説明

フィルムキャパシタ用フィルムの製造方法

【課題】優れた耐熱性、生産性を向上させる摺動性、及び耐電圧性を有するフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法を提供する。
【解決手段】 熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料を、混練、調製して、押出機1からTダイス7でフィルムに溶融押し出しした後、圧着ロール9と、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2であるような粗表面を有する冷却ロール8との間に挟んで冷却して巻取管16で巻取ることにより、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2の表面性状を有する、厚さ≦10μmのフィルムキャパシタ用フィルムを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルムキャパシタ用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)及びポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)の4種類の樹脂のいずれかから得られるフィルムを誘電層として、この誘電層を挟んで金属蒸着層が電極として形成することで、フィルムキャパシタ用フィルムが実用化されている。
【0003】
しかしながら、PP樹脂製及びPET樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、PP樹脂の使用温度が105℃以下であり、PET樹脂の使用温度が125℃以下なので耐熱性に劣る。これに対し、ハイブリッド車の普及により、インバータ用として使用されるキャパシタには150℃以上の耐熱性が必要とされる。このため、PP樹脂製又はPET樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムをハイブリッド車のキャパシタに適用するには、(1)軽量化の要請を無視して大型の冷却装置を設置する方法、(2)スペース効率を無視して熱源のエンジンルームから遠く離れた運転席側等にキャパシタを設置する方法を採用せざるを得ず、軽量化やコストの点が解決すべき問題となっている。
【0004】
PPS樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で良好な耐熱性が得られるものの、絶縁破壊電圧が低く、耐電圧性に劣るため、使用範囲が限定される。又、PEN樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、使用温度が160℃以下で良好な耐熱性が得られるものの、誘電損失が大きく、誘電正接の温度依存性が大きいので、使用範囲が限定される。

【0005】
これに対し、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)製のフィルムがフィルムキャパシタ用フィルムとして注目されている(例えば、特許文献1参照)。ポリエーテルイミド樹脂製のフィルムキャパシタ用フィルムは、ガラス転移点が200℃以上で耐熱性に優れ、絶縁破壊電圧が高く耐電圧性に優れ、誘電正接の周波数依存性と温度依存性が小さいためフィルムキャパシタ用フィルムとして好適である。
【0006】
フィルムキャパシタ用フィルムとして使用される熱可塑性樹脂製の薄膜フィルムは、フィルムの滑り性(または摺動性)に劣るため、例えば、フィルム製造時のフィルムの巻取りやスリット等の作業に支障を来したり、フィルムに皺が発生したり、フィルム製造時の案内ロール等に巻き付いたりという問題が生じることがある。また、キャパシタ組立て時にフィルムがブロッキングし、巻回されたフィルムを巻き解いた際に、フィルムが破断して、組立てに支障を来すことがある。このため、熱可塑性樹脂製のフィルムをフィルムキャパシタ用フィルムとして使用するには、摺動性を改良する必要がある。
【0007】
PP樹脂、PET樹脂、PPS樹脂及びPEN樹脂は、すべて熱可塑性の結晶質樹脂であり、これらのフィルムは、Tダイスから押し出された溶融樹脂をキャスティング装置で冷却固化させた後、縦延伸機、横延伸機で延伸し巻き取るという、いわゆる2軸延伸法で製造される。2軸延伸法を用いて薄膜化されたフィルムでは、エンボス表面を有するキャスティングロールを用いて冷却時にフィルム表面にエンボスを転写しても、その後の延伸工程でフィルムエンボス面は鏡面化してしまうため、これらの熱可塑性結晶質樹脂内に異相やフィラーを分散させてフィルム表面を粗化することにより、フィルムの摺動性を高める方法が用いられている(例えば、特許文献2、3参照)。
【0008】
2軸延伸ポリプロピレンフィルムにおいて、β晶分率を5%以上25%未満とし、粗さ曲線の平均線からの山高さが0.1μm以上である部分の占める割合が、全面積の15%以上30%以下となるように表面を微細粗化すると、キャパシタを作製する際の素子巻きを容易にする目的や、加工する際の滑り性向上にゆうこうであると報告されている(例えば、特許文献2参照)。
【0009】
又、PPS樹脂を80モル%以上含むポリアリ−レンスルフィド樹脂と、他の熱可塑性樹脂Aとを含む熱可塑性樹脂からなる2軸配向ポリアリ−レンスルフィドフィルムにおいて、熱可塑性樹脂Aが分散相を形成するようにして、フィルムの中心線平均粗さRaが20nm以上200nm以下、最大高さRmaxが1000nm以下となるようにすると、フィルムに十分な滑り性を付与することができ、フィルム製膜時に巻き皺が発生せず、スリットやキャパシタ加工に困難はなくなることが報告されている(例えば、特許文献3参照)。
【0010】
非結晶質熱可塑性樹脂であるPEI樹脂は、結晶質熱可塑性樹脂のようにTダイスから押し出された溶融樹脂をキャスティング装置で冷却固化させた後に2軸延伸してフィルムを製造することができない。このため、PEI樹脂フィルムは、溶融樹脂をTダイスで押出して冷却ロールで冷却して最終厚さとなる。このため、エンボス表面を有するキャスティングロール上にPEI樹脂を溶融押出しして、フィルム面に0.1〜0.5μmの表面粗さのエンボスを形成することにより、透明性良好な各種用途に応じた滑り性の良いPEI樹脂フィルムが得られることが報告されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2007−300126号公報
【特許文献2】特開2007−308604号公報
【特許文献3】特開2009−132874号公報
【特許文献4】特開平8−20060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、2軸延伸熱可塑性樹脂フィルムにおいて、フィルムの摺動性を得るために、特許文献2に開示されているように樹脂内に異相を分散させたり、特許文献3に開示されているように樹脂内にフィラーを分散させたりすると、
