パルスファイバレーザ
【課題】少なくとも励起レーザ電流制御回路の遅延時間および時定数に起因する光パルスのオーバーシュートを抑えて、入力パルス波形に対応した光パルスを出力すること。
【解決手段】入力パルス波形に対応した励起レーザ電流SCを励起レーザ4に入力し、励起光をファイバレーザ共振器5に入力して光パルスSDを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、励起レーザ4に励起レーザ電流SCを供給するACC回路3と、光パルスSDの強度を検出する出力光検出器7と、入力パルス波形が入力されてから光パルスが出力開始されるまでの遅延時間(t1+t2)に対応した所定の期間R1内は、励起レーザ4に所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、光パルスSDの強度に基づいて励起レーザ電流SCを調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部2と、を備える。
【解決手段】入力パルス波形に対応した励起レーザ電流SCを励起レーザ4に入力し、励起光をファイバレーザ共振器5に入力して光パルスSDを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、励起レーザ4に励起レーザ電流SCを供給するACC回路3と、光パルスSDの強度を検出する出力光検出器7と、入力パルス波形が入力されてから光パルスが出力開始されるまでの遅延時間(t1+t2)に対応した所定の期間R1内は、励起レーザ4に所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、光パルスSDの強度に基づいて励起レーザ電流SCを調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部2と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、はんだ付けなどの金属加工やマーキング、ディスプレイ光源、各種分析装置用光源としてパルスファイバレーザが用いられている。このパルスファイバレーザは、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するものである。
【0003】
ここで、パルスファイバレーザは、急峻な励起レーザ光入力によって、反転分布や誘導放出が急激に増加することから、ファイバレーザ共振器から出力する光パルスは立ち上がり時にオーバーシュートが発生していた。そこで、特許文献1では、ファイバレーザ共振器からの出力光がレーザ加工に影響しない程度の前置レベルまで立ち上げた後に、所望の出力レベルまで立ち上がるように、ファイバレーザ共振器からの出力光をフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−297777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1によるファイバレーザ共振器からの出力光のフィードバック制御は、励起レーザ電流に対するファイバレーザ共振器内の反転分布や誘導放出に起因する増幅制御に対応するのみで、入力パルスに対する励起レーザ電流制御回路の遅延時間や時定数などを考慮していないため、励起レーザ電流制御回路の制御性能によっては、出力光がオーバーシュートしてしまう場合があった。特に、立ち上がり時間が数十μ秒程度の光パルス出力を行うパルスファイバレーザでは、オーバーシュートが発生してしまう場合が多かった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少なくとも励起レーザ電流制御回路の遅延時間や時定数に起因する出力パルスのオーバーシュートを抑えて、入力パルス波形に対応した光パルスを出力することができるパルスファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるパルスファイバレーザは、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、前記励起レーザに前記励起レーザ電流を供給する電流供給部と、前記入力パルス波形が入力されてから前記光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、前記励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記励起レーザに供給される励起レーザ電流あるいは前記励起レーザが出力する励起レーザ光を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記所定の期間内において前記フィードバック制御に加えて前記励起レーザ電流あるいは前記励起レーザ光をフィードバックして前記励起レーザ電流を制御することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、予め求められた前記光パルスの強度と前記励起レーザ電流との相関関係を保持する保持部を備え、前記制御部は、前記保持部に保持された相関関係をもとに、前記光パルスの強度がオーバーシュートしないように前記所定の期間内で前記フィードフォワード制御を行うことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記電流供給部への電流指示値の立ち上がり時の制御定数を小さくするフィードフォワード制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記励起レーザ電流の目標値となるまで制御定数を小さくし、および/または制御周期を大きくすることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、光パルス出力がオフのときに、前記励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