説明

フォトクロミック硬化性組成物

【課題】レンズを加工する工程においても傷を生じることのない十分な硬さを有するコーティング層が得られ、かつ、発色濃度が高く、退色速度が速く、繰り返し耐久性も高いといった優れたフォトクロミック特性を有するフォトクロミック眼鏡レンズが得られるフォトクロミック硬化性組成物を提供する。
【解決手段】(I)分子内に、ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、ラジカル重合性基とを有する重合性単量体、並びに(II)フォトクロミック化合物を含んでなるフォトクロミック硬化性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フォトクロミック性を有する光学物品を製造する際に有用な新規な硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フォトクロミック眼鏡は、太陽光のような紫外線を含む光が照射される屋外ではレンズが速やかに着色してサングラスとして機能し、そのような光の照射がない屋内においては退色して透明な通常の眼鏡として機能する眼鏡であり、近年その需要は増大している。
【0003】
フォトクロミックレンズに関しては、軽量性や安全性の観点から特にプラスチック製のものが好まれている。このようなプラスチックレンズへのフォトクロミック性の付与は、一般に有機系のフォトクロミック化合物と複合化することにより行なわれている。複合化方法としては、フォトクロミック性を有しないレンズの表面にフォトクロミック化合物を含浸させる方法(以下、含浸法という)、あるいは重合性単量体にフォトクロミック化合物を溶解させて、それを重合させることにより、直接、フォトクロミックレンズを得る方法(以下、練り込み法という)が知られている。
【0004】
また、これらの方法の他に、フォトクロミック化合物を含むコーティング剤(以下、フォトクロミックコーティング剤ともいう)を用いてプラスチックレンズの表面にフォトクロミック性を有するコート層(以下、フォトクロミックコート層ともいう)を設ける方法(以下、コーティング法という)も知られている。
【0005】
一般に、良好なフォトクロミック特性を得るためには、レンズ基材中あるいはコート層において、フォトクロミック化合物のコンフォメーション変化がスムーズに起こるよう、レンズ基材あるいはコート層を柔らかくする必要がある。特に、フォトクロミック化合物として優れた性能を発揮するインデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有する化合物を使用した場合、その傾向が顕著である。そのため、フォトクロミック特性を有さないプラスチックレンズと比較すると、所望する度数を得るためにレンズ裏面を研磨する工程や、フレームの型に合わせて外周部の縁取りを行う工程などのレンズを加工する工程において、フォトクロミックレンズは、レンズ基材あるいはコート層に傷を生じやすいという問題があった。
【0006】
上記の問題を解決するために、シルセスキオキサン化合物を使用してレンズの硬度を高める技術が知られている。例えば、ラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物、ウレタン(メタ)アクリレートに代表されるポリウレタンプレポリマー、及びフォトクロミック化合物を混合した組成物を重合硬化してフォトクロミックレンズを製造する方法(特許文献1参照)が知られている。
【0007】
しかしながら、本発明者らの検討によれば、その配合するモノマーの種類、割合等によるものと考えられるが、ポリウレタンプレポリマーとラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物とから得られる硬化体は、傷を防止しうる硬さと、高いフォトクロミック性を同時に発揮できるレベルに至っていないものがあった。さらに、これもその配合するモノマーの種類、割合等によるものと考えられるが、ポリウレタンプレポリマーとラジカル重合性基を有するシルセスキオキサン化合物とは、相溶しないものが多く、目視において両者が相溶したように見える組成物であっても、該組成物を重合硬化した硬化体は白濁するものがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国公開2010/0249264号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、レンズ裏面を研磨する工程や、フレームの型に合わせて外周部の縁取りを行う工程など、レンズを加工する工程において傷の発生を防止しうる十分な硬さを有し、かつ、発色濃度が高く、退色速度が速く、繰り返し耐久性も高いといった優れたフォトクロミック特性を有する硬化体を形成できるフォトクロミック硬化性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、この問題に関して鋭意検討を行った。その結果、分子内に、(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格、(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基、並びに(I−3)ラジカル重合性基を有する(I)シルセスキオキサン誘導体と、フォトクロミック化合物とを含むフォトクロミック硬化性組成物を硬化することにより得られる硬化体が、傷を防止しうる高い硬度を示すだけでなく、高いフォトクロミック特性も発現できることを見出した。さらに、前記の(I)シルセスキオキサン誘導体は、それ自体からなる硬化体の白濁の問題がないのはもちろん、その他のラジカル重合性単量体との相溶性がよく、混合物とした場合も硬化体の白濁が低減されることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、第一の本発明は、
分子内に、
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、
(I−3)ラジカル重合性基
とを有する(I)シルセスキオキサン誘導体、並びに
(II)フォトクロミック化合物
を含んでなるフォトクロミック硬化性組成物である。
【0012】
また、前記(I−3)ラジカル重合性基は、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基のいずれかであることが好ましい。
【0013】
さらに、前記(II)フォトクロミック化合物は、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有する化合物を含むことが好ましい。
【0014】
第二の本発明は、前記フォトクロミック硬化性組成物を含むコーティング剤である。
【0015】
第三の本発明は、光学基材の少なくとも一つの面上に、前記コーティング剤を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有する光学材料である。
【0016】
第四の本発明は、前記フォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体である。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、分子内に、(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格、(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、並びに(I−3)ラジカル重合性基とを有する(I)シルセスキオキサン誘導体と、(II)フォトクロミック化合物を含むフォトクロミック硬化性組成物である。この組成物から得られる硬化体は、高い硬度を有し、発色濃度が高く、退色速度が速く、繰り返し耐久性も高いといった優れたフォトクロミック特性を発揮する。そのため、該硬化性組成物をコーティング剤に使用してコート型フォトクロミックレンズを製造した場合、及び該硬化性組成物を用いて練り込み型フォトクロミックレンズを製造した場合のいずれにおいても、高い硬度を有するフォトクロミックレンズを得ることができ、レンズ加工工程において傷を生じにくくすることができる。
【0018】
分子内に、(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、(I―3)ラジカル重合性基を有する(I)シルセスキオキサン誘導体は、硬化(重合)することにより、シルセスキオキサン骨格と、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基が形成する水素結合部位とが適切な位置関係に存在する硬化体を与える。それにより、高い硬度を得ることができると同時に、フォトクロミック化合物のコンフォメーション変化がスムーズに起こる“自由空間”が構築されるため、高い発色濃度、速い退色速度などの優れたフォトクロミック特性も発揮できるものと考えられる。
【0019】
本発明によれば、従来の方法ではその両立が困難であった、より高い硬度を有し、かつ優れたフォトクロミック特性を有する硬化体を提供することができる。さらに、得られる硬化体が白濁を生じることもない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明は、分子内に、
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、
(I−3)ラジカル重合性基
とを有する(I)シルセスキオキサン誘導体、並びに
(II)フォトクロミック化合物
を含んでなるフォトクロミック硬化性組成物である。各成分について説明する。
【0021】
<(I)シルセスキオキサン誘導体:成分(I)>
まず、本発明に用いる(I)シルセスキオキサン誘導体(以下、成分(I)とする場合もある)について説明する。
【0022】
この成分(I)は、分子内に、
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、
(I−3)ラジカル重合性基
とを有する化合物である。これらの構造、基について説明する。
【0023】
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格
本発明において、成分(I)におけるケージ状構造のシルセスキオキサン骨格は、下記式(1)−A、(1)−B、(1)−C
【0024】
【化1】

【0025】
のいずれかで示される構造を有する。本発明で使用する(I)シルセスキオキサン誘導体は、上記式で示される骨格を単独でも、2種類以上含むことができる。
【0026】
なお、原料であるシルセスキオキサン化合物の入手が容易であり、また特に高い硬度を有する硬化体が得られるという観点から、(1)−Aの構造を有するものが特に好ましい。
【0027】
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基
成分(I)における結合基であるウレタン結合、及びチオウレタン結合は、下記式(2)
【0028】
【化2】

【0029】
で示される構造を有する。ここで、X及びYは酸素原子、もしくは硫黄原子を表す。
【0030】
また、成分(I)における結合基であるウレア結合は、下記式(3)
【0031】
【化3】

