説明

プラスチック成形品の改質方法及びプラスチック成形品

【課題】プラスチック成形品に優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を付与するプラスチック成形品の改質方法を提供する。また、優れた機械的性質,耐摩耗性を有するとともに優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を有するプラスチック成形品を提供する。
【解決手段】リニアガイド装置100は、案内レール11と、スライダ12と、ボール転動路15内に配された複数のボール13と、隣接する各ボール13の間に介装されたセパレータ18と、で構成されている。セパレータ18はポリエーテルエーテルケトン樹脂で構成されているとともに、その表面には、超臨界二酸化炭素とフッ素系界面活性剤との相溶化物を接触させ、浸透したフッ素系界面活性剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを除去する含浸処理が施されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体を用いたプラスチック成形品の改質方法、及び、改質されたプラスチック成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、他の工業材料では得られない撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性等の性質を有しており、幅広い分野で使用されている。また、フッ素樹脂以外の樹脂を成形して得たプラスチック成形品の表面にフッ素系界面活性剤を付着させて、プラスチック成形品の内部の性質はそのままで、表面部分だけフッ素樹脂の性質に改質する方法も採られている。
【特許文献1】特開平11−323255号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、フッ素樹脂は引張強度,弾性率,耐摩耗性が他の樹脂に比べて低いため、使用環境が限定される場合があった。また、前述したフッ素系界面活性剤を表面に付着させて改質する方法は、フッ素系界面活性剤の付着状態にムラが生じたり、摩耗等によりフッ素系界面活性剤が剥落するおそれがあるため、前述した撥水性等の性質がフッ素樹脂と同レベルにならない場合があった。
【0004】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、プラスチック成形品に優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を付与し、前記諸性質をフッ素樹脂とほぼ同等とすることが可能なプラスチック成形品の改質方法を提供することを課題とする。また、本発明は、優れた機械的性質,耐摩耗性を有するとともに優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を有するプラスチック成形品を提供することを併せて課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る請求項1のプラスチック成形品の改質方法は、フッ素系界面活性剤を含有する超臨界流体をプラスチック成形品に接触させた後、前記プラスチック成形品に浸透したフッ素系界面活性剤及び超臨界流体のうち超臨界流体のみを前記プラスチック成形品から除去することを特徴とする。
【0006】
また、本発明に係る請求項2のプラスチック成形品の改質方法は、請求項1に記載のプラスチック成形品の改質方法において、前記超臨界流体を超臨界二酸化炭素としたことを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項3のプラスチック成形品は、請求項1又は請求項2に記載のプラスチック成形品の改質方法により改質されたことを特徴とする。
【0007】
さらに、本発明に係る請求項4のプラスチック成形品は、請求項3に記載のプラスチック成形品において、プラスチックが結晶性高分子であることを特徴とする。
さらに、本発明に係る請求項5のプラスチック成形品は、請求項4に記載のプラスチック成形品において、前記結晶性高分子が、ポリエチレン,ポリオキシメチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリアミド6,ポリアミド46,ポリアミド66,ポリフェニレンサルファイド,及びポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【0008】
さらに、本発明に係る請求項6のプラスチック成形品は、請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品において、前記フッ素系界面活性剤が、フルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物,フルオロアルキルエチレンオキシド付加物,パーフルオロアルキルアミンオキシド付加物,及びパーフルオロアクリレート構造を有するオリゴマーのうちの少なくとも1種であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明のプラスチック成形品の改質方法によれば、プラスチック成形品にフッ素系界面活性剤を浸透させることができるので、プラスチック成形品に優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を付与し、前記諸性質をフッ素樹脂とほぼ同等とすることができる。
また、本発明のプラスチック成形品は、フッ素系界面活性剤が浸透しているので、優れた機械的性質,耐摩耗性を有するとともに優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
〔第一実施形態〕
本実施形態のプラスチック成形品の改質方法は、浸漬処理工程と蒸発除去工程とからなる。浸漬処理工程は、フッ素系界面活性剤を含有する超臨界二酸化炭素の中にプラスチック成形品を浸漬する工程であり、該工程により、相溶状態のフッ素系界面活性剤及び二酸化炭素がプラスチック成形品の表面から内側に浸透する。
なお、超臨界二酸化炭素とは、臨界温度以上の温度を有し且つ臨界圧力以上の圧力を有する領域にある二酸化炭素である。ちなみに、二酸化炭素の臨界温度は31.1℃で、臨界圧力は72.8気圧(7.39MPa)である。
【0011】
浸漬処理工程における浸漬温度は、二酸化炭素の臨界温度以上であり、より好ましくは二酸化炭素の臨界温度以上且つプラスチック成形品を構成するプラスチックの融点未満である。プラスチック材料はガラス転移温度を超えると、分子主鎖のミクロブラウン運動が激しくなり自由体積が増加する。これにより、超臨界状態の二酸化炭素はプラスチック内部まで、より浸透しやすくなる。そうすると、プラスチック中にあらかじめ添加されている熱安定剤等の各種添加剤が逆に抽出されてしまうことも考えられ、その結果、物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0012】
ただし、超臨界二酸化炭素のプラスチックへの浸透度は、温度が高い方が大きいので、浸漬温度をできるだけ高くした方がフッ素系界面活性剤が浸透しやすい。浸漬温度は、プラスチック材料の融点やガラス転移温度を参考に決定することが好ましく、最高でも融点より30℃低い程度である。これ以上の温度であると、プラスチックの劣化が生じるおそれがある。
【0013】
また、浸漬処理工程における圧力は二酸化炭素の臨界圧力以上であり、より高い圧力である方が、二酸化炭素のプラスチックへの浸透度が向上し、改質の効率が向上するため好ましい。ただし、プラスチック成形品の改質に使用する処理装置を高圧に耐え得るようにする必要が生じるため、該処理装置が大掛かりで高額なものになってしまう。したがって、処理装置の操作性や設備費等を考慮すると、圧力は100気圧以上300気圧以下(10.13MPa以上30.4MPa以下)の範囲が適当である。
【0014】
さらに、浸漬処理工程における浸漬時間は特に限定されるものではなく、プラスチック成形品の厚さや大きさ等を考慮して適宜設定される。
さらに、超臨界二酸化炭素中のフッ素系界面活性剤の濃度は、二酸化炭素の超臨界状態において概ね飽和溶解度となるように調整される。
なお、浸漬処理を行うにあたって、処理装置内は二酸化炭素で置換しておくことが好ましい。酸素等が残存している状態で浸漬処理を行うと、処理中にプラスチックが酸化劣化するおそれがある。
【0015】
次に、蒸発除去工程について説明する。処理装置内の温度を、二酸化炭素の臨界温度未満とした後に、二酸化炭素を徐々に排出することにより処理装置内の圧力をゆっくり下げて、大気圧に戻す。これにより、プラスチック成形品の中に浸透したフッ素系界面活性剤及び二酸化炭素のうち二酸化炭素のみが蒸発して除去され、フッ素系界面活性剤はプラスチック成形品中に残される。超臨界状態でなくなると、フッ素系界面活性剤は二酸化炭素から分離して処理装置の下部に蓄積する。
【0016】
その後、処理装置内からプラスチック成形品を取り出す。このとき、必要に応じて、プラスチック成形品の表面に付着したフッ素系界面活性剤を洗浄によって除去してもよい。また、プラスチック成形品内に残存した微量の二酸化炭素を、真空乾燥等によって完全に除去してもよい。なお、蒸発除去工程においては、圧力を急激に下げると、プラスチック成形品の中から二酸化炭素が除去される際に、発泡が生じる可能性が高くなる。
【0017】
以上にような2つの工程によって、プラスチック成形品の内部(特に表層部)にフッ素系界面活性剤の分子が浸透し、プラスチック分子間の自由体積に固定化される。このことにより、プラスチック成形品の表層部にフッ素系界面活性剤が高濃度で存在することとなるので、プラスチック成形品に優れた撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性が付与され、前記諸性質がフッ素樹脂とほぼ同等となる。
【0018】
