説明

プラズマディスプレイ装置

【課題】立体映像の表示品位および発光の安定性の面で一層優れたプラズマディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【解決手段】赤色光成分を放つ赤色蛍光体として、少なくとも、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いたプラズマディスプレイ装置において、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数割合をりん割合と定義した時、りん割合が62原子%を超え70原子%未満であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、赤色光成分を放つ赤色蛍光体として、少なくとも、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いたプラズマディスプレイ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、母体結晶がLn(P,V)O4(但し、Lnは、Sc、Y、La、Gd、および、Luから選ばれる少なくとも1種の元素を示す。)で表され、付活剤として少なくともEu3+イオンを含有する希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体(Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体)が知られている。YPV赤色蛍光体は、色調の面で優れる赤色光を放つため、表示装置の広色域表示に秀でる蛍光体である。そして、この代表例として、Y(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体(以後、YPVと記す。)がある(例えば、特許文献1〜5、非特許文献1参照)。
【0003】
なお、Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、りんとバナジウムの比率を変えることによって、発光スペクトル形状や発光強度が変わることが知られている。りんの割合が少ない組成物では、赤色純度の面で優れる赤色光が得られるものの、真空紫外線(VUV)励起下における発光強度が下がり、りん割合(りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数をりん割合と定義する。)が65〜70原子%となる組成物では、赤色光の赤色純度の面で僅かに劣るものの、VUV励起下での発光強度は最大となることが知られている(例えば、特許文献2、非特許文献1参照)。
【0004】
そして、これまで、立体映像表示機能を持たない一般的なタイプのプラズマディスプレイ装置では、赤色蛍光体として、VUV励起下での発光効率が高い、りん割合が上記65〜70原子%のYPVが実用検討されてきた。
【0005】
一方、3D表示が可能なプラズマディスプレイ装置では、立体映像の二重映り現象(以後、クロストークと記す。)を抑制するために短残光性の蛍光体が必須とされ、YPV赤色蛍光体については、発光効率よりも短残光性が重要視されている。このため、従来のプラズマディスプレイ装置で用いるYPVは、立体映像表示機能を持たない一般的なタイプのプラズマディスプレイ装置とは組成の面で異なっており、輝度と短残光性との兼ね合いで、前記りん割合は60原子%程度以下の比較的小さいものとなっていた。
【0006】
従来から知られる希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いるプラズマディスプレイ装置は、輝度を確保するために、1/10残光時間が4msec程度と長い希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用し、クロストークの抑制を幾分犠牲にするか、または、例えば、(Y,Gd)23:Eu3+など希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体以外の蛍光体と混合して、短残光性の希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体が持つ欠点を補うかのいずれかの技術思想をベースにしたものであった(例えば、特許文献5、非特許文献2参照)。
【0007】
つまり、りん割合が大きく65%前後のYPVは、残光が比較的長いために、特に、クロストークを十分抑制した3D用のプラズマディスプレイ装置で、当該YPVをそのまま用いる技術思想は従来無かった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭57−352号公報
【特許文献2】特許第3988337号公報
【特許文献3】特開2004−256763号公報
【特許文献4】特開2009−256529号公報
【特許文献5】特開2009−185275号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】蛍光体ハンドブック、オーム社、pp.233−235、pp.332−333
【非特許文献2】Y.C. Kim et al., Proceedings of The 15th Int. Display Workshops Vol.2 (Dec. 4, 2008)pp.815−818.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、従来の3D用のプラズマディスプレイ装置は、Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いていたために、輝度水準が低く、パネル駆動中の安定性の面で比較的劣るか、または、クロストークが目立つかのいずれかの課題を抱えていた。
【0011】
例えば、バナジウム割合が小さく、りん割合が大きなEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用すると、輝度水準と前記安定性とを改善できるが、残光が比較的長くなるために、3D用のプラズマディスプレイ装置において、前記クロストークが大きくなる課題が生じる。
【0012】