異相やフィラー部分が欠点となって、フィルムの耐電圧を低下させる要因となるという問題がある。
【0013】
又、熱可塑性PEI樹脂フィルムにおいて、特許文献4には、フィルムの摺動性を得るために、フィルム面に0.1〜0.5μmの表面粗さのエンボスを形成することが開示されているが、この「表面粗さ」は、JIS
B 0601−2001に規定する「算術平均粗さRa」に相当すると考えられ、「最大高さRz」には言及していない。従って、「算術平均粗さRa」が同等であっても、「最大高さRz」が高いと、その高い部分が欠点となって、フィルムの耐電圧を低下させる要因となるという問題がある。
【0014】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、優れた耐熱性、生産性を向上させる摺動性、及び耐電圧性を有するフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的は、下記(1)〜(18)の本発明により達成される。
【0016】
(1)熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料を押出機に投入し、Tダイス先端のリップ部からフィルムを溶融押し出しし、その押し出ししたフィルムを、圧着ロールと、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2であるような粗表面を有する冷却ロールとの間に挟んで冷却し、その冷却したフィルムを巻取機で巻取管に順次巻取り、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2の表面性状を有する、厚さ≦10μmのフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0017】
(2)冷却ロールは、0.5μm≦算術平均粗さRa≦2.0μmであるような粗表面を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0018】
(3)フィルムは、算術平均粗さRa≦0.2μm、最大高さRzのRaに対する比Rz/Ra≦10及び動摩擦係数≦1.5の表面性状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0019】
(4)冷却ロールの粗表面を、断面形状が円形で、円形の直径φ5〜50μm、エッジ0〜25μm、冷却ロール表面までの高さ1〜25μmの同一寸法の複数の凸部又は凹部を、冷却ロールの表面にピッチ10〜100μmで一様に整列分布するように形成すること特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0020】
(5)冷却ロールの粗表面を、断面形状が多角形で、多角形の外接円の直径φ5〜50μm、エッジ0〜25μm、冷却ロール表面までの高さ1〜25μmの同一寸法の複数の凸部又は凹部を、冷却ロールの表面にピッチ10〜100μmで一様に整列分布するように形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0021】
(6)冷却ロールの粗表面の凸部又は凹部の配列方向が、冷却ロールの軸方向に対して0〜45°傾斜していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0022】
(7)冷却ロール表面の粗表面は、凸部又は凹部の配列方向が冷却ロールの軸方向に対して45°傾斜した千鳥配列を形成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0023】
(8)冷却ロールの粗表面を、エッチング、機械加工、放電加工、彫り加工及び溶射加工のうちのいずれか1つの方法によって形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0024】
(9)冷却ロールの粗表面を、エッチングによって形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0025】
(10)圧着ロールの表面は、シリコーンゴム又はフッ素ゴムからなることを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0026】
(11)熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、超高分子量ポリエチレン樹脂(UHPE樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)、ポリテトラフロロエチレン樹脂(PTFE樹脂)及びシンジオタックチックポリスチレン樹脂を含む群から選択される1つ又は複数の結晶質熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0027】
(12)熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル樹脂(PMMA樹脂)、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリアレレート樹脂(PAR樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の非結晶質熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0028】
(13)熱可塑性樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は12に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0029】
(14)ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)単独の樹脂組成物であるか、又はポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)100質量部にフッ素樹脂を1.0〜30.0質量部添加した樹脂組成物であることを特徴とする請求項13に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0030】
(15)ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)と、他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体又は変性体を含む群から選択される1つ又は複数の樹脂とをアロイ化又はブレンドしたものであることを特徴とする請求項13又は14に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0031】
