説明

フィルム状製剤及びフィルム状製剤の製造方法

【課題】薬物成分の味、匂い、刺激の知覚が抑制されているフィルム状製剤の製造方法を提供する。
【解決手段】フィルム状製剤の製造方法は、薬物成分を含有する粉末母体の表面に、金、銀、白金等の金属、金属酸化物、ケイ素、酸化ケイ素、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートに例示される胃溶性有機化合物、メタアクリル酸コポリマーLに例示される腸溶性有機化合物から選ばれる少なくとも一種を蒸着し、蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤とする蒸着工程S1と、粉末状製剤が可食性の水溶性フィルム形成剤の水溶液に懸濁された懸濁液を調製する懸濁液調製工程S2と、懸濁液を基面上に流延し、乾燥させてフィルム化するフィルム化工程(流延工程S3,乾燥工程S4)とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィルム状製剤及びフィルム状製剤の製造方法に関するものであり、特に経口投与用の薬物を含有するフィルム状製剤、及び該フィルム状製剤の製造に適した製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高齢化の進行に伴って嚥下困難者が増加する傾向にある。そのため、薬を飲み込みにくい患者に対しても薬物成分を経口投与できる製剤の開発が、強く要望されている。そこで、本発明者らは、可食性フィルムに薬物成分を含有させたフィルム状製剤について研究開発を進め、提案を行っている。本発明者らの提案によるフィルム状製剤は、口腔内で速やかに崩壊または溶解すると共に、ハンドリング上問題のない実用的な強度を有しているため、老化や疾病等によって嚥下機能が低下した人や、小児など嚥下機能の低い人にとっても、服用し易い製剤となっている。
【0003】
上記のフィルム状製剤にかかる発明は、出願公開前であるため文献公知発明に該当しない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、口腔内で速やかに崩壊または溶解するということは、嚥下困難者が服用し易い製剤であるために必要な特性である一方で、薬物成分の味が悪い場合や匂いが強い場合は、口腔内にその味や匂いが速やかに広がり、服用しにくくなってしまうおそれがあった。また、薬物成分が刺激性である場合も、フィルム状製剤の口腔内での崩壊または溶解に伴って、舌がしびれる等の不快感を覚えるおそれがあった。
【0005】
そこで、本発明は、上記の実情に鑑み、薬物成分の味、匂い、刺激の知覚が抑制されているフィルム状製剤、及び、該フィルム状製剤の製造に適した製造方法の提供を、課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するため、本発明にかかるフィルム状製剤は、「経口投与用の薬物成分を含有する粉末母体の表面に、金、銀、白金、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートから選ばれる少なくとも一種が蒸着された蒸着皮膜層を備える粉末状製剤が、可食性の水溶性フィルム形成剤によりフィルム状に形成されたフィルム基体に含有されている」ものである。
【0007】
「薬物成分」は、経口投与用であれば特に限定されるものではないが、味の悪いもの、匂いの強いもの、刺激性のものは本発明を適用する意義が高い。例えば、苦味及び刺激の強い塩酸ジフェンヒドラミン、苦味を有するオウバク、キニーネ、アセトアミノフェン、エピナスチン、クラリスロマイシン、匂いの強いL−メチオニン、L−エチルシステイン塩酸塩、刺激性のイブプロフェン、ビサコジルを挙げることができる。
【0008】
「薬物成分を含有する粉末母体」は、粉末状の製剤の母体であり、日本薬局方で「散剤(Powders)」と称されている製剤を指すものとする。第十五改正日本薬局方では、「散剤」は薬物成分をそのまま、或いは、薬物成分に賦形剤、結合剤、崩壊剤等の添加剤を加えて粉末又は微粒状とした製剤であって、粒度試験において18号ふるい(850μm)を全量通過し、30号ふるい(500μm)に残留するものが全体の5%以下である製剤と定義されている。なお、日本薬局方では、医薬品を粒状に製した「顆粒剤(Granules)」を、10号ふるい(1700μm)を全量通過し、12号ふるい(1400μm)に残留するものは全量の15%以下であり、42号ふるい(355μm)を通過するものは全量の15%以下である製剤と定義することにより散剤と顆粒剤を区別している。なお、本発明では「粉末状製剤」が「フィルム状製剤」に含有されている構成上、「粉末母体」の粒子径はフィルム基体の厚さによって制限される。そのため、本発明の「粉末母体」は、日本薬局方で「散剤」と分類されている製剤の中でも、後述のように粒子径の小さいものである。
【0009】