一方、バナジウム割合が大きく、りん割合が小さなEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用すると、残光が比較的短くなるために、前記クロストークを改善できるが、輝度水準が下がり、前記安定性も劣る課題が生じる。
【0013】
これらは相反する特性であり、Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用する従来のプラズマディスプレイ装置では決して避けることのできない課題であった。
【0014】
なお、前記クロストークを限りなくゼロにしなければ、3D用と呼ぶに足りるものにならないため、プラズマディスプレイ装置では、短残光性を優先させ、輝度や安定性を若干犠牲にして、バナジウム割合が大きくりん割合が小さなEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用している。しかし、バナジウムはイオンの価数の面で不安定なために、PDPの製造工程中やPDPの駆動に伴う赤色蛍光体の劣化が比較的大きくなる課題もあった。
【0015】
さらに、このような短残光性のEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いたPDPは、強いVUV励起下で、輝度が飽和現象を起こす課題(以後、輝度飽和と記す。)もあった。前記輝度飽和は、3D用のプラズマディスプレイ装置の高輝度化や高効率化を阻む一因になり、電子回路への負担が大きい課題もあった。
【0016】
このような理由で、特に、希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を単独でプラズマディスプレイ装置に利用する場合、プラズマディスプレイ装置のクロストークを抑制しようとすればするほど、必然的に発光効率は下がり、安定性確保のための数多くの配慮を要する課題を抱えていた。
【0017】
本発明は、このような課題を解決して、立体映像の表示品位および発光の安定性の面で一層優れたプラズマディスプレイ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本発明のプラズマディスプレイ装置は、赤色光成分を放つ赤色蛍光体として、少なくとも、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いたプラズマディスプレイ装置において、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数割合をりん割合と定義した時、りん割合が62原子%を超え70原子%未満であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、広色域表示性能に優れ、高輝度と短残光性を両立し安定かつ輝度飽和を起こしにくい、立体映像の表示品位に秀でる3D−PDPを提供できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明におけるプラズマディスプレイ装置を構成するPDPの構成を示す断面斜視図
【図2】PDPを用いたプラズマディスプレイ装置の駆動回路構成を示す図
【図3】PDPの構成を示す断面図
【図4】プラズマディスプレイ装置を用いた立体画像表示装置の一例を示す斜視図
【図5】蛍光体粉末の1/10残光時間を求める測定データの一例を示す図
【図6】赤色蛍光体のりん割合と輝度相対値および総光子数相対値との関係を示す図
【図7】りん割合が異なる赤色蛍光体の発光スペクトルを示す図
【図8】りん割合が異なる赤色蛍光体の残光特性を示す図
【図9】りん割合が異なる赤色蛍光体の輝度飽和現象を示す図
【図10】赤色蛍光体の残光特性を示す図
【図11】赤色蛍光体の残光特性を示す参考図
【図12】赤色蛍光体のXRDパターンにおける主ピークを示す図
【図13】赤色蛍光体の発光スペクトルを示す図
【図14】赤色蛍光体の残光特性を示す図
【図15】赤色蛍光体の輝度飽和現象を示す図
【図16】赤色蛍光体の発光スペクトルの一例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の一実施の形態によるプラズマディスプレイ装置について、図面を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明において、プラズマディスプレイ装置を構成するPDPの構成を示す断面斜視図である。PDP10は、前面板20と背面板30とで構成されている。前面板20は前面ガラス基板21を有し、前面ガラス基板21上には平行に配置された走査電極22と維持電極23とからなる表示電極対24が複数形成されている。そして、走査電極22と維持電極23とを覆うように誘電体層25が形成され、その誘電体層25上に保護層26が形成されている。
【0023】
一方、背面板30は背面ガラス基板31を有し、背面ガラス基板31上には、平行に配列されたアドレス電極32が複数形成されている。さらに、アドレス電極32を覆うように下地誘電体層33が形成され、その上に隔壁34が形成されている。そして、隔壁34の側面および下地誘電体層33上には、アドレス電極32に対応して順次、赤色、緑色および青色の各色に発光する赤色蛍光体層35R、緑色蛍光体層35G、青色蛍光体層35Bが設けられている。
【0024】
これらの前面板20と背面板30とは、微小な放電空間を挟んで表示電極対24とアドレス電極32とが交差するように対向配置され、その外周部がガラスフリットなどの封着部材によって封着されている。そして、放電空間には、例えばネオン(Ne)とキセノン(Xe)などの混合ガスが、放電ガスとして55kPa〜80kPaの圧力で封入されている。
【0025】
放電空間は隔壁34によって、複数の区画に仕切られ、表示電極対24とアドレス電極32とが交差する部分に放電セル36が形成される。そして、上記の電極間に放電電圧を印加すると、これらの放電セル36内で放電が起こり、その放電により発生した紫外線によってそれぞれの赤色蛍光体層35R、緑色蛍光体層35G、青色蛍光体層35Bの蛍光体が励起されて発光しカラー画像が表示される。なお、PDP10の構造は上述したものに限られるわけではない。隔壁34の構造として、井桁状の隔壁を備えた構造であってもよい。
【0026】
