説明

ピペラジン類の製造法

【課題】ピペラジン類を選択的、且つ高収率で製造する方法を提供する。
【解決手段】N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒、及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類からピペラジン類を高収率で選択的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ピペラジン類は医農薬中間体、有機合成用触媒、化学吸着剤、又は抗菌剤として有用な化合物である。
【0003】
ピペラジン類の合成法としては、ジクロロエタン類とアンモニアを反応させる方法が一般的に知られている。しかしながら、この方法では、同時に直鎖状、若しくは分岐鎖状のエチレンジアミン類が副生し、ピペラジン類の選択率が低いといった問題があった。
【0004】
そこで、ピペラジン類の選択的合成について多くの研究がなされている。例えば、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンをラネーニッケル触媒の存在下にオートクレーブ中、高温・高圧下で反応させ、ピペラジンを得る方法(例えば、非特許文献1参照)が知られている。しかしながら、この方法では、反応収率が51%と低く、工業的な実施には適していなかった。
【0005】
また、他の方法としては、例えば、約10〜50kg/cmの加圧水素にて飽和したアンモニア対モノエタノールアミンのモル比が約0.5〜1.5である原料の流れを、約200〜300kg/cmの加圧下で、約200〜250℃の温度に保持しつつ、ラネーニッケル触媒の固定床に通してモノエタノールアミンをピペラジン及びN−アミノエチルピペラジンに転換させ、副反応生成物を循環させることを特徴とするモノエタノールアミンからピペラジン及びN−アミノエチルピペラジンを連続的に製造する方法(例えば、特許文献1参照)や、パラジウムと酸化マグネシウムの複合触媒を用い、エチレンジアミンとエチレングリコールとを反応させることにより、ピペラジンを製造する方法(例えば非特許文献2参照)が提案されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1の方法は水素ガスを用いた、高温、超高圧での気相反応であるため、複雑な装置が必要であり、工業的な実施には問題がある。
【0007】
また、非特許文献2の方法においては、高価な貴金属触媒を利用しているため、コスト面で工業的に不利である。
【0008】
以上のように従来の方法は、工業的な実施にはいずれも十分なものとは言えず、選択的、且つ高収率でピペラジン類を製造する方法の開発が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特公昭44−23093号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of the American Chemical Society (1947), 69 854−855
【非特許文献2】Chemistry−A European Journal (2010), 16(1), 254−260
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記した背景技術に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピペラジン類を選択的、且つ高収率で製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は、ピペラジン類の製造法について鋭意検討した結果、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることにより、高収率でピペラジン類が得られるという新規な事実を見い出し、本発明を完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、以下に示すとおりのピペラジン類の製造法である。
【0014】
[1]N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒、及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることを特徴とするピペラジン類の製造法。
【0015】
[2]下記一般式(1)
【0016】
【化1】

[R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、フェニル基、又は2−フェニルエチル基を表し、R、R、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。]
で示されるN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることを特徴とすることを特徴とする下記一般式(2)
【0017】
【化2】

