説明

プライマー配列

【課題】動物由来DNA配列をより特異的に検出するためのプライマー対を提供する。
【解決手段】ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、ブタ、ウマ、ウサギ、クジラ、ニワトリ、タラ、サケ、イワシ、カニ、エビ、およびアサリの15種類の肉試料から、ミトコンドリアDNAを調製し、動物ミトコンドリアゲノムに存在するATP合成酵素サブユニット8遺伝子(atp8遺伝子)に由来する動物特異的DNA配列をプライマー対として用い、PCRを行い、ブタ特異的DNA検出用プライマー対を見出した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、動物由来DNA検出用のプライマー対に関する。詳細には、ミトコンドリアゲノムATP合成酵素サブユニット8遺伝子配列に由来する動物特異的DNA配列を増幅するために使用されるプライマー対に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、牛海綿状脳症(BSE)の牛に由来する肉骨粉が飼料に添加され、その飼料を与えられた牛がBSEに罹患し、問題となっている。そして、BSEと類似する病気が種々の家畜にも存在する可能性が指摘されている。そこで、BSEの発生以来、先端技術を用いた鋭敏な動物種の検出技術の開発が、必要となっており、特に行政上の緊急対応事項となっている。
【0003】
動物種識別については、従来、免疫学的手法、ならびに核遺伝子を用いる遺伝子識別手法が用いられてきた。免疫学的手法としては、例えば、ELISA法、イムノブロット法が挙げられる。核遺伝子を用いる遺伝子識別手法としては、例えば、PCR法が挙げられる。しかし、加熱処理されている肉骨粉などは、タンパク質の変性や核酸の断片化が生じている可能性が高いこと、および肉骨粉混入飼料には植物由来成分が多く、動物由来成分について微量分析が必要であることなど、現在行われている動物種識別方法には、多くの問題点がある。このように加熱処理後サンプルについても実施可能な、感度が高くかつ有効な検出方法の開発が急務である。さらに、今日では、牛用飼料に魚介類由来のタンパク質および家禽由来のタンパク質を含んではならないとされているため、牛用配合飼料中に混入した魚粉やチキンミールの検出技術の開発も必要である。
【0004】
本発明者らは、これまでに、動物ミトコンドリアゲノムに存在するATP合成酵素サブユニット8遺伝子(atp8遺伝子)に由来する動物特異的DNA配列をプライマー対として用いる動物種識別方法を開発している(特許文献1参照)。これは、atp8遺伝子の相同配列が植物(イネ)ミトコンドリアゲノムに存在しないことを利用し、植物系の飼料中より微量の動物遺伝子を効率的に検出することができる。また、他のグループも、肉種判別や肉骨粉の検出に使用できるプライマーを開発している(非特許文献1および2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−164287号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Lahiff, S.ら、「Mol. Cell Probes」,15巻,27-35頁,2001年
【非特許文献2】Tartaglia, M.ら、「J. Food Prot.」,61巻,513-518頁,1998年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
牛の大量生産国であるカナダおよび米国におけるBSE発生という状況下、家畜あるいはペットに与える飼料中に、どのような動物の肉あるいは肉骨粉が使用されているか、特にウシなどの反芻動物由来の成分あるいはブタ由来の成分を検出するための、さらに感度の高い検出方法が望まれている。また、牛用配合飼料中に混入した種々の魚種の魚粉あるいはチキンミールを幅広く検出する方法も望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、配列表の配列番号1の配列と配列表の配列番号2の配列との組み合わせである、反芻動物特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0009】
好適な実施態様では、上記反芻動物は、ウシ、ヒツジ、ヤギ、およびシカからなる群より選択される。
【0010】
本発明はまた、配列表の配列番号3の配列と配列表の配列番号4の配列との組み合わせである、ウシ特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0011】
本発明はさらに、配列表の配列番号5の配列と配列表の配列番号6の配列との組み合わせである、ブタ特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0012】