(16)さらに、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)は、ポリイミド樹脂(PI樹脂)及びポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)を含む熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)及びポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)を含むポリアリーレンケトン系樹脂、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)及びポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)を含む芳香族ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂及びポリフェニレンスルフィドケトン樹脂を含むポリアリーレンサルフィド系樹脂、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0032】
(17)フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA樹脂)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピル共重合体樹脂(FEP樹脂)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂(ETFE樹脂)、ポリビニリデンフルオライド樹脂(PVDF樹脂)及びポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の樹脂を含むことを特徴とする請求項14に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【0033】
(18)熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料の含水率は、溶融押出前に5,000ppm以下であることを特徴とする(1)に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、優れた耐熱性、生産性を向上させる摺動性、及び耐電圧性を有するフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の実施形態に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造装置の概略構成を示す図である。
【図2】本発明の一実施例に係るエッチングロール表面の凸部の凸柄千鳥配列を示す図である。
【図3】本発明の実施形態に係る、冷却ロール面の表面性状のフィルムキャパシタ用フィルム面への転写状態を示す、フィルムキャパシタ用フィルム面のCCDカメラによる拡大写真である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態という。)について詳細に説明する。
【0037】
本発明者らは、上記目的を達成するために種々検討した結果、Tダイスを用いてフィルム形状に押出成形した熱可塑性樹脂組成物に、冷却ロール表面に一様に整列分布させて形成した所定のサイズの複数の凸部又は凹部を転写することにより、耐熱性、摺動性、耐電圧性に優れたフィルムキャパシタ用フィルムを製造できることを究明した。
【0038】
本発明におけるフィルムキャパシタ用フィルムは、Tダイスを用いた溶融押出成形法により製造する。熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料を、二軸押出混練機を使用して混練調製後、単軸押出機の先端に配置されたTダイス先端のリップ部からフィルムキャパシタ用フィルムを溶融押し出しし、このフィルムキャパシタ用フィルムを引取機内の圧着ロールと粗表面を有する冷却ロールとの間に挟んで冷却し、次いで巻取機で巻取管に順次巻取り、フィルムキャパシタ用フィルムを製造する。
【0039】
まず、図1に基いて、本発明の実施形態に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法について説明する。
【0040】
図1に示すように、本発明による実施形態に係るフィルムキャパシタ用フィルムの製造装置は、成形材料を投入する材料投入ホッパー2、押出機1、Tダイス7、冷却ロール10、圧着ロール9、引取機11、巻取機15を備えている。
【0041】
押出機1は、押出スクリュー(図示していない)で熱可塑性樹脂組成物の成形材料を混合、撹拌しながら矢印B方向に搬送すると共に、シリンダー1内に組み込まれた電熱手段で、成形材料を加熱、溶融する。このようにして溶融されて搬送される熱可塑性樹脂組成物の成形材料は、接続管4を介してフィルター手段に送給される。そして、フィルター5によって、未溶融の成形材料を分離し、溶融された成形材料をギヤポンプ6へ送給する。ギヤポンプ6では、溶融された成形材料の圧力を高めながらTダイス7に成形材料を押し出す。Tダイス7では、所定圧力で溶融成形材料を押し出し、Tダイス7のリップ部(図示していない)から所定厚さ、所定幅のフィルム8を成形する。このようにして成形されたフィルム8は、引取機11の粗表面を有する冷却ロール10の外周面上に引き取って、圧着ロール9で押しつけることにより、冷却ロールの粗表面をフィルム面に転写しながら所定厚さに調整すると共に、冷却、固化し、搬送ロール対12、13で搬送して巻取機15に巻取り、フィルムキャパシタ用フィルムとする。
【0042】
フィルムキャパシタ用フィルムの厚さは0.5μm〜10.0μm、好ましくは1.0μm〜7.0μm、より好ましくは1.5μm〜5.0μmである。これは、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さが0.5μm未満の場合には、フィルムキャパシタ用フィルムの引張強度が著しく低下するので、フィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難になり、フィルムキャパシタ用フィルムの厚さが10.0μmを越える場合には、体積当たりの静電容量が小さくなるからである。
【0043】
しかし、熱可塑性樹脂フィルムは、一般にフィルムの滑り性(または摺動性)に劣るため、例えば、フィルム製造時のフィルムの巻取りやスリット等の作業に支障を来したり、フィルムに皺が発生したり、フィルム製造時の案内ロール等に巻き付いたりという問題が生じることがある。また、キャパシタ組立て時にフィルムがブロッキングし、巻回されたフィルムを巻き解いた際に、フィルムが破断して、組立てに支障を来すことがある。従って、熱可塑性樹脂製のフィルムをフィルムキャパシタ用フィルムとして使用するには、摺動性を改良する必要がある。
【0044】
