説明

パージング剤およびこれを用いたパージング方法

【課題】 溶融成形機のダイ部分のように、流路が狭く高温の苛酷な環境においても優れた洗浄効果が得られるパージング剤を提供する。
【解決手段】 炭化水素系樹脂、および短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種を含み、該炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量が該金属に換算して1重量%超であるパージング剤を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂を溶融成形する装置に用いるパージング剤に関するものであり、特に、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂に対して好適なパージング剤およびこれを用いたパージング方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エチレン−ビニルエステル系共重合体ケン化物樹脂(以下、EVOH樹脂と称することがある)、ポリビニルアルコール系樹脂(以下、PVA樹脂と称することがある)、ポリアミド系樹脂(以下、PA樹脂と称することがある)等の極性の高い熱可塑性樹脂は、ガスバリア性に優れているため、一般的に溶融成形法によって食品等の包装用フィルムや容器などに成形して使用されている。
【0003】
しかしながら、上記熱可塑性樹脂を長時間にわたって溶融成形する場合、該熱可塑性樹脂の一部が押出機等の溶融成形機の樹脂流路内に長時間滞留し、ゲル化,熱劣化,分解などが生じて製品中にスジが発生したり、ゲルが製品に混入して製品不良を生じたりするという問題があった。
【0004】
そこで、製品にスジ発生やゲルの混入が見られたり、または製造作業を止めた後に再起動したりする際に、パージング剤を用いて溶融成形機の樹脂流路内に存在し、こびり付いたりしている熱可塑性樹脂を洗浄・除去することが有効である。
【0005】
従来、かかるパージング剤としてポリオレフィン系重合体に周期律表第II族の金属塩を該金属に換算して、0.05〜1重量%含有し、かつ特定のメルトインデックスを有するパージング剤を用いる技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。
かかる技術は、ポリオレフィン系樹脂に特定少量の金属塩を含有させたパージング剤を用いることで、パージング剤そのものの流動性を上げることでパージング剤そのものの押出機からの排出が短時間で終了し、再度高極性熱可塑性樹脂を供給して再押出成形する際に該パージング剤の残存による製品不良ロスが大巾に改善されるというものである。
【0006】
しかしながらかかる技術においては、『金属塩の含有量はポリオレフィン系重合体に対し0.05〜1重量%であることが重要であり、この範囲をはずれると本発明の目的が達成されない。』([0011])とある。これは、有機塩を1重量%超の多量にて含有させた場合、多量に配合された有機塩が樹脂流路にて即座に溶融し、粘度が下がりすぎてパージング性能が低下するためであると推測される。
【0007】
そして、上記のような技術をもってしても、溶融成形機のダイ部分のように、溶融成形機内の流路が狭く高温の苛酷な環境の箇所に着目した場合、未だ洗浄効果のさらなる改善が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平5−279518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで本発明は、上記問題を解決すべく、溶融成形機のダイ部分等、流路が狭く高温の苛酷な環境においても優れた洗浄効果が得られるパージング剤およびこれを用いたパージング方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記実情に鑑み鋭意検討した結果、短周期周期表第1族および第2族の金属塩のうち少なくとも1種を、多量に含有する炭化水素系樹脂組成物をパージング剤として用いることに着目した。
これにより、被パージ樹脂に対してパージング剤が含有する金属塩が移行し、かかる金属塩が被パージ樹脂を分解することで、溶融成形機のダイ部分のように、流路が狭く高温の苛酷な環境の箇所においても優れた洗浄効果が得られることを見出し、本発明を完成した。
