説明

パラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸

【課題】ゴム等のマトリックスとの接着性に優れるとともに、強度の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸を提供する。
【解決手段】パラ型全芳香族ポリアミド繊維8からなる牽切加工糸7であって、前記ポリアミド繊維8中に特定量のカーボン微粒子を分散させ、かつ牽切加工糸7の強度保持率がパラ型全芳香族ポリアミド繊維8の強度に対し80%以上であるパラ型全芳香族ポリアミド繊維8。牽切加工前抱合圧を制御して単糸の絡まり量を増加させて牽切加工糸7を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸に関する。さらに詳しくは、ゴム等のマトリックスとの接着性に優れるとともに、強度の高いパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸に関する。
【背景技術】
【0002】
全芳香族系ポリアミド繊維に代表される高強度、高弾性率、高耐熱性といった特性を有する機能繊維は、ゴムをマトリックスとする複合体の補強材として産業用途に広く用いられている。しかしながら、このような機能繊維は、その繊維表面の平滑性およびポリマーの化学的な不活性さに起因して、ゴムとの接着性が低いものであり、その結果、機能繊維が有する破断強度から期待されるほどに十分に満足できる補強効果は得られていないのが実情であった。
【0003】
そこで、ゴムとの接着性を向上させる目的で、機能繊維を紡績糸または牽切加工糸とする方法が提案されている。紡績糸または牽切加工糸は、糸表面近傍に毛羽が存在するため、当該毛羽によるアンカー効果によってゴム等のマトリックスとの接着性が向上し、ひいては補強効果が向上することが期待できる。
【0004】
例えば、特許文献1には、連続糸条を引き千切り方式にて短繊維化し、平均単糸長が130〜600mmの繊維からなる抱合性が付与された全芳香族ポリアミド紡績糸様糸条が提案されている。また、特許文献2においては、平均単糸長を40〜90cmにすることで、紡績糸の原糸強度維持率を70%以上にし、補強繊維自体の破断強度を向上させる方法が提案されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1および2に記載された紡績糸や牽切加工糸は、いまだマトリックスとなるゴムとの界面で剥離が発生してしまい、紡績糸や牽切加工糸の破断強度から期待されるほどに十分な補強効果が得られるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭58−081637号公報
【特許文献2】国際公開第2005/103353号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術を背景になされたもので、その目的は、ゴム等のマトリックスとの接着性に優れるとともに、強度の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行なった。その結果、パラ型全芳香族ポリアミド繊維中に特定量のカーボン微粒子を分散させ、かつ牽切加工時の抱合圧を制御して単糸の絡まり量を増加させれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、パラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる牽切加工糸であって、前記パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維質量全体に対してカーボン微粒子を0.5〜7.0質量%含有し、牽切加工糸の強度保持率が牽切加工前パラ型芳香族ポリアミド繊維の強度に対して80%以上であるパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸である。
【発明の効果】
【0010】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、ゴム等のマトリックス中におけるアンカー効果が向上しているため、マトリックスとの表面剥離を低減することができる。また、牽切加工後の強度保持率が高く、強度に優れた牽切加工糸となる。したがって、本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、ゴム等のマトリックスに対する補強効果を、大幅に向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明に好ましく用いられる牽切加工装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
<カーボン微粒子含有パラ型全芳香族ポリアミド繊維>
本発明の牽切加工糸を構成するカーボン微粒子含有パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、パラ型全芳香族ポリアミドを主成分とするものである。繊維中に含まれるパラ型全芳香族ポリアミドは、繊維重量全体に対して、60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましく、93重量%以上であることが最も好ましい。