流を前記電流供給部から出力する制御を行うことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記所定の期間をタイマで計時して、前記光パルスのフィードバック制御に切り換えることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記保持部は、前記相関関係をテーブルまたは関数で保持し、更新可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、制御部が、入力パルス波形が入力されてから光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行うようにしているので、少なくとも励起レーザ電流制御回路である電流供給部の遅延時間や時定数に起因する出力パルスのオーバーシュートを抑えて、入力パルス波形に対応した光パルスを出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示したパルスファイバレーザの制御処理を示すタイムチャートである。
【図3】図3は、図2においてACC回路の時定数が小さい場合の動作を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、図2においてACC回路の時定数が小さい場合の制御処理を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、この発明の実施の形態2にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図6】図6は、図5に示したパルスファイバレーザの制御処理を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、この発明の実施の形態2の変形例にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図8】図8は、図5においてACC回路の時定数が小さい場合の動作を示すタイムチャートである。
【図9】図9は、図5においてACC回路の時定数が小さい場合の制御処理を示すタイムチャートである。
【図10】図10は、図9においてACC回路の立ち上がりを速くした制御処理を示すライムチャートである。
【図11】図11は、従来のパルスファイバレーザによる動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。このパルスファイバレーザは、保持部1、制御部2、ACC(Auto Current Control)回路3、励起レーザ4、ファイバレーザ共振器5、および出力光検出器7を有する。なお、ファイバレーザ共振器5は、全反射ミラー5aと出力ミラー5cとの間に、Yb添加ファイバ5bが接続され、励起レーザ4の前方励起によって1μm帯のレーザ光を増幅して出力する。
【0019】
入力端T1から制御部2に入力パルスSAが入力されると、制御部2は、ACC回路3に励起レーザ電流の指示値SBを出力する。このとき、ACC回路3は、10μs以上の時定数τを持たせておく。これにより、指示値SBに対応して、時定数τが与えられた励起レーザ電流SCを励起レーザ4に出力する。励起レーザ4は、励起レーザ電流SCに対応した励起レーザ光をファイバレーザ共振器5に出力する。ファイバレーザ共振器5は、入力された励起レーザ光によって増幅媒体(Yb)が励起されて1μm帯の光パルスSDを出力端T2に出力する。また、出力光検出器7は、カプラ6を介して光パルスSDの一部を分岐し、光パルスSDの強度を検出し、この検出結果を制御部2に入力する。なお、ACC回路3は、指示値SBが入力されてから励起レーザ電流SCを出力するまで、内部のFETやオペアンプの動作閾値のために、図2に示すように時間t1の遅延が生じる。また、ファイバレーザ共振器5は、励起レーザ4から励起レーザ光が入力されてから発振閾値に達するまで、図2に示すように時間t2の遅延が生じる。
【0020】
ここで、出力光検出器7によって検出された光パルスの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係を予め求めておき、この相関関係を保持部1に保持しておく。この相関関係を求める場合、LD電流モニタ10が用いられ、LD電流モニタ10は、励起レーザ4に入力される励起レーザ電流SCを検出して制御部2に入力する。
【0021】
この相関関係は、図2(d)に示すように、光パルスSDの強度がオーバーシュートすることなく、入力パルスSA毎に、目標値Pmに達するように、指示値SBと励起レーザ電流SCとの関係(図2(b),(c))が保持部1に保持されている。
【0022】
出力光検出器7によって検出された光パルスの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係は、励起レーザや出力光検出器の経年劣化によって変化する。そのため、入力パルスSA毎に、光パルスが目標値Pmに達している時の指示値SBと励起電流SCを記録し、保持部1に保持されている指示値SBと励起レーザ電流SCとの関係を制御部2によって更新する。
【0023】
ここで、図2に示すタイミングチャートをもとに制御部2による光パルス制御について説明する。まず、制御部2は、時点T1で入力パルスSAが入力されると(図2(a))、時点T1で、この入力パルスSAに対応する保持部1の指示値SBの波形をもとに、指示値SBの上限値SBmax未満の一定値をACC回路3に出力する(図2(b))。
【0024】
ACC回路3は、時点T1で指示値SBが入力されると、遅延時間t1後、時点T2で励起レーザ電流SCを出力する(図2(c))。ただし、ACC回路3は、回路の時定数τをもっており、この時定数τで、励起レーザ電流SCの目標値Imまで立ち上がる。
【0025】
