説明

フルベストラント製剤

【課題】化合物7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールを含有する、注射による投与に適する新規な徐放性製剤を提供する。
【解決手段】フルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化合物7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールを含有する、注射による投与に適する新規な徐放性(sustained release)医薬製剤に関する。より具体的には本発明は、少なくとも1種類のアルコール、およびリシノレエートビヒクルに混和しうる少なくとも1種類の非水性エステル系溶剤をさらに含むリシノレエートビヒクル中の溶液として化合物7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールを含有する、注射による投与に適する製剤に関する。
【背景技術】
【0002】
エストロゲン枯渇(oestrogen deprivation)は多くの良性および悪性の胸部疾患または生殖路疾患を治療するための基本である。これは、閉経前の女性の場合は外科的手段、放射線療法または内科的手段で卵巣の機能を排除することにより、閉経後の女性の場合はアロマターゼ阻害薬の使用により行われる。
【0003】
エストロゲン消退(oestrogen withdrawal)のための他の方法は、エストロゲンに抗エストロゲン薬を拮抗させるものである。これらはエストロゲン応答組織の核に存在するエストロゲン受容体(ER)への結合に対して競合する薬物である。一般的な非ステロイド系抗エストロゲン薬、たとえばタモキシフェンはER結合に対して効果的に競合するが、それらは部分アゴニズムを示し、エストロゲン仲介活性の遮断が不完全であることにより、それらの有効性は制限されることが多い(Furr and Jordan 1994, May and Westley 1987)。
【0004】
非ステロイド系抗エストロゲン薬がアゴニスト性を示す可能性があるため、正常な転写ホルモン応答を活性化してエストロゲンを発現することなしにERに高い親和性で結合する新規化合物の探索が進められた。そのような分子は”純粋な”抗エストロゲン薬であり、タモキシフェン様のリガンドとは明らかに区別され、エストロゲンがもつ作動作用(trophic effects)を完全に排除できる。そのような化合物はエストロゲン受容体ダウンレギュレーター(E.R.D.)と呼ばれる。新規な純粋な抗エストロゲン薬の設計および試験についての原理が、Bowler et al 1989, Wakeling 1990a, 1990b, 1990c. Wakeling and Bowler 1987, 1988 に記載されている。
【0005】
7α位にアルキルスルフィニル側鎖をもつステロイド系のエストラジオール類似体(analogues)は、エストロゲン活性のない最初の化合物例となった(Bowler et al 1989)。これらのうち7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールを、その純粋なエストロゲンアンタゴニスト活性、および入手できる他の抗エストロゲン薬より有意に高い抗エストロゲン力価に基づいて、集中的研究のために選択した。7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールについてのインビトロ所見および初期の臨床試験から、エストロゲン依存性適応症、たとえば乳癌および特定の良性婦人科症状に対する療法薬としての薬物の開発に関心が向けられた。
【0006】
7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオール、すなわちICI 182,780には国際的な非商標名フルベストラント(fulvestrant)が当てられた。以下、これを用いる。フルベストラントという場合、その医薬的に許容できる塩類ならびにそのいずれかの可能な任意の溶媒和物を含める。
【0007】
フルベストラントはエストラジオールと類似の親和性でERに結合し、エストラジオールがインビトロでヒト乳癌細胞に及ぼす成長刺激作用を完全に遮断する;フルベストラントはこの観点においてタモキシフェンより有効かつ効果的である。フルベストラントはラット、マウスおよびサルにおいてエストラジオールの子宮作動活性を完全に遮断し、かつタモキシフェンの子宮作動活性も遮断する。
【0008】
フルベストラントは臨床的に使用されているタモキシフェンまたはトレミフェン(toremifene)のような抗エストロゲン薬に特徴的なエストロゲン様刺激活性をもたないので、腫瘍退縮がより迅速、完全、または長時間持続性である;処置に対する耐性の発生率や発生速度がより低い;および腫瘍侵襲性が低下するといった特徴をもつ改良された療法活性を提供できる。
【0009】
