説明

ヒト成長ホルモンを含有する安定した液状製剤

【課題】ヒト成長ホルモンを含有する安定した液状製剤の提供。
【解決手段】製剤中のヒト成長ホルモンは不安定な傾向があるので、該ヒト成長ホルモンに安定化剤として、L−リジン、L−アルギニン、またはポリエチレングリコール300;及びポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルを含ませた液状製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト(人)成長ホルモン;L−リジン、L−アルギニン、またはポリエチレングリコール300;及びポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルを含有する安定した液状製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒト成長ホルモンは、人の脳下垂体で生成される191個のアミノ酸からなる分子量約22,000Daの単鎖ポリペプチドであり、主に小児の成長ホルモン分泌不全性低身長症治療に使われている(Endocrinol.rev.4,155,1983)。
【0003】
製剤中のヒト成長ホルモンは不安定な傾向があり、溶液中では、脱アミド化体またはスルホキシル化体、および二量体または多量体といったヒト成長ホルモンの分解物が生じやすい。ヒト成長ホルモンにおける主な化学的分解反応は脱アミド化であり、直接的な加水分解、または環状コハク酸イミド中間体を経て、特に149位のアスパラギン残基で脱アミド化が生じやすく、L−asp−hGH、L−iso−asp−hGH、D−asp−hGH、D−iso−asp−hGHが生成する。現在、これら脱アミド化による分解物が毒性を持ったり、または改変した生物学的活性や受容体結合性を持つとは考えられていないが、本来のヒト成長ホルモンに比べてスルホキシド化物の構造的安定性は低い。
【0004】
脱アミド化されたヒト成長ホルモンは、生物学的活性には変化がないが、品質低下を引き起こすという点で医薬品としては望ましくなく、そのため、ヒト成長ホルモンの脱アミド化体の含有許容範囲は、通常、純度の一般規格により規定されている。また、二量体や重合体などの成長ホルモンの凝集物の生成は、免疫原性誘発のような生体安全上の問題点及び浮遊物生成のような外観上問題点を誘発して患者に不愉快感を与える恐れがある。
【0005】
タンパク質の安定性は水分と密接な関連があり、ヒト成長ホルモンの場合にも安定性を高めるために、ほとんどの市販製剤は、使用時に調剤して投薬する凍結乾燥製剤の形態で市販されている。しかし、医者と患者の便宜性を高めるために液状製剤についての研究は近年もさかんに行われている。例えば、ジェネンテック社(Genentech Inc.)のNutropin AQに関連した米国特許第6,448,225号明細書では、ヒト成長ホルモン、マンニトール、緩衝剤及び非イオン性界面活性剤を含有した液状のヒト成長ホルモン製剤について記載しているが、特に、クエン酸緩衝液が望ましいと例示した。また、大韓民国特許出願第10−1999−0001217号は、ヒト成長ホルモンは緩衝液に溶解しないため、ヒト成長ホルモンを、塩化ベンザルコニウムを含有した微酸性緩衝液または弱酸性緩衝液、望ましくは、マレイン酸塩を緩衝剤として使用した緩衝液中に溶解させたものが安定した水性製剤を提供すると開示しており、大韓民国特許出願第10−1998−0052483号明細書は、薬剤学的に安定したヒト成長ホルモンの液状製剤を提供するに当って、酢酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムからなる緩衝液が望ましいと開示している。ノボ・ノルディスクA/S社(Novonordisk A/S)は、大韓民国特許出願第10−1994−0702139号で成長ホルモン;Asp、Ile、Val、LeuまたはHisの群から選択されるアミノ酸またはヒスチジン誘導体、または少なくとも一つの塩基性アミノ酸残基及び少なくとも一つの酸性アミノ酸残基を含むペプチド;ポリソルベートまたはポロキサマーのような非イオン性洗剤を含む薬剤学的調剤物を記載している。この他に現在市販中のノボ・ノルディスクA/S社製のNorditropin SimpleXxは、ヒト成長ホルモン、ヒスチジン緩衝液、非イオン性界面活性剤、塩化ナトリウム、保存剤を含有している。
