説明

ピペットチップ

【課題】 試料に試薬等を供給する際に試料の破損及び損傷を十分に防止しつつ、試薬等を吸入する際に目詰まりを有効に防止できるピペットチップを提供する。
【解決手段】 ピペットチップ10は、基部11、中位部12、及び先端部13を備えており、他方端10bから一方端13aに向かって先細りに形成されている。基部11は、ピペット(図示せず)が装脱着される部位である。また、先端部13は、中位部12の先端から延長するように形成されており、その先端は底壁(図示下壁)により閉止されている。さらに、先端部13の底壁近傍の周壁には、貫通孔K,Kが互いに対向する位置に穿設されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピペットチップに関する。
【背景技術】
【0002】
試薬や液状試料の分注に使用されるピペットチップは従来から種々のものが提案されている。特に、微量の試薬や液状試料を正確に分注しつつ、試薬又は試料同士のクロスコンタミネーションを防止すべく、ピペットの先端部に着脱可能であって使い捨て使用されるものが広く用いられている。
【0003】
このようなタイプのピペットチップは、一般に、全体が中空の略円錐状を成して先細りに形成されており、先端部には、試薬や液状試料を吸引し且つ吐出可能なように孔が形成されており、基端部はピペットの先端部に装着可能に形成されている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】特開2003−260372号公報
【特許文献2】特開平8−266913号公報
【特許文献3】特開平8−112537号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記従来のピペットチップを用いて容器に試薬や試料を供給する際には、ピペットチップに吸入保持された試薬や試料が容器に直接吐出(噴射)され易く、被検体である試料に衝撃力が加わって破損又は損傷してしまうことがあった。例えば、予め試料が収容された容器にピペットチップから試薬を注入するときには、試料に対して鉛直上方から試薬が勢いよく噴射され易い。逆に予め試薬が収容された容器に液状試料を注入するときにも、試薬に対して鉛直上方から液状試料が勢いよく噴射され易い。これを回避するには、慎重なピペット操作(ピペッティング)が要求され、こうなると作業性が悪化してしまう。
【0005】
また、上記従来のピペットチップでは、ピペットチップから試薬や試料を吐出するときだけでなく、ピペットチップ内へ試薬や試料を吸入する際にも不都合が生じることがあった。すなわち、例えば、容器内でゲルの破片や断片を洗浄した後、その洗浄液をピペットチップへ吸い上げる場合、洗浄液と共にゲルをも一緒に吸い込んでしまい、ピペットチップが目詰まりしてしまうおそれがあった。これを回避するにも慎重なピペッティング操作が要求され、これにより作業性が悪化してしまう。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、試料に試薬を供給したり試薬に液状試料を供給するときに、試料の破損及び損傷を十分に防止することができると共に、試薬や試料を吸入する際の目詰まりを有効に防止できるピペットチップを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明によるピペットチップは、ピペットに装脱着されるものであって、一方端が閉止された略筒状を成し、その一方端側の周壁に開口部を有する。
【0008】
このように構成されたピペットチップは、開放端となる他方端にピペットの先端部が装着され、そのピペット操作により、試薬や液状試料が、一方端側に形成された開口部を通してピペットチップの内部空間へ吸入される。このとき、試薬や液状試料が収容されている容器内に、例えばゲル片等の物体が含まれていても、開口部が周壁に設けられているので、試薬や液状試料はそのような物体の上方から横方向に流れ易くなり、かかる物体がその流れに巻き込まれて開口部側へ移動するような現象が生じ難い。
【0009】
