説明

プラズマ改質成膜装置

【課題】 一つの低圧チャンバー内で、基材の表面の改質と該表面への成膜とを連続して行うことができるプラズマ改質成膜装置を提供する。
【解決手段】 プラズマ改質成膜装置1は、チャンバー10と、基材Fを搬送する搬送手段20、200、201と、基材Fの表面を改質するECRプラズマ生成装置3と、基材Fの該表面に薄膜を形成する成膜装置6と、を備える。ECRプラズマ生成装置3は、マイクロ波を伝送する矩形導波管31と、該マイクロ波が通過するスロット320を有するスロットアンテナ32と、スロット320を覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面330はスロット320から入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部33と、誘電体部33の裏面に配置される支持板34と、支持板34の裏面に配置される永久磁石35と、を備え、ECRプラズマP1を生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一つのチャンバー内において、基材の表面の改質と該表面への成膜とを連続して行うことができるプラズマ改質成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ユビキタス社会の到来に向け、スマートフォンなどの携帯電話、PHS(Personal Handyphone System)、タブレットPC(Personal Computer)、モバイルノートPC等の携帯情報端末、小型ゲーム機器、電子ペーパー等のモバイル機器が普及拡大している。また、これらのモバイル機器に対して、軽量化、薄型化、フレキシブル化、落下、衝撃等による破損抑制等のニーズが高まっている。このため、現在多用されているガラス製の表示部に代わり、樹脂基材に機能性薄膜を積層した機能性樹脂フィルムを用いたタッチパネル、有機EL(Electro Luminescence)デバイス等の需要が増加している。さらに、太陽電池市場においても、機能性樹脂フィルムを用いた、フレキシブルで軽量、薄型の有機系薄膜太陽電池が脚光を浴びている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−224269号公報
【特許文献2】特開2005−197371号公報
【特許文献3】特開2007−184259号公報
【特許文献4】特開2009−275251号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、機能性樹脂フィルムを用いた製品においては、従来のガラス製品と比較して、寿命が短いという課題がある。この原因の一つとして、樹脂基材の表面にある、樹脂成分に由来するノジュール(ブルームした粒状の塊)が考えられる。すなわち、樹脂基材へ機能性薄膜を形成する際、樹脂基材の表面にノジュールがあると、ノジュールに沿って薄膜が凹凸に形成されてしまう。薄膜に凹凸があると、凸部に電界が集中し、デバイスが破損しやすくなる。
【0005】
一例として、フレキシブル有機ELデバイスについて説明する。図7に、有機ELデバイスの断面図を示す。図7に示すように、有機ELデバイス8は、前方から後方に向かって、ハードコート層80と、樹脂基材81と、前面ガスバリア膜82と、陽極83と、ホール輸送層84と、電子輸送性発光層85と、陰極86と、後面ガスバリア層87と、を備えている。
【0006】
有機ELデバイス8の発光原理について簡単に説明する。陽極83、陰極86に電圧を印加すると、陽極83からホール(正孔)が、陰極86から電子が、各々、発生する。ホールは、陽極83から、ホール輸送層84を通過し、電子輸送性発光層85に進入する。一方、電子は、陰極86から、電子輸送性発光層85に進入する。電子輸送性発光層85においてホールと電子とが結合することにより、発光する。ここで、電子輸送性発光層85の前方に配置されているハードコート層80、樹脂基材81、前面ガスバリア膜82、陽極83、ホール輸送層84は透明である。このため、当該発光は、有機ELデバイス8の前方から視認することができる。
【0007】
有機ELデバイス8において、ガスバリア膜82および陽極83は、スパッタやCVD(Chemical Vapor Deposition)等により、樹脂基材81の後面に形成される。しかしながら、樹脂基材81の後面に粒子径の大きなノジュールが存在したまま、ガスバリア膜82および陽極83を形成すると、当該ノジュールに沿って膜の凹凸が大きくなってしまう。そして、陽極83の凸部に電界が集中し、その影響で電子輸送性発光層85が劣化して、発光しなくなる。
【0008】