【0032】
で示される構造を有する。
【0033】
(I−3)ラジカル重合性基
成分(I)におけるラジカル重合性基は、特に制限されるものではなく、公知の基が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基のいずれかであることが好ましい。
【0034】
本発明で使用する(I)シルセスキオキサン誘導体は、前記
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、
(I−3)ラジカル重合性基
とを分子内に有する化合物であれば、上記骨格、結合基、ラジカル重合性基の数は、特に制限されるものではない。また、その製造方法も、特に制限されるものではないが、以下の方法で製造することが好ましい。
【0035】
(I)シルセスキオキサン誘導体の製造方法
本発明における成分(I)の製造方法については特に制限されないが、例えば以下に示す4通りの方法のいずれかにより得ることができる。
【0036】
(第一の方法)
第一の方法は、
(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物
(A2)ジイソシアネート化合物
(A3)活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体
を必須成分として、各成分を反応させることにより製造する方法である。
【0037】
ここで、活性水素基は、水酸基、メルカプト基、アミノ基のいずれかであることが好ましい。また、ラジカル重合性基は、成分(I)で説明した通り、(メタ)アクリル基、ビニル基、アリル基のいずれかであることが好ましい。
【0038】
(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物(成分(A1))
本発明で(A1)として使用される活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物は、下記式(4)−A、(4)−B、(4)−Cのいずれか、もしくはそれらの混合物で示される化合物であることが好ましい。
【0039】
【化4】

【0040】
ここで、Rは、少なくとも1つが活性水素基を有する基であり、残りは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、フェニル基、ハロゲンで置換されたフェニル基から選ばれる基である。Rは、少なくとも1つが活性水素基を有する基であれば、残りの基は、互いに同一の基であっても、異なる基であってもよい。
【0041】
炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。
【0042】
炭素数3〜8のシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロオクチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0043】
炭素数1〜6のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等が挙げられる。
【0044】
炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基としては、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、クロロメチル基、2−クロロエチル基、ブロモメチル基等が挙げられる。
【0045】
ハロゲンで置換されたフェニル基としては、4−クロロフェニル基、4−ブロモフェニル基等が挙げられる。
【0046】
これらのうち、原料の入手が容易であり、かつ高い硬度の硬化体が得られるという観点から、炭素数1〜4のアルキル基、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基であるものが特に好ましい。
【0047】
活性水素基を有する基としては、水酸基、メルカプト基、アミノ基を有する基が挙げられる。
【0048】
このうち、水酸基を有する基としては、例えば、水酸基を1〜4個有し、炭素数が1〜30個である基が好ましい。また、さらに1〜4個のシロキサン結合が含まれる基も好ましい。好適な水酸基を有する基としては、(3−(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブトキシ)プロピル)ジメチルシロキシ基、1−(2−(シクロヘキシル−3,4−ジオール))エチル基、1−(3−(2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシ)プロピル基、3−ヒドロキシ−3−メチルブチルジメチルシロキシ基等が挙げられる。
【0049】
メルカプト基を有する基としては、例えば、メルカプト基を1〜4個有し、炭素数が1〜30個である基が好ましい。また、さらに1〜4個のシロキサン結合が含まれる基も好ましい。好適なメルカプト基を有する基としては、1−(3−メルカプト)プロピル基等が挙げられる。
【0050】
アミノ基を有する基としては、例えば、アミノ基を1〜4個有し、炭素数が1〜30個である基が好ましい。また、さらに1〜4個のシロキサン結合が含まれる基も好ましい。
【0051】
好適なアミノ基を有する基としては、アミノプロピル基、アミノエチルアミノプロピル基、1−(4−アミノフェニル)基、N−メチルアミノプロピル基、1−(3−アミノフェニル)基等が挙げられる。
【0052】
中でも、好適な(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物は、(4)−Aで示される骨格(8つのSiを有する)を有し、Rの全てが活性水素基を有する基であるもの、又は、(4)−Aで示される骨格を有し、Rの1つが活性水素基を有する基であって、他の7つが 炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜8のシクロアルキル基であるものが挙げられる。特に、好適な化合物としては、(4)−Aで示される骨格を有し、Rの1つが活性水素基を有する基であって、他の7つが 炭素数1〜6のアルキル基、又は炭素数3〜8のシクロアルキル基であるものが挙げられる
具体的には、活性水素基として水酸基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物としては、
「TMPジオールイソブチル POSS(登録商標)」(Hybrid Plastics社製、AL0104;8つのSiを有し、Rの1つが(3−(2,2−ビス(ヒドロキシメチル)ブトキシ)プロピル)ジメチルシロキシ基で、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「トランス−シクロヘキサンジオールイソブチル POSS(登録商標)」(同社製、AL0125;8つのSiを有し、Rの1つが1−(2−(シクロヘキシル−3,4−ジオール))エチル基で、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「1,2−プロパンジオールイソブチル POSS(登録商標)」(同社製、AL0130;Rの1つが1−(3−(2,3−ジヒドロキシプロピル)オキシ)プロピル基、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「オクタ(3−ヒドロキシ−3−メチルブチルジメチルシロキシ) POSS(登録商標)」(同社製、AL0136;8つのSiを有し、8つのRが3−ヒドロキシ−3−メチルブチルジメチルシロキシ基であるもの)等が挙げられる。
【0053】
また、活性水素基としてメルカプト基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物としては、
「メルカプトプロピルイソブチル POSS(登録商標)」(Hybrid Plastics社製、TH1550;8つのSiを有し、Rの1つが1−(3−メルカプト)プロピル基で、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「メルカプトプロピルイソオクチル POSS(登録商標)」(同社製、TH1555;8つのSiを有し、Rの1つが1−(3−メルカプトプロピル)基で、他の7つがイソオクチル基であるもの)等が挙げられる。
【0054】
さらに、活性水素基としてアミノ基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物としては、
「アミノプロピルイソブチル POSS(登録商標)」(Hybrid Plastics社製、AM0265;8つのSiを有し、Rの1つがアミノプロピル基で、他の7つがイソプロピル基であるもの)、
「アミノプロピルイソオクチル POSS(登録商標)」(同社製、AM0270;8つのSiを有し、Rの1つがアミノプロピル基で、他の7つがイソオクチル基であるもの)、
「アミノエチルアミノプロピルイソブチル POSS(登録商標)」(同社製、AM0275;8つのSiを有し、Rの1つがアミノエチルアミノプロピル基で、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「オクタアミノフェニル POSS(登録商標)」(同社製、AM0280;8つのSiを有し、8つのRが1−(4−アミノフェニル)基であるもの)、
「N−メチルアミノプロピルイソブチル POSS(登録商標)」(同社製、AM0282;8つのSiを有し、Rの1つがN−メチルアミノプロピル基で、他の7つがイソブチル基であるもの)、
「p−アミノフェニルシクロヘキシル POSS(登録商標)」(同社製、AM0290;8つのSiを有し、Rの1つが1−(4−アミノフェニル)基で、他の7つがシクロヘキシル基であるもの)、
「m−アミノフェニルシクロヘキシル POSS(登録商標)」(同社製、AM0291;8つのSiを有し、Rの1つが1−(3−アミノフェニル)基で、他の7つがシクロヘキシル基であるもの)等が挙げられる。
【0055】
これらの活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0056】
(A2)ジイソシアネート化合物(成分(A2))
次に、本発明で(A2)として使用されるジイソシアネート化合物は、下記式(5)
【0057】
【化5】

【0058】
で示される化合物であることが好ましい。ここで、Rは、脂肪族、脂環式、芳香族の2価の有機基を表す。これらの中でも、耐候性の観点からRが脂肪族のもの及び/又は脂環式のものを使用することが好ましい。特に、炭素数6〜15の脂肪族のもの及び/又は脂環式のものを使用することが好ましい。
【0059】
成分(A2)として好適に使用できるジイソシアネート化合物を例示すると、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネート、フェニルシクロヘキシルメタンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(フェニルイソシアネート)の異性体混合物、トルエン−2,4−ジイソシアネート、トルエン−2,6−ジイソシアネート、フェニレン−1,3−ジイソシアネート、フェニレン−1,4−ジイソシアネートなどを挙げることができる。
【0060】
これらの中でも、得られるポリウレタン−ウレア樹脂の耐候性の観点から、テトラメチレン−1,4−ジイソシアネート、ヘキサメチレン−1,6−ジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサン−1,6−ジイソシアネート、シクロブタン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,3−ジイソシアネート、シクロヘキサン−1,4−ジイソシアネート、2,4−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、2,6−メチルシクロヘキシルジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、4,4’−メチレンビス(シクロヘキシルイソシアネート)の異性体混合物、ヘキサヒドロトルエン−2,4−ジイソシアネート、ヘキサヒドロトルエン−2,6−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,3−ジイソシアネート、ヘキサヒドロフェニレン−1,4−ジイソシアネートを使用することが好ましい。これらのジイソシアネート化合物は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0061】
(A3)活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体(成分(A3))
次に、本発明で(A3)として使用される活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体は、下記式(6)
【0062】
【化6】