無傷の成体ラットにおいて、フルベストラントは骨密度に不都合な影響を及ぼさない、または性腺刺激ホルモンの分泌を高めない用量で、最大の子宮退縮をもたらす。ヒトの場合も同様であれば、これらの所見は臨床的にきわめて重要であろう。骨密度低下は子宮内膜症のエストロゲン排除処置期間を制限する。フルベストラントは視床下部ERを遮断しない。エストロゲン排除は顔面潮紅その他の閉経症状をも引き起こし、または増悪させるが、フルベストラントは血液−脳関門を越えないので、このような作用を引き起こさない。
【0010】
EPA−0 138 504には、特定のステロイド誘導体が有効な抗エストロゲン薬であると開示されている。その開示内容には、それらのステロイド誘導体の製造に関する情報が含まれる。特に実施例35に化合物7α−[9−(4,4,5,5,5−ペンタフルオロペンチルスルフィニル)ノニル]エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールが開示され、その化合物はクレーム4に具体的に挙げられている。その発明の化合物を、その発明のステロイド誘導体および医薬的に許容できる希釈剤またはキャリヤーからなる医薬組成物の形で用いるために提供できることも開示されている。そこには組成物が経口または非経口投与に適する形であってもよいと述べられている。
【0011】
フルベストラントには、ステロイドを基本とする他の化合物と同様にこれらの化合物の配合を困難にするある物理的特性がある。フルベストラントは、他のステロイド系化合物と比較しても特に親油性の分子であり、それの水溶性は約10ng/mlときわめて低い(この低さの測定を水単独中の溶質で行うことはできないので、これは水/溶剤混合物中の溶質から推定したものである)。
【0012】
現在、多数の徐放性注射用ステロイド製剤が市販されている。一般にこれらの製剤は油を溶剤として用い、さらに添加剤(excipients)が存在してもよい。下記の表1に、市販されているいくつかの徐放性注射用製剤を記載する。
【0013】
下記の表1の製剤においては、多種多様な油が化合物の可溶化に用いられ、さらに安息香酸ベンジル、ベンジルアルコールおよびエタノールなどの添加剤が用いられている。ステロイド系有効成分の可溶化に必要な油の容積は小さい。1〜8週間の持続放出(extended release)が達成される。
【0014】
【表1−1】

【表1−2】

【0015】
USP5,183,814、例3にはフルベストラントの注射用油性製剤が記載されており、これは50mgのフルベストラント、400mgのベンジルアルコール、および溶液を1mlの容積にするのに十分なヒマシ油を含む。USP5,183,814に記載される商業的規模での製剤製造は、高いアルコール濃度のため複雑となるであろう。したがって、フルベストラント製剤のアルコール濃度を低下させ、一方では製剤からフルベストラントが沈殿するのを防ぐという必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】USP5,183,814
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】Riffkin et.al. J. Pharm. Sci., (1964), 53, 891
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
表2に、多種多様な溶剤中におけるフルベストラントの溶解度を示す。
【0019】
【表2】

【0020】
これから分かるように、フルベストラントは試験した他のいずれの油よりヒマシ油中において有意に溶解度が高い。ステロイド系化合物に対するヒマシ油の溶媒和能がより大きいことは知られており、これはヒマシ油中に存在するトリグリセリドに含まれる脂肪酸の主成分であるリシノール酸のヒドロキシ基の数が高いことに起因する(Riffkin et.al. J. Pharm. Sci., (1964), 53, 891参照)。
【0021】
しかし本発明者らは、最良の油性溶剤であるヒマシ油を用いた場合ですら、フルベストラントを油性溶剤のみに溶解して低容積の注射で患者に投与するのに十分な高濃度を達成しかつ療法的に有意の放出速度を達成するのは不可能であることを見出した。療法的に有意の放出速度を達成するために必要なフルベストラント量は、少なくとも10mlの大きさの製剤容積を必要とするであろう。このため、ヒトの療法に十分な有意量を投与するには、医師が著しく大きな容積の製剤を投与しなければならない。
【0022】
現在、指針では5mlより多い液体を1回の注射で筋肉内に注射しないよう推奨している。1カ月の長時間作用型フルベストラントデポ製剤に必要な薬理活性用量は約250mgである。したがってヒマシ油のみに溶解する場合、フルベストラントは少なくとも10mlのヒマシ油中において投与する必要がある。
【0023】
