説明

パルミチン酸回収装置およびパルミチン酸回収方法

【課題】汚泥から有価物としてのパルミチン酸を効率よく回収することができるパルミチン酸回収装置およびパルミチン酸回収方法を提供すること。
【解決手段】酸素を含まないキャリアガスをサンプルホッパー7内と反応管1内に供給して無酸素雰囲気とする。電気ヒータ3によって反応管1を300〜700℃に加熱した後、汚泥13をサンプルホルダー5上に載置する。汚泥13を無酸素のキャリアガス雰囲気下で加熱して、ガスを発生させる。発生したガスを、チューブ12を通じてガス冷却部11の回収管11bに供給して、回収管11b内で発生ガスを冷却して、凝縮成分のタールを回収管11b内で捕集する。タールからパルミチン酸を抽出して、回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚泥からパルミチン酸を回収するパルミチン酸回収装置およびパルミチン酸回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バイオマスを原料としたさまざまなエネルギー変換プロセスが開発されている。特に木質バイオマスを原料としたエネルギー変換技術についての研究開発が多く進められている。しかしながら、木質バイオマスのエネルギー変換技術は、原料となる木質バイオマスのコストなどの問題から、商用化には至っていない。
【0003】
そこで、近年、収集技術が確立されている汚泥を原料としたエネルギー変換技術が注目され、炭化やガス化などのエネルギー変換技術について研究開発が推進されつつある。
【0004】
このような汚泥を原料としたエネルギー変換技術としては、特許文献1に記載された技術が知られている。特許文献1には、有機性廃棄物を流動床式のガス化炉に投入して、空気比1以下の低酸素雰囲気下で熱分解ガス、タール、炭素分を含む熱分解残査に熱分解し、ガス化炉の後段に設けたサイクロン装置で熱分解残渣を回収するとともに、タールおよび熱分解ガスを、サイクロン装置の後段に設けた改質炉に供給して改質ガスを生成し、その改質ガスを発電機のエネルギー源として利用する技術が開示されている。この技術によれば、必要分の所内電力を発電しつつ、炭化物を含む熱分解残渣を回収することが可能となる。また、ガス化炉におけるガス化によって生じたタールに対しては、触媒によって低分子化して燃料とする方法も知られている。
【0005】
さらに、同様のエネルギー変換技術としては、特許文献2に記載された技術も知られている。特許文献2には、都市ごみやバイオマスをガス化炉で熱分解して、得られた熱分解ガスを改質炉で改質して改質ガスを生成し、この改質ガスを有害成分除去装置によって精製した後、得られた精製ガスを燃料として発電装置で発電する技術が開示されている。
【0006】
このようなエネルギー変換技術の進展に伴って、汚泥から有価物を回収する技術の開発も進められている。特許文献3には、下水汚泥焼却灰とアルカリ性反応液とを反応槽内で混合して下水汚泥焼却灰に含まれるリンを液中に抽出したうえで、リン抽出液と処理灰とに固液分離し、このリン抽出液にカルシウム成分を加えてリン酸カルシウム結晶を取り出す技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−229563号公報
【特許文献2】特開2009−228958号公報
【特許文献3】特開2008−230940号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、汚泥から有価物を回収することを考慮すると、本発明者の検討によれば、汚泥には、可燃性ガスやリン以外にも有益な有価物が種々含まれていると考えられる。しかしながら、汚泥においては、ペプチドグリカンをその構成とする微生物や家庭から排出される油脂などのさまざまな成分が含まれており、熱分解時における汚泥の熱分解挙動やタールの生成挙動の特定が困難であり、ほとんど明らかにされていない。
【0009】
そのため、汚泥に含まれている有価物のうちで、従来回収されていない有価物の回収技術の開発が求められていた。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、その目的は、汚泥から有価物としてのパルミチン酸を効率よく回収することができるパルミチン酸回収装置およびパルミチン酸回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上述した課題を解決して上記目的を達成するために、種々実験を行い、鋭意検討を行った。まず、本発明者は、実験によって、汚泥を加熱することにより放出されるガスを冷却して得られるタールに、脂肪酸の一種で有価物のパルミチン酸が含まれていることを知見した。このパルミチン酸は、化粧品、界面活性剤またはバイオディーゼルなどに用いられる非常に有用な有価物であるが、従来汚泥から回収可能であるとの知見は存在しなかった。
