説明

ヒドロキシアルキルセルロース組成物

【課題】水への分散性及び溶解性に優れ、かつ、水溶液の透明性が高いヒドロキシアルキルセルロース組成物を提供すること。
【解決手段】ヒドロキシアルキルセルロース100質量部に対して、脂肪酸エステル0.1〜5質量部を含有するヒドロキシアルキルセルロース組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料や化粧料等の増粘剤、乳化重合用の安定剤、医薬用錠剤の結合剤、フィルムコーティング材料等の種々の用途に用いられるヒドロキシアルキルセルロース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヒドロキシアルキルセルロースは、塗料や化粧料等の増粘剤、乳化重合用の安定剤、医薬用錠剤の結合剤、フィルムコーティング材料等の種々の用途に用いられている。
【0003】
ヒドロキシアルキルセルロースを前記用途に使用する場合、例えば、ヒドロキシアルキルセルロースを水等に溶解して使用する。しかしながら、ヒドロキシアルキルセルロースは水溶性が高いため、粒子を水に投入した際に、粒子表面が直ちにゲル化し、そのゲル化したものが凝集(ママコ現象)することにより未溶解物が残存しやすい。
【0004】
このママコ現象を防止するため、あらかじめアルデヒド(グリオキサール)で前処理した水酸基を含有する水溶性高分子物質を水に投入するかもしくは水で膨潤した後、その溶液のpHをアルカリ性の範囲に変える方法が知られている(特許文献1参照)。
【0005】
また、グリオキサールを使用しない系として、微粒子状のヒドロキシエチルセルロース、及び、低分子量のヒドロキシエチルセルロース組成物を含む、凝集したヒドロキシエチルセルロース組成物を使用することで、ママコを防止する方法が知られている(特許文献2参照)。
【0006】
一方、水溶性高分子化合物粉末に脂肪酸(R-COOH)を配合することにより、吸湿による団塊化防止、水溶解時に於ける水分散性が改良されることが知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭42−6674号公報
【特許文献2】特表2010−515735号公報
【特許文献3】特開昭55−127447号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されたグリオキサールは、労働安全衛生法の既存化学物質点検変異原性の分類で強度の変異原性が認められている。また、化学物質排出把握管理促進法(PRTR法)では第一種指定化学物質に該当しており、人体に対する安全性、環境面での問題が懸念されている。また、ママコ防止には、pHの調整が必要であったり、乾燥工程での熱により黄色化が生じる等の問題がある。
【0009】
特許文献2に開示された方法では、溶解速度が遅く、高粘度のヒドロキシエチルセルロースを用いる場合のママコ防止効果に問題がある。
【0010】
一方、特許文献3に開示された脂肪酸(R-COOH)の添加系では、ママコ防止性能はある程度達成されるが、水溶液の透明性の低下や粘性の増加等の現象が認められ、製品の性能面で問題がある。
【0011】
本発明の課題は、水への分散性及び溶解性に優れ、かつ、水溶液の透明性が高いヒドロキシアルキルセルロース組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、前記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、ヒドロキシアルキルセルロースに対して、特定量の脂肪酸エステルを含有するヒドロキシアルキルセルロース組成物が水への分散性、溶解性に優れ、かつ、水溶液の透明性が高いことを見出し、本発明を完成するに到った。
【0013】
本発明は、ヒドロキシアルキルセルロース100質量部に対して、脂肪酸エステル0.1〜5質量部を含有するヒドロキシアルキルセルロース組成物に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物は、水への分散性に優れているため溶解時にママコの発生がなく、溶解性が良好なため溶解時間の短縮に繋がるとともに、水溶液とした際に優れた透明性を示すという優れた効果を奏するものである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物は、ヒドロキシアルキルセルロースと、脂肪酸エステルとを含有している。
【0016】
本発明におけるヒドロキシアルキルセルロースとしては、例えば、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシブチルセルロース等が挙げられる。これらの中でも、増粘特性に優れている観点からヒドロキシエチルセルロースが好ましい。
【0017】
ヒドロキシアルキルセルロースは、セルロースをアルカリ水溶液で処理して得られるアルカリセルロースを反応溶媒中でアルキレンオキシドと反応させることによって得られる。
【0018】
