説明

フルオロアルキル基を有するシラザン化合物及びその製造方法

【解決手段】一般式(1)


(Rf及びRf’はフルオロアルキル基であり、R1は水素原子又は脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は脂肪族1価炭化水素基であり、R4は水素原子又は脂肪族1価炭化水素基であり、a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
【効果】本発明によれば、上記2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物を用いることにより、処理された無機材料に高い撥水・撥油性と滑落性をバランスよく付与することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面処理剤、塗料添加剤、高分子変性剤等に有用なフルオロアルキル基を有するシラザン化合物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、アルキルアルコキシシラン化合物やフルオロアルキルアルコキシシラン化合物といった有機ケイ素化合物は、表面処理剤、繊維処理剤、塗料添加剤等に有用であることが知られている。特に、フルオロアルキルアルコキシシラン化合物は表面の撥水・撥油性や滑落性(液滴の滑り性)を制御する目的で無機材料(例えばガラス、金属、酸化物)の表面を処理する場合、シリル基と無機材料等の表面水酸基が共有結合することで強固に結合することができ、改質された表面特性の耐候性や持続性が改良されることが知られている(非特許文献1:「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、伊藤邦雄著、p.79,9行目〜p.80,5行目)。
【0003】
アルコキシシラン化合物は、無機材料等の表面水酸基との反応性が低く、これを改良するためにシラザン構造を有するフルオロアルキルシラザン化合物が開発されている(特許文献1:特公平07−094607号公報)。
【0004】
しかし、フルオロアルキルアルコキシシラン化合物やフルオロアルキルシラザン化合物を表面処理に用いた場合、撥水・撥油性といった静的接触角の改善には非常に有効であるが、液滴が転落を始める角度(転落角)やそのときの前進接触角(θA)と後退接触角(θR)から求められるヒステリシス(θA−θR)が大きく、即ち動的接触角が不十分であった。動的な挙動は、滑落性(液滴の除去性能)の指針として特に重要であり、改善が求められている。
【0005】
また、無機材料等に撥水・撥油性を付与し、かつ、高い反応性を有する化合物として、パーフルオロポリエーテル基を有するシラザン化合物が開発されているが(特許文献2:特開平02−011589号公報)、撥水・撥油性や滑落性のバランスが十分ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平07−094607号公報
【特許文献2】特開平02−011589号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「シリコーンハンドブック」、日刊工業新聞社、伊藤邦雄著、p.79,9行目〜p.80,5行目
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、無機材料等と高い反応性を有し、かつ処理された無機材料等に高い撥水・撥油性と滑落性をバランスよく付与できる2つのフルオロアルキル基を有する化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示されるフルオロアルキル基を有するシラザン化合物は、加水分解性基としてシラザン構造を有することで高い反応性を有し、エーテル結合とフルオロアルキル基を2つ有し、高い撥水・撥油性と滑落性をバランスよく無機材料等に付与でき、かつ、分岐構造により揮発性を高めることで精製を容易にできること、また、加水分解性基としてシラザン構造を有することで塩化水素を発生することなく高い反応性で無機材料等に処理することが可能であることを見出し、本発明をなすに至った。
【0010】
即ち、本発明は下記フルオロアルキル基を有するシラザン化合物及びその製造方法を提供する。
請求項1:
下記一般式(1)
【化2】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
請求項2:
下記一般式(2)
【化3】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
(式(1)において、a=1、b=0、m=1、n=1、p=0の場合)
請求項3:
下記一般式(3)
【化4】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
(式(1)において、a=1、b=1、m=1、n=0、p=1の場合)
請求項4:
下記一般式(4)
【化5】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
(式(1)において、a=0、b=0、m=0、n=0、p=0の場合)
請求項5:
下記一般式(5)
【化6】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するモノクロロシラン化合物と下記一般式(6)
【化7】