こうしてピペットチップ内に収容保持された試薬や液状試料は、ピペット操作により、同じく開口部を通して外部へ吐出される。その際、開口部がピペットチップの周壁に設けられているので、試薬や液状試料は、それが供給される試料や試薬に向かって直接噴射又は噴出されるのではなく、周壁から周方向へ向かって噴出された後に失速して、或いは、予め試料や試薬が収容された容器の内壁に衝突した後、その内壁を伝って試料や試薬に供給される。
【0010】
このピペットチップの形状としては特に制限されないが、具体的には、例えば錐状のように、他方端から一方端に向かって径が徐々に小さくなるように形成されていると、ピペット操作を行い易く有用である。
【0011】
また、開口部が複数設けられていると好ましい。こうすれば、試薬や液状試料が複数の開口部からピペットチップの内部に吸入されるので、吸い込み時の試薬や液状試料の流れが一定方向に偏ることなく、分散されて平均化される。よって、試薬や液状試料と共に物体が吸い込まれてしまうことが一層抑制される。また、試薬や液状試料が複数の開口部からピペットチップの外部に吐出(排出)されるので、試料や試薬に対して試薬や液状試料が偏って供給されてしまうことが抑制されると共に、吐出される試薬や液状試料の勢いが緩和されて吐出速度が低下し易くなる。
【0012】
さらに、開口部の合計面積が、一方端が仮に閉止されていない状態の開口面積と略同等となるように形成されているとより好ましい。さらに具体的には、一方端が仮に閉止されていない状態の開口面積をSとしたときに、開口部の合計面積が0.8×S〜1.2×Sの範囲内の値になると特に好ましい。
【0013】
このようにすれば、開口部を有さず一方端が開放された従来のピペットチップを用いたときと略同等の吐出圧で試薬や液状試料がピペットチップの外部へ排出される。よって、十分な吐出圧を維持しつつ、開口部の開口面積がより小さい場合に比して、試薬や液状試料の吐出速度が低下する。また、開口部の開口面積がより大きい場合に比して、吐出量を制御し易くなり、大量の試薬や液状試料が一時に試料や試薬へ吐出されてしまうことが防止される。
【0014】
またさらに、他方端側の周壁に切欠部又は切込部が形成されたものであると好適である。
【0015】
かかる構成にすれば、ピペットチップに試薬や液状試料を吸入するとき、及び/又はピペットチップからそれらを吐出させるときに、切欠部又は切込部を介して、それらと例えば係止又は嵌合可能な保持具や把持具等に固定することにより、ピペットチップ全体が周方向及び高さ方向(軸方向)において常に定置されるように位置決めされる。よって、試薬や液状試料の吸入及び吐出を常に一定の位置で行うことが可能となる。特に、吐出時に、予め容器に収容された試料や試薬にピペットチップが触れてしまうことや、それら試料や試薬と開口部との距離が近すぎたり、ピペットチップが傾いたりすることが抑制される。これらにより、ピペットチップ内の試薬や液状試料が、それら試料や試薬に対して直接噴射されてしまうことが防止される。
【発明の効果】
【0016】
本発明のピペットチップによれば、試料に試薬を供給したり試薬に液状試料を供給するときに、試料の破損及び損傷を十分に防止することができる。また、試薬や試料を吸入する際の目詰まりを有効に防止できる。そして、これらにより、ピペット操作時の操作性を格段に向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。また、図面の寸法比率は、図示の比率に限られるものではない。
【0018】
図1(A)及び(B)は、本発明によるピペットチップの好適な一実施形態を示す模式図であり、それぞれ正面図及び側面図である。ピペットチップ10は、基部11、中位部12、及び先端部13を備えており、それぞれ他方端10bから一方端13aに向かって径が徐々に小さくなるように先細りに形成されている。基部11は、中位部12よりも太径とされており、ピペット(図示せず)の先端部が着脱自在に嵌合することにより、ピペットチップ10がピペットに装脱着されるようになっている。基部11には、他方端10bからやや内部寄りにストッパ14が設けられており、そこにピペットの先端が当接する。また、基部11における中位部12側の端周には、二つの切欠部15,15が互いに対向する位置に形成されている。
【0019】