【0006】
前記のように、成長ホルモンの液状製剤を提供しようとする多様な試みにもかかわらず、依然としてさらに安定した液状製剤を提供する必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ヒト成長ホルモンの液状製剤を提供するに当たって、L−リジンまたはL−アルギニンのような特定のアミノ酸またはポリエチレングリコールを特定の界面活性剤と配合することによって、脱アミド化体の形成及び凝集が最小化して、公知の液状製剤に比べて長期間保管及び便宜性などが向上した安定したヒト成長ホルモン液状製剤を提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の液状製剤を25℃で3ヶ月間保管した場合の、脱アミド化と凝集に対するヒト成長ホルモンの残存率(%)を示すグラフである。
【図2】本発明の液状製剤を2〜8℃で1年間保管した場合の、脱アミド化と凝集に対するヒト成長ホルモンの残存率(%)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
一つの態様として、本発明は、ヒト成長ホルモン;L−リジンまたはL−アルギニン;及びポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルを含む安定な液状製剤を提供するものである。
【0010】
本発明の液状製剤で安定化させようとするヒト成長ホルモンは、天然から得られるものでもよいし、遺伝子組み換え技術を利用して、ヒト成長ホルモンのDNAコーディングにより形質転換された原核生物または真核生物からも得ることができる。遺伝子組み換え技術により宿主として大腸菌または酵母を利用してヒト成長ホルモンを製造する方法は、例えば、文献(大韓民国特許第25013号明細書、または大韓民国特許第316347号公報、または大韓民国特許公開第10−1997−0006498号公報など)に記載されている。前記のヒト成長ホルモンは野生型またはその誘導体でありうる。
【0011】
本発明の液状製剤は、安定化剤としてL−リジンまたはL−アルギニンを含む。これらの安定化剤は、塩の形態、例えば、L−リジン塩酸塩またはL−アルギニン塩酸塩が望ましく使われる。これら安定化剤は、ヒト成長ホルモンの液状製剤において、従来の他のアミノ酸安定化剤に比べて一定時間が経過した後にも凝集が発生しない優秀な効果を奏した。前記の安定化剤は、表8から分かるように、14日経過した後にも凝集が全く発生せず、国際公開特許WO1997/39768号で開示されたヒスチジンに比べて、優秀な安定性を示した。これらの結果は、安定したヒト成長ホルモンの液状製剤を提供するに当たって、安定化剤として単独アミノ酸の使用を開示した前記引用特許及びその他の公知文献では開示されたことのない優秀な効果である。
【0012】
本発明の液状製剤に使われたポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー(ポロキサマー)、マクロゴール−15ポリオキシステアリン酸塩(ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩)またはクレモフォアELP(ポリエチレングリコール−35キャスターオイル)は、非イオン性界面活性剤である。本発明者は、多様な非イオン性界面活性剤のうち、前記のような界面活性剤を特定安定化剤との配合に使用することによって、液状製剤の安定性を高められることを発明した。これら界面活性剤は、従来のポリソルベート類、例えばツイーン20またはツイーン80に比べて脱アミド化及び凝集といった点から優秀な効果を奏した(表5)。ポロキサマーとしては、望ましくは、ポロキサマー188(ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー188)またはポロキサマー407(ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー407)が使われ、さらに望ましくは、ポロキサマー188(ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー188)が使われる。
【0013】
本発明の液状製剤は、さらに当分野で公知の添加剤、例えば、緩衝剤、等張化剤、保存剤または鎮痛剤などを技術的に含むことができる。