それにフルベストラントが易溶性であり、かつヒマシ油と混和性である有機溶剤、たとえばアルコール類の添加を採用できる。高濃度のアルコール類を添加すると、ヒマシ油製剤中50mg/mlより高いフルベストラント濃度を達成でき、これにより5mlより少ない注射容積が得られる−下記の表3参照。本発明者らは、意外にもヒマシ油およびアルコール類に混和性である非水性エステル系溶剤の導入により予想外に容易にフルベストラントを少なくとも50mg/mlの濃度に可溶化できることを見出した−下記の表3参照。非水性エステル系溶剤中におけるフルベストラントの溶解度−前記の表2参照−はアルコール中におけるフルベストラントの溶解度より有意に低いので、この知見は予想外である。非水性エステル系溶剤中におけるフルベストラントの溶解度は、ヒマシ油中におけるフルベストラントの溶解度よりも低い。
【課題を解決するための手段】
【0024】
したがって本発明の1態様として、フルベストラント(好ましくはフルベストラントは3〜10%w/v、4〜9%w/v、4〜8%w/v、4〜7%w/v、4〜6%w/v、最も好ましくは約5%w/vで存在する)を、リシノレエートビヒクル(ricinoleate vehicle)、医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および医薬的に許容できるアルコール類中に含み、筋肉内投与に適し、少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤を提供する。
【0025】
本発明の他の態様は、フルベストラントを含み、ヒトへの筋肉内注射に適し、注射後少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成する医薬製剤である。
【0026】
本発明の他の態様には、フルベストラント、製剤の容積(volume)当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は治療上有意の血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤が含まれる。
【0027】
本発明の他の態様には、フルベストラント;製剤の容積当たり35重量%以下(好ましくは30重量%以下、理想的には25重量%以下)の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%(好ましくは少なくとも5重量%、理想的には少なくとも10重量%)の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤が含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】表4の第2部からの3種類の製剤のインビボ放出プロフィルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0029】
誤解を避けるために、製剤の成分について製剤の容積に対する重量%(%w/v)という用語を用いる場合、製剤の単位容積内にその成分がある重量%で存在することを意味する。たとえば製剤の容積当たり1重量%では、容積100mlの製剤中にその成分が1g含有される。さらに下記の具体例を示す。
【0030】
【表3】

【0031】
本発明の好ましい医薬製剤は前記のとおりである:
1.製剤の全容積は6ml以下であり、かつフルベストラントの濃度は少なくとも45mg/mlである;
2.フルベストラントの全量は250mg以上であり、かつ製剤の全容積は6ml以下である;
3.フルベストラントの全量は250mgであり、かつ製剤の全容積は5〜5.25mlである。
【0032】
医師または介護者が必要量を投与できるために、製剤は過剰の製剤を含むことができると理解される。したがって、5mlの投与量が必要な場合、最高0.25ml、好ましくは最高0.15mlの過剰量が製剤中に存在してもよいと理解される。一般に製剤は、本明細書に記載する製剤の1回量を入れたバイアルまたは充填済み注射器、好ましくは充填済み注射器として提供され、これらはさらに本明細書の他の態様である。
【0033】
前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい濃度は、少なくとも3%w/v、少なくとも5%w/v、少なくとも7%w/v、少なくとも10%w/v、少なくとも11%w/v、少なくとも12%w/v、少なくとも13%w/v、少なくとも14%w/v、少なくとも15%w/v、そして好ましくは少なくとも16%w/vである。前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい最大濃度は、28%w/v以下、22%w/v以下、または20%w/v以下である。前記製剤中に存在する医薬的に許容できるアルコール類の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、少なくとも3−35%w/v、4−35%w/v、5−35%w/v、5−32%w/v、7−32%w/v、10−30%w/v、12−28%w/v、15−25%w/v、17−23%w/v、18−22%w/v、そして理想的には19−21%w/vである。