【0063】
で示される化合物であることが好ましい。
【0064】
ここで、Rは、脂肪族、脂環式、もしくは芳香族のいずれかである2価の有機基である。中でも、炭素数2〜20の脂肪族の2価の有機基が好ましい。
【0065】
ZHは、水酸基、メルカプト基、及びアミノ基から選ばれる活性水素基である。これらのうち、中でも、原料の入手が容易であるという観点から、水酸基が好ましい。
【0066】
Qは、(メタ)アクリル基、アリル基、及びビニル基から選ばれるラジカル重合性基である。中でも、入手が容易であり、さらに重合硬化が比較的容易であるという観点から、(メタ)アクリル基を有する重合性単量体が好ましい。また、sは1〜3の整数であることが好ましい。中でも、sは1であることが好ましい。
【0067】
成分(A3)として好適に使用できる活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体を例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンカプロラクトネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンジカプロラクトネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルハイドロジェンポリカプロラクトネート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル−2−ヒドロキシ−6−ヘキサノラクトネート、2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、アリルアルコール、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、2−ヒドロキシエチルアリルエーテル、4−ヒドロキシブチルアリルエーテル、ジエチレングリコールモノアリルエーテル、グリセリンジアリルエーテル、トリメチロールプロパンジアリルエーテル、ジグリセロールトリアリルエーテル等が挙げられる。
【0068】
特に好適な活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体を例示すると、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、テトラプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ノナプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0069】
これらの活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体は、単独で使用してもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0070】
(第一の方法:製造条件)
上記の成分(A1)、成分(A2)、成分(A3)より成分(I)を得る方法としては、まず成分(A1)と成分(A2)を反応させることによりイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、成分(A3)を反応させる方法が一般的である。
【0071】
上記方法において、成分(A1)と成分(A2)との反応、すなわち、活性水素基を有するシルセスキオキサン化合物とジイソシアネート化合物の反応は、溶媒の存在下又は非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。この時、成分(A1)1モルに対し、成分(A2)を、成分(A1)1分子中の活性水素基の数と同一のモル数となるように仕込む。溶媒としては、メチルエチルケトン、トルエン、ヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、テトラヒドロフラン(THF)などの有機溶媒が使用できる。反応に際しては、ジイソシアネート化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を添加してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、成分(A1)と成分(A2)の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0072】
このようにして得られたプレポリマーと成分(A3)との反応、すなわち、イソシアネート基を有する化合物と、活性水素基及びラジカル重合性基を有する重合性単量体との反応は、溶媒の存在下又は非存在下で両者を窒素あるいはアルゴンなどの不活性ガス雰囲気下中、25〜120℃で0.5〜24時間反応させればよい。この時、プレポリマー1モルに対し、成分(A3)を、プレポリマー1分子中のイソシアネート基の数と同一のモル数となるように仕込む。溶媒としては、前記と同様のものを使用することができる。反応に際しては、イソシアネート基を有する化合物中のイソシアネート基と不純物としての水との反応を避けるため、各種反応試剤及び溶媒は、予め脱水処理を行い、十分に乾燥しておくことが好ましい。また、上記反応を行う際には、ジラウリル酸ジブチルスズ、ジメチルイミダゾール、トリエチレンジアミン、テトラメチル−1,6−ヘキサジアミン、テトラメチル−1,2−エタンジアミン、1,4−ジアザビシクロ[2,2,2]オクタンなどの触媒を添加してもよい。触媒を使用する際の添加量としては、成分(A1)と成分(A2)の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。さらに、上記反応を行う際は、BHT、メトキノンなどの重合禁止剤を添加してもよい。重合禁止剤を使用する際の添加量としては、成分(A1)、成分(A2)、成分(A3)の合計100質量部に対して0.001〜1質量部であることが好ましい。
【0073】
また、第一の方法においては、上記の通り、成分(A1)、(A2)、及び(A3)とを反応させればよいが、この反応時に(A6)活性水素基を2個有する化合物を配合することもできる。
【0074】
成分(I)を製造する際の任意成分:(A6)活性水素基を2個有する化合物(成分(A6))
また、任意成分として、(A6)活性水素基を2個有する化合物を用いることもできる。本発明で、(A6)活性水素基を2個有する化合物は、具体的には、ジオール化合物、ジチオール化合物、ジアミン化合物、もしくは、水酸基、メルカプト基、アミノ基のうち2種類以上の基を有する化合物を表す。
【0075】
中でも、下記式(7)
【0076】
【化7】

【0077】
で示される化合物であることが好ましい。
【0078】
ここで、ZHは、水酸基、メルカプト基、アミノ基のいずれかを表し、互いに同じであっても異なっていても良い。
【0079】
は、脂肪族、脂環式、もしくは芳香族のいずれかである2価の有機基である。中でも、炭素数2〜20の脂肪族の2価の有機基が好ましい。
【0080】
この成分(A6)を使用する場合には、成分(A1)と成分(A2)を反応させることによりイソシアネート基を有するプレポリマーを得、さらに成分(A6)と反応させることによりイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、成分(A3)を反応させることができる。
【0081】
また、成分(A2)と、成分(A6)を反応させることによりイソシアネート基を有するプレポリマーを得、さらに成分(A1)と反応させることによりイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、成分(A3)と反応させることもできる。
【0082】
これらの反応は何れも前記した方法と同様に反応することにより得ることができる。
【0083】
前記成分(A6)のうち、ジオール化合物は、分子内に水酸基を2個有する化合物である。ジオール化合物としては、入手が容易であるという観点から、ポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンジオール、及びポリエステルジオールより選ばれる少なくとも1種のジオール化合物を使用することが好ましい。
【0084】
また、前述のポリエーテルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリカプロラクトンジオール、ポリエステルジオールなどのジオール化合物は、単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても構わない。以下、成分(A6)として使用される各種化合物について詳しく説明する。
【0085】
ポリエーテルジオールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオールなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。ポリエーテルポリオールにおいては、得られる硬化体の硬度の確保、及びフォトクロミック特性(発色濃度、退色速度、耐候性など)の観点から、分子量は、60〜2000、特に60〜1500であることが好ましく、60〜1000であることが最も好ましい。
【0086】
ポリカーボネートジオールとしては、ポリオールのホスゲン化より得られるポリカーボネートポリオール、或いはジフェニルカーボネートによるエステル交換法により得られるポリカーボネートポリオール等を挙げることができる。ポリカーボネートジオールにおいては、ポリエーテルジオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は、500〜2000、特に500〜1500であることが好ましく、500〜1000であることが最も好ましい。
【0087】
ポリカプロラクトンジオールとしては、ε−カプロラクトンの開環重合により得られる化合物が使用できる。ポリカプロラクトンジオールにおいては、ポリエーテルジオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は、100〜2000、特に100〜1500であることが好ましく、100〜1000であることが最も好ましい。
【0088】
ポリエステルジオールとしては、“多価アルコール”と“多塩基酸”との縮合反応により得られるポリエステルジオールなどを挙げることができる。ここで、前記“多価アルコール”としては、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、3,3’−ジメチロールヘプタン、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、3,3−ビス(ヒドロキシメチル)ヘプタン、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコールなどが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。また、前記“多塩基酸”としては、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、シクロペンタンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸などが挙げられ、これらは単独で使用しても、2種類以上を混合して使用しても構わない。A6成分としてのポリエステルジオールにおいては、ポリエーテルポリオールにおける場合と同様な理由から、数平均分子量は、200〜2000、特に200〜1500であることが好ましく、200〜1000であることが最も好ましい。
【0089】
また、前記成分(A6)のうち、ジチオール化合物は、分子内にメルカプト基を2個有する化合物である。ポリチオール化合物として好適に使用される化合物を例示すれば、エタンジチオール、シクロヘキサンジチオール等が挙げられる。
【0090】
さらに、前記成分(A6)のうち、ジアミン化合物は、分子内にアミノ基を2個有する化合物である。ジアミン化合物として好適に使用される化合物を例示すれば、イソホロンジアミン、エチレンジアミン、1,2−ジアミノプロパン、1,3−ジアミノプロパン、1,2−ジアミノブタン、1,3−ジアミノブタン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、ピペラジン、N,N−ビス−(2−アミノエチル)ピペラジン、ビス−(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス−(4−アミノ−3−ブチルシクロヘキシル)メタン、1,2−、1,3−及び1,4−ジアミノシクロヘキサン、ノルボルネンジアミン、ヒドラジン、アジピン酸ジヒドラジン、フェニレンジアミン、4,4’−ジフェニルメタンジアミン、N,N’−ジエチルエチレンジアミン、N,N’−ジメチルエチレンジアミン、N,N’−ジプロピルエチレンジアミン、N,N’−ジブチルエチレンジアミン等が挙げられる。
【0091】
さらに、前記(A6)のうち、水酸基、メルカプト基、アミノ基のうち2種類以上の基を有する化合物としては、2−アミノエタノール、3−アミノプロパノール、4−アミノブタノール、5−アミノペンタノール、6−アミノヘキサノール、1−アミノチオール、2−アミノエタンチオール等が挙げられる。
【0092】
なお、成分(A6)は、成分(A3)と反応させるプレポリマー1分子中におけるイソシアネート基の数が、成分(A1)1分子中の活性水素基の数と同一になることを前提として、成分(A1)1モルに対して、1〜20モル、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1〜5モル仕込むことができる。20モルを超えると、硬化体において十分な硬度を発現することができない。
【0093】
(第二の方法)
第二の方法は、
(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物
(A4)イソシアネート基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体
を必須成分として、各成分を反応することにより製造する方法である。
【0094】
ここで、成分(A1)については、第一の方法で説明したものと同じである。
【0095】
(A4)イソシアネート基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体(成分(A4))
成分(A4)として使用されるイソシアネート基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体は、下記式(8)
【0096】
【化8】