また、本発明においては、低静電気量で高い開繊性を有することから、牽切加工糸を構成するパラ型全芳香族ポリアミド繊維は、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド繊維とすることが好ましい。
【0013】
<カーボン微粒子含有パラ型全芳香族ポリアミド繊維の物性等>
[単糸繊度]
牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の単糸繊度は、2.2dtex以下であることが好ましい。さらに好ましくは1.7dtex以下である。単糸繊度が2.2dtexよりも大きい場合には、牽切加工糸の構成単糸本数が少なくなり、単糸どうしの絡み合いが減少するため、得られる牽切加工糸の強度およびゴム等のマトリックスとの界面剥離強度が低下するため好ましくない。
【0014】
[引張強度]
牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度は、18cN/dtex以上であることが好適である。18cN/dtex以下では、牽切加工後の強度が低く、ゴム等のマトリックス補強材としての効果が小さくなる。
【0015】
[その他]
本発明の牽切加工糸の原料となるパラ型全芳香族ポリアミド繊維には、必要に応じて油剤が付着していてもよい。油剤の付着量は0.05〜0.5質量%とすることが好ましく、かつ、水分含有率は7.0質量%以下とすることが好ましい。油剤付着量が0.05質量%未満の場合には、繊維に帯電している静電気による反発で、引き千切り加工の際にトウバラケにより断糸が多発し、安定に牽切加工することが困難となる。一方で、油剤付着量が0.5質量%を超える場合には、油剤による繊維収束効果によりトウが十分に開繊せず、牽切糸を構成する単糸長ばらつきが大きくなるという問題が発生する。水分含有率が7.0質量%を超える場合には、水分による繊維収束効果により、油剤付着量が0.5%を超えたときと同じような現象が現れ、均一な牽切加工を実施することが困難となる。
【0016】
<パラ型全芳香族ポリアミド>
本発明におけるパラ型全芳香族ポリアミドとは、1種または2種以上の2価の芳香族基が、パラ位にてアミド結合により直接連結されたポリマーである。芳香族基としては、2個の芳香環が、酸素、硫黄、または、アルキレン基を介して結合されたもの、あるいは、2個以上の芳香環が直接結合したものも含む。さらに、これらの2価の芳香族基には、メチル基やエチル基などの低級アルキル基、メトキシ基、クロル基等のハロゲン基等が含まれていてもよい。
【0017】
<パラ型全芳香族ポリアミドの製造方法>
本発明の牽切加工糸に用いられるパラ型全芳香族ポリアミドは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、アミド系極性溶媒中で、芳香族ジカルボン酸ジクロライド(以下「酸クロライド」ともいう)成分と芳香族ジアミン成分とを低温溶液重合、または界面重合などにより反応せしめることにより得ることができる。
【0018】
[パラ型全芳香族コポリアミドの原料]
(芳香族ジカルボン酸ジクロライド成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジカルボン酸クロライド成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、テレフタル酸クロライド、2−クロルテレフタル酸クロライド、2,5−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ジクロルテレフタル酸クロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸クロライドなどが挙げられる。また、これらの芳香族ジカルボン酸ジクロライドは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。これらのなかでは、汎用性や得られる繊維の機械的物性等の観点から、テレフタル酸ジクロライドが好ましい。なお、本発明においては、イソフタル酸クロライド等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0019】
(芳香族ジアミン成分)
パラ型全芳香族ポリアミドの製造において使用される芳香族ジアミン成分としては、特に限定されるものではなく、一般的に公知なものを用いることができる。例えば、p−フェニレンジアミン、2−クロル−p−フェニレンジアミン、2,5−ジクロル−p−フェニレンジアミン、2,6−ジクロル−p−フェニレンジアミン、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフォン、3,3’−ジアミノジフェニルスルフォンなどを挙げることができる。これらは、1種類のみならず2種類以上を用いることができ、その組成比は特に限定されるものではない。なお、本発明においては、m−フェニレンジアミン等、パラ位以外の結合を形成する少量の成分を用いてもよい。
【0020】