本発明では、前記赤色蛍光体層35Rが、少なくとも希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を含むようにし、好ましくは、前記赤色蛍光体層35Rが含む蛍光体の全てを前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体にする。
【0027】
なお、前記赤色蛍光体層35Rが含む前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体以外の赤色蛍光体としては、例えば、Y23:Eu3+、(Y,Gd)23:Eu3+、(Y,Gd)Al3(BO34:Eu3+などのEu3+付活蛍光体が挙げられる。
【0028】
前記緑色蛍光体層35Gが含む緑色蛍光体としては、例えば、Zn2SiO4:Mn2+、BaMnAl1017:Mn2+、YBO3:Tb3+、(Y,Gd)Al3(BO34:Tb3+、Y3Al512:Ce3+、Y3(Al,Ga)512:Ce3+、Ba3Si6122:Eu2+など、Mn2+付活蛍光体、Tb3+付活蛍光体、Ce3+付活蛍光体、および、Eu2+付活蛍光体から選ばれる少なくとも一つの蛍光体が挙げられる。
【0029】
なお、緑色光の色調と短残光性を併せ持つ緑色蛍光体が3D用として求められ、この視点から、好ましい緑色蛍光体は、Mn2+付活蛍光体と、Ce3+付活蛍光体またはEu2+付活蛍光体との混合緑色蛍光体であり、例えば、Zn2SiO4:Mn2+とY3Al512:Ce3+またはY3(Al,Ga)512:Ce3+のいずれかの蛍光体を組み合わせてなる混合緑色蛍光体である。
【0030】
前記青色蛍光体層35Bが含む青色蛍光体としては、例えば、BaMnAl1017:Eu2+やCaMgSi26:Eu2+などの、Eu2+付活蛍光体が挙げられる。
【0031】
図2は、PDP10を用いたプラズマディスプレイ装置の構成を示す図である。プラズマディスプレイ装置は、PDP10と、それに接続された駆動回路40とから構成される。駆動回路40は、表示ドライバ回路41、表示スキャンドライバ回路42、アドレスドライバ回路43とを備え、それぞれ、PDP10の維持電極23、走査電極22およびアドレス電極32に接続されている。また、コントローラ44はこれらの各種電極に印加する駆動電圧を制御している。
【0032】
次に、PDP10における放電の動作について説明する。まず、点灯させるべき放電セル36に対応する走査電極22とアドレス電極32とに所定電圧を印加することでアドレス放電を行う。これにより、表示データに対応する放電セル36に壁電荷が形成される。その後、維持電極23と走査電極22間に維持放電電圧を印加すると、壁電荷が形成された放電セル36で維持放電が起こり紫外線を発生する。この紫外線によって励起された赤色蛍光体層35R、緑色蛍光体層35G、青色蛍光体層35B中の蛍光体が発光することで放電セル36が点灯する。各色の放電セル36の点灯、非点灯の組み合わせによって画像が表示される。
【0033】
次に、PDP10の背面板30の構造とその製造方法について、図3を参照しながら説明する。図3はPDP10の背面板30の構成を示す断面図である。背面ガラス基板31上に、電極用の銀ペーストをスクリーン印刷し、焼成することによって複数のアドレス電極32をストライプ状に形成する。これらのアドレス電極32を覆うようにガラス材料を含むペーストをダイコータ法またはスクリーン印刷法で塗布、焼成して下地誘電体層33を形成する。
【0034】
形成された下地誘電体層33上に隔壁34を形成する。隔壁34の形成方法としては、ガラス材料を含むペーストをスクリーン印刷法によりアドレス電極32を挟んでストライプ状に繰り返し塗布して焼成する方法がある。また、アドレス電極32を覆って下地誘電体層33上にペーストを塗布してパターンニングして焼成する方法などもある。この隔壁34によって放電空間が区画され、放電セル36が形成される。隔壁34の間隙は、例えば、42インチ〜50インチのフルHDテレビやHDテレビに合わせて130μm〜240μmに設定する。
【0035】
隣接する2本の隔壁34間の溝に、それぞれの蛍光体材料の粒子を含むペーストをスクリーン印刷法やインクジェット法などによって塗布し、焼成することによって赤色蛍光体層35R、緑色蛍光体層35G、青色蛍光体層35Bを形成する。
【0036】
このようにして作製された背面板30と、表示電極対24および誘電体層25、保護層26が形成された前面板20とを、それぞれ前面板20の走査電極22と背面板30のアドレス電極32とが直交するように対向させて重ね合わせ、周辺部に封着用ガラスを塗布して前面板20と背面板30を封着する。そして、一旦、放電空間内を高真空に排気した後、ネオン(Ne)とキセノン(Xe)などの混合ガスを55kPa〜80kPaの圧力で封入して、本実施の形態のPDP10を作製する。
【0037】
このようにして作製したPDP10に駆動回路40を接続し、さらに筐体などを配置することによってプラズマディスプレイ装置とする。
【0038】
次に、このようなプラズマディスプレイ装置を立体画像表示装置に適用する場合の一例を説明する。図4(A)は、プラズマディスプレイ装置を用いた立体画像表示装置の一例を示す斜視図であり、図4(B)は立体画像表示装置が表示した映像を視聴する際に用いる映像視聴用眼鏡の外観を示す斜視図である。立体画像表示装置の表示面に表示する映像を、視聴者が、映像視聴用眼鏡を通して見ることで、立体映像として視聴できるようにしている。
【0039】
図4において、プラズマディスプレイ装置を用いた立体画像表示装置100の同期信号送信部110から、表示面に出力される映像と同期した信号が送信され、映像視聴用眼鏡120の同期信号受信部130で受信する。映像視聴用眼鏡120は、この同期信号に基づいて、左右の目へ入射する光に所定の光学処理を施す。これにより、映像視聴用眼鏡120をつけた視聴者が、立体画像表示装置100が表示する映像を立体映像として視聴することができる。
【0040】
なお、映像視聴用眼鏡120が液晶シャッターを備える場合には、立体画像表示装置100の同期信号送信部110としては赤外線エミッターを用い、映像視聴用眼鏡120の同期信号受信部130としては赤外線センサーを用いることができる。
【0041】