【0097】
で示される化合物であることが好ましい。又は、イソシアネート基と基Qが直接結合した(OCN−Q)で示される化合物であることが好ましい。
【0098】
ここで、Rは、脂肪族、脂環式、及び芳香族から選ばれる2価の有機基を示す。中でも、炭素数が2〜20の脂肪族の2価の有機基が好ましい。
【0099】
Qは、(メタ)アクリル基、アリル基、及びビニル基から選ばれるラジカル重合性基である。sは、1〜3の整数であり、特に1であることが好ましい。
【0100】
好適に使用できるイソシアネート基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体を例示すると、2−イソシアナトエチル(メタ)アクリレート、1,1−(ビス(メタ)アクリロイルオキシメチル)エチルシアネート、ビニルイソシアネート、プロペニル−α,α−ジメチルベンジルイソイネート、アリルイソシアネート等が挙げられる。
【0101】
上記の必須成分より成分(I)を得る方法としては、単に成分(A1)と成分(A4)を第一の方法で説明した方法により反応させる方法が一般的である。
【0102】
また、任意成分として、前記成分(A2)、成分(A6)を用いることもできる。この場合、この場合、末端に活性水素基を有するプレポリマーを得た後、最後に(A4)を反応させることができる。
【0103】
この時、成分(A1)1モルに対して、成分(A4)を、成分(A1)の活性水素基の数と同一のモル数になるように仕込む。
【0104】
また、成分(A2)及び成分(A6)は、成分(4)と反応させるプレポリマー1分子中の活性水素基の数が、成分(A1)1分子中の活性水素基の数と同一になることを前提として、成分(A1)1モルに対して、それぞれ1〜20モル、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1〜5モル仕込むことができる。20モルを超えると、硬化体において十分な硬度を発現することができない。
【0105】
(第三の方法)
第三の方法は、
(A5)イソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物
(A3)活性水素基、及びラジカル重合基を有する重合性単量体
を必須成分として、各成分を反応することにより製造する方法である。
【0106】
(A5)イソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物
本発明において(A5)として使用されるイソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物は、下記式(9)−A、(9)−B、(9)−Cのいずれかもしくはそれらの混合物で示される化合物である。
【0107】
【化9】

【0108】
ここで、Rは、少なくとも1つがイソシアネート基を有する基であり、残りは、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜8のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のハロゲン化アルキル基、フェニル基、ハロゲンで置換されたフェニル基から選ばれる基である。Rは、少なくとも1つがイソシアネート基を有する基であれば、残りの基は、互いに同一の基であっても、異なる基であってもよい。Rの具体例としては、前記式(4)においてRで説明したものと同様のものが挙げられ、好ましい基も同様である。
【0109】
イソシアネート基を有する基としては、例えばイソシアネート基を1〜4個有し、炭素数が1〜30個である基が好ましい。また、さらに1〜4個のシロキサン結合が含まれる基も好ましい。
【0110】
好適なイソシアネート基を有する基としては、イソシアナトプロピルジメチルシリロキシ基、イソシアナトプロピル基等が挙げられる。
【0111】
好適に使用できる前記式(11)で表わされる化合物を例示すると、「イソシアナトプロピルジメチルシリロキシシクロペンチルPOSS(登録商標)」(Aldrich社製、8つのSiを有し、Rの1つがイソシアナトプロピルジメチルシロキシ基で、他の7つがシクロペンチル基のもの)が挙げられる。
【0112】
また、成分(A3)については、第一の方法で説明したものと同じである。
【0113】
上記の必須成分より成分(I)を得る方法としては、単に成分(A5)と成分(A3)を第一の方法で説明した方法により反応させる方法が一般的である。
【0114】
また、任意成分として、前記成分(A2)、成分(A6)を用いることもできる。この場合、この場合、末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを得た後、最後に成分(A3)を反応させることができる。
【0115】
この時、成分(A5)1モルに対し、成分(A3)を、成分(A5)のイソシアネート基の数と同一のモル数となるように仕込む。
【0116】
また、成分(A2)、及び成分(A6)は、成分(A3)と反応させるプレポリマー1分子中におけるイソシアネート基の数が、成分(A5)1分子中のイソシアネート基の数と同一になることを前提として、成分(A5)1モルに対して、それぞれ1〜20モル、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1〜5モル仕込むことができる。20モルを超えると、硬化体において十分な硬度を発現することができない。
【0117】
(第4の方法)
第4の方法は、
(A5)イソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物
(A6)活性水素基を2個有する化合物
(A4)イソシアネート基、及びラジカル重合基を有する重合性単量体
を必須成分として、各成分を反応することにより製造する方法である。
【0118】
ここで、成分(A5)、(A6)、(A4)は、第1〜第3の方法で説明したものと同じである。
【0119】
上記の成分(A5)、成分(A6)、成分(A4)より成分(I)を得る方法としては、まず成分(A5)と成分(A6)を反応させることにより活性水素基を有するプレポリマーを得た後、成分(A4)を反応させる方法が一般的である。
【0120】
また、任意成分として、前記成分(A2)を用いることもできる。この場合、この場合、末端に活性水素基を有するプレポリマーを得た後、最後に成分(A4)を反応させることができる。
【0121】
この時、成分(A5)1モルに対し、成分(A6)を、成分(A1)1分子中のイソシアネート基の数と同一のモル数となるように仕込む。さらに、得られるプレポリマー1モルに対し、成分(A4)を、プレポリマー1分子中の活性水素基の数と同一のモル数となるように仕込む。
【0122】
また、成分(A2)は、成分(A4)と反応させるプレポリマー1分子中における活性水素基の数が、成分(A5)1分子中のイソシアネート基の数と同一になることを前提として、成分(A5)1モルに対して、それぞれ1〜20モル、好ましくは1〜10モル、さらに好ましくは1〜5モル仕込むことができる。20モルを超えると、硬化体において十分な硬度を発現することができない。
【0123】
好適な(I)シルセスキオキサン誘導体の構造
成分(I)は、分子内に、上記の(I-1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格、 (I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基、(I−3)ラジカル重合性基を有するものであれば、特に制限されるものではない。好ましい構造としては、
下記式(10)
【0124】
【化10】

【0125】
(ここで、
〜Aは互いに同一であっても異なっていてもよく、ウレタン結合、チオウレタン結合、ウレア結合のいずれかを表し、
Pは、前述したケージ状構造を有するシルセスキオキサン化合物から活性水素基及びイソシアネート基を除いた2価の有機基を表し、
は前述したジイソシアネート化合物で示すものと同義であり、
は前述した活性水素基を2個有する化合物で示すものと同義であり、
は前述した活性水素基、及びラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体で示すものと同義であり、
は前述したイソシアネート基、及びラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体で示すものと同義であり、
Qはラジカル重合性基を表し、
a、b、c、d、h及びiはそれぞれ独立に0又は1を、
d、f及びgはそれぞれ独立に0〜20の整数を、
hは1〜3の整数を表し、
かつa及びbのいずれか一方、及びh及びiのいずれか一方は必ず0である。)
で示されるもの、あるいは
下記式(11)
【0126】
【化11】

