説明

フィルム加工方法

【課題】斜め延伸により、特定の面内位相差を有し、位相差フィルムと偏光フィルムとを一定角度をつけて貼り合わせる際、裁断ロスがなく、工程が簡略化でき、さらにはボーイング現象(軸ズレ現象)を防止することのできる、斜め方向に配向を有する均質な延伸樹脂フィルムを提供する。
【解決手段】樹脂フィルムをその幅方向に対して5〜85度の方向に連続的に延伸する方法であって、延伸後のフィルムの波長590nmの光による面内位相差を50〜1,200nmとなすフィルム加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面内位相差が特定の数値内にあり、位相差板などに有用な斜め配向のフィルムをフィルムロスの少ない状態で、均質で効率よく成形できるフィルムの加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、配向軸が周辺に対して傾斜した斜め配向の位相差板の製造方法としては、縦(長さ)方向または横(幅)方向に一軸延伸したフィルムより、その配向軸が辺に対して所定の傾斜角度となるように周辺を打ち抜く方式などにて裁断する方法が知られている。
【0003】
この斜め配向の位相差板は、着色防止や視野角拡大などの光学補償などを目的に液晶表示装置を形成する偏光板などに接着して用いられ、その場合に偏光板の透過軸に対して位相差板の配向軸を種々の角度で設定できることが求められており、配向軸の傾斜角を任意な角度に設定した斜め配向の位相差板が必要となる。
【0004】
しかしながら、上記した一軸延伸フィルムを裁断する従来方法では、両サイドに例えば三角片の裁断ロスが必ず発生し、大サイズや傾斜角の大きい斜め配向位相差板の形成ではその裁断ロスも増大し、総じてフィルムの利用効率、すなわち製品歩留まりに乏しいという問題点がある。
【0005】
この課題を解決するために、配向軸の傾斜角度を種々変更できて、斜め配向の位相差板も裁断ロスの発生なく原料フィルムの利用効率よく高歩留まりにて、かつ未延伸フィルムより少ない工程数で効率よく得ることができ、さらに所定配向軸の斜め配向位相差板の連続体を容易に形成することも可能で、そのまま長尺偏光板などとの接着にも供しうる延伸フィルムの製造方法が多々提案されている(特許文献1〜3参照)。具体的には、横または縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力または引取り力で延伸することにより、配向軸に傾斜角度をつけることができる(以下、当該延伸方法を「斜め延伸」ともいう)。
【0006】
ところが、一般に上記の方法において、製品フィルムの幅方向の物性を均一にすることは極めて困難であった。
【0007】
すなわち、テンター内においてフィルムの両側端は把持手段により把持されているので、横延伸に伴う縦方向の収縮応力は把持手段によって拘束されている。これに対し、フィルム中央部分は把持手段による拘束力が比較的弱いので、上記収縮応力によって中央部分が移動する傾向がある。もし、横延伸以前にフィルム面上に横方向に直線を描いたとすれば、この直線はフィルム進行方向に向かって凹形の曲線に変形する。この現象はボーイングと称されるものである。このボーイング現象がフィルムの幅方向の物性、特に配向角分布などの光学的特性、機械的特性、湿度膨張率、熱膨張率、熱収縮率を不均一にする原因となっており、上述した斜め延伸においてはとりわけこのボーイング現象の影響が懸念される。
また、これらの斜め延伸では、得られる延伸フィルムの面内位相差を一定の範囲になすことは開示されていない。
【特許文献1】特開2000−9912号公報
【特許文献2】特開2002−86554号公報
【特許文献3】特開2003−342384号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、斜め延伸により、特定の面内位相差を有し、位相差フィルムと偏光フィルムとを一定角度をつけて貼り合わせる際、裁断ロスがなく、工程が簡略化でき、さらにはボーイング現象(軸ズレ現象)を防止することのできる、斜め方向に配向を有する均質な延伸樹脂フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、樹脂フィルムをその幅方向に対して5〜85度の方向に連続的に延伸する方法であって、延伸後のフィルムの波長590nmの光による面内位相差を50〜1,200nmとなすことを特徴とするフィルム加工方法に関する。
ここで、延伸時の樹脂フィルムは、その幅方向で温度分布を有することが好ましい。
また、樹脂フィルムの温度分布は、幅方向における中央部の温度が端部に比べて最大10℃の温度差を有する分布であることが好ましい。
また、樹脂フィルムの温度は、Tg−15℃からTg+30℃(ここで、Tgは樹脂のガラス転移温度である)の範囲にあり、かつフィルム幅方向における、中央部のフィルム温度が端部のフィルム温度より1〜10℃低いことが好ましい。
さらに、樹脂フィルムを構成する樹脂としては、セルロースアセテートまたは環状オレフィン系樹脂であることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、特定の数値の面内位相差を有し、位相差フィルムと偏光フィルムとを一定角度をつけて貼り合わせる際の裁断ロスがなく、工程が簡略化でき、さらに斜め延伸で懸念されるボーイング現象を防止することができる、斜め方向に配向を有する均質な樹脂フィルムが得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
[樹脂]
本発明において斜め延伸処理の対象とする樹脂フィルムについては、特に限定はなく、熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いることができ、一般には未延伸のフィルムが用いられる。ちなみに、上記樹脂としては、セルロースアセテートや環状オレフィン系樹脂のほか、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニルmポリメチルメタクリレート、ポリアリレート、ポリアミドなどが挙げられるが、好ましくはセルロースアセテート、および環状オレフィン系樹脂である。
【0012】
セルロースアセテート
本発明の方法に用いられるセルロースアセテートは、としては、セルロースの低級脂肪酸エステルが好ましい。低級脂肪酸とは、炭素原子数が6以下の脂肪酸を意味する。炭素原子数は、2(セルロースアセテート)、3(セルロースプロピオネート)または4(セルロースブチレート)であることが好ましく、セルロースアセテートが特に好ましい。また、セルロースアセテートプロピオネートやセルロースアセテートブチレートのような混合脂肪酸エステルを用いてもよい。セルロースアセテートの平均酢化度(アセチル化度)は、45.0〜62.5%であることが好ましく、55.0〜61.0%であることがさらに好ましい。
【0013】
なお、セルロースアセテートは、各波長におけるレターデーション値を調整するため、レターデーション上昇剤をセルロースアセテートフイルムに添加することができる。レターデーション上昇剤は、ポリマー100重量部に対して、0.05〜20重量部の範囲で使用することが好ましく、0.1〜10重量部の範囲で使用することがより好ましく、0.2〜5重量部の範囲で使用することがさらに好ましく、0.5〜2重量部の範囲で使用することが最も好ましい。二種類以上のレターデーション上昇剤を併用してもよい。レターデーション上昇剤は、250〜400nmの波長領域に最大吸収を有することが好ましい。レターデーション上昇剤は、可視領域に実質的に吸収を有していないことが好ましい。
【0014】
レターデーション上昇剤としては、少なくとも二つの芳香族環を有する化合物を用いることが好ましい。ここで、「芳香族環」は、芳香族炭化水素環に加えて、芳香族性ヘテロ環を含む。芳香族炭化水素環は、6員環(すなわち、ベンゼン環)であることが特に好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、不飽和ヘテロ環である。芳香族性ヘテロ環は、5員環、6員環または7員環であることが好ましく、5員環または6員環であることがさらに好ましい。芳香族性ヘテロ環は一般に、最多の二重結合を有する。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子および硫黄原子が好ましく、窒素原子が特に好ましい。芳香族性ヘテロ環の例には、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、ピラゾール環、フラザン環、トリアゾール環、ピラン環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が含まれる。芳香族環としては、ベンゼン環、フラン環、チオフェン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環および1,3,5−トリアジン環が好ましい。
【0015】