「蒸着皮膜層」は、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等の物理蒸着法(PVD)、或いは、化学蒸着法(CVD)によって形成することができる。なお、蒸着皮膜層は、「粉末母体の表面に」形成されるものであるが、粉末母体の全表面を被覆するように形成されることまでは要件としていない。蒸着する際に隣接する粉末母体どうしが重なり合うことを完全に避けることは難しいため、粉末母体の表面を完全に蒸着皮膜層で被覆することは実際的ではないからである。
【0010】
「金、銀、白金、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネート」は、何れも食品或いは経口投与用の製剤に添加することが認められている物質である。加えて、これらの物質は何れも水に不溶または難溶である。
【0011】
「可食性の水溶性フィルム形成剤」としては、例えば、カゼインナトリウム、ゼラチン、大豆タンパク、デンプン、ペクチン、アラビノキシラン、大豆多糖類、アルギン酸ナトリウム、カラギーナン、グルコマンナン、キサンタンガム、プルラン、デキストリン、ヒプロメロース(HPMC;旧日本薬局方名「ヒドロキシプロピルメチルセルロース」)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、水溶性ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、メチルセルロース(MC)、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリアクリルアミド(PAA)、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリエチレングリコール(PEG)等を使用することができる。また、複数種類のフィルム形成剤を適宜配合して使用することもできる。
【0012】
フィルム基体には、上記の可食性の水溶性フィルム形成剤に加えて、他の成分を含有させることができる。例えば、可塑剤として、クエン酸トリエチル、グリセリン、ソルビトール、トリアセチン、プロピレングリコール、ポリオキシエチレン(105)ポリオキシプロピレン(5)グリコール、ポリソルベート、マクロゴール、モノステアリン酸グリセリン、マンニトール等を含有させることにより、フィルム基体の柔軟性を高め、ひび割れや破れ等の発生を防止することができる。
【0013】
フィルム基体の厚さは50〜100μmであれば、口腔内で崩壊または溶解し易いと共に、口腔内で嵩張らず好適である。また、フィルム基体に含有させる粉末状製剤の粒子径が大き過ぎる場合には、フィルム基体中に安定的に保持させることが困難となるため、粉末状製剤の粒子径(直径)はフィルム基体の厚さの3/4以下であることが望ましく、フィルム基体の厚さの1/2以下であればより望ましい。
【0014】
上記の構成により、本発明によれば、水溶性フィルム形成剤により形成されたフィルム基体は、口腔内で崩壊または溶解し易い一方で、フィルム基体中に含有された粉末状製剤には、水に不溶または難溶な蒸着皮膜層が形成されていることにより、薬物成分の口腔内への溶出が抑制されている。従って、口腔内の水分によってフィルム基体が崩壊または溶解しても、薬物成分の味、匂い、刺激を口腔内で感じにくいものとなる。これにより、味、匂い、刺激の強い薬物成分であっても、口腔内で崩壊または溶解し易いフィルム状製剤に含有させて、嚥下困難者に経口投与することが可能となる。
【0015】
また、薬物成分が口腔内で溶出すると、口腔内の粘膜から薬物成分が吸収される可能性があり、薬物成分の種類によっては、胃や腸で吸収される場合に比べて薬効が早く現れ過ぎるという懸念があった。これに対し、本発明では、蒸着皮膜層によって薬物成分の口腔内での溶出が抑制されているため、口腔内の水分によってフィルム基体が崩壊または溶解しても、薬物成分が口腔内粘膜から吸収されて薬効が早く現れ過ぎるおそれを防止することができる。
【0016】
また、水に不溶または難溶な物質による皮膜層は、蒸着によって形成されたものであるため、微細な粉末母体においても成膜性の良いものとなっている。また、蒸着においては蒸着時間によって膜厚を容易に制御することができるため、蒸着皮膜層は上記の作用効果を得るために必要充分な程度の薄膜とすることが可能である。例えば、蒸着皮膜層の膜厚は0.5〜5μmとすることができる。
【0017】
加えて、金、銀、白金等の金属や酸化アルミニウム、酸化チタン等の金属酸化物は耐光性に優れるため、これらの物質で蒸着皮膜層を形成した場合は、薬物成分の光による変質が抑制された製剤とすることができる。これにより、例えば、メコバラミンなど、光に対して不安定な薬物成分を製剤に安定的に含有させることができる。
【0018】