本発明の実施形態においては、フィルムキャパシタ用フィルムの摺動性を改善するため、フィルムキャパシタ用フィルムに微細な所定のサイズの凸部又は凹部をパターン化して一様に分布させた粗表面を形成した。フィルムキャパシタ用フィルムの粗表面は、金属製の冷却ロールの外周面に微細な所定のサイズの凸部又は凹部をパターン化して一様に分布させて形成しておき、その冷却ロールにTダイスで押し出されたフィルムを圧着ロールで圧着して、冷却ロールの外周面に形成された微細な凸部又は凹部をフィルム表面に転写させる方法により形成した。
【0045】
フィルムの摺動性は、その動摩擦係数に直接関連する。
【0046】
冷却ロール表面には、所定のパターンでマスキングした冷却ロール表面を酸でエッチングする方法、機械加工、放電加工、彫り加工、溶射加工等により、所定のサイズの凸部又は凹部をパターン化して一様に分布させて微細な凸部又は凹部を形成することができる。冷却ロール表面における凸部又は凹部の形状は、多角形でも円形でもよい。多数の微細な凸部又は凹部を均一に効率良く形成するためには、エッチングによる方法が好ましい。サンドブラストを用いると、冷却ロール表面に形成される凸凹は形状、サイズのバラツキが大きく、分布も不均一になる。
【0047】
冷却ロール表面における凸部又は凹部の寸法は、多角形の外接円直径又は円形の直径をφ5〜50μmとするのが好ましい。φ5μm未満であると均一な加工をするのが困難になり、φ50μmを超えると転写したフィルムの絶縁破壊電圧を著しく低下させる虞がある。この直径に対応して、エッジを0〜25μm、凸部の高さ又は凹部の深さを1〜25μm、ピッチを10〜100μmとするのが好ましい。フィルムに転写される凹凸の深さ又は高さは、冷却ロール面の凸凹の高さ又は深さに比べてずっと小さいので、冷却ロール面の凸凹の高さ又は深さは25μmを超える必要はない。ピッチが100μmを超えると、転写フィルムからキャパシターを組立てるときに問題が生じる。
【0048】
エッチングは、マスキング材としてSi、Au、SiO等を冷却ロール表面に蒸着し、酸としてHF+HNOベースのものを用いるなど、公知の方法で行うことができる。
【0049】
エッチングの場合、マスキングの形状が多角形であっても、角部は酸よってエッチされて凸部又は凹部の断面形状は円形状となり、エッジもエッチされて円弧状に面取りされる。又、エッチングされる部分の深さ方向の断面形状は半球形状になる。エッチングの深さは、用いる酸に応じた所定のエッチング時間で設定するが、マスキング部の直下もエッチされて、エッチング後の凸部の高さ又は凹部の深さが所定のエチング深さより小さくなる場合が起り得る。従って、エッチングで冷却ロール表面に凸部又は凹部を形成する場合には、上記多角形の外接円直径又は円形の直径φ5〜50μmは、エッチング前の各マスキング部の直径と定義する。
【0050】
圧着ロールの表面は、フィルムキャパシタ用フィルムと金属製の冷却ロールとの密着性を向上させる観点から、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、ノルボルネンゴンゴム、アクリロニトリルブタジエンゴム、ニトリルゴム、ウレタンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム等を使用して形成されるが、好ましくは耐熱性に優れるシリコーンゴムあるいはフッ素ゴム等が良い。この圧着ロールの表面には、シリカ、アルミナ等の無機化合物を添加しても良い。
【0051】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料の含水率は、溶融押出成形前に5,000ppm以下、好ましくは2,000ppm以下に調整する。含水率が5,000ppmを越える場合には、フィルムキャパシタ用フィルムが発泡してしまう虞があるからである。含水率の調節は、熱風乾燥機で行うことができる。
【0052】
熱可塑性樹脂組成物のうち、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、超高分子量ポリエチレン樹脂(UHPE樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)、ポリテトラフロロエチレン樹脂(PTFE樹脂)及びシンジオタックチックポリスチレン樹脂を含む群から選択される1つ又は複数の結晶質熱可塑性樹脂を含む結晶質熱可塑性樹脂組成物は、一般にTダイスで押し出し後、二軸延伸法を用いて最終フィルム厚さに仕上げられるが、二軸延伸法を適用せずに本発明を適用して、Tダイスで押し出し後、圧着ロールと冷却ロールとで挟んで冷却ロール表面の凸凹を転写してキャパシターフィルム用フィルムに仕上げることもできる。
【0053】
熱可塑性樹脂組成物のうち、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル樹脂(PMMA樹脂)、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリアレレート樹脂(PAR樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の非結晶質熱可塑性樹脂を含む、非結晶質熱可塑性樹脂組成物は、延性に乏しいため二軸延伸法を適用できないが、本発明を適用して、Tダイスで押し出し後、圧着ロールと冷却ロールとで挟んで冷却ロール表面の凸凹を転写してキャパシターフィルム用フィルムに仕上げることができる。
【0054】
本発明に用いる熱可塑性樹脂材料組成物としては、200℃以上のガラス転移点Tg、バランスの良い物性及び寸法安定性を有するポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物が好ましい。
【0055】
PEI樹脂は、特に限定されないが、例えば、下記化学式[1]又は[2]で表される繰り返し単位を有する樹脂が挙げられる。
【化1】

【化2】

【0056】
PEI樹脂の製造方法としては、例えば、特公昭57−9372号公報あるいは特表昭59−500867号公報等の記載の方法等が挙げられる。このPEI樹脂の具体例としては、Tgが211℃のUltem 1000−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)、Tgが223℃のUltem 1010−1000の(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)、Tgが235℃のUltem CRS5001−1000の(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社製、商品名)等が挙げられる。
【0057】
PEI樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体あるいは変性体も使用可能である。例えば、ポリエーテルイミドサルフォン共重合体であるTgが252℃のUltem XH6050−1000(SABIC イノベーティブプラスチックスジャパン社、商品名)を使用することができる。また、PEI樹脂は、1種類を単独または2種類以上をアロイ化あるいはブレンドして使用しても構わない。
【0058】