レターデーション上昇剤の具体例としては、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド化合物、4,4‘−チオジベンゼンチオール化合物、2,5−ビス(5−t−ブチルー2−ベンズオキサゾル)チオフェンおよびその誘導体、チオウレタン類化合物、パラキシレン化合物、アゾベンゼン化合物、2−フェニルイミダゾール化合物、2−(2’−ヒドロキシー5‘−メチルフェニル)ベンゾトリアゾールヒドロキシフェニルベンゾトリアゾール化合物などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、レターデーション上昇剤は可塑剤との兼用効果をもつものであってもよい。
【0016】
セルロースアセテートは、溶液流延法によりフイルムを製造することが好ましい。溶液流延法では、ポリマーを有機溶媒に溶解した溶液(ドープ)を用いてフイルムを製造する。有機溶媒は、炭素原子数が3〜12のエーテル、炭素原子数が3〜12のケトン、炭素原子数が3〜12のエステルおよび炭素原子数が1〜6のハロゲン化炭化水素から選ばれる溶媒を含むことが好ましい。
【0017】
炭素原子数が3〜12のエーテル類の例には、ジイソプロピルエーテル、ジメトキシメタン、ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、アニソールおよびフェネトールが含まれる。炭素原子数が3〜12のケトン類の例には、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノンおよびメチルシクロヘキサノンが含まれる。炭素原子数が3〜12のエステル類の例には、エチルホルメート、プロピルホルメート、ペンチルホルメート、メチルアセテート、エチルアセテートおよびペンチルアセテートが含まれる。二種類以上の官能基を有する有機溶媒の例には、2−エトキシエチルアセテート、2−メトキシエタノールおよび2−ブトキシエタノールが含まれる。ハロゲン化炭化水素の炭素原子数は、1または2であることが好ましく、1であることが最も好ましい。ハロゲン化炭化水素のハロゲンは、塩素であることが好ましい。ハロゲン化炭化水素の水素原子が、ハロゲンに置換されている割合は、25〜75モル%であることが好ましく、30〜70モル%であることがより好ましく、35〜65モル%であることがさらに好ましく、40〜60モル%であることが最も好ましい。メチレンクロリドが、代表的なハロゲン化炭化水素である。二種類以上の有機溶媒を混合して用いてもよい。
【0018】
ポリマー溶液の調製は、通常の溶液流延法におけるドープの調製方法および装置を用いて実施することができる。通常、有機溶媒としてハロゲン化炭化水素(特にメチレンクロリド)を用いることが好ましい。ポリマーの量は、得られる溶液中に10〜40重量%、好ましくは10〜30重量%含まれるように調整する。有機溶媒(主溶媒)中には、後述する任意の添加剤を添加しておいてもよい。溶液は、常温(0〜40℃)でポリマーと有機溶媒とを攪拌することにより調製することができる。なお、高濃度の溶液は、加圧および加熱条件下で攪拌してもよい。加熱温度は、通常は40℃以上であり、好ましくは60〜200℃であり、さらに好ましくは80〜110℃である。
【0019】
調製したポリマー溶液(ドープ)から、溶液流延法によりポリマーフイルムを製造する際には、上記のレターデーション上昇剤を添加することが好ましい。ドープは、ドラムまたはバンド上に流延し、溶媒を蒸発させてフイルムを形成する。流延前のドープは、固形分量が18〜35%となるように濃度を調整することが好ましい。ドラムまたはバンドの表面は、鏡面状態に仕上げておくことが好ましい。溶液流延法における流延および乾燥方法については、特公昭45−4554号、同49−5614号、特開昭60−176834号、同60−203430号、同62−115035号の各公報に記載がある。ドープは、表面温度が10℃以下のドラムまたはバンド上に流延することが好ましい。流延したものを2秒以上風に当てて乾燥することが好ましい。得られたフイルムをドラムまたはバンドから剥ぎ取り、さらに100から160℃まで逐次温度を変えた高温風で乾燥して残留溶剤を蒸発させることもできる。以上の方法は、特公平5−17844号公報に記載がある。この方法によると、流延から剥ぎ取りまでの時間を短縮することが可能である。この方法を実施するためには、流延時のドラムまたはバンドの表面温度においてドープがゲル化することが必要である。本発明に従い調製した溶液(ドープ)は、この条件を満足する。製造するフイルムの厚さは、40〜200μmであることが好ましく、50〜150μmであることがさらに好ましい。
【0020】
なお、セルロースアセテートフイルムには、機械的物性を改良するため、または乾燥速度を向上するために、可塑剤を添加することができる。可塑剤としては、リン酸エステルまたはカルボン酸エステルが用いられる。リン酸エステルの例には、トリフェニルフォスフェート(TPP)およびトリクレジルホスフェート(TCP)が含まれる。カルボン酸エステルとしては、フタル酸エステルおよびクエン酸エステルが代表的である。フタル酸エステルの例には、ジメチルフタレート(DMP)、ジエチルフタレート(DEP)、ジブチルフタレート(DBP)、ジオクチルフタレート(DOP)、ジフェニルフタレート(DPP)およびジエチルヘキシルフタレート(DEHP)が含まれる。クエン酸エステルの例には、O−アセチルクエン酸トリエチル(OACTE)およびo−アセチルクエン酸トリブチル(OACTB)が含まれる。その他のカルボン酸エステルの例には、オレイン酸ブチル、リシノール酸メチルアセチル、セバシン酸ジブチル、種々のトリメリット酸エステルが含まれる。フタル酸エステル系可塑剤(DMP、DEP、DBP、DOP、DPP、DEHP)が好ましく用いられる。DEPおよびDPPが特に好ましい。可塑剤の添加量は、セルロースエステルの量の0.1〜25重量%であることが好ましく、1〜20重量%であることがさらに好ましく、3〜15重量%であることが最も好ましい。
【0021】
また、セルロースアセテートフィルムには、劣化防止剤(例、酸化防止剤、過酸化物分解剤、ラジカル禁止剤、金属不活性化剤、酸捕獲剤、アミン)を添加してもよい。劣化防止剤の添加量は、調製する溶液(ドープ)の0.01〜1重量%であることが好ましく、0.01〜0.2重量%であることがさらに好ましい。添加量が0.01重量%未満であると、劣化防止剤の効果がほとんど認められない。添加量が1重量%を超えると、フイルム表面への劣化防止剤のブリードアウト(滲み出し)が認められる場合がある。特に好ましい劣化防止剤の例としては、ブチル化ヒドロキシトルエン(BHT)、トリベンジルアミン(TBA)を挙げることができる。
【0022】
環状オレフィン系樹脂
本発明で用いる樹脂フィルムを構成する環状オレフィン系樹脂としては、次のような(共)重合体が挙げられる。
(1)下記一般式(I)で表される特定単量体の開環重合体。
(2)下記一般式(I)で表される特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体。
(3)上記(1)または(2)の開環(共)重合体の水素添加(共)重合体。
(4)上記(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体。
(5)下記一般式(I)で表される特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体。
(6)下記一般式(I)で表される特定単量体、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体およびその水素添加(共)重合体。
(7)下記一般式(I)で表される特定単量体とアクリレートとの交互共重合体。
【0023】
【化1】

【0024】
〔式中、R〜Rは、それぞれ、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜30の炭化水素基、またはその他の1価の有機基であり、それぞれ同一または異なっていてもよい。RとRまたはR
とRは、一体化して2価の炭化水素基を形成しても良く、RまたはRとRまたはRとは互いに結合して、単環または多環構造を形成してもよい。mは0または正の整数であり、pは0または正の整数である。〕
【0025】
<特定単量体>
上記特定単量体の具体例としては、次のような化合物が挙げられるが、本発明はこれらの具体例に限定されるものではない。
ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
トリシクロ[4.3.0.12,5 ]−8−デセン、
トリシクロ[4.4.0.12,5 ]−3−ウンデセン、
テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
ペンタシクロ[6.5.1.13,6 .02,7 .09,13]−4−ペンタデセン、
