかな条件で適度に分解できるので、生理活性効果を損なうことなく低分子化して、生体内における吸収性を向上させることができる。
【0019】
また、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、前記ヘミセルロース及び/又はその部分分解物が、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びグルクロン酸からなる群のうち1種以上を構成糖として含有することが好ましい。
【0020】
また、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、その重量平均分子量が、400〜1,000,000であることが好ましい。
【0021】
上記各態様によれば、パイエル板形成誘導効果を有し、水溶性で医薬品、飲食品、飼料又は餌料等の原料として使用しやすく、更にはこれらに添加したときに、食感や風味を良好に保つことができる。
【0022】
また、本発明のパイエル板形成誘導組成物は、医薬品、飲食品、飼料又は餌料の原料として用いられることが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明のパイエル板形成誘導組成物は、安全性の高いヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分とするものであるので、手軽に経口摂取できる。そして、粘膜関連リンパ組織の中心的な働きをするパイエル板の形成を誘導させることができるので、粘膜免疫系をより効果的に賦活化でき、各種疾患や感染症等の予防・治療、アレルギーの滅感作、自己免疫疾患の治療・予防等の効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明のパイエル板形成誘導組成物の有効成分であるヘミセルロース及び/又はその部分分解物の調製方法は、特に制限はなく公知の方法を採用できる。
【0025】
ヘミセルロースは、食物繊維の一種であり、特に、イネ、小麦、大麦、トウモロコシ等の穀類の糠や外皮中には、ヘミセルロースが多く含まれることが知られている。これらのヘミセルロース含有原料からヘミセルロースを抽出する方法としては、例えば、アルカリ又は酸による抽出、エクストルーダーやオートクレーブによる加圧、熱水抽出、セルラーゼ等の酵素剤を用いた抽出、あるいはこれらを適宜組み合わせた方法を採用することができる。
【0026】
本発明においては、ヘミセルロースをより高純度に得るために、ヘミセルロース含有原料としてトウモロコシの外皮を用いることが好ましい。また、ヘミセルロース含有原料から澱粉質、蛋白質、更に必要に応じて脂質、無機質等を除去した残部をアルカリ抽出してヘミセルロースを調製することが好ましく、トウモロコシの外皮から澱粉質、蛋白質、更に必要に応じて脂質、無機質等を除去した残部をアルカリ抽出してヘミセルロースを調製することが特に好ましい。
【0027】
ヘミセルロース含有原料から澱粉質、蛋白質、更に必要に応じて脂質、無機質等を除去する方法としては、酵素処理、化学的処理、物理的処理のいずれを採用してもよく、あるいはこれらを適宜組み合わせてもよい。
【0028】
酵素処理としては、ヘミセルロース含有原料に、α−アミラーゼ、グルコアミラーゼ等の澱粉分解酵素、プロテアーゼ等の蛋白分解酵素、リパーゼ等の脂質分解酵素、セルラーゼ等の繊維素分解酵素を加え、pH3〜9、温度30〜100℃の条件下で作用させて処理することにより行われる。
【0029】
化学的処理としては、ヘミセルロース含有原料に、鉱酸、有機酸の水溶液を添加して、pH2〜5の条件下で加熱するか、又は食品用界面活性剤を添加して、pH3〜8の条件下で熱処理することにより行われる。
【0030】
物理的処理は、ヘミセルロース含有原料を、ホモゲナイザー、ハンマーミル等の粉砕機で粉砕した後、篩別することにより行われる。
【0031】
本発明においては、上記のようにして調製されたヘミセルロースを有効成分とすることもできるが、該ヘミセルロースを更に部分分解して得られる、ヘミセルロースの部分分解物を有効成分とすることが好ましい。
【0032】
ヘミセルロースを部分分解する方法としては、例えば、ヘミセルロースを、酵素処理、化学的処理、物理的処理から選ばれた1種以上の方法により処理する方法が挙げられ、特に、ヘミセルロースを、ヘミセルロース分解酵素で処理する方法が好ましく採用される。この態様によれば、ヘミセルロースを穏やかな条件で適度に分解できるので、生理活性効果を損なうことなく低分子化して、生体内における吸収性を向上させることができる。
【0033】
本発明で用いられるヘミセルロースは、トウモロコシの外皮を原料とした場合、例えば以下のようにして調製することができる。
【0034】
