説明

ヒト免疫不全ウイルスの検出方法

本発明は、生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルス(HIV)の存在を検出する方法に使用するための、バイオ技術適応高親和性ポリペプチドを提供する。さらに本発明は、バイオ技術適応高親和性ポリペプチドの製造方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト免疫不全ウイルス感染症の診断および臨床管理に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト免疫不全ウイルスは、信頼性のある、定量的な抗体介在性検出を可能にするのに十分に保存された抗体エピトープ(即ち、十分な長さと免疫原性を有するペプチド伸長鎖)を有していないにもかかわらず、ヒト免疫不全ウイルスHIV−1/2キャプシドタンパク質の免疫学的検出を含む診断試験が、臨床で使用されている。従来技術の問題点は、一個人のみが感染した亜種のみならず、世界的に広まっているウイルス株の全てを検出することができない点にある。他の問題は、現在の免疫アッセイ法は、全てのウイルスを同じ親和性で検出することができない、即ち、ウイルスの発生源にかかわらず、その存在量に直接比例した結合シグナルを得ることができない点にある。さらに、HIV抗原の検出に使用されている従来の抗体(例えば、米国特許第6,432,633号を参照)の結合親和性は、HIV感染の診断や、HIV感染個体に対する抗レトロウイルス療法における継続管理中のウイルス含量調査に有用なほど十分に高感度のアッセイ法の開発に至るほどは高くなかった。HIV抗原の検出は、上述した診断分野の要求に対して理論的には上級のアプローチであるが、上述した限界故に、今日では、PCRに基づく方法または血清学が(これらは単独で、または現在実施可能な最適状態に及ばない抗原検出技術と組み合わされて)このような用途に使用されている。本明細書に記載した発明は、現在使用されている免疫学的方法に固有の問題、即ち、ウイルス粒子関連HIVタンパク質の診断的検出の限界、に対する解決策を提供する。
【0003】
Schupbach et al.(Journal of Medical Virology, 2001, 65:225-232)は、熱変性した、増幅によって高濃度化したp24抗原が、HIV感染の治療をモニターするためのHIV RNA試験の代りに使用できることを開示している。Respess et al.(Journal of Clinical Microbiology, 2005, 43(l):506-508)およびKnuchel et al.(Journal of Clinical Virology, 2006, 36:64-67)も、高感度p24抗原アッセイをHIV RNA試験の代替として開示している。
【0004】
Boder et al.(PNAS, 2000, 97(20):10701-10705)は、一価であり、フェムトモル量の抗原−結合親和性を有する抗体断片の特異的な進化について開示している。Holliger and Hudson(Nature Biotechnology, 2005, 23(9): 1126-1136)は、組み換え抗体断片について記載している。Nygren and Uhlen(Current Opinion in Structural Biology, 1997, 7:463-469)およびHosse et al.(Protein Science, 2006, 15:14-27)は、分子認識のためのタンパク質ディスプレイ骨格の作製について記載している。
【0005】
Binz et al.(Nature Biotechnology, 2005, 23(10): 1257-1268)およびHey et al.(Trends in Biotechnology, 2005, 23(10):514-422)は、非免疫グロブリンドメインからの新規結合性タンパク質の作製について記載している。
【0006】
しかし、上述した先行技術文献やそれらの組み合わせの中には、本発明の提供する、少なくとも2個〜3個のアミノ酸残基からなるp24抗原の保存性エピトープに結合するように設計したバイオ技術適応高親和性ポリペプチド、該ポリペプチドの製造および該ポリペプチドのHIVアッセイにおける使用について開示するものはない。
【0007】
発明の詳細な説明
以下に、本明細書で使用した用語の一部について、その定義を提供する。
【0008】
本明細書において使用した種々の活用形の「抗体」という用語は集合名詞であり、免疫グロブリン分子および/または免疫グロブリン分子の免疫学的に活性な部位、即ち、抗原結合部位またはパラトープ、の総称である。
【0009】
「抗原結合性部位」または「パラトープ」とは、抗体分子における、抗原に特異的に結合する構造上の部位である。
【0010】
「一本鎖抗体」(scFv)とは、抗体の重鎖および軽鎖のそれぞれの可変ドメインがリンカーペプチドを介して結合した連続したアミノ酸鎖であって、一本鎖mRNA分子(転写物)から合成されたものである。
【0011】