本発明はまた、配列表の配列番号7、8、9、10、11、12、13、および14の配列からなる群より選択される配列と、配列表の配列番号15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、および31の配列からなる群より選択される配列との組み合わせである、魚類特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0013】
好適な実施態様では、上記魚類は、アジ、イワシ、カタクチイワシ、カツオ、サケ、サバ、サンマ、スケソウダラ、ニジマス、およびマグロからなる群より選択される。
【0014】
本発明はまた、配列表の配列番号32、33、34、および35の配列からなる群より選択される配列と、配列表の配列番号36、37、および38の配列からなる群より選択される配列との組み合わせである、鶏特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0015】
好適な実施態様では、上記鶏は、ニワトリおよびウズラからなる群より選択される。
【0016】
本発明はまた、配列表の配列番号39の配列と配列表の配列番号40の配列との組み合わせである、植物特異的DNA検出用プライマー対を提供する。
【0017】
好適な実施態様では、上記植物は、イネ科植物、およびダイズ、テンサイ、ナタネなどの双子葉植物からなる群より選択される。
【0018】
本発明はさらに、試料中の反芻動物由来の成分を検出する方法を提供し、該方法は、上記の反芻動物特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む。
【0019】
好適な実施態様では、上記試料は、生肉、肉加工食品、肉加工品含有食品、血液、体毛、体液、乳、乳加工品、肉骨粉、骨粉、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される。
【0020】
本発明はまた、試料中のウシ由来の成分を検出する方法を提供し、該方法は、上記のウシ特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む。
【0021】
好適な実施態様では、上記試料は、生肉、肉加工食品、肉加工品含有食品、血液、体毛、体液、乳、乳加工品、肉骨粉、骨粉、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される。
【0022】
本発明はまた、試料中のブタ由来の成分を検出する方法を提供し、該方法は、上記のブタ特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む。
【0023】
好適な実施態様では、上記試料は、生肉、肉加工食品、肉加工品含有食品、血液、体毛、体液、乳、乳加工品、肉骨粉、骨粉、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される。
【0024】
本発明はまた、試料中の魚類由来の成分を検出する方法を提供し、該方法は、上記の魚類特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む。
【0025】
好適な実施態様では、上記試料は、生魚、魚加工食品、魚加工品含有食品、血液、体液、魚粉、フィッシュソリュブル、だし粕、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される。
【0026】
本発明はまた、試料中の鶏由来の成分を検出する方法を提供し、該方法は、上記の鶏特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む。
【0027】
好適な実施態様では、上記試料は、生肉、鶏肉加工食品、鶏肉加工品含有食品、血液、体液、羽毛、肉骨粉、骨粉、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される。
【0028】
本発明はさらに、上記のいずれかのプライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む、動物種識別方法を提供する。
【0029】
本発明はさらに、上記の植物特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む、植物由来成分の検出方法を提供する。
【0030】
本発明はまた、上記のプライマー対および配列表の配列番号41の配列と配列表の配列番号42の配列との組み合わせである哺乳動物特異的DNA検出用プライマー対を含む、動物由来成分検出用キットを提供する。
【0031】
