説明

ヒドロキシヒドロキノンの除去方法

【課題】 ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液から選択的にヒドロキシヒドロキノンを除去する方法の提供。
【解決手段】 ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液を、SiO2 /Al23 比が3〜5の酸性白土と接触させることによるヒドロキシヒドロキノンの除去方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液からヒドロキシヒドロキノンを選択的に除去する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
活性酸素の一つである過酸化水素は、変異原性、癌原性等の他、動脈硬化症、虚血性心疾患等の循環器系疾患、消化器疾患、アレルギー疾患、眼疾患など多くの疾患に深く関与しているといわれている(非特許文献1)。一方、コーヒーには、焙煎によって自然発生する過酸化水素が含まれており(非特許文献2)、カタラーゼ、ペルオキシダーゼ、抗酸化剤(特許文献1〜4)等を添加することにより、コーヒー中の過酸化水素を除去する技術が報告されている。
【非特許文献1】栄養―評価と治療 19,3 (2002)
【非特許文献2】Mutat. Res. 16,308(2) (1994)
【特許文献1】特公平4−29326号公報
【特許文献2】特開平3−127950号公報
【特許文献3】特開平11−266842号公報
【特許文献4】特開2003−81824号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、過酸化水素を除去したコーヒーをラットに飲用させたところ、体内で過酸化水素が生成し、尿中過酸化水素濃度が上昇することを発見した。さらに、この生体内で過酸化水素を生成する原因はコーヒー中に含まれるヒドロキシヒドロキノンであることを見出した。したがって、コーヒー中からヒドロキシヒドロキノンを除去することが望ましい。
【0004】
一方、コーヒーには優れた血圧降下作用を示すカフェオイルキナ酸が含まれており、かかる有効成分が過酸化水素やヒドロキシヒドロキノン除去の工程で減少することは望ましくない。従って、コーヒー中のカフェオイルキナ酸類の減少を最小限にしつつヒドロキシヒドロキノンを選択的に除去する技術の開発が望まれる。
【0005】
本発明は、ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液より選択的にヒドロキシヒドロキノンを除去する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液から選択的にヒドロキシヒドロキノンを除去する方法を検討した結果、特定の酸性白土に当該水溶液を接触させることにより、上記目的を達成できることを見出した。
【0007】
すなわち本発明は、ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液を、SiO2 /Al23 比が3〜5の酸性白土と接触させることによるヒドロキシヒドロキノンの除去方法である。
また、本発明は、当該除去方法により得られる、水溶液中の(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)が質量比で0〜0.005であるカフェオイルキナ酸含有水溶液である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液を特定の酸性白土と接触させることにより、カフェオイルキナ酸をほとんど減少させることなく簡便にヒドロキシヒドロキノンを除去することを可能とし、健康食品等の製造方法として有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液は、特に限定されないが、例えばブラジル、コロンビア、タンザニア、モカ等のコーヒーが挙げられる。コーヒー種としては、アラビカ種、ロブスタ種などがある。コーヒー豆は1種でもよいし、複数種をブレンドして用いてもよい。焙煎コーヒー豆の焙煎方法については特に制限はなく、焙煎温度、焙煎環境についても何ら制限はないが、焙煎度L値は18以上が好ましく、さらに好ましくは20以上、特に好ましくは22〜30である。豆からの抽出方法についても何ら制限はない。抽出液を得るには温水、好ましくは熱水を用いて抽出することができる。抽出操作はバッチ式、又はカラムによる連続式等の従来既知の抽出方法をそのまま採用することができる。
【0010】
本発明におけるカフェオイルキナ酸としては、3−カフェオイルキナ酸、4−カフェオイルキナ酸、5−カフェオイルキナ酸、3,4−ジカフェオイルキナ酸、4,5−ジカフェオイルキナ酸、3,5−ジカフェオイルキナ酸及びその塩が挙げられる。
【0011】
コーヒーに代表される、ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液中のカフェオイルキナ酸濃度は、0.01〜2質量%、さらに0.03〜1質量%、特に0.06〜0.5質量%であることが好ましい。
【0012】
本発明に使用した白土以外の通常使用され得る白土ではカフェオイルキナ酸も同時に吸着してしまい、ヒドロキシヒドロキノンを選択的に除去することができなかった。本発明に用いる酸性白土は、天然に産出する酸性白土(モンモリロナイト系粘土)であり、大きい比表面積と吸着能を有する多孔質構造をもった化合物である。酸性白土は、一般的な化学成分として、SiO2 、Al23 、Fe23 、CaO、MgOなどを有するが、本発明に使用する場合、SiO2 /Al23 比は3〜5であるが、好ましくは4〜5である(110℃乾燥物、質量比)。また、比表面積は、50〜350m2 /gが好ましく、pH(5%サスペンジョン)は、5〜10の範囲のものが好ましく、さらに好ましくは6〜9.8、特に7〜9.4が好ましい。ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸含有水溶液と酸性白土との接触処理はバッチ式、カラムによる連続処理等のいかなる方法も採用することができる。
【0013】