[上記式中、R〜Rは上記と同じ定義である。]
で示されるピペラジン類の製造法。
【0018】
[3]N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類が、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−エチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−i−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−t−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−フェニルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ペンチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−メチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ヘキシル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−ジメチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1,2−ジフェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−2,3−ブタンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノ−N−メチルプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチル−2,3−ブタンジアミン、及びN−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N,N’−ジメチル−2,3−ブタンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする上記[1]又は[2]に記載の製造法。
【0019】
[4]ラネー金属触媒が、ラネー銅触媒、ラネーニッケル触媒、ラネーコバルト触媒、及びラネー鉄触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造法。
【0020】
[5]ラネー金属触媒が、ラネー銅触媒であることを特徴とする上記[1]乃至[3]のいずれかに記載の製造法。
【0021】
[6]脱水剤が、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、塩化亜鉛、シリカゲル、ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記[1]乃至[5]のいずれかに記載の製造法。
【0022】
[7]ラネー金属触媒の量が、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、0.1〜50重量%の範囲であることを特徴とする上記[1]乃至[6]のいずれかに記載の製造法。
【0023】
[8]脱水剤の量が、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、1〜50重量%の範囲であることを特徴とする上記[1]乃至[7]のいずれかに記載の製造法。
【0024】
[9]反応を100〜400℃の温度範囲で行うことを特徴とする上記[1]乃至[8]のいずれかに記載の製造法。
【0025】
[10]反応を0.1〜50MPaの圧力範囲で行うことを特徴とする上記[1]乃至[9]のいずれかに記載の製造法。
【発明の効果】
【0026】
本発明は以下に示す効果を奏する。
【0027】
本発明の製造法は、安価な原料を利用し、高収率でピペラジン類を製造することができるため、コスト性、生産性に優れ、工業的に有用な方法である。
【0028】
また、本発明の製造法は、簡便な方法で実施することができるため、安全性、操作性にも優れ、工業的に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下に、本発明をさらに詳細に説明する。
【0030】
本発明のピペラジン類の製造法は、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることを特徴とする。
【0031】
本発明の製造法において、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類としては、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(1)で示されるN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類が好適なものとして挙げられる。
【0032】
上記一般式(1)におけるR、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、フェニル基、又は2−フェニルエチル基を表し、R、R、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。
【0033】
ここで、炭素数3〜8の直鎖状アルキル基としては、例えば、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基等が挙げられる。炭素数3〜8の分岐状アルキル基としては、例えば、i−プロピル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、i−ペンチル基、sec−ペンチル基、t−ペンチル基、neo−ペンチル基、i−ヘキシル基、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。炭素数3〜8の環式のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。ヒドロキシエチル基としては、例えば、1−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシエチル基等が挙げられる。ヒドロキシプロピル基としては、例えば、1−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、3−ヒドロキシプロピル基等が挙げられる。
【0034】
上記一般式(1)で示される化合物としては、特に限定するものではないが、具体的には、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−エチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−i−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−t−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−フェニルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ペンチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−メチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ヘキシル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−ジメチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1,2−ジフェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−2,3−ブタンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノ−N−メチルプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチル−2,3−ブタンジアミン、又はN−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N,N’−ジメチル−2,3−ブタンジアミン等が例示される。
【0035】
本発明の製造法において、本発明の趣旨に反しない程度であれば、上記一般式(1)で示されるN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類に加えて、それ以外のN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を併用しても差し支えない。
【0036】
本発明の製造法において、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類は、市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでも良く、特に限定されない。また、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の純度としては、特に限定はないが、精製工程での精製のし易さを考慮すると、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0037】
本発明の製造法により製造されるピペラジン類は、上記したN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の反応によって得られるものであって、特に限定するものではないが、例えば、上記一般式(2)で示されるピペラジン類が挙げられる。上記一般式(2)におけるR〜Rは、上記した定義と同じである。
【0038】
上記一般式(2)で示される化合物としては、特に限定するものではないが、具体的には、ピペラジン、N−メチルピペラジン、N−エチルピペラジン、N−n−プロピルピペラジン、N−i−プロピルピペラジン、N−n−ブチルピペラジン、N−t−ブチルピペラジン、N−フェニルピペラジン、2−メチルピペラジン、2−エチルピペラジン、2−n−プロピルピペラジン、2−i−プロピルピペラジン、2−n−ブチルピペラジン、2−t−ブチルピペラジン、2−(ヒドロキシメチル)ピペラジン、2−(1−ヒドロキシエチル)ピペラジン、2−フェニルピペラジン、N,N’−ジメチルピペラジン、2,3−ジメチルピペラジン、2,3−ジフェニルピペラジン、N−メチル−2−メチルピペラジン、N−メチル−2,3−ジメチルピペラジン、N,N’−ジメチル−2,3−ジメチルピペラジン、2,3,5−トリメチルピペラジン、2,3,5,6−テトラメチルピペラジン、N−メチル−2,3−ジメチルピペラジン、N−メチル−2,3,5−トリメチルピペラジン、N,N’−ジメチル−2,3,5−トリメチルピペラジン、又は、N,N’−ジメチル−2,3,5,6−テトラメチルピペラジン等が例示される。
【0039】
本発明の製造法において、脱水環化反応は、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類をラネー金属触媒に接触させることで進行する。
【0040】
本発明の製造法において、ラネー金属触媒は、脱水環化反応に有用な、任意の触媒活性金属を含むことができる。ラネー金属触媒としては、例えば、ラネー銅触媒、ラネーニッケル触媒、ラネーコバルト触媒、ラネー鉄触媒等が挙げられ、これらの群から選ばれる少なくとも一種を用いることができる。中でも、コスト、反応性、及び安全性の観点からラネー銅触媒が最も好適に使用される。
【0041】
本発明の製造法において、本発明の趣旨に反しない程度であれば、上記した以外のラネー金属触媒を使用しても差し支えない。
【0042】
本発明の製造法において、ラネー金属触媒は、市販のものでもよいし、公知の方法により合成したものでも良く、特に限定されない。また、ラネー金属触媒の純度としては、特に限定はないが、不純物の混入を避けるため、95%以上が好ましく、99%以上が特に好ましい。
【0043】
本発明の製造法において、ラネー金属触媒の量は、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、0.1〜50重量%の範囲であることが好ましく、1〜20重量%の範囲であることが更に好ましい。0.1重量%未満であると、反応の進行が著しく遅くなり製造に掛かる時間が長くなるおそれがあり、50重量%を超えて使用しても、特段の向上効果は無く、安全面、及びコスト面で不利となるおそれがある。
【0044】
本発明の製造法において、用いられる脱水剤としては、無機脱水剤、有機脱水剤のいずれを使用しても差し支えないが、無機脱水剤の方が安価に入手可能なため、工業的に有利である。
【0045】
本発明の製造法において、脱水剤としては、特に限定するものではないが、具体的には、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、塩化亜鉛、シリカゲル、及びゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることができる。これらの中でも、コスト、反応性、及び安全性の観点から、硫酸ナトリウム、硫酸マグネシウムが好適に使用される。
【0046】
本発明の製造法において、脱水剤の量は、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、1〜50重量%の範囲であることが好ましく、5〜30重量%の範囲であることが更に好ましい。この範囲を逸脱して、例えば、1重量%未満の場合、脱水量があまりにも少ないため、本発明の効果を発現しないおそれがある。一方、50重量%を越える量を使用しても、特段の向上効果は無い。
【0047】
本発明の製造法において、脱水剤の作用機構は必ずしも明らかではないが、脱水剤が、反応仕込持に混入した水、脱水環化反応の進行に伴い生成した水を吸着、固定化し、脱水環化反応を促進させる効果があるものと推定される。
【0048】
本発明の製造法において、反応は、100〜400℃の温度範囲で実施することが好ましく、さらに150〜250℃の温度範囲で実施することが好ましい。100℃未満でも反応は進行するが、その進行速度が比較的遅くなることがあり、温度を下げる利点は少ない。また400℃を越える温度で反応させるとピペラジン類の選択率が低下することがある。
【0049】
本発明の製造法において、反応は、0.1〜50MPaの圧力範囲で実施することが好ましく、さらに1〜30MPaの圧力範囲で実施することが好ましい。0.1MPa未満でも反応は進行するが、その進行速度が比較的遅くなることがあり、圧力を下げる利点は少ない。また50MPaを越える圧力で反応させても、特別な効果は無く、安全面で工業的に不利となる。
【0050】
本発明の製造法において、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、溶媒で希釈して反応を行っても一向に差し支えない。用いられる溶媒としては、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を溶解しうるものであり、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類と反応しないものなら特に制限はないが、例えば、エーテル類が好適に使用される。エーテル類としては、具体的には、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサン等が挙げられる。
【0051】
本発明の製造法において、脱水環化反応は、不活性ガス、水素ガス、又はそれらの両方の共存下で行われる。不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、アルゴンガス等の反応に不活性なガスが挙げられる。水素ガスは、ラネー金属触媒の不活性部位を還元し、活性化表面を増加させる効果があるため、反応時に共存させることが好ましい。不活性ガスの共存下に反応を行う場合、反応前に、ラネー金属触媒の活性化処理を行うことが好ましい。活性化処理は、例えば、水素ガス雰囲気下でラネー金属触媒を加熱する方法で行うことができる。
【0052】
本発明の製造法において、脱水環化反応後は、一般に知られている方法でピペラジン類を精製することができる。また、未反応の原料、溶媒を回収して再度使用してもよい。ピペラジン類の精製方法としては、例えば、再結晶や蒸留によって精製する方法が挙げられるが、その他どの様な方法を使用しても一向に差し支えない。
【実施例】
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定して解釈されるものではない。
なお、本実施例における生成物の収率、選択率は、ガスクロマトグラフィーで確認した。
【0054】
ガスクロマトグラフィーには、ガスクロマトグラフ(島津製作所製 GC−2014)、キャピラリーカラム(J&W Scientific社製 DB−5)、及び検出器(FID)を使用した。
【0055】
[実施例1]N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンからのピペラジン合成.
内容積200mlのオートクレーブに、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン50g(0.48モル)、溶媒としてジオキサン50g、触媒としてラネー銅(川研ファインケミカル社製、商品名:CDT−60)10.0g、及び脱水剤として無水硫酸ナトリウム10.0gを充填し、水素雰囲気下で180℃に加熱した。この時の反応容器圧力は8.9MPaであった。6時間反応させ、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンの転化率は96.2%であり、ピペラジンの収率は80.7%であり、選択率は83.9%であった。結果を表1に示す。
【表1】