励起レーザ4は、励起レーザ電流SCの入力によって直ちに励起レーザ光をファイバレーザ共振器5に出力するが、ファイバレーザ共振器5の発振閾値に達するまでの遅延時間t2後に光パルスSDが立ち上がる(図2(d))。ここで、上述したように、励起レーザ電流SCは、光パルスSDの立ち上がりにオーバーシュートが生じないような立ち上がりとなっている。
【0026】
この光パルスSDが目標値Pmまで立ち上がった時点T4までは、上述したフィードフォワード制御を行うが、この時点T4以降、制御部2は、出力光検出器7がモニタした光パルスの強度をもとに、光パルスの強度が目標値Pmとなるようにフィードバック制御を行う。すなわち、図2に示した領域R1では、フィードフォワード制御を行い、領域R2では光パルスをフィードバックしたパワーフィードバック制御を行う。なお、領域R1に相当する期間は、ACC回路3の遅延時間(t1+t2)に対応して決定され、光パルス出力のオーバーシュートが生じない所定の期間であり、上述したフィードフォワード制御は、この所定の期間内で行われる。そして、この所定の期間が終了する時点T4からフィードバック制御が行われる。
【0027】
これにより、光パルスSDは、オーバーシュートすることなく、入力パルスSAに対応したパルスとなる。この結果、加工物の品質劣化や加工性の低下を防止することができる。また、ディスプレイ光源に適用する場合には、安定した輝度を得ることができる。しかも、予め適切な指示値SBと励起レーザ電流SCとの波形で制御しているため、入力パルスSAの入力から光パルスSDの立ち上がり開始までの遅延時間(t1+t2)も短くでき、光パルスSDの立ち上がり時間t3も短くすることができる。この結果、数十μ秒程度の立ち上がり時間を維持した光パルスを得ることができる。
【0028】
なお、図11は、入力パルスSAが入力された時点からパワーフィードバック制御を行った場合を示しているが、この場合、少なくとも時点T3まで光パルスSDがフィードバックされていないため、指示値SBは上限値SBmaxとなり、遅延時間t1後、励起レーザ電流SCが急激な立ち上がりとなり、結果的に光パルスSDはオーバーシュートしてしまっている。
【0029】
ところで、ACC回路3の時定数τが小さい場合、図3(c)に示すように、励起レーザ電流SCは急激に立ち上がってしまう。この結果、この励起レーザSCに対応した励起レーザ光がファイバレーザ共振器5に急激に入力され、ファイバレーザ共振器5内で反転分布や誘導放出が急激に増加して大きなオーバーシュートを生起した光パルスとなる。
【0030】
このため、この実施の形態1では、図4に示すように、ACC回路3の時定数τが小さい場合、指示値SBが徐々に大きくなるように制御する。これにより、励起レーザ電流SCは時点T2後急激に立ち上がるものの、指示値SBが小さいため、その後緩やかに立ち上がるため、図2と同様に、光パルスSDはオーバーシュートすることなく、目標値Pmに到達する。なお、制御部2は、PI制御あるいはPID制御を行っており、これらの制御定数を小さくすることによって、上述した指示値SBを徐々に大きくすることができる。すなわち、比例ゲイン、積分定数、微分定数などの制御定数を小さくする。
【0031】
(実施の形態2)
上述した実施の形態1では、時点T4までフィードフォワード制御を行っていたが、この実施の形態2では、このフィードフォワード制御に、励起レーザ電流SCあるいは励起レーザ光のフィードバック制御をさらに加えるようにしている。
【0032】
図5は、この発明の実施の形態2にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。このパルスファイバレーザは、実施の形態1のパルスファイバレーザに、LD電流モニタ10を設け、制御部2がこのLD電流モニタ10がモニタした励起レーザ電流SCの電流値を時点T4までフィードバック制御を行う。なお、保持部1には、光パルスSDの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係が保持されている。すなわち、励起レーザ電流SCの目標値Imが保持されている。
【0033】
図6は、図5に示したパルスファイバレーザの光パルス制御を示すタイミングチャートである。図6において、入力パルスSAが入力された時点T1後、制御部2は、励起レーザ電流SCをモニタしているが、時点T1後は検出されないため、指示値SBは、上限値SBmaxまで立ち上がる(図6(b))。しかし、制御部2は、時点T2からは励起レーザ電流SCを検出するため、時点T3近傍で励起レーザ電流SCが目標値Imに近づくため、この時点T3以降は指示値SBが小さくなる。この結果、励起レーザ電流SCは、大きなオーバーシュートをすることなく、目標値Imに収束する。これにより、光パルスSDは、オーバーシュートすることなく、時点T4で目標値Pmに達する。
【0034】
この実施の形態2では、領域R1で励起レーザ電流SCによるフィードバック制御をさらに行い、領域R2で光パルスSDによるフィードバック制御を行うようにしているので、オーバーシュートのない光パルスを出力することができる。
【0035】
図5では、領域R1で励起レーザ電流SCによるフィードバック制御を加えるようにしているが、これに限らず、領域R1で励起レーザ光によるフィードバック制御を加えるようにしてもよい。すなわち、図7に示すように、LD電流モニタ10に替えて、カプラ11aを介して励起レーザ光をモニタするLD光モニタ11を設け、このLD光モニタ11が検出した励起レーザ光を制御部2にフィードバックする。この場合も、励起レーザ電流SCのフィードバック制御と同様な制御が行われる。なお、保持部1には、光パルスSDの強度と励起レーザ光との相関関係が保持されている。すなわち、励起レーザ光の目標値が保持されている。
【0036】