【0014】
緩衝剤は、液状製剤のpHを調節するためにヒト成長ホルモンに影響を及ぼさない酢酸、グルタミン酸、乳酸、リンゴ酸、クエン酸、リン酸などを使用でき、クエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムが望ましい。実施例4の結果から分かるように、緩衝剤は、本発明の液状製剤の安定性に影響を及ぼさない。このような結果は、本発明の液状製剤の安定性において優秀な効果が、特定の安定化剤及び特定の界面活性剤の配合により現れるためである。本発明の液状製剤のうち、緩衝剤の濃度は5〜100mM、望ましくは5〜50mMである。
【0015】
等張化剤は、塩化ナトリウム、マンニトール、スクロース、デキストロース、ソルビトールまたはこれらの混合物を使うことが望ましく、さらに、D−マンニトールが望ましい。本発明の液状製剤中の等張化剤の濃度は、望ましくは20〜50mg/mlである。
【0016】
保存剤は、ベンジルアルコール、フェノール、メタクレゾールなどが使われ、このうちベンジルアルコールが望ましい。ベンジルアルコールは、保存剤としてだけでなく鎮痛剤としても使用される。本発明の液状製剤のうち、保存剤の濃度は望ましくは1〜9mg/mlである。
【0017】
具体的な態様としては、本発明の液状製剤は、2.5〜7.5mg/mlのヒト成長ホルモンを含み、L−リジンまたはL−アルギニンは、ヒト成長ホルモン1mg当たり0.01〜1.0w/v%含み、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルは、0.01〜1.0w/v%含む。さらに具体的な様態で、ヒト成長ホルモンは、2.5〜5.5mg/ml、L−リジンまたはL−アルギニンは、ヒト成長ホルモン1mg当たり0.02〜0.5w/v%、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルは、0.1〜0.5w/v%含む。
【0018】
望ましい態様としては、本発明のヒト成長ホルモン液状製剤は、2.5〜5.5mg/mlのヒト成長ホルモン;ヒト成長ホルモン1mg当たり0.02〜0.5w/v%のL−リジンまたはL−アルギニン;0.1〜0.5w/v%のポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイル;5〜20mMのクエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム;20〜50mg/mlのD−マンニトール;1〜9mg/mlのベンジルアルコールを含む。本発明の液状製剤は、pHが弱酸性〜中性、望ましくは、pH5.8〜7.0であり、さらに望ましくは、pH6.0〜6.2である。
【0019】
さらに他の形態として、本発明は、ヒト成長ホルモン;ポリエチレングリコール300;及びポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルを含む安定した液状製剤を提供する。
【0020】
これらの液状製剤に含まれるヒト成長ホルモン、及びポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルは、前述した通りである。
【0021】
本発明の液状製剤は、安定化剤としてポリエチレングリコール300を含む。ポリエチレングリコールは、水だけではなく多様な有機溶媒にも溶解される特性を持つ有効な重合体であって、毒性がなく体内から速かに除去されるので、安定した製薬組成に使われている(国際公開特許WO 01/26692号)。大韓民国特許出願第10−2003−0061434号公報は、非イオン性界面活性剤であるポリソルベートの代わりにポリエチレングリコールを使用し、ベンジルアルコールやフェノールなどの保存剤を添加しないヒト成長ホルモン液状製剤について開示している。しかし、前記大韓民国特許出願は、界面活性剤は使用せず、分子量3,000Da以上であるポリエチレングリコールを0.001〜2mg/mlの濃度で使用することを開示しており、これは、分子量が300Daであるポリエチレングリコール300を特定界面活性剤と配合使用して液状製剤の安定性を高めようとする本発明と対照をなし、本発明の液状製剤は、前記のような特定ポリエチレングリコールと特定界面活性剤との配合使用により凝集発生を抑制することによって、長期間保管の可能な液状製剤が提供できた。
