説明

ピーク抑圧装置

【課題】ハードウェア規模を増大することなく、マルチキャリア送信信号のピークをより有効に抑圧することができるピーク抑圧装置を提供する。
【解決手段】ピーク検出部100において、複数のシングルキャリア信号を加算合成したマルチキャリア信号をインタポレーションによりアップサンプリングした信号を基にピーク信号を検出し、ピーク抑圧回路によってピーク信号に基づきピーク抑圧係数を予め求め、ピーク抑圧信号を生成する。生成されたピーク抑圧信号をシングルキャリア信号に減算することにより、ピーク抑圧処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピーク抑圧技術に関し、特に、マルチキャリア送信信号のピークを抑圧することを可能とする技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の無線通信分野において、携帯電話やモバイルパソコン等の無線通信用小型端末の普及に伴い、マルチメディア通信サービスの需要が高まっており、さらなる高速・大容量のデータ通信が要求されている。無線通信の変調方式としては、複数の位相変調された信号が同一周波数上に多重されるCDMA(Code Division Multiple Access:符号分割多重接続)方式や直交関係にある複数のサブキャリアを使用するOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式等が用いられている。しかし、これらの変調信号における瞬時電力は、ガウス分布に近い性質を有しており、平均電力に対して非常に大きいピーク電力が発生し、基地局送信部で非線形増幅器を用いた場合に送信信号に歪みが生じてしまうことによる帯域外へのスペクトラム放射が問題となっていた。そのため、基地局送信部の増幅器は、より低い歪み、高い効率であることが要求されていた。
【0003】
また、周波数の異なる複数のキャリア信号を一台の増幅器で一括して増幅する場合、異なるキャリアを合成したときに発生するピーク電力の影響を受ける。このピーク電力を軽減させる方法として、ベースバンドクリップ方式が挙げられる。この方式は、パルス整形フィルタ処理前にベースバンド上で各々のキャリアに乗せる送信データ系列に対して独立にクリップを施し、その後、パルス整形フィルタ処理を行うため、信号スペクトラムに影響が及ばない。しかし、フィルタ前にクリップ処理をするのでクリップ後のフィルタによるピークの発生、キャリア合成によるピークの発生が起こり抑圧効果は小さい。また、周波数の異なる複数のシングルキャリア信号を合成したマルチキャリア信号に対して、ピーク電力をクリップするリミッタ方式が考えられる。しかし、この方式は、信号に不連続が生じるために信号スペクトラムに影響を与え、帯域外スペクトラムの広がりが生じてしまっていた。
【0004】
さらに、これらの問題に対するピーク抑圧方法として、例えば、ピークパルスのごく近傍にのみエネルギが集中するような補正信号を生成し、これに基づいてピークパルスの消去を行う方法が知られている(特許文献1参照。)。しかし、この技術では、周波数の異なる複数のシングルキャリア信号を合成したマルチキャリア信号については考慮されておらず、この方式でマルチキャリア信号のピーク抑圧を行った場合には、マルチキャリア信号帯域内にスペクトラムの広がりが発生し、マルチキャリア信号のうち、未使用キャリアがある場合には、未使用キャリアの周波数帯におけるスペクトラムの盛り上がりが生じることとなる。
また、例えば、ピークファクタ低減装置に、EVM(Error Vector Magnitude)の目標値を設定することで、信号レベルに応じてピークファクタ閾値を自動調整する方法が知られている。この技術では、周波数の異なる複数のシングルキャリア信号を合成した場合に生じる瞬時ピークを予め求めて、そのピークに対する抑圧信号を合成前のシングルキャリア信号を基に生成するため、フィルタ回路の構成によるが、スペクトラムの広がりは各シングルキャリア信号内のみに限定されるため、帯域外へのスペクトラムの広がりは発生しない(特許文献2参照。)。しかしながら、信号品質とピーク抑圧の両方を考慮しているため、信号条件によっては、残留ピークが発生する。また、各シングルキャリア信号に対応したキャリア周波数信号を乗じて周波数変換を行い、加算合成したマルチキャリア信号に対応するピーク抑圧処理を低レートのサンプリング周波数で行った場合には、ピーク抑圧後のマルチキャリア信号をインタポレーションによりアップサンプリングする場合があり、アップサンプリングにより残留ピークのレベルと頻度が増加する。さらに、ピーク抑圧処理を高レートのサンプリング周波数で実行した場合には、各シングルキャリア信号のキャリア数に応じて、ハードウェア規模が増大する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−124824号公報