セルロースとしては、例えば、シート状、粉末状等のコットンリンター、木材パルプ等が挙げられる。アルカリ水溶液としては、特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物の水溶液等が挙げられる。これらの中では、安価であることから水酸化ナトリウムの水溶液が好ましい。アルカリ水溶液の濃度は、特に限定されないが、通常、10〜30質量%程度が好ましい。アルカリセルロースを製造する際のアルカリ水溶液の使用量は、スラリーの流動性を向上させ、セルロースとアルカリとの反応が局部的に進行するのを回避する観点及び容積効率を向上させる観点から、セルロース100質量部に対して1000〜6000質量部、好ましくは2000〜5000質量部であることが望ましい。
【0019】
セルロースをアルカリ水溶液で処理する方法としては、例えば、浸漬、混合等の方法が挙げられる。より具体的には、セルロースをアルカリ水溶液に浸漬し、攪拌翼を備えた容器内で、通常、20〜50℃で20分間〜2時間程度混合してアルカリを作用させた後、加圧濾過して、アルカリ水溶液を圧搾除去する方法等が挙げられる。
【0020】
次に、得られたアルカリセルロースを反応溶媒中でアルキレンオキシドと反応させることにより、粗ヒドロキシアルキルセルロースを得ることができる。
【0021】
アルキレンオキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド及びブチレンオキシド等の炭素数2〜6のアルキレンオキシド等が挙げられる。中でも、アルカリセルロースと反応しやすいという観点から、エチレンオキシドが好ましい。
【0022】
前記アルキレンオキシドの使用量は、目的とするアルキル基の付加モル数に応じて決定される。例えば、アルキレンオキシドとしてエチレンオキシドを用いる場合には、エチレンオキシドの使用量は、セルロースへの付加量を増大させ、ヒドロキシアルキルセルロースの溶解性を高める観点及びヒドロキシアルキルセルロースの収率を高める観点から、セルロース100質量部に対して、60〜200質量部が好ましく、80〜180質量部がより好ましい。
【0023】
反応溶媒としては、特に限定されないが、例えば、イソプロピルアルコール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、イソアミルアルコール等のアルコール類;ジオキサン、1,2−ジメトキシエタン等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類等が挙げられる。
【0024】
反応溶媒の使用量は、アルキレンオキシドが局部的にセルロースに付加することを回避する観点及び容積効率を高める観点から、アルカリセルロース100質量部に対して、20〜800質量部が好ましく、20〜600質量部がより好ましい。
【0025】
反応温度は、反応を促進させることによって反応時間を短縮させる観点及び反応が急激に進行するのを回避し、温度及び圧力の制御を容易にする観点から、通常、30〜80℃が好ましく、40〜60℃がより好ましい。
【0026】
なお、反応時間は、反応温度により異なるので一概には決定することができないが、通常1〜5時間程度が好ましい。
【0027】
反応終了後に得られるヒドロキシアルキルセルロースに対して、中和剤を用いた中和造粒処理を施し、引き続いて常圧又は減圧下で乾燥及び粉砕を行ってもよい。中和剤としては、特に限定されるものではないが、硝酸、硫酸、塩酸等の無機酸;蟻酸、酢酸、プロピオン酸等の有機酸等が挙げられる。これらの中では、得られたヒドロキシアルキルセルロースから余剰の酸を容易に除去することができ、有害性が小さい観点から、有機酸が好ましく、酢酸がより好ましい。
【0028】
また、中和造粒処理前に、ヒドロキシアルキルセルロースに対して混合溶液を添加して洗浄し、余剰のアルカリ金属水酸化物、アルキレンオキシド、その両者から副成したアルキレングリコール類等のヒドロキシアルキルセルロース以外の不純物の除去を行ってもよい。
【0029】
洗浄に用いる混合溶液としては、特に限定されないが、余剰のアルカリや中和により生成した塩を効率的に除去することができる観点から、反応で使用した水溶性有機溶媒に親水性溶剤と水を添加した混合溶媒が好ましい。混合溶媒の具体例としては、イソプロピルアルコール/メタノール/水、イソブチルアルコール/メタノール/水、tert-ブチルアルコール/メタノール/水、アセトン/メタノール/水、メチルブチルケトン/メタノール/水、メチルイソブチルケトン/メタノール/水、メチルイソブチルケトン/イソプロピルアルコール/水、メチルイソブチルケトン/tert-ブチルアルコール/水等が挙げられる。これらの中では、洗浄効率が高く、かつ溶媒を容易に蒸留回収することができる観点から、反応時に使用した反応溶媒にメタノール及び水を添加した混合溶液が好ましい。このときのメタノールの量は混合溶液の全量中、通常20〜60重量%程度が好ましく、水の量は混合溶液の全量中、通常5〜30重量%程度が好ましい。
【0030】
混合溶液の使用量は、洗浄が十分行われないことを回避し、使用量に見合う効果がなく、非経済的となることからの回避を目的として、アルカリセルロースを製造する際に原料として用いたセルロース100質量部に対して、通常500〜6000質量部程度が好ましく、1000〜4000質量部がより好ましい。かかる洗浄処理は、少なくとも一回以上行えばよい。