PEI樹脂ベースの樹脂組成物には、本発明の特性を損なわない範囲で、ポリイミド樹脂(PI樹脂)あるいはポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)等の熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)あるいはポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)等のポリアリーレンケトン系樹脂、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)あるいはポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)等の芳香族ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィドケトン樹脂等のポリアリーレンサルフィド系樹脂、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)等の公知の熱可塑性樹脂を添加することができる。液晶ポリマーはI型、II型あるはIII型のいずれ液晶ポリマーも使用可能である。
【0059】
本発明の実施形態では、PEI樹脂ベースの樹脂組成物として、PEI樹脂の他に、PEI樹脂に特定の溶融粘度を有するフッ素樹脂を混合した樹脂組成物も用いた。フッ素樹脂は、温度360℃、荷重50kgfの条件下、直径1.0mm、長さ10mmのダイスを用いてフローテスターで測定した溶融粘度が120,000ポイズ以下の、分子構造の主鎖にフッ素原子を持つ化合物である。フッ素樹脂の溶融粘度が120,000ポイズを越えるとフッ素樹脂の流動性が著しく低下するため、フィルムキャパシタ用フィルム表面にフッ素樹脂の微小な突起が現れ、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧が低下し、耐電圧性に問題が生じる。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいためゲルとなり、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが生じたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルムの機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断し易くなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難という問題が生じる。
【0060】
フッ素樹脂は、通常、融点未満の温度では固体状が好ましい。例えば、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化エチレン樹脂、融点:325〜330℃、連続使用温度:260℃、以下、PTFE樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(四フッ化エチレン-パーフルオロアルコキシエチレン共重合体樹脂、融点:300〜315℃、連続使用温度:260℃、以下、PFA樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピル共重合体(四フッ化エチレン-六フッ化プロピル共重合体樹脂、融点270℃、連続使用温度:200℃、以下、FEP樹脂と略す)、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体(四フッ化エチレン-エチレン共重合体樹脂、融点:260〜270℃、連続使用温度:150℃、以下、ETFE樹脂と略す)、ポリビニリデンフルオライド(フッ化ビニリデン樹脂、融点:170〜175℃、連続使用温度:150℃、以下、PVDF樹脂と略す)、ポリクロロトリフルオロエチレン(三フッ化塩化エチレン樹脂、融点:210〜215℃、連続使用温度:120℃、以下、PCTFE樹脂と略す)等を挙げることができる。これらフッ素樹脂の中では、連続使用温度が200℃以上と耐熱性に優れ、コスト及び取り扱いやすさの点からPFA樹脂とFEP樹脂が好ましい。PFA樹脂とFEP樹脂は、単独あるいはブレンドして使用しても構わない。
【0061】
なお、熱可塑性樹脂成形物あるいは熱硬化性樹脂成形物に摺動性を付与する場合は、一般的にはPTFE樹脂を添加する方法が効果的である。ただし、PTFE樹脂は連続使用温度が260℃で耐熱性に優れているが、溶融粘度が非常に高いため溶融流動性がほとんど認められない。従って、熱可塑性樹脂に添加し、熱可塑性樹脂との組成物を作製し、この組成物から溶融押出成形法により製造したフィルムキャパシタ用フィルム中でPTFE樹脂は微小な粒子として存在するため、無機化合物を添加した場合と同様にフィルムキャパシタ用フィルム表面にPTFE樹脂の微小な突起が形成され、フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧が低下し、耐電圧性に問題が生じる。さらに、高溶融粘度で流動性が非常に小さいためゲルとなり、このゲル部分からフィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが生じたり、フッ素樹脂の分散不良によりフィルムキャパシタ用フィルムの機械的性質が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断し易くなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難という問題が生じる。
【0062】
液状のフッ素樹脂は、溶融押出成形後のキャパシタ用フィルムからブリードし、フィルムキャパシタ用フィルムの両面に形成される電極としての金属蒸着不良を引き起こしたり、金属蒸着後金属が剥がれるあるいはキャパシタ内を汚染する等の悪影響を及ぼす虞があるため好ましくない。
【0063】
フッ素樹脂の添加量は、ポリエーテルイミド樹脂100質量部に対して1.0質量部〜30.0質量部の範囲で添加され、好ましくは1.0質量部〜20.0質量部、より好ましくは1.0質量部〜10.0質量部の範囲である。フッ素樹脂の添加量が1.0質量部未満の場合は、フィルムキャパシタ用フィルムに摺動性を十分に付与することができない。30.0質量部を越えて添加してもフィルムキャパシタ用フィルムの摺動性改善効果に変化は無く、30.0質量部以下の添加量で十分である。さらに、30.0質量部を越えて添加するとフッ素樹脂の割合が多くなるため絶縁破壊電圧が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムとしての適性が低下する。その上、引張強度が低下し、フィルムキャパシタ用フィルムの製造中に破断しやくなるため薄いフィルムキャパシタ用フィルムの製造が困難になったり、フィルムキャパシタ用フィルムに穴開きが発生したり、金属の蒸着性能に悪影響を及ぼす虞がある。
【0064】