また、元々有していた自由体積にフッ素系界面活性剤が固定されていることから、フッ素系界面活性剤が外部に滲出することはほとんどないので、前記諸性質が半永久的に持続する(前記諸性質の低下が生じにくく優れた前記諸性質が長期間にわたって持続される)と同時に、引張強度,弾性率等の機械的強度の低下を引き起こすおそれがほとんどない。さらに、フッ素系界面活性剤はプラスチック成形品中に含浸しており、表面に付着しているのではないから、摩耗等によって効果が失われにくい。さらに、フッ素系界面活性剤の含浸は均一に行われ、処理ムラが生じることはない。
【0019】
フッ素系界面活性剤の種類は特に限定されるものではないが、超臨界流体に対して溶解性を示すものが好適である。具体的には、フルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物,フルオロアルキルエチレンオキシド付加物,パーフルオロアルキルアミンオキシド付加物,及びパーフルオロアクリレート構造を有するオリゴマーがあげられる。
【0020】
超臨界流体への溶解性を考慮すると、浸漬温度で液体状態となるフッ素系界面活性剤が好ましいので、超臨界流体が超臨界二酸化炭素である場合には、常温で液体であるか、又は、融点が40℃以上250℃以下のフッ素系界面活性剤が好ましい。
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
【0021】
例えば、本実施形態においては、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた例をあげて説明したが、本発明には、他の種類の様々な超臨界流体を用いることができる。例えば、二酸化窒素,アンモニア,エタン,プロパン,エチレン,メタノール,エタノール等があげられる。ただし、二酸化炭素は比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性がなく不燃性であるため最も好ましい。
【0022】
また、本発明のプラスチック成形品の改質方法を好適に適用可能なプラスチックとしては、蒸発除去工程におけるプラスチック成形品の発泡を防止するために、ガラス転移温度(Tg)が超臨界流体の臨界温度よりも高いものが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(Tg69℃),ポリブチレンフタレート(Tg45℃)等のポリエステル系樹脂や、ポリアミド6(Tg53℃),ポリアミド46,ポリアミド66(Tg57℃)等のポリアミド系樹脂があげられる。また、ポリスチレン(Tg100℃),ポリカーボネート(Tg145℃)等があげられる。
【0023】
ただし、ガラス転移温度(Tg)が超臨界流体の臨界温度以下であるものであっても、本発明のプラスチック成形品の改質方法を適用可能である場合がある。ガラス転移温度(Tg)が超臨界二酸化炭素の臨界温度以下であるプラスチックとしては、例えば、ポリエチレン(Tg−125℃),ポリオキシメチレン(Tg−82℃),ポリプロピレン(Tg−8℃),ポリメチルアクリレート(Tg10℃)があげられる。
【0024】
さらに、これらのプラスチックの他に、優れた摺動性を有する超高分子量ポリオレフィンの存在下において多段階的な重合法で得られた低分子量乃至高分子量ポリオレフィンからなる高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂も好適である。また、ポリフェニレンサルファイド(PPS),ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)も好適である。
ここで、高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂について説明する。高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂は、超高分子量ポリオレフィンと、低分子量乃至高分子量ポリオレフィンと、を含有してなるものであり、チーグラー型触媒の存在下でオレフィンを重合させて超高分子量ポリオレフィンを生成し、次いで水素存在下でさらにオレフィンを多段階的に重合させて低分子量乃至高分子量のポリオレフィンを生成させることにより製造される。
【0025】
このようにして製造することで、高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂は、超高分子量ポリオレフィンと低分子量乃至高分子量ポリオレフィンとを単純に混合したときのような層状構造にはならず、超高分子量ポリオレフィンが低分子量乃至高分子量ポリオレフィンの間に均一にミクロ分散し、場合によっては、一部で互いに結合状態を作ることにより分散状態が安定に保たれている。このように超高分子量ポリオレフィンがミクロ分散していると、射出成形性が維持されつつ、超高分子量ポリオレフィンの持つ卓越した耐摩耗性が同時に発現される。
【0026】
これらの超高分子量ポリオレフィン及び低分子量乃至高分子量ポリオレフィンは、例えばエチレン,プロピレン,1−ブテン,1−ペンテン,1−ヘキセン,1−オクテン,1−デセン,1−ドデセン,4−メチル−1−ペンテン,3−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィンの単独重合体又は共重合体からなる。この中では、エチレンの単独重合体、又は、エチレンと他のα−オレフィンとからなりエチレンを主成分とする共重合体が望ましい。
【0027】
また、高摺動性特殊ポリオレフィン樹脂において、超高分子量ポリオレフィンの割合は、実質15〜40質量%であり、より好ましくは20〜35質量%である。超高分子量ポリオレフィンの量が15質量%未満であると、耐摩耗性等の改善効果が十分とは言えず、実用性が低い。また、超高分子量ポリオレフィンの割合が40質量%を超えると、溶融時の粘度が高く、射出成形による成形が困難であるとともに、超高分子量ポリオレフィンの絶対量が多くなりミクロ分散しにくくなるので、種々の物性が低下する。
【0028】
これらのプラスチックは、ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維等の繊維状充填剤や、チタン酸カリウムウィスカー,ホウ酸アルミニウムウィスカー等のウィスカーを含有していても差し支えない。また、熱安定剤,酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。ただし、各種添加剤は、改質の処理条件によっては、抽出されることも予想されるので、処理温度や処理圧力には注意を要する。なお、各種添加剤は、あらかじめフッ素系界面活性剤とともに超臨界流体に添加しておいてもよい。
【0029】
次に、前述のようにして改質したプラスチック成形品を、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,XYテーブル等の転動装置の構成部品として使用した例を説明する。転動装置とは、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、転動体の転動を介して内方部材及び外方部材の一方が他方に対して相対運動する装置である。
【0030】
転動装置の構成部品とは、転動装置を構成する部品を意味し、例えば内方部材,外方部材,転動体,セパレータ,保持器,密封装置があげられる。また、転動装置が、リニアガイド装置による直動案内機構が組み合わされてテーブル体が基台に対してX軸方向及びY軸方向の2方向へ移動可能とされたXYテーブルである場合には、リニアガイド装置を構成する案内レール,スライダとともにテーブル体も構成部品である。
【0031】
ここで、内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0032】
〔使用例1〕
図1は、リニアガイド装置の構造を示す部分平面図である。ただし、該平面図においては、要部を破断して示してある。また、図2は、図1のリニアガイド装置のセパレータ及びボールの拡大図である。ただし、該拡大図においては、セパレータを破断して示してある。
図1のリニアガイド装置100は、軸方向に延びる断面略角形の案内レール(内方部材)11と、この案内レール11に組み付けられた断面略コ字状のスライダ(外方部材)12と、案内レール11の両側面に備えられたボール軌道溝(軌道面)11aとスライダ12の両袖部内側に備えられたボール軌道溝(軌道面)12aとで形成されたボール転動路15内に転動自在に配された複数のボール(転動体)13と、で構成されている。
【0033】
また、スライダ12は、スライダ本体12Aと、スライダ本体12Aの軸方向の両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ12B,12Bと、で構成されている。このエンドキャップ12B内には、ボール転動路15の一端から転動してくるボール13を他端に戻すボール循環路16とボール転動路15とを連通させる略U字状のボール戻し通路17が備えられており、ボール13がボール循環路16を経てボール転動路15を繰返し転動できるようになっている。そして、ボール13のボール転動路15に沿う転がり運動を介して、スライダ12が案内レール11の長手方向に直線運動を行うようになっている。
【0034】
このリニアガイド装置100においては、図2に示すように隣接する各ボール13の間にセパレータ18が介装されており、各ボール13の間の競り合いが抑制されるようになっている。このセパレータ18は、図2に示すように略円柱形状を有しており、ボール13との接触面である両底面18a,18aは図2に示すように凹面状とされている。凹面状であると、ボール13との接触面積が大きくなるので、接触面圧が軽減される。この凹面18aの断面形状は、ゴシックアーチ形状(中心の異なる2つの同一円弧を組合せた略V字状)でもよいし、円弧状でもよい。なお、ボール13との接触面である両底面18a,18aは、平面状であってもよい。
【0035】
リニアガイド装置100の構成部品のうちスライダ本体12Aはマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成され、エンドキャップ12Bはオーステナイト系ステンレス鋼SUS304で構成されている。また、リニアガイド装置100の構成部品のうち案内レール11及びボール13は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。
【0036】