【0012】
そこで、本発明者は、汚泥からパルミチン酸を回収する方法について検討を行い、汚泥からパルミチン酸を得るためには、どのような条件が必要となるかについて種々実験および検討を行った。そして、本発明者は、特許文献1,2に記載されたガス化技術のように水蒸気および空気の雰囲気下においてタールを生成すると、得られたタールにはパルミチン酸が含まれないことを知見するに至った。本発明者が、この知見に基づいて重ねて実験および検討を行った結果、汚泥を加熱してガスを発生させる際の雰囲気を無酸素雰囲気とすることによって、汚泥を加熱することで放出されるガスを冷却してタールとした場合に、このタールにパルミチン酸が多く含まれることを知見するに至った。本発明は、以上の検討に基づいて案出されたものである。
【0013】
したがって、本発明に係るパルミチン酸回収装置は、無酸素雰囲気下において汚泥を加熱可能に構成された無酸素加熱手段と、汚泥から発生するガスを冷却可能に構成された冷却手段と、冷却手段により冷却されたガスから得られた、パルミチン酸を含むタールを貯留する貯留手段と、を有することを特徴とする。
【0014】
本発明に係るパルミチン酸回収装置は、上記の発明において、無酸素加熱手段による汚泥の加熱温度が、典型的には、300℃以上700℃以下、好適には、350℃以上550℃以下であることを特徴とする。
【0015】
本発明に係るパルミチン酸回収方法は、無酸素雰囲気下において汚泥を加熱する無酸素加熱工程と、汚泥から発生するガスを冷却してタールを生成し回収する冷却回収工程と、を含むことを特徴とする。
【0016】
本発明に係るパルミチン酸回収方法は、上記の発明において、無酸素加熱工程における加熱温度を、典型的には、300℃以上700℃以下、好適には、350℃以上550℃以下とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によるパルミチン酸回収装置およびパルミチン酸回収方法によれば、汚泥から有価物である脂肪酸のパルミチン酸を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、本発明の一実施形態によるパルミチン酸回収装置の構成を示す略線図である。
【図2】図2は、本発明の一実施形態による回収方法で得られたタール成分に含まれる主要成分の加熱温度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下に説明する実施形態によって限定されるものではない。
【0020】
まず、本発明の一実施形態によるパルミチン酸回収装置について説明する。図1に、この一実施形態によるパルミチン酸回収装置を示す。
【0021】
図1に示すように、この一実施形態によるパルミチン酸回収装置は、反応管1、ステンレス管2、加熱手段としての電気ヒータ3、断熱部材4、サンプルホルダー5、熱電対6、サンプルホッパー7、ボールバルブ8、ガス流入配管9、バイパス配管10、冷却手段としてのガス冷却部11、およびチューブ12から構成されている。
【0022】
反応管1は、円筒形状の例えば石英からなる石英管であり、その内径は例えば14mm、長さは例えば670mmである。反応管1の内部のサンプルホルダー5は、例えばガラス綿からなり、反応管1の下端から例えば270mmの高さに設けられている。このサンプルホルダー5上に汚泥13が投下されて、載置できるようになっている。
【0023】
ステンレス管2は、円筒形状であり、反応管1の側面を取り囲むように設けられている。さらに、電気ヒータ3が、このステンレス管2の側面を取り囲むように設けられている。これらのステンレス管2と電気ヒータ3とによって、ステンレス管状炉が構成され、反応管1を所定の温度、例えば850℃まで均一に加熱することができる。さらに、断熱部材4が、電気ヒータ3を取り囲むように設けられている。また、熱電対6は、反応管1とステンレス管2との間およびステンレス管2と電気ヒータ3との間に設けられ、反応管1の温度を計測可能となっている。
【0024】
サンプルホッパー7は、反応管1の上部にボールバルブ8を介して連結されている。また、サンプルホッパー7の上部にガス流入配管9が連結され、例えば窒素(N2)ガスなどを供給するガス供給装置(図示せず)からの酸素を含まないキャリアガスを、サンプルホッパー7の内部に供給する配管である。これにより、サンプルホッパー7の内部を、酸素を含まない無酸素雰囲気とすることができる。なお、サンプルホッパー7の内部の汚泥13が常温に維持されるように構成されている。
【0025】