【0011】
さらに、本発明においては、有機塩と無機塩を併用することによって、金属塩の多量配合が容易に可能となるものであり、後述の高い効果が得られるものである。
【0012】
すなわち本願発明の要旨は、炭化水素系樹脂に対して短周期周期表第1族および第2族の金属塩を少なくとも1種含み、かつ該金属塩の含有量が金属に換算して1重量%超であることを特徴とするパージング剤に存する。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、短周期周期表第1族および第2族の金属塩のうち少なくとも1種を、従来より多量に含有する炭化水素系樹脂組成物をパージング剤に用いることにより、溶融成形機内の被パージ樹脂の洗浄・除去効果に優れ、溶融成形機のダイ部分のように、流路が狭く高温の苛酷な環境においても優れた洗浄効果が発揮されるものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の構成につき詳細に説明するが、これらは望ましい実施態様の一例を示すものである。
【0015】
本発明のパージング剤は、押出機等の溶融成形機を用いて熱可塑性樹脂(被パージ樹脂)を溶融成形するにあたり、樹脂流路内に滞留した該熱可塑性樹脂を洗浄し、除去するために用いるものである。
【0016】
本発明において、押出機のバレル温度とは、押出機のバレルの表面温度を意味する。押出機のバレルが複数のセクションを有しており、個々のセクションが異なる温度に設定されている場合は、そのうちの最高温度をバレル温度とする。
【0017】
<パージング剤>
【0018】
本願発明のパージング剤は炭化水素系樹脂をベースとし、短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種を多量に含有する組成物である。
本願発明のパージング剤組成物に対する炭化水素系樹脂の含有量は、通常80重量%以上であり、好ましくは85重量%以上である。
【0019】
本願発明のパージング剤のベースとなる炭化水素系樹脂とは、炭化水素系モノマーを通常80モル%以上の主モノマーとする、分子量が通常1万以上の高分子であり、主鎖が炭素結合のみで構成されるポリマーである。
かかる炭化水素系樹脂は、樹脂の極性が低い為、溶融成形機を構成する金属に付着しにくいという性質を有する。
パージング剤の排出性の点から、炭化水素系モノマー以外の共重合可能なモノマーの含有量は、20モル%未満であることが好ましい。
【0020】
上記炭化水素系樹脂とは例えば、脂肪族炭化水素系モノマーを主体としたポリオレフィン系樹脂、芳香族炭化水素系モノマーを主体としたポリスチレン系樹脂が挙げられる。
【0021】
脂肪族炭化水素系モノマーを主体としたポリオレフィン系樹脂について説明する。脂肪族炭化水素系モノマーとして具体的にはエチレン、プロピレン、ブテン等が挙げられる。
ポリオレフィン系樹脂は、これらの脂肪族炭化水素系モノマーからなるホモポリマー、2種以上のオレフィンモノマーのランダムコポリマー、ブロックコポリマーをいう。
例えば、超低密度ポリエチレン、(直鎖状)低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−オクテン共重合体、エチレン−ヘキセン共重合体等のエチレン−αオレフィン共重合体、等のポリエチレン系樹脂;ポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体等のプロピレン−αオレフィン共重合体、等のポリプロピレン系樹脂;ポリブテン、ポリメチルペンテン等が挙げられる。
【0022】
芳香族炭化水素系モノマーを主体としたポリスチレン系樹脂について説明する。芳香族炭化水素系モノマーとして具体的にはスチレン、メチルスチレン等が挙げられる。これらの芳香族炭化水素系モノマーからなるホモポリマー、2種以上のモノマーのランダムコポリマー、ブロックコポリマーが、ポリスチレン系樹脂として挙げられる。
【0023】
パージング剤の排出性と経済性の点から、炭化水素系樹脂として好ましくはポリエチレン系樹脂またはポリプロピレン系樹脂であり、特に好ましくはポリエチレン系樹脂であり、殊に好ましくは低密度ポリエチレン、さらには直鎖状低密度ポリエチレンである。
