説明

ヒーターユニット、改質装置、及び被加熱体の加熱方法

【課題】被加熱体の温度分布に応じて加熱面の熱出力が容易に調整され、被加熱体の温度偏差を低減させることが可能なヒーターユニットを提供する。
【解決手段】被加熱体を加熱して被加熱体の温度偏差の低減を図るためのヒーターユニット10であって、電解質26と電解質26を挟む二枚の電極22,24とを備える電気化学セル20を直列に複数接続してなるセルスタック30を備え、セルスタック30の発熱を被加熱体に伝える加熱面16がセルスタック30の積層方向Dに沿って設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、被加熱体を加熱して該被加熱体の温度偏差の低減を図るためのヒーターユニット、これを備える改質装置、及びこれを利用した被加熱体の加熱方法に関する。
【背景技術】
【0002】
灯油などの原燃料を水蒸気改質して水素リッチな改質ガスを生成する改質器が知られている。水蒸気改質は吸熱反応であるため、改質器に対して外部から熱を供給する必要がある。熱の供給源としては、バーナや抵抗発熱体を用いたヒーターなどが用いられる。抵抗発熱体を用いたヒーターとしては、例えば特許文献1に開示されているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−16396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
改質器においては、改質触媒による改質反応が促進されている部分では温度が大きく低下し、一方で改質反応が活発でない部分では温度の低下が小さく、結果として触媒層に大きな温度分布(条件によっては100℃以上の温度偏差)が生じる。このとき、反応促進部分に十分に熱を供給しようとして、ヒーターの出力を上げることが考えられる。
【0005】
しかしながら、抵抗発熱体を用いた一般のヒーターでは、加熱面の熱出力が比較的均一であり、低温である反応促進部分のみならず反応が活発でない高温部分も同様に加熱するため、改質触媒の耐熱温度を超えないように反応が活発でない高温部分に合わせて加熱する必要がある。したがって、低温の反応促進部分への熱供給が十分でなくなり、低温部の低減が図られず、ひいては触媒量を低減できないおそれがある。
【0006】
これに対し、ヒーターの温度を加熱部分に応じて温度制御することも考えられるが、制御が煩雑で構成が複雑になってしまう。
【0007】
本発明は、上記した事情に鑑みてなされたものであり、被加熱体の温度分布に応じて加熱面の熱出力が容易に調整され、被加熱体の温度偏差を低減させることが可能なヒーターユニット、これを備える改質装置、及びこれを利用した被加熱体の加熱方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、被加熱体を加熱して被加熱体の温度偏差の低減を図るためのヒーターユニットであって、電解質と電解質を挟む二枚の電極とを備える電気化学セルを直列に複数接続してなるセルスタックを備え、セルスタックの発熱を被加熱体に伝える加熱面がセルスタックの積層方向に沿って設けられていることを特徴とする。
【0009】
電気化学セルは、活物質を供給して電極間に電圧を印加すると、両極で電気化学反応が生じ、電解質内部をイオンが移動して、外部回路に電流が流れる。このとき、電極反応及び分極(活性化分極、濃度分極、抵抗分極)によるジュール熱が発生する。活性化分極によるジュール熱は、一般に温度が低いほど大きい。また、電解質は一般に負の抵抗温度係数を持ち、温度が低いほど抵抗率が大きいため、抵抗分極によるジュール熱のうち電解質で発生するジュール熱は、温度が低いほど大きい。
【0010】
このヒーターユニットでは、このような性質を持つ電気化学セルを直列に複数接続しているため、温度が低いセルほど大きなジュール熱を発生する。したがって、被加熱体の温度分布に応じて加熱面の熱出力が自動で調整され、被加熱体の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、被加熱体の温度偏差を低減させることができる。
【0011】
隣接する電気化学セルの間には断熱材が設けられていると好ましい。このようにすれば、電気化学セルの積層方向への熱伝導が低減され、電気化学セルから被加熱体への伝熱方向への熱伝導が促進されるため、被加熱体の低温部の選択的加熱をより促進することが可能となる。
【0012】
ヒーターユニットは、セルスタックを加熱するための抵抗発熱体を用いた補助ヒーターを備えると好ましい。このようにすれば、電気化学セルが好適に発熱する温度まで早期に昇温させることができる。