(式中、R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。rは1又は2である。)
で示されるアミン化合物を反応することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、上記2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物を用いることにより、処理された無機材料に高い撥水・撥油性と滑落性をバランスよく付与することができる。また、本発明のシラザン化合物は、シラザン構造により高い反応性を有し、分岐状の構造により揮発性が高まることで精製が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施例1で得られたシラザン化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図2】実施例1で得られたシラザン化合物のIRスペクトルである。
【図3】実施例2で得られたシラザン化合物の1H−NMRスペクトルである。
【図4】実施例2で得られたシラザン化合物のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物は、下記一般式(1)で示される。
【化8】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
【0014】
上記一般式(1)中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基で、各々同一又は異なっていてもよい。具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ノナフルオロブチル基、トリデカフルオロヘキシル基、ヘキサデカフルオロオクチル基、2,2,2−トリフルオロエチル基、3,3,3,2,2−ペンタフルオロプロピル基、5,5,5,4,4,3,3,2,2−ノナフルオロペンチル基、7,7,7,6,6,5,5,4,4,3,3,2,2−トリデカフルオロヘプチル基、9,9,9,8,8,7,7,6,6,5,5,4,4,3,3,2,2−ヘキサデカフルオロノニル基、3,3,3−トリフルオロプロピル基、4,4,4,3,3−ペンタフルオロブチル基、6,6,6,5,5,4,4,3,3−ノナフルオロヘキシル基、8,8,8,7,7,6,6,5,5,4,4,3,3−トリデカフルオロオクチル基、10,10,10,9,9,8,8,7,7,6,6,5,5,4,4,3,3−ヘキサデカフルオロデシル基、4,4,4−トリフルオロブチル基、5,5,5,4,4−ペンタフルオロペンチル基、7,7,7,6,6,5,5,4,4−ノナフルオロヘプチル基、9,9,9,8,8,7,7,6,6,5,5,4,4−トリデカフルオロノニル基、5,5,5−トリフルオロペンチル基、6,6,6,5,5−ペンタフルオロヘキシル基、8,8,8,7,7,6,6,5,5−ノナフルオロオクチル基、10,10,10,9,9,8,8,7,7,6,6,5,5−トリデカフルオロデシル基、6,6,6−トリフルオロヘキシル基、7,7,7,6,6−ペンタフルオロヘプチル基、9,9,9,8,8,7,7,6,6−ノナフルオロノニル基、7,7,7−トリフルオロヘプチル基、8,8,8,7,7−ペンタフルオロオクチル基、10,10,10,9,9,8,8,7,7−ノナフルオロデシル基、9,9,9−トリフルオロノニル基、10,10,10,9,9−ペンタフルオロデシル基等の直鎖状フルオロアルキル基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピル基、2,2−ビス(トリフルオロメチル)プロピル基等の分岐状フルオロアルキル基が挙げられる。
【0015】
上記一般式(1)中、R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基としては、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等が挙げられ、好ましくは水素原子又はメチル基である。
【0016】
上記一般式(1)中、R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよく、直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。また、炭素原子中の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、トリル基等の炭素数6〜18のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜18のアラルキル基、エステル基、エーテル基、アシル基、スルフィド基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0017】
上記一般式(1)中、R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、脂肪族1価炭化水素基としては直鎖状、分岐状又は環状のアルキル基、アルケニル基等が挙げられる。具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、シクロペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、ビニル基、アリル基、メタリル基、ブテニル基等が例示され、好ましくはメチル基、エチル基、イソプロピル基である。また、炭素原子中の水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、該置換基としては、具体的には、例えば、メトキシ基、エトキシ基、(イソ)プロポキシ基等のアルコキシ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子からなる基、シアノ基、アミノ基、フェニル基、トリル基等の炭素数6〜18のアリール基、ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜18のアラルキル基、エステル基、エーテル基、アシル基、スルフィド基、アルキルシリル基、アルコキシシリル基等が挙げられる。
【0018】
m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2であり、好ましくはm、n及びpは各々0又は1、qは1〜3の整数、rは1又は2である。
【0019】
本発明の一般式(1)で示される化合物を具体的に例示すると、下記一般式(2)で示される化合物A、下記一般式(3)で示される化合物B、下記一般式(4)で示される化合物C等が例示されるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【0020】
【化9】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
【0021】
【化10】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
【0022】
【化11】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
【0023】
但し、化合物A〜C中のRfα及びRfβとしては、下記表1の基が例示され、Rfα及びRfβは同一又は異なっていてもよい。
【0024】
【表1】