形成する薄膜の凹凸を小さくするためには、成膜前に、樹脂基材の表面のノジュールを微細化、あるいは除去しておくことが望ましい。そこで、本発明者は、マイクロ波プラズマを照射して、樹脂基材の表面を改質する方法を検討した。しかし、例えば特許文献1、2に記載されているような従来の方法においては、5Pa以上の圧力下でマイクロ波プラズマを生成する。つまり、それよりも低い圧力下においては、マイクロ波プラズマを生成することは難しい。一方、スパッタ等による成膜は、不純物の侵入を抑制し、膜質を維持するために、0.3〜1Pa程度の低圧下で行うことが望ましい。したがって、従来は、マイクロ波プラズマを生成できる圧力と、成膜時の圧力と、が異なっていたため、改質処理と成膜処理とを別々のチャンバーで行う必要があった(例えば、特許文献1の図7、図8参照)。
【0009】
この場合、ガスを供給、排出するための装置や、基材の搬送装置等が、チャンバーごとに必要になる。このため、設備費用が大きくなり製造コストがかさむ。また、改質処理を終えた基材が成膜チャンバーへ搬送される間に、表面に不純物が付着するなどして、基材が汚染されるおそれがある。
【0010】
ちなみに、低圧下でプラズマを維持する試みとして、上記特許文献1には、誘電体部のチャンバー側に磁石を配置する態様が、開示されている。しかしながら、誘電体部のチャンバー側に磁石を配置した場合、磁石が、生成したプラズマや、誘電体部の表面を伝播するマイクロ波に晒される。このため、磁石の温度が上昇して、磁性が低下してしまう。よって、マイクロ波プラズマを、低圧下で安定して生成することは難しい。また、上記特許文献3には、誘電体部のチャンバー側にホロー状穴を形成する態様が、開示されている。しかし、この態様によると、マイクロ波プラズマを均一に生成させることは難しい。加えて、低圧下で安定して生成することも難しい。
【0011】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、一つの低圧チャンバー内で、基材の表面の改質と該表面への成膜とを連続して行うことができるプラズマ改質成膜装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記課題を解決するため、本発明のプラズマ改質成膜装置は、チャンバーと、該チャンバー内に配置され、基材を搬送する搬送手段と、マイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを生成し、該プラズマにより該基材の表面を改質するECRプラズマ生成装置と、該基材の該表面に薄膜を形成する成膜装置と、を備え、一つの該チャンバー内において、該基材の該表面の改質と該表面への成膜とを連続して行うことができるプラズマ改質成膜装置であって、該ECRプラズマ生成装置は、マイクロ波を伝送する矩形導波管と、該矩形導波管の一面に配置され、該マイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナと、該スロットアンテナの該スロットを覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面は該スロットから入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部と、該誘電体部の裏面に配置され該誘電体部を支持する支持板と、該支持板の裏面に配置され該プラズマ生成領域に磁場を形成する永久磁石と、を備え、該誘電体部から該磁場中に伝播する該マイクロ波によりECRを発生させながらプラズマを生成することを特徴とする。
【0013】
本発明のプラズマ改質成膜装置においては、基材の表面の改質処理を、ECRプラズマ生成装置を用いて行う。当該ECRプラズマ生成装置によると、1Pa以下の低圧下でも、高密度なプラズマを安定して生成することができる。この理由を、以下に説明する。なお、本発明のECRプラズマ生成装置においては、プラズマ生成領域側の面を「表面」とし、表面に背向する面を「裏面」と称する。
【0014】
まず、従来のマイクロ波プラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の構成を説明する。図6に、従来のプラズマ生成部の斜視図を示す。図6に示すように、プラズマ生成部9は、導波管90と、スロットアンテナ91と、誘電体部92と、を有している。スロットアンテナ91は、導波管90の右方開口部を塞ぐように配置されている。すなわち、スロットアンテナ91は、導波管90の右壁を形成している。スロットアンテナ91には、複数の長孔状のスロット910が形成されている。誘電体部92は、スロット910を覆うように、スロットアンテナ91の右面(チャンバー側)に配置されている。導波管90の前端から伝送されたマイクロ波は、図中左右方向の白抜き矢印Y1で示すように、スロット910を通過して、誘電体部92に入射する。誘電体部92に入射したマイクロ波は、図中前後方向の白抜き矢印Y2で示すように、誘電体部92の右面920に沿って伝播する。これにより、マイクロ波プラズマPが生成される。
【0015】