【0031】
さらに、単離したヒドロキシアルキルセルロースを必要に応じて、常圧又は減圧下で乾燥及び粉砕してもよい。
【0032】
本発明における脂肪酸エステルとしては、炭素数4〜30の、飽和又は不飽和脂肪酸と炭素数1〜22の1価アルコールとのエステルが好ましい。
【0033】
飽和脂肪酸の具体例としてはカプロン酸、エナント酸、カプリル酸、オクチル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、イソステアリン酸、ツベルクロステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸等が挙げられる。
【0034】
不飽和脂肪酸の具体例としては、クロトン酸、ミリストレイン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、ピノレン酸、エレオステアリン酸、ステアリドン酸、ボセオペンタエン酸、ガドレイン酸、エイコセン酸、エイコサジエン酸、ミード酸、エイコサトリエン酸、アラキドン酸、エイコサテトラエン酸、エイコサペンタエン酸、エルカ酸、アドレン酸、オズボンド酸、イワシ酸、ドコサヘキサエン酸、ネルボン酸、テトラコペンタエン酸、ニシン酸及び天然油脂脂肪酸であるオリーブ油脂肪酸、菜種油脂肪酸、パーム油脂肪酸、べに花油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、ひまわり油脂肪酸、綿実油脂肪酸、ゴマ油脂肪酸、シソ油脂肪酸、キリ油脂肪酸、ヒマシ油脂肪酸等が挙げられる。
【0035】
炭素数1〜22の1価アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、アミルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、エチルヘキシルアルコール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、イソドデシルアルコール、トリデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、セチルアルコール、イソセチルアルコール、ヘキシルデシルアルコール、ヘプタデシルアルコール、オクタデシルアルコール、イソステアリルアルコール、セテアリルアルコール、オレイルアルコール、ノナデシルアルコール、アラキルアルコール、オクチルドデシルアルコール、ベヘニルアルコール等が挙げられる。
【0036】
脂肪酸エステルの具体例としては、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリル酸セチル、カプリル酸オクタデシル、カプリン酸エチル、ラウリン酸イソプロピル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸ドデシル、ラウリン酸イソステアリル、ラウリン酸セチル、ラウリル酸イソセチル、ミリスチン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸デシル、ミリスチン酸イソトリデシル、ミリスチン酸テトラデシル、ミリスチン酸セチル、ミリスチン酸イソセチル、ミリスチン酸イソステアリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、パルミチン酸エチル、パルミチン酸イソプロピル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸ドデシル、パルミチン酸エチルヘキシル、パルミチン酸セチル、パルミチン酸ヘキシルデシル、パルミチン酸オクタデシル、パルミチン酸イソステアリル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸イソブチル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸エチルヘキシル、ステアリン酸トリデシル、ステアリン酸セチル、ステアリン酸イソセチル、ステアリン酸セテアリル、ステアリン酸オクタデシル、ステアリン酸オクチルドデシル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸ヘキシル、イソステアリン酸トリデシル、イソステアリン酸イソステアリル、イソステアリン酸オクチルドデシル、クロトン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ドデシル、オレイン酸イソドデシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸オクチルドデシル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸オレイル、リノレン酸エチル、ヤシ油脂肪酸エチル等が挙げられる。
【0037】