【0034】
医薬的に許容できるアルコール類は1種類のアルコールまたは2種類以上のアルコールの混合物、好ましくは2種類のアルコールの混合物からなる。非経口投与に好ましい医薬的に許容できるアルコールはエタノール、ベンジルアルコール、またはエタノールとベンジルアルコール両方の混合物であり、好ましくはエタノールとベンジルアルコールが製剤中に同一w/v量で存在する。好ましくは前記製剤中のアルコールは10%w/vのエタノールおよび10w/vのベンジルアルコールを含有する。
【0035】
医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤(non−aqueous ester solvent)は、医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤1種類、または2種類以上の混合物、好ましくは1種類のみからなる。非経口投与に好ましい医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤は、安息香酸ベンジル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、またはその任意の混合物から選択される。
【0036】
リシノレエートビヒクルは、好ましくは製剤の容積当たり少なくとも30%w/v、理想的には製剤の容積当たり少なくとも40%w/vまたは少なくとも50w/vの割合で製剤中に存在する。
【0037】
医薬的に許容できるアルコール類が薬局方の基準(たとえば米国、英国および日本薬局方に記載のもの)を満たす品質のものであり、したがって少量の水および場合により他の有機溶剤を含有することは当業者に理解されるであろう。たとえば米国薬局方のエタノールは、15.56℃で測定して94.9容積%以上、96.0容積%以下のエタノールを含有する。米国薬局方の脱水アルコールは、15.56℃で測定して99.5容積%以上のエタノールを含有する。
【0038】
前記製剤中に存在する医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい濃度は、少なくとも5%w/v、少なくとも8%w/v、少なくとも10%w/v、少なくとも11%w/v、少なくとも12%w/v、少なくとも13%w/v、少なくとも15%w/v、少なくとも16%w/v、少なくとも17%w/v、少なくとも18%w/v、少なくとも19%w/v、そして少なくとも20%w/vである。医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい最大濃度は、60%w/v以下、50%w/v以下、45%w/v以下、40%w/v以下、35%w/v以下、30%w/v以下、そして25%w/v以下である。好ましい濃度は15%w/vである。前記製剤中に存在する医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい範囲は上記の最小値または最大値から選択され、好ましくは5−60w/v、7−55w/v、8−50w/v、10−50w/v、10−45w/v、10−40w/v、10−35w/v、10−30w/v、10−25w/v、12−25w/v、12−22w/v、12−20w/v、12−18w/v、13−17w/v、そして理想的には14−16w/vである。好ましくはエステル系溶剤は安息香酸ベンジルであり、最も好ましくは約15%w/vである。
【0039】
医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が薬局方の基準(たとえば米国、英国および日本薬局方に記載のもの)を満たす品質のものであることは当業者に理解されるであろう。
【0040】
本発明の製剤中の医薬的に許容できるアルコール類と医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤の好ましい組合わせを下記に示す:
【0041】
【表4】

【0042】
リシノレエートビヒクルという用語の使用は、その組成の一部としてある割合(少なくとも20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%または95%w/v)のリシノール酸のトリグリセリドを含む油を意味する。リシノレエートビヒクルは合成油であってもよく、あるいは理想的には前記の薬局方基準のヒマシ油が好都合である。
【0043】
本発明者らは予想外に、本発明の前記製剤が筋肉内注射後、長期間にわたって十分なフルベストラントを放出することを見出した。
この知見は下記の理由からみて確かに予想外である:
1.本発明者らは予め水性懸濁液剤の形の筋肉内フルベストラント注射試験を行った。注射部位における著しい局所組織刺激性および低い放出プロフィル(release profile)が認められた。組織刺激/炎症は固体粒子の形のフルベストラントの存在によるものであると考えられる。放出プロフィルは注射部位の炎症/刺激の程度により測定され、変動性で制御が困難であると思われた。フルベストラント放出速度も臨床的に有意であるのに十分なほど高くなかった;