【0025】
上記一般式(1)で示される2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物の製造方法は、例えば、下記一般式(5)
【化12】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するモノクロロシラン化合物と下記一般式(6)
【化13】

(式中、R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。rは1又は2である。)
で示されるアミン化合物を反応する方法である。
【0026】
上記一般式(5)及び式(6)中、Rf、Rf'、R1、R2、R3、R4、m、n、p、q、r、a及びbは上記一般式(1)で定義したものと同様である。
【0027】
上記一般式(5)で示される化合物を具体的に例示すると、下記化合物a〜c等が例示されるが、本発明はこの例示により制限されるものではない。
【0028】
【化14】

【0029】
但し、化合物a〜c中のRfα及びRfβとしては、上記表1の基が例示され、Rfα及びRfβは同一又は異なっていてもよい。
【0030】
上記反応で用いられる一般式(6)で示されるアミン化合物としては、具体的にはアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン等が例示され、好ましくはアンモニア、メチルアミン、エチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミンが用いられる。
【0031】
一般式(5)で示されるモノクロロシラン化合物と、一般式(6)で示されるアミン化合物の配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、一般式(5)で示される化合物1モルに対し、一般式(6)で表されるアミン化合物2〜10モル、特に2〜3モルの範囲が好ましい。
【0032】
上記反応は脱塩酸反応であり、アミン化合物により塩酸をアンモニウム塩としてトラップすることが好ましい。アミン化合物としては、一般式(6)を用いてもよく、公知の3級アミン化合物を用いることができる。3級アミン化合物としては、例えば、トリエチルアミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等のアミジン類、ピリジン、キノリン、イソキノリン、ピコリン、ルチジン等の含窒素芳香族化合物等が挙げられる。アミン化合物の使用量は、モノクロロシラン1モルに対し、通常1.0〜2.0モルである。生成したアンモニウム塩は、公知の方法で除去でき、例えば、ろ過、分液、デカンテーション等が挙げられる。
【0033】
また、本反応においては触媒として相間移動触媒を用いることもできる。相間移動触媒としては、ハロゲン化4級アンモニウム化合物、ハロゲン化4級ホスホニウム化合物、クラウンエーテル等が挙げられ、具体的には、塩化テトラメチルアンモニウム、塩化テトラエチルアンモニウム、塩化テトラプロピルアンモニウム、塩化テトラブチルアンモニウム、塩化トリオクチルメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ベンジルトリメチルアンモニウム、塩化テトラブチルホスホニウム、塩化テトラフェニルホスホニウム、臭化テトラメチルアンモニウム、臭化テトラエチルアンモニウム、臭化テトラプロピルアンモニウム、臭化テトラブチルアンモニウム、臭化トリオクチルメチルアンモニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、臭化ベンジルトリメチルアンモニウム、臭化テトラブチルホスホニウム、臭化テトラフェニルホスホニウム、ヨウ化テトラメチルアンモニウム、ヨウ化テトラエチルアンモニウム、ヨウ化テトラプロピルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルアンモニウム、ヨウ化トリオクチルメチルアンモニウム、ヨウ化セチルトリメチルアンモニウム、ヨウ化ベンジルトリメチルアンモニウム、ヨウ化テトラブチルホスホニウム、ヨウ化テトラフェニルホスホニウム等が挙げられる。
【0034】
上記相間移動触媒の使用量は特に限定されないが、触媒量であり、反応性及び生産性の点から、上記一般式(5)で示されるモノクロロシラン化合物1モルに対し、0.001〜1モル、特に0.003〜0.05モルの範囲が好ましい。触媒が0.001モル未満であると、触媒の十分な効果が発現しない可能性があり、0.1モルを超えると、触媒の量に見合うだけの反応促進効果がみられない可能性がある。
【0035】
なお、上記反応は無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。用いられる溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示される。これらの溶媒は1種を単独で使用してもよく、あるいは2種以上を混合して使用してもよい。溶媒の使用量は通常量の範囲とすることができる。
【0036】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、0〜120℃、特に0〜70℃が好ましく、反応時間は1〜20時間、特に1〜10時間が好ましい。
【0037】
なお、化合物a〜cの原料であるオレフィンは、例えば、下記式のように一般的に知られている方法で製造することが可能であり、対応するヒドリドジアルキルクロロシラン化合物と反応することで化合物a〜cは得られる。
【0038】
【化15】