5−メチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−エチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−メトキシカルボニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−シアノビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−エトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−プロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−イソプロポキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−n−ブトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−エチリデンビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−エチリデンテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フェニルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フェニルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
5−フルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−ペンタフルオロエチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−メチル−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリス(フルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6,6−テトラキス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5−ジフルオロ−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−5−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−フルオロ−5−ペンタフルオロエチル−6,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジフルオロ−5−ヘプタフルオロ−iso−プロピル−6−トリフルオロメチルビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5−クロロ−5,6,6−トリフルオロビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,6−ジクロロ−5,6−ビス(トリフルオロメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−トリフルオロメトキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
5,5,6−トリフルオロ−6−ヘプタフルオロプロポキシビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン、
8−フルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ジフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−ペンタフルオロエチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9,9−テトラキス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8−ジフルオロ−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−トリフルオロメトキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,8,9−トリフルオロ−9−ペンタフルオロプロポキシテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−フルオロ−8−ペンタフルオロエチル−9,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジフルオロ−8−ヘプタフルオロiso−プロピル−9−トリフルオロメチルテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−クロロ−8,9,9−トリフルオロテトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8,9−ジクロロ−8,9−ビス(トリフルオロメチル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン、
8−メチル−8−(2,2,2−トリフルオロエトキシカルボニル)テトラシクロ[4.4.0.12,5 .17,10]−3−ドデセン
などを挙げることができる。
これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0026】
特定単量体のうち好ましいのは、上記一般式(I)中、R1およびRが水素原子または炭素数1〜10、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基であり、R
およびRが水素原子または一価の有機基であって、RおよびRの少なくとも一つは水素原子および炭化水素基以外の極性を有する極性基を示し、mは0〜3の整数、pは0〜3の整数であり、より好ましくはm+p=0〜4、さらに好ましくは0〜2、特に好ましくはm=1、p=0であるものである。m=1、p=0である特定単量体は、得られる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度が高くかつ機械的強度も優れたものとなる点で好ましい。
上記特定単量体の極性基としては、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基、アリロキシカルボニル基、アミノ基、アミド基、シアノ基などが挙げられ、これら極性基はメチレン基などの連結基を介して結合していてもよい。また、カルボニル基、エーテル基、シリルエーテル基、チオエーテル基、イミノ基など極性を有する2価の有機基が連結基となって結合している炭化水素基なども極性基として挙げられる。これらの中では、カルボキシル基、水酸基、アルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましく、特にアルコキシカルボニル基またはアリロキシカルボニル基が好ましい。
【0027】
さらに、RおよびRの少なくとも一つが式−(CHCOORで表される極性基である単量体は、得られる環状オレフィン系樹脂が高いガラス転移温度と低い吸湿性、各種材料との優れた密着性を有するものとなる点で好ましい。上記の特定の極性基にかかる式において、Rは炭素原子数1〜12、さらに好ましくは1〜4、特に好ましくは1〜2の炭化水素基、好ましくはアルキル基である。また、nは、通常、0〜5であるが、nの値が小さいものほど、得られる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度が高くなるので好ましく、さらにnが0である特定単量体はその合成が容易である点で好ましい。
【0028】
また、上記一般式(I)において、R1またはRがアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜4のアルキル基、さらに好ましくは1〜2のアルキル基、特にメチル基であることが好ましく、特に、このアルキル基が上記の式−(CHCOORで表される特定の極性基が結合した炭素原子と同一の炭素原子に結合されていることが、得られる環状オレフィン系樹脂の吸湿性を低くできる点で好ましい。
【0029】
<共重合性単量体>
共重合性単量体の具体例としては、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘプテン、シクロオクテン、ジシクロペンタジエンなどのシクロオレフィンを挙げることができる。
シクロオレフィンの炭素数としては、4〜20が好ましく、さらに好ましいのは5〜12である。これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
特定単量体/共重合性単量体の好ましい使用範囲は、重量比で100/0〜50/50であり、さらに好ましくは100/0〜60/40である。
【0030】
<開環重合触媒>
本発明において、(1)特定単量体の開環重合体、および(2)特定単量体と共重合性単量体との開環共重合体を得るための開環重合反応は、メタセシス触媒の存在下に行われる。