【特許文献2】特開2011−19164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ハードウェア規模を増大することなく、マルチキャリア送信信号のピークをより有効に抑圧することができるピーク抑圧装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のピーク抑圧装置は、複数のシングルキャリア信号を加算合成してマルチキャリア信号を生成する第1の信号合成手段と、前記第1の信号合成手段から出力されたマルチキャリア信号をアップサンプリングするサンプリングレート変換手段と、前記サンプリングレート変換手段の出力信号から、所定の振幅閾値を超えるピーク信号を検出するピーク信号検出手段と、前記ピーク信号に対して、ピーク抑圧係数を算出する係数算出手段と、前記ピーク抑圧係数に基づき、ピーク抑圧信号を生成するピーク信号生成手段と、前記シングルキャリア信号に対して前記ピーク抑圧信号を減算することにより、ピーク抑圧処理を行うピーク抑圧手段を有する。ここでピーク信号とは平均電力に対して大きな電力となる信号のことであり、ピーク抑圧係数とはピーク信号を減衰するための係数のことである。マルチキャリア信号をアップサンプリングした信号を基にピーク抑圧係数を予め求めるため、残留ピークのレベルを非常に小さい値とすることができる。また、ピーク抑圧処理は比較的低レートのサンプリング周波数でも実行が可能となり、ハードウェア規模の軽減が可能となる。
【0008】
ある実施の態様では、ピーク抑圧装置は、前記ピーク抑圧手段の出力信号を加算合成してマルチキャリア信号を生成する第2の信号合成手段と、前記第2の信号合成手段から出力された信号に対して、ピーククリップ処理を行うピーククリップ手段をさらに有する。ピーククリップ手段により、さらに残留ピークを抑圧するためにピーククリップ処理を行うことにより、残留ピークを抑圧することが可能となる。
【0009】
また、ある実施の態様では、前記第1の信号合成手段と前記第2の信号合成手段は同じ構成である。ピーク信号を検出するために用いられる第1の信号合成手段が、実際にマルチキャリア信号を生成するために用いられる第2の信号合成手段と同じ構成となっているため、より精度よくピーク信号を検出することができ、その結果より有効にピークを抑圧することができる。
【0010】
その他の実施の態様では、 前記サンプリングレート変換手段は、マルチキャリア信号に対して0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングするインタポレーションである。また、前記ピーク信号生成手段は、前記シングルキャリア信号に前記ピーク抑圧係数を乗算することにより、ピーク抑圧信号を生成する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、マルチキャリア信号をインタポレーションによりアップサンプリングした信号を基にピーク抑圧係数を予め求めるため、残留ピークのレベルを非常に小さい値とすることができる。また、ピーク抑圧処理が比較的低レートのサンプリング周波数で可能となるため、ハードウェア規模の増大を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】マルチキャリア送信信号におけるピーク抑圧方式の構成を示すブロック図。
【図2】ピーク検出回路の構成を示す回路ブロック図。
【図3】図2の回路より出力されるピーク信号Kpの波形例。
【図4】ピーク抑圧回路の構成を示す回路ブロック図。
【図5】LPFのインパルス応答例。
【図6】ピーククリップ回路の構成を示す回路ブロック図。
【図7】シミュレーション結果を示す4キャリア信号のスペクトラム波形例。
【図8】シミュレーション結果を示す4キャリア信号のCCDF波形例。
【図9】シミュレーション結果を示す3キャリア信号のスペクトラム波形例。
【図10】シミュレーション結果を示す3キャリア信号のCCDF波形例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態例を説明する。
【0014】
[ピーク抑圧装置]
図1は本発明が適用されるマルチキャリア信号におけるピーク抑圧装置10の回路ブロック図である。このピーク抑圧装置10は、予めマルチキャリア信号をアップサンプリングしてピーク信号を検出しておき、このピーク信号に対応したピーク抑圧信号を生成し、ピーク抑圧信号をシングルキャリア信号から減算することによって、ピーク抑圧処理を行う。このピーク抑圧装置10は、ピーク検出部100と、NCO(Numerical Controlled Oscillator:数値制御発振器)回路210と、遅延回路220と、遅延回路230と、ピーク抑圧回路240と、複素乗算回路250と、合成回路260と、インタポレーション310と、LPF(Low−Pass Filter:ローパスフィルタ)回路320と、ピーククリップ回路330と、インタポレーション410と、LPF回路420と、ピーククリップ回路430を備えている。
【0015】