中位部12は、基部11と先端部13とを連絡する部位であり、基部11よりも径が細く且つ比較的長尺とされている。先端部13は、中位部12の先端から延長するように形成されており、その先端(ピペットチップ10の一方端13a)は底壁(図示下壁)によって閉止されている。また、先端部13の底壁近傍の周壁には、貫通孔K,K(ともに開口部)が対向する位置に穿設されている。ここで、貫通孔K,Kの開口面積は特に制限されるものではないが、貫通孔K,Kの合計面積が、一方端13aが仮に閉止されていない状態の開口面積Sと略同等となるように形成されていると好ましく、0.8×S〜1.2×Sの範囲内の値になるように形成されていると特に好ましい。
【0020】
ここで、図2は、容器20に収容された生体試料30に対しピペットチップ10から試薬を供給している状態を示す正面図(一部断面図)である。この例では、ピペットチップ10内に試薬が吸入されている。ピペットチップ10は、切欠部15が保持具40に嵌着され、中位部12及び先端部13が容器20内に遊挿される。保持具40は固定されており、これに保持されたピペットチップ10は、容器20に対して回動することなく且つ同じ高さ位置に定置される。
【0021】
この状態で、ピペットチップ10内の試薬を吐出させるようにピペット(図示せず)の操作を行うと、試薬は、図示点線Y1に沿って先端部13へ向かうように移動し、先端部13の底壁近傍で分流され、図示矢印Y2で示すように二手に別れて、貫通孔K,Kを通して外部へ吐出される。貫通孔K,Kが吐出された試薬は、吐出圧と重力に応じた放物線状の軌跡を描きながら容器20内の生体試料30に放出供給される。
【0022】
このように構成されたピペットチップ10によれば、先端部13の開放端が底壁で閉止されつつその底壁近傍の周壁に貫通孔K,Kが穿設されているので、ピペットチップ10内に収容保持された試薬を容器20内の生体試料に供給する際に、試薬が生体試料30に向かって直接噴出されるのではなく、噴出速度が十分に低下した(即ち失速した)状態で試料へ吐出供給される。よって、生体試料30に印加される衝撃を緩和することができるので、生体試料30が破損したり損傷したりすることを十分に防止できる。
【0023】
また、貫通孔K,Kが対向して二つ設けられている、換言すれば、貫通孔K,Kが周壁において180°毎に配置されているので、生体試料30に対して対向する二方向から試薬が供給される。よって、生体試料30に対してある方向からのみ試薬が供給されてしまうことを抑止でき、試薬を生体試料30へより均一に供給することができると共に、吐出される試薬の勢いが緩和されてその吐出速度を一層低下させ易くなる。
【0024】
さらに、貫通孔K,Kの合計面積が、一方端13aが仮に閉止されていない場合のその開口面積と略同等とされているので、開口部を有さず一方端が開放された従来のピペットチップと略同等の吐出圧で試薬や液状試料が外部へ排出される。よって、十分な吐出圧を維持しつつ、貫通孔K,Kの合計面積がより小さい場合に比して、試薬や液状試料の吐出速度を低下させることができる。また、貫通孔K,Kの合計面積がより大きい場合に比して、吐出量を制御し易く、大量の試薬や液状試料が一時に(一気に)生体試料30へ吐出されてしまうことを防止できる。したがって、生体試料30に印加される衝撃を更に緩和することができるので、生体試料30が破損したり損傷したりすることをより一層抑止することが可能となる。また、その結果として、試薬や液状試料をピペットチップ10から吐出させる際に、過度に慎重なピペット操作が不要となるので、操作性を向上できる。
【0025】
またさらに、保持具40に切欠部15が嵌着されており、これにより、ピペットチップ10が周方向及び高さ方向(軸方向)において常に一定の向きに位置決めされる。よって、このように定置された状態で試薬や液状試料の吸入及び吐出を常に一定の幾何学的条件で行うことが可能となる。したがって、容器20に収容された生体試料30とピペットチップが不都合に接触してしまったり、さらにまた、生体試料30と貫通孔Kとの距離が近すぎたり、ピペットチップ10が傾いたりすることが防止される。その結果、生体試料30に対してピペットチップ10内の試薬が直接噴射されてしまうことが抑止され、これにより、生体試料30の破損や損傷をより一層確実に防止できる。また、ピペットチップ10が固定されることにより、ピペットの取扱性及び操作性を向上できる。
【0026】
