説明

プラズマガン

【課題】補助陰極および主陰極のメンテナンスを容易にできるプラズマガンを提供する。
【解決手段】円筒状容器17の一端の開口縁部を中間電極1bに固定し、他端の開口縁部にテーパ状フランジ部46を形成する。円筒状容器17の内部に、陰極取付基体11に対して着脱自在に取り付けた円筒状の保護部材15を配置し、この保護部材15の内部に陰極取付基体11および保護部材15に対して着脱自在に取り付けた補助陰極14および主陰極16を配置する。円筒状容器17のテーパ状フランジ部46にシール部材47を介して陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48を対称に突き合わせ配置し、テーパ状フランジ部46,48にまたがって外周側から固定手段61の凹溝62を被嵌する。固定手段61は、複数のブロック63をリンク64によりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結した環状体の一端および他端に位置するブロックを1本のネジ式操作杆により接近する方向に締め付け可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物理気相成長法(PVD:Physical Vapor Deposition)または化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)で用いられるプラズマガンに関する。
【背景技術】
【0002】
PVDとしては、イオンプレーティング法、真空蒸着法、スパッタリング法などが知られている。
【0003】
例えば、イオンプレーティング法では、図4に示されるようなイオンプレーティング装置が知られている。このイオンプレーティング装置は、陰極(カソード部)1aおよび中間電極1bを備えたプラズマガン1を真空チャンバ2の側面に取り付け、アルゴンガスなどのキャリアガスの供給を受けながら放電電源3から負の電圧が印加されたプラズマガン1によりガス放電させてプラズマ4を発生させ、このプラズマ4を収束用空芯コイル5内を経て真空チャンバ2内に発射し、この真空チャンバ2内にマグネット6とともに陽極(ハース)として設置されたチタンなどの蒸着金属7に照射し、この蒸着金属7を溶解・蒸気化させる。このとき、電子と分離して+イオン化された蒸着金属粒子は、真空チャンバ2内でイオン集積電源8により負の電圧が印加されたワークWの表面に引き寄せられて密着され金属被膜となる。
【0004】
真空チャンバ2内は、先ず真空ポンプ(図示せず)に接続された排気口2aから内部空気を外部へ排気して真空度を高めることで、蒸着金属7の蒸気化を促すとともに電子運動を活発化させ、また、上記真空チャンバ2内に反応ガス導入口2bから、窒素などの反応ガスを導入することで、蒸着金属粒子は、この反応ガスと反応した化合物の被膜となってワークWの表面に形成される。
【0005】
このようなイオンプレーティング法で用いられるプラズマガンの陰極(カソード部)としては、両端の開口縁にフランジ部が形成された円筒状容器(ガラス管)の内部空間により放電空間が形成され、この円筒状容器の一端のフランジ部は中間電極の大径フランジ部に固定され、他端のフランジ部には円板状の陰極取付基体が蓋状に取り付けられている。
【0006】
この陰極取付基体の取付構造は、陰極取付基体の外周縁にねじ込まれた複数のボルトと、これらのボルトにより円筒状容器のフランジ部を挟圧するように固定するリング状の押え部材とにより構成されている。
【0007】
上記陰極取付基体には、パイプ状の補助陰極が取り付けられ、この補助陰極の基端部は、アルゴンガス供給配管に接続され、補助陰極の先端からアルゴンガスが放電空間内に供給され、また、補助陰極の先端近傍の外周部には、円環状の主陰極が設けられ、補助陰極および主陰極は、直流電源の負極と抵抗体を介して電気的に接続されている。
【0008】
さらに、陰極取付基体の裏面には、陰極取付基体の中心軸と同軸状に、補助陰極より大径に形成された円筒状の保護部材が取り付けられ、補助陰極および主陰極を保護している(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
また、プラズマガンにおける陰極取付基体の固定手段としては、陰極取付基体と中間電極のフランジ部との間に円筒状容器(ガラス管)を挟み、絶縁耐熱樹脂カバーで絶縁処理された複数のボルトにより、上記陰極取付基体を中間電極のフランジ部と締結させた構造もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2008−66241号公報(第6−7頁、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