光パルスSDの強度と励起レーザ光との相関関係は、ファイバレーザ共振器や出力光検出器の経年劣化によって変化する。そのため、入力パルスSA毎に、光パルスが目標値Pmに達している時の励起レーザ光と光パルスSDの強度を記録し、保持されている光パルスSDの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係を制御部2によって更新する。
【0037】
ところで、ACC回路3の時定数τが小さい場合、図8(c)に示すように、励起レーザ電流SCは急激に立ち上がってしまう。この結果、この励起レーザSCに対応した励起レーザ光がファイバレーザ共振器5に急激に入力され、ファイバレーザ共振器5内で反転分布や誘導放出が急激に増加して大きなオーバーシュートを生起した光パルスとなる。
【0038】
このため、この実施の形態2では、図9に示すように、ACC回路3の時定数τが小さい場合、指示値SBが徐々に大きくなるように制御する。これにより、励起レーザ電流SCは時点T2後急激に立ち上がるものの、指示値SBが小さいため、その後緩やかに立ち上がるため、図2と同様に、光パルスSDはオーバーシュートすることなく、目標値Pmに到達する。なお、制御部2は、PI制御あるいはPID制御を行っており、これらの制御定数を小さくすることによって、上述した指示値SBを徐々に大きくすることができる。すなわち、比例ゲイン、積分定数、微分定数などの制御定数を小さくする。あるいは、制御部2は、フィードバック制御の制御周期を長くするようにしてもよい。
【0039】
ここで、図9に示した期間t1の初期では、制御値SBの値が小さいため、励起レーザ電流SCの立ち上がりが遅くなり、期間t1が長くなってしまう。これは、ACC回路3内のFETやオペアンプのオン閾値に達していないからである。このため、図10に示すように、光パルス出力がオフのときに、励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流をACC回路3から励起レーザ4に出力しておく制御を行い、ACC回路3の立ち上がりを速くする。これにより、期間t1が短くなり、入力パルスSAの立ち上がりから光パルスSDの目標値への立ち上がりまでの時間を短くすることができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態1,2では、領域R1から領域R2への切り替えを光パルスの強度が目標値に達した時点として説明したが、これに限らず、制御部2がタイマを有し、予め決定された、入力パルスSAが入力された時点T1から光パルスの強度が目標値Pmに達して時点T4までをタイマで計時して切り替えるようにしてもよい。
【0041】
また、上述した実施の形態1,2では、時点T4で、フィードフォワード制御、または励起レーザ電流あるいは励起レーザ光のフィードバック制御を含むフィードフォワード制御から、光パルス出力のフィードバック制御に切り替えているが、この切り替え時点は、時点T4に限らず、時点T4の前後であってもよい。すなわち、領域R1に相当する所定の期間は、短くても長くてもよい。要は、光パルス出力のオーバーシュートが生じないように所定の期間内でフィードフォワード制御を行えばよい。
【符号の説明】
【0042】
1 保持部
2 制御部
3 ACC回路
4 励起レーザ
5 ファイバレーザ共振器
5a 全反射ミラー
5b 出力ミラー
6,11a カプラ
7 出力光検出器
10 LD電流モニタ
11 LD光モニタ
T1 入力端
T2 出力端
SA 入力パルス
SB 指示値
SC 励起レーザ電流
SD 光パルス
R1 領域(所定の期間)
【技術分野】
【0001】
この発明は、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、はんだ付けなどの金属加工やマーキング、ディスプレイ光源、各種分析装置用光源としてパルスファイバレーザが用いられている。このパルスファイバレーザは、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するものである。
【0003】
ここで、パルスファイバレーザは、急峻な励起レーザ光入力によって、反転分布や誘導放出が急激に増加することから、ファイバレーザ共振器から出力する光パルスは立ち上がり時にオーバーシュートが発生していた。そこで、特許文献1では、ファイバレーザ共振器からの出力光がレーザ加工に影響しない程度の前置レベルまで立ち上げた後に、所望の出力レベルまで立ち上がるように、ファイバレーザ共振器からの出力光をフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−297777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1によるファイバレーザ共振器からの出力光のフィードバック制御は、励起レーザ電流に対するファイバレーザ共振器内の反転分布や誘導放出に起因する増幅制御に対応するのみで、入力パルスに対する励起レーザ電流制御回路の遅延時間や時定数などを考慮していないため、励起レーザ電流制御回路の制御性能によっては、出力光がオーバーシュートしてしまう場合があった。特に、立ち上がり時間が数十μ秒程度の光パルス出力を行うパルスファイバレーザでは、オーバーシュートが発生してしまう場合が多かった。
【0006】
この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、少なくとも励起レーザ電流制御回路の遅延時間や時定数に起因する出力パルスのオーバーシュートを抑えて、入力パルス波形に対応した光パルスを出力することができるパルスファイバレーザを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、この発明にかかるパルスファイバレーザは、入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、前記励起レーザに前記励起レーザ電流を供給する電流供給部と、前記入力パルス波形が入力されてから前記光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、前記励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部と、を備えたことを特徴とする。