さらに、セパレータ18は例えばポリエーテルエーテルケトン樹脂(ビクトレックス社製PEEK450G)で構成されており、以下のようなフッ素系界面活性剤の含浸処理が施されている。すなわち、プラスチック成形品に超臨界二酸化炭素とフッ素系界面活性剤との相溶化物を接触させ、浸透したフッ素系界面活性剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを除去する処理である。
【0037】
ここで、前記含浸処理の詳細な手順を説明する。まず、耐圧硝子工業株式会社製の超臨界二酸化炭素試験装置の圧力容器内に、セパレータと数mlのフッ素系界面活性剤とを装入した。さらに、圧力容器の内部圧力が20MPaになるまで、二酸化炭素を液化二酸化炭素ボンベから圧力容器にポンプを使用して充填した。次に、減圧バルブを用いて圧力容器の内部圧力を20MPaに保ちながら、圧力容器の内部温度を樹脂の融点よりも30℃低い温度に昇温させた。この温度で1時間保持した後、室温まで放冷し、内部圧力をゆっくりと大気圧に戻して圧力容器からセパレータを取り出した。
【0038】
このような含浸処理により、セパレータ18の表面層にはフッ素系界面活性剤が浸透し、撥水性,撥油性,低摩擦特性,耐薬品性,耐食性,非粘着性が付与されるので、リニアガイド装置100の潤滑性及び撥水性,撥油性が向上する。さらに、リニアガイド装置100に使用される潤滑剤と同様のものが含浸されているので、この潤滑剤とセパレータ18との親和性(濡れ性)が良好となり、リニアガイド装置100の潤滑性がより向上し耐久性がより優れたものとなる。
【0039】
〔使用例2〕
図3は、ボールねじの構造を示す斜視図である。ただし、該斜視図においては、要部を破断して示してある。
図3のボールねじ200は、外周面に螺旋状のねじ溝(軌道面)21aを有するねじ軸(内方部材)21と、このねじ溝21aと対向するねじ溝(軌道面)22aを内周面に有するナット(外方部材)22と、両ねじ溝21a,22aの間に形成されたボール転動路に転動自在に配された複数のボール(転動体)23と、で構成されている。ナット22には、前記ボール転動路の一端に転動してくるボール23をすくい上げて他端に送るリターンチューブ(ボール循環路)27が取り付けられている。そして、このボールねじ200は、複数のボール23の転動を介してねじ軸21とナット22とを相対回転させることによって、ねじ軸21とナット22とが軸方向に相対移動するようになっている。
【0040】
このボールねじ200においては、隣接する各ボール23の間に使用例1と同様の図示されないセパレータが介装されており、各ボール23の間の競り合いが抑制されるようになっている。
ボールねじ200の構成部品のうちナット22はマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成され、リターンチューブ27はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304で構成されている。また、ボールねじ200の構成部品のうちねじ軸21及びボール23は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。そして、ねじ軸21のねじ溝21aの表面,ナット22のねじ溝22aの表面,ボール23の表面,及びリターンチューブ27の内面には、潤滑膜が被覆されている。
さらに、セパレータは使用例1と同様にポリエーテルエーテルケトン樹脂で構成されており、その表面には使用例1と同様の含浸処理が施されている。よって、使用例1のリニアガイド装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0041】
〔使用例3〕
図4は、転がり軸受(深溝玉軸受)の構造を示す断面図である。また、図5は、図4の転がり軸受に組み込まれた保持器の斜視図である。
図4の転がり軸受300は、外周面に軌道面31aを有する内輪(内方部材)31と、内輪31の軌道面31aに対向する軌道面32aを有し内輪31の外方に配置された外輪(外方部材)32と、両軌道面31a,32a間に転動自在に配置された複数の転動体(玉)33と、両軌道面31a,32a間に転動体33を保持する保持器34と、シールド35,35と、を備えている。
【0042】
転がり軸受300の構成部品のうち内輪31,外輪32,及び転動体33は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。そして、内輪31の軌道面31aの表面,外輪32の軌道面32aの表面,及び転動体33の表面には、潤滑膜が被覆されている。
また、この転がり軸受300の保持器34は、使用例1と同様にポリエーテルエーテルケトン樹脂で構成されており、その表面には使用例1と同様の含浸処理が施されている。よって、使用例1のリニアガイド装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0043】
なお、使用例3においては冠形保持器を例示して説明したが、保持器の種類は特に限定されるものではなく、例えば、かご形保持器、つの形保持器、波形保持器等でも差し支えない。
また、このような転がり軸受においては、内外輪の軌道溝の曲率半径は、転動体の直径の53%以上65%以下に設定し、且つ、これらの軌道溝の溝深さは、転動体の直径の10%以上15%以下に設定するとともに、転がり軸受内部に封入されている潤滑剤の封入量は、軸受内部空間の25体積%以上50体積%以下とすることが好ましい。さらに、外輪の軌道溝の曲率は、内輪の軌道溝の曲率よりも大きく設定することがより好ましい。
【0044】
そうすれば、トルクの低減や、転動体の溝肩への乗り上げによる傷の発生防止や、早期の焼付き防止を図ることで、軸受寿命の延長を実現することができる。
ここで、曲率とは、曲率円の各点において、その曲がりの程度を示す値であり、曲率半径の逆数である。また、軸受内部空間とは、内外輪に区画された空間領域であり、内輪の対向面(外周面)と外輪の対向面(内周面)と複数の転動体の各表面との間に形成される環状空間を指す。さらに、溝肩とは、軌道溝の両側に周方向に沿って連続した部分を指す。
【0045】
さらに、本使用例においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0046】
図6はアンギュラ玉軸受の例であり、図7は図6のアンギュラ玉軸受に備えられた保持器である。この例においても、使用例3と同様に、転がり軸受の構成部品のうち内輪41,外輪42,及び転動体43は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。そして、内輪41の軌道面41aの表面,外輪42の軌道面42aの表面,及び転動体43の表面には、潤滑膜が被覆されている。
また、保持器44は、炭素繊維を30質量%含有する熱可塑性ポリイミド樹脂(三井化学株式会社製のAURUM JCN3030)を射出成形して製造したものであり、その表面には使用例1と同様の含浸処理が施されている。よって、使用例1のリニアガイド装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0047】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ポリアミド66(PA66)又はポリフェニレンサルファイド(PPS)を射出成形して、直径30mm,厚さ3mmの円板を作製した。なお、PA66,PPSいずれも、充填剤は含有していない。そして、前述のような含浸処理を施して、フッ素系界面活性剤(ダイキン工業株式会社製のPTFE デムナムS−200)を含浸させた。本実施例においては、浸漬温度を150℃、圧力を20MPa、浸漬時間を6時間とした。
【0048】
含浸処理を施した円板の表面を、XPS(アルバック・ファイ株式会社製のESCA5400(Refurbish))で分析し、フッ素系界面活性剤の含浸状態と含浸深さを確認した。図8に示すように、PA66,PPSいずれの円板も、表層部にp−(CF2 =CF2 )の結合エネルギー(689eV)が確認された。
この結合エネルギーを用いて含浸深さを分析した結果を、図9,10に示す。PA66,PPSともに、表層部から徐々にフッ素系界面活性剤の量が減少していて、フッ素系界面活性剤が含浸している深さは、約30μmであることが確認された。
【0049】
次に、上記と同様の含浸処理を施した円板と、含浸処理を施していない円板とについて、ボールオンディスク往復動摩擦摩耗試験機(新東科学株式会社製のHHS3000)を用いて、摩擦係数と摩耗量を測定した。試験条件は以下の通りである。
ボール :直径3/8インチ、SUJ2製
試験荷重:9.8N
試験速度:10m/s
距離 :10mm
往復回数:3000回
潤滑 :無潤滑
結果を表1に示す。
【0050】
【表1】

【0051】
表1から分かるように、含浸処理を施して表層部にフッ素系界面活性剤を含浸させた円板の摩擦係数及び摩耗量は、浸処理を施していない円板の1/3程度であった。
〔第二実施形態〕
本発明は、超臨界流体を用いたポリエステル系プラスチック成形品の改質方法、及び、改質されたポリエステル系プラスチック成形品に関する。
【0052】
ポリエステル系プラスチックは、他種のプラスチックに比べて加水分解しやすいという性質を有している。そのため、ポリエステル系プラスチック成形品の耐加水分解性を高めるために、樹脂材料のコンパウンド時に、ポリエステル系プラスチックの加水分解を抑制する耐加水分解安定剤を数%添加していた(例えば、特開2005−298797号公報を参照)。
【0053】
しかしながら、耐加水分解安定剤を添加すると、耐加水分解安定剤が添加された特殊な樹脂材料となるという問題点があるとともに、高温で行われる樹脂材料の成形において耐加水分解安定剤の一部が樹脂分子と反応して増粘等を引き起こし、成形性に悪影響を及ぼすおそれがあるという問題点があった。また、耐加水分解性を発現させるために一定量以上の耐加水分解安定剤が添加されることによって、その分だけベース樹脂(あるいは強化材)の含有量が減少するため、樹脂組成物の強度が低下するおそれがあるという問題点があった。
【0054】