すなわち、立体画像表示装置100は、上述のプラズマディスプレイ装置と、120Hzの周波数で開閉する液晶シャッターを用いた映像視聴用眼鏡120とを組み合わせて構成しており、立体画像表示装置100の表示面からは、立体映像(3D映像)の所定の処理を施され、左目用の映像と右目用の映像で視差の分だけ映像が異なる映像が表示される。視聴者は、左目と右目で視聴する映像から視差を感知して、立体画像表示装置100が表示する映像が立体的な映像であることを知覚することができる。
【0042】
ここで、立体画像表示装置100においては、液晶シャッターを周波数120Hzで開閉しても、画像が二重に見える現象であるクロストークが発生しないようにする必要がある。そのためには、PDPの各色蛍光体から発光される発光の残光時間が3.5msec以下、特に3.0msec以下であれば、目に優しい立体画像表示が可能になり、さらに、一層の迫力を伴う立体映像を視聴することができる。
【0043】
次に、本発明のプラズマディスプレイ装置に用いる蛍光体について説明する。
【0044】
まず、本発明者らは、従来から知られるEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体の結晶が不完全であり、製造条件の最適化がこれまでに長期継続してなされて完成度が高められた実用蛍光体でさえ、1500℃程度の大気中における数時間の熱処理で発光特性が変わり、残光が短くなることを見出した。
【0045】
また、このために、従来、3D用として実用検討されてきたEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体と同等の短残光性が、徹底的な製造条件の最適化によって、予想されるよりも幾分大きなりん割合で実現できることが判った。
【0046】
さらに、大きなりん割合は、VUV励起下の輝度や蛍光体の安定性だけでなく、輝度飽和に好影響を与えることも判り、この結果、希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を利用する従来の3Dのプラズマディスプレイ装置で生じていた課題の全てを解決できることも判った。
【0047】
本発明は、このような事実をもとになされたものである。ここで、以下の説明において、「りん割合」と「1/10残光時間」は、各々、次のように定義している。
【0048】
りん割合(at.%):
希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体中に含まれる、りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数割合を意味するものである。また、りんとバナジウムの原子数は、ICP発光分光分析法(例えば、SII製SRS1700VR利用)によって精密に定量分析したものとする。
【0049】
1/10残光時間(msec):
励起光を蛍光体に照射することを完全に止めた後、一定時間経過後の燐光強度を100として、その経過時間を基準時間(t0=0)とした時に、この燐光強度が1/10の10にまで低下するまでの時間を意味するものである。測定の便宜上、蛍光体粉末の1/10残光時間は、波長250nmの紫外線を蛍光体に照射し、励起光源側に設けたシャッターを閉じた後の蛍光体の残光特性(光の時間変化)から算出したものとする。なお、蛍光体粉末に波長250nmの紫外線ではなく、VUVを蛍光体に照射した場合でも、定性的には同様の結果が得られることを確認している。
【0050】
なお、蛍光体粉末の1/10残光時間は、例えば、分光蛍光光度計(FP−6500:日本分光(株))を利用し、専用ソフト(「スペクトルマネージャー」の「燐光寿命測定」)を利用して判るものである。なお、測定条件の具体例は、励起バンド幅:1nm、蛍光バンド幅:20nm、感度:Low、励起波長:250.0nm、蛍光波長:619.0nm、遅延時間:0.0msec、測定時間:25msec、データ取込間隔:0.1msecである。1/10残光時間は、例えば、励起光源側のシャッターが閉まった状態となっており、かつ、蛍光体粉末の残光特性がモニターできているとみなせる、データ取込開始後7.0msec経過した後を基準時間(t=0)として、データ取込開始後、25.0msecまでの間の残光特性から求められる。
【0051】
参考のために、蛍光体粉末の残光特性評価データの具体例を図5に示した。図5において、横軸はデータ取り込みの時間であり、前記励起光源側に設けたシャッターを開けた後の時間(最大25msec)を実スケールで示している。また、縦軸は検出器に取り込まれた発光強度(データ取込間隔:0.1msec)を実スケールで示している。図5は、0msecの時間の時に前記シャッターが開き始め、約5msecの時間の時にシャッターが閉じ始め、約6msecの時間以降は、シャッターが閉じる速度に対して十分長い蛍光体の残光特性が検出器に取り込まれているとみなせる様子を示している。
【0052】
本発明の説明に用いた蛍光体粉末の1/10残光時間(tAG)は、種々の蛍光体の実測データを考慮し、図5に示す測定データにおいて、データ取込み開始後、7.0msec経過後の時間を基準時間(t0=0)とし、前記基準時間(t0)における発光強度を100として、この発光強度が10に低下するまでの時間と定義した。
【0053】
本発明のプラズマディスプレイ装置において、赤色光成分を放つ赤色蛍光体として、少なくとも、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いており、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数割合をりん割合と定義した時、前記りん割合は、62原子%を超え70原子%未満であることを特徴とする。
【0054】
このような赤色光を放つEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、VUV励起下で高輝度を期待できる65〜70原子%の範囲内か、それに近い相対的に高いりん割合を持つ。また、PDP製造工程中やPDP動作中の劣化、および、前記輝度飽和も少なく、結晶の高品位化によって、3D用として適する短残光性を備えるものにもなる。このため、3D用の赤色光に求められる特性を兼ね備えるものになる。
【0055】