また、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーEは胃溶性であるため、これらの物質で蒸着皮膜層を形成した場合は、フィルム状製剤自体は口腔内で速やかに崩壊または溶解しても、薬物成分を胃から吸収させる製剤とすることができる。一方、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートは腸溶性であるため、これらの物質で蒸着皮膜層を形成した場合は、フィルム状製剤自体は口腔内で速やかに崩壊または溶解しても、薬物成分を腸から吸収させる製剤とすることができる。
【0019】
ところで、薬物成分の味、匂い、刺激の知覚を抑制するために、フィルム状製剤を複数のフィルムの積層構造とし、薬物成分を含有する層を、薬物成分の味、匂い、刺激を感じにくくするためのマスキング層で被覆することも想定し得る。しかしながら、その場合は、マスキング層を設ける分だけ製剤全体が厚くなるため、服用のし易さを考慮すると、薬物成分を含有する層の厚さが制限される。そのため、一枚のフィルム状製剤中の薬物成分の含有量が少ないものとなり、一回量として服用すべきフィルム状製剤の枚数が多くなってしまう。これに対し、本発明では、薬物成分を含有する粉末母体が蒸着皮膜層で被覆されていることにより、粉末の単位で薬物成分の味や匂い等がマスキングされている。従って、上記のようにフィルム状のマスキング層を積層する必要がなく、薬物を含有する層のみでフィルム状製剤を構成させることができるため、フィルム一枚中の薬物成分の含有量を高めることが可能となる。これにより、一回量の薬物成分を摂取するために、服用すべきフィルム状製剤の枚数を少なくすることができる。或いは、フィルム状製剤のサイズ(厚さ、縦横の長さ)を小さくしても、充分な量の薬物成分を摂取することができ、フィルム状製剤が口腔内で嵩張らずより服用し易いものとなる。
【0020】
次に、本発明にかかるフィルム状製剤の製造方法は、「経口投与用の薬物成分を含有する粉末母体の表面に、金、銀、白金、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートから選ばれる少なくとも一種を蒸着し、蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤とする蒸着工程と、前記粉末状製剤が可食性の水溶性フィルム形成剤の水溶液に懸濁された懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、前記懸濁液を基面上に流延し、乾燥させてフィルム化することにより、フィルム状製剤とするフィルム化工程とを」具備するものである。
【0021】
上記の構成により、本発明は、水に不溶または難溶の蒸着皮膜層が粉末母体の表面に形成された粉末状製剤を製造し、その粉末状製剤が更に水溶性のフィルム基体に含有されているフィルム状製剤を製造する方法として適しており、上記の優れた作用効果を奏するフィルム状製剤を製造することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上のように、本発明の効果として、薬物成分の味、匂い、刺激の知覚が抑制されているフィルム状製剤、及び、該フィルム状製剤の製造に適した製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の最良の一実施形態であるフィルム状製剤、及び、該フィルム状製剤の製造方法について、図1乃至図3を用いて説明する。ここで、図1(a)は本実施形態のフィルム状製剤の構成を模式的に示す断面図であり、図1(b)は図1(a)におけるA範囲の拡大図であり、図2は図1のフィルム状製剤に含有される粉末状製剤の構成を模式的に示す断面図であり、図3は図1のフィルム状製剤の製造方法を示す工程図である。
【0024】
本実施形態のフィルム状製剤1は、図1(a)に示すように、可食性の水溶性フィルム形成剤を主原料としてフィルム状に形成されたフィルム基体2と、フィルム基体2に含有された粉末状製剤10とを具備している。ここで、粉末状製剤10は、図1(b)及び、図2に示すように、薬物成分を含有する粉末母体11と、粉末母体11の表面に蒸着により形成された蒸着皮膜層12とを具備している。
【0025】
なお、図1(b)は模式的な図示のため、粉末状製剤10がフィルム基体2中に単分散している図示であるが、実際には複数の粒子が凝集しつつ分散している場合もある。
【0026】
本実施形態のフィルム状製剤1の製造方法は、図3に示すように、薬物成分を含有する粉末母体の表面に蒸着皮膜層を形成し粉末状製剤とする蒸着工程S1と、粉末状製剤が可食性の水溶性フィルム形成剤の水溶液に懸濁された懸濁液を調製する懸濁液調製工程S2と、懸濁液を基面上に流延する流延工程S3及び流延された懸濁液を乾燥させる乾燥工程S4からなり、懸濁液をフィルム化してフィルム状製剤とするフィルム化工程と、フィルム状製剤を基面から剥離する剥離工程S5とを具備している。
【0027】
より詳細に説明すると、本実施形態では、蒸着工程S1をスパッタリングによって行っている。スパッタリングには、例えば、回転バレル式のスパッタリング装置(図示しない)を使用することができる。