【0127】
(ここで、
〜A、R、R、R、R、Qは前記式(10)と同義であり、
Pは、前述したケージ状構造を有するシルセスキオキサン化合物から活性水素基及びイソシアネート基を除いた1価もしくは3〜12価の有機基を表し、
k,l,m及びoはそれぞれ独立に0又は1を、
n,pはそれぞれ独立に0〜20の整数を、
tは1もしくは3〜12の整数を
sは1〜3の整数を表し、
かつk及びlのいずれか一方、及びq及びrのいずれか一方は必ず0である。)
で示されるものが挙げられる。
【0128】
このうち、前記式(10)においては、A〜Aは、原料の入手が容易であり、かつ高い硬度を有する硬化体が得られるという観点から、ウレタン結合であることが好ましく、aは1〜5、d及びfは0〜5、jは1であるものが、高い硬度を有する硬化体が得られるという観点から好ましい。
【0129】
また、前記式(11)においては、A〜Aは、原料の入手が容易であり、かつ高い硬度を有する硬化体が得られるという観点から、ウレタン結合であることが好ましく、n及びpは0〜5、sは1であるものが、高い硬度を有する硬化体が得られるという観点から好ましく、さらに原料の入手が容易であるという点から、tは8であるものが好ましい。
【0130】
さらに、合成が容易であり、また粘度も適度なため硬化性組成物としての取り扱いが容易であり、硬度及びフォトクロミック特性に優れた硬化体が得られるという点から、下記式(12)
【0131】
【化12】

【0132】
(ここで、
P’は、前述したケージ状構造を有するシルセスキオキサン化合物から活性水素基及を除いた2価の有機基を表し、
は前述したジイソシアネート化合物で示すものと同義であり、
は前述した活性水素基、及びラジカル重合性基を有するラジカル重合性単量体で示すものと同義であり、
はそれぞれ独立に水素原子もしくはメチル基を表す。)
及び、下記式(13)
【0133】
【化13】

【0134】
(ここで、P’、R、R、Rは、前記式(12)で示したものと同義である。)
で示されるものが特に好ましい。
【0135】
<(II)フォトクロミック化合物:成分(II)>
次に、本発明において好適に用いられるフォトクロミック化合物について説明する。
【0136】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物において用いるフォトクロミック化合物をとしては、クロメン化合物、フルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物などの公知のフォトクロミック化合物を何ら制限なく使用することが出来る。これらは、単独使用でもよく、2種類以上を併用しても構わない。
【0137】
上記のフルギミド化合物、スピロオキサジン化合物、スピロピラン化合物及びクロメン化合物としては、例えば特開平2−28154号公報、特開昭62−288830号公報、WO94/22850号パンフレット、WO96/14596号パンフレットなどに記載されている化合物が挙げられる。
【0138】
特に、クロメン化合物としては上記特許文献に記載されたもの以外にも、優れたフォトクロミック性を有するクロメン化合物が知られており、好適に使用できる。このようなクロメン化合物としては、特開2001−031670号、特開2001−011067号、特開2001−011066号、特開2000−344761号、特開2000−327675号、特開2000−256347号、特開2000−229976号、特開2000−229975号、特開2000−229974号、特開2000−229973号、特開2000−229972号、特開2000−219678号、特開2000−219686号、特開平11−322739号、特開平11−286484号、特開平11−279171号、特開平09−218301号、特開平09−124645号、特開平08−295690号、特開平08−176139号、特開平08−157467号、米国特許5645767号公報、米国特許5658501号公報、米国特許5961892号公報、米国特許6296785号公報、日本国特許第4424981号公報、日本国特許第4424962号公報、WO2009/136668号パンフレット、WO2008/023828号パンフレット、日本国特許第4369754号公報、日本国特許第4301621号公報、日本国特許第4256985号公報、WO2007/086532号パンフレット、特開平2009−120536号、特開2009−67754号、特開2009−67680号、特開2009−57300号、日本国特許4195615号公報、日本国特許4158881号公報、日本国特許4157245号公報、日本国特許4157239号公報、日本国特許4157227号公報、日本国特許4118458号公報、特開2008−74832号、日本国特許3982770号公報、日本国特許3801386号公報、WO2005/028465号パンフレット、WO2003/042203号パンフレット、特開2005−289812号、特開2005−289807号、特開2005−112772号、日本国特許3522189号公報、WO2002/090342号パンフレット、日本国特許第3471073号公報、特開2003−277381号、WO2001/060811号パンフレット、WO2000/071544号、WO2005/028465号パンフレット、WO2011/16582号パンフレット、WO2011/034202号パンフレット等に開示されている。
【0139】
これらのフォトクロミック化合物の中でも、発色濃度、初期着色、耐久性、退色速度などのフォトクロミック特性の観点から、インデノナフト「2,1−f」ナフト「1,2−b」ピラン骨格を有するクロメン化合物を1種類以上用いることがより好ましい。さらにこれらクロメン化合物中でもその分子量が540以上の化合物は、発色濃度及び退色速度に特に優れるため好適である。その具体例として、以下のものが挙げられる。
【0140】
【化14】

<その他のラジカル重合性単量体>
本発明においては、成分(I)とは異なる、(III)その他のラジカル重合性単量体(成分(III))を配合することもできる。
【0141】
その他のラジカル重合性単量体としては特に制限されないが、例えば、単官能の(メタ)アクリレート化合物、2官能の(メタ)アクリレート化合物、3官能以上の(メタ)アクリレート化合物、ビニル化合物、アリル化合物等が挙げられる。
【0142】
具体的には、WO2001/005854号パンフレット、WO2003/11967号パンフレット、WO2004/83268号パンフレット、WO2009/75388号パンフレット等に開示されたラジカル重合性単量体を好適に使用することができる。
【0143】
このうち、優れたフォトクロミック特性が得られ、かつ粘度が低いため、成分(I)と混合した場合に適度な粘度に調整することが容易であるという観点から、下記式(14)
【0144】
【化15】