これらの中でも、得られるヒドロキシアルキルセルロース組成物が、水等への分散性に優れ、溶解速度が速く、透明性も高い観点から、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸エチルヘキシル、ステアリン酸オクタデシル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸トリデシル、クロトン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸オレイル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸オレイル、リノレン酸エチル及びヤシ油脂肪酸エチルからなる群より選ばれた少なくとも1種が好ましく、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、クロトン酸エチル及びオレイン酸エチルからなる群より選ばれた少なくとも1種がより好ましい。なお、これらの脂肪酸エステルは、それぞれ単独で使用されていても、2種以上を組み合わせて用いられていてもよい。
【0038】
脂肪酸エステルの使用量は、ヒドロキシアルキルセルロース100質量部に対して、0.1〜5質量部であり、好ましくは、0.2〜4質量部である。使用量が0.1質量部未満の場合、得られるヒドロキシアルキルセルロース組成物の水への分散性が悪くなる。使用量が5質量部を超える場合、得られるヒドロキシアルキルセルロース組成物を用いた水溶液の透明性が悪くなる。
【0039】
本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物の製造方法には、特に限定がない。本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物は、例えば、脂肪酸エステルを溶剤に溶解した溶液をヒドロキシアルキルセルロースに添加する方法によって調製することができる。より具体的には、ヒドロキシアルキルセルロースを製造する工程において、乾燥工程の前又は後に脂肪酸エステルを溶剤に溶解した溶液を添加するのが好ましい。
【0040】
脂肪酸エステルを溶解する溶剤としては、特に限定されないが、ヒドロキシアルキルセルロース粒子の表面に均一に分散させる観点から、脂肪酸エステルを溶解する溶剤で、アルカリセルロースにアルキレンオキシドを付加する反応で使用した水溶性有機溶剤に親水性溶剤を添加した混合溶媒が好ましい。混合溶媒の具体例としては、イソプロピルアルコール/メタノール、イソブチルアルコール/メタノール、tert-ブチルアルコール/メタノール、アセトン/メタノール、メチルブチルケトン/メタノール、メチルイソブチルケトン/メタノール、メチルイソブチルケトン/イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン/tert-ブチルアルコール等が挙げられる。これらの中では、溶媒を容易に蒸留回収することができる観点から、反応時使用した反応溶媒にメタノールを添加した混合溶液が好ましい。このときのメタノールの量は混合溶液の全量中、通常20〜60質量%程度が好ましく、脂肪酸エステルの溶解性を損なわない程度に水を添加してもよい。混合溶剤の使用量は脂肪酸エステルが均一分散されないことを回避し、使用量に見合う効果がなく、非経済的となることの回避を目的として、アルカリセルロースを製造する際に原料として用いたセルロース100質量部に対して、通常50〜500質量部程度が好ましく、100〜400質量部がより好ましい。
【0041】
ヒドロキシアルキルセルロースと脂肪酸エステルとの混合は、脂肪酸エステルが均一分散されないことを回避する観点から、加熱条件下で行うことが好ましい。加熱温度としては、ヒドロキシアルキルセルロースの熱安定性の観点から、20〜80℃程度が好ましい。
【0042】
本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物は、水等への分散性に優れ、溶解速度が速く、透明性も高い特徴を有している。
【0043】
ここで、ヒドロキシアルキルセルロース組成物の水への分散性は、ヒドロキシアルキルセルロース組成物を一度に水に投入した際の、ママコの発生状態によって判断できる。具体的には、水に投入したヒドロキシアルキルセルロース組成物が透明ゲル状になり、ママコの発生がなく分散するのに要する時間が所定の時間以内であれば、水への分散性に優れたヒドロキシアルキルセルロース組成物と判断できる。
【0044】
ヒドロキシアルキルセルロース組成物の水への溶解速度は、ヒドロキシアルキルセルロース組成物を攪拌しながら水に投入し、時間ごとに粘度(mPa・s)を測定し最終到達粘度に達するのに要する時間によって判断できる。この時間が所定の時間以内であれば、水への溶解性に優れていると判断できる。なお、水溶液の粘度は、BH型回転粘度計を用いて温度25℃の条件下で測定されるものである。
【0045】
また、水溶液の透明性は、濁度計(三菱化学株式会社製、積分球式濁度計SEP-PT-706D)を用いて測定される濁度(ppm)で判断でき、水溶液の濁度が20ppm以下であれば、透明性の高い水溶液と判断できる。水溶液の濁度が20ppmを超える場合、例えば、化粧品等に使用した際に見た目(意匠性)が悪くなる、という不具合が発生するおそれがある。