好ましくは前記前処理(澱粉質、蛋白質、更に必要に応じて脂質、無機質等を除去する処理)をしたトウモロコシの外皮5〜20質量部に、水80〜95質量部を添加し、アルカリ化合物を添加してpH10〜13に調整し、80〜140℃で0.5〜10時間攪拌混合して、ヘミセルロースを抽出する。アルカリ化合物としては、特に制限はなく、例えば水酸化カルシウムや水酸化ナトリウムがあげられる。なお、アルカリ化合物は予め水溶液にして加えることが好ましい。
【0035】
次いで、この溶液を濾過して、濾液を回収し、この抽出液を酸で中和する。酸としては、特に制限はなく、有機酸や無機酸を用いることができる。
【0036】
この中和液は、脱色、脱塩してそのまま、あるいは濃縮して、又は更に噴霧乾燥や凍結乾燥により粉末化することによりヘミセルロース粗精製物として用いることができる。
【0037】
また更に、上記中和液から、中和によって沈殿した蛋白質を遠心分離等の手段で分離除去し、必要に応じてその上澄液を透析、イオン交換樹脂処理、イオン交換膜処理、限外濾過膜処理、アルコール精製、濾材処理等の単独又は適宜組み合わせで処理することにより、任意の純度のヘミセルロースを得ることができる。なお、他のヘミセルロース含有原料を原料とした場合も上記と同様の方法によって調製できる。
【0038】
また、本発明で用いられるヘミセルロースの部分分解物は、トウモロコシの外皮を原料とした場合、例えば以下のようにして調製することができる。
【0039】
上記のようにトウモロコシの外皮をアルカリ抽出して得られた抽出液を清澄濾過した後、ヘミセルロース分解酵素による反応を行うことが好ましい。ヘミセルロース分解酵素による処理を行うことで、更に低分子化でき、生体内における吸収性が高く、生理活性効果が発現しやすくなる。
【0040】
上記反応に用いるヘミセルロース分解酵素としては、ヘミセルロース分解活性を有する市販のヘミセルラーゼ、キシラナーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼ等の酵素製剤を利用することができ、特公昭50−13357号公報に記載されたアルカリ側に至適pHを有するアルカリキシラナーゼ「セルザイム」(商品名、日本食品化工株式会社製)や、「ペクチナーゼGL」(商品名、天野エンザイム株式会社製)等が好ましく例示される。また、上記ヘミセルロース分解酵素によるヘミセルロース分解条件については、使用する酵素製剤の特性に応じて適宜設定可能である。
【0041】
例えば、ヘミセルロース分解酵素として、アルカリキシラナーゼの「セルザイム」を用いた場合、上記のようにトウモロコシの外皮をアルカリ抽出して得られた抽出液を、清澄濾過した後、pHを調整し、50〜60℃の温度下にキシラナーゼを添加して反応させることが好ましい。キシラナーゼの添加量は、抽出物の固形分1gあたりに対して、0.0001〜10単位程度が好ましく、反応時間は3〜96時間程度が好ましい。なお、キシラナーゼの力価の測定は、トウモロコシの外皮からアルカリ抽出して得たヘミセルロースを基質とし、pH7、60℃の反応条件下で、1分間に1μmolのキシロースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位として行った。
【0042】
また例えば、ヘミセルロース分解酵素として、ペクチナーゼの「ペクチナーゼGL」を用いた場合、pH3〜5、50〜60℃の条件において、ペクチナーゼの添加量は、抽出物の固形分1gに対して、0.01〜1質量%程度が好ましく、反応時間は3〜96時間程度が好ましい。
【0043】
上記酵素による処理終了後、加熱等により酵素を失活させ、その後、反応液を脱色、脱塩処理し、濃縮、あるいは更に乾燥することにより、ヘミセルロースの部分分解物を得ることができる。
【0044】
また、前記のようにして精製したヘミセルロースを3〜30質量%含有する溶液を調製して、必要に応じてpH調整し、上記と同様にして酵素反応を行ない、酵素を失活させた後、遠心分離等により固液分離し、上澄み液を濃縮、乾燥してもよい。なお、上記のような方法により、トウモロコシの外皮から得られたヘミセルロースを、ヘミセルロース分解酵素で処理して調製されたヘミセルロース部分分解物は、例えば、「日食アラビノキシラン」(商品名、日本食品化工株式会社製)として市販されており、本発明では、このような市販品を用いることもできる。上記「日食アラビノキシラン」は、重量平均分子量が約50,000〜60,000の部分分解ヘミセルロースである。
【0045】
本発明において、ヘミセルロースの部分分解物は、その重量平均分子量が400〜100,000,000であることが好ましく、20,000〜200,000であることがより好ましく、30,000〜80,000が特に好ましい。このような重量平均分子量を有するヘミセルロースの部分分解物は、その5質量%水溶液の粘度が1〜20cps(B型粘度計、60rpm、25℃)と低粘度であり、医薬品、飲食品等の原料に添加したときに、食感や風味を良好に保つことができる。ヘミセルロースの部分分解物の重量平均分子量が100,000,000を超えると、粘度が高くなりすぎて飲食品の原料等に添加しにくくなり、400未満であると、難消化性糖質としての生理活性効果が失われるおそれがあるため好ましくない。