【0039】
また、上記反応組成物から一般式(1)で示される化合物を蒸留やカラム分離等の精製方法により単離することも可能であり、特に蒸留による単離が高純度化できるため好ましい。蒸留の条件は、特に制限はないが、沸点を下げるため減圧にて行う方が好ましい。
【0040】
本発明のシラザン化合物は、そのまま使用しても問題ないが、溶媒に希釈して用いた方が簡便で好ましい。溶媒としては、メタノール、エタノール等のアルコール系溶媒、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶媒、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム等の塩素化炭化水素系溶媒等が例示され、用いる濃度としては、シラザン化合物が、0.001〜50質量%となるように希釈して用いるとよい。
【0041】
本発明のシラザン化合物は、本発明の効果を損なわない範囲であれば、顔料、消泡剤、潤滑剤、防腐剤、pH調節剤、フィルム形成剤、帯電防止剤、抗菌剤、界面活性剤、染料等から選択される他の添加剤の1種以上を併用することができる。
【0042】
本発明のシラザン化合物の用途は特に限定されるものではないが、具体的には、無機材料の表面処理、液状封止剤、鋳物用鋳型、樹脂の表面改質、高分子変性剤等を挙げることができる。
【0043】
本発明のシラザン化合物を用いることで、無機材料の表面処理(表面改質)をすることが可能である。無機材料としては、金属板、ガラス板、金属繊維、ガラス繊維、粉末シリカ、粉末アルミナ、粉末タルク、粉末炭酸カルシウム等が挙げられる。また、該ガラスの材料としては、Eガラス、Cガラス、石英ガラス等の一般的に用いられる種類のガラスを用いることができる。石英ガラスはナノインプリント等モールド材にも使用が可能である。該ガラス繊維は、その製品形態に限定されない。ガラス繊維製品は多岐にわたるが、例えば、繊維径が3〜30μmのガラス糸(フィラメント)の繊維束、撚糸、織物を挙げることができる。
【0044】
無機材料を前記のシラザン化合物を用いて処理する方法としては、一般的に用いられる方法が採用できる。即ち、本発明のシラザン化合物をそのままもしくは希釈して用い、これに前記無機材料を浸漬させた後、無機材料を引き上げて乾燥する方法や、このシラザン化合物をそのままもしくは希釈したものを無機材料表面にスプレーした後、無機材料を乾燥する方法、不活性ガスにてシラザン化合物を同伴させ、該同伴ガスに無機材料を接触させる方法等が挙げられる。
【実施例】
【0045】
以下、合成例、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0046】
[合成例1]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、下記式(7)
【化16】

で示されるオレフィン268g(1.3モル)を仕込み、白金−1,3−ジビニル−1,1,3,3−テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(オレフィンに対して2.0×10-4モル)を仕込み、70℃に加熱した。内温が安定した後、ジメチルクロロシラン123g(1.3モル)を65〜75℃で5時間かけて滴下し、その温度で2時間撹拌した。蒸留することで沸点96℃/5.0kPaの無色透明な留分360gが得られ、下記式(8)であることを確認した。
【化17】