【0022】
前記の本発明の液状製剤は、さらに当分野で公知の添加剤、例えば、緩衝剤、等張化剤、保存剤または鎮痛剤などを含むことができ、これらの緩衝剤、等張化剤、保存剤または鎮痛剤は、前述した通りである。
【0023】
具体的な態様としては、本発明の液状製剤は、2.5〜7.5mg/mlのヒト成長ホルモンを含み、ポリエチレングリコール300は、ヒト成長ホルモン1mg当たり0.1〜5.0v/v%含み、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルは、0.01〜1.0w/v%含む。さらに具体的には、ヒト成長ホルモンは、2.5〜5.5mg/ml、ポリエチレングリコール300は、ヒト成長ホルモン1mg当たり0.2〜1.0v/v%、ポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイルは、0.1〜0.5w/v%含む。
【0024】
望ましい態様としては、本発明のヒト成長ホルモン液状製剤は、2.5〜5.5mg/mlのヒト成長ホルモン;ヒト成長ホルモン1mg当たり0.2〜1.0v/v%のポリエチレングリコール300;0.1〜0.5w/v%のポリ(オキシエチレン)ポリ(オキシプロピレン)コポリマー、ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩またはポリエチレングリコール−35キャスターオイル;5〜20mMのクエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウム;20〜50mg/mlのD−マンニトール;1〜9mg/mlのベンジルアルコールを含み、pHが弱酸性〜中性、望ましくは、pH5.8〜7.0であり、さらに望ましくは、pH6.0〜6.2である。
【実施例】
【0025】
本発明は、以下実施例を通じてさらに具体的に説明される。ただし、これらの実施例は、本発明がさらによく理解されるように例示的に提示されるものであるため、これら実施例で本発明の範囲を限定されるものではない。
【0026】
<実施例1:ヒト成長ホルモンの液状製剤の調製及び分析>
本発明の液状製剤は、凍結乾燥前の粗溶液(Bulk Solution)形態の天然型ヒト成長ホルモン(韓国のデウン社製)4.0mg/ml溶液を、pHを6.0〜6.2の範囲に調節するため、緩衝剤として、酢酸ナトリウム(シグマ社製)/クエン酸ナトリウム(シグマ社製)/燐酸二水素ナトリウム(シグマ社製)10mM水溶液と混合した〜。そして、濃度を調節した後、賦形剤(D−マンニトール(シグマ社製))、界面活性剤{マクロゴール−15ポリオキシステアリン酸塩(Solutol HS 15、BASF社製)/ポロキサマー188(Lutrol F 68、BASF社製)/ポロキサマー407(Lutrol F 127、BASF社製)/クレモフォアELP(BASF社製)/ツイーン20(CRILLET 1 HP、クロダ社製)/ツイーン80(CRILLET 4 HP、クロダ社製)}、安定化剤{ポリエチレングリコール300(PEG 300、BASF社製)/ポリエチレングリコール400(PEG 400、BASF社製)/PVP K−12(Kollidon 12 PF、BASF社製)/PVP K−15(Kollidon 15 PF、BASF社製)/L−リジン(L−Lysine・HCl、シグマ社製)/L−アルギニン(L−Arginine・HCl、シグマ社製)}、保存剤としてベンジルアルコール(韓国のデジョン社製)を混合して調剤した。
【0027】
液状の製剤は製造後、2週間40℃、75RH%の苛酷条件で保管して、経時的な脱アミド化と重合体形成に対するヒト成長ホルモンの安定性試験を実施した。欧州薬局方(EP method;Europian Pharmacopia method)に従い、脱アミド化は逆相HPLC(RP−HPLC)を、二量体/重合体の形成はサイズ排除HPLC(size−exclusion HPLC;SEC−HPLC)により分析した。
【0028】
<実施例2:ヒト成長ホルモンの安定性における界面活性剤の効果の評価>
薬事上使用可能な界面活性剤がヒト成長ホルモンの安定性に及ぼす影響を調べるために、表1に記載された物質を構成成分として、実施例1と同じ方法でヒト成長ホルモンの液状製剤を調製・分析を行った。
【0029】
【表1】