2.C14標識ベンジルアルコールを用いた試験の所見は、それが注射部位から速やかに散逸し、投与後24時間以内に身体から排除されることを示す。
【0044】
エタノールは注射部位から少なくとも速やかに(直ちにではなくとも)散逸すると予想されるであろう。
安息香酸ベンジルがヒトの肝臓でグリシンとの抱合により代謝されて馬尿酸を形成し、尿中へ排出されることは既知である−Martindale: The Extra Pharmacopoeia 第32版,p.1103。したがって安息香酸ベンジルを用いた場合、それが長い放出期間全体にわたって注射部位に存在するとは思われない。
【0045】
本発明者らは、追加の可溶化添加剤(solubilising excipients)、すなわちアルコール類および医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が製剤の注射後、製剤ビヒクルおよび注射部位から直ちに排除されるにもかかわらず、本発明の製剤によればなお治療上有意なフルベストラント濃度を長期間にわたって達成できることを見出した。
【0046】
”治療上有意濃度(therapeutically significant levels)”という用語を用いる場合、少なくとも2.5ng/ml、理想的には3ng/ml、少なくとも8.5ng/ml、最高12ng/mlの血漿フルベストラント濃度が患者において達成されることを意味する。好ましくは血漿濃度は15ng/ml未満であるべきである。
【0047】
”持続放出(extended release)”という用語を用いる場合、少なくとも2週間、少なくとも3週間、そして好ましくは少なくとも4週間のフルベストラント連続放出が達成されることを意味する。好ましい態様においては、36日間の持続放出が達成される。好ましくはフルベストラントの持続放出は少なくとも2〜5週間、より好ましくは下記の期間(週)、すなわち2.5〜5、2.5〜4、3〜4、3.5〜4(週間)、最も好ましくは少なくとも約4週間である。
【0048】
担当医が筋肉内注射を分割量として投与したい場合、たとえば5mlの製剤を2.5mlの2回の注射に分けて逐次投与したい場合があることは理解されるであろう。これは本発明の他の態様である。
【0049】
フルベストラントを油性液剤に単に可溶化することは、良好な放出プロフィル、または注射後に薬物が注射部位に沈殿しないことを予測させるものではない。
表3に、アルコール類であるエタノールおよびベンジルアルコールをさらに含有し、安息香酸ベンジルを含有する、または含有しないヒマシ油ビヒクル中のフルベストラント溶解度を示す。これらの結果から、フルベストラントは安息香酸ベンジル中における溶解度がアルコール類またはヒマシ油における溶解度より低いにもかかわらず、安息香酸ベンジルがヒマシ油中のフルベストラント溶解度にプラスの作用を及ぼすことが明らかに示される。
【0050】
【表5】

【0051】
下記の表4は、同量のアルコール類と安息香酸ベンジルを含有し、ただし油を変更した一連の油性製剤中におけるフルベストラントの溶解度を示す。これらのデータにはアルコール類を除いた後のフルベストラントの溶解度も示す。
【0052】
【表6−1】

【表6−2】

【0053】
上記製剤をインビボウサギ試験に用いて、フルベストラントの沈殿および放出プロフィルを測定した。
図1は表4の第2部(the second part)からの4種類の製剤のインビボ放出プロフィル(release profile in vivo)を示し、固定油成分がフルベストラント血漿プロフィルに及ぼす影響をウサギへの筋肉内投与後5日間にわたって示す(データを50mg/3kgに正規化;平均を示す;1時点(timepoint)当たりの動物数=8;溶剤抽出後、lc−ms/ms検出により血漿試料をフルベストラント含量についてアッセイ)。これから分かるように、ヒマシ油製剤は特に均一な放出プロフィルを示し、注射部位におけるフルベストラントの沈殿の証拠はなかった。
【0054】
したがって本発明の他の態様として、フルベストラント;製剤の容積当たり35重量%以下(好ましくは30重量%以下、理想的には25重量%以下)の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%(好ましくは少なくとも5重量%、理想的には少なくとも10重量%)の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および少なくとも45mg/mlのフルベストラントの製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクル(他の任意の医薬的に許容できる添加剤の添加を考慮して)を含む、筋肉内注射に適する徐放性医薬製剤を提供する。
【0055】
本発明の他の態様は、医療に使用するための、前記の筋肉内注射に適する医薬製剤である。