補助陰極および主陰極は、1000℃もの高温に曝されるため、メンテナンスの頻度も高く、このため、陰極取付基体を脱着する頻度も高いが、複数のボルトを脱着しなければならず、作業が容易でない。
【0012】
特に、陰極取付基体と中間電極のフランジ部との間に円筒状容器を挟み、絶縁処理された複数のボルトにより締結させた構造では、複数のボルトの脱着の手間に加えて、陰極取付基体と共に円筒状容器も脱着する手間がかかり、補助陰極および主陰極のメンテナンスに時間を要している。
【0013】
本発明は、このような点に鑑みなされたもので、補助陰極および主陰極のメンテナンスを短時間で容易にできるプラズマガンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載された発明は、キャリアガスの供給を受けながら負の電圧が印加される陰極と、この陰極に対して同軸上に配置されて正の電圧が印加されるプラズマ発生・収束用の中間電極とを備えたプラズマガンにおいて、上記陰極は、一端の開口縁部を中間電極に固定され他端の開口縁部にテーパ状フランジ部が形成された絶縁性の円筒状容器と、この円筒状容器のテーパ状フランジ部にシール部材を介して対称に突き合わせ配置されたテーパ状フランジ部を有する陰極取付基体と、上記円筒状容器の内部に配置され上記陰極取付基体に対して着脱自在に取り付けられた円筒状の保護部材と、この保護部材の内部に配置され上記陰極取付基体および上記保護部材に対して着脱自在に取り付けられた補助陰極および主陰極と、上記円筒状容器のテーパ状フランジ部と上記陰極取付基体のテーパ状フランジ部とにまたがって外周側から凹溝を被嵌する複数のブロックをリンクによりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロックを1本のネジ式操作杆により接近する方向に締め付けることが可能な固定手段とを具備したプラズマガンである。
【0015】
請求項2に記載された発明は、請求項1記載のプラズマガンにおいて、陰極取付基体に接続されて補助陰極および主陰極にキャリアガスを導入するキャリアガス導入手段と、陰極取付基体に設けられて補助陰極および主陰極を冷却用流体により冷却する冷却手段とを具備し、キャリアガス導入手段および冷却手段は、それぞれの流体を供給する配管が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手をそれぞれ備えたものである。
【発明の効果】
【0016】
請求項1記載の発明によれば、中間電極に円筒状容器の一端の開口縁部を固定し、円筒状容器の他端の開口縁部に形成したテーパ状フランジ部と、陰極取付基体のテーパ状フランジ部とを、シール部材を介して対称に突き合わせ配置し、これらの円筒状容器のテーパ状フランジ部と陰極取付基体のテーパ状フランジ部とにまたがって外周側から複数のブロックの凹溝を被嵌するとともにこれらのブロックをリンクによりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロックを1本のネジ式操作杆により接近する方向に締め付けることが可能な固定手段により、各ブロックの凹溝を上記円筒状容器および上記陰極取付基体のテーパ状フランジ部に押し付けることで上記円筒状容器に上記陰極取付基体を固定するので、中間電極に固定された円筒状容器を取り外すことなく、陰極取付基体を1本のネジ式操作杆の操作により容易に脱着でき、加えて、上記円筒状容器の内部に配置された円筒状の保護部材を上記陰極取付基体に対して着脱自在に取り付け、この保護部材の内部に配置された補助陰極および主陰極を上記陰極取付基体および上記保護部材に対して着脱自在に取り付けたので、上記陰極取付基体および上記保護部材に対する補助陰極および主陰極の脱着を容易にでき、その結果、補助陰極および主陰極のメンテナンスを短時間で容易にできる。
【0017】
請求項2記載の発明によれば、陰極取付基体に接続されたキャリアガス導入手段と、陰極取付基体に設けられた冷却手段は、それぞれの流体を供給する配管が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手をそれぞれ備えたので、各配管を外したときの流体漏れがなく、陰極取付基体の脱着が容易になるので、補助陰極および主陰極のメンテナンス性の向上に貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明に係るプラズマガンの一実施の形態を示す断面図である。