【0028】
また、スパッタリング装置では、回転バレルの内周面に沿って粉末母体を流動させる流動路が形成されている。従って、薬物成分を含有する粉末母体をこの流動路内に収容し、回転バレルを支持するローラを回転させることにより、回転バレルの回転に伴って粉末母体が流動路内を流動し、流動層を形成する。そして、スパッタリング源と流動路間に高電圧をかけ、回転バレル内を減圧してアルゴンガスを導入すると、発生したプラズマの衝突によりスパッタリング源からたたき出された原子が流動路に達し、粉末母体の表面に蒸着皮膜層が形成される。このとき、流動路では粉末母体の流動層が形成されているため、蒸着皮膜層の形成むらが低減される。なお、蒸着皮膜層は、0.5〜5μmの厚さに形成することができる。
【0029】
ここで、フィルム状製剤の厚さを約100μmとし、上記の厚さの蒸着皮膜層を形成する場合、粉末母体の粒子径を70μm以下、望ましくは45μm以下とすれば、粉末状製剤の粒子径をフィルム状製剤の厚さの3/4以下、望ましくは1/2以下とすることができる。また、フィルム状製剤の厚さを約50μmとし、上記の厚さの蒸着皮膜層を形成する場合、粉末母体の粒子径は32μm以下、望ましくは20μm以下とすれば、粉末状製剤の粒子径をフィルム状製剤の厚さの3/4以下、望ましくは1/2以下とすることができる。なお、粉末母体の粒子径が小さ過ぎる場合は、蒸着工程S1等における取扱いがしにくくなるため、粉末母体の粒子径は5μm以上であることが望ましい。
【0030】
懸濁液調製工程S2では、可食性の水溶性フィルム形成剤の水溶液、及び崩壊剤や可塑剤等の添加剤を水または有機溶媒に溶解または分散させた液、及び、蒸着工程S1で蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤を混合し、粉末状製剤が充分に分散した懸濁液を調製する。本工程では、必要に応じて加熱処理や脱泡処理を適宜行うことができる。
【0031】
流延工程S3では、平滑な平面にベースフィルム(PP、PET製)が固定された基面上に、調製された懸濁液を均一にコーティングする。なお、フィルムの厚さは、懸濁液の濃度、粘度、コーティング速度に依存するため、所望の厚さとなるように適宜調整を行う。乾燥工程4では、ベースフィルム上にコーティングされた懸濁液を、所定温度に保持された温風乾燥機中で乾燥させる。
【0032】
そして、剥離工程S5においてベースフィルムを剥離すれば、蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤を含有するフィルム状製剤を得ることができる。
【0033】
上記のように本実施形態のフィルム状製剤によれば、可食性の水溶性フィルム形成剤を主原料とするフィルム基体は、口腔内で崩壊または溶解し易いのに対し、フィルム基体に含有される粉末状製剤は、水に難溶な金属による蒸着皮膜層が形成されている。これにより、粉末状製剤に含有される薬物成分は口腔内での溶出が抑制され、口腔内の水分によってフィルム基体が崩壊または溶解しても、薬物成分の味、匂い、刺激を口腔内で感じにくいものとできると共に、薬物成分が口腔内粘膜から吸収されて薬効が早く現れ過ぎるおそれを防止することができる。
【0034】
加えて、薄い蒸着皮膜層により、薬物成分の味や匂い等が粉末単位でマスキングされているため、フィルム状製剤を複数のフィルムの積層構造としてマスキング層を設ける場合に比べて、フィルム一枚中の薬物成分の含有量を高めることができる。
【0035】
また、本実施形態では回転バレルを用いたスパッタリングによって蒸着皮膜層が形成されているため、薄くむらの少ない蒸着皮膜層が形成される。これにより、蒸着皮膜層が厚く形成される場合に比べて、粉末状製剤一個の体積が小さくなり、フィルム状製剤に多くの粉末状製剤を含有させることが可能となる。すなわち、フィルム状製剤のサイズを小さくし、或いは、一回に服用する枚数を減らしても、一回量として必要な薬物成分を摂取し易いものとなる。
【実施例】
【0036】
アセトアミノフェンの粉末を粉砕して得た粉末母体に、回転バレル式のスパッタリング装置を用いて下記の条件で銀のスパッタリングを行い、銀の蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤を得た。
真空度:0.8Pa
出力:0.5kW
スパッタリング時間:520秒
【0037】
得られた粉末状製剤は、そのまま服用した場合に、アセトアミノフェン特有の苦味を口腔内でほとんど感じないものであった。また、この粉末状製剤を用いて、以下のようにフィルム状製剤を製造した。
【0038】
まず、上記の粉末状製剤、水溶性フィルム形成剤としてのHPMCの水溶液、崩壊剤としての結晶セルロース、及びその他の成分を水または有機溶媒に溶解または分散させた液と、剪断摩砕されたL−HPC(低置換度ヒドロキシプロピルセルロース)の5重量%水分散液とを、下記の処方となるように混合し、脱泡して、懸濁液を調製した。次に、平滑な平面に固定されたベースフィルム(PP、PET製)上に、調製された懸濁液を均一にコーティングし、温風乾燥してフィルム化した後、ベースフィルムから剥離した。得られたフィルム状製剤の厚さは約50μmであった。