「免疫アッセイ」とは、生物学的な液体、典型的には血清、血漿、尿またはその他の体液に含まれる物質のレベルを、1種または複数種の抗体とそれに対する抗原との反応を利用して測定する生化学的な試験である。このアッセイは、抗体のその抗原に対する特異的結合を利用する。モノクローナル抗体は、通常、検出すべき分子の単一部位にのみ結合するため、サンプル中の他の分子による干渉を受けることなく、より特異的で正確な試験を提供することから、頻繁に利用されている。使用する抗体は抗原に対して高親和性を有していなければならない。抗原の存在は、例えば、感染症の診断において、微生物特異的な分子構造を検出することで測定する。抗原の定量化は種々の方法で達成することができる。最も頻繁に実施されている方法の1つは、抗原または抗体を標識する方法である。標識は、酵素(酵素免疫アッセイ,EIA)、蛍光物質(FIA)または発光物質(LIA)からなるか、あるいは、凝集、比濁分析、濁度測定またはイムノブロッティング(ウエスタンブロット)に基づくものである。
【0012】
免疫アッセイは、競合的でも非競合的でもよく、均一系でも非均一系でもよい。競合アッセイにおいては、サンプル中の抗原は、抗体と結合するために標識抗原と競合する。次に、抗体部位に結合した標識抗原の量を測定する。標識抗原と競合しうるサンプル中の抗原が少ないほど応答は大きくなるので、この応答はサンプル中の抗原濃度と反比例する。
【0013】
「サンドイッチアッセイ」と頻繁に呼ばれる非競合免疫アッセイにおいては、サンプル中の抗原を「捕捉」抗体に結合し、結合部位上の標識抗体の量を測定する。競合アッセイの場合とは異なり、結果は抗原濃度に直接比例する。
【0014】
不均一系における免疫アッセイの場合、通常は固相材料を用いた、結合部位から未結合の抗体または抗原を除去するための余分な工程が必要となる。均一系におけるアッセイの場合は、未結合の抗体分子または抗原分子を除去するための分離相を必要としない。免疫アッセイは、HIVの診断において特に重要な役割がある。
【0015】
「BHAP」という略語は、「バイオ技術適応高親和性ポリペプチド」を意味する。BHAPは、組み換えDNA手法を用いて産生し、最適化した分子であって、リガンドに結合する能力を有する分子である。例えば、一本鎖抗体とその誘導体はBHAPとして機能しうる。
【0016】
「COPOS」という略語は、「保存性ポリペプチド構造」を意味する。典型的なCOPOSは2つ以上のアミノ酸残基によって形成された構造であり、その他の部分の可変性が高いタンパク質(例えば、多くのウイルスタンパク質)においても比較的一定であり、BHAPのリガンドとして機能する。COPOSは抗原エピトープと重複してもよいが、従来の抗体の標的にならなくともよい。
【0017】
本明細書において使用する「特異的結合」、「特異的認識」や「エピトープに対して結合特異性を有する」などの表現は、BHAPまたはその断片もしくは誘導体とその標的分子との間で生じる、バックグラウンド値が低く高親和性の結合(即ち、非特異的結合のない結合)を意味する。言い換えれば、上記用語(および同等の表現)は、結合分子(例えば、受容体、抗体、リガンドやアンチリガンド)が、タンパク質や他の生物学的物質からなる不均一な集団の存在下で、特定の標的分子(例えば、リガンドや抗原)に対して好ましく結合する(即ち、試験サンプル中の他の成分に対して顕著な結合を示さない)ことを意味する。典型的には、2つの物質、例えば、リガンドと受容体、の間の特異的結合は、結合親和性が少なくとも約106-1であり、好ましくは少なくとも約107-1、108-1、109-1または1010-1であり、より好ましくは少なくとも約1011-1、1012-1、1013-1、1014-1または1015-1である。
【0018】
本明細書において、「バイオパニング」および「ファージディスプレイライブラリー」という用語は、米国特許出願第2005/0074747号(Arap et al.)と同様に使用した。
【0019】
さらに、抗原の古典的な定義は、感受性のある動物の組織に導入した際に、免疫応答(例えば、特異的抗体分子の産生)を誘引し、産生された特異的抗体と会合しうる「全ての外来物質」である。抗原は、一般的には高分子量であり、通常は、タンパク質または多糖である。ポリペプチド、脂質、核酸および他の種々の材料も抗原として機能しうる。ハプテンと呼ばれるより小さな物質であっても、より大きな担体タンパク質(例えば、ウシ血清アルブミン、スカシガイヘモシアニン(KLH)や他の合成マトリクス)とカップリングされていれば、免疫応答を誘導することができる。種々の分子、例えば、薬剤、単糖、アミノ酸、小さなペプチド、リン脂質またはトリグリセリドはハプテンとして機能しうる。従って、十分な時間があれば、ほぼ全ての外来物質が免疫系によって同定され、特異的抗体の産生が誘発される。しかし、この特異的免疫応答は高度に可変であり、抗原のサイズ、構造および組成によるところが大きい。強力な免疫応答を誘発する抗原を、免疫原性の強い抗原と言う。
【0020】
優れた抗原の特徴を以下に列挙する。
− 1つの分子内に、構造的に安定な領域と化学的に複雑な領域が存在する。