【0046】
そして、本発明において、ヘミセルロース及び/又はその部分分解物は、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びグルクロン酸からなる群のうち1種以上を構成糖として含有するものが好ましく、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びグルクロン酸を構成糖として含有するものがより好ましい。このような糖構成を有するヘミセルロース及び/又はその部分分解物としては、例えば、トウモロコシの外皮、米糠、小麦や大麦のフスマ等から得られるヘミセルロース及び/又はその部分分解物が挙げられる。
【0047】
本発明のパイエル板形成誘導組成物は、上記ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分として含有するものであって、例えば上記ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を含む水溶液、濃縮液あるいは乾燥粉末等として製品化することができる。
【0048】
なかでも、トウモロコシの外皮から得られるヘミセルロース及び/又はその部分分解物は、無毒、無害の難消化性糖質であり、わずかな甘味を有する、やや黄色みを帯びた澄明な液体、又は黄白色粉末である。そして、乾燥粉末とした場合でも容易に水に溶け、耐熱性、耐酸性にも優れており、加熱により適度に着色し、混合した他の素材を損なうこともほとんどなく、吸湿性も低く粉末状でも付着・固結防止性を有していることから、例えばプルラン、ヒドロキシエチルスターチ、ポリビニルピロリドン等の結合剤と併用して、錠剤として利用することもできる。更には、呈味改善、風味改良、浸透圧調節、賦形性、保湿性、粘性、固結防止、保香性、変色防止、安定性、他の糖の晶出防止、デンプン老化防止、蛋白質変性防止、脂質劣化防止等の性質をも具備していることから、これらの効果も期待できる。
【0049】
なお、上記ヘミセルロース及び/又はその部分分解物には、除去しきれなかった澱粉質、蛋白質、リグニン、セルロース、灰分等が含有されていてもよい。
【0050】
本発明のパイエル板形成誘導組成物は、必要に応じて、糖類(ショ糖、水飴、粉飴、ブドウ糖、果糖、マルトース、異性化糖、乳糖、蜂蜜、カップリングシュガー、フラクトシルオリゴ糖)、糖アルコール類(エリスリトール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、マンニトール、ラクチトール、還元キシロオリゴ糖、還元グルコースシラップ等)、高甘味度甘味料(アスパルテーム、アリテーム、サッカリン、グリチルリチン、ステビオシド、レバウディオシド、スクラロース、アセスルファムK等)、甘味料(グリシン、アラニン等)、増強剤(デキストリン、澱粉等)、呈味料、着色料、着香料、強化剤、乳化剤、酸化防止剤、紫外線防止剤、薬効成分等を併用することもできる。
【0051】
そして、本発明のパイエル板形成誘導組成物の有効摂取量は、成人一日当り、ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を、固形分換算で1〜10g摂取することが好ましく、3〜5gがより好ましい。
【0052】
本発明のパイエル板形成誘導組成物は、医薬品、飲食品、飼料又は餌料の原料として用いることができる。
【0053】
医薬品とする場合、その形態としては、液剤、散剤、錠剤、丸剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、ゼリー、チュアブル、ペースト等の剤型が例示できる。
【0054】
飲食品としては、(1)醤油、粉末醤油、味噌、粉末味噌、各種ふりかけ、マヨネーズ、ドレッシング、食酢、三杯酢、粉末すし酢、麺つゆ、ソース、ケチャップ、焼肉等のタレ、カレールウ、シチューの素、だしの素、各種複合調味料、みりん、新みりん、テーブルトップシュガー、コーヒーシュガー、中華の素、天つゆ等の各種調味料、(2)合成酒、造醸酒、清酒、果実酒、発泡酒、ビール等の酒類、(3)コーヒー、ココア、ジュース、炭酸飲料、乳酸飲料、乳清飲料、乳酸菌飲料等の清涼飲料、(4)煎餅、あられ、かりん糖、おこし、餅類、饅頭、求肥、餡類、羊羮、ゼリー、カステラ、飴玉、パン、パイ、クラッカー、ビスケット、プリン、ワッフル、バタークリーム、カスタードクリーム、シュークリーム、スポンジケーキ、ドーナツ、アイスクリーム、シャーベット等の各種飲食物、(5)フラワーペースト、ピーナッツペースト、フルーツペースト等のペースト類、(6)ジャム、マーマレード等の各種ジャム類、(7)福神漬、千枚漬、らっきょう漬等の漬物類、(8)ハム、ソーセージ、蒲鉾、ちくわ等の畜産練製品、水産練製品及びその原材料のすり身、各種珍味類、佃煮等に用いることができる。