好適な実施態様では、上記キットは、さらに、上記植物特異的DNA検出用プライマー対を含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明のプライマー対またはキットを用いると、試料中の微量の動物由来DNA配列を、従来よりも高感度で検出することができる。そのため、例えば、飼料中にわずかに混入された肉骨粉の動物種の識別も可能である。特に、家畜用配合飼料に微量のウシ肉骨粉が混入している場合も検出可能である。さらに、本発明の魚類特異的DNA検出用プライマーあるいは鶏特異的DNA検出用プライマーを用いると、配合飼料などに混入した種々の魚種由来の魚粉あるいはチキンミールを検出することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】種々の動物由来ミトコンドリアatp8遺伝子の配列アラインメントを示す図である。
【図2】ニワトリ、ウシ、およびブタのミトコンドリアatp8遺伝子の配列アラインメントを示す図である。
【図3】反芻動物特異的配列を検出するプライマー対(Fpr-FおよびFpr-R)を用いて、各種動物由来のDNAを鋳型とするPCRを行った後の電気泳動の結果を示す写真である。
【図4】ウシ特異的配列を検出するプライマー対(Fpc-FおよびFpc-R)を用いて、各種動物由来のDNAを鋳型とするPCRを行った後の電気泳動の結果を示す写真である。
【図5】ウシ肉骨粉含有家畜用配合飼料における、哺乳動物、反芻動物、およびウシ特異的プライマー対によるDNA検出の結果を示す電気泳動写真である。
【図6】ブタ特異的配列を検出するプライマー対(pig5-3およびpig32-2)を用いて、各種動物由来のDNAを鋳型とするPCRを行った後の電気泳動の結果を示す写真である。
【図7】種々の動物由来ミトコンドリアatp8遺伝子およびその近傍の配列アラインメントを示す図である。
【図8】種々の動物由来ミトコンドリアatp8遺伝子およびその近傍の配列アラインメントを示す図である。
【図9】鶏特異的配列を検出するプライマー対(chick5-1とchick3-1)を用いて、各種動物由来のDNAを鋳型とするPCRを行った後の電気泳動の結果を示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
ミトコンドリアゲノムは、酸化的リン酸化(電子伝達系)に必要な酵素類の生合成に必須であり、ATP合成酵素、シトクロムcオキシダーゼなどがミトコンドリアDNA上にコードされている。ATP合成酵素は、いくつかのサブユニットから構成されており、上述のように、発明者らは、ATP合成酵素サブユニット8遺伝子(atp8遺伝子)が、動物ミトコンドリアゲノムに存在するが、その相同配列は植物(イネ)ミトコンドリアゲノムに存在しないことを見出した。そして、これによって、飼料中に植物由来のDNAが大量に存在するにもかかわらず、動物種を効率的に識別することが可能となった。
【0035】
動物のatp8遺伝子は、いくつか知られている。例えば、ウシのatp8遺伝子配列(ウシ)を基準とし、いくつかの動物種におけるatp8遺伝子配列を、ウシとの相同性が最大となるようにアラインしたものを、図1に示す。図1においては、1:ウシ、2:アルパカ、3:ネコ、4:イヌ、5:ヤギ(1)、6:ヤギ(2)、7:ウマ、8:カモシカ、9:マウス、10:ウサギ、11:ラット、12:ロバ、13:ヒツジ、14:シカ、15:マッコウクジラ、および16:ナガスクジラのatp8遺伝子のDNA配列を示す。なお、図の矢印は、ウシのatp8構造遺伝子の始まりの位置を示す。
【0036】
また、図2は、ウシ、ニワトリ、およびブタのatp8遺伝子をアラインしたものを示す。
【0037】
図1および図2に示すように、atp8遺伝子にはDNA配列の多様性がある。この多様性を利用して、各種動物における特異的配列を検出することにより、各動物種の識別が可能である。
【0038】
各種動物を識別するために、それぞれの動物種に特異的なDNA配列を検出する方法としては、サザンブロット法、PCR(ポリメラーゼ連鎖反応)法などが挙げられるが、微量のDNA試料でも検出が可能な点、および精度を向上させる点で、本発明においてはPCR法が好ましく用いられる。本発明におけるPCRは、目的の動物種に特異的なDNA配列を含む一対のプライマーを用いて行い、増幅されたDNA断片を検出する。
【0039】
PCR法は、例えば、以下のように行われる。まず、atp8遺伝子中の目的の動物種に特徴的なDNA配列を有するいくつかの領域から、プライマーとして2箇所を選択し、それぞれのプライマーを合成する。この一対のプライマーを用いて、プライマーに挟まれた領域のDNA断片をPCRによって増幅する。次いで、増幅されたDNA断片を含む試料について電気泳動を行って、該DNA断片の有無を検出する。
【0040】