【0024】
また、上記炭化水素系樹脂の密度は、JIS K7112(1999)の規定に従って測定した値で、通常0.85〜0.98g/cmであり、さらには0.90〜0.95g/cmであり、好ましくは0.91〜0.94g/cmであり、より好ましくは0.92〜0.93g/cmである。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0025】
また、上記炭化水素系樹脂のメルトフローレート(MFR)においては、190℃、荷重2160g条件下で、通常0.1〜50g/10分であり、好ましくは0.2〜10g/10分であり、より好ましくは0.5〜5g/10分である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0026】
上記炭化水素系樹脂の数平均分子量は、GPC(ゲル透過クロマトグラフ)にてポリスチレンを標準として測定した値で通常1×10〜5×10であり、好ましくは2×10〜4×10であり、より好ましくは3×10〜3.8×10であり、特に好ましくは3×10〜3.5×10である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0027】
上記炭化水素系樹脂の分子量の分散度(重量平均分子量/数平均分子量)は、通常3〜6であり、好ましくは3.2〜5であり、特に好ましくは3.5〜4.5である。かかる値が上記範囲である場合、パージング効果がより顕著に得られる傾向がある。
【0028】
<金属塩>
本願発明のパージング剤は炭化水素系樹脂をベースとし、短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種を従来より多量に含有する組成物である。
従って、本願発明のパージング剤の炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量は、金属に換算した値にて1重量%超であり、好ましくは1重量%超〜20重量%未満であり、特に好ましくは1.2〜10重量%であり、殊に好ましくは1.5〜3重量%である。かかる量が多すぎる場合、生産性や経済性が低下する傾向があり、少なすぎる場合、洗浄効果が不十分になるという傾向がある。
【0029】
上記短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種における短周期周期表第1族および第2族の金属とは、被パージ樹脂を分解する機能を有するものである。具体的にはリチウム、ナトリウム、カリウム、銅、ルビジウム、銀、セシウム、金、フランシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、亜鉛、ストロンチウム、カドミウム、バリウム、水銀、ラジウムである。
中でも易入手性、経済性、パージング性能の点で、第2族の金属が好ましく、特に好ましくはマグネシウム、亜鉛、カルシウムである。
【0030】
上記短周期周期表第1族および第2族の金属塩は、有機塩や無機塩が挙げられる。かかる塩は、樹脂組成物中の分散性の点から、低分子化合物であることが好ましい。
【0031】
上記有機塩とはカルボン酸塩を意味し、例えば、酢酸塩、シュウ酸塩、ラウリン酸塩、ミリスチン酸塩、パルミチン酸塩、ステアリン酸塩、アラギン酸塩、ヘプタデシル酸塩、ベヘン酸塩、オレイン酸塩、エライジン酸塩、エリカ酸塩、リノール酸塩、リノレイン酸塩、リシノール酸塩、ヒドロキシステアリン酸塩、モンタン酸塩、イソステアリン酸塩、エポキシステアリン酸等が挙げられる。
中でも、界面活性能を有する点で、炭素数が比較的多い長鎖脂肪族カルボン酸塩が好ましい。好ましくは炭素数10〜25のカルボン酸塩であり、より好ましくは炭素数12〜22のカルボン酸塩であり、特に好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸塩である。炭素数が多すぎる場合、汎用性に欠ける傾向があり、炭素数が少なすぎる場合、溶融時の界面活性不足によってパージング性能が不足する傾向がある。
すなわち、有機塩として好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸の第2族金属塩であり、最も好ましくは炭素数14〜20のカルボン酸マグネシウム塩である。