【0013】
ヒーターユニットは、セルスタックを収容するケーシングを備え、ケーシング内には電極の活物質が充填されていると好ましい。このようにすれば、ヒーターユニットの取扱いが容易になる。
【0014】
本発明に係る改質装置は、原燃料を水蒸気改質して水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、加熱面を介して改質器に接触される上記したヒーターユニットと、を備えることを特徴とする。
【0015】
この改質装置では、上記したヒーターユニットを備えるため、改質器の低温部を選択的に加熱し温度偏差を低減させることができる。したがって、改質器の低温部の低減が図られることで、ひいては改質触媒の触媒量を低減することが可能となる。
【0016】
本発明に係る被加熱体の加熱方法は、上記したヒーターユニットを利用した被加熱体の加熱方法であって、被加熱体にヒーターユニットの加熱面を接触させ、セルスタックの電気化学セルに活物質を供給すると共に電極間に電圧を印加することを特徴とする。
【0017】
この被加熱体の加熱方法では、上記したヒーターユニットを利用しているため、被加熱体の温度分布に応じて加熱面の熱出力が自動で調整され、被加熱体の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、被加熱体の温度偏差を低減させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、被加熱体の温度分布に応じて加熱面の熱出力が容易に調整され、被加熱体の温度偏差を低減させることが可能なヒーターユニット、これを備える改質装置、及びこれを利用した被加熱体の加熱方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態に係るヒーターユニット及びその加熱原理を説明する図である。
【図2】ケーシング内にセルスタックを収容し活物質を流通させる形態のヒーターユニットを示す図である。
【図3】ヒーターユニットとして酸素ポンプや水素ポンプを構成した形態を示す図である。
【図4】円筒状のセルスタックを有する円筒状のヒーターユニットを示す図である。
【図5】セルスタックを並列に接続した形態を示す図である。
【図6】電気化学セル間に断熱材を設けると共に加熱面と電気化学セルとの間に伝熱部材を設けた形態を示す図である。
【図7】抵抗発熱体を含む補助ヒーターを併用した形態を示す図である。
【図8】改質器にヒーターユニットを適用した改質装置を示す図である。
【図9】ヒーターユニットの長手方向の位置xとセルスタックのジュール発熱密度との関係を示すグラフである。
【図10】ヒーターユニットの長手方向の位置xとセルスタックの温度との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
図1は、本実施形態に係るヒーターユニット及びその加熱原理を説明する図である。図1(a)に示すように、ヒーターユニット10は、電気化学セル20を直列に複数接続してなるセルスタック30を備える。セルスタック30を構成する電気化学セル20の数は、図1においては説明の便宜上2つのみ図示しているが、被加熱体の大きさに合わせて任意に設定することができる。電気化学セル20は、電解質26と電解質26を挟む二枚の電極としてカソード22とアノード24を備えている。
【0022】
電解質26は、イオン伝導体から形成され、負の抵抗温度係数を有する。このようなイオン伝導体としては、電解質水溶液、電解質非水溶液、溶融塩、固体電解質のうち公知のものを適宜選択して用いることができるが、このうち固体電解質を用いるのが製作・運転の容易性の観点から望ましい。
【0023】
例えば80℃以下の低温では、Nafion(登録商標)、Flemion(登録商標)、Aciplex(登録商標)など適宜のパーフルオロスルホン酸系水素イオン伝導性固体高分子などを用いることができる。
【0024】
一方、例えば400℃以上の高温では、(i)ZrO2にMgO、CaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y23、La23などの希土類金属酸化物、さらにはSc23、Bi23、In23などを1種もしくは2種以上含有するジルコニア系、(ii)CeO2またはBi23に、MgO、CaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y23、La23などの希土類金属酸化物、Sc23、In23などの1種もしくは2種以上を添加したセリア系またはビスマス系、さらには、(iii)AZrO3(A:Srなどのアルカリ土類元素)にIn、Gaなどを添加したもの、(iv)LaGaO3にMgO、CaOなどのアルカリ土類金属酸化物、Y23、CeO2などの希土類金属酸化物、さらにはSc23、TiO2などの遷移金属酸化物、Al23、SiO2などの典型金属酸化物などを添加もしくは分散強化したランタンガレート系、(v)Ba2In25などのインジウム系などの固体酸化物を用いることができる。さらに、これらの固体酸化物中に、さらに他の酸化物としてSiO2、Al23、GeO2、SnO2、Sb23、PbO、Ta25、Nb25を含むものなど適宜の酸素イオン伝導性固体酸化物を用いることができる。