このメタセシス触媒は、(a)W、MoおよびReの化合物から選ばれた少なくとも1種と、(b)デミングの周期律表IA族元素(例えばLi、Na、Kなど)、IIA族元素(例えば、Mg、Caなど)、IIB族元素(例えば、Zn、Cd、Hgなど)、IIIA族元素(例えば、B、Alなど)、IVA族元素(例えば、Si、Sn、Pbなど)、あるいはIVB族元素(例えば、Ti、Zrなど)の化合物であって、少なくとも1つの該元素−炭素結合あるいは該元素−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも1種との組合せからなる触媒である。また、この場合に触媒の活性を高めるために、後述の(c)添加剤が添加されたものであってもよい。
【0031】
(a)成分として適当なW、MoあるいはReの化合物の代表例としては、WCl、MoCl、ReOCl
などの特開平1−132626号公報第8頁左下欄第6行〜第8頁右上欄第17行に記載の化合物を挙げることができる。
(b)成分の具体例としては、n−CLi、(CAl、(C
AlCl、(C1.5AlCl1.5、(C)AlCl、メチルアルモキサン、LiHなど特開平1−132626号公報第8頁右上欄第18行〜第8頁右下欄第3行に記載の化合物を挙げることができる。
添加剤である(c)成分の代表例としては、アルコール類、アルデヒド類、ケトン類、アミン類などが好適に用いることができるが、さらに特開平1−132626号公報第8頁右下欄第16行〜第9頁左上欄第17行に示される化合物を使用することができる。
【0032】
メタセシス触媒の使用量としては、上記(a)成分と特定単量体とのモル比で「(a)成分:特定単量体」が、通常、1:500〜1:50,000となる範囲、好ましくは1:1,000〜1:10,000となる範囲とされる。
(a)成分と(b)成分との割合は、金属原子比で(a):(b)が1:1〜1:50、好ましくは1:2〜1:30の範囲とされる。
(a)成分と(c)成分との割合は、モル比で(c):(a)が0.005:1〜15:1、好ましくは0.05:1〜7:1の範囲とされる。
【0033】
<重合反応用溶媒>
開環重合反応において用いられる溶媒(分子量調節剤溶液を構成する溶媒、特定単量体および/またはメタセシス触媒の溶媒)としては、例えばペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンなどのアルカン類、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、デカリン、ノルボルナンなどのシクロアルカン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、クメンなどの芳香族炭化水素、クロロブタン、ブロモヘキサン、塩化メチレン、ジクロロエタン、ヘキサメチレンジブロミド、クロロベンゼン、クロロホルム、テトラクロロエチレンなどの、ハロゲン化アルカン、ハロゲン化アリールなどの化合物、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、酢酸iso−ブチル、プロピオン酸メチル、ジメトキシエタンなどの飽和カルボン酸エステル類、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類などを挙げることができ、これらは単独であるいは混合して用いることができる。これらのうち、芳香族炭化水素が好ましい。
溶媒の使用量としては、「溶媒:特定単量体(重量比)」が、通常、1:1〜10:1となる量とされ、好ましくは1:1〜5:1となる量とされる。
【0034】
<分子量調節剤>
得られる開環(共)重合体の分子量の調節は、重合温度、触媒の種類、溶媒の種類によっても行うことができるが、本発明においては、分子量調節剤を反応系に共存させることにより調節する。
ここに、好適な分子量調節剤としては、例えばエチレン、プロペン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセンなどのα−オレフィン類およびスチレンを挙げることができ、これらのうち、1−ブテン、1−ヘキセンが特に好ましい。
これらの分子量調節剤は、単独であるいは2種以上を混合して用いることができる。
分子量調節剤の使用量としては、開環重合反応に供される特定単量体1モルに対して0.005〜0.6モル、好ましくは0.02〜0.5モルとされる。
【0035】
(2)開環共重合体を得るには、開環重合工程において、特定単量体と共重合性単量体とを開環共重合させてもよいが、さらに、ポリブタジエン、ポリイソプレンなどの共役ジエン化合物、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−非共役ジエン共重合体、ポリノルボルネンなどの主鎖に炭素−炭素間二重結合を2つ以上含む不飽和炭化水素系ポリマーなどの存在下に特定単量体を開環重合させてもよい。
【0036】
以上のようにして得られる開環(共)重合体は、そのままでも用いられるが、これをさらに水素添加して得られた(3)水素添加(共)重合体は、耐衝撃性の大きい樹脂の原料として有用である。
<水素添加触媒>
水素添加反応は、通常の方法、すなわち開環重合体の溶液に水素添加触媒を添加し、これに常圧〜300気圧、好ましくは3〜200気圧の水素ガスを0〜200℃、好ましくは20〜180℃で作用させることによって行われる。
水素添加触媒としては、通常のオレフィン性化合物の水素添加反応に用いられるものを使用することができる。この水素添加触媒としては、不均一系触媒および均一系触媒が挙げられる。
【0037】
不均一系触媒としては、パラジウム、白金、ニッケル、ロジウム、ルテニウムなどの貴金属触媒物質を、カーボン、シリカ、アルミナ、チタニアなどの担体に担持させた固体触媒を挙げることができる。また、均一系触媒としては、ナフテン酸ニッケル/トリエチルアルミニウム、ニッケルアセチルアセトナート/トリエチルアルミニウム、オクテン酸コバルト/n−ブチルリチウム、チタノセンジクロリド/ジエチルアルミニウムモノクロリド、酢酸ロジウム、クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム、ジクロロトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、クロロヒドロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム、ジクロロカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウムなどを挙げることができる。触媒の形態は、粉末でも粒状でもよい。
【0038】
これらの水素添加触媒は、開環(共)重合体:水素添加触媒(重量比)が、1:1×10−6〜1:2となる割合で使用される。
このように、水素添加することにより得られる水素添加(共)重合体は、優れた熱安定性を有するものとなり、成形加工時や製品としての使用時の加熱によっても、その特性が劣化することはない。ここに、水素添加率は、通常、50%以上、好ましく70%以上、さらに好ましくは90%以上である。
【0039】
また、水素添加(共)重合体の水素添加率は、500MHz、H−NMRで測定した値が50%以上、好ましくは90%以上、さらに好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上である。水素添加率が高いほど、熱や光に対する安定性が優れたものとなり、本発明の波長板として使用した場合に長期にわたって安定した特性を得ることができる。
なお、本発明の環状オレフィン系樹脂として使用される水素添加(共)重合体は、該水素添加(共)重合体中に含まれるゲル含有量が5重量%以下であることが好ましく、さらに1重量%以下であることが特に好ましい。
【0040】
また、本発明の環状オレフィン系樹脂として、(4)上記(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化したのち、水素添加した(共)重合体も使用できる。
<フリーデルクラフト反応による環化>
(1)または(2)の開環(共)重合体をフリーデルクラフト反応により環化する方法は特に限定されるものではないが、特開昭50−154399号公報に記載の酸性化合物を用いた公知の方法が採用できる。酸性化合物としては、具体的には、AlCl3、BF3、FeCl3、Al23、HCl、CH3ClCOOH、ゼオライト、活性白土などのルイス酸、ブレンステッド酸が用いられる。
環化された開環(共)重合体は、(1)または(2)の開環(共)重合体と同様に水素添加できる。
【0041】
さらに、本発明の環状オレフィン系樹脂として、(5)上記特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体も使用できる。
<不飽和二重結合含有化合物>
不飽和二重結合含有化合物としては、例えばエチレン、プロピレン、ブテンなど、好ましくは炭素数2〜12、さらに好ましくは炭素数2〜8のオレフィン系化合物を挙げることができる。
特定単量体/不飽和二重結合含有化合物の好ましい使用範囲は、重量比で90/10〜40/60であり、さらに好ましくは85/15〜50/50である。