ピーク検出部100は、周波数の異なる複数のシングルキャリア信号を合成したマルチキャリア信号をインタポレーションによりアップサンプリングした信号に対して、ピーク抑圧設定値に対応したピーク信号を検出する。ピーク検出部100の詳細は後述する。
【0016】
NCO回路210は、各シングルキャリア信号に対応したキャリア周波数信号exp(j2πf)(f:各シングルキャリア信号の中心周波数、t:サンプリング周波数ステップでインクリメントする時間)を発生する。
【0017】
遅延回路220は、NCO回路210の出力信号に対して、ピーク検出部100の処理時間とピーク抑圧回路240の処理時間をあわせた処理時間相当分を遅延させる。遅延回路230は、各シングルキャリア信号X1、,,,Xに対して、ピーク検出部100の処理時間相当分を遅延させる。
【0018】
ピーク抑圧回路240は、ピーク検出部100で検出されたピーク信号に対応して、各シングルキャリア信号のピーク抑圧処理を行う。ピーク抑圧回路240の詳細は後述する。
【0019】
複素乗算回路250は、ピーク抑圧回路240の出力信号と遅延回路220の出力信号を各シングルキャリア信号に対応して、複素乗算して周波数の異なる複数の信号を生成する。
【0020】
合成回路260は、複素乗算回路250にて生成された周波数の異なる複数の信号を合成してマルチキャリア信号を生成する。
【0021】
インタポレーション310は、合成回路260にて生成されたマルチキャリア信号に対して0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングする。LPF回路320は、インタポレーション310の出力信号を平滑する。ピーククリップ回路330は、サンプリングレートを2倍にアップサンプリングしたマルチキャリア信号に対して、ピーク抑圧設定値に対応したピーク抑圧処理を行う。
【0022】
インタポレーション410は、マルチキャリア信号でピーク抑圧されたピーククリップ回路330の出力信号に対して、さらに0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングする。LPF回路420は、インタポレーション410の出力信号を平滑する。ピーククリップ回路430は、サンプリングレートをさらに2倍にアップサンプリングしたマルチキャリア信号に対して、ピーク抑圧設定値に対応したピーク抑圧処理を行う。
【0023】
[ピーク検出部]
ピーク検出部100は、入力された複数のシングルキャリア信号を加算合成してマルチキャリア信号を生成し、マルチキャリア信号をアップサンプリングしたうえで、所定の振幅閾値を超えるピーク信号を検出する。本実施形態のピーク検出部100は、複素乗算回路110と、合成回路120と、インタポレーション130と、LPF回路140と、ピーク検出回路150と、デシメーション160を備えている。
【0024】
複素乗算回路110は、各シングルキャリア信号X1, ,,,Xと各シングルキャリア信号に対応したキャリア周波数信号exp(j2πf)を複素乗算して周波数の異なる複数の信号を生成する。本実施形態では、複素乗算回路110は、複素乗算回路250と同じものとする。
【0025】
合成回路120は、複素乗算回路110にて生成された周波数の異なる複数の信号を合成してマルチキャリア信号を生成する。本実施形態では、合成回路120は、合成回路260と同じものとする。
【0026】
インタポレーション130は、合成回路120にて生成されたマルチキャリア信号に対して0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングし、LPF回路140は、インタポレーション130の出力信号を平滑し、ピーク検出回路150は、ピーク抑圧設定値に対応したピーク信号を検出し、デシメーション160は、ピーク検出回路150の出力信号をダウンサンプリングする。
【0027】
次にピーク検出回路150におけるピーク検出処理について説明する。図2は、ピーク検出回路150の回路ブロック図である。図3はピーク検出回路から出力されるピーク信号Kの波形例を示す図である。
ピーク検出回路150は、マルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して、絶対値|Sin(I)+jSin(Q)|を求める絶対値算出回路151と、絶対値算出回路151の出力信号に対してピーク抑圧設定値を乗算する乗算回路152と、乗算回路152の出力信号に対して5サンプル分の振幅データを保持する遅延素子153a〜153dと、5サンプル分の振幅データを基にピーク信号Kを出力するピーク信号出力条件式154とが備えている。
【0028】
ピーク検出回路150では、マルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して、絶対値Sa=|Sin(I)+jSin(Q)|を求めてピーク抑圧設定値Pthを乗算する。Pthは数1で表される。
【0029】
【数1】