【図2】同上プラズマガンの陰極取付基体およびその周辺部分を示す斜視図である。
【図3】同上プラズマガンの陰極取付基体の固定手段を示す正面図である。
【図4】プラズマガンを用いたイオンプレーティング装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を、図1乃至図3に示された一実施の形態に基いて詳細に説明する。なお、図4に示されたイオンプレーティング装置は、必要に応じて参照する。
【0020】
先ず、図1乃至図3に示された一実施の形態を説明する。
【0021】
図1に示されるように、プラズマガン1は、キャリアガスの供給を受けながら負の電圧が印加される陰極1aと、この陰極1aに対して同軸上に配置されて正の電圧が印加されるプラズマ発生・収束用の中間電極1bとを備えている。
【0022】
上記陰極1aは、ステンレス鋼製の陰極取付基体11の中心部に、アルゴンガスなどの不活性ガスをキャリアガスとして導入するキャリアガス導入口12が設けられ、このキャリアガス導入口12に導電性の取付部材13を介してパイプ状の補助陰極14が取り付けられ、円筒状の保護部材15が同心状に配置され、補助陰極14の先端部に主陰極16が配置され、さらに、最も外側に絶縁性の円筒状容器(ガラス管)17が配置され、この円筒状容器17に陰極取付基体11が取り付けられている。
【0023】
上記中間電極1bは、上記陰極1a側に第1中間電極21が配置され、この第1中間電極21に対して上記陰極1aとは反対側に第2中間電極22が配置され、上記第1中間電極21と上記第2中間電極22との間に絶縁部材23が配置され、上記第1中間電極21と上記第2中間電極22とが、絶縁スリーブ24aおよび絶縁スペーサ24bで絶縁処理された複数のボルト25により相互に締結されている。
【0024】
上記第1中間電極21および上記第2中間電極22は、中心部に穴をそれぞれ有するステンレス鋼製の第1電極取付基体26および第2電極取付基体27を備えている。これらの第1電極取付基体26および第2電極取付基体27は、上記ボルト25で相互に締結されたフランジ部28,28と、これらのフランジ部28,28の中央部から相互に対向する方向に突出された胴部29,29と、これらの胴部29,29とは反対側からフランジ部28,28に環状の冷却用凹部31,31がそれぞれ形成され、これらの冷却用凹部31,31の周縁に沿って蓋部32,32が溶接されている。冷却用凹部31,31には、冷却水を供給し排出する配管(図示せず)が接続されている。
【0025】
上記第1電極取付基体26および上記第2電極取付基体27の中心部の各穴には、筒状の第1電極部材33および第2電極部材34がそれぞれ嵌着され、上記第1電極取付基体26および上記第2電極取付基体27の各胴部29,29の外周面には、環状の第1磁石35および第2磁石36がそれぞれ嵌着されている。これらの第1磁石35および第2磁石36は、共に環状の永久磁石であり、軸方向陰極側にN極が配置され、軸方向反対側にS極が配置されている。
【0026】
上記絶縁部材23は、上記第1磁石35と上記第2磁石36との間に環状の絶縁本体部37が挟まれるように位置するとともに、この絶縁本体部37の外周面部から上記第1磁石35および上記第2磁石36の外周面上にわたって円筒状の被嵌部38がそれぞれ設けられている。
【0027】
上記第1中間電極21および上記第2中間電極22の各胴部29,29と上記絶縁部材23の上記絶縁本体部37との間にはOリングなどのシール部材39,39が設けられている。
【0028】
上記陰極1aの円筒状容器17は、一端の開口縁部に形成されたフランジ部41をOリングなどのシール部材42を介して中間電極1bのフランジ部28に固定されている。すなわち、絶縁スリーブ43で絶縁処理された複数のボルト44により、リング状の押え板45を介してフランジ部41が中間電極1bのフランジ部28に固定されている。
【0029】
上記円筒状容器17の他端の開口縁部には、テーパ状フランジ部46が形成され、この円筒状容器17のテーパ状フランジ部46に、シール部材47を介して、陰極取付基体11に形成されたテーパ状フランジ部48が対称に突き合わせ配置されている。
【0030】
シール部材47は、T字形断面のアウタリング47aとインナリング47bとの間にOリング47cを組み込んだものであり、アウタリング47aおよびインナリング47bより突出したOリング47cの左右部でシール性能を発揮する。