【0008】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記励起レーザに供給される励起レーザ電流あるいは前記励起レーザが出力する励起レーザ光を検出する検出部を備え、前記制御部は、前記所定の期間内において前記フィードバック制御に加えて前記励起レーザ電流あるいは前記励起レーザ光をフィードバックして前記励起レーザ電流を制御することを特徴とする。
【0009】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、予め求められた前記光パルスの強度と前記励起レーザ電流との相関関係を保持する保持部を備え、前記制御部は、前記保持部に保持された相関関係をもとに、前記光パルスの強度がオーバーシュートしないように前記所定の期間内で前記フィードフォワード制御を行うことを特徴とする。
【0010】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記電流供給部への電流指示値の立ち上がり時の制御定数を小さくするフィードフォワード制御を行うことを特徴とする。
【0011】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記励起レーザ電流の目標値となるまで制御定数を小さくし、および/または制御周期を大きくすることを特徴とする。
【0012】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、光パルス出力がオフのときに、前記励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流を前記電流供給部から出力する制御を行うことを特徴とする。
【0013】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記制御部は、前記所定の期間をタイマで計時して、前記光パルスのフィードバック制御に切り換えることを特徴とする。
【0014】
また、この発明にかかるパルスファイバレーザは、上記の発明において、前記保持部は、前記相関関係をテーブルまたは関数で保持し、更新可能であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、制御部が、入力パルス波形が入力されてから光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行うようにしているので、少なくとも励起レーザ電流制御回路である電流供給部の遅延時間や時定数に起因する出力パルスのオーバーシュートを抑えて、入力パルス波形に対応した光パルスを出力することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、この発明の実施の形態1にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図2】図2は、図1に示したパルスファイバレーザの制御処理を示すタイムチャートである。
【図3】図3は、図2においてACC回路の時定数が小さい場合の動作を示すタイムチャートである。
【図4】図4は、図2においてACC回路の時定数が小さい場合の制御処理を示すタイムチャートである。
【図5】図5は、この発明の実施の形態2にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図6】図6は、図5に示したパルスファイバレーザの制御処理を示すタイムチャートである。
【図7】図7は、この発明の実施の形態2の変形例にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。
【図8】図8は、図5においてACC回路の時定数が小さい場合の動作を示すタイムチャートである。
【図9】図9は、図5においてACC回路の時定数が小さい場合の制御処理を示すタイムチャートである。
【図10】図10は、図9においてACC回路の立ち上がりを速くした制御処理を示すライムチャートである。
【図11】図11は、従来のパルスファイバレーザによる動作を示すタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照してこの発明を実施するための形態について説明する。
【0018】
(実施の形態1)
図1は、この発明の実施の形態1にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。このパルスファイバレーザは、保持部1、制御部2、ACC(Auto Current Control)回路3、励起レーザ4、ファイバレーザ共振器5、および出力光検出器7を有する。なお、ファイバレーザ共振器5は、全反射ミラー5aと出力ミラー5cとの間に、Yb添加ファイバ5bが接続され、励起レーザ4の前方励起によって1μm帯のレーザ光を増幅して出力する。
【0019】
入力端T1から制御部2に入力パルスSAが入力されると、制御部2は、ACC回路3に励起レーザ電流の指示値SBを出力する。このとき、ACC回路3は、10μs以上の時定数τを持たせておく。これにより、指示値SBに対応して、時定数τが与えられた励起レーザ電流SCを励起レーザ4に出力する。励起レーザ4は、励起レーザ電流SCに対応した励起レーザ光をファイバレーザ共振器5に出力する。ファイバレーザ共振器5は、入力された励起レーザ光によって増幅媒体(Yb)が励起されて1μm帯の光パルスSDを出力端T2に出力する。また、出力光検出器7は、カプラ6を介して光パルスSDの一部を分岐し、光パルスSDの強度を検出し、この検出結果を制御部2に入力する。なお、ACC回路3は、指示値SBが入力されてから励起レーザ電流SCを出力するまで、内部のFETやオペアンプの動作閾値のために、図2に示すように時間t1の遅延が生じる。また、ファイバレーザ共振器5は、励起レーザ4から励起レーザ光が入力されてから発振閾値に達するまで、図2に示すように時間t2の遅延が生じる。