【0025】
80℃以下の低温で、電解質26として水素イオン伝導性固体高分子を用いる場合は、両極22,24の活物質としては、加湿した水素を用い、両極22,24の電極材料はPt担持カーボンを用いるのが製作・運転の容易性の観点から望ましい。
【0026】
また、400℃以上の高温で、電解質26として酸素イオン伝導性固体酸化物を用いる場合は、両極22,24の活物質としては、酸素含有ガス、ここでは入手の容易性から空気を用い、両極22,24の電極材料はランタンストロンチウムマンガナイト(LSM)などのマンガナイト系、ランタンストロンチウムコバルタイト(LSC)、サマリウムストロンチウムコバルタイト(SSC)などのコバルタイト系、ランタンストロンチウムフェライト(LSF)などのフェライト系など、一般式がABOの電子伝導性固体酸化物であって、AはLa、Ce、Pr、Sr、Ca、Ba、Smのうち少なくとも1つの元素により構成され、BはMn、Fe、Co、Ni、Cu、Znのうち少なくとも1つの元素により構成される電子伝導性固体酸化物を用いるのが製作・運転の容易性の観点から望ましい。さらに、電極反応促進のため、電解質と電極の間に電子伝導性固体酸化物と酸素イオン伝導性固体酸化物のサーメットを中間層として配することができる。
【0027】
このように、電解質26、電極22,24、および両極22,24の活物質は、温度条件等、使用条件に応じて適宜のものを選択して用いることができる。
【0028】
両電極22,24は、活物質としてのガスを通すため、電極形成用のスラリーに消失材を添加したり、あるいは適用する電極材料の粒子径を選択したりすることにより、多孔質体として形成されている。
【0029】
被加熱体の低温部のみより選択的に加熱するため、電極22,24や電極22,24/電解質26界面などの電解質26以外での抵抗分極、および濃度分極によるジュール熱を低減するよう、電解質材料、電極材料、電極構造および電極作成法を選択するのが好ましい。また、異なる材料・活物質のセルを適宜組み合わせて接続しても良い。
【0030】
隣接する電気化学セル20同士は、電子伝導性及び通気性を有する接続部材12を介して接続されている。このような接続部材12は、温度、活物質、電気化学反応などの使用条件に応じて、公知のものから適宜選択して用いることができる。例えば、80℃以下の低温で、電解質26として水素イオン伝導性固体高分子を用いる場合は、カーボン、貴金属、貴金属メッキしたステンレスなどの多孔体を用いることができる。また、例えば、400℃以上の高温で、電解質26として酸素イオン伝導性固体酸化物を用いる場合は、ランタンクロマイト、Srおよび/またはCaを固溶させたランタンクロマイト、貴金属、貴金属メッキしたステンレスなどの多孔体を用いることができる。
【0031】
セルスタック30は、伝熱性に優れたケーシング14に収容されており、ケーシング14にはカソード22及びアノード24の活物質としての空気が充填されている。そして、セルスタック30の発熱を被加熱体に伝える加熱面16が、セルスタック30の積層方向Dに沿って設けられている。
【0032】
前述したように、電気化学セル20は、活物質を供給して電極22,24間に電圧を印加すると、両極22,24で電気化学反応が生じ、電解質26内部をイオン(ここでは酸素イオン)が移動して、外部回路に電流が流れる。このとき、電極反応及び分極(活性化分極、濃度分極、抵抗分極)によるジュール熱が発生する。
【0033】
本実施形態の電気化学セル20において、活性化分極によるジュール熱は、温度が低いほど大きい。また、電解質26は負の抵抗温度係数(NTC)を持ち、温度が低いほど抵抗率が大きいため、抵抗分極によるジュール熱のうち電解質26で発生するジュール熱は、温度が低いほど大きい。したがって、図1(b)に示すように、温度が低いセル20ほど抵抗率が大きくなり、大きなジュール熱を発生する。
【0034】