【0032】
かかる有機塩の融点は、通常100〜220℃、好ましくは110〜180℃、特に好ましくは120〜160℃である。有機塩が流路内で溶融した場合、界面活性能が発揮される点で好ましい。
【0033】
上記無機塩とは無機化合物由来のアニオンを有する塩を意味し、例えば、ホウ酸塩、リン酸塩、炭酸塩、硫酸塩等が挙げられる。中でも、EVOH樹脂を分解する効果が高く洗浄効果が高い点から、塩基性の無機塩が好ましく、特に好ましくは、炭酸塩である。
なお、中でも炭酸マグネシウムは、塩基性炭酸マグネシウムの状態で安定であり、この状態で市販されているので、好ましい。
【0034】
無機塩は樹脂流路内で溶融しないため、樹脂流路内にこびりついた被パージ樹脂を物理的にこそげ落とす効果を有すると考えられる。
【0035】
本発明のパージング剤を作成するために使用する金属塩の粒径は、成形性の観点や装置内での滞留を抑制するため小さい方が良い。好ましくは、レーザー回折散乱法による粒度分布測定において、金属塩の平均粒径は通常20ミクロン以下である。
【0036】
本発明のパージング剤を作成するために使用する金属塩は、上記有機塩と無機塩を併用することが好ましい。特に、通常、重量比にて無機塩/有機塩=0.05〜10、好ましくは0.1〜8、特に好ましくは0.2〜5、殊に好ましくは1〜1.5である。
無機塩と有機塩の金属種は同一であっても異なるものであってもよい。パージング剤の排出性の点から、好ましくは同一種である。
そして、原料の経済性や生産性、洗浄効果の点から、無機塩として炭酸塩を用い、有機塩として長鎖脂肪族カルボン酸塩を用いることが好ましい。
最も好ましくは、無機塩として炭酸マグネシウムを用い、有機塩として炭素数14〜20のカルボン酸マグネシウム塩を用いるものである。
【0037】
かかる金属塩において無機塩と有機塩を併用する場合、金属塩による被パージ樹脂分解による洗浄効果が高められる。さらに、無機塩は融点が通常500℃以上であり、一般的な熱可塑性樹脂の溶融成形温度よりもはるかに高いために樹脂流路内で溶融せず、樹脂流路壁に残存する被パージ樹脂を摩擦によってこそぎ落とす役割を担っていると考えられる。そして、高級脂肪酸塩等の有機塩は界面活性剤の一種であるため、樹脂流路内部に付着した被パージ樹脂を金属表面から浮かび上がらせて剥がす効果を有すると推測される。
【0038】
本発明のパージング剤のMFRは、230℃、荷重2160gにて通常0.2〜20g/10分、好ましくは0.5〜15g/10分、特に好ましくは1〜10g/10分である。かかる値が大きすぎる場合、パージング効果が十分に発揮されない傾向がある。
【0039】
<パージング剤の製造方法>
本発明のパージング剤は、上記した金属塩と、べースとなる炭化水素系樹脂とをコンパウンドして作製するものである。
かかるコンパウンドには公知の手法を用いることが可能である。なかでも、押出機を用いることが加工性、経済性の点で好ましい。押出機の種類は特に限定されず、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等の一般的押出機が採用可能である。
押出機にてコンパウンドする際の押出機のバレル温度は通常150〜300℃、好ましくは160〜280℃、特に好ましくは170〜250℃である。
【0040】
そして、かかるパージング剤中の金属塩は、ベースとなる炭化水素系樹脂中に均一に分散していることが好ましい。
【0041】
本発明のパージング剤には、必要に応じて、パージング剤全量に対して通常3重量%未満、好ましくは1重量%未満にて、ヒンダードフェノール、あるいはヒンダードアミン類等の熱安定剤、シリコン系またはフッ素系脂肪酸エステル、アミド系滑剤、発泡剤、フィラー(金属酸化物、水酸化物等)などを含有していてもよい。
【0042】
本発明のパージング剤は上記のようにコンパウンドした後に、ペレットとすることが好ましい。ペレットとする方法は公知の方法が採用可能である。かかるペレットは、通常球形、円柱形、立方体形、直方体形等が上げられ、円柱形ペレットが好ましく、その直径は通常1〜5mm、長さは通常1〜5mmである。
【0043】
<被パージ樹脂>
