説明

ビタミン類を含有する抗炎症のための皮膚外用剤組成物

【課題】ステロイドを含有しない、安全な抗炎症のための皮膚外用組成物を提供する。
【解決手段】ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンEを有効成分として含有する、抗炎症のための皮膚外用剤組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗炎症作用を有することにより、肌荒れ、かさつき、角化症(皮膚の弾力低下)や色素沈着の防止・改善作用を奏する、ステロイドを含有しない、安全な抗炎症のための皮膚外用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、皮膚化粧料や皮膚外用剤の分野において、皮膚細胞を賦活し、皮膚の機能そのものを活性化して、皮膚症状の改善や抗炎症効果又は創傷治癒効果を発揮させるための研究が多くなされている。LPS、UV、アレルゲンや活性酸素に曝された皮膚ではNF-κB(Nuclear Factor Kappa B)などの炎症関連遺伝子の発現により、炎症が誘導される。
NF-κBは、免疫グロブリンκ鎖遺伝子のエンハンサーに結合する転写因子であり、p50とp65の2種のサブユニットからなる。NF-κBは実刺激の状態では細胞質にI-κB(inhibitor kappa B)との複合体として存在しているが、細胞外からサイトカインや紫外線などのシグナルが加わるとI-κBがリン酸化をうけて解離し、NF-κBが核内へ移行する。核内に移行したNF-κBは、染色体上のNF-κB結合部位に結合し、その下流にある遺伝子の転写を促進する。NF-κB結合部位の下流にある遺伝子として、例えば炎症性サイトカイン[インターロキン(IL)-1、腫瘍壊死因子(TNF)-α、TNF-β、IL-6、IL-8、IL-2等]や、細胞接着分子[E-セレクチン(selectin)、ICAM-1、VCAM-1]があり(例えば、非特許文献1参照)、これらの分子はがん・白血病,動脈硬化,関節リウマチ、乾癬などの炎症性疾患、自己免疫疾患,AIDSなどに関与することが示唆されている。(例えば、非特許文献2、3参照)
NF-κBは、それ自身がNF-κBの構成成分を発現誘導することから、炎症惹起に伴うNF-κBの活性化は炎症を拡大すると考えられており(例えば、非特許文献4参照)、NF-κBの活性化を抑制することにより炎症反応を効果的に鎮めることができると考えられている。
また、皮膚においても、NF-κBなどの炎症関連遺伝子が活性化し炎症が誘導されることで、肌荒れ・かさつき・炎症による色素沈着・炎症後角化症(皮膚の硬化)や痒み等の皮膚疾患が認められることが知られている(例えば、非特許文献5参照)。
【0003】
これら皮膚疾患の治療の多くには、炎症を抑制するため、抗炎症剤やステロイド剤が用いられてきた。しかしながら、ステロイド剤には副作用が多いという欠点があり、長期間使用することが難しかった。しかも大半の炎症症状はその原因から薬での奏効による改善は一過性で根治せず、従って、近年、継続的に無理なく長期間使用でき、かつ副作用の無い抗炎症効果を持つ外用剤が要望されていた。
外用剤としてのビタミン類の抗炎症作用については、ビタミンA類では、逆に炎症を惹起する危険性が示唆されており、炎症作用の少ないビタミンA誘導体の開発研究が行われているが、薬理効果の副作用として炎症を避けられない現状がある(例えば、非特許文献6参照)。
また、ビタミンD類では、活性型ビタミンD3が免疫細胞であるT細胞の増殖を抑制し、炎症性サイトカインの産生を抑制することが知られ(例えば、非特許文献7参照)、本邦では尋常性乾癬等角化症治療剤としてマキサカルシトールが認可されている(例えば、非特許文献8参照)。
ビタミンC類及びE類では、抗酸化作用から派生して、抗炎症作用をもつことが報告されている(例えば、非特許文献9参照)。しかしながら、抗酸化作用から派生する抗炎症作用は、活性酸素による炎症のみに効果があり、炎症を抑制するには不充分であった。
従前のビタミン類の単剤または併用技術では、表皮細胞の抗炎症作用は充分とは言い難いのが現状であり、更に、皮膚外用組成物においてビタミンの組合せが表皮細胞の抗炎症作用を高めるかどうかについては全く知られていないのが実情であった。
なお、これまでに、ビタミンA類に単剤では全く作用を有さないB6類を配合すると、ビタミンAのヒアルロン酸産生促進作用が増強すること、ビタミンA、B6、C、D及びE類を全て配合したものにより一層優れたヒアルロン酸産生促進作用が発現することが本発明者らによって開示されている(特許文献1参照)。
しかし、現在のところ、かかるビタミンの組み合わせによる抗炎症作用の有無については不明であり、示唆もない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−12055号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Annu. Rev. Immunol.,12, 141, 1994
【非特許文献2】J. Biol. Chem., 275, 4383-4390, 2000
【非特許文献3】J. Biol. Chem., 274, 15662-15670, 1999
【非特許文献4】Mol. Cell. Biol., 11, 259, 1991
【非特許文献5】Nature, 379, 335-339, 1996
【非特許文献6】日薬理誌、134、37〜45頁、2009年
【非特許文献7】日薬理誌、110、39〜43頁、1997年
【非特許文献8】医療用医薬品集2009年版、JAPIC 2008 p.2445
【非特許文献9】J. Am. Acad. Dermatol., 59, 418-25, 2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、ステロイドを使用しなくても優れた抗炎症作用を有し、かつ安全性に優れた皮膚外用組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上述の課題を解決するため、表皮細胞の抗炎症作用を向上させる手段について鋭意研究した結果、ビタミンAと、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンE;好ましくはビタミンAと、脂溶性のビタミンB6、脂溶性ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンEを併用することにより、炎症に関与するNFκBの遺伝子発現が抑制されること、更にこれらを組み合わせた皮膚の抗炎症剤を用いて製造した皮膚外用組成物は、LPS、UV照射、アレルゲン、活性酸素などによる皮膚の炎症を改善し、ひいては、肌荒れ・かさつき・炎症による色素沈着・炎症後角化症(皮膚の硬化)・痒み・アトピー性皮膚炎等を抑制することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明は、下記の(1)〜(5)を提供するものである。
(1)ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンEを有効成分として含有する、抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
(2)ビタミンB6及びビタミンCが、それぞれ脂溶性ビタミンB6及び脂溶性ビタミンCである、(1)に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
(3)脂溶性ビタミンB6が、トリ2−ヘキシルデカン酸ピリドキシンである、(2)に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
(4)ビタミンAがパルミチン酸レチノールであり、脂溶性ビタミンCがテトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビルであり、ビタミンDがコレカルシフェロールであり、ビタミンEが酢酸トコフェロールである、(1)〜(3)のいずれか1に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
(5)抗炎症が、肌荒れ、かさつき、炎症による色素沈着、炎症後角化症(皮膚の硬化)、痒み、及び、アトピー性皮膚炎からなる群より選択される皮膚疾患の予防及び/又は治療である、(1)〜(4)のいずれか1に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、著しく優れた皮膚の炎症抑制作用を有する皮膚外用組成物又は化粧料が得られた。これにより、NFκBが関与する皮膚の炎症が抑制できる。具体的には、肌荒れ、かさつき、炎症による色素沈着、炎症後角化症(皮膚の硬化)、痒み、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の予防または治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】図1はIL-1αの添加により増加したNFκBの発現量を、実施例1の組成物(パルミチン酸レチノール、トリ2−ヘキシルデカン酸ピリドキシン、テトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビル、コレカルシフェロール、及び酢酸トコフェロール含有)を添加することにより、その発現量を抑えて炎症抑制効果を有することを示した図である。ここで、ΔCtが小さいほどNFκBの発現量は高いことを示す。なお、ΔCt値は以下の式1によって求めた。
【0011】
【数1】