【0055】
本発明のパイエル板形成誘導組成物を、上記のような飲食物等に含有させるには、その飲食物等の任意の製造工程において、例えば、混和、混捏、溶解、融解、浸漬、浸透、散布、被覆、噴霧、注入、晶出、固化、造粒等の公知の方法を適宜選択して行うことができる。
【0056】
そして、飲食品に対する添加量は、飲食品中にヘミセルロース及び/又はその部分分解物が固形分換算で0.1〜10質量%含有するように添加することが好ましい。この範囲内の添加量であれば、飲食品の食感を害することなくパイエル板の形成の増強が期待できる。
【0057】
また、飼料、餌料としては、家畜、家禽、ミツバチ、蚕、魚等の飼育動物ための飼料、餌料が挙げられる。また、その形態としては、粉体、ペレット、錠剤、練り餌、カプセル等が例示できる。また、乳幼児期の家畜、家禽への人工乳や代用乳へ添加して使用することもできる。このような飼料、餌料の原料として用いる場合、トウモロコシ、マイロ、大麦等の穀類、グルコース、デンプン、蛋白質(植物性、動物性)、アミノ酸類(リジン、スレオニン、トリプトファン等)、ビタミン類(ビタミンA、ビタミンB2、ビタミンB12、ビタミンE等)、ホルモン類、抗生物質等と混合して使用することができる。
【0058】
そして飼料、餌料に対する添加量としては、飼料、餌料中にヘミセルロース及び/又はその部分分解物が固形分換算で0.1〜10質量%含有するように添加することが好ましい。
【実施例】
【0059】
以下、本発明を実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら具体例に限定されるものではない。
【0060】
なお、以下の各試験例、製造例において、ヘミセルロース部分分解物としては、トウモロコシ外皮を原料として、前述した方法によって製造された「日食アラビノキシラン」(商品名、日本食品化工株式会社製)を用いた。このヘミセルロース部分分解物の分子量分布を図1に、構成糖の分析結果を表1にそれぞれ示す。
【0061】
【表1】

【0062】
(試験例1)
4週齢の雌マウス(C3H/Hej)18匹を、7日間の予備飼育を行った後、3群(1群6匹)に分け、試験群1には、上記ヘミセルロース部分分解物を蒸留水で溶解したものを、胃ゾンデを用いて21日間連続経口投与(1回当たり50mg/kg)した。試験群2には、同ヘミセルロース部分分解物を蒸留水で溶解したものを、胃ゾンデを用いて21日間連続経口投与(1回当たり150mg/kg)した。また、対照群には蒸留水を同様にして投与した。なお、試験期間中の摂餌及び摂水は自由とした。
試験期間中の各群の動物の一般症状は良好であり、途中、死亡又は切迫屠殺状況の動物は認められなかった。
21日間の試験終了後、供試されたマウスをネンブタール麻酔下において開腹した。剖検後、意幽門部、Treitz‘s靭帯、盲腸上部を結紮して摘出し、十二指腸、空腸および回腸までのパイエル板数の計測を行った。測定値は、平均値±標準偏差で表し、有意差検定はstudent’s t−testにより、p<0.05、p<0.01の危険率で有意差の有無を判定した。その結果を表2に示す。
【0063】
【表2】

【0064】
表2から分かるように、ヘミセルロース部分分解物を投与した試験群1、2は、パイエル板数が対照群と比較して有意に(p<0.05)増加しており、数値は用量の増加に応じて上昇する傾向が認められた。
【0065】
また、解剖時には脾臓も同時に摘出し、定法により浮遊細胞を調製した。10%FCS添加RPMI−1640培地で細胞数を調整し、24穴プレートに2×10/ml/ウェルになるよう1mlずつ分注後、ConAを終濃度5μg/cc/ウェルとなるように添加して37℃、5%COインキュベーター内で24時間培養した。培養後、上清を回収し、BIOSOURCE社のCytoscreenキット、およびプレートリーダーシステムを用いてIL−2、IL−4、IL−12、およびIFN−γの測定を行った。各測定値は、平均値±標準偏差で表し、有意差検定はstudent’s t−testにより、p<0.05、p<0.01の危険率で有意差の有無を判定した。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】

【0067】
表3より、ヘミセルロース部分分解物を投与した試験群1、2は、脾臓細胞のConA刺激に対するサイトカイン(IL−2、IL−4及びIFN−γ)産生能の用量依存的な上昇促進作用が示唆され、IL−2およびIL−4については対照群に対して有意な上昇(p<0.05)が認められた。
【0068】
(試験例2)