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、強度低下や溶融時の増粘をほとんど引き起こすことなくポリエステル系プラスチック成形品に優れた耐加水分解性を付与することが可能なポリエステル系プラスチック成形品の改質方法を提供することを課題とする。また、本発明は、優れた耐加水分解性を有するポリエステル系プラスチック成形品を提供することを併せて課題とする。
【0055】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係るポリエステル系プラスチック成形品の改質方法は、耐加水分解安定剤を含有する超臨界流体をポリエステル系プラスチック成形品に接触させた後、前記ポリエステル系プラスチック成形品に浸透した耐加水分解安定剤及び超臨界流体のうち超臨界流体のみを前記ポリエステル系プラスチック成形品から除去することを特徴とする。ただし、前記超臨界流体は超臨界二酸化炭素であることが好ましい。
【0056】
また、本発明に係るポリエステル系プラスチック成形品は、上記ポリエステル系プラスチック成形品の改質方法により改質されたことを特徴とする。ただし、前記耐加水分解安定剤はポリカルボジイミド化合物であることが好ましい。
本発明のポリエステル系プラスチック成形品の改質方法によれば、ポリエステル系プラスチック成形品に耐加水分解安定剤を浸透させることができるので、強度低下や溶融時の増粘をほとんど引き起こすことなく、ポリエステル系プラスチック成形品に優れた耐加水分解性を付与することができる。また、本発明のポリエステル系プラスチック成形品は、耐加水分解安定剤が浸透しているので、優れた耐加水分解性を有する。
【0057】
本実施形態のポリエステル系プラスチック成形品の改質方法は、浸漬処理工程と蒸発除去工程とからなる。浸漬処理工程は、耐加水分解安定剤を含有する超臨界二酸化炭素の中にポリエステル系プラスチック成形品を浸漬する工程であり、該工程により、相溶状態の耐加水分解安定剤及び二酸化炭素がポリエステル系プラスチック成形品の表面から内側に浸透する。
なお、超臨界二酸化炭素とは、臨界温度以上の温度を有し且つ臨界圧力以上の圧力を有する領域にある二酸化炭素である。ちなみに、二酸化炭素の臨界温度は31℃で、臨界圧力は72.8気圧(7.39MPa)である。
【0058】
浸漬処理工程における浸漬温度は、二酸化炭素の臨界温度以上であり、より好ましくは二酸化炭素の臨界温度以上且つポリエステル系プラスチック成形品を構成するポリエステル系プラスチックのガラス転移温度未満である。プラスチック材料はガラス転移温度を超えると、分子主鎖のミクロブラウン運動が可能になるまで自由体積が増加し、超臨界状態の二酸化炭素はプラスチック内部まで、より浸透しやすくなる。そうすると、プラスチック中にあらかじめ添加されている熱安定剤等の各種添加剤が逆に抽出されてしまうことも考えられ、その結果、物性が低下するおそれがあるので好ましくない。
【0059】
ただし、超臨界二酸化炭素のプラスチックへの浸透度は、温度が高い方が大きいので、浸漬温度をできるだけ高くした方が耐加水分解安定剤が浸透しやすい。浸漬温度は、ポリエステル系プラスチック材料の融点やガラス転移温度を参考に決定することが好ましく、最高でも150℃程度である。これ以上の温度であると、ポリエステル系プラスチックや耐加水分解安定剤の劣化が生じるおそれがある。
【0060】
また、浸漬処理工程における圧力は二酸化炭素の臨界圧力以上であり、より高い圧力である方が、二酸化炭素のポリエステル系プラスチックへの浸透度が向上し、改質の効率が向上するため好ましい。ただし、ポリエステル系プラスチック成形品の改質に使用する処理装置を高圧に耐え得るようにする必要が生じるため、該処理装置が大掛かりで高額なものになってしまう。したがって、処理装置の操作性や設備費等を考慮すると、圧力は100気圧以上300気圧以下(10.13MPa以上30.4MPa以下)の範囲が適当である。
【0061】
さらに、浸漬処理工程における浸漬時間は特に限定されるものではなく、ポリエステル系プラスチック成形品の厚さや大きさ等を考慮して適宜設定される。
さらに、超臨界二酸化炭素中の耐加水分解安定剤の濃度は、二酸化炭素の超臨界状態において概ね飽和溶解度となるように調整される。
なお、浸漬処理を行うにあたって、処理装置内は二酸化炭素で置換しておくことが好ましい。酸素等が残存している状態で浸漬処理を行うと、処理中にポリエステル系プラスチックが酸化劣化するおそれがある。
【0062】
次に、蒸発除去工程について説明する。処理装置内の温度を、ポリエステル系プラスチック成形品を構成するポリエステル系プラスチックのガラス転移温度未満とした後、二酸化炭素を徐々に排出することにより処理装置内の圧力をゆっくり下げて、大気圧に戻す。これにより、ポリエステル系プラスチック成形品の中に浸透した耐加水分解安定剤及び二酸化炭素のうち二酸化炭素のみが蒸発して除去され、耐加水分解安定剤はポリエステル系プラスチック成形品中に残される。超臨界状態でなくなると、耐加水分解安定剤は二酸化炭素から分離して処理装置の下部に蓄積する。
【0063】
その後、処理装置内からポリエステル系プラスチック成形品を取り出す。このとき、必要に応じて、ポリエステル系プラスチック成形品の表面に付着した耐加水分解安定剤を洗浄によって除去してもよい。また、ポリエステル系プラスチック成形品内に残存した微量の二酸化炭素を、真空乾燥等によって完全に除去してもよい。
なお、蒸発除去工程における処理装置内の温度は、ポリエステル系プラスチック成形品を構成するポリエステル系プラスチックのガラス転移温度未満とすることが好ましい。ガラス転移温度以上であると、ポリエステル系プラスチック成形品の中から二酸化炭素が除去される際に、発泡が生じる可能性が高くなる。
【0064】
以上にような2つの工程によって、ポリエステル系プラスチック成形品の内部(特に表層部)に耐加水分解安定剤の分子が浸透し、ポリエステル系プラスチック分子間の自由体積に固定化される。このことにより、ポリエステル系プラスチック成形品の表層部に耐加水分解安定剤が高濃度で存在することとなるので、ポリエステル系プラスチック成形品に優れた耐加水分解性が付与される。
【0065】
また、元々有していた自由体積に耐加水分解安定剤が固定されていることから、耐加水分解安定剤が外部に滲出することはほとんどないので、耐加水分解性が半永久的に持続する(耐加水分解性の低下が生じにくく、優れた耐加水分解性が長期間にわたって持続される)と同時に、引張強度,弾性率等の機械的強度の低下を引き起こすおそれがほとんどない。さらに、耐加水分解安定剤が添加された特殊な樹脂材料(ペレット)を用いることなく、優れた耐加水分解性を有するポリエステル系プラスチック成形品を得ることができるので、特殊な樹脂材料を用いることによる前述の問題点(強度低下や溶融時の増粘)が生じることもない。
【0066】
耐加水分解安定剤の種類は特に限定されるものではないが、超臨界流体に対して溶解性を示すものが好適である。また、室温下で安定で、自己反応が発生することのないものが好ましい。例えば、ジイソシアネート化合物の反応により得られ、分子中に2個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物があげられる。ポリカルボジイミド化合物の平均重合度は2以上30以下が好ましい。
【0067】
ポリカルボジイミド化合物の原料となるジイソシアネート化合物の具体例としては、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートとイソホロンジイソシアネートとの混合物、テトラメチルキシリレンジイソシアネート等があげられる。なお、ポリカルボジイミド化合物の分子末端のイソシアネート基は、カルボン酸,酸無水物,モノイソシアネートとの反応により封止されていてもよい。
【0068】
ポリカルボジイミド化合物の分子中に存在するカルボジイミド基は、活性水素を有する官能基、例えばカルボキシル基,アミノ基,水酸基と化学反応性を有するため、ポリカルボジイミド化合物は、ポリエステル系プラスチックの加水分解によって生じるカルボキシル基と反応してN−アシルウレアとなり、加水分解の進行を食い止める働きをする。
超臨界流体への溶解性を考慮すると、浸漬温度で液体状態となる耐加水分解安定剤が好ましいので、超臨界流体が超臨界二酸化炭素である場合には、常温で液体であるか、又は、融点(軟化点)が40℃以上150℃以下の耐加水分解安定剤が好ましい。
【0069】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた例をあげて説明したが、本発明には、他の種類の様々な超臨界流体を用いることができる。例えば、二酸化窒素,アンモニア,エタン,プロパン,エチレン,メタノール,エタノール等があげられる。ただし、二酸化炭素は比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性がなく不燃性であるため最も好ましい。
【0070】
また、本発明のポリエステル系プラスチック成形品の改質方法を好適に適用可能なポリエステル系プラスチックとしては、蒸発除去工程におけるポリエステル系プラスチック成形品の発泡を防止するために、ガラス転移温度(Tg)が超臨界流体の臨界温度よりも高いものが好ましい。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(Tg69℃),ポリブチレンテレフタレート(Tg45℃),ポリブチレンナフタレート(Tg113℃)等の半芳香族ポリエステル系樹脂や、ポリエチレンテレフタレート・サクシネート(Tg45℃)等の生分解性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂と半芳香族ポリエステル系樹脂との共重合体があげられる。
【0071】