プライマーは、任意の長さのDNA配列であり、公知のデータベースの各種動物のatp8遺伝子の配列アラインメントに基づいて適宜選択される。例えば、哺乳動物に特異的なDNAの検出を目的とする場合、哺乳動物間で相同性が高く、かつ、非哺乳動物とは相同性が低い領域を選択すればよく、特定の動物に特異的なDNAの検出を目的とする場合は、その動物に特異的であり、かつ、他の動物とは相同性の低い領域を選択すればよい。プライマーは、対として使用するため、5’側および3’側の2箇所の領域を選択する。プライマーとして選択可能な領域が2箇所よりも多い場合は、種々の組み合わせのプライマーを用い得る。
【0041】
例えば、図1および図2に示す四角で囲まれた領域は、それぞれの動物種を特異的に検出できることが確認されている配列を示す(特許文献1参照)。
【0042】
本発明においては、配列表の配列番号1と2とに示す配列をプライマーとして用いると、反芻動物特異的なDNAを高感度で検出できる。また、配列表の配列番号3と4とに示す配列をプライマーとして用いると、ウシ特異的なDNAを高感度で検出できる。配列表の配列番号5と6とに示す配列をプライマーとして用いると、ブタ特異的なDNAを高感度で検出できる。あるいは、例えば、配列表の配列番号12および25に示す配列をプライマー対として用いると、魚類特異的なDNAを高感度で検出できる。同様に、例えば、配列表の配列番号32および36に示す配列をプライマー対として用いると、鶏特異的なDNAを高感度で検出できる。
【0043】
プライマーとして選択された領域のDNA配列は、通常用いられる方法によって合成される。一般的には、DNA自動合成機を用いて支持体上でヌクレオチドを伸長し、次いで、脱保護および支持体からの切断を行う。次いで、通常用いられる方法(例えば、カラムクロマトグラフィー)によって精製して、目的のプライマーを得ることができる。
【0044】
測定される試料としては、生肉、生魚、肉加工食品、魚加工食品、肉加工品含有食品、魚加工品含有食品、血液、体毛、羽毛、体液、乳、乳加工品、肉骨粉、骨粉、魚粉、フィッシュソリュブル、だし粕、これらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物などが挙げられる。試料からのミトコンドリアDNAの抽出は、例えば、以下のように行う。約50mg〜500mgの試料(例えば、生肉の場合50mg、乾燥粉体試料の場合100〜500mg)を、約10倍量の緩衝液に懸濁し、ビーズ破砕法で破砕した後、市販の組織細胞ミトコンドリアDNA抽出キット(例えば、和光純薬工業製)を用いて抽出する。このようなキットは、組織細胞中のゲノムDNAの混入が少なく、より高純度のミトコンドリアDNAを回収するものであり、遠心分離、沈殿採取などによるDNAの抽出、濃縮操作などを行う。このようにして、試料中に存在する大量のゲノムDNAの混入程度が低くミトコンドリアDNAをより効率的に抽出できる。DNAの抽出法は、ここで記述した方法に限定されず、その他の方法も利用し得ることは、当業者に明らかである。
【0045】
プライマーの使用量は、特に制限されないが、一般的に、約0.4μMで使用することが好ましい。
【0046】
前処理した試料について、上記の選択したプライマー対を用いてPCRを行い、プライマーに挟まれた領域のDNA断片を増幅する。PCRは、通常行われる条件で実施され、各プライマー対についてそれぞれ適切な条件を設定する。例えば、まず95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒〜1分;アニーリング:40〜65℃、30秒〜2分;伸長:72℃、30秒〜2分の反応を、30〜50サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させてPCRを終了する。DNAポリメラーゼとしては、例えば、AmpliTaq GOLDポリメラーゼなどが用いられる。プライマー対によって増幅されたPCR産物(DNA断片)の大きさは、選択されたプライマー対間の塩基数に応じて変動するが、約80〜約300bpであり得る。このPCR産物は、次いで、上記DNA断片を分離できる条件下で、例えば、アガロースゲル電気泳動、ポリアクリルアミドゲル電気泳動などを行う。
【0047】
電気泳動したゲル上のDNA断片は、当業者が通常用いるエチジウムブロマイド染色、蛍光検出、サザンハイブリダイゼーションなどの検出手段によって検出され、DNA配列決定により確認し得る。
【0048】
このようにして、試料中に目的の動物種由来のDNAが存在していれば、増幅されたDNA断片がゲル上で検出され得る。検出限界は、用いるプライマー対の種類および組み合わせ、試料の量、PCR条件、検出方法などの種々のファクターによって異なり得る。適切な条件を選択すれば、微量の試料においても、高感度でDNAの存在を検出することができる。例えば、適切な条件を選択すれば、試料がウシ由来の肉骨粉を含む配合飼料である場合、特定のウシ特異的なプライマー対を用いて、少なくとも0.001重量%の牛肉骨粉の混入でさえも検出することが可能である。