【0030】
数1において、Ptg(dB)はピーク抑圧後の目標PAR(Peak to Average Power Ratio:ピーク対平均電力比)、Vrmsは絶対値算出回路151に求められた絶対値の実効値で、nは、乗算回路152で求められる値のビット数(unsigned)である。
【0031】
数1で求められるピーク抑圧設定値Pthを絶対値算出回路151の出力信号に対して乗算することにより、抑圧すべきピーク信号の振幅閾値は2n−1となる。
遅延素子153a〜153dでは乗算回路152の出力信号に対して5サンプル分の振幅データa〜aを保持し、ピーク信号出力条件式154にて、ピーク信号Kを出力する。ピーク信号Kは数2により求められる。
【0032】
【数2】

【0033】
具体的には、5サンプル分の振幅データa〜aのうち、aがその前後のデータ(a及びa)より大きくて、かつピーク信号の振幅閾値である2n−1以上(unsignedのnビットデータのMSB=1に相当する)の場合に、aのサンプル点とaの前後のデータであるa及びaのうち、大きい方のサンプル点に対して、aに対応する下位(n−1)ビットのデータをピーク信号Kとして出力する。例えば、図3のような波形になる。図3において、410が絶対値であり、420がピーク信号Kである。各シングルキャリア信号のピーク抑圧処理を行うサンプリングレートに対して、ピーク検出回路は2倍のサンプリングレートで動作しているため、ピーク信号が2サンプル点連続して送出されることになる。
【0034】
また、Vtgをピーク抑圧後の目標ピーク振幅(2n−1)として、VはVtgを超過するピーク振幅とするとピーク信号Kの振幅はVの下位(n−1)ビットのデータとなるので、数3となる。
【0035】
【数3】

【0036】
[ピーク抑圧回路]
図4はピーク抑圧回路240の構成を示すブロック図である。
ピーク抑圧回路240は、ピーク信号Kに対応するピーク抑圧係数を求め、ピーク抑圧係数からピーク抑圧信号を生成し、ピーク抑圧信号をシングルキャリア信号から減算することによりピーク抑圧処理を行う。ピーク抑圧回路240は、係数変換ROM241と、乗算回路242a及び242bと、減算回路243a及び243bと、LPF回路244a及び244bと、遅延回路245a及び245bと、減算回路246a及び246bを備えている。
【0037】
係数変換ROM241は、ピーク信号Kに対応した抑圧係数を求めるためのものである。乗算回路242a及び242bは、各シングルキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して係数変換ROM241にて求められた抑圧係数を乗算する。減算回路243a及び243bは、各シングルキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して乗算回路242a及び242bの出力信号を減算する。
【0038】
また、LPF回路244a及び244bは、減算回路243a及び243bの出力信号に対してスペクトラムの広がりを阻止する。遅延回路245a及び245bは、各シングルキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対してLPF回路244a及び244bの遅延時間相当分を遅延させる。減算回路246a及び246bは、遅延回路245a及び245bに遅延された各シングルキャリア信号に対してピーク抑圧信号となるLPF回路244a及び244bの出力信号を減算する。
【0039】
ピーク抑圧回路240において、所望される値yは数4のとおりとなる。
【0040】
【数4】

【0041】
数4において、Vtgはピーク抑圧後の目標ピーク振幅、VはVtgを超過するピーク振幅、xはピーク信号が発生するサンプル点に対応した各シングルキャリア信号の瞬時値である。
【0042】
また、図4のピーク抑圧回路を式に変換すると数5となる。
【0043】
【数5】

【0044】
Delay(・)は遅延回路245a及び245に、LPF(・)はLPF回路244a及び244bに、LPF(・)の()内のx―Aは減算回路243a及び243bに、Aは乗算回路242a及び242bにそれぞれ対応する。Delay(a)=a、LPF(a)=aとした場合は数3と数4は等しくなる。LPF(・)はFIR(Finite impulse response:有限インパルス応答)フィルタで構成されており、センタータップを中心に奇対称のタップ係数を有する。LPFのセンタータップは1倍のタップ係数であり、ピーク信号が発生するサンプル点をセンタータップにDelay(・)によりあわせることにより、タップ長内にピーク抑圧すべきピーク信号が1つだけ存在する場合は、ピーク信号が発生するサンプル点においてDelay(a)=(a)、LPF(a)=aが成立し、所望する信号振幅の減衰を行う。FIRフィルタにより、ピーク近傍のみを補正するピーク抑圧信号を生成して滑らかに信号振幅の減衰することでピーク信号の抑圧を行うため、信号品質の劣化に対する影響を極力抑え、帯域外スペクトラムの広がりを抑えている。
【0045】
図5にピーク抑圧回路240のLPF244a、244bのインパルス応答例を示す。インパルス応答は変調信号の帯域以内の減衰特性となる。図5では、センタータップ利得=1倍のタップ係数の例を示しており、センタータップの位置が、抑圧すべきピークの位置と一致している。
【0046】
また数5におけるVtg/Vは係数変換ROM241で求められる抑圧係数である。係数変換ROM241は数6及び数7で表される。
【0047】
【数6】