【0145】
(式中、
、及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基であり、
10は、炭素数1〜10である3〜6価の有機基であり、
uは、平均値で0〜3の数であり、
vは、3〜6の整数である。)
で示される3官能以上の(メタ)アクリレート化合物を用いることが好ましい。
【0146】
具体的には、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、テトラメチロールメタントリメタクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリメタクリレート、トリメチロールプロパントリエチレングリコールトリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラメタクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、(メタ)アクリル基を4個有するポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリル基を6個有するポリエステルオリゴマー、(メタ)アクリル基を4個有するポリウレタンオリゴマー、(メタ)アクリル基を6個有するポリウレタンオリゴマー等が挙げられる。
【0147】
また、これ以外にも以下に示すような重合性単量体を使用することができる。
【0148】
単官能の(メタ)アクリレート化合物としては、メトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシテトラエチレングリコールメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、フェノキシエチレングリコールメタクリレート、フェノキシエチルアクリレート、フェノキシジエチレングリコールアクリレート、ナフトキシエチレングリコールアクリレート、イソステアリルアクリレート、イソボルニルアクリレート、グリシジルメタクリレート、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が468のもの)、メトキシポリエチレングリコールメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が23であり、平均分子量が1068のもの)、フェノキシポリエチレングリコールアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が6であり、平均分子量が412のもの)、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等が挙げられる。
【0149】
2官能(メタ)アクリレート化合物のうち、ホモポリマーが硬い硬化体を与えるものとしては、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ジプロピレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,9−ノナンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が2.3のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が2.6のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が4のもの)、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ジオキサングリコールジアクリレート、エトキシ化シクロヘキサンジメタノールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が4のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が3のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が4のもの)等が挙げられる。
【0150】
2官能(メタ)アクリレート化合物のうち、ホモポリマーが柔らかい硬化体を与えるものとしては、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が536のもの)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が736のもの)、ポリエチレングリコールジメタクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が23であり、平均分子量が1136のもの)、ポリプロピレングリコールジメタクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が662のもの)、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が508のもの)、ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が14であり、平均分子量が708のもの)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が7であり、平均分子量が536のもの)、ポリプロピレングリコールジアクリレート(プロピレングリコール鎖の平均鎖長が12であり、平均分子量が808のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が10のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が20のもの)、2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が30のもの)、2,2−ビス[4−アクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が10のもの)等が挙げられる。
【0151】
また、本発明においては、分子中にウレタン結合を有するラジカル重合性単量体も好適に使用することができる。例えば、公知のウレタン(メタ)アクリレートを使用することができる。該ウレタン(メタ)アクリレートは、その分子構造中にベンゼン環等の芳香環を有するもの、芳香環を有しないものに大別でき、本発明においては、そのいずれをも使用できるが、その中でも特に硬化体の耐光性の観点から、芳香環を有しない無黄変タイプのものが好ましい。
【0152】
該ウレタン(メタ)アクリレートとしては、具体的には、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、リジンイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ダイマー酸ジイソシアネート、イソプロピリデンビス−4−シクロヘキシルイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート又はメチルシクロヘキサンジイソシアネートと、炭素数2〜4のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、ヘキサメチレンオキシドの繰り返し単位を有するポリアルキレングルコール、或いはポリカプロラクトンジオール等のポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール、ポリブタジエンジオール等の低分子の多官能ポリオール、又はペンタエリスリトール、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、1,8−ノナンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等公知の低分子量のポリオール類とを反応させウレタンプレポリマーとしたものを、アルキレンオキシド鎖を有していてもよい2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等で更に反応させた反応混合物であるか、又は前記ジイソシアネートを、アルキレンオキシド鎖を有していてもよい2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートと直接反応させた反応混合物であって、その分子量が400以上20,000未満であるウレタン(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0153】
さらに、スチレン、αメチルスチレン、αメチルスチレンダイマー、ジビニルベンゼンアリルジグリコールカーボネート等のラジカル重合性単量体も使用することができる。
【0154】
<フォトクロミック硬化性組成物の配合割合>
本発明において、フォトクロミック化合物の配合量は、目的とする用途に応じて適宜決定すればよい。中でも、本発明のフォトクロミック硬化性組成物をフォトクロミック眼鏡レンズ用途に使用する場合には、以下の配合量とすることが好ましい。
【0155】
すなわち、フォトクロミック硬化性組成物に含まれる全ラジカル重合性単量体(成分(I)と前述した成分(III)を合わせたもの)を100質量部としたとき、成分(II)を0.01〜20質量部とすることが好ましい。全ラジカル重合性単量体とは、成分(I)、及び必要に応じて配合されるその他のラジカル重合性単量体(前記成分(III))を合計したものを指す。
【0156】
また、フォトクロミック眼鏡レンズの用途の中でも、本発明のフォトクロミック硬化性組成物をコーティング剤として使用する場合には、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、成分(II)を0.05〜20質量部とすることが好ましく、さらに成分(II)を0.1〜15質量部とすることが好ましい。中でも、形成されるコーティング層の厚みに応じて成分(II)の配合量を変えることが好ましい。コーティング層の厚みが10〜30μmのときは、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、成分(II)を5〜15質量部とすることが好ましい。また、コーティング層の厚みが30〜50μmのときには、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、成分(II)を0.5〜5質量部とすることが好ましい。
【0157】
一方、練り込み型として、硬化体そのものをレンズとして使用する場合には、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して、成分(II)を0.01〜2質量部とすることが好ましく、さらに成分(II)を0.03〜0.5質量部とすることが好ましい。
【0158】
また、全ラジカル重合性単量体に占める成分(I)の割合は、効果を損なわない範囲で適宜決定することができるが、10〜100質量%とすることが好ましく、25〜100質量%とすることが特に好ましい。
【0159】
次に、本発明のフォトクロミック硬化組成物に配合できるその他の成分について説明する。
【0160】
(その他の成分)
本発明の硬化性組成物には、フォトクロミック化合物の繰り返し耐久性の向上、発色速度の向上、退色速度の向上や成形性の向上のために、さらに界面活性剤、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、着色防止剤、帯電防止剤、蛍光染料、染料、顔料、香料、可塑剤等の添加剤を添加しても良い。また、硬化性組成物を硬化させるために後述する重合開始剤を配合することも極めて好ましい。重合開始剤については、硬化体を製造する方法の説明において詳細に記す。添加するこれら添加剤としては、公知の化合物が何ら制限なく使用される。
【0161】
界面活性剤としては、ノニオン系、アニオン系、カチオン系の何れも使用できるが、重合性単量体への溶解性からノニオン系界面活性剤を用いるのが好ましい。好適に使用できるノニオン正解面活性剤を具体的に挙げると、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル等を挙げることができる。界面活性剤の使用に当たっては、2種以上を混合して使用しても良い。界面活性剤の添加量は、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.1〜20質量部の範囲が好ましい。
【0162】
また、酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤としては、ヒンダードアミン光安定剤、ヒンダードフェノール酸化防止剤、フェノール系ラジカル補足剤、イオウ系酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物等を好適に使用できる。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤は、2種以上を混合して使用してもよい。さらにこれらの非重合性化合物の使用に当たっては、界面活性剤と酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤を併用して使用してもよい。これら酸化防止剤、ラジカル補足剤、紫外線安定剤、紫外線吸収剤の添加量は、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲が好ましい。
【0163】
上記安定剤の中でも、該硬化性組成物を硬化させる際のフォトクロミック化合物の劣化防止、あるいはその硬化体の繰り返し耐久性向上の観点より、ヒンダードアミン光安定剤が挙げられる。ヒンダードアミン光安定剤としては、公知の化合物が何ら制限なく用いることができる。その中でも、コーティング剤用途で用いる場合、特にフォトクロミック化合物の劣化防止効果を発現する化合物として、ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート、旭電化工業(株)製アデカスタブLA−52、LA−62、LA−77、LA−82等を挙げることができる。添加量としては、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲であればよいが、コーティング剤として用いる場合には、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、より好適には、1〜10質量部の範囲で用いればよい。
【0164】
また、コーティング剤として使用する場合特に有用な他の安定剤として、硬化体の繰り返し耐久性向上の観点より、ヒンダードフェノール酸化防止剤も特に好ましく用いることができる。ヒンダードフェノール酸化防止剤としては、公知の化合物が何ら制限なく用いることができる。その中でも、コーティング剤用途で用いる場合、特にフォトクロミック化合物の劣化防止効果を発現する化合物としては、チバ・スペチャルティ・ケミカルズ製IRGANOX245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トルイル]プロピオネート]、IRGANOX1076:オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、IRGANOX1010:ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等を挙げることができる。添加量としては、全ラジカル重合性単量体100質量部に対し、0.001〜20質量部の範囲であればよいが、コーティング剤として用いる場合には、0.1〜10質量部の範囲が好ましく、より好適には、1〜10質量部の範囲で用いればよい。
【0165】
次に、本発明のフォトクロミック硬化性組成物の調製方法、硬化体の形成方法、及び用途について説明する。
【0166】
(調製方法、硬化体の形成方法、及びその用途)
本発明のフォトクロミック硬化性組成物の調製は、特に限定されず、所定量の各成分を秤取り混合すればよい。なお、各成分の添加順序は特に限定されず全ての成分を同時に添加してもよいし、重合性単量体成分のみを予め混合し、後で、例えば、後述の如く重合させる直前にフォトクロミック化合物や他の添加剤を添加混合してもよい。なお、後述するように、重合に際しては必要に応じて重合開始剤をさらに添加することもできる。
【0167】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物は、粘度を5〜500cPsとすることが好ましい。コーティング剤として使用する場合には、25℃での粘度が20〜500cPsとすることが好ましい。中でも、50〜300cPsであるのがより好適であり、60〜200cPsであるのが特に好適である。この粘度範囲とすることにより、後述するコート層の厚さを10〜100μmと厚めに調整することが容易となり、十分にフォトクロミック特性を発揮させることが可能となる。一方、練り込み型として使用する場合には、25℃での粘度が5〜300cPsとすることが好ましい。中でも、10〜100cPsであるのがより好適である。この粘度範囲とすることにより、レンズ型に注入する作業を容易に行うことができる。
【0168】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させてフォトクロミック硬化体を得る方法は、特に限定されず、用いる重合性単量体の種類に応じた公知の重合方法を採用することができる。重合開始手段は、種々の過酸化物やアゾ化合物などのラジカル重合開始剤の使用、又は紫外線、α線、β線、γ線等の照射あるいは両者の併用によって行うことができる。
【0169】
ラジカル重合開始剤としては、特に限定されず、公知のものが使用できるが、代表的なものを例示すると、熱重合開始剤として、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド;t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシジカーボネート、クミルパーオキシネオデカネート、t−ブチルパーオキシベンゾエートの如きパーオキシエステル;ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−2−エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジ−sec−ブチルオキシカーボネートの如きパーカーボネート類;2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カーボニトリル)の如きアゾ化合物等挙げられる。
【0170】
これら熱重合開始剤の使用量は、重合条件や開始剤の種類、重合性単量体の種類や組成によって異なり、一概に限定できないが、一般には、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.01〜10質量部の範囲で用いるのが好適である。上記熱重合開始剤は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0171】
また紫外線等の光照射により重合させる場合には、光重合開始剤として、例えばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾフェノール、アエトフェノン4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−イソプロピルチオオキサントン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6―トリメチルベンゾイル)−フェニルフォシフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニル−フォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1等を使用することが好ましい。
【0172】
これら光重合開始剤は、全ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.001〜5質量部の範囲で用いるのが一般的である。上記光重合開始剤は、単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。また上記熱重合開始剤を光重合開始剤と併用してもよい。
【0173】
本発明のフォトクロミック硬化性組成物から硬化体を得る特に好ましい方法は、上記光重合開始剤を配合した本発明のフォトクロミック硬化性組成物に、紫外線等を照射し硬化させ、さらに必要に応じて加熱して重合を完結させる方法である。
【0174】
紫外線の照射により重合させる場合には、公知の光源を何ら制限なく用いることが出来る。該光源を具体的に例示すれば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、キセノンランプ、カーボンアーク、殺菌灯、メタルハライドランプ、無電極ランプ等を挙げることが出来る。該光源を用いた光照射の時間は、上記光重合開始剤の種類、吸収波長及び感度、さらにはフォトクロミック層の膜厚等により適宜決定すれば良い。また、光源に電子線を用いる場合には、光重合開始剤を添加せずに、フォトクロミック層を硬化させることもできる。
【0175】
このようにして得られた硬化体は、そのままフォトクロミック光学材料として使用することが可能であるが、通常は、さらに着用時の傷の発生を防止することを目的として、ハードコート層で被覆して使用される。これにより、耐擦傷性を向上させることができる。
【0176】
ハードコート層を形成するためのコーティング剤(ハードコート剤)としては、公知のものがなんら制限なく使用できる。具体的には、シランカップリング剤やケイ素、ジルコニウム、アンチモン、アルミニウム、チタン等の酸化物のゾルを主成分とするハードコート剤や、有機高分子体を主成分とするハードコート剤が使用できる。
【0177】
また、本発明のフォトクロミック硬化性組成物単独の硬化体、光学基材表面に該硬化性組成物(コーティング剤)よりなるコート層を有する光学材料、あるいは該コート層上に、さらにハードコート層を形成した光学物品の表面には、SiO、TiO、ZrO等の金属酸化物の薄膜の蒸着や有機高分子体の薄膜の塗布等による反射防止処理、帯電防止処理等の加工及び2次処理を施すことも可能である。
【実施例】
【0178】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0179】
合成例1
<成分(I)の重合性単量体Aの合成>
窒素気流下にて1L四つ口フラスコに、1,2−プロパンジオールイソブチルPOSS 95g(0.10mol)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート 42g(0.20mol)を仕込み、70℃で3時間撹拌した。その後、ヒドロキシエチルメタクリレート26g(0.20mol)、メトキノン 0.08gを添加し、70℃で3時間撹拌した。残存イソシアネート量を定量することにより反応が完結したことを確認した後、室温まで冷却した。
【0180】
得られた粘ちょう体についてプロトンの核磁気共鳴スペクトラムを測定したところ、1〜5ppmに126プロトン分のピークが、5〜7ppmにラジカル重合性基であるメタクリル基の二重結合に基づく4プロトン分のピークとウレタンに基づく4プロトン分のピークが観測された。また赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、イソシアネートに基づく2260cm−1のピークが消失し、1740cm−1のウレタンに基づくピークが現れたことが確認された。
【0181】
以上のことから、この粘ちょう体は下記式(A)
【0182】
【化16】