本発明の他の態様は、良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置方法、好ましくは乳癌の処置方法であって、その処置を必要とするヒトに、少なくとも45mg/mlのフルベストラント;製剤の容積当たり35重量%以下(好ましくは30重量%以下、理想的には25重量%以下)の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%(好ましくは少なくとも5重量%、理想的には少なくとも10重量%)の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤を含むリシノレエートビヒクルベースの徐放性医薬製剤を筋肉内投与することによる方法である。
【0056】
好ましくは5mlの筋肉内注射剤を投与する。
本発明の他の態様は、良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置、好ましくは乳癌の処置のための前記製剤の調製におけるフルベストラントの使用である。
【0057】
製剤の分野で一般に用いられる他の添加剤、たとえば酸化防止剤系保存剤、着色剤または界面活性剤を使用できる。好ましい任意添加剤は界面活性剤である。
前記のように、フルベストラントはエストロゲン依存性適応症、たとえば乳癌および婦人科症状、たとえば子宮内膜症の処置に有用である。
【0058】
フルベストラントのほかに、他の類似のタイプの分子が現在臨床試験されている。SH−646(11β−フルオロ−7α−(14,14,15,15,15−ペンタフルオロ−6−メチル−10−チア−6−アザペンタデシル)エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオール)もフルベストラントと同じ作用様式をもつ化合物であると推定され、きわめて類似する化学構造をもつ。この化合物もフルベストラントと同様な物理的特性をもつと考えられ、したがって本発明はこの化合物にも利用できるであろう。
【0059】
本発明の他の態様は、11β−フルオロ−7α−(14,14,15,15,15−ペンタフルオロ−6−メチル−10−チア−6−アザペンタデシル)エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオール;製剤の容積当たり35重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および少なくとも45mg/mlの11β−フルオロ−7α−(14,14,15,15,15−ペンタフルオロ−6−メチル−10−チア−6−アザペンタデシル)エストラ−1,3,5(10)−トリエン−3,17β−ジオールの製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤である。
【0060】
本発明の他の態様は、前記と同様であるがフルベストラントの代わりにSH−646を用いるものである。
【実施例】
【0061】
調製例(Formulation Example)
フルベストラントをアルコールおよびベンジルアルコールと混合し、完全に溶解するまで撹拌する。安息香酸ベンジルを添加し、溶液をヒマシ油で最終重量にし、撹拌する(便宜上、w/v比を用いることにより容積ではなく重量を使用)。バルク溶液に窒素を成層する。孔径0.2μmのフィルター1つまたは2つを用いる濾過により溶液を殺菌する。発熱物質を除去した洗浄済みの無菌一次容器(たとえばバイアルまたは充填注射器)に殺菌された濾液を無菌条件下で充填する際、無菌濾液を窒素成層下に維持する。投与容積の取出しを容易にするために、一次パックに過剰量(overage)を含める。一次パックに無菌窒素を成層した後、無菌的にシールする。
【0062】
下記のプロセス流れ図も参照されたい:
製剤の各成分の量を前記に例示した製剤必要量明細に従って選択する。たとえば下記のものを含有する製剤を調製するために各量の成分を添加する:
10%w/vのベンジルアルコール
10%w/vのエタノール
15%w/vの安息香酸ベンジル
各5mlの最終製剤につき250mgのフルベストラント
残部のヒマシ油
【0063】
【表7】

【0064】
参考文献
1. Bowler J, Lilley TJ, Pittam JD, Wakeling AE. 新しいステロイド系の純粋な抗エストロゲン薬. Steroids 989; 5471-99.
2. Wakeling AE. 新しいステロイド系の純粋な抗エストロゲン薬:作用様式と療法の将来性. American New York Academy Science 1990a; 595: 348-56.
3. Wakeling AE. ステロイド系の純粋な抗エストロゲン薬, Lippman M, Dickson R, editors. Regulatory mechanisms in breast cancer. Boston: Kluwer Academic, 1990b: 239-57.