ボールバルブ8は、反応管1とサンプルホッパー7との間において、これらを連通させたり遮断したりするように開閉動作可能に設けられている。ボールバルブ8が開状態の場合には、反応管1とサンプルホッパー7とが連通して、キャリアガスは、ガス流入配管9およびサンプルホッパー7を通じて直接反応管1に供給される。一方、ボールバルブ8が閉状態の場合には、キャリアガスは、ガス流入配管9およびサンプルホッパー7を通じ、バイパス配管10によってボールバルブ8がバイパスされて反応管1に供給される。
【0026】
冷却手段としてのガス冷却部11は、反応管1の下方に設けられている。このガス冷却部11は、例えば氷および水などの冷却材が溜められた冷却容器11aと、タールを回収して貯留する貯留手段としての回収管11bと、冷却容器11aの内部の気体を排気する排気管11cとを備えている。そして、反応管1の内部と連通したチューブ12が、回収管11bの内部に挿入されている。このように構成されたガス冷却部11において、反応管1の内部の気体は、まずチューブ12を通じて回収管11bに供給されて、冷却容器11aの氷および水によって冷却され、回収管11bから冷却容器11aおよび排気管11cを順次通じて、外部に排気される。
【0027】
次に、以上のようにして構成されたパルミチン酸回収装置を用いた、本発明の一実施形態によるパルミチン酸回収方法について説明する。
【0028】
まず、この一実施形態においては、汚泥13として、例えば4.6gの乾燥汚泥をペレット状にしたものを用いる。ここで、この乾燥汚泥からなる汚泥13は、炭素の含有量が約50%、灰の含有量が約15%、窒素の含有量が約6%である。なお、この汚泥13の灰や窒素の含有量については、木質バイオマスにおける灰の含有量が約0.7%、窒素の含有量が0.1%以下であるのに比して多くなっている。
【0029】
次に、図1に示すように、まず、ボールバルブ8を閉状態にして、汚泥13をサンプルホッパー7に封入する。続いて、外部のガス供給装置(図示せず)からガス流入配管9を通じて、例えば窒素ガスなどの酸素を含まないキャリアガスを所定の流量でサンプルホッパー7の内部に供給する。ここで、キャリアガスの所定の流量は、例えば35ml/minとする。他方、キャリアガスはバイパス配管10を通じて反応管1の内部にも供給され、反応管1の内部は無酸素状態となる。
【0030】
次に、反応管1の内部にキャリアガスを流しつつ、電気ヒータ3によって反応管1を300〜700℃、好適には350〜550℃の範囲内の所定温度になるまで加熱する。なお、このときの温度は熱電対6により計測される。反応管1の内部がこの所定温度まで加熱された後、ボールバルブ8を操作して開状態とする。これにより、重力によって汚泥13が反応管1の内部に投下され、サンプルホルダー5上に載置される。
【0031】
反応管1のサンプルホルダー5上に載置された汚泥13は、無酸素のキャリアガス雰囲気において急速に所定温度まで昇温され、加熱される。この加熱によって、汚泥13からは揮発成分および熱分解成分がガスとして発生する。なお、汚泥13に対する加熱は、所定時間、具体的には例えば40分間行う。汚泥の加熱を所定時間行ったことにより生じたガスは、キャリアガスの流れに従ってチューブ12を通じてガス冷却部11に供給される。
【0032】
発生したガスがガス冷却部11の回収管11bに供給されると、この回収管11bの内部のガスは、冷却容器11a内の例えば氷および水などの冷却材によって冷却される。冷却されたガスのうちの凝縮成分はタールとなって、回収管11bの内部に捕集される。なお、回収管11bの外部に漏れ出たガスが冷却容器11aの内壁やチューブ12の内側に付着して生じたタールについては、アセトンを用いた洗浄により回収される。一方、非凝縮成分(ガス成分)は、回収管11bから冷却容器11aの空間および排気管11cを通じて外部に排気される。
【0033】
回収管11bに捕集されたタール(凝縮成分)には、パルミチン酸が含まれており、従来公知の方法により、このタールからパルミチン酸を抽出して、回収する。
【0034】
次に、以上のように構成されたパルミチン酸回収装置を用いたパルミチン酸の回収方法に基づき、反応管1における汚泥13を加熱する際の所定温度を種々の温度として、タールに含まれる各種成分の含有量の温度依存性を分析した。なお、この一実施形態においては、汚泥13を加熱する際の所定温度として、300℃、400℃、600℃、および700℃を採用した。この測定結果を図2に示す。
【0035】