【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に用いられる「ビタミンA」としては、例えば、レチノール;レチノールのパルミチン酸エステル、ステアリン酸エステル、酢酸エステル等の各種脂肪酸エステル;レチノールの乳酸エステル、グリコール酸エステル等の各種有機酸エステル;及びレチノールのリン酸、ピロリン酸、硫酸等の各種無機酸ジエステル複合体等が挙げられる。好適には、オール-trans-レチノール及びその異性体、オール-trans-レチノイン酸及びその異性体、オール-trans-レチナール及びその異性体、それらの3-デヒドロ体、3,4-ジデヒドロ体、さらには、広く市販されており、安定性が比較的良好なパルミチン酸レチノールが挙げられる。特に好適には、パルミチン酸レチノールである。これらのビタミンAは、合成によって得られたものであっても、天然抽出物より得られたものであっても、それを精製したものであっても良い。
【0013】
本発明に用いられる「ビタミンB6」としては、脂溶性ビタミンB6が好ましい。「脂溶性ビタミンB6」としては、脂溶性であれば特に限定されないが、例えば、トリ2−ヘキシルデカン酸ピリドキシンが好ましい。
【0014】
本発明に用いられる「ビタミンC」としては、脂溶性ビタミンCが好ましい。「脂溶性ビタミンC」としては、脂溶性であれば特に限定されないが、例えば、パルミチン酸アスコルビル、及び、テトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビル等を好適なものとして挙げることができる。
【0015】
本発明に用いられる「ビタミンD」及び「ビタミンE」は、例えば、「ビタミンD」としてはコレカルシフェロール、及び、エルゴカルシフェロール、「ビタミンE」としてはトコフェロール、コハク酸トコフェロール、及び、酢酸トコフェロール等が挙げられる。「ビタミンD」としてはコレカルシフェロールが好適であり、「ビタミンE」としては酢酸トコフェロールが好適に挙げられる。
【0016】
本発明の「抗炎症のための皮膚外用組成物」とは、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンE;好ましくは、ビタミンA、脂溶性ビタミンB6、脂溶性ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンEからなり、皮膚の炎症を抑制する組成物である。本剤を医療用のみではなく、化粧用組成物も含む皮膚外用組成物に含有させることによって、本剤の効果を有する皮膚外用組成物を製造することができる。
本発明の「皮膚外用組成物」は、皮膚に塗布して用いられる組成物であれば特に限定はないが、例えば、医療用の皮膚外用組成物又は化粧料組成物である。
【0017】
本発明の組成物には、ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンE;好ましくは、ビタミンA、脂溶性ビタミンB6、脂溶性ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンE、等の有効成分以外に、通常、医薬品、医薬部外品、化粧品などの皮膚外用医療用組成物に用いられる成分、例えば、水性成分、油性成分、粉末成分、アルコール類、保湿剤、増粘剤、紫外線吸収剤、美白剤、防腐剤、酸化防止剤、界面活性剤、香料、色素等の添加剤を適宜必要に応じて配合することができる。かかる添加剤の配合の方法は、日局製剤総則に記載の方法に従って行うことができる。
【0018】
本発明の皮膚外用組成物の「剤型」としては、皮膚に適用できる剤型であれば特に限定されないが、クリーム剤、軟膏剤、液剤、ゲル剤、ローション剤などの塗布剤、パップ剤、テープ剤、パッチ剤などの貼付剤などが好適である。 本発明の皮膚外用組成物はまた、例えば、医薬品、医薬部外品、化粧品などとして利用することができ、これを1日1〜数回皮膚に塗布すればよい。
【実施例】
【0019】
本発明の実施例を以下に記載するが、これらに限定されるものではない。
【0020】
(実施例1)美容液
表1に記載の成分を混合し、美容液を製造した。また、各成分の入手先及び濃度を表2に示した。なお、表2の成分の濃度は、培地への添加濃度を示す。また、スクワランは日光ケミカルズ株式会社のものを使用した。
【0021】
【表1】