100日齢で平均体重60kgの肉豚(L×W)を7頭ずつ2群に分け、対照群には市販配合飼料のみを与え、これに対し試験群には市販配合飼料に上記ヘミセルロース部分分解物を豚の体重当たり0.5%添加して給餌して60日間飼育した。60日間の試験期間における飼料給与量、残飼料量、体重増加量から、両群の平均飼料摂取量、日増体重、1kg増体重に要する飼料要求量をそれぞれ算出した。その結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
ヘミセルロース部分分解物を市販配合飼料に添加した試験群において、飼料摂取量、日増体重、飼料要求量のいずれの項目においても対照群に比べ、良好な肥育成績であることが確認された。また、飼育期間における肉豚の健康状態は良好であり、特に試験群において糞便臭が低減される傾向が認められた。ヘミセルロース部分分解物を摂取することにより腸管免疫系が賦活化され、感染防御等に働いたことによる影響であると考える。
【0071】
(製造例1)[ビスケット]
ミキサーボールに表5の全材料を混合し、パン用フックでミキシング後、5℃の冷蔵庫内で寝かせ、生地を2mmの厚さに展延、4×4cm角に成形した。ヘミセルロース部分分解物を添加することにより、生地がやや硬めになるほかは、特に顕著な変化や問題は認められなかった。そして、この生地を165℃で15分間焙焼して、バードビスケットを得た。焼成後に得られたハードビスケットは、焼色が黄褐色で艶がよくなるとともに、内層がしまり気味となり、硬くなる傾向が認められた。嗜好性においては、口あたり、口どけ、甘味などで特に問題は見られず、風味については香ばしく、好ましい傾向にあった。
【0072】
【表5】

【0073】
(製造例2)[ゼリー]
表6に配合を示す。配合量の半分の水でグラニュー糖とヘミセルロース部分分解物を分散、過熱、沸騰させ、残りの水で膨潤させたゼラチンを加えて再沸騰させた。直ちに冷却し、オレンジジュースを加え、50℃になったら型に流して冷蔵庫内で冷やし固めた。ヘミセルロース部分分解物は分散溶解性がよく、特に製造上の問題は認められなかった。また、溶解後の透明度はよく、組織のゲル特性およびゲル強度にも特に顕著な変化や問題は見られなかった。また、嗜好性においても特に差は認められなかった。
【0074】
【表6】

【0075】
(製造例3)[果汁飲料]
オレンジ果汁1,000mlに、ヘミセルロース部分分解物10gを添加、溶解した。溶解性や透明性に特に問題はなく、コクのある味質の果汁飲料であった。
【0076】
(製造例4)[茶飲料]
烏龍茶1,000mlに、ヘミセルロース部分分解物10gを添加、溶解した。溶解性や透明性に特に問題はなく、通常の茶飲料と比べなんら違和感の無いものであった。
【図面の簡単な説明】
【0077】
【図1】本発明の実施例で用いたヘミセルロース部分分解物の分子量分布を示す図表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘミセルロース及び/又はその部分分解物を有効成分として含有することを特徴とするパイエル板形成誘導組成物。
【請求項2】
前記ヘミセルロースが、ヘミセルロース含有原料から得られたものである請求項1に記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項3】
前記ヘミセルロースが、穀物から得られたものである請求項2に記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項4】
前記ヘミセルロースが、トウモロコシから得られたものである請求項3に記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項5】
前記ヘミセルロースの部分分解物が、前記ヘミセルロースを、酵素処理、化学的処理、物理的処理から選ばれた1種以上の方法により処理して得られるものである請求項1〜4のいずれか一つに記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項6】
前記ヘミセルロース及び/又はその部分分解物が、アラビノース、キシロース、ガラクトース、グルコース及びグルクロン酸からなる群より選ばれた1種以上を構成糖として含有するものである請求項1〜5のいずれか1つに記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項7】
重量平均分子量が400〜1,000,000である請求項1〜6のいずれか一つに記載のパイエル板形成誘導組成物。
【請求項8】
医薬品、飲食品、飼料又は餌料の原料として用いられる請求項1〜7のいずれか一つに記載のパイエル板形成誘導組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2008−63299(P2008−63299A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−244969(P2006−244969)
【出願日】平成18年9月11日(2006.9.11)
【出願人】(000231453)日本食品化工株式会社 (68)
【Fターム(参考)】