− 広範にわたる繰り返し単位を含まない、広大な伸長鎖である。
− 最低分子量が8,000〜10,000ダルトンであるが、担体タンパク質の存在下では、分子量が200Daまで低いハプテンでもよい。
− 免疫系によって処理されうる性質を有する。
− 抗体形成メカニズムに利用されやすい免疫原性領域を有する。
− 宿主とは十分に異なる構造因子である。
− ペプチド抗原については、免疫原性アミノ酸であるK、R、E、D、Q、Nを少なくとも30%含む領域を含んでいる。
− ペプチド抗原については、顕著に親水性の残基または荷電した残基を含んでいる。
【0021】
ヒト免疫不全ウイルス(HIV)の検出においては、ウイルスの抗原性部位の急速な変化が絶えず行われているという問題がある。本発明の提供する解決策は、通常の抗体では検出が困難または不可能なp24ポリペプチドの、少なくとも2個または3個のアミノ酸残基からなるエピトープに特異的に結合することが可能なバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)の製造方法である。こうして得られたBHAPは、抗体と同様に検出手法に使用することができるため、生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルスの存在を検出するために有用である。
【0022】
本発明は、生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルスの存在を検出するための方法であって、
a)HIV p24ポリペプチドの短い(典型的には10残基未満の)ペプチド領域内の少なくとも2個または3個のアミノ酸残基の主鎖および側鎖原子によって形成された保存性構造決定基(COPOS)を理論上の標的として結合するバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)を、生物学的サンプルまたはその画分と接触させ、そして
b)バイオ技術適応高親和性ポリペプチドとp24またはその断片との複合体を検出し、該複合体の存在を、サンプル中のHIVの存在の指標とする
ことを包含する方法を提供する。
【0023】
COPOS結合決定基は、HIV p24ポリペプチド内の以下に示す保存性5量体〜9量体ペプチドの内部に位置することが好ましい。
RTLNAWVK(配列番号1)、
VGGHQAAMQ(配列番号2)、
WDRLHP(配列番号3)、
PRGSDIAG(配列番号4)、
GLNKIV(配列番号5)、
VRMYSP(配列番号6)、
QGPKE(配列番号7)、
FRDYVDRF(配列番号8)、
LRAEQ(配列番号9)、
WMTETLL(配列番号10)、
WMTDTLL(配列番号11)、
QNANPDC(配列番号12)、
EEMMTAC(配列番号13)、および
ACQGVGGP(配列番号14)。
【0024】
しかし、本発明は上述したペプチドに限定されるものではない。なぜならば、公知のp24配列およびこれから発見されるp24配列のさらなるコンピューター解析によって、HIVのp24ポリペプチドから誘導した他のエピトープであって、本発明に有用なものが発見されうることは、当業者には明らかなためである。コンピューターによる配列の同一性比較は、当業者に広く知られたアミノ酸配列またはヌクレオチド配列比較アルゴリズムを使用して実施することができる。例えば、BLASTNアルゴリズムを使用することができる。
【0025】
COPOS結合決定基は、2個〜3個、2個〜4個、2個〜5個、2個〜6個、3個〜4個、3個〜5個、3個〜6個、2個〜7個または3個〜7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることが好ましい。COPOS結合決定基は、2個、3個、4個、5個、6個または7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることがより好ましい。
【0026】
試験する生物学的サンプルとしては、血液サンプルが好ましい。該サンプルまたはその画分に含まれるポリペプチドは、上記方法の工程a)を実施する前に変性処理を施すことが好ましい。
【0027】
さらに本発明は、HIV p24抗原の保存領域内に存在する、少なくとも2個または3個の隣接するアミノ酸または非連続的なアミノ酸からなるエピトープに対して、特異的に結合することが可能なバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)の製造方法であって、
a)p24抗原の公知のアミノ酸配列のコンピューター解析によって、p24抗原内の少なくとも2個のアミノ酸からなる保存領域を選択し、
b)p24抗原から選択した保存領域に基づいて、ペプチドを調製し、
c)結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーに、該ペプチドを接触させ、ただし、該ライブラリーは好ましくは一本鎖抗体のファージライブラリーであり、
d)該ペプチドに対する結合活性を有する結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