ここで、抵抗温度係数の絶対値は、ニクロム線では高々10ppm/℃オーダー、セラミックヒーターの抵抗発熱体では高々10ppm/℃オーダーであるのに対し、例えば酸素イオン伝導性固体酸化物は10〜10ppm/℃オーダーと1〜4桁程度大きく、抵抗率の温度に対する感度が非常に高い。
【0035】
したがって、本実施形態に係るヒーターユニット10では、被加熱体の温度分布に応じて加熱面16の熱出力が自動で調整され、被加熱体の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、被加熱体の温度偏差を低減させることができる。
【0036】
本実施形態のヒーターユニット10は、電気化学セル20を直列に複数接続したセルスタック30を備えるものであれば、様々な形態を採ることができる。例えば、図1(a)に示すように、セルスタック30及び活物質をケーシング14に封入した形態としてもよく、図2に示すように、セルスタック30とケーシング14との間に隙間を空けた状態でケーシング14内にセルスタック30を収容し活物質を流通させる形態としてもよい。図2の形態の場合、通気性を維持しつつセルスタック30からの被加熱体Hへの伝熱性を高めるため、空気よりも伝熱性の高い充填物32をセルスタック30とケーシング14との間に充填してもよい。このような充填物32としては、マグネシア、アルミナなどの粒状物が挙げられる。
【0037】
また、図3に示すように、セルスタック30とケーシング14との間に隙間を設けないでケーシング14内にセルスタック30を収容し活物質を流通させる、いわゆる酸素ポンプや水素ポンプを構成してもよい。
【0038】
電気化学セル20の形状は、図1(a)に示すような平板状のものの他、図4に示すような円筒状のもの(図4においてXは中心軸線を表し、半分の図示を省略している)など、適宜の形状のものを用いることができる。また、異なる形状の電気化学セル20を適宜組み合わせて接続しても良い。ヒーターユニット10の形状も、平板、円筒形など適宜の形状とすることができる。なお、円筒状の電気化学セル20の場合は、図4に示すように、隣接するセル20のカソード22とアノード24とを接続部材12を介して電気的に接続する一方、その他の部位には電気絶縁性を有する絶縁材18を介在させる。
【0039】
電気化学セル20の電気的接続は、図5に示すように、直列に接続したセルスタック30同士を並列に接続してもよく、或いは、並列に接続したセルスタック30をさらに直列に接続することができる。
【0040】
また、被加熱体Hの低温部を選択的に加熱するために、通気性を維持した状態で、電気化学セル20の積層方向(直列接続方向)Dの熱伝導を低減し、電気化学セル20から被加熱体への伝熱方向の熱伝導を促進するよう構成するのが望ましい。例えば、図6に示すように、隣接するセル20のカソード22とアノード24とを接続部材12を介して電気的に接続する一方、その他の部位に電気絶縁性の断熱材40を配すると好ましい。そして、電気化学セル20とケーシング14の加熱面16との間に、空気より熱伝導率の高いセラミック(アルミナなど)や金属など(スレンレスなど)の伝熱部材42を配すると好ましい。この場合、伝熱部材42の表面が加熱面16として機能し、この加熱面16がセル20の積層方向に沿って設けられる。
【0041】
また、電気化学セル20が好適に発熱する温度まで早期に昇温させるために、図7に示すように、抵抗発熱体を用いた補助ヒーター50を併用すると好ましい。補助ヒーター50としては、一般のニクロム、鉄クロム、カンタルなどの金属やWC、MoSi2、TiN、SiAlON、SiCなどの電子伝導性セラミックを抵抗発熱体として用いたものが挙げられる。この場合、セルスタック30と一体化するのが省スペース、設置の容易性の観点から望ましい。さらに、一体化する場合、補助ヒーター50がセルスタック30の電気化学セル20から被加熱体への伝熱方向の熱伝導を阻害しないよう、補助ヒーター50と被加熱体の間にセルスタック30を配するのが望ましい。すなわち、図7の円筒型セルの場合は、セルスタック30の内側に補助ヒーター50を配するのが望ましい。なお、セルスタック30と補助ヒーター50とは、別系統で給電してもよく、並列に接続してもよい。
【0042】
本実施形態に係るヒーターユニット10においては、過電流による電気化学セル20の破損を防止するため、運転の際は、電流値に上限を設けた上で出力を制御するのが望ましい。
【0043】
本実施形態に係るヒーターユニット10は、被加熱体の温度偏差低減が必要とされる各種装置に適用することができる。
【0044】