【0048】
【数7】

【0049】
数6及び数7においてadrsはROMアドレス、dataはROMデータ、round(・)は四捨五入を表す。数6のうち、×2はROMをnビットの整数で生成するための値であり、抑圧係数比kは数7となる。係数変換ROM241のROMアドレスは数3のK=V−Vtgであり、ピーク抑圧後の目標ピーク振幅であるVtgは2n−1なので、adrs=K=V−Vtgとすると、数7より、k=Vtg/Vとなり、所望する抑圧係数が得られる。
【0050】
[ピーククリップ回路]
図6はピーククリップ回路330の構成を示すブロック図である。ピーククリップ回路430もピーククリップ回路330と同じ構成である。
ピーククリップ回路330は、絶対値算出回路331と、乗算回路332と、遅延素子333a及び333bと、ピーク信号出力条件式334と、係数変換ROM335と、遅延素子336a及び336bと、乗算回路337a及び337bが備えられている。
【0051】
絶対値算出回路331は、マルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して、絶対値|Sin(I)+jSin(Q)|を求める。乗算回路332は、絶対値算出回路331の出力信号に対してピーク抑圧設定値を乗算する。遅延素子333a及び333bは、乗算回路332の出力信号に対して3サンプル分の振幅データを保持する。ピーク信号出力条件式334は、3サンプル分の振幅データをもとにピーク信号Kを出力する。
【0052】
また、係数変換ROM335は、ピーク信号Kに対応した抑圧係数を求める。遅延素子336a及び336bは、マルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して、ピーク信号出力信号式334のピーク検出遅延相当分を遅延させる。乗算回路337a及び337bは、マルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)の遅延信号である遅延素子336a及び336bの出力信号に対して、係数変換ROM241にて求められた減数係数を乗算する。
【0053】
絶対値算出回路331ではマルチキャリア信号Sin(I)/Sin(Q)に対して、絶対値|Sin(I)+jSin(Q)|を求め、乗算回路332では、数1で求められたPthを絶対値算出回路331の出力信号に対して乗算することにより、抑圧すべきピーク信号の振幅閾値は2n−1となる。
【0054】
遅延素子333a及び333bでは乗算回路332の出力信号に対して3サンプル分の振幅データa〜aを保持し、ピーク信号出力条件式334にて、ピーク信号Kを出力する。Kは数8により求められる。
【0055】
【数8】

【0056】
3サンプル分の振幅データa〜aのうち、aがaの前後のデータ(a及びa)より大きくて、かつピーク信号の振幅閾値である2n−1以上(unsignedのnビットデータのMSB=1に相当する)の場合に、aをピーク信号として、aに対応する下位(n−1)ビットデータをピーク信号Kとして出力する。また、Vtgをピーク抑圧後の目標ピーク振幅(2n−1)として、VはVtgを超過するピーク振幅とするとKの振幅はVpの下位(n−1)ビットのデータとなるので数9となる。
【0057】
【数9】

【0058】
ピーククリップ回路330において、所望する値yは数10となる。
【0059】
【数10】

【0060】
数10においてVtgはピーク抑圧後の目標ピーク振幅、VはVtgを超過するピーク振幅、Xはピーク信号が発生するサンプル点に対応したマルチキャリア信号の瞬時値である。数9におけるVtg/Vは係数変換ROM335にて求められる抑圧係数である。係数変換ROM335は数11数12となる。
【0061】
【数11】