【0042】
本発明において、(5)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体を得るには、通常の付加重合法を使用できる。
<付加重合触媒>
上記(5)飽和共重合体を合成するための触媒としては、チタン化合物、ジルコニウム化合物およびバナジウム化合物から選ばれた少なくとも一種と、助触媒としての有機アルミニウム化合物とが用いられる。
ここで、チタン化合物としては、四塩化チタン、三塩化チタンなどを、またジルコニウム化合物としてはビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムクロリド、ビス(シクロペンタジエニル)ジルコニウムジクロリドなどを挙げることができる。
【0043】
さらに、バナジウム化合物としては、一般式
VO(OR)、またはV(OR)
〔ただし、Rは炭化水素基、Xはハロゲン原子であって、0≦a≦3、0≦b≦3、2≦(a+b)≦3、0≦c≦4、0≦d≦4、3≦(c+d)≦4である。〕
で表されるバナジウム化合物、あるいはこれらの電子供与付加物が用いられる。
上記電子供与体としては、アルコール、フェノール類、ケトン、アルデヒド、カルボン酸、有機酸または無機酸のエステル、エーテル、酸アミド、酸無水物、アルコキシシランなどの含酸素電子供与体、アンモニア、アミン、ニトリル、イソシアナートなどの含窒素電子供与体などが挙げられる。
【0044】
さらに、助触媒としての有機アルミニウム化合物としては、少なくとも1つのアルミニウム−炭素結合あるいはアルミニウム−水素結合を有するものから選ばれた少なくとも一種が用いられる。
上記において、例えばバナジウム化合物を用いる場合におけるバナジウム化合物と有機アルミニウム化合物の比率は、バナジウム原子に対するアルミニウム原子の比(Al/V)が2以上であり、好ましくは2〜50、特に好ましくは3〜20の範囲である。
【0045】
付加重合に使用される重合反応用溶媒は、開環重合反応に用いられる溶媒と同じものを使用することができる。また、得られる(5)飽和共重合体の分子量の調節は、通常、水素を用いて行われる。
【0046】
さらに、本発明の環状オレフィン系樹脂として、(6)上記特定単量体、およびビニル系環状炭化水素系単量体またはシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型共重合体およびその水素添加共重合体も使用できる。
<ビニル系環状炭化水素系単量体>
ビニル系環状炭化水素系単量体としては、例えば、4−ビニルシクロペンテン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロペンテンなどのビニルシクロペンテン系単量体、4−ビニルシクロペンタン、4−イソプロペニルシクロペンタンなどのビニルシクロペンタン系単量体などのビニル化5員環炭化水素系単量体、4−ビニルシクロヘキセン、4−イソプロペニルシクロヘキセン、1−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセン、2−メチル−4−ビニルシクロヘキセン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキセンなどのビニルシクロヘキセン系単量体、4−ビニルシクロヘキサン、2−メチル−4−イソプロペニルシクロヘキサンなどのビニルシクロヘキサン系単量体、スチレン、α―メチルスチレン、2−メチルスチレン、3−メチルスチレン、4−メチルスチレン、1−ビニルナフタレン、2−ビニルナフタレン、4−フェニルスチレン、p−メトキシスチレンなどのスチレン系単量体、d−テルペン、1−テルペン、ジテルペン、d−リモネン、1−リモネン、ジペンテンなどのテルペン系単量体、4−ビニルシクロヘプテン、4−イソプロペニルシクロヘプテンなどのビニルシクロヘプテン系単量体、4−ビニルシクロヘプタン、4−イソプロペニルシクロヘプタンなどのビニルシクロヘプタン系単量体などが挙げられる。好ましくは、スチレン、α−メチルスチレンである。これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0047】
<シクロペンタジエン系単量体>
本発明の(6)付加型共重合体の単量体に使用されるシクロペンタジエン系単量体としては、例えばシクロペンタジエン、1−メチルシクロペンタジエン、2−メチルシクロペンタジエン、2−エチルシクロペンタジエン、5−メチルシクロペンタジエン、5,5−メチルシクロペンタジエンなどが挙げられる。好ましくはシクロペンタジエンである。これらは、1種単独で、または2種以上を併用することができる。
【0048】
上記特定単量体、ビニル系環状炭化水素系単量体およびシクロペンタジエン系単量体から選ばれる1種以上の単量体の付加型(共)重合体は、上記(5)特定単量体と不飽和二重結合含有化合物との飽和共重合体と同様の付加重合法で得ることができる。
また、上記付加型(共)重合体の水素添加(共)重合体は、上記(3)開環(共)重合体の水素添加(共)重合体と同様の水添法で得ることができる。
【0049】
さらに、本発明の環状オレフィン系樹脂として、(7)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体も使用できる。
<アクリレート>
本発明の(7)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体の製造に用いられるアクリレートとしては、例えば、メチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレートなどの炭素原子数1〜20の直鎖状、分岐状または環状アルキルアクリレート、グリシジルアクリレート、2−テトラヒドロフルフリルアクリレートなどの炭素原子数2〜20の複素環基含有アクリレート、ベンジルアクリレートなどの炭素原子数6〜20の芳香族環基含有アクリレート、イソボロニルアクリレート、ジシクロペンタニルアクリレートなどの炭素数7〜30の多環構造を有するアクリレートが挙げられる。
【0050】
本発明において、(7)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体を得るためには、ルイス酸存在下、上記特定単量体とアクリレートとの合計を100モルとしたとき、通常、上記特定単量体が30〜70モル、アクリレートが70〜30モルの割合で、好ましくは上記特定単量体が40〜60モル、アクリレートが60〜40モル割合で、特に好ましくは上記特定単量体が45〜55モル、アクリレートが55〜45モルの割合でラジカル重合する。
(7)上記特定単量体とアクリレートとの交互共重合体を得るために使用するルイス酸の量は、アクリレート100モルに対して0.001〜1モルとなる量とされる。また、公知のフリーラジカルを発生する有機過酸化物またはアゾビス系のラジカル重合開始剤を用いることができ、重合反応温度は、通常、−20℃〜80℃、好ましくは5℃〜60℃である。また、重合反応用溶媒には、開環重合反応に用いられる溶媒と同じものを使用することができる。
なお、本発明でいう「交互共重合体」とは、上記特定単量体に由来する構造単位が隣接しない、すなわち、上記特定単量体に由来する構造単位の隣は必ずアクリレートに由来する構造単位である構造を有する共重合体のことを意味しており、アクリレート由来の構造単位どうしが隣接して存在する構造を否定するものではない。
【0051】
本発明で用いられる環状オレフィン系樹脂の好ましい分子量は、固有粘度〔η〕inhで0.2〜5dl/g、さらに好ましくは0.3〜3dl/g、特に好ましくは0.4〜1.5dl/gであり、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は8,000〜100,000、さらに好ましくは10,000〜80,000、特に好ましくは12,000〜50,000であり、重量平均分子量(Mw)は20,000〜300,000、さらに好ましくは30,000〜250,000、特に好ましくは40,000〜200,000の範囲のものが好適である。
固有粘度〔η〕inh、数平均分子量および重量平均分子量が上記範囲にあることによって、環状オレフィン系樹脂の耐熱性、耐水性、耐薬品性、機械的特性と、本発明の拡散板としての成形加工性が良好となる。
【0052】
本発明に用いられる環状オレフィン系樹脂のガラス転移温度(Tg)としては、通常、130℃以上、好ましくは130〜350℃、さらに好ましくは130〜250℃、特に好ましくは140〜200℃である。Tgが130℃未満の場合は、高温条件下での使用、あるいはコーティング、印刷などの二次加工により変形するので好ましくない。一方、Tgが350℃を超えると、成形加工が困難になり、また成形加工時の熱によって樹脂が劣化する可能性が高くなる。
【0053】
環状オレフィン系樹脂には、本発明の効果を損なわない範囲で、例えば特開平9−221577号公報、特開平10−287732号公報に記載されている、特定の炭化水素系樹脂、あるいは公知の熱可塑性樹脂、熱可塑性エラストマー、ゴム質重合体、有機微粒子、無機微粒子などを配合しても良い。