なお、短残光性を重視する目的で好ましい前記りん割合は、上記範囲内で比較的小さなりん割合であり、例えば、62原子%を超え65原子%未満である。このような比較的小さなりん割合の希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、技術的な面で比較的容易なので工業的に有利であり、量産した蛍光体の入手の面でも好ましいものとなる。
【0056】
一方、3D−PDPの高輝度化や高効率化を重視する目的で好ましいりん割合は、上記範囲内で比較的大きなりん割合であり、例えば、63原子%を超え70原子%未満である。このような比較的大きなりん割合の希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、製造に技術的困難が伴うものの、VUVの励起効率が高く、輝度飽和の抑制効果も大きいものとなる。
【0057】
また、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、実質的に(Ln1-xEux)(Py1-y)O4の化学式で表される化合物であり、前記Lnは、Sc、Y、およびGdの中から選ばれるもので、少なくともYを含む希土類元素である。前記xは、0.03≦x≦0.1、特に0.04≦x≦0.08を満足する数値であり、前記yは、0.62<y<0.67を満足する数値であることが好ましく、特に、前記Lnは、Yであることが好ましい。
【0058】
このような組成物はオーソドックスなYPVか、これに近い組成物であるので、PDP用蛍光体としての検討実績が多く、実用の面で好ましいものである。なお、本発明の希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、粒子形状については特に限定されるものではない。
【0059】
実質的に球状の粒子形状を有するものにすると、緻密な蛍光膜を形成し得る蛍光体になるので、発光装置用として好ましいものになる。
【0060】
一方、不規則な形状の粒子が凝集した粒子形状を持つものにすると、あらかじめ混合した原料粉末の固相反応によって比較的容易に製造でき、製造上の特別の配慮を必要としないので、工業生産の面で好ましいものとなる。
【0061】
前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体が放つ赤色光の1/10残光時間は、少なくとも先の評価手段において3.5msecよりも短いことが好ましい。
【0062】
このようにすると、前記クロストークを十分抑制したプラズマディスプレイ装置が得られる。
【0063】
なお、前記3.5msecの1/10残光時間を持つ蛍光体は、通常、標準的なプラズマディスプレイ装置において、3.2msec以下で、とりわけ3.0msec以下の1/10残光時間を発揮する。
【0064】
つまり、本発明のプラズマディスプレイ装置が放つ赤色光の1/10残光時間は、3.2msec以下、特に3.0msec以下である。なお、本発明の好ましい形態では、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、赤色蛍光体として単独で用いる。希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、本来、色調の良好な赤色光を放つので、これによってプラズマディスプレイ装置の表示色域が広くなる。
【0065】
以下、データを用いて、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体の特性を説明する。
【0066】
まず、りん割合が異なる従来のEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体に共通して認められる特性を、前記YPV赤色蛍光体(すなわち、化合物(Y1-xEux)(Py1-y)O4を主体にしてなる蛍光体組成物)の場合を一例に挙げて説明する。なお、以下の説明において、蛍光体の輝度と分光分布(発光スペクトル)とは、10-4Pa台の真空中に配置した蛍光体サンプル(室温)に、エキシマランプ(ウシオ電機(株)、ピーク146nm)をVUV励起光源としてVUVを照射し、1024chの電子冷却型CCDリニアイメージセンサを検出素子とするマルチチャネル光検出器(例えば、C−7473(浜松ホトニクス(株))、測定波長範囲:200〜950nm、素子分解能:約0.8nm))を備えるマルチチャネル分光測光装置を用いて得たデータから算出したものとする。より詳しくは、前記マルチチャネル分光測光装置で得られる分光分布データをソフトウエア上で近似計算し、波長範囲350〜750nmの1nm毎のデータをつないで得られる分光分布とする。また、総光子数は前記分光分布から算出によって得たものである。なお、前記分光分布において、YPV赤色蛍光体の619nm付近の主発光ピークの高さは、バックグランドのノイズ強度の100倍以上であるものとする。
【0067】
図6は、YPV赤色蛍光体の前記りん割合と輝度相対値(a)および総光子数相対値(b)との関係を示す図である。
【0068】
図7は、りん割合が異なるYPV赤色蛍光体の発光スペクトルを示す図である。なお、図7において、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、(f)、(g)、(h)、(i)、(j)、(k)、および(l)は、各々、りん割合が、0at%、10at%、20at%、30at%、40at%、50at%、60at%、65at%、70at%、80at%、90at%、および100at%の場合を示す。
【0069】
図8は、りん割合が異なるYPV赤色蛍光体の残光特性を示す図である。なお、図8において、(a)、(b)、(c)、(d)、(e)、および(f)は、各々、りん割合が、0at%、20at%、40at%、60at%、80at%、および100at%の場合を示す。
【0070】
図9は、りん割合が40〜100原子%の範囲内となるYPV赤色蛍光体の輝度飽和現象を示す図である。なお、図9は、強度の異なるVUV(波長146nm)をYPV赤色蛍光体とBAM(BaMgAl1017:Eu2+)青色蛍光体に照射し、BAM青色蛍光体の輝度を各々100としてYPV赤色蛍光体の輝度を規格化し、さらに、最も弱いVUVで励起した時の輝度を100として規格化した図であり、縦軸を輝度相対値、横軸をVUV強度の相対値としてまとめた図である。図9において、(a)、(b)、(c)、および(d)は、りん割合が、各々、40at%、60at%、80at%、および100at%の場合を示しており、(e)は、リファレンスとしているBAM青色蛍光体のデータである。