本発明の牽切加工糸の原料となる芳香族ジアミン成分としては、高温熱延伸時における安定性が高いこと、および高強力繊維が得られることから、p−フェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとの組み合わせが最も好ましい。パラフェニレンジアミンと3,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを組み合わせて用いる場合には、その組成比は特に限定されるものではないが、全芳香族ジアミン量に対して、それぞれ30〜70モル%、70〜30モル%とすることが好ましく、さらに好ましくは、それぞれ40〜60モル%、60〜40モル%、最も好ましくは、それぞれ45〜55モル%、55〜45モル%とする。
【0021】
[原料組成比]
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との比は、芳香族ジアミン成分に対する芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比として、0.90〜1.10の範囲とすることが好ましく、0.95〜1.05の範囲とすることがより好ましい。芳香族ジカルボン酸クロライド成分のモル比が0.90未満または1.10を超える場合には、芳香族ジアミン成分との反応が十分に進まず、高い重合度が得られないため好ましくない。
【0022】
[パラ型全芳香族ポリアミドの重合]
(重合条件)
芳香族ジカルボン酸クロライド成分と芳香族ジアミン成分との反応条件は、特に限定されるものではない。酸クロライドとジアミンとの反応は一般に急速であり、反応温度としては、例えば、−25℃〜100℃の範囲とすることが好ましく、−10℃〜80℃の範囲とすることがさらに好ましい。
【0023】
(重合溶媒)
パラ型全芳香族ポリアミドを重合する際の溶媒としては、例えば、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N−メチルカプロラクタムなどの有機極性アミド系溶媒、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどの水溶性エーテル化合物、メタノール、エタノール、エチレングリコールなどの水溶性アルコール系化合物、アセトン、メチルエチルケトンなどの水溶性ケトン系化合物、アセトニトリル、プロピオニトリルなどの水溶性ニトリル化合物などが挙げられる。これらの溶媒は、1種単独であっても、また、2種以上の混合溶媒として使用することも可能である。なお、上用いられる溶媒は、脱水されていることが望ましい。
【0024】
本発明に用いられるパラ型全芳香族コポリアミドの製造においては、汎用性、有害性、取り扱い性、パラ型全芳香族コポリアミドに対する溶解性等の観点から、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)を用いることが最も好ましい。
【0025】
(中和反応)
重合終了後には、必要に応じて、塩基性の無機化合物、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等を添加して、中和反応を実施することが好ましい。
【0026】
(重合後処理等)
重合して得られるパラ型全芳香族コポリアミドは、アルコール、水などの非溶媒に投入して沈殿せしめ、パルプ状にして取り出すことができる。取り出されたパラ型全芳香族コポリアミドを再度他の溶媒に溶解し、その後に繊維の成形に供することもできるが、重合反応によって得られたポリマー溶液を、そのまま紡糸用溶液(ドープ)に調整して用いることも可能である。一度取り出してから再度溶解させる際に用いる溶媒としては、パラ型全芳香族コポリアミドを溶解するものであれば特に限定されるものではないが、上記した重合に用いられる溶媒とすることが好ましい。
【0027】
<パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造方法>
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド繊維を製造する方法は、特に限定されるものではないが、湿式紡糸法または半乾半湿式紡糸法を採用し、例えば以下の方法が挙げられる。
【0028】
[紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整工程]
繊維の製造にあたっては、先ず、パラ型全芳香族ポリアミド、カーボン微粒子、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する。
パラ型全芳香族ポリアミド、カーボン微粒子、および溶媒を含む均一な紡糸用溶液(ポリマードープ)を調整する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、パラ型全芳香族ポリアミド溶液と、カーボン微粒子分散液とを混合する方法が挙げられる。ここで、パラ型全芳香族ポリアミド溶液とカーボン微粒子分散液に用いられる溶媒としては、上記したパラ型全芳香族ポリアミドの重合に用いられる溶媒を使用することができる。また、用いられる溶媒は、1種単独であっても2種以上を併用してもよい。パラ型全芳香族ポリアミドの製造によって得られたポリマー溶液から当該ポリマーを単離することなく、そのまま用いることも可能である。なお、紡糸上、パラ型全芳香族ポリアミド溶液とカーボン微粒子の分散に用いられる溶媒は、同一であることが好ましい。
【0029】