例えば、本実施形態に係るヒーターユニット10は、炭化水素系の原燃料を改質して水素リッチな改質ガスを生成する改質器を加熱するためのヒーターとして用いることができる。ここで、熱効率の観点から改質の種類として水蒸気改質が広く用いられているが、この反応は大きな吸熱反応であるため、一般の均熱ヒーターなど、熱出力が比較的均一な加熱手段で触媒層を加熱した場合、触媒層に大きな温度分布が生じる(条件によっては100℃以上の温度偏差が生じる)。
【0045】
改質反応速度は一般に温度が低いほど遅いため、熱出力を上げて反応の生じている低温部を低減することにより必要な触媒量を低減できるが、熱出力が均一な加熱手段では触媒層の高温部も同時に加熱されるため、触媒層の最高温度が触媒の耐熱温度以下になる範囲でしか熱出力を上げることができず、低温部の低減および触媒量の低減が困難である。
【0046】
しかしながら、本実施形態に係るヒーターユニット10を用いることで、低温部が選択的に加熱され触媒層温度の温度偏差が低減するため、触媒量を低減することができ、さらに、熱出力を低減することができる。また、長時間の運転により触媒が劣化し、吸熱分布が変化するが、本実施形態に係るヒーターユニット10を用いることで、複数のヒーターを用いて個別に出力制御することなくこの変化にも対応することができ、構造を簡素化することができる。
【0047】
また、本実施形態に係るヒーターユニット10は、負荷追従運転を行う燃料電池システムに搭載された改質器を加熱するためのヒーターとして用いることができる。この場合、負荷増加に伴い炭化水素系の原燃料の流量を増加させたことにより、一時的に触媒層温度が低下した際に、触媒層の低温部を選択的に加熱することができ、触媒量を低減させるとともに速い負荷増加に追従させることができる。また、本実施形態に係るヒーターユニット10のセルスタックとして二次電池を構成すれば、負荷変化速度が遅い間に小電流で充電しておき、負荷を速く増加させる際に放電させて触媒層低温部を選択的に加熱すると同時に、負荷に対して電気を出力させることができる。これにより、触媒量を低減しつつ、急峻な負荷増加へ追従させることができる。
【0048】
このような、改質器62と本実施形態に係るヒーターユニット10とを備える改質装置60の構成の一例を図8に示す。ヒーターユニット10は、円柱状の外形を有し、有底円筒状のケーシング14内にセルスタック30を収容して構成されている。セルスタック30とケーシング14との間には、伝熱性を上げるための充填物32、例えばマグネシアが充填されている。
【0049】
改質器62は、円筒型の構成を有し、有底筒状容器64の中央に上記ヒーターユニット10を設け、その周りに粒状の改質触媒を含む被加熱体66を充填して構成されている。したがって、被加熱体66は、ヒーターユニット10の加熱面16に直接接触し、セルスタック30の電気化学セル20に活物質を供給すると共に電極22,24間に電圧を印加することで、この加熱面16を介して直接加熱される。
【0050】
このとき、本実施形態に係るヒーターユニット10では、被加熱体の温度分布に応じて加熱面16の熱出力が自動で調整されるため、被加熱体66の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、温度偏差を低減することができるのである。
【0051】
ここで、本実施形態に係るヒーターユニット10の温度偏差低減効果の概略的イメージについて、図8、図9及び図10を参照して以下に説明する。
【0052】
図8に示す改質装置60において、被加熱体66の領域の長手方向における中央部1/3の領域を、改質触媒が充填され改質反応が進んでいる吸熱領域Gと仮定する。この吸熱領域Gでは、それ以外の領域に比べて温度低下が著しくなる。
【0053】
図9は、ヒーターユニット10の長手方向の位置xとセルスタック30のジュール発熱密度との関係を示すグラフである。図9に示すように、このヒーターユニット10では、ヒーターユニット10の長手方向の位置xについて、吸熱領域Gに対応したセルスタック30の部分の発熱量が大きく、吸熱領域Gが選択的に加熱される。これに対し、従来の抵抗発熱体を含む均熱ヒーターでは、長手方向の位置xに対して発熱量が均一で、吸熱領域Gを選択的に加熱することができない。
【0054】
図10は、ヒーターユニット10の長手方向の位置xと被加熱体66の温度との関係を示すグラフである。図10に示すように、従来の抵抗発熱体を含む均熱ヒーターでは、温度偏差が大きいのに対し、本実施例のヒーターユニット10では、ヒーターユニット10の長手方向の位置xについて、被加熱体66の温度偏差の低減が図られる。
【0055】
以上詳述したように、本実施形態に係るヒーターユニット10では、被加熱体の温度分布に応じて加熱面16の熱出力が自動で調整されるため、被加熱体の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、被加熱体の温度偏差を低減させることができる。