本発明のパージング剤の対象となる熱可塑性樹脂(すなわち被パージ樹脂)は、公知の熱可塑性樹脂が挙げられる。かかる熱可塑性樹脂は、融点(または非晶性樹脂の場合は流動開始温度)が通常100〜270℃、好ましくは120〜250℃、特に好ましくは150〜230℃の熱可塑性樹脂であり、例えば具体的にはEVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂、PA樹脂、ポリオレフィン系樹脂(直鎖状低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−アクリル酸エステル共重合体、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン(炭素数4〜20のα−オレフィン)共重合体、ポリブテン、ポリペンテン等)、ポリオレフィン系樹脂に不飽和カルボン酸をグラフト変性した変性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、熱可塑性ポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニリデン、アクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ビニルエステル系樹脂、ポリエステルエラストマー、ポリウレタンエラストマー、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、芳香族又は脂肪族ポリケトン等が挙げられ、これらは単独でも複数種を同時に用いてもよい。
【0044】
なかでも本発明のパージング剤は、溶融成形機の金属に付着しやすく、かつ除去しにくい特性を有する高極性熱可塑性樹脂に特に有効であり、具体的にはEVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂およびPA樹脂に対して有効である。
【0045】
ここで、極性基含有熱可塑性樹脂であるEVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂および、PA樹脂は、そのガスバリア性能から食品等の包装材の中間層として使用されることが多く、極性基含有熱可塑性樹脂は水分によってガスバリア性が低下する傾向があるため、通常、表層として疎水性熱可塑性樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂等)および場合によって各層間に接着性樹脂(例えば、不飽和カルボン酸変性ポリオレフィン系樹脂等)を有する多層構造体として包装材等に使用される。
【0046】
上記多層構造体を製造する場合、その製造過程において生じるスクラップを回収し、該回収物を再度押出機にて溶融成形して新たな多層構造体の少なくとも1層としてリサイクルすることがしばしばある。
かかるリサイクル操作は、多層構造体を構成する極性基含有熱可塑性樹脂、疎水性熱可塑性樹脂や接着性樹脂を含む樹脂組成物を押出機にて溶融混合し、成形するものであるが、本発明のパージング剤は、このような極性の高い樹脂を含有する樹脂組成物を押出機からパージ、すなわち、洗浄して除去する為に用いる場合においても有効である。
このように、被パージ樹脂が樹脂組成物の場合、EVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂および、PA樹脂等の極性基含有熱可塑性樹脂の含有量は、通常被パージ樹脂の1〜99重量%が許容される。
【0047】
特に、本発明のパージング剤は、金属塩を比較的多量に含有することで、EVOH樹脂、PVA樹脂等のビニルアルコール系樹脂に適用した場合、ビニルアルコール系樹脂ポリマー中に金属塩が移行し、該樹脂を分解する効果に優れるため、特に溶融成形機ダイ部等の狭く高温な箇所に付着したビニルアルコール系樹脂を洗浄するのに効果的である。
被パージ樹脂として最も好適なのは、EVOH樹脂である。
【0048】
本発明の被パージ樹脂は公知一般の滑剤、金属酸化物(例えば顔料として用いられる酸化ケイ素、酸化チタン等)、酸化防止剤、乾燥剤、充填剤、酸素吸収剤を含有していてもよい。
【0049】
<対象となる溶融成形機>