【0022】
【表2】

【0023】
(試験例1)ヒト表皮角化細胞におけるNFκB量測定
24穴プレートに正常ヒト表皮角化細胞(クラボウ)をMedium 154S培地(Invitrogen)にて播種し、1日後、実施例1の表2に記載の成分を2-プロパノールで希釈して調製した(被験物質)。Medium 154S培地(Invitrogen)にIL-1α(R&D Systems) 10ng/mL及び被験物質を表2の濃度となるように添加し、被験物質添加培地とした。培養中の正常ヒト表皮角化細胞の培地を被験物質添加培地に交換した。
なお、コントロールは2-プロパノールを0.1%添加したMedium 154S培地を使用した。
被験物質添加から3時間後に細胞を採取し、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いてRNAを回収し、リアルタイム定量RT-PCRによりNFκBの発現量(ΔCt値)を調べた。
ΔCtの結果を図1に示した。なお、ΔCtが小さいほどNFκBの発現量が高いことを示す。各投与群はN=2の平均値を示した。
【0024】
図1に示したように、コントロールの場合と比較して、IL-1αを添加すると、ΔCt値が低下し(NFκBの発現量が上昇)、炎症状態となっている。これに、実施例1の組成物を添加すると、ΔCt値が上昇し(NFκBの発現量が減少)、優れた抗炎症効果を有することが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明の組成物は優れた皮膚の炎症抑制作用を有するため、肌荒れ、かさつき、炎症による色素沈着、炎症後角化症(皮膚の硬化)、痒み、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の予防または治療のための皮膚外用組成物又は化粧料として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ビタミンA、ビタミンB6、ビタミンC、ビタミンD、及び、ビタミンEを有効成分として含有する、抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
【請求項2】
ビタミンB6及びビタミンCが、それぞれ脂溶性ビタミンB6及び脂溶性ビタミンCである、請求項1に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
【請求項3】
脂溶性ビタミンB6が、トリ2−ヘキシルデカン酸ピリドキシンである、請求項2に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
【請求項4】
ビタミンAがパルミチン酸レチノールであり、脂溶性ビタミンCがテトラ2−ヘキシルデカン酸アスコルビルであり、ビタミンDがコレカルシフェロールであり、ビタミンEが酢酸トコフェロールである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。
【請求項5】
抗炎症が、肌荒れ、かさつき、炎症による色素沈着、炎症後角化症(皮膚の硬化)、痒み、及び、アトピー性皮膚炎からなる群より選択される皮膚疾患の予防及び/又は治療である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗炎症のための皮膚外用剤組成物。

【図1】
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【公開番号】特開2013−100267(P2013−100267A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−224653(P2012−224653)
【出願日】平成24年10月10日(2012.10.10)
【出願人】(306014736)第一三共ヘルスケア株式会社 (176)
【Fターム(参考)】