【0056】
このとき、被加熱体の温度偏差を低減させるために、複数のヒーターを用いて個別に出力制御する必要がなくなり、構造を簡素化することができる。
【0057】
また、ヒーター線密度やヒーター材質(抵抗率)に分布を持たせた単一のヒーターでは、被加熱体の温度分布の経時変化に対応できないが、本実施形態に係るヒーターユニット10では、被加熱体の温度に応じて自動的に熱出力が変化するため、温度分布の経時変化に柔軟に対応することができる。
【0058】
また、ヒーターユニット10は、セルスタック30を収容するケーシング14を備え、ケーシング14内には電極の活物質が充填されているため、ヒーターユニット10の取扱いが容易になる。
【0059】
また本実施形態に係る改質装置60では、上記したヒーターユニット10を備えるため、改質器62の低温部を選択的に加熱し温度偏差を低減させることができる。したがって、改質器62の低温部の低減が図られることで、ひいては改質触媒の触媒量を低減することが可能となる。
【0060】
また本実施形態に係る被加熱体の加熱方法では、上記したヒーターユニット10を利用しているため、被加熱体の温度分布に応じて加熱面16の熱出力が自動で調整され、被加熱体の低温部を効率よく選択的に加熱することができ、被加熱体の温度偏差を低減させることができる。
【0061】
なお、本発明は上記実施形態に限定されることなく、種々の変形が可能である。例えば、ヒーターユニット10が備えるセルスタック30は、燃料電池を構成してもよく、二次電池を構成してもよく、電解槽を構成してもよい。燃料電池を構成した場合、発電時にセル20からジュール熱が発生する。二次電池を構成した場合、充放電時にセル20からジュール熱が発生する。電解槽を構成した場合、電解時にセル20からジュール熱が発生する。
【0062】
セルスタック30として燃料電池を構成する場合には、電解質26、活物質、電極22,24としては燃料電池に用いられる公知のものから適宜選択して用いることができる。燃料電池としては、固体高分子形燃料電池、固体酸化物形燃料電池、溶融炭酸塩形燃料電池、リン酸形燃料電池、アルカリ形燃料電池など公知のものから適宜選択して構成することができる。このうち、固体電解質を用いる固体高分子形燃料電池、固体酸化物形燃料電池が製作・運転の容易性の観点から望ましい。
【0063】
例えば、80℃以下の低温で固体高分子形燃料電池を構成する場合、電解質26として、前述したものと同様のものを用いることができる。また、アノード活物質として水素、メタノール、ジメチルエーテルなど、カソード活物質として酸素を好適に用いることができる。また、アノード電極としてPt担持カーボンなど、カソード電極としてPt、Pt−Rh担持カーボンなどを好適に用いることができる。
【0064】
また、例えば、400℃以上の高温で固体酸化物形燃料電池を構成する場合、電解質26として、前述したものと同様のものを用いることができる。また、アノード活物質として水素、一酸化炭素、メタン、エタン、プロパン、ブタンなど、カソード活物質として酸素を好適に用いることができる。また、アノード電極としてNi、Niと酸素イオン伝導性固体酸化物のサーメットなど、カソード電極として、前述したものと同様、LSM、SSC、LSC、LSFなどの電子伝導性固体酸化物および電子伝導性固体酸化物と酸素イオン伝導性固体酸化物のサーメットなどを好適に用いることができる。
【0065】
セルスタック30として二次電池を構成する場合には、電解質26、活物質、電極22,24としては二次電池に用いられる公知のものから適宜選択して用いることができる。二次電池としては、例えば、リチウムイオン二次電池、ニッケル−水素二次電池など公知のものから適宜選択して構成することができる。
例えば、リチウムイオン二次電池を構成する場合、電解質26として、リチウム塩を非水溶媒(有機溶媒)に溶解したものを好適に使用することができる。リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiClO4等の塩が用いられる。なお、これらの塩は1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。負極電極としては、例えば、炭素を使用することができる。この場合、負極活物質はxC6と表すことができる。正極としては、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMn24などを用いることができる。この場合、正極活物質としては、順にLi1−xCoO2、Li1−xNiO2、Li1−xMn24と表すことができる。