【0031】
上記円筒状容器17の内部に配置された上記円筒状の保護部材15は、上記陰極取付基体11に一体化された取付部材13の外周面に嵌合され、ネジ51により着脱自在に取り付けられている。
【0032】
このネジ51を外すことにより陰極取付基体11の取付部材13から取り外し可能な保護部材15の内部には、取付部材13の径方向に螺入されたネジ52によって、取付部材13の軸方向に嵌入された上記補助陰極14が着脱自在に取り付けられている。
【0033】
また、陰極取付基体11の取付部材13から取り外し可能な保護部材15の内部には、上記主陰極16がネジ53により着脱自在に取り付けられている。すなわち、保護部材15の先端側に固定された部材54と、反対側にネジ53で着脱自在に取り付けられた部材55とにより主陰極16が挟圧固定されているので、ネジ53を外すことで部材55と共に主陰極16を保護部材15から取り出すことが可能である。上記補助陰極14には、ネジ56により上記部材55を位置決め係止する係止部材57が取り付けられている。
【0034】
図1乃至図3に示されるように、上記円筒状容器17のテーパ状フランジ部46と上記陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48とを固定する固定手段61が設けられている。
【0035】
この固定手段61は、円筒状容器17のテーパ状フランジ部46と陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48とにまたがって外周側から凹溝62を被嵌する複数のブロック63をリンク64によりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロック63a,63bを1本のネジ式操作杆65により接近する方向に締め付けることが可能なものである。ネジ式操作杆65は、一方のブロック63aに対して定位置で回動自在に係合され,他方のブロック63bに螺合され、ノブ65aにより回動操作される。
【0036】
図2に示されるように、上記陰極取付基体11には、電気配線の接続部66が設けられている。
【0037】
図1および図2に示されるように、上記陰極取付基体11には、補助陰極14および主陰極16にキャリアガスを導入するキャリアガス導入手段71が接続されている。
【0038】
このキャリアガス導入手段71は、前記キャリアガス導入口12にエルボ型継手72を介してチューブなどの可撓性管73の基端が接続され、この可撓性管73の先端は、キャリアガスを供給する配管(図示せず)が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手74を備えている。
【0039】
この管継手74は、図示されたソケットと、キャリアガスを供給する配管側に取り付けられたプラグ(図示せず)とからなり、管継手74のソケットは、ソケット本体75の弁座部76に、通孔77を有する逆止弁78がスプリング79により接離可能に押圧されたものであり、スプリング79に抗してプラグ(図示せず)をソケット本体75内に押し込むことで、逆止弁78を開くことができる。
【0040】
このようにしてソケット本体75内に挿入されたプラグは、このプラグの環状凹溝に係合した複数のピン81により係止されて連結状態が維持されるが、連結解除用スリーブ82を軸方向にスライドさせてピン係止カラー83を外すことで、ピン81を径方向外側へ移動させて、プラグをソケット本体75内から引き抜くことができる。
【0041】
図1および図2に示されるように、上記陰極取付基体11には、補助陰極14および主陰極16を冷却用流体(冷却水)により冷却する冷却手段86が設けられている。
【0042】
この冷却手段86は、上記陰極取付基体11の中央部に環状の凹部87が形成され、この凹部87の周縁に沿って蓋部88が溶接されて、冷却通路89が形成され、この冷却通路89の入口部および出口部に、冷却水を供給する外部の配管が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手91,92が設けられたものである。
【0043】
ソケット型の管継手91に接続される外部の配管には、プラグ型の管継手92と同一構造の管継手が設けられ、また、プラグ型の管継手92に接続される外部の配管には、ソケット型の管継手91と同一構造の管継手が設けられている。
【0044】