【0056】
[実施例2]N−(2,3−ジヒドロキシエチル)エチレンジアミンからの2−ヒドロキシメチルピペラジン合成.
内容積200mlのオートクレーブに、N−(2,3−ジヒドロキシエチル)エチレンジアミン24.0g(0.2モル)、溶媒としてジオキサン76.0g、触媒としてラネー銅(川研ファインケミカル社製、商品名:CDT−60)11.5g、及び脱水剤として無水硫酸ナトリウム15.0gを充填し、水素雰囲気下で165℃に加熱した。この時の反応容器圧力は3.5MPaであった。4時間反応させ、生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(2,3−ジヒドロキシエチル)エチレンジアミンの転化率は84.9%であり、2−ヒドロキシメチルピペラジンの収率は72.4%であり、選択率は85.3%であった。他の例と共に実施例2の結果を表1に示す。
【0057】
[比較例1]N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンからのピペラジン合成.(ラネーニッケル触媒、脱水剤添加無し).
実施例1でラネー銅触媒に替え、ラネーニッケル触媒(エボニック・デグサ社製、商品名:Type B 111W)を用い、無水硫酸ナトリウム10.0g加えなかったこと以外は全て実施例4と同様に反応を行った。生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンの転化率は98.9%であり、ピペラジンの収率は45.8%であり、選択率は46.3%であった。他の例と共に比較例2の結果を表1に示す。
【0058】
[比較例2]N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンからのピペラジン合成.(脱水剤添加無し).
実施例1で無水硫酸ナトリウム10.0g加えなかったこと以外は全て実施例4と同様に反応を行った。生成物をガスクロマトグラフィーで分析した結果、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミンの転化率は96.9%であり、ピペラジンの収率は71.8%であり、選択率は74.1%であった。他の例と共に比較例2の結果を表1に示す。
【0059】
尚、表記を簡潔にするため、表1中において各化合物を以下の様に称した。
【0060】
AEEA:N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン.
DHEDA:N−(2,3−ジヒドロキシエチル)エチレンジアミン.
PIP:ピペラジン.
HMP:2−ヒドロキシメチルピペラジン.
R−Cu:ラネー銅.
R−Ni:ラネーニッケル。
【0061】
表1で示した通り、実施例1と比較例1との比較において、本発明の製造法では、ラネーニッケル触媒を用いた従来法に比べ、収率が良好であった。また、実施例1と比較例2との比較において、ラネー銅触媒を用いた場合、本発明の製造法では、脱水剤を使用しない場合に比べ、収率、選択率が共に向上した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒、及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることを特徴とするピペラジン類の製造法。
【請求項2】
下記一般式(1)
【化1】