【0030】
前記で調製された液状製剤のヒト成長ホルモンの脱アミド化及び凝集について、界面活性剤の種類による評価結果を表2に記載した。
【0031】
表2は、40℃における活性型ヒト成長ホルモンの残存率を示しており、脱アミド化は、脱アミド化されていない活性型ヒト成長ホルモンの補正残存率(%)であり、凝集は、二量体や重合体が形成されていない活性型ヒト成長ホルモンの補正残存率(%)である。
【0032】
【表2】

【0033】
対照群と比較して、界面活性剤を添加した場合、脱アミド化及び凝集が抑制されたことから、界面活性剤の使用によりヒト成長ホルモンの液状製剤は安定化するということが分かった。
【0034】
<実施例3:ヒト成長ホルモンの安定性における安定化剤の効果の評価>
安定化剤によるヒト成長ホルモンの液状製剤の安定化の効果を調べるために、表3に記載された物質を構成成分として、実施例1と同じ方法でヒト成長ホルモンの液状製剤を調製・分析を行った。
【0035】
【表3】

【0036】
前記で調製された液状製剤の脱アミド化及び凝集について安定化剤の種類による評価結果を表4に記載した。
【0037】
【表4】

【0038】
前記表4から分かるように、いろいろな安定化剤のうち、PEG 300(ポリエチレングリコール300)とアミノ酸類であるL−Lys・HCl、L−Arg・HClとがヒト成長ホルモンの安定性に効果があることを確認し、特にL−リジン、L−アルギニンにおいて、相対的に凝集抑制の効果が現れていることがわかる。
【0039】
<実施例4:ヒト成長ホルモンの安定性における緩衝剤の効果の評価>
実施例3によってヒト成長ホルモンの液状製剤の安定化に寄与すると確認されたポリエチレングリコール300(PEG 300)リジンを使用して、液状製剤の多様な緩衝剤による安定性への影響を調べた。
【0040】
表5に記載された物質を構成成分として、実施例1と同じ方法でヒト成長ホルモンの液状製剤を調製した。
【0041】
【表5】

【0042】
前記調製された液状製剤の緩衝剤の種類による安定性について、40℃における脱アミド化体と二量体/重合体の生成量を測定し、活性型ヒト成長ホルモンの残存率を表6に示した。
【0043】
【表6】

【0044】
従来公知の特許(米国特許出願第6,448,225号、大韓民国特許出願第10−1999−0001217号、大韓民国特許出願第10−1998−0052483号)では、緩衝剤の重要性について記載しているが、前記表によれば、本発明の液状製剤は、一般的に使用されている緩衝剤においては種類による安定性の差はほとんどなかった。
【0045】
<実施形態5:液状製剤の安定性比較>
本発明の液状製剤の安定性を比較実験するために、表7に記載された物質を構成成分として対照群1及び対照群2の液状製剤を調製し、実施例1のヒト成長ホルモンの液状製剤と比較検討した。
【0046】
【表7】

【0047】
前記製造されたヒト成長ホルモンの液状製剤を40℃、75RH%条件で14日間保管し、SEC−HPLCによりソマトロピン(Somatropin)の残存率を確認した。また、2〜8℃で24時間水平攪拌(振幅20mm、220回/分)を行った後の性状について表8に示した。
【0048】
【表8】

【0049】
前記結果によれば、安定化剤が全く含まれていない対照群1は凝集物が最も多く発生し、安定化剤としてヒスチジンを単独で使用した対照群2が、次に凝集物が多く発生した。しかし、本発明の液状製剤は、DWF16を除いては凝集物が全く発生していない。このような結果は、本発明のL−リジンまたはL−アルギニンの特定のアミノ酸またはポリエチレングリコール300の特定の安定化剤が特定の界面活性剤と配合することによって、安定したヒト成長ホルモン液状製剤が製造されうることを示す。
【0050】
また、25℃で3ケ月間及び2〜8℃で1年間におけるソマトロピンの経時的な残存率を表9及び図1と図2に示した。
【0051】
【表9】

【0052】
前記表9及び図1と図2から分かるように、本発明の液状製剤は、少なくとも1年間安定性を保持して長期間保管が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明は、ヒト成長ホルモンの液状製剤が持つ問題点を克服するために、特定安定化剤と特定界面活性剤とを配合使用することによって、ヒト成長ホルモンの脱アミド体形成に対する安定性が高く、特に重合体形成などの凝集に優秀な安定性を示して、流通や保管時における外部からのストレスに強い、非常に安定した液状製剤を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒト成長ホルモン;ポリエチレングリコール300;及びポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩を含む、液状製剤。
【請求項2】
ヒト成長ホルモンの量は、2.5〜5.5mg/mlであり、
ポリエチレングリコール300の量は、ヒト成長ホルモン1mg当たり、0.2〜1.0v/v%であり、
ポリエチレングリコール−15ポリオキシステアリン酸塩の量は、0.1〜0.5w/v%である、請求項1に記載の液状製剤。
【請求項3】
緩衝剤、等張化剤、保存剤及び鎮痛剤から選択される一つ以上をさらに含む請求項1または2に記載の液状製剤。
【請求項4】
クエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムと、D−マンニトールと、ベンジルアルコールと、をさらに含み、
クエン酸ナトリウムまたは酢酸ナトリウムの量は、5〜20mMであり、
D−マンニトールの量は、20〜50mg/mlであり、
ベンジルアルコールの量は、1〜9mg/mlである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の液状製剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−56917(P2013−56917A)
【公開日】平成25年3月28日(2013.3.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−248819(P2012−248819)
【出願日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【分割の表示】特願2009−517937(P2009−517937)の分割
【原出願日】平成18年7月6日(2006.7.6)
【出願人】(506122512)デウン カンパニー,リミテッド (6)
【Fターム(参考)】