ソケット型の管継手91は、ソケット本体93の中心軸部に固定された弁座部94に対して、円筒形の逆止弁95がスプリング96により移動可能に設けられたものであり、スプリング96に抗してプラグ型の管継手をソケット本体93内に押し込むことで、逆止弁95を開くことができる。
【0045】
このようにしてソケット本体93内に挿入されたプラグ型の管継手は、そのプラグの環状凹溝に係合した複数のボール97により係止されて連結状態が維持されるが、連結解除用スリーブ98を、図1に示された軸方向位置にスライドさせて、ボール97を径方向外側へ逃がすことで、プラグ型の管継手をソケット本体93内から引き抜くことができる。
【0046】
プラグ型の管継手92は、プラグ本体101の弁座部102に、通孔103を有する逆止弁104がスプリング105により接離可能に押圧されたものであり、ソケット型の管継手をプラグ本体101に押し込むと、ソケット内に固定された弁座部(94に相当する)が逆止弁104をスプリング105に抗して開くことができる。プラグ本体101の外周面には、ソケット型の管継手のボール(97に相当する)が嵌合する環状凹溝106が設けられている。
【0047】
そして、このプラズマガン1は、上記第2中間電極22の上記蓋部32に接合する環状の絶縁部材(図示せず)および図4に示されるように収束用空芯コイル5の内側に設けられた案内筒を介して、真空チャンバ2の側面に取り付けられる。
【0048】
次に、図1乃至図3に示された一実施の形態の作用効果を説明する。
【0049】
上記陰極1aの補助陰極14にアルゴンガスなどのキャリアガスを供給しつつ、図4に示された放電電源3から上記補助陰極14および上記主陰極16に負の電圧を印加するとともに、放電電源3から上記第1中間電極21の第1電極部材33および上記第2中間電極22の第2電極部材34に正の電圧を印加することで、これらの正負の電極間で放電がなされ、プラズマが発生する。
【0050】
このプラズマは、環状に形成された第1磁石35および第2磁石36により収束しつつ、真空チャンバ2内に発射され、図4に示されるように真空チャンバ2内にマグネット6とともに陽極(ハース)として設置されたチタンなどの蒸着金属7に照射され、この蒸着金属7を溶解・蒸気化させる。このとき、+イオン化された蒸着金属粒子は、真空チャンバ2内でイオン集積電源8により負の電圧が印加されたワークWの表面に引き寄せられて密着され金属被膜となる。
【0051】
そして、補助陰極14および主陰極16を交換するなどのメンテナンス作業する場合は、円筒状容器17のテーパ状フランジ部46と陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48とにまたがって外周側から複数のブロック63の凹溝62を被嵌するとともにこれらのブロック63をリンク64によりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロック63a,63bを1本のネジにより接近する方向に締め付けている固定手段61のネジ式操作杆65を緩めることにより、環状体を拡径変化させ、各ブロック63,63a,63bの凹溝62を上記円筒状容器17および上記陰極取付基体11のテーパ状フランジ部46,48から外し、中間電極1bに固定された円筒状容器17に対してシール部材47および陰極取付基体11を取り外す。
【0052】
さらに、陰極取付基体11に接続されたキャリアガス導入手段71の逆止弁構造を備えた管継手74と、陰極取付基体11に設けられた冷却手段86の逆止弁構造を備えた管継手91,92から、それぞれの流体を供給する配管(図示せず)を外して、陰極取付基体11の取付部材13から円筒状の保護部材15を外し、この保護部材15から主陰極16を外し、陰極取付基体11の取付部材13から補助陰極14を外し、補助陰極14および主陰極16の補修、交換などのメンテナンスを行なう。
【0053】
このように、中間電極1bに円筒状容器17の一端の開口縁部を固定し、円筒状容器17の他端の開口縁部に形成したテーパ状フランジ部46と、陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48とを、シール部材47を介して対称に突き合わせ配置し、これらの円筒状容器17のテーパ状フランジ部46と陰極取付基体11のテーパ状フランジ部48とにまたがって外周側から複数のブロック63の凹溝62を被嵌するとともにこれらのブロック63をリンク64によりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロック63a,63