【0062】
【数12】

【0063】
数11及び数12において、adrsはROMアドレス、dataはROMデータ、round(・)は四捨五入を表す。数11のうち、×2はROMをnビットの整数にて生成するための値であり、抑圧係数比kは数12となる。
【0064】
係数変換ROM335のROMアドレスは数9のK=V−Vtgであり、ピーク抑圧後の目標ピーク振幅であるVtgは2n−1なので、adrs=K=V−Vtgとすると、数12より、k= Vtg/Vとなり、所望する抑圧係数が得られる。
【0065】
図7乃至図10はシミュレーション結果である。
入力信号はサンプリング周波数30.72MHzのWCDMA(Wideband Code Division Multiple Access)シングルキャリア信号であり、出力信号はピーク抑圧処理を施したサンプリング周波数122.88MHzのWCDMAマルチキャリア信号である。
図7は、縦軸が電力スペクトラム、横軸が周波数のグラフで、PAR=8dB@0.01%CCDF(Complementary Cumulative Distribution Function:累積分布補関数)のピーク抑圧条件における4キャリア信号のスペクトラム波形例であり、図8は、縦軸がCCDF、横軸が出力のグラフで、4キャリア信号のCCDF例である。
図9は、縦軸が電力スペクトラム、横軸が周波数のグラフで、PAR=8dB@0.01%CCDFのピーク抑圧条件における3キャリア信号のスペクトラム波形例であり、図10は、縦軸がCCDF、横軸が出力のグラフで、3キャリア信号のCCDF例である。
図7ではPAR=8dB@0.01%CCDFの抑圧条件において帯域外スペクトラムの広がりは、−60dBc以下であり、また、図9では未使用のキャリアの周波数帯におけるスペクトラムの盛り上がりは、−60dBc以下であり良好な結果が得られている。
【0066】
このように、本実施形態においては、ピーク検出部100においてマルチキャリア信号をインタポレーションによりアップサンプリングした信号を基にピーク信号を検出し、ピーク抑圧回路によってピーク信号に基づきピーク抑圧係数を予め求め、ピーク抑圧信号を生成するため、有効にピークを抑圧し、残留ピークのレベルを非常に小さい値とすることができる。また、ピーク抑圧処理は比較的低レートのサンプリング周波数でも実行が可能となり、ハードウェア規模の軽減が可能となる。
【0067】
さらに残留ピークを抑圧するためにピーククリップ回路330及び430においてピーククリップ処理を重ねて行うことにより、残留ピークを抑圧することも可能となる。
【符号の説明】
【0068】
10・・・ピーク抑圧装置、100・・・ピーク検出部、110・・・複素乗算回路、120・・・合成回路、150・・・ピーク検出回路、210・・・NCO回路、220、230・・・遅延回路、240・・・ピーク抑圧回路、250・・・複素乗算回路、260・・・合成回路、130,310、410・・・インタポレーション、140,320,420・・・LPF回路、330、430・・・ピーククリップ回路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のシングルキャリア信号を加算合成してマルチキャリア信号を生成する第1の信号合成手段と、
前記第1の信号合成手段から出力されたマルチキャリア信号をアップサンプリングするサンプリングレート変換手段と、
前記サンプリングレート変換手段の出力信号から、所定の振幅閾値を超えるピーク信号を検出するピーク信号検出手段と、
前記ピーク信号に対応して、ピーク抑圧信号を生成するためのピーク抑圧係数を算出する係数算出手段と、
前記シングルキャリア信号に前記ピーク抑圧係数を乗算することにより、ピーク抑圧信号を生成する生成手段と、
前記シングルキャリア信号に対して前記ピーク抑圧信号を減算することにより、ピーク抑圧処理を行うピーク抑圧手段と、
を有するピーク抑圧装置。
【請求項2】
前記ピーク抑圧手段の出力信号を加算合成してマルチキャリア信号を生成する第2の信号合成手段を、さらに有する、
請求項1記載のピーク抑圧装置。
【請求項3】
前記第1の信号合成手段と前記第2の信号合成手段は同じ構成である、
請求項2記載のピーク抑圧装置。
【請求項4】
前記第2の信号合成手段から出力された信号に対して、ピーククリップ処理を行う第1のピーククリップ手段を、さらに有する、
請求項2記載のピーク抑圧装置。
【請求項5】
前記第1のピーククリップ手段から出力された信号に対して、ピーククリップ処理を行う第2のピーククリップ手段を、さらに有する、
請求項4記載のピーク抑圧装置。
【請求項6】
前記ピーククリップ手段は、入力された信号対して0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングするインタポレーションを含む、
請求項4又は5記載のピーク抑圧装置。
【請求項7】
前記サンプリングレート変換手段は、マルチキャリア信号に対して0補間によりサンプリングレートを2倍にアップサンプリングするインタポレーションである、
請求項1記載のピーク抑圧装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−42232(P2013−42232A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−176239(P2011−176239)
【出願日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(000219004)島田理化工業株式会社 (205)