【0020】
ここで、出力光検出器7によって検出された光パルスの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係を予め求めておき、この相関関係を保持部1に保持しておく。この相関関係を求める場合、LD電流モニタ10が用いられ、LD電流モニタ10は、励起レーザ4に入力される励起レーザ電流SCを検出して制御部2に入力する。
【0021】
この相関関係は、図2(d)に示すように、光パルスSDの強度がオーバーシュートすることなく、入力パルスSA毎に、目標値Pmに達するように、指示値SBと励起レーザ電流SCとの関係(図2(b),(c))が保持部1に保持されている。
【0022】
出力光検出器7によって検出された光パルスの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係は、励起レーザや出力光検出器の経年劣化によって変化する。そのため、入力パルスSA毎に、光パルスが目標値Pmに達している時の指示値SBと励起電流SCを記録し、保持部1に保持されている指示値SBと励起レーザ電流SCとの関係を制御部2によって更新する。
【0023】
ここで、図2に示すタイミングチャートをもとに制御部2による光パルス制御について説明する。まず、制御部2は、時点T1で入力パルスSAが入力されると(図2(a))、時点T1で、この入力パルスSAに対応する保持部1の指示値SBの波形をもとに、指示値SBの上限値SBmax未満の一定値をACC回路3に出力する(図2(b))。
【0024】
ACC回路3は、時点T1で指示値SBが入力されると、遅延時間t1後、時点T2で励起レーザ電流SCを出力する(図2(c))。ただし、ACC回路3は、回路の時定数τをもっており、この時定数τで、励起レーザ電流SCの目標値Imまで立ち上がる。
【0025】
励起レーザ4は、励起レーザ電流SCの入力によって直ちに励起レーザ光をファイバレーザ共振器5に出力するが、ファイバレーザ共振器5の発振閾値に達するまでの遅延時間t2後に光パルスSDが立ち上がる(図2(d))。ここで、上述したように、励起レーザ電流SCは、光パルスSDの立ち上がりにオーバーシュートが生じないような立ち上がりとなっている。
【0026】
この光パルスSDが目標値Pmまで立ち上がった時点T4までは、上述したフィードフォワード制御を行うが、この時点T4以降、制御部2は、出力光検出器7がモニタした光パルスの強度をもとに、光パルスの強度が目標値Pmとなるようにフィードバック制御を行う。すなわち、図2に示した領域R1では、フィードフォワード制御を行い、領域R2では光パルスをフィードバックしたパワーフィードバック制御を行う。なお、領域R1に相当する期間は、ACC回路3の遅延時間(t1+t2)に対応して決定され、光パルス出力のオーバーシュートが生じない所定の期間であり、上述したフィードフォワード制御は、この所定の期間内で行われる。そして、この所定の期間が終了する時点T4からフィードバック制御が行われる。
【0027】
これにより、光パルスSDは、オーバーシュートすることなく、入力パルスSAに対応したパルスとなる。この結果、加工物の品質劣化や加工性の低下を防止することができる。また、ディスプレイ光源に適用する場合には、安定した輝度を得ることができる。しかも、予め適切な指示値SBと励起レーザ電流SCとの波形で制御しているため、入力パルスSAの入力から光パルスSDの立ち上がり開始までの遅延時間(t1+t2)も短くでき、光パルスSDの立ち上がり時間t3も短くすることができる。この結果、数十μ秒程度の立ち上がり時間を維持した光パルスを得ることができる。
【0028】
なお、図11は、入力パルスSAが入力された時点からパワーフィードバック制御を行った場合を示しているが、この場合、少なくとも時点T3まで光パルスSDがフィードバックされていないため、指示値SBは上限値SBmaxとなり、遅延時間t1後、励起レーザ電流SCが急激な立ち上がりとなり、結果的に光パルスSDはオーバーシュートしてしまっている。
【0029】
ところで、ACC回路3の時定数τが小さい場合、図3(c)に示すように、励起レーザ電流SCは急激に立ち上がってしまう。この結果、この励起レーザSCに対応した励起レーザ光がファイバレーザ共振器5に急激に入力され、ファイバレーザ共振器5内で反転分布や誘導放出が急激に増加して大きなオーバーシュートを生起した光パルスとなる。
【0030】
このため、この実施の形態1では、図4に示すように、ACC回路3の時定数τが小さい場合、指示値SBが徐々に大きくなるように制御する。これにより、励起レーザ電流SCは時点T2後急激に立ち上がるものの、指示値SBが小さいため、その後緩やかに立ち上がるため、図2と同様に、光パルスSDはオーバーシュートすることなく、目標値Pmに到達する。なお、制御部2は、PI制御あるいはPID制御を行っており、これらの制御定数を小さくすることによって、上述した指示値SBを徐々に大きくすることができる。すなわち、比例ゲイン、積分定数、微分定数などの制御定数を小さくする。
【0031】
(実施の形態2)
上述した実施の形態1では、時点T4までフィードフォワード制御を行っていたが、この実施の形態2では、このフィードフォワード制御に、励起レーザ電流SCあるいは励起レーザ光のフィードバック制御をさらに加えるようにしている。
【0032】
図5は、この発明の実施の形態2にかかるパルスファイバレーザの構成を示す模式図である。このパルスファイバレーザは、実施の形態1のパルスファイバレーザに、LD電流モニタ10を設け、制御部2がこのLD電流モニタ10がモニタした励起レーザ電流SCの電流値を時点T4までフィードバック制御を行う。なお、保持部1には、光パルスSDの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係が保持されている。すなわち、励起レーザ電流SCの目標値Imが保持されている。