【0071】
図6に示すように、YPV赤色蛍光体の輝度相対値と総光子数相対値は、りん割合を増加させるにつれて増加し、りん割合が65〜80原子%で最大値を示したあと、次第に減少する。つまり、りん割合が70原子%以下のYPVの輝度は、りん割合が少なければ少ないほど低下し、多ければ多いほど増加する。
【0072】
図7に示すように、YPV赤色蛍光体の発光スペクトルは、りん割合を増加させるにつれて、619nm付近の主ピークに対する、613nm付近の副発光成分割合(以後、第一の副発光成分割合と記する。)は減少し、698nm付近の副発光成分割合(以後、第二の副発光成分割合と記する。)および593nm付近の副発光成分割合(以後、第三の副発光成分割合と記する。)は増加する。なお、図7から判るように、前記第一の副発光成分割合と前記第二および第三の副発光成分割合とは相反するものである。
【0073】
また、図8から判るように、りん割合が増加するとYPVの残光は長くなる。
【0074】
なお、図7と図8とを対比して判るように、りん割合を増加させて前記第二および第三の副発光成分割合が増加したYPVにすると、赤色光の1/10残光時間は長くなる。
【0075】
また、図9に示すように、YPV赤色蛍光体は、励起密度の高いVUVで励起すると輝度が飽和する課題を抱える。そして、少なくとも、りん割合が40原子%以上のYPV赤色蛍光体では、りん割合が増すと、輝度飽和は抑制される。また、データは省略するが、この傾向は図9の縦軸を総光子数とした場合にも、定性的に同様の結果となる。
【0076】
なお、VUV励起下におけるYPVの輝度飽和は、発明者らが初めて提起する課題である。
【0077】
図6〜図9の実験結果から、高輝度と短残光性と輝度飽和レスを全て兼ね備える赤色蛍光体の実現には、40〜80原子%の範囲内のYPVにおいて、相対的に高いりん割合で、どこまでの短残光性を実現できるかが技術ポイントとなることを見出した。
【0078】
なお、入手し得たYPV量産試作品の特性評価とPDPの試作評価とを通して、従来から広く知られるYPV蛍光体を利用して、クロストークが実質に認められない3D用のプラズマディスプレイ装置を得る場合には、りん割合として60原子%程度のYPVが好ましいことが判っている。
【0079】
図6、図8、および図9から判るように、りん割合が60原子%程度のYPVは、りん割合が70〜80原子%程度のYPVに比較して、輝度水準は最大6%程度低く、さらに、輝度飽和特性の面でも劣るものの、1/10残光特性が4msec未満の短残光性を示す。このため、3D用で必須とされるクロストークの抑制に有効なりん割合の上限値は、60原子%程度となる。
【0080】
このように、従来、3D用としての要件を満たすYPV赤色蛍光体としては、りん割合の上限を60原子%程度とするYPVしかなく、輝度水準などを犠牲にする必要性が生じていた。
【0081】
以下、YPV赤色蛍光体の性能改善を模索する中で見出した知見を説明する。なお、以下の図10および図11に示す特性は、実用水準を満たす特性を持つ量産試作レベルのYPV赤色蛍光体で認められる特性であり、これまでの技術水準で、電子デバイス用として完成度を極限にまで高められたYPVとみなせる蛍光体の特性である。
【0082】
図10は、従来のYPV赤色蛍光体を、1500℃の大気中で2時間加熱する前(a)と後(b)の残光特性を示す図である。図11は参考のために示した、組成の面で異なる従来のYPV赤色蛍光体の残光特性を示す図であり、(a)と(b)とは、各々、りん割合が67原子%の組成物(Y0.92Eu0.08)(P0.670.33)O4と、りん割合が61原子%の組成物(Y0.96Eu0.04)(P0.610.39)O4のデータである。
【0083】
例えば、図10に示すように、従来から広く知られるY(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体は、少なくとも前記1500℃の熱処理によって、僅かな発光スペクトル変化を伴い短残光化する。
【0084】
図11に示すように、りん割合が67原子%の1/10残光時間は3.4〜3.5msec程度であり、りん割合が61原子%の1/10残光の約3.3〜3.4msecよりも長い。
【0085】
なお、Eu付活量の違いによる1/10残光時間の大きな違いはほとんど認められていない。
【0086】
図10から判るように、熱処理前の1/10残光時間は3.3〜3.4msecであるのに対して、1500℃熱処理後は3.2〜3.3msecであり、1500℃熱処理によって、3%程度の短残光化が認められる。また、程度の差こそあれ、他のYPV赤色蛍光体でも同様の傾向は認められている。なお、ICP発光分光による蛍光体構成元素の定量分析等では、少なくともりん割合の減少は認められないし、比較的多くの金属不純物の混入なども認められない。
【0087】
通常、YPVが1050〜1350℃の焼成温度で量産試作されることを考慮すると、上記の結果は、過去に長期継続して製造条件の最適化がなされ、完成度の面で十分高められた実用水準のYPV蛍光体でさえ、結晶が不完全であり、今なお、改善の余地を残すことを示唆するものであるといえる。
【0088】
同時に、徹底的な製造条件の最適化によって、従来、3D用として実用検討されてきたYPV赤色蛍光体と同等の短残光性が、過去に知られてきたよりも大きなりん割合で実現できる可能性を示唆するものである。
【0089】
また、図8との対比によって、りん割合が60原子%付近のYPVの3%程度の短残光化は、5原子%程度のりん割合の増加によって、熱処理前と同等の短残光性を実現できる可能性を示唆するものとなる。
【0090】
以下、YPV赤色蛍光体の結晶の完全性を高めた場合の効果を調査する目的で、反応促進剤を用いないオーソドックスな固相反応で、反応温度(焼成温度)を変えてYPVを合成し、その特性を調べた結果を説明する。
【0091】