上記構成によれば、フィルムキャパシタ用フィルムとして、Tgが200℃以上のPEI樹脂と連続使用温度が200℃以上のフッ素樹脂を混合して使用するので、150℃以上の温度でも使用可能な耐熱性と、優れた耐電圧性及びフッ素樹脂を混合した効果による摺動性とを得ることが出来る。また、フィルムキャパシタ用フィルム表面にスジやシワの発生のないフィルムキャパシタ用フィルムを得ることができる。
【0065】
本発明の実施形態においては、上記PEI樹脂、(PEI+PFA)樹脂の他に、ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂)と結晶質のポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂)も実施例の材料に加えて比較検討を行った。
【実施例】
【0066】
以下、本発明のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法の実施例1〜8、比較例1〜5を表1、2、図1〜3を用いて説明する。
【0067】
表1は、冷却ロールの表面仕様と、冷却ロール表面の表面性状との関係を示したものである。
【0068】
【表1】

【0069】
エッチングロール凸面5μmの呼称の、直径φ0.01mmで深度0.005mmの凸部を、ピッチ0.025mmで千鳥配列した凸柄の表面の冷却ロールは実施例1、2に使用した。ここで、千鳥配列とは、図2に示したように、円柱が冷却ロールの軸方向に対して45°傾斜して整列している配列を言う。冷却ロール軸方向に垂直な方向、すなわちフィルムの長手方向から見た場合、千鳥配列と0°配列の凸部又は凹部の分布は一様であるが、千鳥配列の方が、0°配列に比べて凸部又は凹部の間隔が狭くなるので、キャパシター組立上好ましい。。エッチングロール凸面10μmの呼称の、直径φ0.01mmで深度0.01mmの凸部を、ピッチ0.03mmで千鳥配列した凸柄の表面の冷却ロールは実施例3〜7に使用した。エッチングロール凹面10μmの呼称の、直径φ0.02mmで深度0.01mmの球形凹部を、ピッチ0.03mmで千鳥配列した凹柄の表面の冷却ロールは実施例8に使用した。鏡面ロールの呼称の0.4s仕上磨き研磨加工表面の冷却ロールは、比較例1に使用した。ブラストロールRa=1μmの呼称のサンドブラスト加工表面の冷却ロールは、比較例2〜4に使用した。ブラストロールRa=3μmの呼称のサンドブラスト加工表面の冷却ロールは、比較例5に使用した。
【0070】
表1に示した、冷却ロール表面10cm×10cmあたり10点測定した算術平均粗さRaの平均値の変動係数、すなわち(標準偏差σ/Raの平均値)は、ブラストロールRa=1μm及びブラストロールRa=3μmでは約0.2と大きいのに対し、3つのエッチングロールでは0.093〜0.125と小さく、鏡面ロールの0.119と同等である。このことから、ブラストロールの表面の凸凹は、Raの数値には表れない、大きな寸法上のバラツキを持つことがわかる。
【0071】
表2は、本発明の実施例及び比較例の成形材料から、表1に示した呼称の冷却ロールを用いて製造したフィルムキャパシター用フィルムの表面の算術平均粗さRa、動摩擦係数、厚さ平均値、絶縁破壊電圧を示したものである。さらに、フィルム表面の10cm×10cmの面積で10点測定したRaの平均値と標準偏差σ、及び変動係数σ/平均値も示した。
【0072】
【表2】

【0073】
表2に示したように、実施例及び比較例の材料としては、〔1〕PEI樹脂又はPEI樹脂+テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA樹脂)、〔2〕ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂)及び〔3〕
ポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂)を用いた。以下、それぞれのフィルムの製造条件について述べる。
【0074】
〔1〕PEI樹脂、又はPEI樹脂+PFA樹脂のフイルムの製造条件
【0075】
樹脂組成物として、PEI樹脂の他に、PEI樹脂100質量部にフッ素樹脂としてテトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA樹脂)5質量部を加えた摺動性改質ポリエーテルイミド樹脂組成物(PEI+PFA)を用いた。この樹脂組成物を二軸押出混練器(商品名:PCM30 L/D=35 池貝社製)を用いて、シリンダ温度320〜350℃、アダプタ温度360℃、ダイス温度360℃の条件下で混練し、ペレット形状の成形材料を調製した。
【0076】
(ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂))
ULTEM1010:商品名、イノベーティブプラスチックスジャパン社製
Tg217℃、非晶質
(フッ素樹脂(PFA樹脂))
フルオンPFA P−62XP:商品名、 旭硝子社製
【0077】
ペレット形状に調製した成形材料を、160℃に加熱した排気口付の熱風乾燥機中に12時間放置して乾燥し、樹脂組成物の含水率が300ppm以下であることを確認後、図1に準じて、押出機1としてのφ40mm単軸押出機(MVS40−25 L/D=25:商品名、アイ・ケー・ジー社製)とTダイス7と冷却ロール10からなる押出フィルム成形装置を用いて、シリンダ温度330〜350℃、スクリュー回転数30rpm、アダプタ温度360℃、Tダイス温度360℃の条件下で、表2に示した表面粗さに調製した、表2に示した温度の冷却ロール上に、溶融押出キャストし、圧着ロール9としてのゴム硬度80°のシリコーンゴムローラーで冷却ロールに圧着し、冷却ロール表面の凸凹を転写した粗面フィルムを得た。
【0078】
〔2〕PCI樹脂のフイルムの製造条件
【0079】
(ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂))
カリバー200−13:商品名、住友ダウ社製
Tg143℃、非晶質
【0080】
ペレット形状に調製した成形材料を、120℃に加熱した排気口付の熱風乾燥機中に4時間放置して乾燥し、樹脂組成物の含水率が200ppm以下であることを確認後、図1に準じて、押出機1としてのφ40mm単軸押出機(MVS40−25 L/D=25:商品名、アイ・ケー・ジー社製)とTダイス7と冷却ロール10からなる押出フィルム成形装置を用いて、シリンダ温度270〜290℃、スクリュー回転数30rpm、アダプタ温度290℃、Tダイス温度290℃の条件下で、表2に示した表面粗さに調製した、表2に示した温度の冷却ロール上に、溶融押出キャストし、圧着ロール9としてのゴム硬度80°のシリコーンゴムローラーで冷却ロールに圧着し、冷却ロール表面の凸凹を転写した粗面フィルムを得た。
【0081】
〔3〕TPX樹脂のフイルムの製造条件
【0082】
(ポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂))