【0049】
なお、試料として配合飼料を用いる場合には、植物由来DNAに特異的なプライマー対(例えば、placon5(配列番号39)とplacon3(配列番号40)との組み合わせ)をコントロール実験として用いれば、試料からDNAが適切に抽出されているかどうかを確認することができる。また、植物由来DNAに特異的なプライマー対を用いれば、試料中の植物由来成分の有無を検出することもできる。
【0050】
あるいは、試料として魚粉を用いる場合は、魚類由来DNAに特異的なプライマー対(例えば、FM5(配列番号12)とFM3(配列番号25)との組み合わせ)をコントロール実験として用いれば、試料からDNAが適切に抽出されているかどうかを確認することができる。また、魚類由来DNAに特異的なプライマー対を用いれば、試料中の魚類由来成分の有無を検出することもできる。
【0051】
本発明のプライマー対は、動物由来成分検出用キットとして提供され得る。このキットには、上記動物特異的DNA検出用プライマー対のうちの少なくとも1つのプライマー対が含まれる。好ましくは、上記の動物特異的DNA検出用プライマー対のうち、それぞれの動物特異的DNAに対して最も高感度で検出し得るプライマー対が含まれる。より好ましくは、コントロールとして、植物特異的DNA検出用プライマー対および魚類特異的DNA検出用プライマー対をさらに含む。
【0052】
なお、以下に述べる実施例においては、プライマー配列が特定されて示されているが、本発明はその例に限定されることを意図していない。そのプライマー配列を含み、あるいはその配列において1または2以上の塩基配列の置換、欠失、または挿入、および5’末端側に塩基の追加を含み、ハイブリダイズの条件を変えることによって、目的のDNAとハイブリダイズし得、特定の動物種を特異的に検出し得る配列もまた、本発明の範囲に含まれることはいうまでもない。
【実施例】
【0053】
(プライマーの合成)
反芻動物、ウシ、およびブタ由来DNA検出用プライマーについては、図1および図2に示す各種動物のatp8遺伝子のDNA配列のアラインメントに基づいて、以下の各実施例に用いるプライマー領域を選択した。また、魚類由来DNA検出用プライマーについては、図7に示す各種動物のatp8遺伝子およびその近傍のDNA配列のアラインメントに基づいて、プライマー領域を選択した。鶏由来DNA検出用プライマーについては、図8に示す各種動物のatp8遺伝子およびその近傍のDNA配列のアラインメントに基づいて、プライマー領域を選択した。選択した領域のDNA配列を、DNA自動合成機を用いて合成した。
【0054】
(実施例1:反芻動物由来DNA配列の特異的検出)
ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ、ブタ、ウマ、ウサギ、クジラ、ニワトリ、タラ、サケ、イワシ、カニ、エビ、およびアサリの15種類の肉試料から、ミトコンドリアDNAを以下のように調製した。各肉試料を10倍量の緩衝液(10mM Tris-HCl, pH 7.5、20mM EDTA, pH 7.5)に懸濁し、ビーズ破砕法で破砕した後、市販の組織細胞ミトコンドリアDNA抽出キットであるmtDNAエキストラクターCTキット(和光純薬工業製)を用いてDNAを抽出した。
【0055】
それぞれのDNA試料を鋳型とし、Fpr-F(配列番号1)とFpr-R(配列番号2)とを、それぞれ5’側および3’側プライマーとして用いて、PCRを行った。PCRの条件は以下の通りである:反応緩衝液(10mM Tris-HCl, pH 8.3、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001%(W/V)ゼラチン);95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒;アニーリング:50℃、30秒;伸長:72℃、30秒の反応を45サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させた。反応終了後、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色してPCR産物(DNA断片)を検出した。結果を図3に示す。図中のMは分子量マーカーである。
【0056】
図3から明らかなように、Fpr-F(配列番号1)およびFpr-R(配列番号2)をプライマーとして用いて、それぞれの動物由来のDNAを鋳型とするPCRにより、反芻動物であるウシ、ヒツジ、ヤギ、およびシカにおいてのみ、増幅されたDNA断片の生成が認められた(矢印のバンド位置)。すなわち、Fpr-FおよびFpr-Rをプライマー対とすることにより、種々の動物肉試料の中から、反芻動物由来のDNAのみを特異的に検出できることが示された。したがって、Fpr-FとFpr-Rとの組み合わせは、反芻動物に属する動物種を効率的かつ特異的に検出するプライマー対である。