上記被パージ樹脂の溶融成形時に用いられる溶融成形機としては特に限定されず一般的な押出機を用いることが可能である。例えば単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機等が上げられるが、いずれでも良い。詳細には、単層キャスト押出機、単層インフレ押出機、単層ブロー押出機、射出成形機、多層キャスト押出機、多層インフレ押出機、多層ブロー押出機、共射出成形機なども使用される。
【0050】
<パージング方法>
本発明のパージング剤は、短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種を比較的多量に含有することにより、被パージ樹脂中にパージング剤内の金属塩が移行し、かかる金属塩が被パージ樹脂を分解するため、流路が狭く高温の苛酷な環境である溶融成形機のダイ部分等においても優れたパージ性能となり、洗浄効果に優れるものである。
【0051】
さらに本発明のパージング剤を用いたパージング方法は、公知方法を採用可能である。具体的には、溶融成形機にて熱可塑性樹脂を溶融成形した後に、本発明のパージング剤を供給して溶融成形機内に充填し、次いで排出すればよい。
【0052】
上記熱可塑性樹脂(被パージ樹脂)の溶融成形時の溶融成形機の温度(例えば押出機においては押出機のバレル温度)は、通常150〜260℃である。
【0053】
かかる溶融成形機内部に本発明のパージング剤を充填する際の溶融成形機の温度(押出機においては押出機のバレル温度)は、通常180〜280℃であり、好ましくは200〜260℃、より好ましくは210〜260℃、特に好ましくは230〜260℃である。かかる温度が高過ぎる場合、パージング剤の粘度が低下し、被パージ樹脂の洗浄効果が低下する傾向があり、低過ぎる場合、パージング剤自身の排出性が低下する傾向がある。
ここで、熱可塑性樹脂の溶融成形時、またはパージング剤を充填する際の溶融成形機の温度は、例えば押出機においては、押出機のバレル温度、すなわち押出機のバレルの表面温度を意味する。押出機のバレルが複数のセクションを有しており、個々のセクションが異なる温度に設定されている場合は、そのうちの最高温度をバレル温度とする。
【0054】
本発明のパージング剤の使用量は、通常、溶融成形機の大きさおよび被パージ樹脂の汚れの程度で決定すればよいが、取り扱い性・経済性の点から通常溶融成形機の樹脂容量(バレル容積からスクリュー容積を除いた樹脂が充填され得る容積)の5〜100倍であり、好ましくは8〜50倍であり、特に好ましくは10〜30倍である。
【0055】
本発明のパージング方法において、パージング剤中の金属塩が被パージ樹脂内へ移行しやすいよう、パージング剤を押出機等の溶融成形機に供給して充填した後に、溶融成形機内部をパージング剤で満たした状態でスクリューを停止し、一定時間放置することが好ましい。かかる放置時間について、通常5分〜5時間であり、より好ましくは0.2〜3時間であり、特に好ましくは0.5〜2時間である。かかる時間が長過ぎる場合、生産性の低下あるいはパージング剤自体の劣化により洗浄効果が低下する傾向にあり、少なすぎる場合にはパージング効果が低下する傾向がある。
なお、パージング剤が押出機内に充満された後、スクリューを止めて一定時間放置し、その後、再びパージング剤を充填して一定時間放置するなど、パージング剤の溶融成形機内での滞留とさらなるパージング剤供給の工程を繰り返す場合、パージング剤の溶融成形機内での滞留時間の和が上記範囲内にあることが好ましい。
【0056】
また、押出機を用いる場合、パージング時の押出機のスクリュー回転数は、利便性の点から被パージ樹脂の成形時と同じでよい。実用性の点から通常5〜300rpmであり、好ましくは10〜250rpmであり、特に好ましくは10〜100rpmである。なお、パージング中にスクリュー回転数を周期的に上下させることにより、被パージ樹脂の押出効果が向上することが期待される。
【0057】
以上のように本発明のパージング剤およびこれを用いたパージング方法は、パージング剤が従来より多量の金属塩を含有するため、被パージ樹脂にパージング剤内の金属塩が移行し、かかる金属塩が被パージ樹脂を分解することにより、流路が狭く高温の苛酷な環境である溶融成形機のダイ部分等においても優れた洗浄効果が得られるとの優れた効果が発揮されるものである。
【実施例】
【0058】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、断りのない限り重量基準を意味する。