【0047】
[実施例1]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、上記一般式(8)の化合物182g(0.60モル)、トルエン300gを仕込み、室温にて3時間かけてアンモニアガスをフィードした。排ガスのpHが塩基性に変化した後、ろ過にて塩を除去し、得られた反応液を蒸留し、沸点121〜122℃/0.2kPaの無色透明な留分140gを得た。
【0048】
得られた留分を、イソブタンガスを反応ガスとする化学イオン化法にて質量スペクトル、1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルにて測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、図1には1H−NMRスペクトルのチャート、図2にはIRスペクトルのチャートを示した。
質量スペクトル
m/z 550,398,267,202,142
【0049】
以上の結果より、得られた化合物は下記式(9)であることが確認された。
【化18】

【0050】
[実施例2]
撹拌機、還流器、滴下ロート及び温度計を備えたフラスコに、ジエチルアミン32g(0.44モル)、トルエン100gを仕込み、水冷下上記一般式(8)の化合物61g(0.20モル)を3時間かけて滴下し、室温にて3時間撹拌した。ろ過にて塩を除去し、得られた反応液を蒸留し、沸点97〜98℃/2.0kPaの無色透明な留分57gを得た。
【0051】
得られた留分を、質量スペクトル、1H−NMRスペクトル(重クロロホルム溶媒)、IRスペクトルにて測定した。質量スペクトルの結果を下記に示す。また、図3には1H−NMRスペクトルのチャート、図4にはIRスペクトルのチャートを示した。
質量スペクトル
m/z 339,324,267,225,130
【0052】
以上の結果より、得られた化合物は下記式(10)であることが確認された。
【化19】

【0053】
[実施例3,4、比較例1] ガラス表面処理剤としての使用
上記実施例にて合成したフルオロアルキル基を有するシラザン化合物又は市販のフルオロアルキルシラザン化合物中に、UVオゾン処理にて親水化したガラス板を2時間浸漬した後、エタノールで超音波洗浄、110℃で30分間乾燥した。このように表面処理したガラス板に水(1μl)又はテトラデカン(5μl)を垂らし、その接触角を測定した。転落角はガラスに水(13μl)を垂らし、ガラスを傾け水滴が動き始めた時の角度を測定した。また、そのときの前進接触角と後退接触角の差(ヒステリシス)を計算した。結果を表2に示す。
【0054】
なお、比較例1に使用したフルオロアルキルシラザン化合物は下記式(11)の化合物である。
【化20】

【0055】
【表2】

【0056】
上記測定の結果から、本発明のシラザン化合物は撥水・撥油性を有しつつ、低い転落角で水滴が落ち始め、また、ヒステリシスも小さいことから優れた滑落性を有していることが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
【請求項2】
下記一般式(2)
【化2】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
【請求項3】
下記一般式(3)
【化3】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
【請求項4】
下記一般式(4)
【化4】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。qは1〜6の整数、rは1又は2である。)
で示される請求項1記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物。
【請求項5】
下記一般式(5)
【化5】

(式中、Rf及びRf’は炭素数1〜10のフルオロアルキル基であり、各々同一又は異なっていてもよい。R1は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基である。R2及びR3は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよく、各々同一又は異なっていてもよい。a及びbは各々0又は1、m、n及びpは各々0〜6の整数、qは1〜6の整数である。)
で示される2つのフルオロアルキル基を有するモノクロロシラン化合物と下記一般式(6)
【化6】

(式中、R4は水素原子又は炭素数1〜6の脂肪族1価炭化水素基であり、炭素原子に結合した水素原子の一部又は全部が置換されていてもよい。rは1又は2である。)
で示されるアミン化合物を反応することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の2つのフルオロアルキル基を有するシラザン化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−219072(P2012−219072A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−87870(P2011−87870)
【出願日】平成23年4月12日(2011.4.12)
【出願人】(000002060)信越化学工業株式会社 (3,361)
【Fターム(参考)】