一般的には粉末状酸性白土を添加、撹拌しヒドロキシヒドロキノンを吸着後、濾過操作によりヒドロキシヒドロキノンを除去した濾液を得る方法、あるいは顆粒状の酸性白土を充填したカラムを用いて連続処理によりヒドロキシヒドロキノンを吸着する方法が採用される。上記接触処理の条件はカフェオイルキナ酸及びヒドロキシヒドロキノン含有水溶液の種類、抽出液の濃度などに応じて適宜選択することができるが、例えばカラムによる連続処理の場合、顆粒状の酸性白土1容量に対して、約1〜100容量のカフェオイルキナ酸及びヒドロキシヒドロキノン含有水溶液を通液することにより達成できる。かくして得られたヒドロキシヒドロキノンを除去したカラム通過液をそのまま、又は減圧あるいは常圧にて濃縮した後、噴霧乾燥、凍結乾燥、熱風乾燥等の既知の方法により乾燥して粉末状、顆粒状その他の固体形態とすることもできる。本発明における操作は、通常10〜40℃の室温の範囲で行なわれる。
【0014】
かくして得られるカフェオイルキナ酸含有水溶液中のヒドロキシヒドロキノンの量は、カフェオイルキナ酸の血圧降下作用がヒドロキシヒドロキノンにより抑制されるため、(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)=0〜0.005、特に0〜0.001が好ましい(質量比)。
【0015】
例えば(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)=0.01〜1程度の含有比(質量比)の水溶液が、本発明に係る除去処理により(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)=0〜0.005程度になる。このとき、カフェオイルキナ酸の全組成物中の濃度の低下は少ない。従って、本発明によれば、カフェオイルキナ酸の血圧降下作用等の生理作用を損なわずに、生体内で過酸化水素を生成する原因であるヒドロキシヒドロキノンを選択的に除去することができる。
【実施例】
【0016】
参考例1
血圧降下評価
12週齢の雄性自然発症高血圧ラット(SHR)を予備的に5日間連続で市販のラット用非観血式血圧測定装置(ソフトロン社製)を用いて血圧測定することにより、ラットを血圧操作に十分慣れさせた後、評価試験を行った。ラットはすべて温度25±1℃、相対湿度55±10%、照明時間12時間(午前7時〜午後7時)の条件下(ラット区域内飼育室)で飼育した。
試験群ではインスタントコーヒからヒドロキシヒドロキノンを除去した画分を投与材料とし、対照群ではインスタントコーヒーを投与材料として経口投与を行った。経口投与前と12時間後の尾静脈の収縮期血圧を測定し、投与前血圧から12時間後の血圧変化率を算出したところヒドロキシヒドロキノン除去したインスタントコーヒーを摂取することにより、通常のインスタントコーヒーを摂取した場合に比較して、著明な血圧降下が認められた。
【0017】
参考例2
(1)(コーヒーの製造)
インスタントコーヒー14.0gを温水で均一に溶解し全量を1000gとした後、冷却しコーヒー抽出液1000gを得た。
(2)カフェオイルキナ酸(CQA)の分析法
組成物中のカフェオイルキナ酸の分析法は次の通りである。分析機器はHPLCを使用した。
装置の構成ユニットの型番
ディテクター:L−7420((株)日立製作所)、オーブン:MODEL554(ジーエルサイエンス(株))、ポンプ:L−7100((株)日立製作所)、オートサンプラー:L−7200((株)日立製作所)、インターフェース:D−7000((株)日立製作所)、カラム:Inertsil ODS−2 内径2.1mm×長さ250mm(ジーエルサイエンス(株))。
分析条件
サンプル注入量:10μL、流量:0.3mL/min、紫外線吸光光度計検出波長:325nm(カフェオイルキナ酸類)、溶離液A:0.05M酢酸3vol%アセトニトリル溶液(酢酸2.86mL/蒸留水970mL/アセトニトリル30mL(v/v/v))、溶離液B:0.05M酢酸100vol%アセトニトリル溶液(酢酸2.86mL/アセトニトリル1000mL(v/v))
【0018】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0分 100% 0%
20分 80% 20%
35分 80% 20%
45分 0% 100%
60分 0% 100%
70分 100% 0%
120分 100% 0%
【0019】
カフェオイルキナ酸のリテンションタイム(単位:分)(A1)モノカフェオイルキナ酸:17.9、20.4、22.0の計3点(A2)ジカフェオイルキナ酸:32.3、33.0、35.8の計3点ここで求めたエリアから5―カフェオイルキナ酸を標準物質とし、質量%を求めた。
【0020】
(3)ヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の分析法
組成物中のヒドロキシヒドロキノンの分析法は次の通りである。分析機器はHPLCを使用した。
装置の構成ユニットの型番
ディテクター:L−7420((株)日立製作所)、オーブン:MODEL554(ジーエルサイエンス(株))、ポンプ:L−7100((株)日立製作所)、オートサンプラー:L−7200((株)日立製作所)、インターフェース:D−7000((株)日立製作所)、カラム:Inertsil ODS−2 内径4.6mm×長さ250mm(ジーエルサイエンス(株))。
分析条件
サンプル注入量:30μL、流量:1.0mL/min、紫外線吸光光度計検出波長:288nm(ヒドロキシヒドロキノン)、溶離液A:0.05M酢酸水溶液(酢酸2.86mL/蒸留水1000mL(v/v))、溶離液B:0.05M酢酸アセトニトリル溶液(酢酸2.86mL/アセトニトリル1000mL(v/v))
【0021】
濃度勾配条件
時間 溶離液A 溶離液B
0分 100% 0%
15分 100% 0%
25分 0% 100%
30分 0% 100%
40分 100% 0%
50分 100% 0%
【0022】
ヒドロキシヒドロキノンのリテンションタイム(単位:分):6.5分、ここで求めたエリアからヒドロキシヒドロキノンを標準物質とし、質量%を求めた。
【0023】
参考例3
参考例2と同様に、インスタントコーヒー14.0gを温水で均一に溶解し全量を1000gとした後、冷却しコーヒー抽出液1000gを得た。また参考例1と同様にカフェオイルキナ酸(CQA)の分析及びヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の分析を行った。
【0024】
参考例4
2種の焙煎度(L値=16、22)のロブスタ種のコーヒー豆を粉砕し、通常の方法でコーヒー抽出液を調製した。これを参考例2、3に記載の分析方法によりカフェオイルキナ酸(CQA)及びヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の分析を行った。
【0025】
【表1】