【0059】
実施例1
パージング剤として、直鎖状低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン製“ノバテックLL UF230“MFR1.0g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.921g/cm、数平均分子量(ポリスチレン標準にて)3.2×10、分散度(Mw/Mn)3.9)を90部用い、金属塩としてステアリン酸マグネシウム(日油製、融点125℃)5部および塩基性炭酸マグネシウム(神島化学工業製、金星)5部を用い、これらをドライブレンドした。尚、かかるパージング剤中の金属塩の含有量は、10重量%であり、炭化水素系樹脂に対する金属塩の含有量は、金属に換算して1.5重量%である。
かかるドライブレンド物を二軸押出機を用いて以下の条件で溶融混練してペレット化した。
スクリュー径: 30mmφ
押出機温度:C1/C2/C3/C4/C5/C6/C7/H/D= 80/100/210/220/220/220/230/220/220℃
吐出量:10kg/h
回転数:150rpm
得られたペレットのMFRは、230℃、荷重2160g条件下で2.4g/10分であった。
【0060】
<被パージ樹脂の熱劣化状態再現モデル実験>
下記の単軸押出機を用い、押出機およびダイ温度を下記のように設定し、エチレン−酢酸ビニル系共重合体ケン化物(エチレン含有量 29モル%、ケン化度 99.8モル%、MFR 3.4g/10分(210℃、荷重2160g))を30分間供給しながら排出し、加熱したまま2時間放置してEVOH樹脂成形物の長時間製造後の状態を再現した。
スクリュータイプ:フルフライト
スクリュー径 :40mmφ
L/D:28
スクリュー圧縮比:2.5
ダイ:コートハンガーダイ
押出機温度:C1/C2/C3/C4/H/D=220/250/260/260/260/240℃
回転数: 40rpm
【0061】
<パージング操作>
その後、上記の押出機温度のまま、上記パージング剤を20分間供給した。パージング剤が押出機内に充満された後、スクリューを止めて10分放置し、その後、再びスクリュー回転数10rpmにしてパージング剤を10分間供給した。このパージング剤の押出機内での滞留とさらなるパージング剤供給の工程を3回繰り返した。
【0062】
その後、EVOH樹脂を再び押出機に供給し、製膜を開始した。製膜を2時間行った後、押出機内のパージング剤を少量のポリエチレンで置換してから押出機を解体し、ダイの汚れ状況を観察した。
〔パージング効果〕
◎:ダイには被パージ樹脂の付着物は全くなかった。
○:ダイに薄膜状でわずかに付着物が存在するが、付着物の粘度が十分低下しており、清掃が容易である。
△:ダイにやや厚めの樹脂層が付着しており、○の状態よりも清掃に時間を要する。
×:ダイに厚い樹脂層が付着しており、かつ付着物の粘度があまり低下していないので、△の状態よりも清掃に時間を要する。
【0063】
実施例2
上記実施例1において、直鎖状低密度ポリエチレンとして東ソー社製“ニポロン-L F21“MFR1.1g/10分(190℃、荷重2160g)、密度0.92g/cm、数平均分子量(ポリスチレン標準にて)2.0×10、分散度(Mw/Mn)5.7)を用いた以外は全て同様にして実験を行い、同様の評価を行った。
【0064】
比較例1
実施例1において、パージング剤として、直鎖状低密度ポリエチレンを93.4部用い、ステアリン酸マグネシウムおよび塩基性炭酸マグネシウムをそれぞれ3.3部に代えてパージング剤を得、同様の操作を行い、同様の評価を行った。かかるパージング剤における金属塩の含有量は、6.6重量%であり、炭化水素系樹脂に対する金属塩の含有量は、金属に換算して1.0重量%である。

実施例1、2および比較例1の結果を表1に示す。
【0065】
【表1】

※スクリューの付着樹脂はほとんどなくなっていた。
【0066】
以上の結果より、炭化水素系樹脂に対して短周期周期表第1族および第2族の金属塩のうち少なくとも1種を、従来より多量に含有する本発明のパージング剤を用いた実施例1および2では、流路が狭く高温の苛酷な環境である押出機のダイ部分等において、従来公知のパージング剤(比較例1)よりも優れた洗浄効果を有することが判る。
【0067】
実施例3