【0054】
本発明の環状オレフィン系樹脂には、公知の酸化防止剤、例えば2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、2,2’−ジオキシ−3,3’−ジ−t−ブチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン;紫外線吸収剤、例えば2,4−ジヒドロキシベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン、あるいはベンジルマロネート系化合物などを添加することによって安定化することができる。また、加工性を向上させる目的で滑剤などの添加剤を添加することもできる。
【0055】
以上の環状オレフィン系樹脂をフィルム状に成形する方法としては特に制約されず、公知の成形法を採用することができる。例えば、加熱溶融成形法、溶液流延法のいずれも採用することができるが、シート中の揮発性成分を低減させる観点から、加熱溶融成形法を用いるのが好ましい。
【0056】
加熱溶融成形法は、溶融押出成形法、プレス成形法、インフレーション法、射出成形法、ブロー成形法、延伸成形法などが挙げられる。これらの中で、機械的強度および表面精度などに優れる延伸フィルムを得るためには、溶融押出し成形法を用いるのが好ましい。
【0057】
成形条件は、使用目的や成形方法により適宜選択される。溶融押出成形法においては、通常、押出機に樹脂を投入する前に、樹脂中に含まれている水分、気体(酸素など)、残溶剤などを予め除去することを目的として樹脂のTg以下の適切な温度で樹脂ペレットなどの乾燥を行う。乾燥に用いる乾燥機は特に限定されるものではないが、通常、熱風循環乾燥機、除湿式乾燥機、真空乾燥機、窒素などの不活性ガス循環式乾燥機が用いられ、共重合体中の揮発成分あるいは溶存酸素を効率よく取り省ける点で、特に不活性ガス循環式乾燥機あるいは真空乾燥機を用いることが好ましい。また、ホッパー中での吸湿や酸素の吸収を抑えるため、ホッパーを窒素やアルゴンなどの不活性ガスでシールしたり、減圧状態に保持できる真空ホッパーを使用したりすることも好ましいものである。さらに、押出機シリンダーには、溶融押出し中に発生する揮発成分を取り省くためにベント機能や酸素混入によるポリマーの劣化を押させるために窒素やアルゴンなどの不活性ガスによりシールする機能を設けることが好ましい。
押出機としては、通常、単軸、二軸、または衛星式多軸押出機が用いられる。
【0058】
溶融された環状オレフィン系樹脂は、フラットダイから吐出させ、冷却ドラムに密着固化させて目的とするフィルムを得ることができる。フラットダイの具体例としてはマニホールドダイ、フィッシュテールダイ、コートハンガーダイなどを挙げることができる。これらの中では、コートハンガーダイ、マニホールドダイが好ましい。
押出機(シリンダー・スクリューなど)、ダイスの材質としては、SCM系の鋼鉄、SUSなどのステンレス材などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、押出機シリンダー、ダイスの内面ならびに押出機スクリュー表面には、クロム、ニッケル、チタンなどのメッキが施されたもの、PVD(Physical Vapor Deposition)法などにより、TiN、TiAlN、TiCN、CrN、DLC(ダイアモンド状カーボン)などの被膜が形成されたもの、タングステンカーバイトまたはその他のセラミックが溶射されたもの、表面が窒化処理されたものなどを用いることが好ましい。このような表面処理は、樹脂との摩擦係数が小さいため、均一な樹脂の溶融状態が得られる点で好ましい。
【0059】
ダイから押出されたフィルムを密着固化させる方法としては、ニップロール方式、静電印加方式、エアーナイフ方式、バキュームチャンバー方式、カレンダー方式、スリーブ式などが挙げられ、フィルムの厚さ、用途に従って、適切な方式が選択される。
ダイから押出されたフィルムを固化するための冷却ロール表面についても、押出機シリンダー、ダイスの内面などと同様に、各種の表面処理が行われることが好ましい。これらの表面処理は、押出フィルムのロール表面への密着を防いでフィルムの厚み斑発生を防ぐとともに、冷却ロール表面精度を高くし、表面硬度が高いために傷などがつきにくく、連続してフィルムの製造を行っても安定してフィルム表面精度を保ち、かつ厚み斑がないフィルムを製造できる点で好ましい。
【0060】
ここで、本発明の溶融押出フィルムを得るための溶融押出条件としては、例えば、樹脂温度(押出機シリンダー温度)が、通常、100〜500℃、好ましくは150〜350℃、溶融押出時のせん断速度が、通常、1〜1,000(1/Sec.)、好ましくは2〜500(1/Sec.)、より好ましくは5〜300(1/Sec.)である。樹脂温度が100℃未満では,樹脂を均一に溶融させることができず、一方、500℃を超えると,溶融時に樹脂が熱劣化して表面性に優れた高品質なフィルムの製造が困難になる。また、押出時のせん断速度が1(1/Sec.)未満では、樹脂を均一に溶融させることができないため厚み斑が小さい押出フィルムを得ることができず、一方、1,000(1/Sec.)を超えると、せん断力が大きすぎて樹脂および添加物が分解・劣化し、押出フィルムの表面に発泡、ダイライン、付着物などの欠陥が生じ、好ましくない。
【0061】
本発明においては、溶融押出を行うダイスを加熱時あるいは保温時に不活性ガスで封入することを特徴とするものである。
ここで、不活性ガスとは、窒素、アルゴンなどが挙げられるが、10%以下、好ましくは2%以下、さらに好ましくは1%以下、特に好ましくは0.1%以下程度の他のガスが含まれていてもよい。
本発明の不活性ガスとしては公知のものが使用可能であるが、取り扱いのし易さや、入手の容易さなどより、窒素あるいはアルゴンであることが好ましく、効果の点から、純度は好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上、特に好ましくは99.9%以上である。純度が98%未満では、不純物として含まれる酸素などの活性ガスの存在により封止の効果が不十分となり好ましくない。
これらの純度の高い不活性ガスの製造方法は特に規定されず、公知の方法が用いられる。また、これら製造された不活性ガスをボンベに封入した物を徐々に流す方法を用いてもよいが、公知の膜分離や圧力振動法を用いて、好ましくは公知の方法で除湿された空気から連続的に目的の不活性ガスを分離し、ダイスへ流す方法も好ましいものである。
窒素の流量は、好ましくは0.06m/hr以上1.2m/hr以下、さらに好ましくは、0.3m/hr以上0.9m/hr以下である。0.06m/hr未満では不活性ガスによる封止が不十分であり、一方、1.2m/hrを超えるとダイスの昇温が不十分あるいはダイスの温度むらといった問題を生じるので好ましくない。
【0062】
本発明で用いる不活性ガスは、樹脂溶融フィルムの押出し操作において、異物の混入を防ぐため、公知のフィルターでろ過されたものを用いることが好ましい。
用いられるフィルターの目開きは、通常、5μm以下、好ましくは2μm以下、特に好ましくは1μm以下であり、ポリテトラフルオロエチレン(商品名;テフロン)やナイロンといった公知の素材からなるフィルターを用いることが可能である。
【0063】
また、ダイスを不活性ガスで封止する方法としては、ダイス内に不活性ガスで封入でき、酸素などの活性ガスが混入しない構造であれば特に限定されない。例えば、ダイスのフランジ、入り口流路管、側面部分、ダイス出口などから封入することが可能であるが、ダイス出口を不活性ガス雰囲気とし、そこから不活性ガスを流入させる方法が、ダイス内部に樹脂の滞留を引き起こすおそれのある特別な構造を設ける必要もなく好ましいものである。
【0064】
ダイス出口を不活性ガス雰囲気とする方法としては、ダイスリップ部をカバーで覆い、そこへ不活性ガスを流入させる方法を採用することが可能である。これらカバーの材質は特に限定されないが、ダイスが高温となることと、異物の発生を抑えるため、通常、耐腐食性の金属、好ましくはステンレス系の鋼材、アルミニウム系の金属素材を用いることが好ましい。
【0065】
不活性ガスによるダイスの封止は、少なくともダイス内へ熱可塑性樹脂の溶融体が供給される時点で、ダイス内部で溶融樹脂が流動する空隙が不活性ガスで満たされていることが必要である。また、ダイス内部の流路表面の酸化を抑制するために、ダイスが十分に昇温していない時点から、好ましくはダイスの昇温を開始する時点あるいはそれ以前からダイス内部へ不活性ガスを流入させる、あるいは封止させておくことも好ましいものである。さらに、ダイス内部に溶融樹脂が残留している場合、少なくとも、用いる熱可塑性樹脂のガラス転移温度Tg以下、好ましくはTg−50℃以下の温度で不活性ガス封止することが好ましい。
また、フィルム押出装置を保温する場合、押出機の運転を停止し、ダイスからフィルム状の樹脂の流出が止まった時点で、不活性ガスによる封止を始めることが好ましい。
【0066】