MX002:商品名、三井化学社製
融点228℃、結晶質
【0083】
ペレット形状に調製した成形材料を、120℃に加熱した排気口付の熱風乾燥機中に4時間放置して乾燥し、樹脂組成物の含水率が200ppm以下であることを確認後、図1に準じて、押出機1としてのφ40mm単軸押出機(MVS40−25 L/D=25:商品名、アイ・ケー・ジー社製)とTダイス7と冷却ロール10からなる押出フィルム成形装置を用いて、シリンダ温度280〜290℃、スクリュー回転数30rpm、アダプタ温度290℃、Tダイス温度290℃の条件下で、表2に示した表面粗さに調製した、表2に示した温度の冷却ロール上に、溶融押出キャストし、圧着ロール9としてのゴム硬度80°のシリコーンゴムローラーで冷却ロールに圧着し、冷却ロール表面の凸凹を転写した粗面フィルムを得た。
【0084】
(測定と評価)
(表面粗さ)
算術平均粗さRaと最大高さRzは、JIS B 0601−2001に準じて測定を行った。十点平均粗さRz94は、JIS B 0601−1994に準じて測定を行った。
【0085】
(フィルムキャパシタ用フィルムの厚さ)
接触式の厚み計(Mahr社製 商品名:電子マイクロメータミロトロン1240)を使用し、フィルム幅方向19点、フィルム流れ方向5箇所の95点箇所の平均厚みにより求めた。
【0086】
(動摩擦係数)
フィルムキャパシタ用フィルムの動摩擦係数は、JIS K 7125−1999に準拠し、測定した。具体的には、万能材料試験機(エー・アンド・デイ社製、テンシロン)を使用し、23℃、50%RHの環境下にて、試験速度100mm/min、垂直荷重1.96N平面圧子仕様でフィルム表面同士での動摩擦力を測定した。
【0087】
(フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧)
フィルムキャパシタ用フィルムの絶縁破壊電圧は、JIS C 2110−1994に準拠し、気中法による短時間絶縁破壊試験で測定した。この測定は、23℃の環境下で実施した。電極の形状は、円柱状(上部形状 直径:25mm、高さ:25mm、下部形状 直径:25mm、高さ:15mm)を使用した。
【0088】
図3は、冷却ロール温度180℃で作製した、エッチングロールの実施例4、鏡面ロールの比較例1及びブラストロールの比較例3のフィルムキャパシタ用フィルムの、冷却ロール側と圧着ロール側から観察したCCDカメラによる拡大写真である。実施例4のフィルムキャパシタ用フィルムでは、エッチングロール表面の凸柄から転写された一様な整列パターンが観察されるが、比較例3のフィルムキャパシタ用フィルムでは、ブラストロール表面から転写されたサイズの不均一な凸凹がランダムに分布しているのが観察される。このように、寸法バラツキが小さい凸部又は凹部が均一に分布した粗表面をフィルムに形成することにより、高い摺動性及び高い耐電圧性を得ることができる。
【0089】
表2に示した結果から以下のことが明らかになった。
(A)エッチングロールを使用したフィルムは、鏡面ロールを使用したフィルムと比較して、算術平均粗さRa値は大きく、摺動性が良好となり、耐電圧性も良好になった。特に、絶縁破壊電圧の最小値(Min)も高い値を示した。
(B)ブラストロールを使用したフィルムでは、ブラストロール表面のRa値が大きくなると、フィルム表面のRa値も大きくなり、さらにその変動係数(σ/Ra平均値)も大きくなった。摺動性は良好となるが、耐電圧性は低下した。特に絶縁破壊電圧Minは低い値を示した。
(C)エッチングロールを使用したフィルムは、ブラストロールを使用したフィルムと比較して、高い摺動性を示すとともに、高い耐電圧性、特に、高い絶縁破壊電圧Min値を示した。
【0090】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0091】
1 押出機
1a 押出スクリュー
1b シリンダー
1c 材料投入口
2 材料投入ホッパー
3 ガス供給用パイプ
4 接続管
5 フィルター
6 ギヤポンプ
7 Tダイス
7a リップ部
8 フィルム
9 圧着ロール
10 冷却ロール
11 引取機
12、13 搬送ロール対
14 厚さ測定器
15 巻取機
15a、15b、15c 案内ロール
16 巻取管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料を押出機に投入し、Tダイス先端のリップ部からフィルムを溶融押し出しし、当該押し出ししたフィルムを、圧着ロールと、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2であるような粗表面を有する冷却ロールとの間に挟んで冷却し、当該冷却したフィルムを巻取機で巻取管に順次巻取り、算術平均粗さRaの標準偏差σのRaに対する比σ/Ra≦0.2の表面性状を有する、厚さ≦10μmのフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記冷却ロールは、0.5μm≦算術平均粗さRa≦2.0μmであるような粗表面を有することを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記フィルムは、算術平均粗さRa≦0.2μm、最大高さRzのRaに対する比Rz/Ra≦10及び動摩擦係数≦1.5の表面性状を有することを特徴とする請求項1又は2に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記冷却ロールの前記粗表面を、断面形状が円形で、前記円形の直径φ5〜50μm、エッジ0〜25μm、前記冷却ロール表面までの高さ1〜25μmの同一寸法の複数の凸部又は凹部を、前記冷却ロールの表面にピッチ10〜100μmで一様に整列分布するように形成すること特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記冷却ロールの前記粗表面を、断面形状が多角形で、前記多角形の外接円の直径φ5〜50μm、エッジ0〜25μm、前記冷却ロール表面までの高さ1〜25μmの同一寸法の複数の凸部又は凹部を、前記冷却ロールの表面にピッチ10〜100μmで一様に整列分布するように形成することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記冷却ロールの前記粗表面の前記凸部又は前記凹部の配列方向が、前記冷却ロールの軸方向に対して0〜45°傾斜していることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記冷却ロール表面の前記粗表面は、前記凸部又は前記凹部の配列方向が前記冷却ロールの軸方向に対して45°傾斜した千鳥配列を形成していることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記冷却ロールの前記粗表面を、エッチング、機械加工、放電加工、彫り加工及び溶射加工のうちのいずれか1つの方法によって形成することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項9】