なお、YPV赤色蛍光体の原料としては、以下に示す所定量の化合物粉末を用い、都合上、蛍光体組成が、(Y0.92Eu0.08)(P0.670.334となる混合割合とした。
【0092】
酸化イットリウム(Y23):20.92g
酸化ユーロピウム(Eu23):2.82g
りん酸二アンモニウム((NH42HPO4):17.70g
五酸化バナジウム(V25):6.02g
モーターグラインダーを用いて、これら原料を、適量の水(純水)とともに十分湿式混合した。湿式混合後の混合原料を蒸発皿に移し、乾燥機を用いて、120℃で一晩乾燥させた。乾燥後の混合原料を粗解砕した後、500℃の大気中で2時間の仮焼成をした。仮焼成物を、モーターグラインダーを用いて十分解砕し、焼成原料とした。
【0093】
前記焼成原料を蓋付きのアルミナるつぼに移し、箱型電気炉を用いて、1300℃、1400℃、および、1500℃の大気中で2時間焼成して、Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体であるY(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体を得た。なお、実験の簡略化のため、後処理については省略した。
【0094】
図12に、焼成温度を変えて焼成して得たYPV赤色蛍光体のXRDパターンの主ピーク付近の様子を示す。図12には、参考のために、PDF(Powder Diffraction Data)から算出した、りんを含まない化合物YVO4と、バナジウムを含まない化合物YPO4のXRDパターンの主ピーク位置も示した。
【0095】
図12において、(a)、(b)、および(c)は、各々、焼成温度が1300℃、1400℃、および1500℃の時のXRDパターンであり、(d)と(e)は、各々、化合物YVO4と化合物YPO4のXRDパターンの主ピーク位置である。
【0096】
また、図13と図14には、図12にXRDパターンを示したYPVの発光スペクトルと残光特性とを各々示した。
【0097】
図13および図14において、(a)、(b)、および(c)は、各々、焼成温度が1300℃、1400℃、および1500℃の時のデータである。
【0098】
なお、図13の発光スペクトルは、619nm付近の発光ピークを100として規格化したものを拡大してまとめたものである。
【0099】
図12に示すように、焼成温度が低い場合、25.5°付近の主XRDピーク位置は広角側に位置し、主XRDピークは狭角側に比較的大きな肩を持つ形状となる。この結果、XRDピークの半値幅は大きくなる。焼成温度を上げるにつれて、1500℃までの焼成温度では、主XRDピーク位置は狭角側にシフトし、主XRDピークの狭角側に認められる肩は減少し、XRDピークの半値幅は小さくなる。
【0100】
図12と、図13および図14とを対比して判るように、主XRDピーク位置の狭角側シフトと、主XRDピークの狭角側に認められる肩の減少に伴い、前記第二および第三の副発光成分割合はしだいに小さくなり、短残光化する。
【0101】
なお、ICP発光分光による組成分析では、1500℃までの焼成温度では、りん割合が仕込み組成よりも若干多い約69原子%の(Y0.92Eu0.08)(P0.690.314にほぼ近い組成となっていたが、焼成温度の違いによる実組成の変化はほとんど認められていない。
【0102】
図12の(d)および(e)に示す、化合物YVO4および化合物YPO4の主XRDピーク位置と、図12の(a)〜(c)に示すデータとの対比から、Y(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体は、例えば、焼成温度が低いなどの理由で反応条件が悪い場合には、YVO4:Eu3+とYPO4:Eu3+の固溶が不十分で結晶が不完全であることが判る。また、図12に示すデータと図13および図14に示すデータの対比から、Y(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体は、反応条件が悪くて結晶が不完全な場合には、前記第二の副発光成分割合が大きくなり、長残光化するといえる。
【0103】
さらに、図14の(c)に示す1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体は、実際のりん割合が69原子%と比較的多く、図11の(a)に示すりん割合が67原子%の従来のYPV赤色蛍光体よりも大きい残光時間が予想されるにも関わらず、1/10残光時間は約3.3msecであり、りん割合が67原子%の従来のYPV赤色蛍光体の1/10残光時間(3.4〜3.5msec)よりも小さなものとなっている。
【0104】
これらの結果から、図10に示すように、従来のYPV赤色蛍光体の高温熱処理に伴う短残光化は、従来のYPV赤色蛍光体が結晶性の面で必ずしも好ましくない特性であると考えられる。また、従来から知られてきたYPV赤色蛍光体の発光特性は、YPV赤色蛍光体が本来備える真の特性ではなかったものであるともいえる。
【0105】
なお、このことはY(P,V)O4:Eu3+赤色蛍光体に限定されるものではなく、材料物性の類似性から、程度の差こそあれ、少なくともりんとバナジウムの双方を含むEu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体に共通する特性であることは明らかである。
【0106】
また、反応促進剤を用いる製造方法でも、製造ノウハウや製造条件の最適化を徹底的に行うことによって、このようなYPV赤色蛍光体が実現できることも十分予想されることである。
【0107】
なお、このような結晶の完全性が高い希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、結晶の完全性が高いものであるので、発揮性能や安定性の面で優れるものとなる。データは省略するが、例えば、1500℃で2時間の大気中の加熱処理に伴う1/10残光時間の減少は0.1msec未満であり、高温加熱をしても特性変動は小さい。また、X線回折パターンにおいて、25.5°付近の回折角2θでピークを持つ主回折ピークの半値幅が、0.09°、特に、0.08°より狭い特徴も有している。
【0108】
また、従来と同等の残光特性を、比較的高いりん割合で実現することもできるので、短残光性を同等とした場合では、輝度および輝度飽和特性の面で優れるものになり得る。