【0033】
図6は、図5に示したパルスファイバレーザの光パルス制御を示すタイミングチャートである。図6において、入力パルスSAが入力された時点T1後、制御部2は、励起レーザ電流SCをモニタしているが、時点T1後は検出されないため、指示値SBは、上限値SBmaxまで立ち上がる(図6(b))。しかし、制御部2は、時点T2からは励起レーザ電流SCを検出するため、時点T3近傍で励起レーザ電流SCが目標値Imに近づくため、この時点T3以降は指示値SBが小さくなる。この結果、励起レーザ電流SCは、大きなオーバーシュートをすることなく、目標値Imに収束する。これにより、光パルスSDは、オーバーシュートすることなく、時点T4で目標値Pmに達する。
【0034】
この実施の形態2では、領域R1で励起レーザ電流SCによるフィードバック制御をさらに行い、領域R2で光パルスSDによるフィードバック制御を行うようにしているので、オーバーシュートのない光パルスを出力することができる。
【0035】
図5では、領域R1で励起レーザ電流SCによるフィードバック制御を加えるようにしているが、これに限らず、領域R1で励起レーザ光によるフィードバック制御を加えるようにしてもよい。すなわち、図7に示すように、LD電流モニタ10に替えて、カプラ11aを介して励起レーザ光をモニタするLD光モニタ11を設け、このLD光モニタ11が検出した励起レーザ光を制御部2にフィードバックする。この場合も、励起レーザ電流SCのフィードバック制御と同様な制御が行われる。なお、保持部1には、光パルスSDの強度と励起レーザ光との相関関係が保持されている。すなわち、励起レーザ光の目標値が保持されている。
【0036】
光パルスSDの強度と励起レーザ光との相関関係は、ファイバレーザ共振器や出力光検出器の経年劣化によって変化する。そのため、入力パルスSA毎に、光パルスが目標値Pmに達している時の励起レーザ光と光パルスSDの強度を記録し、保持されている光パルスSDの強度と励起レーザ電流SCとの相関関係を制御部2によって更新する。
【0037】
ところで、ACC回路3の時定数τが小さい場合、図8(c)に示すように、励起レーザ電流SCは急激に立ち上がってしまう。この結果、この励起レーザSCに対応した励起レーザ光がファイバレーザ共振器5に急激に入力され、ファイバレーザ共振器5内で反転分布や誘導放出が急激に増加して大きなオーバーシュートを生起した光パルスとなる。
【0038】
このため、この実施の形態2では、図9に示すように、ACC回路3の時定数τが小さい場合、指示値SBが徐々に大きくなるように制御する。これにより、励起レーザ電流SCは時点T2後急激に立ち上がるものの、指示値SBが小さいため、その後緩やかに立ち上がるため、図2と同様に、光パルスSDはオーバーシュートすることなく、目標値Pmに到達する。なお、制御部2は、PI制御あるいはPID制御を行っており、これらの制御定数を小さくすることによって、上述した指示値SBを徐々に大きくすることができる。すなわち、比例ゲイン、積分定数、微分定数などの制御定数を小さくする。あるいは、制御部2は、フィードバック制御の制御周期を長くするようにしてもよい。
【0039】
ここで、図9に示した期間t1の初期では、制御値SBの値が小さいため、励起レーザ電流SCの立ち上がりが遅くなり、期間t1が長くなってしまう。これは、ACC回路3内のFETやオペアンプのオン閾値に達していないからである。このため、図10に示すように、光パルス出力がオフのときに、励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流をACC回路3から励起レーザ4に出力しておく制御を行い、ACC回路3の立ち上がりを速くする。これにより、期間t1が短くなり、入力パルスSAの立ち上がりから光パルスSDの目標値への立ち上がりまでの時間を短くすることができる。
【0040】
なお、上述した実施の形態1,2では、領域R1から領域R2への切り替えを光パルスの強度が目標値に達した時点として説明したが、これに限らず、制御部2がタイマを有し、予め決定された、入力パルスSAが入力された時点T1から光パルスの強度が目標値Pmに達して時点T4までをタイマで計時して切り替えるようにしてもよい。
【0041】
また、上述した実施の形態1,2では、時点T4で、フィードフォワード制御、または励起レーザ電流あるいは励起レーザ光のフィードバック制御を含むフィードフォワード制御から、光パルス出力のフィードバック制御に切り替えているが、この切り替え時点は、時点T4に限らず、時点T4の前後であってもよい。すなわち、領域R1に相当する所定の期間は、短くても長くてもよい。要は、光パルス出力のオーバーシュートが生じないように所定の期間内でフィードフォワード制御を行えばよい。
【符号の説明】
【0042】
1 保持部
2 制御部
3 ACC回路
4 励起レーザ
5 ファイバレーザ共振器
5a 全反射ミラー
5b 出力ミラー
6,11a カプラ
7 出力光検出器
10 LD電流モニタ
11 LD光モニタ
T1 入力端
T2 出力端
SA 入力パルス
SB 指示値
SC 励起レーザ電流
SD 光パルス
R1 領域(所定の期間)
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、
前記励起レーザに前記励起レーザ電流を供給する電流供給部と、
前記入力パルス波形が入力されてから前記光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、前記励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部と、
を備えたことを特徴とするパルスファイバレーザ。
【請求項2】