ただし、ガラス転移温度(Tg)が超臨界流体の臨界温度以下であるものであっても、本発明のポリエステル系プラスチック成形品の改質方法を適用可能である場合がある。ガラス転移温度(Tg)が超臨界二酸化炭素の臨界温度以下であるポリエステル系プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンサクシネート(Tg−11℃),ポリブチレンサクシネート(Tg−32℃),ポリブチレンサクシネート・アジペート(Tg−45℃)等の生分解性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂や、ポリブチレンアジペート・テレフタレート(Tg−35℃),ポリエチレンテレフタレート・ブチレンアジペート(Tg27℃)等の生分解性を有する脂肪族ポリエステル系樹脂と半芳香族ポリエステル系樹脂との共重合体があげられる。また、ポリブチレンテレフタレート又はポリブチレンナフタレートをハードセグメントとするポリエステル系熱可塑性エラストマー(Tgはソフトセグメントの長さや構造によって異なるが、−70〜70℃である)もあげられる。
【0072】
これらのポリエステル系プラスチックは、ポリエステル系熱可塑性エラストマーを除いて、ジオールとジカルボン酸との脱水縮合によって生成される。また、このような脱水縮合は、分子中に水酸基とカルボキシル基との両方を有するヒドロキシカルボン酸(例えば乳酸)においても起こり、これにより得られるポリヒドロキシカルボン酸(例えばポリ乳酸、Tg58〜60℃)の耐加水分解性を向上させることに対しても、本発明は有効である。
【0073】
これらのポリエステル系プラスチックは、ガラス繊維,カーボン繊維,アラミド繊維等の繊維状充填剤や、チタン酸カリウムウィスカー,ホウ酸アルミニウムウィスカー等のウィスカーを含有していても差し支えない。また、熱安定剤,酸化防止剤等の各種添加剤を含有していてもよい。ただし、各種添加剤は、改質の処理条件によっては、抽出されることも予想されるので、処理温度や処理圧力には注意を要する。なお、各種添加剤は、あらかじめ耐加水分解安定剤とともに超臨界流体に添加しておいてもよい。
【0074】
次に、前述のようにして改質したポリエステル系プラスチック成形品を、転がり軸受,ボールねじ,リニアガイド装置,直動ベアリング,XYテーブル等の転動装置の構成部品として使用した例を説明する。転動装置とは、外面に軌道面を有する内方部材と、該内方部材の軌道面に対向する軌道面を有し前記内方部材の外方に配された外方部材と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、転動体の転動を介して内方部材及び外方部材の一方が他方に対して相対運動する装置である。
【0075】
転動装置の構成部品とは、転動装置を構成する部品を意味し、例えば内方部材,外方部材,転動体,セパレータ,保持器,密封装置があげられる。また、転動装置が、リニアガイド装置による直動案内機構が組み合わされてテーブル体が基台に対してX軸方向及びY軸方向の2方向へ移動可能とされたXYテーブルである場合には、リニアガイド装置を構成する案内レール,スライダとともにテーブル体も構成部品である。
【0076】
ここで、内方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には内輪、同じくボールねじの場合にはねじ軸、同じくリニアガイド装置の場合には案内レール、同じく直動ベアリングの場合には軸をそれぞれ意味する。また、外方部材とは、転動装置が転がり軸受の場合には外輪、同じくボールねじの場合にはナット、同じくリニアガイド装置の場合にはスライダ、同じく直動ベアリングの場合には外筒をそれぞれ意味する。
【0077】
〔使用例1〕
図1は、リニアガイド装置の構造を示す部分平面図である。ただし、該平面図においては、要部を破断して示してある。また、図2は、図1のリニアガイド装置のセパレータ及びボールの拡大図である。ただし、該拡大図においては、セパレータを破断して示してある。
図1のリニアガイド装置100は、軸方向に延びる断面略角形の案内レール(内方部材)11と、この案内レール11に組み付けられた断面略コ字状のスライダ(外方部材)12と、案内レール11の両側面に備えられたボール軌道溝(軌道面)11aとスライダ12の両袖部内側に備えられたボール軌道溝(軌道面)12aとで形成されたボール転動路15内に転動自在に配された複数のボール(転動体)13と、で構成されている。
【0078】
また、スライダ12は、スライダ本体12Aと、スライダ本体12Aの軸方向の両端部に着脱可能に取り付けられたエンドキャップ12B,12Bと、で構成されている。このエンドキャップ12B内には、ボール転動路15の一端から転動してくるボール13を他端に戻すボール循環路16とボール転動路15とを連通させる略U字状のボール戻し通路17が備えられており、ボール13がボール循環路16を経てボール転動路15を繰返し転動できるようになっている。そして、ボール13のボール転動路15に沿う転がり運動を介して、スライダ12が案内レール11の長手方向に直線運動を行うようになっている。
【0079】
このリニアガイド装置100においては、図2に示すように隣接する各ボール13の間にセパレータ18が介装されており、各ボール13の間の競り合いが抑制されるようになっている。このセパレータ18は、図2に示すように略円柱形状を有しており、ボール13との接触面である両底面18a,18aは図2に示すように凹面状とされている。凹面状であると、ボール13との接触面積が大きくなるので、接触面圧が軽減される。この凹面18aの断面形状は、ゴシックアーチ形状(中心の異なる2つの同一円弧を組合せた略V字状)でもよいし、円弧状でもよい。なお、ボール13との接触面である両底面18a,18aは、平面状であってもよい。
【0080】
リニアガイド装置100の構成部品のうちスライダ本体12Aはマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成され、エンドキャップ12Bはオーステナイト系ステンレス鋼SUS304で構成されている。また、リニアガイド装置100の構成部品のうち案内レール11及びボール13は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。
【0081】
さらに、セパレータ18はポリエステル系プラスチック(例えば、ポリブチレンナフタレートをハードセグメントとするポリエステル系熱可塑性エラストマー)で構成されており、以下のような耐加水分解安定剤の含浸処理が施されている。すなわち、ポリエステル系プラスチック成形品に超臨界二酸化炭素と耐加水分解安定剤との相溶化物を接触させ、浸透した耐加水分解安定剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを除去する処理である。
【0082】
ここで、前記含浸処理の詳細な手順を説明する。まず、耐圧硝子工業株式会社製の超臨界二酸化炭素試験装置の圧力容器内に、セパレータと数mlの耐加水分解安定剤とを装入した。さらに、圧力容器の内部圧力が20MPaになるまで、二酸化炭素を液化二酸化炭素ボンベから圧力容器にポンプを使用して充填した。次に、減圧バルブを用いて圧力容器の内部圧力を20MPaに保ちながら、圧力容器の内部温度を100℃に昇温させた。この温度で1時間保持した後、室温まで放冷し、内部圧力をゆっくりと大気圧に戻して圧力容器からセパレータを取り出した。
このような含浸処理により、セパレータ18の表面層には耐加水分解安定剤が浸透し、耐加水分解性が付与されるので、リニアガイド装置100の耐久性が向上する。
【0083】
〔使用例2〕
図3は、ボールねじの構造を示す斜視図である。ただし、該斜視図においては、要部を破断して示してある。
図3のボールねじ200は、外周面に螺旋状のねじ溝(軌道面)21aを有するねじ軸(内方部材)21と、このねじ溝21aと対向するねじ溝(軌道面)22aを内周面に有するナット(外方部材)22と、両ねじ溝21a,22aの間に形成されたボール転動路に転動自在に配された複数のボール(転動体)23と、で構成されている。ナット22には、前記ボール転動路の一端に転動してくるボール23をすくい上げて他端に送るリターンチューブ(ボール循環路)27が取り付けられている。そして、このボールねじ200は、複数のボール23の転動を介してねじ軸21とナット22とを相対回転させることによって、ねじ軸21とナット22とが軸方向に相対移動するようになっている。
【0084】
このボールねじ200においては、隣接する各ボール23の間に使用例1と同様の図示されないセパレータが介装されており、各ボール23の間の競り合いが抑制されるようになっている。
ボールねじ200の構成部品のうちナット22はマルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成され、リターンチューブ27はオーステナイト系ステンレス鋼SUS304で構成されている。また、ボールねじ200の構成部品のうちねじ軸21及びボール23は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。そして、ねじ軸21のねじ溝21aの表面,ナット22のねじ溝22aの表面,ボール23の表面,及びリターンチューブ27の内面には、潤滑膜が被覆されている。
さらに、セパレータは使用例1と同様にポリエステル系プラスチックで構成されており、その表面には使用例1と同様の含浸処理が施されている。よって、使用例1のリニアガイド装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0085】
〔使用例3〕
図4は、転がり軸受(深溝玉軸受)の構造を示す断面図である。また、図5は、図4の転がり軸受に組み込まれた保持器の斜視図である。
図4の転がり軸受300は、外周面に軌道面31aを有する内輪(内方部材)31と、内輪31の軌道面31aに対向する軌道面32aを有し内輪31の外方に配置された外輪(外方部材)32と、両軌道面31a,32a間に転動自在に配置された複数の転動体(玉)33と、両軌道面31a,32a間に転動体33を保持する保持器34と、シールド35,35と、を備えている。
【0086】
転がり軸受300の構成部品のうち内輪31,外輪32,及び転動体33は、マルテンサイト系ステンレス鋼SUS440Cで構成されている。そして、内輪31の軌道面31aの表面,外輪32の軌道面32aの表面,及び転動体33の表面には、潤滑膜が被覆されている。
また、この転がり軸受300の保持器34は、使用例1と同様にポリエステル系プラスチック(例えば、ガラス繊維で強化されたポリブチレンテレフタレート,ガラス繊維で強化されたポリエチレンテレフタレート・サクシネート,ケナフ繊維で強化されたポリ乳酸)で構成されており、その表面には使用例1と同様の含浸処理が施されている。よって、使用例1のリニアガイド装置100の場合と同様の効果が得られる。