【0046】
前記水等への分散性に優れる作用を発現する機構は、解明されているわけではないが、一般にヒドロキシアルキルセルロースは粉末状であり、また親水性が高いため、水等に分散させる際に粉体を投入直後に水を吸水し粒子表面がゲル状になりその粘着力で塊状物(ママコ)を生成する。一度ママコが生成すると粒子内部まで水が浸透しにくくなり均一な分散液を得ることが困難となる。しかしながら、本発明の組成物においては、粒子の表面を特定の脂肪酸エステルでやや疎水性にすることにより、水に分散させる際にママコの発生がなく優れた分散性を実現するものと推測される。
【0047】
また、前記水溶液の透明性が高くなる作用を発現する機構は、解明されているわけではないが、前記特定の脂肪酸エステルは、ヒドロキシアルキルセルロースと親和性が良く、その結果、水溶液の透明性が高くなるものと推測される。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例によってなんら限定されるものではない。
【0049】
ヒドロキシアルキルセルロースの製造例1
セルロースとして微細に粉砕された木材パルプ50gを20重量%水酸化ナトリウム水溶液2000gに浸漬し、5L容のフラスコ内で30℃、30分間混合攪拌してアルカリを作用させた。その後、得られた混合物を加圧濾過により水酸化ナトリウム水溶液を圧搾除去し、さらに解砕してアルカリセルロース150gを得た。
【0050】
1L容のニーダーに、得られたアルカリセルロース150g、エチレンオキシド75g及びメチルイソブチルケトン50gを15℃で仕込み、引き続いて同温度で30分間混合した後、50℃に昇温して3時間反応させた。
【0051】
次に、得られた反応物にメチルイソブチルケトン450g、メタノール450g及び水100gからなる混合溶媒を加えてスラリーとした。得られたスラリーを数分間静置した後、ヒドロキシエチルセルロースを濾別した。
【0052】
さらに、濾別したヒドロキシエチルセルロースにメチルイソブチルケトン225g、メタノール225g及び水50gからなる混合溶媒を加えてスラリーとし、前記と同様にして濾別した。この操作を2回繰り返し、粗ヒドロキシエチルセルロース198gを得た。
【0053】
得られた粗ヒドロキシエチルセルロースを1L容のニーダーに入れ、10重量%酢酸水溶液50gを仕込み、20℃で30分間攪拌混合した。
【0054】
次に、得られた混合物を減圧下に70℃で一昼夜乾燥して、粒子状のヒドロキシエチルセルロース(ヒドロキシエチルセルロースA)75gを得た。
【0055】
ヒドロキシアルキルセルロースの製造例2
セルロースとして微細に粉砕されたリンターパルプ50gを20重量%水酸化ナトリウム水溶液2000gに浸漬し、5L容のフラスコ内で30℃、30分間混合攪拌してアルカリを作用させた。その後、得られた混合物を加圧濾過により水酸化ナトリウム水溶液を圧搾除去し、さらに解砕してアルカリセルロース160gを得た。
【0056】
1L容のニーダーに、得られたアルカリセルロース160g、エチレンオキシド80g及びメチルイソブチルケトン80gを15℃で仕込み、引き続いて同温度で30分間混合した後、50℃に昇温して3時間反応させた。
【0057】
次に、得られた反応物にメチルイソブチルケトン500g、メタノール450g及び水50gからなる混合溶媒を加えてスラリーとした。得られたスラリーを数分間静置した後、ヒドロキシエチルセルロースを濾別した。
【0058】
さらに、濾別したヒドロキシエチルセルロースにメチルイソブチルケトン250g、メタノール225g及び水25gからなる混合溶媒を加えてスラリーとし、前記と同様にして濾別した。この操作を3回繰り返し、粗ヒドロキシエチルセルロース208gを得た。
【0059】
得られた粗ヒドロキシエチルセルロースを1L容のニーダーに入れ、10重量%酢酸水溶液50gを仕込み、20℃で30分間攪拌混合した。
【0060】
次に、得られた混合物を減圧下に70℃で一昼夜乾燥して、粒子状のヒドロキシエチルセルロース(ヒドロキシエチルセルロースB)80gを得た。
【0061】
実施例1
ヒドロキシエチルセルロースA 75gを300mL容のニーダーに入れ、オレイン酸エチル(日油株式会社製、NOFABLE EO-85S)0.375g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して0.5質量部)をメチルイソブチルケトン99gに溶解した液を攪拌下で仕込み、50℃に昇温して1時間混合し減圧下、70℃で一昼夜乾燥して、ヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0062】
実施例2
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gをクロトン酸エチル(和光純薬製、試薬1級)0.75g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して1.0質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物76gを得た。