また、上述したようにピペットチップ10から試薬等を吐出するときばかりでなく、試薬等を吸入する際にも、ピペットチップ10は極めて有用である。例えば、図2において、生体試料30がタンパク質やDNAを含むゲルの破片や断片であり、ピペットチップ10から洗浄液を吐出してゲルを洗浄した後、今度はその洗浄液を吸入する際には、洗浄液が図示矢印Y2で示す方向と逆向きに二方向からピペットチップ10内に吸入される。このように、生体試料30としてのゲル片の上方から横向きにピペットチップ10内に流入するので、そのゲル片が巻き込まれて貫通孔K,K側に移動するような流れが生じることが防止される。したがって、貫通孔K,Kがゲル片によって目詰まりしてしまうことを抑止できる。
【0027】
また、二つの貫通孔K,Kが形成されているので、貫通孔が一つの場合に比して、洗浄液の流れが分散される。よって、ピペットチップ10内へ吸い込まれる洗浄液の流速が低下し、ゲル片による貫通孔K,Kの目詰まりを一層有効に抑止できる。また、以上の結果として、試薬や液状試料をピペットチップ10に吸入する際に、過度に慎重なピペット操作が不要となるので、この点においても操作性を向上できる。
【0028】
なお、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、ピペットチップ10は角筒状であってもよく、必ずしも先細り状になっていなくてもよい。また、貫通孔Kは、複数設けることが望ましいが、単一でもよく、図示に限られず三ヶ所以上設けても構わない。さらに、切欠部15は、設けた方が望ましいがなくてもよく、一箇所のみに設けてもよく、三箇所以上設けても構わない。またさらに、切欠部15は、より幅の狭い切欠であってもよく、つまり切込部としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0029】
以上説明した通り、本発明によるピペットチップは、一方端が閉止された略筒状を成し、その一方端側の周壁に開口部を有するので、試料や試薬に対して試薬や液状試料を供給する際に、吐出による衝撃を十分に緩和することができる。よって、試料の破損及び損傷を十分に防止することが可能となる。また、試薬や試料を吸入する際の目詰まりを有効に防止できる。そして、これらにより、ピペット操作時の操作性及び取扱性を格段に向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】(A)及び(B)は、本発明によるピペットチップの好適な一実施形態を示す模式図であり、それぞれ正面図及び側面図である。
【図2】容器20に収容された生体試料30に対しピペットチップ10から試薬を供給している状態を示す正面図(一部断面図)である。
【符号の説明】
【0031】
10…ピペットチップ、10b…他方端、11…基部、12…中位部、13…先端部、13a…一方端、14…ストッパ、15,15…切欠部、20…容器、30…生体試料、40…保持具、K…貫通孔(開口部)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピペットに装脱着されるピペットチップであって、
一方端が閉止された略筒状を成し、該一方端側の周壁に開口部を有する、
ピペットチップ。
【請求項2】
他方端から前記一方端に向かって径が徐々に小さくなるように形成されている、
請求項1記載のピペットチップ。
【請求項3】
前記開口部が複数設けられて成る、
請求項1又は2に記載のピペットチップ。
【請求項4】
前記開口部の合計面積が、前記一方端が仮に閉止されていない状態の開口面積と略同等となるように形成された、
請求項1〜3のいずれか一項に記載のピペットチップ。
【請求項5】
他方端側の周壁に切欠部又は切込部が形成されたものである、
請求項1〜4のいずれか一項に記載のピペットチップ。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−296407(P2007−296407A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−235071(P2004−235071)
【出願日】平成16年8月12日(2004.8.12)
【出願人】(503318666)日京テクノス株式会社 (19)
【出願人】(000000217)エーザイ株式会社 (102)
【Fターム(参考)】