【0087】
なお、使用例3においては冠形保持器を例示して説明したが、保持器の種類は特に限定されるものではなく、例えば、かご形保持器、つの形保持器、波形保持器等でも差し支えない。
また、転動体33は、保持器34と同種のポリエステル系プラスチックで構成されていてもよいし、ガラスやセラミックスで構成されていてもよい。
【0088】
さらに、本使用例においては転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、本発明は、他の種類の様々な転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0089】
〔使用例4〕
図11は樹脂製プーリの正面図であり、図12は図11の樹脂製プーリのA−A断面図である。
この樹脂製プーリ50は、転がり軸受51と樹脂部52とからなる。転がり軸受51は、内輪,外輪,転動体,保持器,及び接触ゴムシールとからなる深溝玉軸受である。また、樹脂部52は、ガラス繊維等の強化繊維を含有するポリエステル系プラスチック(例えば、ポリブチレンテレフタレート,ポリエチレンテレフタレート・サクシネート,ポリエチレンテレフタレート・ブチレンアジペート)で構成されており、外輪の外周面に射出成形(インサート成形)等により一体的に取り付けられている。
【0090】
樹脂部52は、転がり軸受51が嵌合される内径側円筒部52aと、外径側円筒部52bと、両円筒部52a,52bを連結する円板部52cと、樹脂部52を補強するための複数のリブ52dと、からなる。そして、外径側円筒部52bの外周面52eが、図示しない駆動用ベルトのベルト案内面をなす。
このような樹脂製プーリ50において、樹脂部52は、前述のような超臨界流体を用いた改質処理により耐加水分解安定剤が表層部に固定化されたプラスチック成形品で構成されている。このため、樹脂製プーリ50は、優れた耐加水分解性を有している。
【0091】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。ガラス繊維で強化されたポリブチレンテレフタレート(ガラス繊維の含有量は30質量%である)を射出成形して、引張強度を測定するための試験片(ダンベル片)を作製した。そして、前述のような含浸処理を施して、耐加水分解安定剤であるポリカルボジイミド化合物(日清紡績株式会社製のカルボジライトHMV−8CA、軟化点65℃)を含浸させた。本実施例においては、浸漬温度を150℃、圧力を15MPa、浸漬時間を1時間とした。この含浸処理により、試験片の重量が0.9質量%増量した。
含浸処理を施した試験片を120℃の熱水に24時間浸漬して加水分解させた後、引張強度を測定した。結果を表2に示す。なお、表2に記載した引張強度の数値は、比較例の試験片の引張強度を100とした場合の相対値で示してある。
【0092】
【表2】

【0093】
表2から分かるように、含浸処理を施していない比較例の試験片は、熱水に浸漬したことにより加水分解が進行したため、引張強度が大きく低下した。これに対して、含浸処理を施して表層部に耐加水分解安定剤を含浸させた実施例の試験片は、加水分解が抑制されたため、熱水に浸漬しても引張強度の低下がほとんどなかった。
〔第三実施形態〕
本発明は、転がり軸受に関する。
【0094】
電動工具用モータ,ファンモータとして使用される小型汎用モータの回転軸は低トルクで高速回転するが、この回転軸を支承する転がり軸受として、例えば特開2001−90736号公報に記載のものがある。この転がり軸受は、高速回転及び長寿命を実現するために、転動体(玉)の直径を転がり軸受の径方向厚さの50%以下とし、且つ、転動体(玉)のピッチ円直径を転がり軸受の断面中心径よりも小さくしている。
【0095】
このような構成により、転動体(玉)に作用する遠心力やグリースの撹拌抵抗を低減し、転がり軸受の発熱を抑制し、グリースの飛散を少なくするとともに、複数の転動体を転動させるために要するモーメントを小さくして、低トルク化を図っていた。
また、特開2001−90736号公報に記載のものに残されていた課題である組み付け作業性の向上と、シール性能の改善のために、内輪の外周面の形状を変更したものが、特開2003−287031号公報に提案されていた。
【0096】
しかしながら、これら従来の低トルク化が図られた転がり軸受においては、保持器は一般的な材料であるガラス繊維強化ポリアミド樹脂で構成され、グリースは生分解性を有していない通常のものが使用されていた。そのため、内輪,外輪,転動体等の鋼製部材は土壌中に放置されることによって腐食が進行し、最終的には分解されるが、ポリアミド樹脂で構成された保持器や一般的な油(例えばポリα−オレフィン油,鉱油)を基油とするグリースは全く分解されず、自然環境汚染の一因となるおそれがあった。
そこで、本発明は上記のような従来技術が有する問題点を解決し、土壌,海,河川等の自然環境に放置された場合にほぼ全体が分解する低トルクな転がり軸受を提供することを課題とする。
【0097】
前記課題を解決するため、本発明は次のような構成からなる。すなわち、本発明に係る転がり軸受は、外面に軌道面を有する内輪と、前記内輪の軌道面に対向する軌道面を有する外輪と、前記両軌道面間に転動自在に配された複数の転動体と、前記転動体を前記両輪の間に保持する保持器と、前記両輪の間に介在され前記両輪の間の隙間の開口を覆う密封装置と、前記両輪と前記密封装置とに囲まれ前記転動体が内設された軸受内部空間内に封入された潤滑剤と、を備え、
【0098】
前記転動体のピッチ円直径が軸受の断面中心径である(前記外輪の外径寸法+前記内輪の内径寸法)/2よりも小さく、前記転動体の直径が前記軸受の厚さである(前記外輪の外径寸法−前記内輪の内径寸法)/2の50%以下とされた転がり軸受において、
前記内輪,前記外輪,及び前記転動体を鋼製とし、前記保持器及び前記密封装置のうち少なくとも前記保持器を生分解性樹脂製とするとともに、前記潤滑剤を生分解性を有する潤滑剤としたことを特徴とする。
【0099】
前記生分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましい。そして、ポリビニルアルコール系樹脂には、耐水処理を施すことが好ましい。
本発明の転がり軸受は、土壌,海,河川等の自然環境に放置された場合にほぼ全体が分解するとともに、低トルクである。
本発明に係る転がり軸受の実施の形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0100】
図13は、本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。図13の深溝玉軸受600は、外周面に軌道面61aが形成された内輪61と、内輪61の軌道面61aに対向する軌道面62aが内周面に形成された外輪62と、両軌道面61a,62a間に転動自在に配された複数の転動体63と、内輪61及び外輪62の間に複数の転動体63を保持する保持器64と、外輪62の両端部の内周面に取り付けられたシールド65,65と、を備えている。このシールド65は内輪61及び外輪62の間に介在され、内輪61の外周面と外輪62の内周面との間の開口部分をほぼ覆っている。
【0101】
また、内輪61と外輪62とシールド65,65とに囲まれ転動体63が配された空隙部(軸受内部空間)内には、潤滑油,グリース等の潤滑剤(図示せず)が封入されており、シールド65により深溝玉軸受内部に密封されている。
さらに、転動体63のピッチ円直径Dpは、深溝玉軸受600の断面中心径Dmである(外輪62の外径寸法D+内輪61の内径寸法d)/2よりも小さく設定されている。さらに、転動体63の直径Dbは、深溝玉軸受600の径方向厚さwである(外輪62の外径寸法D−内輪61の内径寸法d)/2の50%以下に設定されている。したがって、内輪61の径方向肉厚tは、比較的薄いものとなっている。
【0102】
さらに、内輪61の外周面の形状は、内輪61の軌道面61aの軸方向端部61cから深溝玉軸受600の側面に向かって軸方向に平行且つ直線状に形成されている。このことにより、内輪61の径方向肉厚tを比較的薄くしたにもかかわらず、内輪61の側面部61dには比較的大きさな平面部が形成されることとなる。さらに、内輪61の外周面には、シールド65の内周部65aが対向して配置されることによってラビリンスが形成されている。
【0103】
なお、非接触式のシールド65の代わりに接触シールを用いてもよい。また、シールド65や接触シールは、内輪61に取り付けてもよいが、外輪62に取り付けてもよい。さらに、内輪61の外周面の形状は、図13に示すような軸方向に平行且つ直線状に限定されるものではなく、直線状ではなく段差を有する形状(図14を参照)でもよい。
この深溝玉軸受600においては、内輪61,外輪62,及び転動体63は鋼製であり、保持器64及びシールド65は生分解性樹脂製である。また、前記潤滑剤は、生分解性を有するものである。生分解性樹脂としては、ポリビニルアルコール系樹脂が好ましく、耐水処理が施されたポリビニルアルコール系樹脂がより好ましい。
【0104】
このような深溝玉軸受600は、土壌,海,河川等の自然環境に放置された場合にほぼ全体が分解するので、自然環境に悪影響を及ぼすおそれがほとんどない。また、転動体63のピッチ円直径Dpを深溝玉軸受600の断面中心径Dmよりも小さく設定し、転動体63の直径Dbを深溝玉軸受600の径方向厚さwの50%以下に設定したので、転動体63に作用する遠心力や潤滑剤の攪拌抵抗を低減させることができ、潤滑剤の飛散が少なくなるとともに、軸受の発熱の抑制,低トルク化,省エネルギー化を達成することができる。
【0105】
また、内輪61の側面部61dに十分な大きさの平面部を確保したので、深溝玉軸受600を軸へ圧入する時に圧入治具との接触面積を大きく取ることができ、深溝玉軸受600を容易に圧入することができる(軸への組込み性が向上されている)。また、軸の肩平面(図示せず)との接触面積を大きく取ることができるため、軸肩とのフレッチング摩耗が低減される。さらに、側面部61dの内径d側の角部に十分な大きさの面取り61eが形成されているので、軸との干渉による集中応力が該角部に発生することはない。