【0183】
で示される構造に代表される化合物を含むことが確認された。
【0184】
合成例2
<成分(I)の重合性単量体Bの合成>
窒素気流下にて1L四つ口フラスコに、オクタ(3−ヒドロキシ−3−メチルブチルジメチルシロキシ)POSS 85g(0.05mol)、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート 81g(0.40mol)を仕込み、70℃で3時間撹拌した。これに、ヒドロキシエチルアクリレート 46g(0.40mol)、メトキノン0.11gを添加し、70℃で3時間撹拌した、残存イソシアネート量を定量することにより反応が完結したことを確認し、室温まで冷却して粘ちょう体を得た。
【0185】
得られた粘ちょう体についてプロトンの核磁気共鳴スペクトラムを測定したところ、1〜5ppmに約304プロトン分のピークが、5〜7ppmにラジカル重合性基であるメタクリル基の二重結合に基づく24プロトン分のピークとウレタンに基づく16プロトン分のピークが観測された。また赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、イソシアネートに基づく2260cm−1のピークが消失し、1740cm−1のウレタンに基づくピークが現れたことが確認された。以上のことから、この粘ちょう体は下記式(B)
【0186】
【化17】

【0187】
で示される構造に代表される化合物を含むことが確認された。Rの左端の酸素原子(−O−)がケージ状構造のシルセスキオキサン骨格のSi原子と結合している化合物である。
【0188】
合成例3
<成分Iの重合性単量体Cの合成>
窒素気流下にて1L四つ口フラスコに、イソホロンジイソシアネート89g(0.40mol)、平均分子量500のポリカーボネートポリオール100g(0.20mol)を仕込み、70℃で3時間反応させて、イソシアネート基を有するプレポリマーを得た。これに、トランス−シクロヘキサンジオールイソブチルPOSS 96g(0.10mol)を加えて、70℃で3時間撹拌した。さらに、トリエチレングリコールモノアクリレート 41g(0.20mol)、メトキノン0.16gを添加し、70℃で3時間撹拌した。残存イソシアネート量を定量することにより反応が完結したことを確認し、室温まで冷却して粘ちょう体を得た。
【0189】
得られた粘ちょう体についてプロトンの核磁気共鳴スペクトラムを測定したところ、1〜5ppmに約250プロトン分のピークが、5〜7ppmにラジカル重合性基であるアクリル基の二重結合に基づく6プロトンのピークとウレタンに基づく8プロトン分のピークが観測された。また赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、イソシアネートに基づく2260cm−1のイソシアネートに基づくピークが消失し、1740cm−1のウレタンに基づくピークが現れたことが確認された。以上のことから、この粘ちょう体は下記式(C)
【0190】
【化18】

【0191】
で示される構造に代表される化合物を含むことが確認された。Rの左端のメチレン基(−CH−)がケージ状構造のシルセスキオキサン骨格のSi原子と結合している化合物である。
【0192】
合成例4
<成分Iの重合性単量体Dの合成>
窒素気流下にて1L四つ口フラスコに、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート84g(0.40mol)、分子量500のポリカーボネートポリオール100g(0.20mol)を仕込み、70℃で3時間反応させて、イソシアネート基を有するプレポリマーを得た。これに、アミノエチルアミノプロピルイソブチルPOSS 92g(0.10mol)を加えて、70℃で3時間撹拌した。さらに、トリエチレングリコールモノアクリレート 41g(0.20mol)、メトキノン0.16gを添加し、70℃で3時間撹拌した。残存イソシアネート量を定量することにより反応が完結したことを確認し、室温まで冷却して重合性単量体Dを得た。
【0193】
得られた粘ちょう体についてプロトンの核磁気共鳴スペクトラムを測定したところ、1〜5ppmに約250プロトン分のピークが、5〜7ppmにラジカル重合性基であるアクリル基の二重結合に基づく6プロトン分のピークとウレタン及びウレアに基づく9プロトン分のピークが観測された。また赤外線吸収スペクトラムを測定したところ、イソシアネートに基づく2260cm−1のイソシアネートに基づくピークが消失し、1740cm−1及び1600cm−1cmのウレタン及びウレアに基づくピークが現れたことが確認された。以上のことから、この粘ちょう体は下記式(D)
【0194】
【化19】

【0195】
で示される構造に代表される化合物を含むことが確認された。Rの左端のメチレン基(−CH−)がケージ状構造のシルセスキオキサン骨格のSi原子と結合している化合物である。
【0196】
以下に成分(II)、成分(III)、その他の成分として使用した化合物の略号と名称を示す。
【0197】
成分(II):フォトクロミック化合物
PC1:
【0198】
【化20】