前記冷却ロールの前記粗表面を、エッチングによって形成することを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項10】
前記圧着ロールの表面は、シリコーンゴム又はフッ素ゴムからなることを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項11】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエチレン樹脂(PE樹脂)、ポリプロピレン樹脂(PP樹脂)、ポリアミド樹脂(PA樹脂)、ポリアセタール樹脂(POM樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、超高分子量ポリエチレン樹脂(UHPE樹脂)、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリメチルペンテン樹脂(TPX樹脂)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS樹脂)、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)、ポリテトラフロロエチレン樹脂(PTFE樹脂)及びシンジオタックチックポリスチレン樹脂を含む群から選択される1つ又は複数の結晶質熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項12】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリスチレン樹脂(PS樹脂)、アクリロニトリル/スチレン樹脂(AS樹脂)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン樹脂(ABS樹脂)、メタクリル樹脂(PMMA樹脂)、塩化ビニル樹脂(PVC樹脂)、ポリカーボネイト樹脂(PC樹脂)、シクロオレフィンポリマー樹脂(COP樹脂)、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)、ポリアレレート樹脂(PAR樹脂)、ポリサルフォン樹脂(PSF樹脂)、ポリエーテルサルフォン樹脂(PES樹脂)、ポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の非結晶質熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項13】
前記熱可塑性樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物であることを特徴とする請求項1又は12に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項14】
前記ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物は、ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)単独の樹脂組成物であるか、又は前記ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)100質量部にフッ素樹脂を1.0〜30.0質量部添加した樹脂組成物であることを特徴とする請求項13に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項15】
前記ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)ベースの樹脂組成物は、前記ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)と、他の共重合可能な単量体とのブロック共重合体、ランダム共重合体又は変性体を含む群から選択される1つ又は複数の樹脂とをアロイ化又はブレンドしたものであることを特徴とする請求項13又は14に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項16】
さらに、前記ポリエーテルイミド樹脂(PEI樹脂)は、ポリイミド樹脂(PI樹脂)及びポリアミドイミド樹脂(PAI樹脂)を含む熱可塑性ポリイミド系樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂(PEEK樹脂)及びポリエーテルケトン樹脂(PK樹脂)を含むポリアリーレンケトン系樹脂、ポリサルホン樹脂(PSU樹脂)、ポリエーテルサルホン樹脂(PES樹脂)及びポリフェニレンサルホン樹脂(PPSU樹脂)を含む芳香族ポリエーテルサルホン系樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂(PPS樹脂)、ポリフェニレンスルフィドスルホン樹脂及びポリフェニレンスルフィドケトン樹脂を含むポリアリーレンサルフィド系樹脂、液晶ポリマー樹脂(LCP樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の熱可塑性樹脂を含むことを特徴とする請求項13〜15のいずれか1項に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項17】
前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE樹脂)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体樹脂(PFA樹脂)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピル共重合体樹脂(FEP樹脂)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体樹脂(ETFE樹脂)、ポリビニリデンフルオライド樹脂(PVDF樹脂)及びポリクロロトリフルオロエチレン樹脂(PCTFE樹脂)を含む群から選択される1つ又は複数の樹脂を含むことを特徴とする請求項14に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。
【請求項18】
熱可塑性樹脂組成物からなる成形材料の含水率は、溶融押出前に5,000ppm以下であることを特徴とする請求項1に記載のフィルムキャパシタ用フィルムの製造方法。






【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−89609(P2012−89609A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−233657(P2010−233657)
【出願日】平成22年10月18日(2010.10.18)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】