【0063】
実施例3
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gをカプリン酸エチル(和光純薬製、試薬1級)3g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して4.0質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物78gを得た。
【0064】
実施例4
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gをカプロン酸エチル(和光純薬製、試薬1級)0.188g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して0.25質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0065】
実施例5
ヒドロキシエチルセルロースB 75gを300mL容のニーダーに入れ、オレイン酸エチル(日油株式会社製 NOFABLE EO-85S)0.75g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して1.0質量部)をメチルイソブチルケトン69.3gとメタノール29.7gの混合溶媒に溶解した液を攪拌下で仕込み、50℃に昇温して1時間混合し減圧下、70℃で一昼夜乾燥して、ヒドロキシエチルセルロース組成物76gを得た。
【0066】
実施例6
実施例5においてオレイン酸エチル0.75gをカプリル酸エチル(和光純薬製、試薬1級)0.375g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して0.5質量部)に変更した以外は、実施例5と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0067】
実施例7
実施例5においてオレイン酸エチル0.75gをカプリン酸エチル(和光純薬製、試薬1級)1.5g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して2.0質量部)に変更した以外は、実施例5と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物77gを得た。
【0068】
比較例1
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gを使用しなかった以外は、実施例1と同様にして、ヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0069】
比較例2
実施例5においてオレイン酸エチル0.75gを使用しなかった以外は実施例5と同様にして、ヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0070】
比較例3
ヒドロキシエチルセルロースB 75gを300mL容のニーダーに入れ、10重量%グリオキサ
ール(日本合成化学工業株式会社製)2.5g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して0.33質量部)をメチルイソブチルケトン99gに溶解した液を攪拌下で仕込み、50℃に昇温して1時間混合し減圧下、70℃で一昼夜乾燥して、ヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0071】
比較例4
実施例5においてオレイン酸エチル0.75gをカプリル酸エチル(和光純薬製、試薬1級)0.0375g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して0.05質量部)に変更した以外は、実施例5と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0072】
比較例5
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gをカプリン酸エチル(和光純薬製、試薬1級)4.5g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して6.0質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物79gを得た。
【0073】
比較例6
実施例5においてオレイン酸エチル0.75gをラウリン酸(和光純薬製、試薬1級)0.75g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して1.0質量部)に変更した以外は、実施例5と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物76gを得た。
【0074】
比較例7
実施例1においてオレイン酸エチル0.375gをオレイン酸(和光純薬製、試薬1級)0.75g(ヒドロキシエチルセルロース100質量部に対して1.0質量部)に変更した以外は、実施例1と同様にしてヒドロキシエチルセルロース組成物75gを得た。
【0075】