図2に示すタールに含まれる各種成分の含有量の温度依存性のグラフによれば、タール成分には、パルミチン酸、4−メチル−3ペンテン−2−オン、ジアセトンアルコール、酢酸、および2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジノンが主に含まれている。そして、これらの各種含有成分において、加熱する際の所定温度が300〜700℃の範囲では、パルミチン酸が他の含有成分に比して多く含まれていることが分かる。すなわち、汚泥13を反応管1の内部において加熱する際の所定温度として、300〜700℃とすることにより、パルミチン酸を他の含有成分より優位に回収することができる。さらに、パルミチン酸の回収量は加熱する際の所定温度が400℃付近の場合にもっとも多くなることから、加熱する際の所定温度を400℃を含む温度範囲、具体的には、350〜550℃とすることにより、パルミチン酸をさらに効率よく回収することができる。
【0036】
以上説明した本発明の一実施形態によれば、汚泥を無酸素雰囲気下において、汚泥を300〜700℃、好適には、350〜550℃の温度で加熱することによって、汚泥から生じるガスを冷却して、タール成分を捕集することによって、汚泥からパルミチン酸を含むタールを容易に精製することができ、パルミチン酸という有価物を容易に回収することが可能となる。
【0037】
なお、上述の一実施形態においては、ボールバルブ8が閉状態でサンプルホッパー7から反応管1に酸素を含まないキャリアガスを供給する際に、バイパス配管10を通じて供給しているが、必ずしもこの方法に限定されるものではなく、ガス供給装置(図示せず)から反応管1の内部に酸素を含まないキャリアガスを直接供給するようにしても良い。
【0038】
また、上述の一実施形態においては、反応管1の上方にサンプルホッパー7を設け、下方にガス冷却部11を設けているが、反応管1とサンプルホッパー7およびガス冷却部11の位置関係は必ずしもこれに限定されない。すなわち、サンプルホッパー7やガス冷却部11を反応管1の左右に設けるようにしてもよく、サンプルホッパー7を反応管1の下方に設け、ガス冷却部11を反応管1の上方に設けるようにしてもよい。さらに、サンプルホッパー7を設けることなく、汚泥13を直接サンプルホルダー5に載置するように構成することも可能である。
【0039】
さらに、上述の一実施形態においては、ガス冷却部11における冷却容器11aの内部のガスを、排気管11cを通じて外部に排気するようにしているが、この排気管11cから排気されるガスを、例えばガスサンプリングバックなどの捕集タンクなどに捕集するように構成することも可能である。また、冷却容器11aの内部の冷却材として、氷と水とのいわゆる氷水を用いているが、その他の冷却材を用いることも可能であり、例えばドライアイスなどを利用することも可能である。
【符号の説明】
【0040】
1 反応管
2 ステンレス管
3 電気ヒータ
4 断熱部材
5 サンプルホルダー
6 熱電対
7 サンプルホッパー
8 ボールバルブ
9 ガス流入配管
10 バイパス配管
11 ガス冷却部
11a 冷却容器
11b 回収管
11c 排気管
12 チューブ
13 汚泥

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無酸素雰囲気下において汚泥を加熱可能に構成された無酸素加熱手段と、
前記汚泥から発生するガスを冷却可能に構成された冷却手段と、
前記冷却手段により冷却されたガスから得られた、パルミチン酸を含むタールを貯留する貯留手段と、を有する
ことを特徴とするパルミチン酸回収装置。
【請求項2】
前記無酸素加熱手段による前記汚泥の加熱温度が、300℃以上700℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のパルミチン酸回収装置。
【請求項3】
前記無酸素加熱手段による前記汚泥の加熱温度が、350℃以上550℃以下であることを特徴とする請求項1に記載のパルミチン酸回収装置。
【請求項4】
無酸素雰囲気下において汚泥を加熱する無酸素加熱工程と、
前記汚泥から発生するガスを冷却してタールを生成し回収する冷却回収工程と、を含む
ことを特徴とするパルミチン酸回収方法。
【請求項5】
前記無酸素加熱工程における加熱温度を、300℃以上700℃以下とすることを特徴とする請求項4に記載のパルミチン酸回収方法。
【請求項6】
前記無酸素加熱工程における加熱温度を、350℃以上550℃以下とすることを特徴とする請求項4に記載のパルミチン酸回収方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−75943(P2013−75943A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215227(P2011−215227)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【出願人】(504139662)国立大学法人名古屋大学 (996)
【Fターム(参考)】