e)上記工程d)で単離した粒子から得た核酸または該粒子から誘導した核酸に変異を導入して変異粒子を得、
f)上記工程e)で得た変異粒子に基づいて、結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーを作製し、
g)上記工程f)で得たライブラリーに、ペプチドまたはその断片を接触させ、
h)該ペプチドまたはその断片に対する結合活性が改良された結合タンパク質を発現する粒子を単離し、ただし、改良される結合活性は例えば親和性や特異性であってもよく、
i)上記工程e)〜h)を一回または二回以上繰り返し、そして
j)上記工程i)で得た粒子から、HIV p24抗原の保存領域内に存在する、少なくとも2個または3個の隣接するアミノ酸または非連続的なアミノ酸からなるエピトープに対して、特異的に結合することが可能なバイオ技術適応高親和性ポリペプチドを得る
ことを包含する方法を提供する。
【0028】
さらに本発明は、上記の方法で得られたバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)を提供する。
【0029】
本発明の技術背景を明確にし、特にその実施方法についてさらなる詳細を提供するために本明細書で使用した出版物およびその他資料の内容は、本明細書の記載を以って本願に組み込まれたものとする。本発明について以下の実施例でさらに説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0030】
HIV p24のCOPOS決定基を同定するために、http://www.hiv.lanl.gov/content/indexなどの公知のデータベースから入手可能な大量の個々のアミノ酸配列について、互いにアラインメントを実施し、各アミノ酸残基の相対保存性を評価した。この分析に基づいて、典型的には10残基未満のペプチドであって、99%以上の配列で保存されている少なくとも2個のアミノ酸を含有するものをさらなる分析のために選択した(図1を参照)。
【0031】
これらペプチドに結合する潜在的なBHAP分子を、例えば、scFvファージライブラリーのスクリーニング(組み換え抗体ライブラリーのスクリーニングの基本原理については、Hoogenboom, Nature Biotechnology 23(9): 1105-1116の論文を参照)によって産生した後に、上記結合に関与する残基をペプチドアレイ技術を用いて同定した。高度に保存されたHIV p24残基の集合体からなるBHAP認識モチーフは、COPOS決定基と考えられる。このような集合体は、典型的には、2個〜5個の残基からなり、HIV p24ポリペプチド鎖において互いに直接隣接する位置にあってもなくてもよい。従って、上記で列挙したペプチド配列(配列番号1〜14)から選ばれる2残基以上のいかなる組み合わせも、HIV p24の検出に使用することが可能な潜在的なCOPOSである。
【実施例2】
【0032】
BHAP前駆体となるポリペプチドの大きなライブラリーに対して、親和性に基づく選択方法によるスクリーニングを行うために、1種または数種の潜在的COPOS決定基を含む合成ペプチドを使用した。例えば、Neriとその同僚ら(Proteomics 5:2340-2350, 2005)が作製した、30億個の個別の組み換え抗体クローンを含有するETH-2-Goldファージディスプレイライブラリーに対して、COPOS含有ペプチドと特異的に相互作用するポリペプチドのスクリーニングを行った。非Ig誘導性ポリペプチドに基づく、潜在的なリガンド結合性ポリペプチドを含有するライブラリーは、既にいくつか存在するし(例えば、Nature Biotechnology 23:1257-1268, 2005を参照)、de novoで設計することもできる。これらライブラリーを、BHAPの開発を目的としたポリペプチドのスクリーニングに使用する。さらに、合成ペプチドによるこのようなBHAP前駆体ライブラリーのスクリーニングに加え、少なくとも1種の潜在的COPOS決定基のみならず、変性HIVキャプシドタンパク質(p24)も含む組み換えタンパク質を、リガンドとしてアフィニティー選択に使用した。
【0033】
変性p24と定義したCOPOS含有ペプチドの両方に結合するBHAP前駆体を、さらなる開発のために選択した。初めに、COPOS含有標的ペプチド内の詳細な結合決定基を、ペプチドアレイ技術(例えば、JPT Peptide Technologies GmbHの開発したPepSpotTM ペプチドメンブラン)で明らかにし、これらペプチド(即ち、真性COPOSエレメント)内の最大保存構造に結合するBHAP前駆体を、バイオエンジニアリングによる改良のために選択した。SCA工学に関連した本発明者らの過去の報告(Biochemistry 41:12729-12738, 2003)に記載されている変異導入法の反復およびアフィニティー選択によって、pre−BHAPの結合親和性を最大にし、必要であれば、その結合特異性がp24の最大保存分子決定基(図1参照)に対して偏るようにした。上述したBiochemistryの記事に記載されているエラー導入用PCRまたは類似の方法を用いたランダム変異導入法、およびBHAP内の結合表面に対するターゲット変異導入法の両方、あるいはこれらを組み合わせた手法を用いた。M13誘導ファージミドとヘルパーバクテリオファージ介在手法に基づく典型的なファージディスプレイを、アフィニティー選択および改良BHAP分子の増幅に使用したが、他の関連スクリーニング方法も使用することができる。