前記励起レーザに供給される励起レーザ電流あるいは前記励起レーザが出力する励起レーザ光を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記所定の期間内において前記フィードバック制御に加えて前記励起レーザ電流あるいは前記励起レーザ光をフィードバックして前記励起レーザ電流を制御することを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ。
【請求項3】
予め求められた前記光パルスの強度と前記励起レーザ電流との相関関係を保持する保持部を備え、
前記制御部は、前記保持部に保持された相関関係をもとに、前記光パルスの強度がオーバーシュートしないように前記所定の期間内で前記フィードフォワード制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のパルスファイバレーザ。
【請求項4】
前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記電流供給部への電流指示値の立ち上がり時の制御定数を小さくするフィードフォワード制御を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項5】
前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記励起レーザ電流の目標値となるまで制御定数を小さくし、および/または制御周期を大きくすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項6】
前記制御部は、光パルス出力がオフのときに、前記励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流を前記電流供給部から出力する制御を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のファイバレーザ。
【請求項7】
前記制御部は、前記所定の期間をタイマで計時して、前記光パルスのフィードバック制御に切り換えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項8】
前記保持部は、前記相関関係をテーブルまたは関数で保持し、更新可能であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項1】
入力パルス波形に対応した励起レーザ電流を励起レーザに入力し、該励起レーザからの励起光をファイバレーザ共振器に入力し、該ファイバレーザ共振器から前記入力パルス波形に対応した光パルスを増幅出力するパルスファイバレーザにおいて、
前記励起レーザに前記励起レーザ電流を供給する電流供給部と、
前記入力パルス波形が入力されてから前記光パルスが出力開始されるまでの遅延時間に対応した所定の期間内は、前記励起レーザに所定の励起レーザ電流を供給するフィードフォワード制御を行うとともに、前記所定の期間が経過した後は、前記光パルスの強度に基づいて前記励起レーザ電流を調整して光パルスの強度が目標値となるようにフィードバック制御を行う制御部と、
を備えたことを特徴とするパルスファイバレーザ。
【請求項2】
前記励起レーザに供給される励起レーザ電流あるいは前記励起レーザが出力する励起レーザ光を検出する検出部を備え、
前記制御部は、前記所定の期間内において前記フィードバック制御に加えて前記励起レーザ電流あるいは前記励起レーザ光をフィードバックして前記励起レーザ電流を制御することを特徴とする請求項1に記載のパルスファイバレーザ。
【請求項3】
予め求められた前記光パルスの強度と前記励起レーザ電流との相関関係を保持する保持部を備え、
前記制御部は、前記保持部に保持された相関関係をもとに、前記光パルスの強度がオーバーシュートしないように前記所定の期間内で前記フィードフォワード制御を行うことを特徴とする請求項1または2に記載のパルスファイバレーザ。
【請求項4】
前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記電流供給部への電流指示値の立ち上がり時の制御定数を小さくするフィードフォワード制御を行うことを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項5】
前記制御部は、前記電流供給部の時定数が小さくなるに従って前記励起レーザ電流の目標値となるまで制御定数を小さくし、および/または制御周期を大きくすることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項6】
前記制御部は、光パルス出力がオフのときに、前記励起レーザ光の発振閾値未満の微小電流を前記電流供給部から出力する制御を行うことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のファイバレーザ。
【請求項7】
前記制御部は、前記所定の期間をタイマで計時して、前記光パルスのフィードバック制御に切り換えることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【請求項8】
前記保持部は、前記相関関係をテーブルまたは関数で保持し、更新可能であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載のパルスファイバレーザ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−115147(P2013−115147A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−258178(P2011−258178)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】
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