【0026】
表1より、焙煎度L=22のコーヒー抽出液は、焙煎度L=16のコーヒー抽出液に比べて(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)が低いことがわかる。
【0027】
実施例1
参考例1の操作により得たコーヒー抽出液200gに、SiO2 /Al23 比が4.9の酸性白土(ミズカエース#200、5%サスペンジョンのpH7.6)14.0gと30分間室温で接触させた後、減圧濾過により酸性白土を除去し、白土処理液1を得た。
【0028】
さらに参考例1の操作により得たコーヒー抽出液200gに、SiO2 /Al23 比が4.3、4.8又は5.0の酸性白土14.0gと30分間室温で接触させた後、減圧濾過により酸性白土を除去し、白土処理液2〜4を得た。
【0029】
また参考例1と同様にカフェオイルキナ酸(CQA)の分析及びヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の分析を行った。
【0030】
比較例1
参考例2の操作により得たコーヒー抽出液200gに、SiO2 /Al23 比が9.2又は6.8の酸性白土(5%サスペンジョンのpH3.4又は3.6)14.0gと30分間室温で接触させた後、減圧濾過により酸性白土を除去し、比較処理液1、2を得た。また参考例1と同様にカフェオイルキナ酸(CQA)の分析及びヒドロキシヒドロキノン(HHQ)の分析を行った。
【0031】
【表2】

【0032】
表2より、SiO2 /Al23 比が3〜5の酸性白土を用いた場合には、カフェオイルキナ酸の濃度低下が少なく、ヒドロキシヒドロキノンのみが選択的に除去できることがわかる。一方、SiO2 /Al23 の比が5を超える酸性白土を用いた場合には、ヒドロキシヒドロキノンの除去率が悪いことがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液を、SiO2 /Al23 比が3〜5の酸性白土と接触させることによるヒドロキシヒドロキノンの除去方法。
【請求項2】
ヒドロキシヒドロキノン及びカフェオイルキナ酸を含有する水溶液が、焙煎度(L値)18以上のコーヒー豆抽出液である請求項1記載のヒドロキシヒドロキノンの除去方法。。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により得られる、水溶液中の(ヒドロキシヒドロキノン/カフェオイルキナ酸)が質量比で0〜0.005であるカフェオイルキナ酸含有水溶液。

【公開番号】特開2006−117631(P2006−117631A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−225792(P2005−225792)
【出願日】平成17年8月3日(2005.8.3)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】