[R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、フェニル基、又は2−フェニルエチル基を表し、R、R、R、Rは各々独立して、水素原子、メチル基、エチル基、炭素数3〜8の直鎖状、分岐状若しくは環式のアルキル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、フェニル基、ベンジル基、又は2−フェニルエチル基を表す。]
で示されるN−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類を、ラネー金属触媒及び脱水剤の存在下、脱水環化反応させることを特徴とすることを特徴とする下記一般式(2)
【化2】

[上記式中、R〜Rは上記と同じ定義である。]
で示されるピペラジン類の製造法。
【請求項3】
N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類が、N−(2−ヒドロキシエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−エチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−i−プロピルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−n−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−t−ブチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−フェニルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ペンチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−メチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−n−ヘキシル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−3−ジメチル−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、N−(2,3−ジヒドロキシ−n−ブチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−2−フェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1,2−ジフェニルエチル)エチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、N−メチル−N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチルエチレンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−2,3−ブタンジアミン、2−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)アミノ−N−メチルプロピルアミン、N−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N’−メチル−2,3−ブタンジアミン、及びN−(2−ヒドロキシ−1−メチルプロピル)−N,N’−ジメチル−2,3−ブタンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも一種の化合物であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の製造法。
【請求項4】
ラネー金属触媒が、ラネー銅触媒、ラネーニッケル触媒、ラネーコバルト触媒、及びラネー鉄触媒からなる群より選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造法。
【請求項5】
ラネー金属触媒が、ラネー銅触媒であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の製造法。
【請求項6】
脱水剤が、水酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、酸化マグネシウム、過塩素酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、酸化アルミニウム、塩化亜鉛、シリカゲル、ゼオライトからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の製造法。
【請求項7】
ラネー金属触媒の量が、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、0.1〜50重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の製造法。
【請求項8】
脱水剤の量が、N−(2−ヒドロキシアルキル)ビシナルジアミン類の使用量に対し、1〜50重量%の範囲であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の製造法。
【請求項9】
反応を100〜400℃の温度範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の製造法。
【請求項10】
反応を0.1〜50MPaの圧力範囲で行うことを特徴とする請求項1乃至請求項9のいずれかに記載の製造法。