【0106】
さらに、内輪61の円筒状の外周面にはラビリンスが形成されているので、深溝玉軸受600の内部から潤滑剤が洩れ出したり、外部から異物が侵入することはない。
このような深溝玉軸受600は、低トルクが要求される小型汎用モータの回転軸を支承する用途に好適である。小型汎用モータは、エアコンディショナー,換気扇,自動車用ファン,空気清浄機等に用いられるファンモータや電動工具用モータとして使用される。
【0107】
ここで、本発明の転がり軸受において使用される生分解性樹脂について説明する。主に保持器に使用される生分解性樹脂に求められる特性としては、一定レベル以上の耐熱性,機械的強度,耐油性等である。また、冠形保持器等においてはポケットに転動体(玉)を嵌め込むことから、一定レベル以上の靱性も求められる。以上のような条件を満たす生分解性樹脂としては、融点が200℃以上であるポリビニルアルコール系樹脂やポリエチレンテレフタレート変性樹脂があげられ、特にこれらの樹脂にガラス繊維等の繊維強化材を配合した樹脂組成物が好ましい。
【0108】
ポリビニルアルコール系樹脂としては、部分鹸化ポリビニルアルコール変性樹脂(融点は200〜210℃)や、部分鹸化ポリビニルアルコール樹脂(融点は200〜230℃の範囲内にある)と前記部分鹸化ポリビニルアルコール変性樹脂との混合物があげられる。一般に、ポリビニルアルコール樹脂は、酢酸ビニルの重合で得られるポリ酢酸ビニルを鹸化することによって得られるが、単独では靱性が若干劣る。鹸化度(mol%)が71〜99.5mol%のものが存在するが、鹸化度が高い方がより高融点であり、鹸化度が90mol%以上のものがより好ましい。
【0109】
部分鹸化ポリビニルアルコール変性樹脂は、鹸化度が90mol%以上と鹸化度レベルが高く、分子構造中に靱性を向上させる変性部分を有することにより、柔軟性が向上している。変性部分の構造としては、ポリオキシエチレン,ポリオキシプロピレン等のオキシアルキレン基などが好適である。オキシアルキレン基を導入するためには、ポリビニルアルコールの出発原料である酢酸ビニルとポリオキシエチレンアリルエーテル等のポリオキシアルキレンアリルエーテルとを共重合する。そして、共重合体のポリ酢酸ビニル部分を部分的に鹸化すると、部分鹸化ポリビニルアルコール変性樹脂が得られる。
【0110】
変性度合い、すなわち、ポリオキシアルキレンアリルエーテルのような変性成分の共重合比は、1〜10mol%が好ましい。変性度合いが1mol%未満であると、靱性の向上が不十分となり実用性が低くなるおそれがある。一方、10mol%超過であると、融点が低くなり過ぎるとともに、親水性が高くなり耐水性が悪化するという問題が生じるおそれがある。
【0111】
このようなポリビニルアルコール系樹脂は耐油性に優れているので、軸受に使用された際に潤滑油,グリース等の油脂類に晒されても、問題は生じない。ただし、ポリビニルアルコール系樹脂は水溶性を有するので、水分が付着したり、高湿度環境におかれた場合は、軟化や変形等の不都合が生じる可能性が高い。よって、使用時に潤滑剤が付着した状態となる保持器の材料とする場合はそれほど問題はないが、外部環境に晒されるシール等の密封装置の材料とする場合には、その表面に耐水処理を施すことが好ましい。
【0112】
以下に、耐水処理について説明する。ポリビニルアルコール系樹脂(成形品)の耐水処理は、架橋剤を含有する超臨界二酸化炭素の中に成形品を浸漬する浸漬処理工程と、成形品に浸透した架橋剤及び超臨界二酸化炭素のうち超臨界二酸化炭素のみを成形品から除去する蒸発除去工程とからなる。
浸漬処理工程により、相溶状態の架橋剤及び二酸化炭素が成形品の表面から内側に浸透する。なお、超臨界二酸化炭素とは、臨界温度以上の温度を有し且つ臨界圧力以上の圧力を有する領域にある二酸化炭素である。ちなみに、二酸化炭素の臨界温度は31℃で、臨界圧力は72.8気圧(7.39MPa)である。
【0113】
浸漬処理工程における浸漬温度は、二酸化炭素の臨界温度以上であり、より好ましくは二酸化炭素の臨界温度以上且つ成形品を構成するポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度以上である。ちなみに、ポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度は、完全に鹸化されたもので74℃である。部分的に鹸化されたものや変性されたものはその分だけ低くなり、最低でも40℃程度である。
【0114】
プラスチック材料はガラス転移温度を超えると、分子主鎖のミクロブラウン運動が可能になるまで自由体積が増加し、超臨界状態の二酸化炭素はプラスチック内部まで、より浸透しやすくなる。そうすると、架橋剤もプラスチック中に浸透しやすくなる。また、超臨界二酸化炭素のプラスチックへの浸透度は、温度が高い方が大きいので、浸漬温度をできるだけ高くした方が架橋剤も浸透しやすい。
【0115】
ただし、浸漬温度は、架橋剤の浸透性とともに、架橋剤の反応性とポリビニルアルコール系樹脂の劣化とを考慮する必要がある。よって、ポリビニルアルコール系樹脂の分子構造中の水酸基が架橋剤と円滑に反応するとともに、ポリビニルアルコール系樹脂自体の劣化が最小限に抑えられる温度である100〜150℃が好適である。
また、浸漬処理工程における圧力は二酸化炭素の臨界圧力以上であり、より高い圧力である方が、二酸化炭素のポリビニルアルコール系樹脂への浸透度が向上し、架橋剤の浸透の効率が向上するため好ましい。ただし、成形品の改質に使用する処理装置を高圧に耐え得るようにする必要が生じるため、該処理装置が大掛かりで高額なものになってしまう。したがって、処理装置の操作性や設備費等を考慮すると、圧力は100気圧以上300気圧以下(10.13MPa以上30.4MPa以下)の範囲が適当である。
【0116】
さらに、浸漬処理工程における浸漬時間は特に限定されるものではなく、成形品の厚さや大きさ等を考慮して適宜設定される。
さらに、超臨界二酸化炭素中の架橋剤の濃度は、二酸化炭素の超臨界状態において概ね飽和溶解度となるように調整される。
なお、浸漬処理を行うにあたって、処理装置内は二酸化炭素で置換しておくことが好ましい。酸素等が残存している状態で浸漬処理を行うと、処理中にポリビニルアルコール系樹脂が酸化劣化するおそれがある。
【0117】
次に、蒸発除去工程について説明する。処理装置内の温度を、成形品を構成するポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度未満(例えば40℃未満)とした後、二酸化炭素を徐々に排出することにより処理装置内の圧力をゆっくり下げて、大気圧に戻す。これにより、成形品の中に浸透した架橋剤及び二酸化炭素のうち二酸化炭素のみが蒸発して除去され、架橋剤は成形品中に残される。超臨界状態でなくなると、架橋剤は二酸化炭素から分離して処理装置の下部に蓄積する。
【0118】
その後、処理装置内から成形品を取り出す。このとき、必要に応じて、成形品の表面に付着した架橋剤を洗浄によって除去してもよい。また、成形品内に残存した微量の二酸化炭素を、加熱,真空乾燥等によって完全に除去してもよい。
なお、蒸発除去工程における処理装置内の温度は、成形品を構成するポリビニルアルコール系樹脂のガラス転移温度未満とすることが好ましい。ガラス転移温度以上であると、成形品の中から二酸化炭素が除去される際に、発泡が生じる可能性が高くなる。
【0119】
以上にような2つの工程によって、成形品の内部(特に表層部)に架橋剤の分子が浸透し、ポリビニルアルコール系樹脂分子間の自由体積に固定化される。そして、固定化された架橋剤の少なくとも一部は、ポリビニルアルコール系樹脂を架橋させる。このことにより、成形品の表層部のポリビニルアルコール系樹脂分子が架橋されるので、水への溶解性が低下し、成形品に優れた耐水性が付与される。よって、水分に晒されるような環境下で使用されても、容易に軟化や変形が起こることはなくなり、転がり軸受の信頼性が向上する。ただし、表層部が架橋しているため、成形品が土壌等に放置された場合の生分解の進行が遅延することになるが、一旦生分解が始まれば徐々に進行していくので、生分解せずに残存するということはない。
【0120】
架橋剤の種類は特に限定されるものではないが、超臨界流体に対して溶解性を示すものが好適である。また、ポリビニルアルコール系樹脂の分子構造中の水酸基と反応性を有し、且つ、自己反応性がないものが好ましい。例えば、ポリカルボジイミドやジメチロール尿素があげられる。超臨界流体への溶解性を考慮すると、浸漬温度で液体状態となる架橋剤が好ましいので、超臨界流体が超臨界二酸化炭素である場合には、常温で液体であるか、又は、融点が40℃以上150℃以下である架橋剤が好ましい。
【0121】
次に、ポリエチレンテレフタレート変性樹脂について説明する。ポリエチレンテレフタレート変性樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート・サクシネート共重合体やポリエチレンテレフタレート・ブチレンアジペート共重合体があげられる。
ただし、ポリエチレンテレフタレート変性樹脂は、保持器の材料として用いる場合はガラス繊維等の繊維強化材が配合されることが多いが、そうすると材料の伸びが低くなるため、保持器の種類が冠形保持器等の場合には、射出成形時に金型から無理抜きを行うと亀裂等の破損が発生することが多い。よって、繊維強化材が配合されたポリエチレンテレフタレート変性樹脂組成物で保持器を構成することは難しい場合があるので、そのような場合には、化学構造が類似し且つ伸びの大きい他種の生分解性樹脂を混合して使用することが好ましい。
【0122】
このような生分解性樹脂としては、例えばポリブチレンアジペート・テレフタレートがあげられる。このポリブチレンアジペート・テレフタレートは、融点が105〜115℃で、引張伸びが500〜600%(厚さ50μmのフィルムで測定)である。ポリブチレンアジペート・テレフタレートを5質量%以上20質量%以下(すなわち、ポリエチレンテレフタレート変性樹脂は80質量%以上95質量%以下)混合すれば、繊維強化材が配合されても樹脂組成物の伸びが大きくなり、保持器の成形時に割れ等の破損が発生することがほとんどない。
【0123】