実施例及び比較例により得られたヒドロキシエチルセルロース組成物について、以下の方法により、分散時間、溶解速度及び水溶液の濁度を測定し、評価した。なお、測定用の試験サンプルとしては850μmの篩いで篩ったパス品を用いた。結果を表1に示す。
【0076】
(1)攪拌分散時間
(a) 分散時間(ママコが無くなる時間)
200mL(ミリリットル)容のビーカーに、イオン交換水147gを入れ、マグネチックスターラー(回転子:13φ*39mmL)を用いて、回転速度500r/minで攪拌しながら、ヒドロキシアルキルセルロース組成物3gを一気に投入し、該ヒドロキシアルキルセルロース組成物の分散状態を目視で観察して、該ヒドロキシアルキルセルロース組成物がママコを生成することなしにすべて分散するのに要する時間を測定する。分散するのに要する時間が10分間以下であれば、分散性に優れていると判断できる。なお、60分間を超えても分散せずに、ママコが発生していた場合は、分散時間を「60<」と評価する。
(b) 粘度発現時間
攪拌による渦巻きがなくなり、液面が水平になる時間を測定する。
【0077】
(2)溶解速度
500mL容のビーカーにイオン交換水245gを入れ、4枚羽根パドル(翼径:50mm)を備えた攪拌機を用いて、回転速度700r/minで攪拌しながら、ヒドロキシエチルセルロース5gをママコにならない様に徐々に投入し、5分、10分、20分、30分、60分、120分ごとに粘度(mPa・s)を測定して、最終到達粘度に達するのに要する時間を測定する。当該時間が20分以下であれば溶解性に優れていると判断できる。得られたヒドロキシエチルセルロース組成物の水溶液粘度は、B型回転粘度計(芝浦システム株式会社製の品番:VS-H1型)を用い、25℃、20r/minの条件で測定する。
【0078】
(3)濁度
(2)溶解速度の試験で得られた最終粘度に到達したサンプルを濁度計(三菱化学株式会社製、積分球式濁度計 SEP-PT-706D)を用いて測定した。
【0079】
【表1】

【0080】
表1より、実施例1〜7により得られたヒドロキシエチルセルロース組成物は、水への分散性に優れ短時間に粘性が発現し、透明性の高い水溶液が得られることが分かる。
これに対して、脂肪酸エステルを配合していない比較例1、2及び脂肪酸エステルの配合量が少なすぎる比較例4のヒドロキシエチルセルロース組成物は、水への分散性に欠け、溶解速度も遅い。従来使用されているグリオキサールを添加した比較例3のヒドロキシエチルセルロース組成物は水への分散性には優れているが、溶解速度が遅い。
また、脂肪酸エステルの配合量が多すぎる比較例5は水溶液の透明性が悪化し品質上問題がある。脂肪酸エステルの変わりに脂肪酸を使用した比較例6、7は、水溶液の粘性が増加し透明性が悪化している。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明のヒドロキシアルキルセルロース組成物は、塗料や化粧料等の増粘剤、乳化重合用の安定剤、医薬用錠剤の結合剤、フィルムコーティング材料等として用いられ得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシアルキルセルロース100質量部に対して、脂肪酸エステル0.1〜5質量部を含有するヒドロキシアルキルセルロース組成物。
【請求項2】
脂肪酸エステルが、炭素数4〜30の、飽和又は不飽和脂肪酸と炭素数1〜22の1価アルコールとのエステルである請求項1記載のヒドロキシアルキルセルロース組成物。
【請求項3】
脂肪酸エステルが、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、ステアリン酸エチル、ステアリン酸イソプロピル、ステアリン酸オクチル、ステアリン酸エチルヘキシル、ステアリン酸オクタデシル、イソステアリン酸エチル、イソステアリン酸トリデシル、クロトン酸エチル、オレイン酸メチル、オレイン酸エチル、オレイン酸オクチル、オレイン酸ドデシル、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸オレイル、リノール酸エチル、リノール酸イソプロピル、リノール酸オレイル、リノレン酸エチル及びヤシ油脂肪酸エチルからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項2記載のヒドロキシアルキルセルロース組成物。
【請求項4】
脂肪酸エステルが、カプロン酸エチル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチル、クロトン酸エチル及びオレイン酸エチルからなる群より選ばれた少なくとも1種である請求項3記載のヒドロキシアルキルセルロース組成物。

【公開番号】特開2013−32325(P2013−32325A)
【公開日】平成25年2月14日(2013.2.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−169967(P2011−169967)
【出願日】平成23年8月3日(2011.8.3)
【出願人】(000195661)住友精化株式会社 (352)
【Fターム(参考)】