本発明の繊維を得るための紡糸用溶液(ポリマードープ)の調整にあたっては、添加するカーボン微粒子の凝集を抑制する必要がある。カーボン微粒子の凝集を抑制する方法としては特に限定されるものではないが、カーボン微粒子分散液を一定の圧力で注入し、ダイナミックミキシングおよび/またはスタティックミキシングする方法が好ましい。さらには、添加するカーボン微粒子分散液に、あらかじめパラ型全芳香族ポリアミド溶液を少量添加しておくことが効果的である。具体的には、カーボン微粒子100質量部に対して、好ましくはパラ型全芳香族ポリアミドを1.0〜5.0質量部含有するカーボン微粒子分散液を作成し、このカーボン微粒子分散液とパラ型全芳香族ポリアミド溶液とを混合する。パラ型全芳香族ポリアミドがカーボン微粒子100質量部に対して1.0質量部未満の場合には、カーボン微粒子の凝集を抑制することが困難となる。一方、パラ型全芳香族ポリアミドがカーボン微粒子100質量部に対して5.0質量部を超えると、カーボン微粒子分散液の粘度が高くなるため、配管輸送を必要とするプロセスで取り扱いが困難となる。
【0030】
紡糸用溶液(ポリマードープ)の固形分濃度(パラ型全芳香族ポリアミドおよびカーボン微粒子の合計濃度)は、1〜20質量%とすることが好ましく、3〜15質量%程度とすることがさらに好ましい。固形分濃度が1質量%未満では、ポリマーの絡み合いが少なく紡糸に必要な粘度が得られない。一方で、固形分濃度が20質量%を超える場合には、ノズルから吐出する際に流動が不安定になりやすく、安定的に紡糸することが困難となる。
【0031】
なお、本発明においては、繊維に機能性等を付与する目的で、物性を損なわない範囲で、カーボン微粒子以外に添加剤等のその他の任意成分を配合してもよい。添加剤等を配合する場合には、ドープの調整において導入することができる。導入の方法は特に限定されるものではなく、例えば、ドープに対して、ルーダーやミキサ等を使用して導入する方法が挙げられる。
【0032】
〔カーボン微粒子〕
(配合量)
本発明の牽切加工糸に用いられるパラ型全芳香族ポリアミド繊維中に含まれるカーボン微粒子は、繊維質量全体に対して、0.5〜7.0質量%の範囲である。カーボン微粒子の配合量が0.5質量%未満の場合には、繊維表面に存在するカーボン量が少ないためゴム等のマトリックスとの親和性の向上が見られにくくなり、また、7.0質量%を超える場合には、パラ型全芳香族ポリアミド繊維本来の強度が得られにくくなる。カーボン微粒子の配合量は、繊維質量全体に対して、0.7〜5.0質量%の範囲とすることが好ましく、1.0〜3.0質量%の範囲とすることが特に好ましい。
【0033】
(平均粒径)
本発明に用いられるカーボン微粒子の平均粒径は、5〜50μmであることが好ましい。平均粒子径が5μm未満の場合には、牽切加工時のカーボン粒子飛散量が増加し、得られる牽切加工糸表面に存在するカーボン量が減少するため、目的とする接着性が得られない。また、平均粒子径が50μmを超える場合には、繊維中への均一分散が困難となるためパラ型全芳香族ポリアミド繊維の引張強度が低下する。
【0034】
[紡糸・凝固工程]
本発明の牽切加工糸に用いられる繊維の製造においては、上述の如く調整された紡糸用溶液(ドープ)を用いて、湿式紡糸法またはエアギャップを設けた半乾半湿式紡糸法によって繊維を成形する。すなわち、先ず、上記で得られた紡糸用溶液(ドープ)をノズルから吐出し、続いて、凝固浴中の凝固液に接触させて凝固糸を形成する。
凝固浴としては、パラ型全芳香族ポリアミドの貧溶媒が用いられるが、紡糸用溶液(ポリマードープ)の溶媒が急速に抜け出して、得られる全芳香族ポリアミド凝固糸に欠陥ができないように、通常は良溶媒を添加して凝固速度を調節する。貧溶媒としては水、良溶媒としてはパラ型全芳香族ポリアミドドープ用の溶媒を用いるのことが好ましい。良溶媒/貧溶媒の質量比は、パラ型全芳香族ポリアミドの溶解性や凝固性にもよるが、15/85〜40/60の範囲とすることが好ましい。
【0035】
[その他の工程]
凝固液から凝固糸条を引き上げた後は、公知の方法によって、最終的な芳香族ポリアミド繊維を得ることができる。例えば、水洗工程を実施して形成された未延伸糸から溶媒を除去し、必要に応じて延伸を実施し、乾燥工程等を経た後に必要に応じて延伸することにより配向させ、最終的な繊維を得ることができる。
【0036】
[延伸工程]
本発明の繊維は、延伸配向されていることが好ましい。延伸の方法としては特に限定されるものではなく、凝固糸状態での水洗延伸、沸水延伸のみならず、乾燥糸状態での加熱延伸等、いずれでもよい。また、延伸倍率については特に制限はないが、5倍以上であることが好ましく、8倍以上であることがさらに好ましい。延伸倍率を制御することにより、得られる芳香族ポリアミド繊維の伸度および強度を制御することができる。
熱延伸を実施する場合には、その温度は、全芳香族ポリアミドのポリマー骨格にもよるが、好ましくは300〜600℃、さらに好ましくは350〜550℃とし、また、延伸倍率は好ましくは10倍以上、さらに好ましくは10〜15倍とする。
【0037】
<牽切加工糸の製造方法>
本発明の牽切加工糸を得るための方法は、特に限定されるものではなく、公知の方法を採用することができる。例えば、特許文献1もしくは特許文献2に記載された方法を採用することができる。
しかしながら、本発明においては、牽切加工時の抱合圧を制御することが必須である。適切な抱合圧の範囲とすることにより単糸の絡まり量を増加させ、その結果、牽切加工前後の強度保持率を80%以上とすることが可能となる。
【0038】
[牽切工程]