実施例1にて得られたパージング剤を用い、以下の評価を行った
<被パージ樹脂(多層構造体のリサイクル樹脂組成物)の熱劣化状態再現モデル実験>
多層構造体のリサイクル樹脂組成物のモデル組成物として、下記の樹脂組成物を用意した。
実施例1と同条件の単軸押出機を用い、下記の樹脂組成物を30分間供給しながら排出し、加熱したまま2時間放置して樹脂組成物の長時間製造後の状態を再現した。
<樹脂組成物>
ポリプロピレン(日本ポリプロ製ノバテックPP FX4G) 85部
接着性樹脂(三菱化学製MODIC-AP P604V) 5部
エチレン−酢酸ビニル共重合体ケン化物(エチレン含有量 29モル%、ケン化度 99.8モル%、MFR 3.4g/10分(210℃、荷重2160g) 10部
<パージング操作>
その後、上記の押出機温度のまま、上記パージング剤を20分間供給した。パージング剤
が押出機内に充満された後、スクリューを止めて60分放置した。
その後、上記ポリプロピレンのみを押出機に供給し、製膜を開始した。製膜を2時間行った後、押出機内のポリプロピレンを少量のポリエチレンで置換してから押出機を解体し、ダイの汚れ状況を観察し、実施例1と同様に評価した。
実施例3の結果を表2に示す。
【0068】
【表2】

※スクリューの付着樹脂はほとんどなくなっていた。
【0069】
以上の結果より、本発明のパージング剤は、EVOH樹脂のような極性の高い熱可塑性樹脂を含む多層構造体のリサイクル樹脂組成物を被パージ樹脂とする場合においても、優れた効果が得られることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のパージング剤およびパージング方法は、炭化水素系樹脂に対して短周期周期表第1族および第2族の金属塩のうち少なくとも1種を、従来より多量に含有する組成物をパージング剤として用いることにより、流路が狭く高温の苛酷な環境である押出機のダイ部分等においても優れた洗浄効果が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素系樹脂、および短周期周期表第1族および第2族の金属塩の少なくとも1種を含み、該炭化水素系樹脂に対する該金属塩の含有量が金属に換算して1重量%超であることを特徴とするパージング剤。
【請求項2】
230℃、荷重2160gにおけるメルトフローレートが、0.2〜20g/10分であることを特徴とする請求項1記載のパージング剤。
【請求項3】
上記金属塩として、無機塩および有機塩を含むことを特徴とする請求項1または2に記載のパージング剤。
【請求項4】
上記無機塩および有機塩の割合が、重量比にて無機塩/有機塩=0.05〜10であることを特徴とする請求項3記載のパージング剤。
【請求項5】
上記有機塩が、炭素数10〜25のカルボン酸塩であることを特徴とする請求項3または4記載のパージング剤。
【請求項6】
上記無機塩が、炭酸塩であることを特徴とする請求項3〜5いずれかに記載のパージング剤。
【請求項7】
被パージ樹脂がビニルアルコール系樹脂であることを特徴とする請求項1〜6いずれかに記載のパージング剤。
【請求項8】
ペレット形状であることを特徴とする請求項1〜7いずれかに記載のパージング剤。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のパージング剤を用いることを特徴とする、溶融成形機内に存在する被パージ樹脂のパージング方法。
【請求項10】
溶融成形機に請求項1〜8のいずれかに記載のパージング剤を充填すること、溶融成形機内部をパージング剤で満たした状態でスクリューを停止し、5分〜5時間放置すること、およびパージング剤を排出することを含む、溶融成形機内に存在する被パージ樹脂のパージング方法。
【請求項11】
パージング剤充填時の溶融成形機のバレル温度が、200〜260℃であることを特徴とする請求項9または10記載のパージング方法。

【公開番号】特開2012−31404(P2012−31404A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−149995(P2011−149995)
【出願日】平成23年7月6日(2011.7.6)
【出願人】(000004101)日本合成化学工業株式会社 (572)
【Fターム(参考)】