未延伸フィルムの厚みは、得られる延伸フィルムの使用目的などに応じて適宜決定することができる。フィルムの厚みは、安定した延伸処理による均質な延伸フィルムが得られる観点から、好ましくは40〜200μm、より好ましくは50〜150μmである。
【0067】
本発明では、以上のアセテートフィルムや環状オレフィン系樹脂などの樹脂からなる未延伸フィルムをその幅方向に対して任意の角度θ(5度≦θ<85度)の方向に連続的に斜め延伸することにより、フィルムの幅方向に対して角度θの配向軸を有する長尺の延伸フィルムを得ることができる。
【0068】
角度θを5〜85度の間で任意の値に設定することにより、面内の遅相軸方向の屈折率nx、面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率ny、および厚み方向の屈折率nzを所望の値となるようにすることができる。角度θが5度未満でおよび85度を超える角度では、斜め延伸を行うメリットが少ない。なお、本発明における斜め延伸の好ましい角度は、10〜85度、さらに好ましくは15〜80度、特に好ましくは20〜80度である。
【0069】
斜め延伸する方法としては、その幅方向に対して5〜85度の方向に連続的に延伸して、ポリマーの配向軸を所望の角度に傾斜させるものであれば特に制約されず、公知の方法を採用することができる。
【0070】
また、斜め延伸に用いる延伸機は特に制限されず、横または縦方向に左右異なる速度の送り力若しくは引張り力または引取り力を付加できるようにした従来公知のテンター式延伸機を使用することができる。また、テンター式延伸機には、横一軸延伸機、同時二軸延伸機などがあるが、長尺のフィルムを連続的に斜め延伸処理することができるものであれば、特に制約されず、種々のタイプの延伸機を使用することができる。
【0071】
本発明に使用することができる斜めテンター延伸の例を図1に示す。図1に示すように、上記で得られた未延伸フィルムUFを、一定の方向MDに搬送しながら、テンターTEを用いて斜め延伸する。図1のある位置P1,P2でチャックされたフィルムは、左側が遅い速度SLで位置P4へ、右側が速い速度SRで位置P3へ移動することによって、斜め延伸が実施され、斜め延伸された斜め延伸フィルムDFが得られる。図1は、幅方向Aに対して角度θ(5≦θ≦85)で斜め延伸する例であり、配向軸はBの方向となる。
【0072】
本発明に用いることができる斜め延伸の方法は、図1に示すものに限られない。例えば、特開2000−9912号公報、特開2002−86554号公報、特開2002−22945号公報などに記載されたものを用いることができる。
また、斜め延伸する方法としては、横延伸の左右の点ターに速度差がある方法や、左右非対称の角度に延伸する方法、あるいは、これらの組み合わせがあり、いずれでもよい。
さらに延伸速度は、通常、1〜5000%/分であり、好ましくは50〜1,000%/分であり、より好ましくは100〜1000%/分である。
【0073】
未延伸フィルムを斜め延伸するときの温度は、セルロースアセテートや環状オレフィン系樹脂などの樹脂のガラス転移温度をTgとすると、好ましくはTg−15℃からTg+40℃の間、より好ましくはTg−10℃からTg+35℃、特に好ましくは−5℃から+30℃の温度範囲である。
また、延伸倍率は、通常、1.1〜5.0倍、好ましくは1.1〜3.0倍、より好ましくは1.1〜2.0倍である。
【0074】
なお、本発明では、この斜め延伸において、延伸時のフィルムがその幅方向で温度分布を有するようにすることが好ましい。
具体的には、樹脂フィルムの温度分布が、幅方向における中央部の温度が端部に比べて最大10℃の温度差を有する分布であるようにする。
さらに好ましくは、樹脂フィルムの温度がTg−15℃からTg+40℃(ここで、Tgは樹脂のガラス転移温度である)の範囲にあり、かつフィルム幅方向における、中央部のフィルム温度が端部のフィルム温度より0.5〜10℃低くする。
上記図1を用いてさらに説明すると、樹脂フィルムの幅方向の中央部であるFCの温度が、樹脂フィルムの端部(FSL、FSR)よりも最大10℃の温度差で低いように設定する。
【0075】
この温度分布の詳細な具体例としては、得られる斜め延伸フィルムの幅が1,200mmの場合、フィルム端から、(1)100mm、(2)350mm、(3)600mm、(4)850mm、(5)1,100mmの位置での温度としては、ガラス転移温度が165℃の樹脂フィルムや同120℃の樹脂フィルムでは、次のような設定が好ましい。
Tg=165℃のフィルム:(1)180℃、(2)177℃、(3)175℃、(4)178℃、(5)180℃
Tg=120℃のフィルム:(1)133℃、(2)129℃、(3)125℃、(4)129℃、(5)133℃
上記の位置(1)〜(5)において、同一温度である場合に比べて、フィルム幅方向の中央部のフィルム温度をその端部よりも温度差をつけて高くすることにより、得られる斜め延伸フィルムの位相差や光軸などの光学特性が均質となる。
【0076】
樹脂フィルムの温度は、上記のように、フィルム幅方向における、中央部のフィルム温度が端部のフィルム温度より0.5〜10℃低くすることが好ましい。温度差が10℃を超えると、得られるフィルムの均質性がかえって低下し、延伸温度が高いほど、延伸によって発現する位相差が小さくなり、延伸後の配向緩和も進むため均質性のバランスが崩れる。一方、温度差が1℃未満では、ボーイング現象を防止する効果が希薄となり好ましくない。
なお、基準となるフィルム端部(FSL,FSR)の温度は、フィルムを構成する樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、−15℃から+30℃が好ましく、さらに好ましくは−10℃から+25℃、特に好ましくは−5℃から+20℃である。
【0077】
なお、本発明において、幅方向の温度分布は、幅方向中心に対して、対称であることが基本であるが、フィルム膜厚分布に応じて、非対称であってもよい。
樹脂フィルムの幅方向に温度分布をつける方法としては、±1.0℃ないし±0.5℃という均一な温度制御下にある温度チャンバー内において、赤外線ヒーターなどを用いて、ある一定区間にある延伸状態のフィルム部分のみに温度分布を与える方法が挙げられる。
なお、局所的に加熱する方法は、赤外線に限定されるものではない。また、加熱方向は、フィルムの幅方向に平行であってもよいし、斜め延伸の角度に応じて同じ角度範囲で幅方向に対して角度を有するものであってもよい。
【0078】
以上のようにして得られる本発明の斜め延伸フィルムは、幅方向に対して1度から85度の配向軸を有する。また、皺や厚みムラがなく、かつ、長期にわたって寸法変化がなく、光学特性の安定性が優れるので、偏光フィルムや位相差フィルムとして有用である。
斜め延伸フィルムの厚みは、通常、20〜120μm、好ましくは25〜100μmである。
なお、本発明の斜め延伸に適用されるフィルムは、溶液流延法フィルムや溶融押出フィルムなど、平均膜厚が±5%以内の均一な膜厚に製膜されているフィルムであれば、どのような加工方法によるものであってもよい。
【0079】
以上のようにして得られる本発明の斜め延伸フィルムは、延伸後のフィルムの波長590nmの光による面内位相差が50〜1,200nm、好ましくは70〜800nm、さらに好ましくは100〜500nmである。
ここで、面内位相差(Re)は、下記式に従って算出する。
面内位相差(Re)=(nx−ny)×d
式中、nxは、位相差板の面内の遅相軸方向の屈折率(面内の最大屈折率)であり、nyは、位相差板の面内の遅相軸に垂直な方向の屈折率であり、そして、dは、位相差板の厚さ(nm)である。
面内位相差を50〜500nmとする理由は、その主な用途の特徴にある。例えば、ディスプレイパネルにおいては、可視光領域(400〜800nm)に対して550〜590nmを中心波長;λとして、1/2λや1/4λなどの面内位相差を有する位相差板が使われることが多いので、130〜450nmの位相差範囲が必要となる。また、単波長レーザー光などを利用した光ディスク装置においては、780nm、650nm、405nmなどのレーザーなどの波長;λに対し、5/4λ、1λ、3/4λ、1/2λ、1/4λなどの面内位相差を有する位相差板が使われることが多いので、全体を網羅するには少なくとも100〜1000nm、上述以外の場合も考慮すると50〜1,200nmの位相差範囲となるからである。したがって、50nm未満、および、1,200nmを超えるものは有用性がほとんど無いことになる。
【0080】
波長590nmの光による面内位相差を50〜1,200nmとするには、本発明の斜め延伸において、主に延伸倍率と延伸温度を調整することにより発現できるものである。延伸倍率を高くするほど発現する位相差は大きくなる傾向があり、延伸倍率の増減によって発現する位相差を増減することができる。また、延伸はその樹脂フィルムのガラス転移温度前後の温度で行われ、延伸温度が低いほど発現位相差が大きくなる傾向があるが、反面、均一な位相差部分が狭くなる傾向もある。したがって、その樹脂フィルムの伸びや破断特性と必要な位相差部分の大きさを勘案して延伸温度を決定する。高い延伸倍率で延伸を行う場合には、予め厚いフィルムを用いることもある。斜め延伸の角度については、図1中のSR,SLの速度差、および、P1−P3とP2−P4の角度差の両方あるいはいずれかを変量することによって調整することができる。