牽切工程においては、特定量のカーボン微粒子が分散したパラ型全芳香族ポリアミド長繊維束を開繊し、ニップされたフィードローラーとニップされた引き取りローラー間の速度差により、当該長繊維束を引き千切る操作を実施して、短繊維束を作製する。
【0039】
(牽切長)
牽切工程における牽切長は、1.2〜2.0mの範囲とすることが好ましい。牽切長が1.2m未満であれば、抱合工程における単糸同士の絡まりが少なくなり、強度の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸が得られない。また2.0mを超える場合には、単糸同士の絡まりが多くなり、抱合工程における抱合ノズル内で糸絡まりの集合体が生成され、ノズルを通過できなくなる。
【0040】
(牽切倍率)
牽切工程における牽切倍率は8.0〜16.0倍の範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、切断される単糸の長さが均一となり、最終的に得られる全芳香族ポリアミド牽切加工糸の強度バラツキを低減し、強度の高い牽切加工糸を得ることができる。
【0041】
(牽切速度)
牽切工程における牽切速度は特に限定されるものではないが、200〜500m/分とすることが好ましい。牽切速度が200m/分未満の場合には、単糸同士の絡まりにムラが発生するため強度バラツキが増加し、その結果、得られる牽切加工糸の強度が低下する。また、牽切速度が500m/分を超える場合には、抱合工程における抱合ノズルでの単糸絡まり量が低下し、ゴム等のマトリックスとの接着性が低下するとともに、得られる牽切加工糸の強度が低下する。
【0042】
[抱合工程]
抱合工程においては、牽切工程によって作製された短繊維束を、旋回流を発生させる抱合ノズルを通過させて抱合処理する。
【0043】
(抱合圧)
抱合工程において付加する抱合圧は、0.2〜0.5MPaの範囲とすることが好ましい。この範囲であれば、単糸の絡まり量が増加した牽切加工糸を得ることができ、本発明の目的であるゴム等のマトリックスとの接着性に優れるとともに、強度の高い全芳香族ポリアミド牽切加工糸を得ることができる。
【0044】
<牽切加工糸の物性>
(強度保持率)
本発明の牽切加工糸の強度保持率は、牽切加工前パラ型芳香族ポリアミド繊維の強度に対して80%以上である。80%以上であれば、各種ゴムの補強用繊維として使用が可能となる。80%以上であることが好ましく、82%以上であることが最も好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例および比較例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、これらに何等限定されるものではない。
【0046】
<測定・評価方法>
実施例および比較例における各特性値は、下記の方法で測定・評価した。
(1)繊度
JIS−L−1015に準じ、測定した。
(2)破断強度
得られた牽切加工糸および牽切加工前の全芳香族ポリアミド繊維につき、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565)を用いて、ASTM D885に準拠して、以下の条件にて測定を実施した。
[測定条件]
温度 :室温
測定試料長 :750mm
引張速度 :250mm/min
チャック間距離 :500mm
(3)ゴム剥離強度
25本の牽切加工糸をNBRゴム(ニトリルゴム)に埋設し、150℃で40分加硫してゴムシートを得た。続いて、ゴムシート面に対して90度の方向へ牽切加工糸を剥離し、このときの剥離強度を、引張試験機(INSTRON社製、商品名:INSTRON、型式:5565)を用いて、以下の条件で測定した。
[測定条件]
測定温度 :室温
引張速度 :300mm/min
【0047】
<実施例1>
[カーボン微粒子含有パラ型全芳香族ポリアミド繊維の製造]
(カーボン微粒子分散液の調製)
カーボン微粒子を、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)中に濃度10質量%となるように、ビーズミル(淺田鉄工(株)製、Nano Grain Mill)を用いて分散させた。このとき、メディアとして、0.3mmのジルコニアビーズを使用した。
【0048】
(紡糸用溶液(ポリマードープ)の調製)
得られたカーボン微粒子分散液を、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミド(98%濃度の濃硫酸中、ポリマー濃度0.5g/dlの溶液について30℃で測定した固有粘度(IV):3.4)の濃度6質量%のNMP溶液中に注入し、ダイナミックミキシングまたは、スタティックミキシングにより、紡糸用溶液(ポリマードープ)を得た。このとき、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対するカーボン微粒子の配合量は、5質量%となるようにした。
【0049】
(製糸)
得られた紡糸用溶液(ポリマードープ)を用い、孔数1000ホールの紡糸口金から吐出し、エアギャップ約10mmを介してNMP濃度30質量%の水溶液中に紡出して凝固させた後(半乾半湿式紡糸法)、水洗、乾燥し、次いで、温度530℃下で10倍に延伸した後巻き取ることにより、カーボン微粒子が分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得た。得られた繊維の物性等を表1に示す。