【0066】
また、例えば、ニッケル−水素二次電池を構成する場合、電解質26として、KOH、NaOH水溶液などを好適に使用することができる。負極電極としては、例えば、希土類系、チタン・ジルコニウム系、チタン系、マグネシウム系、バナジウム系などの水素吸蔵合金を使用することができる。この場合、負極活物質は水素吸蔵合金をMとしてMHxと表すことができる。また、正極電極および正極活物質として、NiOOHを用いることができる。
【0067】
セルスタック30として電解槽を構成する場合には、電解質26、活物質、電極22,24としては電解槽に用いられる公知のものから適宜選択して用いることができる。電解槽としては、水電解、食塩電解、金属の電解採取、金属の電解精製、電解無機合成、有機電解合成、電熱化学、電気透析に用いられる公知のものから適宜選択して構成することができる。このうち、固体電解質を用いる固体高分子形水電解槽、固体酸化物形水電解槽が製作・運転の容易性の観点から望ましい。
【0068】
例えば、80℃以下の低温で固体高分子形水電解槽を構成する場合、電解質26として、前述したものと同様のものを用いることができる。また、この場合、アノード活物質は水である。また、電極22,24としては、Pt担持カーボンを好適に用いることができる。
【0069】
また、例えば、400℃以上の高温で、固体酸化物形水電解槽を構成する場合、電解質26として、前述したものと同様のものを用いることができる。また、この場合、カソード活物質は水蒸気である。また、カソード電極としてNi、Niと酸素イオン伝導性固体酸化物のサーメットなど、アノード電極として、前述したものと同様、LSM、SSC、LSC、LSFなどの電子伝導性固体酸化物および電子伝導性固体酸化物と酸素イオン伝導性固体酸化物のサーメットなどを好適に用いることができる。
【0070】
なお、燃料電池、二次電池、電解槽のセルスタックを構成する場合、セパレータなどの構成を備えることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0071】
10…ヒーターユニット、16…加熱面、20…電気化学セル、22,24…電極、26…電解質、30…セルスタック、40…断熱材、50…補助ヒーター、60…改質装置、62…改質器、H…被加熱体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加熱体を加熱して該被加熱体の温度偏差の低減を図るためのヒーターユニットであって、
電解質と該電解質を挟む二枚の電極とを備える電気化学セルを直列に複数接続してなるセルスタックを備え、前記セルスタックの発熱を前記被加熱体に伝える加熱面が該セルスタックの積層方向に沿って設けられていることを特徴とするヒーターユニット。
【請求項2】
隣接する前記電気化学セルの間には断熱材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のヒーターユニット。
【請求項3】
前記セルスタックを加熱するための抵抗発熱体を用いた補助ヒーターを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載のヒーターユニット。
【請求項4】
前記セルスタックを収容するケーシングを備え、前記ケーシング内には前記電極の活物質が充填されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のヒーターユニット。
【請求項5】
原燃料を水蒸気改質して水素リッチな改質ガスを生成する改質器と、
前記加熱面を介して前記改質器に接触される請求項1に記載のヒーターユニットと、
を備えることを特徴とする改質装置。
【請求項6】
請求項1に記載のヒーターユニットを利用した被加熱体の加熱方法であって、
前記被加熱体に前記ヒーターユニットの前記加熱面を接触させ、前記セルスタックの前記電気化学セルに活物質を供給すると共に前記電極間に電圧を印加することを特徴とする被加熱体の加熱方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−170807(P2010−170807A)
【公開日】平成22年8月5日(2010.8.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−11324(P2009−11324)
【出願日】平成21年1月21日(2009.1.21)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】