粉末状製剤:10質量%
HPMC:8.5質量%
結晶セルロース:63.2質量%
L−HPC:3.0質量%
その他:15.3質量%
【0039】
なお、上記の処方における各成分の割合は、フィルム状製剤の全重量に対する重量%であり、固形分としての数値である。また、HPMCとしては、信越化学工業製のメトローズ(商品名)60SH−50を、結晶セルロースとしては、旭化成製のセラオス(商品名)を、L−HPCとしては、モル置換度0.3のL−HPC(信越化学工業製LH−21)を使用した。
【0040】
フィルム状製剤を約2cm×約3cmのサイズに切断し、数名の被験者に服用してもらったところ、被験者の全員から、フィルム状製剤は口腔内で速やかに溶解したが苦味はほとんど感じなかった、という回答が得られた。
【0041】
以上、本発明について好適な実施形態を挙げて説明したが、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、以下に示すように、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、種々の改良及び設計の変更が可能である。
【0042】
例えば、上記の実施形態では、蒸着皮膜層を金属で構成させる場合を例示したがこれに限定されない。例えば、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテートやアミノアルキルメタアクリレートコポリマーE等の胃溶性の有機化合物、或いは、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネー等の腸溶性の有機化合物で蒸着皮膜層を構成させることもできる。このような蒸着皮膜層を備える粉末状製剤をフィルム状製剤に含有させた場合は、水溶性フィルム形成剤で形成されたフィルム基体が口腔内で速やかに崩壊または溶解しても、薬物成分は胃または腸から吸収させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】(a)本実施形態のフィルム状製剤の構成を模式的に示す断面図であり、(b)A範囲の拡大図である。
【図2】図1のフィルム状製剤に含有される粉末状製剤の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】図1のフィルム状製剤の製造方法を示す工程図である。
【符号の説明】
【0044】
1 フィルム状製剤
2 フィルム基体
10 粉末状製剤
11 粉末母体
12 蒸着皮膜層
S1 蒸着工程
S2 懸濁液調製工程
S3 流延工程(フィルム化工程)
S4 乾燥工程(フィルム化工程)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
経口投与用の薬物成分を含有する粉末母体の表面に、金、銀、白金、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートから選ばれる少なくとも一種が蒸着された蒸着皮膜層を備える粉末状製剤が、可食性の水溶性フィルム形成剤によりフィルム状に形成されたフィルム基体に含有されていることを特徴とするフィルム状製剤。
【請求項2】
経口投与用の薬物成分を含有する粉末母体の表面に、金、銀、白金、アルミニウム、銅、チタン、マグネシウム、ケイ素、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化マグネシウム、セルロース、コラーゲン、ツェイン、セラック、寒天、高分子デンプン、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、アミノアルキルメタアクリレートコポリマーE、メタアクリル酸コポリマーL、メタアクリル酸コポリマーLD、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートサクシネートから選ばれる少なくとも一種を蒸着し、蒸着皮膜層が形成された粉末状製剤とする蒸着工程と、
前記粉末状製剤が可食性の水溶性フィルム形成剤の水溶液に懸濁された懸濁液を調製する懸濁液調製工程と、
前記懸濁液を基面上に流延し、乾燥させてフィルム化することにより、フィルム状製剤とするフィルム化工程と
を具備することを特徴とするフィルム状製剤の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−6780(P2010−6780A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−170683(P2008−170683)
【出願日】平成20年6月30日(2008.6.30)
【出願人】(591091043)株式会社ツキオカ (38)
【Fターム(参考)】