【0034】
次に、結合親和性および他の顕著な特性を詳細に特徴付けた。新規なp24検出アッセイを構築するために、そのまま、あるいは種々の融合タンパク質誘導体として使用する至適BHAPの性質には、以下のものが含まれる。1)熱変性HIV p24タンパク質に対する高親和性、好ましくは、解離定数で表して10-12M未満の高親和性、2)関連ウイルス株の99%超における、同種COPOS決定基の絶対的な保存、および3)良好な溶解性と容易な組み換えの大規模製造。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】代表的なHIV株のp24タンパク質のアミノ酸配列。図は、クレードA〜Kおよび最も優勢なM型HIV−1の蔓延している種々の組み換えウイルスのみならず、O型とN型のウイルスおよび関連したチンパンジーのSIVウイルスについての、p24に見られる相対的な保存性残基を示す。スコア1は、保存性が99.75%を超えることを意味し、スコア2は、保存性が99.50%を超えることを意味し、スコア3は、保存性が99.00%を超えることを意味し、スコア4は、保存性が98.00%を超えることを意味し、スコア5は、保存性が97.00%を超えることを意味する(スコアは各残基の上に示した)。Xは、この位置に2つの代替可能な残基が存在し、その保存性が99.75%を超えることを意味する。保存性が97%未満の残基にはスコアをつけなかった。スコアが1または2の残基は太字で示した。潜在的なBHAP標的は下線で示した。下線したペプチド領域内の全てのアミノ酸の側鎖が、BHAP認識に同等に寄与する訳ではないし、中には全く寄与しないものもあることを理解されたい。従って、所望のBHAPの認識モチーフは、例えば、WDRxHPである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
生物学的サンプル中のヒト免疫不全ウイルス(HIV)の存在を検出するための方法であって、
a)p24抗原の短い(典型的には10残基未満の)ペプチド領域内の少なくとも2個または3個のアミノ酸残基の主鎖および側鎖原子によって形成された保存性構造決定基(COPOS)を理論上の標的として結合するバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)を、生物学的サンプルまたはその画分と接触させ、そして
b)バイオ技術適応高親和性ポリペプチドとp24またはその断片との複合体を検出し、該複合体の存在を、サンプル中のHIVの存在の指標とする
ことを包含する方法。
【請求項2】
COPOS結合決定基が、HIV p24抗原内の以下に示す保存性5量体〜9量体ペプチドの内部に位置することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
RTLNAWVK(配列番号1)、
VGGHQAAMQ(配列番号2)、
WDRLHP(配列番号3)、
PRGSDIAG(配列番号4)、
GLNKIV(配列番号5)、
VRMYSP(配列番号6)、
QGPKE(配列番号7)、
FRDYVDRF(配列番号8)、
LRAEQ(配列番号9)、
WMTETLL(配列番号10)、
WMTDTLL(配列番号11)、
QNANPDC(配列番号12)、
EEMMTAC(配列番号13)、および
ACQGVGGP(配列番号14)。
【請求項3】
COPOS結合決定基が、2個〜3個、2個〜4個、2個〜5個、2個〜6個、3個〜4個、3個〜5個、3個〜6個、2個〜7個または3個〜7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
COPOS結合決定基が、2個、3個、4個、5個、6個または7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
該サンプルまたはその画分に含まれるポリペプチドを、上記工程a)を実施する前に変性させることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドがエピトープに対して示す親和性が、10-10M〜10-15Mであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドが、一本鎖抗体またはその誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドが、scFVまたはその誘導体であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドが、結合性ポリペプチドを継続的なバイオパニングに付すことによって得られたものであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