【0050】
[牽切加工]
(牽切処理)
図1に示す装置を用いて、上記で得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維束3本を引き揃え、ローラ間の距離(牽切長)を150cmとし、供給ニップローラ1とシュータ2と牽切ニップローラ3との間で、約11.4倍の牽切倍率で、400m/minの速度で同時に引き千切り、細い短繊維束とした。
【0051】
(抱合処理)
続けて、吸引性空気ノズル4と旋回流を有する旋回性抱合ノズル5(圧空圧:0.4MPa)とに、牽切ニップローラ3とデリベリローラ6との速度比100:99.5で通して絡みを付与すると共に、短繊維の毛羽をランダムに巻きつけ、牽切加工糸条7を得た。
得られた牽切加工糸の繊度、引張強度および強度保持率、ゴム剥離強度を、表1に示す
【0052】
<実施例2>
旋回抱合ノズル5の圧空圧を0.25MPaとした以外は、実施例1と同様にして牽切加工糸を得た。得られた牽切加工糸の物性等を表1に示す。
【0053】
<実施例3>
紡糸用溶液(ポリマードープ)の調製にあたり、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対するカーボン微粒子の配合量を1.5質量%とした以外は、実施例1と同様にしてカーボン微粒子が分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得て、得られた繊維を用いて牽切加工糸を作製した。得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維および牽切加工糸の物性等を、表1に示す。
【0054】
<実施例4>
紡糸用溶液(ポリマードープ)の調製にあたり、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドに対するカーボン微粒子の配合量を0.75質量%とした以外は、実施例1と同様にしてカーボン微粒子が分散したパラ型全芳香族ポリアミド繊維を得て、得られた繊維を用いて牽切加工糸を作製した。得られたパラ型全芳香族ポリアミド繊維および牽切加工糸の物性等を、表1に示す。
【0055】
<比較例1>
図1に示す装置を用いて、単糸繊度1.67dtex、全繊度1670dtex、強度24.6cN/dtex、油剤付着量0.24%のカーボン微粒子を含有しないパラ型全芳香族ポリアミド繊維束3本を引き揃え、ローラ間の距離(牽切長)を150cmとして、供給ニップローラ1とシュータ2と牽切ニップローラ3との間で、約11.4倍の牽切倍率で、400m/minの速度で同時に引き千切り、細い短繊維束とした。
続けて吸引性空気ノズル4と旋回流を有する旋回性抱合ノズル5(圧空圧:0.3MPa)とに、牽切ニップローラ3とデリベリローラ6との速度比100:99.5で通して絡みを付与すると共に、短繊維の毛羽をランダムに巻きつけ、442dtexの牽切加工糸条7を得た。得られた牽切加工糸の物性等を、表1に示す。
【0056】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、ゴム等のマトリックス中におけるアンカー効果に優れるとともに、牽切加工後の強度に優れた糸となる。このため、本発明のカーボン微粒子含有パラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸は、補強材として非常に有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 供給ニップローラ
2 シュータ
3 牽切ニップローラ
4 吸引性空気ノズル
5 旋回性抱合ノズル
6 デリベリローラ
7 巻取牽切加工糸
8 パラ型全芳香族ポリアミド繊維

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラ型全芳香族ポリアミド繊維からなる牽切加工糸であって、
前記パラ型全芳香族ポリアミド繊維は、繊維質量全体に対してカーボン微粒子を0.5〜7.0質量%含有し、
牽切加工糸の強度保持率が牽切加工前パラ型芳香族ポリアミド繊維の強度に対して80%以上であるパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸。
【請求項2】
前記カーボン微粒子の平均粒子径が、5〜50μmである請求項1記載のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸。
【請求項3】
前記パラ型全芳香族ポリアミド繊維が、コポリパラフェニレン・3,4’−オキシジフェニレンテレフタラミド繊維である請求項1または2記載のパラ型全芳香族ポリアミド牽切加工糸。

【図1】
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【公開番号】特開2012−251261(P2012−251261A)
【公開日】平成24年12月20日(2012.12.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−124519(P2011−124519)
【出願日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】