【0109】
図15は、図14の(c)に示す1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体の輝度飽和を示す図である。
【0110】
図15において、(a)と(b)は、各々図14の(c)に示す1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体と、前記りん割合が61原子%の従来のYPVの輝度飽和特性を示す図である。なお、図15では、りん割合が61原子%の従来の(Y0.96Eu0.04)(P0.610.39)O4との違いをより明示するために、各々のYPV赤色蛍光体を、最も弱いVUVで励起した時の輝度による規格化は行っていない。つまり、強度の異なるVUV(波長146nm)を、YPV赤色蛍光体とBAM青色蛍光体に照射し、BAM青色蛍光体の輝度水準を基準とし、まず、りん割合が61原子%の前記従来のYPVの輝度をプロットし、そのYPV赤色蛍光体に対する前記1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体の輝度水準をプロットした図である。図15は、縦軸を輝度相対値としてまとめたものであるが、縦軸を総光子数とした場合でも同様の傾向が認められている。
【0111】
図15に示すように、前記1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体は、りん割合が61原子%の前記従来のYPVに比較して、輝度(および総光子数)が相対的に多く高効率(VUVの赤色光への波長変換効率が良好)である。また、VUVの励起強度を大きくした時の輝度飽和も少なく、高密度のUVU励起下での輝度水準差はいっそう大きくなる。前記1500℃で焼成したYPV赤色蛍光体で認められるこれらの利点は、比較的多いりん割合に起因すると考えられる。なお、これらの残光特性については、図10および図14に示す通りである。
【0112】
なお、本発明において、Eu3+付活希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、例えば、構成元素の一部を他の元素で置換した蛍光体、数ppmから数%オーダーの微量の金属不純物(例えば、Tb)を含む蛍光体、焼結助剤となりえるSiO2などの化合物を少量添加した蛍光体、化学量論的組成から幾分ずれた組成の蛍光体、粒子表面を他の物質でコートした蛍光体など、言うまでもなく様々な変形例がある。なお、このような特性を有するYPVは、図16に分光分布の一例を示すように、613nm付近の前記第一の副発光成分割合と、698nm付近の前記第二の副発光成分割合とが、共に、僅かに小さい傾向が観察され、分光分布における、前記第一の副発光成分割合と前記第二の副発光成分割合の一例は、いずれも38.5%以上43.0%未満、特に、38.5%以上42.0%未満の範囲内にあるものであった。
【0113】
本発明のプラズマディスプレイ装置は、上記したように、これまで存在が知られていなかった、りん割合が相対的に大きい短残光性の希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いて構成し、前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、上記したように、赤色純度の面で良好な赤色光を放ち、短残光性の面でも優れる蛍光体、または、りん割合が比較的多く、安定性といっそうの高輝度および輝度飽和レス特性とを兼ね備える蛍光体として機能する。このため、本発明によれば、赤色画素の輝度と信頼性の面で好ましく、長寿命性と低消費電力性に優れたプラズマディスプレイ装置が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0114】
以上説明したように、本発明は、広色域表示性能に優れ、高輝度と短残光性を両立し安定かつ輝度飽和を起こしにくい、立体表示装置に適するプラズマディスプレイ装置に有用な発明である。
【符号の説明】
【0115】
10 PDP
20 前面板
21 前面ガラス基板
22 走査電極
23 維持電極
24 表示電極対
25 誘電体層
26 保護層
30 背面板
31 背面ガラス基板
32 アドレス電極
33 下地誘電体層
34 隔壁
35R 赤色蛍光体層
35G 緑色蛍光体層
35B 青色蛍光体層
36 放電セル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
赤色光成分を放つ赤色蛍光体として、少なくとも、Eu3+で付活した希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体を用いたプラズマディスプレイ装置において、
前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、りんとバナジウムの総原子数に対するりんの原子数割合をりん割合と定義した時、りん割合が62原子%を超え70原子%未満であることを特徴とするプラズマディスプレイ装置。
【請求項2】
前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、(Ln1-xEux)(Py1-y)O4の化学式で表される化合物であり、前記Lnは、Sc、Y、およびGdの中から選ばれるもので、かつ少なくともYを含む希土類であり、前記xは、0.03≦x≦0.1を満足する数値であり、前記yは、0.62<y<0.70を満足する数値である請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置。
【請求項3】
前記希土類フォスフォバナジン酸塩蛍光体は、赤色光の1/10残光時間が3.5msecよりも短いことを特徴とする請求項1に記載のプラズマディスプレイ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2013−14678(P2013−14678A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−147959(P2011−147959)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】