【0081】
例えば、本発明のフィルム加工方法の具体例としては、ガラス転移温度(Tg)が165℃、厚さが100μmの未延伸樹脂フィルム(環状オレフィン系樹脂:JSR(株)製「ARTON」フィルム)を175℃で斜め一軸延伸した場合、発現する位相差は、延伸倍率1.1倍で上記面内位相差は70nm、1.3倍で220nm、1.5倍で300nm、1.7倍で380nm、2.0倍で450nm程度である。より高い位相差を発現することには、未延伸フィルムの厚さを増したり、延伸倍率を高くしたりする方法によって可能である。
【実施例】
【0082】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、以下において、「部」および「%」は、特に断りのない限り、「重量部」および「重量%」を意味する。
また、各種測定項目は、次のようにして求めた値である。
【0083】
ガラス転移温度(Tg)
JIS K 7121に準じて示差走査熱量計(DSC)により、窒素雰囲気下において、20℃/minの昇温速度で測定した。
水素添加率
1H-NMRの炭素−炭素二重結合上のプロトンとカルボキシメチル基のメチルプロトンなどのプロトン比から求めた。
固有粘度(η inh
濃度0.5g/dlに調製した試料のクロロホルム溶液をウベローデ粘度計を用い、30.0℃において固有粘度を測定した。
【0084】
合成例1
8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5
.17,10]−3−ドデセン(特定単量体)250部と、1−ヘキセン(分子量調節剤)41部と、トルエン(開環重合反応用溶媒)750部とを窒素置換した反応容器内に仕込み、この溶液を60℃に加熱した。次いで、反応容器内の溶液に、トリエチルアルミニウムのトルエン溶液(1.5モル/l)0.62部と、t−ブタノール/メタノールで変性した六塩化タングズテン(t−ブタノール:メタノール:タングステン=0.35モル:0.3モル:1モル)のトルエン溶液(濃度0.05モル/l)3.7部とを添加し、この系を80℃で3時間加熱攪拌することにより開環重合反応させて開環重合体溶液を得た。
この重合反応における重合転化率は97%であった。
このようにして得られた開環重合体溶液4,000部をオートクレーブに仕込み、この開環重合体溶液に、RuHCl(CO)[P(C 0.48部を添加し、水素ガス圧100kg/cm、反応温度165℃の条件下で3時間加熱攪拌することにより水素添加反応させた。
得られた反応溶液(水素添加重合体溶液)を冷却した後、水素ガスを放圧した。
このようにして得られた水素添加重合体の水素添加率を400MHzのH−NMRで測定したところ実質上100%であった。
重合体の固有粘度(ηinh)は0.50、走査熱量計(DSC)により、窒素雰囲気下において、20℃/分の昇温速度で測定したガラス転移温度は165℃であった。
【0085】
合成例2
特定単量体として8−メチル−8−メトキシカルボニルテトラシクロ[4.4.0.12,5
.17,10]−3−ドデセン225部とビシクロ[2.2.1]ヘプト−2−エン65部とを使用し、1−ヘキセン(分子量調節剤)の添加量を43部としたこと以外は、合成例1と同様にして水素添加重合体を得た。得られた水素添加重合体の水素添加率は実質上100%であった。
重合体の30℃のクロロホルム中で測定した固有粘度(ηinh)は0.50、ガラス転移温度は120℃であった。
【0086】
<製膜例1>
充分に清掃された、500mm幅のTダイを50mmφ押出し機に取り付けた。ダイスおよび押出し機の昇温を始める前に、ダイスリップ部にとりつけたアルミニウム製のカバーから、純度99.9%の窒素を0.6m/hrの流速で流すことにより封止し、Tダイと押出し機の昇温を始めた。
昇温開始から5時間かけ十分に昇温した後、100℃×4時間の条件で真空乾燥した合成例1で得られた樹脂を、押出機シリンダー温度を280〜300℃の適温に設定した条件で、せん断速度が32(1/Sec.)の条件で溶融押出してフィルム状に成形した。Tダイより溶融押出されたフィルムは金属製のキャストドラムと、このキャストドラムにその周方向に沿って圧接するように設けられた金属製の無端ベルトとの間に通過させることにより、挟圧して当該無端ベルトに圧着させてフィルム表面を高精度に加工したのち、ベルトから剥離して、450mm幅、厚さ100μmの押出フィルムを作製した。冷却キャストドラムの温度設定は145℃に設定して成形を行った。
【0087】
<製膜例2>
合成例2で得られた樹脂を用い、押出機シリンダー温度を255〜280℃、冷却キャストドラムを105℃に設定した他は、製膜例1と同様にして厚さ100μmの押出フィルムを得た。
上記、合成例1および製膜例1により得たサンプルフィルム(Tg165℃)と合成例2および製膜例2により得たサンプルフィルム(Tg120℃)を試料として用いた。
【0088】
<実施例1〜6、比較例1〜4>
上記合成例および製膜例で得られた光学用フィルムを、図1に準じた延伸機を用い、表1に示す条件で温度分布を持たせた条件で、延伸倍率1.3倍になるようにθ=45°で斜め延伸を行った。
得られた延伸フィルムについて、表1に示すフィルムの各部分についての配向角(ロールフィルムの長さ方向(いわゆるMD方向)を0度とした延伸配向角度)を、王子計測機器(株)製の自動複屈折計「KOBRA−21ADH」を用いて測定し、測定値と目標配向角(45°)との差異を求めた。この差異が±0.5°以内であれば、幅方向の配向が均一であると言える。また、上記自動複屈折計を用いて面内位相差を測定した。
【0089】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明により得られる斜め延伸フィルムは、波長590nmにおける光の面内位相差が50〜1,200nmであり、、位相差フィルムと偏光フィルムとを一定角度をつけて貼り合わせる際の裁断ロスがなく、工程が簡略化でき、さらに斜め延伸で懸念されるボーイング現象を防止することができ、斜め方向に配向を有する均質な樹脂フィルムなので、液晶やプラズマに代表される各種ディスプレイパネルにおける偏光フィルム、保護フィルム、位相差フィルム、視野角補償フィルム、偏光板保護兼位相差フィルム、偏光板保護兼視野角補償フィルムなどの他、強度異方性の少ない各種フィルムなどとして特に有用である。また、これ以外にも、たとえば、携帯電話、ディジタル情報端末、ポケットベル、ナビゲーション、車載用液晶ディスプレイ、液晶モニター、調光パネル、OA機器用ディスプレイ、AV機器用ディスプレイなどの各種液晶表示素子、エレクトロルミネッセンス表示素子またはタッチパネルなどに用いることができる。また、CD、CD−R、MD、MO、DVDなどの光ディスクの記録・再生装置に使用される波長板としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のフィルム加工方法を示す概略図である。
【符号の説明】
【0092】
UF:未延伸フィルム
MD:機械方向(フィルム長さ方向)
P1,P2:チャック点
SL:左側速度
SR:右側速度
DF:延伸フィルム
A :幅方向
B :配向軸


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂フィルムをその幅方向に対して5〜85度の方向に連続的に延伸する方法であって、延伸後のフィルムの波長590nmの光による面内位相差を50〜1,200nmとなすことを特徴とするフィルム加工方法。
【請求項2】
延伸時の樹脂フィルムがその幅方向で温度分布を有する請求項1記載のフィルム加工方法。
【請求項3】
樹脂フィルムの温度分布が、幅方向における中央部の温度が端部に比べて最大10℃の温度差を有する分布である請求項2記載のフィルム加工方法。
【請求項4】
延伸時の樹脂フィルムの温度がTg−15℃からTg+30℃(ここで、Tgは樹脂のガラス転移温度である)の範囲にあり、かつフィルム幅方向における、中央部のフィルム温度が端部のフィルム温度より0.5〜10℃低い請求項2または3記載のフィルム加工方法。
【請求項5】
樹脂フィルムを構成する樹脂が、セルロースアセテートまたは環状オレフィン系樹脂である請求項1〜4いずれかに記載のフィルム加工方法。


【図1】
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【公開番号】特開2006−224618(P2006−224618A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44287(P2005−44287)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.ポケットベル
【出願人】(000004178)JSR株式会社 (3,320)
【Fターム(参考)】