【0057】
なお、Fpr-F(配列番号1)およびFpr-R(配列番号2)において、rは、gとaとのミックスであり、kはgとtとのミックスである。すなわち、Fpr-FおよびFpr-R(は混合プライマーであるが、それぞれが単独で使用され得ることは当業者に明白である。
【0058】
(実施例2:ウシ由来DNA配列の特異的検出)
実施例1と同様に調製した15種類のDNA試料を鋳型とし、Fpc-F(配列番号3)とFpc-R(配列番号4)とを、それぞれ5’側および3’側プライマーとして用いて、PCRを行った。PCRの条件は以下の通りである:95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒;アニーリング:55℃、30秒;伸長:72℃、30秒の反応を、45サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させた。反応終了後、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色してPCR産物(DNA断片)を検出した。結果を図4に示す。
【0059】
図4は、Fpc-F(配列番号3)およびFpc-R(配列番号4)をプライマーとして用いて、それぞれの動物由来のDNAを鋳型とするPCRにより、ウシに由来するDNA断片からのみPCR産物が生成することが認められた(矢印のバンド位置)。一方、他の動物のDNAからは、PCR産物(DNA断片)は検出できなかった。すなわち、Fpc-FおよびFpc-Rをプライマー対とすることにより、種々の動物肉試料の中から、ウシ由来のDNAのみを特異的に検出できることが示された。したがって、Fpc-FとFpc-Rとの組み合わせは、ウシ由来の動物種を非常に特異的に検出するプライマー対である。
【0060】
(実施例3:配合飼料中のウシ由来DNA配列の検出)
家畜用配合飼料(主成分:トウモロコシ、マイロ、グルテンフィード、ふすま、米ぬか、大豆油かす、なたね油かす)に所定の割合でウシ由来の肉骨粉(オーストラリア産)を混合した。得られた飼料を100mgとり、上記実施例1と同様に10倍量の緩衝液に懸濁し、ビーズ破砕法で破砕した後、市販の組織細胞ミトコンドリアDNA抽出キット(和光純薬工業製)を用いてミトコンドリアDNAを抽出した。このDNAを鋳型として、哺乳動物由来DNA配列を特異的に検出するプライマー対であるanicon5(配列番号41)とanicon3(配列番号42)(特許文献1参照)、上記実施例1で用いた反芻動物由来DNA配列を特異的に検出するプライマー対であるFpr-F(配列番号1)とFpr-R(配列番号2)、ならびに上記実施例2で用いたウシ由来DNA配列を特異的に検出するプライマー対であるFpc-F(配列番号3)とFpc-R(配列番号4)とを用いて、実施例1と同じ条件でPCRを行った。結果を図5に示す。0.01質量%の肉骨粉が含まれている場合でも、ウシ由来のDNA配列を検出できることが判明した。
【0061】
(実施例4:ブタ由来DNA配列の特異的検出)
実施例1と同様に調製した15種類のDNA試料を鋳型とし、pig5-3(配列番号5)とpig32-2(配列番号6)とを、それぞれ5’側および3’側プライマーとして用いて、PCRを行った。PCRの条件は以下の通りである:95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒;アニーリング:60℃、1分;伸長:72℃、1分の反応を、45サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させた。反応終了後、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色してPCR産物(DNA断片)を検出した。結果を図6に示す。
【0062】
図6は、pig5-3(配列番号5)およびpig32-2(配列番号6)をプライマーとして用いて、それぞれの動物由来のDNAを鋳型とするPCRにより、ブタに由来するDNA断片からPCR産物が生成することが認められた(矢印のバンド位置)。一方、他の動物のDNAからは、PCR産物(DNA断片)は検出できなかった。すなわち、pig5-3およびpig32-2をプライマー対とすることにより、種々の動物肉試料の中から、ブタ由来のDNAのみを特異的に検出できることが示された。したがって、pig5-3とpig32-2との組み合わせは、ブタ由来の動物種を非常に特異的に検出するプライマー対である。
【0063】
(実施例5:魚類由来DNA配列の特異的検出)