4. Wakeling AE. 乳癌の治療における純粋な抗エストロゲン薬療法の可能性. Journal Steroid Biochemistry 1990c; 37: 771-5.
5. Wakeling AE, Bowler J.,ステロイド系の純粋な抗エストロゲン薬. Journal Endocrinology 1987; 112: R7-10.
6. Wakeling AE, Bowler J. 純粋な抗エストロゲン薬の生物学および作用様式. Journal Steroid Biochemistry 1988; 3: 141-7.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フルベストラント、製剤の容積当たり30重量%以下の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり少なくとも1重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項2】
フルベストラント、製剤の容積当たり15〜25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10〜25重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、請求項1に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項3】
フルベストラント、製剤の容積当たり17〜23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12〜18重量%の、リシノレエートビヒクルに混和性の医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、請求項2に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項4】
医薬的に許容できるアルコール類がエタノールとベンジルアルコールの混合物である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項5】
医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が、安息香酸ベンジル、オレイン酸エチル、ミリスチン酸イソプロピル、パルミチン酸イソプロピル、またはそのいずれかの混合物から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項6】
医薬的に許容できる非水性エステル系溶剤が安息香酸ベンジルである、請求項1〜5のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項7】
フルベストラント、製剤の容積当たり15〜25重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり10〜25重量%の、リシノレエートビヒクル中の安息香酸ベンジル、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、請求項2に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項8】
フルベストラント、製剤の容積当たり17〜23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12〜18重量%の、リシノレエートビヒクル中の安息香酸ベンジル、および注射後少なくとも2週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、請求項2に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項9】
医薬的に許容できるアルコール類がエタノールおよびベンジルアルコールの混合物である、請求項7または8に記載の医薬製剤。
【請求項10】
エタノールおよびベンジルアルコールが製剤の容積当たりほぼ等しい重量%で存在する、請求項9に記載の医薬製剤。
【請求項11】
医薬的に許容できるアルコール類が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコールの混合物であり、製剤が製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジルを含有し、リシノレエートビヒクルがヒマシ油である、請求項1〜10のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項12】
良性または悪性の胸部疾患または生殖路疾患の処置のための請求項1〜11のいずれか1項に記載の医薬製剤。
【請求項13】
フルベストラント、製剤の容積当たり17〜23重量%の医薬的に許容できるアルコール類、製剤の容積当たり12〜18重量%の、リシノレエートビヒクル中の安息香酸ベンジル、および少なくとも45mg/mlのフルベストラント製剤を調製するのに十分な量のリシノレエートビヒクルを含む、請求項12に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項14】
医薬的に許容できるアルコール類が製剤の容積当たり10重量%のエタノール、製剤の容積当たり10重量%のベンジルアルコールの混合物であり、製剤が製剤の容積当たり15重量%の安息香酸ベンジルを含有し、リシノレエートビヒクルがヒマシ油である、請求項12に記載の筋肉内注射に適する医薬製剤。
【請求項15】
注射後少なくとも4週間は少なくとも2.5ng/mlの血漿フルベストラント濃度を達成しうる、請求項1〜14のいずれか1項に記載の医薬製剤。

【図1】
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【公開番号】特開2011−190275(P2011−190275A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135962(P2011−135962)
【出願日】平成23年6月20日(2011.6.20)
【分割の表示】特願2003−362875(P2003−362875)の分割
【原出願日】平成13年1月8日(2001.1.8)
【出願人】(300022641)アストラゼネカ アクチボラグ (581)
【Fターム(参考)】