ポリブチレンアジペート・テレフタレートの混合割合が5質量%未満であると、樹脂組成物の伸びが不十分となって、保持器の成形時に割れ等の破損が発生するおそれがある。一方、20質量%超過であると、樹脂組成物の伸びは大きくなるものの、低融点のポリブチレンアジペート・テレフタレートの混合割合が多いために樹脂組成物の耐熱性が不十分となるおそれがある。
【0124】
ここで、強度向上を目的として使用される繊維強化材について説明する。強度向上効果及びコストを考えると、繊維強化材としてはガラス繊維が最も好ましいが、自然環境に及ぼす悪影響を考えると、軽質炭酸カルシウム(結晶形はカルサイト,アルゴナイト),天然含水ケイ酸アルミニウム(カオリン,クレー),タルク,ベントナイト,繊維状水酸化マグネシウム,ウォラストナイト,セピオライト,マイカ,珪藻土,植物繊維(例えばケナフ繊維)が好ましい。
【0125】
繊維強化材の含有量は、樹脂組成物の15質量%以上40質量%以下(すなわち、樹脂成分は60質量%以上85質量%以下)とすることが好ましい。繊維強化材の含有量が15質量%未満であると、樹脂組成物の強度が不十分となり、冠形保持器の材料として不適となるおそれがある。一方、40質量%超過であると、樹脂組成物の強度は向上するものの伸びが不十分となり、冠形保持器を射出成形して金型から離型する際に亀裂等の破損が発生するおそれがある。このような不都合がより生じにくくするためには、繊維強化材の含有量は、樹脂組成物の20質量%以上35質量%以下とすることがより好ましい。
【0126】
次に、本発明の転がり軸受において使用される潤滑剤について説明する。生分解性を有する潤滑油としては、植物油(例えば菜種油),ポリオールエステル(例えばペンタエリスリトールエステル,ジペンタエリスリトールエステル),脂肪酸ジエステル(例えばジオクチルセバケート)等があげられる。
また、生分解性を有するグリースとしては、上記潤滑油を基油とするものがあげられる。グリースに使用する増ちょう剤の種類は特に限定されるものではないが、基油に対して相性の良いものが好ましい。例えば、金属石けん(例えばステアリン酸リチウム),金属複合石けん,ポリウレア,カルシウムスルフォネートコンプレックスがあげられる。なお、潤滑油やグリースには、酸化防止剤,防錆剤,極圧剤,油性向上剤等の一般的な添加剤を配合してもよい。
【0127】
なお、本実施形態は本発明の一例を示したものであって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。
例えば、本実施形態においては、超臨界流体として超臨界二酸化炭素を用いた例をあげて説明したが、本発明には、他の種類の様々な超臨界流体を用いることができる。例えば、二酸化窒素,アンモニア,エタン,プロパン,エチレン,メタノール,エタノール等があげられる。ただし、二酸化炭素は比較的穏和な条件で超臨界流体となり、しかも毒性がなく不燃性であるため最も好ましい。
【0128】
また、本実施形態においては、転がり軸受の例として深溝玉軸受をあげて説明したが、転がり軸受の種類は深溝玉軸受に限定されるものではなく、本発明は様々な種類の転がり軸受に対して適用することができる。例えば、アンギュラ玉軸受,自動調心玉軸受,円筒ころ軸受,円すいころ軸受,針状ころ軸受,自動調心ころ軸受等のラジアル形の転がり軸受や、スラスト玉軸受,スラストころ軸受等のスラスト形の転がり軸受である。
【0129】
〔実施例〕
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。図14の深溝玉軸受とほぼ同様の構成の転がり軸受を用意して回転試験を行い、耐久性を評価した。この転がり軸受は、呼び番号GR608の深溝玉軸受であり、内径8mm、外径22mm、幅8mm、ピッチ円直径13mm、転動体(玉)の直径3.175mmである。また、内輪,外輪,及び転動体はSUJ2製であり、冠形保持器及び非接触シールは生分解性樹脂組成物製である。
【0130】
この生分解性樹脂組成物は、部分鹸化ポリビニルアルコール変性樹脂(日本合成化学工業株式会社製のエコマティAX グレードAX−2000)70質量%と、ガラス繊維30質量%とを混合したものである。
なお、非接触シールについては、超臨界二酸化炭素を用いた耐水処理が施してある。以下に耐水処理について説明する。試料台上に非接触シールを載置するとともに、試料台の下部に設けられた空間に架橋剤を非接触シールに接触しないように装入した。使用した架橋剤は、ポリカルボジイミド化合物(日清紡績株式会社製のカルボジライトV−05)である。
【0131】
この試料台を高圧容器内に入れ、高圧容器内の空気を二酸化炭素で置換した後、高圧容器内の温度が150℃になるまで加熱した。150℃で10分間保持したら、室温まで徐冷した。このとき、高圧容器内の圧力はリーク弁を用いて調節し、10MPaに維持した。ただし、徐冷時には圧力は自然に低下する。温度が室温まで低下したら、リーク弁を解放して二酸化炭素を徐々に排出し、高圧容器内の圧力を大気圧とした。そして、高圧容器内から非接触シールを取り出し、アセトン中で超音波洗浄を行って、表面に付着した架橋剤を除去した。
【0132】
さらに、この深溝玉軸受の軸受内部空間には、生分解性グリースが充填されている。この生分解性グリースは日本精工株式会社製のエクセラグリーンNS7であり、その基油はポリオールエステルとジオクチルセバケートの混合油で、増ちょう剤はリチウム石けんである。また、生分解性グリースの充填量は、軸受内部空間の容積の35体積%である。
この深溝玉軸受を、雰囲気温度100℃、アキシアル荷重49N、回転速度2000min-1の条件で回転させて、軸受温度や保持器,非接触シールの破損状況を調べた。その結果、2000時間回転させても異常は見られず、保持器及び非接触シールには変形,亀裂等の破損は発生しなかった。
【0133】
これに対して、保持器がポリ乳酸樹脂組成物(ユニチカ株式会社製のテラマックTE−7307、鉱物系充填剤で強化された樹脂組成物であり、樹脂の融点は170℃である)で形成されている点を除いて、上記実施例と全く同様の構成の深溝玉軸受は、約100時間回転させた時点で外輪の温度が上昇した。軸受を分解して調べたところ、保持器に変形と一部溶融した跡とが見られた。
【図面の簡単な説明】
【0134】
【図1】改質されたプラスチック成形品の使用例を説明するリニアガイド装置の構造を示す平面図である。
【図2】図1のリニアガイド装置のセパレータ及びボールの拡大図である。
【図3】改質されたプラスチック成形品の別の使用例を説明するボールねじの構造を示す斜視図である。
【図4】改質されたプラスチック成形品の別の使用例を説明する転がり軸受(深溝玉軸受)の構造を示す断面図である。
【図5】図4の転がり軸受に組み込まれた保持器の斜視図である。
【図6】改質されたプラスチック成形品の別の使用例を説明する転がり軸受(アンギュラ玉軸受)の構造を示す断面図である。
【図7】図6の転がり軸受に組み込まれた保持器の側面図である。
【図8】XPS分析の結果を示すチャートである。
【図9】PA66製円板に含浸されたフッ素系界面活性剤の含浸深さを分析した結果を示すチャートである。
【図10】PPS製円板に含浸されたフッ素系界面活性剤の含浸深さを分析した結果を示すチャートである。
【図11】改質されたプラスチック成形品の別の使用例を説明する樹脂製プーリの正面図である。
【図12】図11の樹脂製プーリのA−A断面図である。
【図13】本発明に係る転がり軸受の一実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【図14】本発明に係る転がり軸受の別の実施形態である深溝玉軸受の構造を示す部分縦断面図である。
【符号の説明】
【0135】
11 案内レール
11a ボール軌道溝
12 スライダ
12a ボール軌道溝
13 ボール
18 セパレータ
21 ねじ軸
21a ねじ溝
22 ナット
22a ねじ溝
23 ボール
31,41 内輪
32,42 外輪
33,43 転動体
34,44 保持器
50 樹脂製プーリ
51 転がり軸受
52 樹脂部
61 内輪
61a 軌道面
62 外輪
62a 軌道面
63 転動体
64 保持器
65 シールド
100 リニアガイド装置
200 ボールねじ
300 転がり軸受
600 深溝玉軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素系界面活性剤を含有する超臨界流体をプラスチック成形品に接触させた後、前記プラスチック成形品に浸透したフッ素系界面活性剤及び超臨界流体のうち超臨界流体のみを前記プラスチック成形品から除去することを特徴とするプラスチック成形品の改質方法。
【請求項2】
前記超臨界流体を超臨界二酸化炭素としたことを特徴とする請求項1に記載のプラスチック成形品の改質方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のプラスチック成形品の改質方法により改質されたプラスチック成形品。
【請求項4】
プラスチックが結晶性高分子であることを特徴とする請求項3に記載のプラスチック成形品。
【請求項5】
前記結晶性高分子が、ポリエチレン,ポリオキシメチレン,ポリフッ化ビニリデン,ポリアミド6,ポリアミド46,ポリアミド66,ポリフェニレンサルファイド,及びポリエーテルエーテルケトンのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項4に記載のプラスチック成形品。
【請求項6】
前記フッ素系界面活性剤が、フルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエステル,パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物,フルオロアルキルエチレンオキシド付加物,パーフルオロアルキルアミンオキシド付加物,及びパーフルオロアクリレート構造を有するオリゴマーのうちの少なくとも1種であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載のプラスチック成形品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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