該バイオパニングが、ファージディスプレイシステムに基づくものであることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
エピトープが非免疫原性であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
該サンプルが血液サンプルであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドが標識されていることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
HIV p24抗原の保存領域内に存在する、少なくとも2個または3個の隣接するアミノ酸または非連続的なアミノ酸からなるエピトープに対して、特異的に結合することが可能なバイオ技術適応高親和性ポリペプチドの製造方法であって、
a)p24抗原の公知のアミノ酸配列のコンピューター解析によって、p24抗原内の少なくとも2個のアミノ酸からなる保存領域を選択し、
b)p24抗原から選択した保存領域に基づいて、ペプチドを調製し、
c)結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーに、該ペプチドを接触させ、
d)該ペプチドに対する結合活性を有する結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
e)上記工程d)で単離した粒子から得た核酸または該粒子から誘導した核酸に変異を導入して変異粒子を得、
f)上記工程e)で得た変異粒子に基づいて、結合タンパク質を発現する粒子のライブラリーを作製し、
g)上記工程f)で得たライブラリーに、ペプチドまたはその断片を接触させ、
h)該ペプチドまたはその断片に対する結合活性が改良された結合タンパク質を発現する粒子を単離し、
i)上記工程e)〜h)を一回または二回以上繰り返し、そして
j)上記工程i)で得た粒子から、HIV p24抗原の保存領域内に存在する、少なくとも2個または3個の隣接するアミノ酸または非連続的なアミノ酸からなるエピトープに対して、特異的に結合することが可能なバイオ技術適応高親和性ポリペプチドを得る
ことを包含する方法。
【請求項15】
該ライブラリーが、一本鎖抗体のファージライブラリーであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
該バイオ技術適応高親和性ポリペプチドがエピトープに対して示す親和性が、10-12M〜10-15Mであることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
該ペプチドが、以下のペプチドからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項14に記載の方法。
RTLNAWVK(配列番号1)、
VGGHQAAMQ(配列番号2)、
WDRLHP(配列番号3)、
PRGSDIAG(配列番号4)、
GLNKIV(配列番号5)、
VRMYSP(配列番号6)、
QGPKE(配列番号7)、
FRDYVDRF(配列番号8)、
LRAEQ(配列番号9)、
WMTETLL(配列番号10)、
WMTDTLL(配列番号11)、
QNANPDC(配列番号12)、
EEMMTAC(配列番号13)、および
ACQGVGGP(配列番号14)。
【請求項18】
エピトープが、2個〜3個、2個〜4個、2個〜5個、2個〜6個、2個〜7個、3個〜4個、3個〜5個、3個〜6個または3個〜7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
エピトープが、2個、3個、4個、5個、6個または7個の隣接するアミノ酸残基または非連続的なアミノ酸残基からなることを特徴とする、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
請求項14の方法で得られた、バイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)。
【請求項21】
生物学的サンプル中のHIVのp24抗原を検出するための、請求項20のバイオ技術適応高親和性ポリペプチド(BHAP)の使用。

【図1】
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【公表番号】特表2010−516660(P2010−516660A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−545963(P2009−545963)
【出願日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際出願番号】PCT/FI2008/050012
【国際公開番号】WO2008/087254
【国際公開日】平成20年7月24日(2008.7.24)
【出願人】(508324237)ネクスト バイオメド テクノロジーズ エヌビーティー オイ (2)
【Fターム(参考)】