bを1本のネジ式操作杆65により接近する方向に締め付けることが可能な固定手段61により、各ブロック63,63a,63bの凹溝62を上記円筒状容器17および上記陰極取付基体11のテーパ状フランジ部46,48に押し付けることで上記円筒状容器17に上記陰極取付基体11を固定するので、中間電極1bに固定された円筒状容器17を取り外すことなく、陰極取付基体11を1本のネジ式操作杆65の回転操作により容易に脱着でき、加えて、上記円筒状容器17の内部に配置された円筒状の保護部材15を上記陰極取付基体11に対して着脱自在に取り付け、この保護部材15の内部に配置された補助陰極14および主陰極16を上記陰極取付基体11および上記保護部材15に対して着脱自在に取り付けたので、上記陰極取付基体11および上記保護部材15に対する補助陰極14および主陰極16の脱着を容易にでき、その結果、補助陰極14および主陰極16の交換などのメンテナンスを短時間で容易にできる。
【0054】
さらに、陰極取付基体11に接続されたキャリアガス導入手段71と、陰極取付基体11に設けられた冷却手段86は、それぞれの流体を供給する配管(図示せず)が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手74,91,92をそれぞれ備えたので、各配管を外したときの流体漏れがなく、陰極取付基体11の脱着が容易になるので、補助陰極14および主陰極16のメンテナンス性の向上に貢献できる。
【0055】
従来の、陰極取付基体と中間電極のフランジ部との間に円筒状容器を挟み、絶縁処理された複数のボルトにより締結させた構造のプラズマガンと比較すると、補助陰極14および主陰極16のメンテナンスに要する時間を、ほぼ1/10程度まで短縮できる。
【0056】
なお、本発明のプラズマガン1は、イオンプレーティング法だけでなく、他のPVD(例えば、アシスト蒸着スパッタ法)や、CVDにおけるプラズマ発生器として利用できる。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、プラズマガンの製造業および販売業などにおいて利用可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 プラズマガン
1a 陰極
1b 中間電極
11 陰極取付基体
14 補助陰極
15 保護部材
16 主陰極
17 円筒状容器
46,48 テーパ状フランジ部
47 シール部材
61 固定手段
62 凹溝
63 ブロック
64 リンク
65 ネジ式操作杆
71 キャリアガス導入手段
74 管継手
86 冷却手段
91,92 管継手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアガスの供給を受けながら負の電圧が印加される陰極と、この陰極に対して同軸上に配置されて正の電圧が印加されるプラズマ発生・収束用の中間電極とを備えたプラズマガンにおいて、
上記陰極は、
一端の開口縁部を中間電極に固定され他端の開口縁部にテーパ状フランジ部が形成された絶縁性の円筒状容器と、
この円筒状容器のテーパ状フランジ部にシール部材を介して対称に突き合わせ配置されたテーパ状フランジ部を有する陰極取付基体と、
上記円筒状容器の内部に配置され上記陰極取付基体に対して着脱自在に取り付けられた円筒状の保護部材と、
この保護部材の内部に配置され上記陰極取付基体および上記保護部材に対して着脱自在に取り付けられた補助陰極および主陰極と、
上記円筒状容器のテーパ状フランジ部と上記陰極取付基体のテーパ状フランジ部とにまたがって外周側から凹溝を被嵌する複数のブロックをリンクによりチェン状に連結するとともにそのチェン状に連結された環状体の一端および他端に位置するブロックを1本のネジ式操作杆により接近する方向に締め付けることが可能な固定手段と
を具備したことを特徴とするプラズマガン。
【請求項2】
陰極取付基体に接続されて補助陰極および主陰極にキャリアガスを導入するキャリアガス導入手段と、
陰極取付基体に設けられて補助陰極および主陰極を冷却用流体により冷却する冷却手段とを具備し、
キャリアガス導入手段および冷却手段は、それぞれの流体を供給する配管が接続されたときのみ開放される逆止弁構造の管継手をそれぞれ備えた
ことを特徴とする請求項1記載のプラズマガン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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