【0199】
成分(III):その他のラジカル重合性単量体
TMPT:トリメチロールプロパントリメタクリレート。
BPE100:2,2−ビス[4−メタクリロキシ(ポリエトキシ)フェニル]プロパン(エチレングリコール鎖の平均鎖長が2.6のもの。)
A400:ポリエチレングリコールジアクリレート(エチレングリコール鎖の平均鎖長が9であり、平均分子量が508のもの)。
U−2PHA:イソホロンジイソシアネートとヒドロキシエチルアクリレートを1:2のモル比で反応させて得られるウレタンアクリレート。
GMA:グリシジルメタクリレート。
MSD:αメチルスチレンダイマー。
【0200】
その他の成分
・光重合開始剤
CGI1800:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとビス(2,6−ジメトキシベンゾイル−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイドの混合物(質量比:3対1)。
【0201】
・熱重合開始剤
パーブチルND:t−ブチルパーオキシネオデカノエート。
パーオクタO:1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート。
【0202】
・ヒンダードアミン光安定剤
チヌビン765:ビス(1,2,2,6,6−ペンタメチル−4−ピペリジル)セバケート。
【0203】
・ヒンダードフェノール酸化防止剤
IRGANOX245:エチレンビス(オキシエチレン)ビス[3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−m−トルイル]プロピオネート]。
【0204】
・湿気硬化型プライマー
TR−SC−P (株)トクヤマ製。
【0205】
実施例1
合成例1で製造した重合性単量体A 100質量部に対して、フォトクロミック化合物としてPC1を0.05質量部、重合開始剤としてパーブチルND1質量部、パーオクタO 0.1質量部添加し十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物を得た。(フォトクロミック硬化性組成物の配合割合を表1にまとめた。)この混合液をガラス板とエチレン−酢酸ビニル共重合体からなるガスケットで構成された鋳型の中に注入し、注型重合により上記重合性単量体組成物を重合した。重合は空気炉を用い、30℃〜90℃まで18時間かけ徐々に温度を上げていき、90℃で2時間保持した。重合終了後、硬化体を鋳型のガラス型から取り外した。
【0206】
得られたフォトクロミック硬化体(厚み2mm)を用い、下記の評価を行った。結果を表2に示した。
【0207】
(1)ビッカース硬度:得られたフォトクロミック硬化体を、株式会社マツザワ製自動計測(読取)装置付硬度計PMT−X7Aを用いて10gf、30秒でビッカース圧子を押し込み、圧痕からビッカース硬度を得た。ビッカース硬度は、レンズ加工の工程で傷が入るかどうかの指標となる。目安としてビッカース硬度が4.5を超えると傷は入りにくく、4.5以下では傷が入りやすい。
【0208】
(2)発色濃度:得られたフォトクロミック硬化体に、浜松ホトニクス製のキセノンランプL−2480(300W)SHL−100をエアロマスフィルター(コーニング社製)を介して20℃±1℃、フォトクロミックコート層表面でのビーム強度365nm=2.4mW/cm,245nm=24μW/cmで300秒間照射して発色させ、このときの最大吸収波長を(株)大塚電子工業製の分光光度計(瞬間マルチチャンネルフォトディテクターMCPD1000)により求めた。300秒間光照射した後の、最大吸収波長における吸光度{ε(300)}と、光照射していない状態の硬化体の該波長における吸光度{ε(0)}との差{ε(300)−ε(0)}を求めこれを発色濃度とした。この値が高いほどフォトクロミック特性が優れているといえる。
【0209】
(3)退色半減期:300秒間光照射した後、光の照射を止め、該硬化体の最大波長における吸光度が前記{ε(300)−ε(0)}の1/2まで低下するのに要する時間{t1/2(min)}を測定した。この時間が短いほど退色速度が速くフォトクロミック特性が優れているといえる。
【0210】
(4)繰り返し耐久性:光照射による発色の繰り返し耐久性を評価するために次の劣化促進試験を行った。即ち、得られたフォトクロミックコート層を有すレンズをスガ試験器(株)製キセノンウェザーメーターX25により200時間促進劣化させた。その後、前記発色濃度の評価を試験の前後で行い、試験前の発色濃度(A)及び試験後の発色濃度(A200)を測定し、{(A200/A)×100}の値を残存率(%)として求めた。残存率が高いほど繰り返し耐久性が高く、フォトクロミック特性が優れているといえる。得られた評価結果を表2にまとめた。
【0211】
実施例2
実施例1において、重合性単量体A 100質量部の代わりに合成例2で製造した重合性単量体B 40質量部、BPE500 30質量部、TMPT28質量部、GMA1質量部、MSD1質量部を用いた以外は実施例1と同様の操作を行った。フォトクロミック硬化性組成物の配合割合を表1に、得られた評価結果を表2に示した。
【0212】
【表1】

【0213】
【表2】

【0214】
実施例3
合成例3で製造した重合性単量体C 60質量部、TMPT39質量部、GMA1質量部に対して、フォトクロミック化合物としてPC1を2質量部添加し十分に混合した。この混合物に、光安定剤としてチヌビン765を5質量部、酸化防止剤としてIRGANOX245を3質量部、重合開始剤としてCGI1800を0.5質量部添加し十分に混合してフォトクロミック硬化性組成物(コーティング剤)を得た。(コーティング剤の配合割合を表3に示した。)MIKASA製スピンコーター1H−DX2を用いて、厚さ2mmのプラスチックレンズ(MR:チオウレタン系樹脂プラスチックレンズ;屈折率=1.60 光学基材)の表面に、湿気硬化型プライマーTR−SC−Pを回転数70r.p.mで15秒→1000r.p.mで10秒コートした。その後、上記方法で得られたコーティング剤 約2gを回転数60r.p.mで40秒→600r.p.mで10〜20秒の条件でフォトクロコート層の膜厚が40μmになるようにスピンコートした。この表面がコートされたレンズを窒素ガス雰囲気中で出力200mW/cmのメタルハライドランプを用いて、90秒間照射し、塗膜を硬化させた。その後さらに110℃で1時間加熱した(フォトクロミックコート層を有する光学材料を製造した。)。
【0215】
得られたフォトクロミックコート層を有する光学材料を用い、実施例1と同様の評価を行った。結果を表4に示した。
【0216】
実施例4
実施例3において、重合性単量体C 60質量部、TMPT39質量部、GMA1質量部の代わりに、合成例4で製造した重合性単量体D 100質量部を用いた以外は実施例3と同様の操作を行った。フォトクロミックコーティング剤の配合割合を表3に、得られた評価結果を表4に示した。
【0217】
比較例1
実施例3において、シルセスキオキサン誘導体を使用せず、A400 60質量部、TMPT39質量部、GMA 1質量部を用いた以外は実施例3と同様の操作を行った。フォトクロミック硬化性組成物の配合割合を表3に、得られた評価結果を表4に示した。
【0218】
このフォトクロミック硬化性組成物を用いて作製したフォトクロミックコーティング層を有する光学材料はビッカース硬度が低かった。
【0219】
比較例2
ラジカル重合性基を有し、ウレタン結合もしくはウレア結合を有しないシルセスキオキサン化合物として、「メタクリロイルイソブチル POSS(登録商標)」(Hybrid Plastics社製、MA0702;8つのSiを有し、Siに結合する基の1つがメタクリロイルオキシプロピル基で、他の7つがイソブチル基であるもの)10質量部に、U−2PHA 90質量部を加え、十分に混合したがMA0702がウレタンアクリレートに溶解せず、均一な液を得ることができなかった。さらに70℃に加熱し、超音波を当てながら撹拌したが、やはり均一な液を得ることができなかった。従って、フォトクロミック化合物の溶解、さらには硬化体の作製もできなかった。
【0220】
【表3】

【0221】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内に、
(I−1)ケージ状構造のシルセスキオキサン骨格と、
(I−2)ウレタン結合、チオウレタン結合、及びウレア結合から選ばれる少なくとも一つの結合基と、
(I−3)ラジカル重合性基
とを有する(I)シルセスキオキサン誘導体、並びに
(II)フォトクロミック化合物
を含んでなるフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項2】
前記(I)シルセスキオキサン誘導体が、
(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物と、
(A2)ジイソシアネート化合物と、
(A3)活性水素基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体
とを必須成分として反応させて得られる反応生成物である、請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項3】
前記(I)シルセスキオキサン誘導体が、
(A1)活性水素基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物と、
(A4)イソシアネート基、及びラジカル重合性基を有する重合性単量体
とを必須成分として反応させて得られる反応生成物である、請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項4】
前記(I)シルセスキオキサン誘導体が、
(A5)イソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物と、
(A3)活性水素基、及びラジカル重合基を有する重合性単量体
とを必須成分として反応させて得られる反応生成物である、請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項5】
前記(I)シルセスキオキサン誘導体が、
(A5)イソシアネート基を有するケージ状構造のシルセスキオキサン化合物と、
(A6)活性水素基を2個有する化合物と、
(A4)イソシアネート基、及びラジカル重合基を有する重合性単量体
とを必須成分として反応させて得られる反応生成物である、請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項6】
前記(I−3)ラジカル重合性基が、(メタ)アクリル基、ビニル基、及びアリル基から選ばれる基である請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項7】
前記(II)フォトクロミック化合物が、インデノ[2,1−f]ナフト[1,2−b]ピラン骨格を有する化合物を含む請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物。
【請求項8】
請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物を含むコーティング剤。
【請求項9】
光学基材の少なくとも一つの面上に、請求項8に記載のコーティング剤を硬化させて得られるフォトクロミックコート層を有する光学材料。
【請求項10】
請求項1に記載のフォトクロミック硬化性組成物を硬化させて得られるフォトクロミック硬化体。

【公開番号】特開2013−72000(P2013−72000A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211761(P2011−211761)
【出願日】平成23年9月28日(2011.9.28)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】