魚粉に使用される種々の魚類由来の成分を幅広く検出する目的で、図7に示すatp8遺伝子およびその近傍のDNA配列のアラインメントに基づいて、数箇所のプライマー領域を選択した。図7には、例として、fish5(配列番号7)とfish3-1(配列番号15)ならびにFM5(配列番号12)とFM3(配列番号25)の位置を二重下線で示す。
【0064】
以下の表2に示す23種の動植物から、実施例1と同様に市販の組織細胞ミトコンドリアDNA抽出キット(和光純薬工業製)を用いて、ミトコンドリアDNAを調製した。このDNA溶液を鋳型とし、図7の配列アラインメントに基づいて選択した種々の5’側プライマーおよび3’側プライマーの組み合わせを用いて、PCRを行った。使用したプライマーは、以下の表1に示すとおりであった。
【0065】
【表1】

【0066】
PCRの条件は以下の通りである:反応緩衝液(10mM Tris-HCl, pH 8.3、50mM KCl、1.5mM MgCl2、0.001%(W/V)ゼラチン);95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒;アニーリング:50℃〜60℃、30秒;伸長:72℃、30秒の反応を45サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させた。反応終了後、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色してPCR産物(DNA断片)を検出した。陽性コントロールでは、微粉砕したイワシの肉から上記実施例1と同様にして得たイワシ由来DNA溶液を鋳型として用いてPCR反応を行い、そして陰性コントロールでは、PCR反応液に鋳型DNAを加えないブランクでPCRを行った。
【0067】
種々のプライマーの組み合わせにおいて最も良好なバンドを示したFM5(配列番号12)とFM3(配列番号25)との組み合わせによる結果を、表2に示す。なお、表2の判定において、陰性コントロールでバンドが検出されず、陽性コントロールで目的のサイズのバンドが検出され、かつ試料において陽性コントロールで検出されたと同じサイズのバンドが検出された場合を、陽性とした。
【0068】
【表2】

【0069】
表2の判定の欄に示すように、アジ、イワシ、カタクチイワシ、カツオ、サケ、サバ、サンマ、スケソウダラ、ニジマス、およびマグロのDNA試料で、78bpの位置にバンドが検出された。一方、哺乳動物、ニワトリ、および植物のDNAでは、バンドは検出されなかった。したがって、FM5(配列番号12)とFM3(配列番号25)とのプライマー対は、魚粉の製造に用いられることが多い主な魚種を共通に検出できることがわかった。
【0070】
これとは別に、国内で流通している魚粉約100種について、上記と同様にミトコンドリアDNAを抽出して検査した結果、9割以上の魚粉で目的の位置にバンドを検出することができた。このことからも、種々の魚類由来DNAについて幅広く検出可能なことがわかる。
【0071】
(実施例6:魚類由来DNA配列の添加実験および検出限界)
市販の牛飼育用の配合飼料およびチキンミールに混入した魚粉を検出できるかどうかについて検討した。使用した魚粉の原料は(1)サバおよびサンマ、(2)マグロおよびカツオ、ならびに(3)イワシであり、0.5mmメッシュの網ふるいを通過したものを使用した。配合飼料としては、市販の牛用配合飼料を粉砕器および乳鉢で粉砕し、0.5mmメッシュの網ふるいを通過したものを使用した。なお、配合飼料の配合割合は、以下の表3に示すとおりである。チキンミールは、市販のチキンミールであり、0.5mmメッシュの網ふるいを通過したものを使用した。
【0072】
【表3】

【0073】
上記の配合飼料またはチキンミール中に10、1、0.1、0.01、または0.001質量%の(1)〜(3)の魚粉を含む試料を調製した。これらの試料および無添加試料について、上記実施例5と同様にDNAを抽出し、FM5(配列番号12)とFM3(配列番号25)とのプライマー対を用いてPCRを行った。
【0074】
魚粉を0.01〜0.001質量%含む配合飼料およびチキンミールにおいて、魚類由来のDNAが検出された。一方、無添加試料においては、DNAは検出されなかった。したがって、本実施例に使用した魚粉については、0.01〜0.001質量%の混入でも検出可能であることがわかった。
【0075】
(実施例7:鶏由来DNA配列の特異的検出)
鶏由来の成分を幅広く検出する目的で、図8に示すatp8遺伝子およびその近傍のDNA配列のアラインメントに基づいて、数箇所のプライマー領域を選択した。図8には、例として、chick5-1(配列番号32)とchick3-1(配列番号36)の位置を二重下線で示す。
【0076】
実施例1と同様に調製した15種類のDNA試料を鋳型とし、種々の5’側および3’側プライマーの組み合わせを用いてPCRを行った。使用したプライマーは、5’側プライマーとしては、chick5-1(配列番号32)、chick5-2(配列番号33)、chick5-3(配列番号34)、およびchick51-3(配列番号35)を用い、3’側プライマーとしては、chick3-1(配列番号36)、chick3-2(配列番号37)、およびchick3-3(配列番号38)であった。PCRの条件は以下の通りである:95℃で9分熱変性した後、変性:92℃、30秒;アニーリング:55℃、30秒;伸長:72℃、30秒の反応を、45サイクル繰り返し、最後に72℃、5分反応させた。反応終了後、アガロースゲル電気泳動を行い、エチジウムブロマイド染色してPCR産物(DNA断片)を検出した。
【0077】
種々のプライマーの組み合わせにおいて、chick5-1(配列番号32)とchick3-1(配列番号36)との組み合わせが最も良好なバンドを示した(図9)。
【0078】
(実施例8:鶏由来DNA配列の添加実験および検出限界)
上記実施例6で用いた市販の牛飼育用の配合飼料中に、市販のチキンミールを10、1、0.1、0.01、または0.001質量%含む試料を調製した。これらの試料および無添加の試料について、上記実施例5と同様にDNAを抽出し、chick5-1(配列番号32)とchick3-1(配列番号36)とのプライマー対を用いてPCRを行った。
【0079】
チキンミールを0.01質量%含む配合飼料において、鶏由来のDNAが検出された。一方、無添加試料においては、DNAは検出されなかった。したがって、本実施例に使用したチキンミールについては、0.01質量%の混入でも検出可能であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明の方法は、試料中に含まれる微量反芻動物由来DNA配列の高感度検出を可能にする。そのため、例えば、飼料中にわずかに混入された肉骨粉の動物種の識別も可能である。特に、家畜用配合飼料に微量のウシ肉骨粉が混入している場合は、高感度で検出可能である。また、本発明の魚類特異的DNA検出用プライマーは、配合飼料などに混入した種々の魚種に由来する魚粉を幅広く検出するために有用である。さらに、本発明の鶏特異的DNA検出用プライマーは、配合飼料などに混入したチキンミールを検出するために有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列表の配列番号5の配列からなるプライマーと配列表の配列番号6の配列からなるプライマーとの組み合わせである、ブタ特異的DNA検出用プライマー対。
【請求項2】
試料中のブタ由来の成分を検出する方法であって、請求項1に記載のプライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む、方法。
【請求項3】
前記試料が、生肉、肉加工食品、肉加工品含有食品、血液、体毛、体液、乳、乳加工品、肉骨粉、骨粉、ならびにこれらを含有する飼料、肥料、および飼料添加物からなる群より選択される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1に記載のプライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程を含む、動物種識別方法。
【請求項5】
配列表の配列番号39の配列からなるプライマーと配列表の配列番号40の配列からなるプライマーとの組み合わせである植物特異的DNA検出用プライマー対を用い、試料中のDNAを鋳型として、DNA断片をPCR法により増幅する工程、および該増幅されたDNA断片を検出する工程をさらに含む、請求項4に記載の動物種識別方法。
【請求項6】
請求項1に記載のプライマー対および配列表の配列番号41の配列からなるプライマーと配列表の配列番号42の配列からなるプライマーとの組み合わせである哺乳動物特異的DNA検出用プライマー対のうちの少なくとも1つのプライマー対を含む、動物由来成分検出用キット。
【請求項7】
さらに、配列表の配列番号39の配列からなるプライマーと配列表の配列番号40の配列からなるプライマーとの組み合わせである植物特異的DNA検出用プライマー対を含む、請求項6に記載のキット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−39130(P2013−39130A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−194438(P2012−194438)
【出願日】平成24年9月4日(2012.9.4)
【分割の表示】特願2010−243518(P2010−243518)の分割
【原出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(504001978)独立行政法人農林水産消費安全技術センター (5)
【出願人】(501167644)独立行政法人農業生物資源研究所 (200)
【Fターム(参考)】