ここで、スロット910から誘電体部92へ入射するマイクロ波の入射方向(矢印Y1)と、誘電体部92の右面920と、は直交する。このため、誘電体部92に入射したマイクロ波は、生成したマイクロ波プラズマPに遮られ、進行方向を90°変えて、誘電体部92の右面920を伝播する(矢印Y2)。このように、生成したマイクロ波プラズマPに対して垂直にマイクロ波が入射するため、プラズマソースであるマイクロ波がマイクロ波プラズマPに伝播しにくい。このため、低圧下でのプラズマ生成が難しいと考えられる。
【0016】
次に、本発明のECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の構成を説明する。図3に、本発明のECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図を示す。なお、図3は、プラズマ生成部の一実施形態を示す図である(後述する実施形態参照)。図3は、本発明のECRプラズマ生成装置を、何ら限定するものではない。
【0017】
図3に示すように、プラズマ生成部30は、導波管31と、スロットアンテナ32と、誘電体部33と、支持板34と、永久磁石35と、を有している。導波管31の後端左方には、マイクロ波を伝送する管体部51が接続されている。スロットアンテナ32は、導波管31の上方開口部を塞ぐように配置されている。すなわち、スロットアンテナ32は、導波管31の上壁を形成している。スロットアンテナ32には、複数の長孔状のスロット320が形成されている。誘電体部33は、スロット320を覆うように、スロットアンテナ32の上面に配置されている。
【0018】
管体部51から伝送されたマイクロ波は、図中上下方向の白抜き矢印Y1で示すように、スロット320を通過して、誘電体部33に入射する。誘電体部33に入射したマイクロ波は、図中前後方向の白抜き矢印Y2で示すように、主に誘電体部33の右面330に沿って伝播する。これにより、マイクロ波プラズマが生成される。ここで、スロット320から誘電体部33に入射するマイクロ波の入射方向は、誘電体部33の右面330(プラズマ生成領域側の表面)に平行である。生成したマイクロ波プラズマに沿ってマイクロ波が入射するため、プラズマソースであるマイクロ波がマイクロ波プラズマに伝播しやすい。
【0019】
また、誘電体部33の左方には、支持板34を介して、永久磁石35が八つ配置されている。八つの永久磁石35は、いずれも右側がN極、左側がS極である。各々の永久磁石35から右方に向かって、磁力線Mが生じている。これにより、誘電体部33の右方(プラズマ生成領域)には、磁場が形成されている。
【0020】
生成したマイクロ波プラズマ中の電子は、サイクロトロン角周波数ωceに従って、磁力線M方向に対して右回りの旋回運動を行う。一方、マイクロ波プラズマ中を伝播するマイクロ波は、電子サイクロトロン波と呼ばれる右回りの円偏波を励起する。電子サイクロトロン波が右方に伝播し、その角周波数ωがサイクロトロン角周波数ωceに一致すると、電子サイクロトロン波が減衰し、波動エネルギーが電子に吸収される。すなわち、ECRが生じる。例えば、マイクロ波の周波数が2.45GHzの場合、磁束密度0.0875Tで、ECRが生じる。ECRによりエネルギーが増大した電子は、磁力線Mに拘束されながら、周辺の中性粒子と衝突する。これにより、中性粒子が次々に電離する。電離により生じた電子も、ECRにより加速され、さらに中性粒子を電離させる。このようにして、誘電体部33の右方に、高密度のECRプラズマP1が生成される。
【0021】
このように、本発明のECRプラズマ生成装置によると、生成するマイクロ波プラズマに沿ってマイクロ波を入射させると共に、ECRを利用してプラズマ密度を大きくすることにより、1Pa以下の低圧下、さらには0.1Pa以下の極低圧下においても、プラズマを生成することができる。すなわち、本発明のECRプラズマ生成装置を用いると、成膜処理を行う低圧下においても、高密度なプラズマを安定して生成することができる。したがって、従来、処理圧力の違いから、別々のチャンバーにおいて行わなければならなかった改質処理と成膜処理とを、一つの低圧チャンバー内で連続して行うことができる。これにより、従来は改質、成膜の各チャンバーごとに必要であった、ガスの供給、排出装置や基材の搬送装置等を、一つにまとめることができる。よって、設備費用を削減することができる。また、改質と成膜とを同じチャンバー内で連続して行うため、改質処理された基材の表面に、不純物が付着するおそれは小さい。つまり、基材が汚染されにくくなる。このため、より凹凸の少ない薄膜を形成することができる。
【0022】
また、本発明のECRプラズマ生成装置によると、低電位のまま、エネルギーの大きなプラズマを生成することができる。これにより、基材の粗面化や変形を抑制しながら、大きな改質効果を得ることができる。
【0023】
また、本発明のECRプラズマ生成装置によると、長尺状の矩形導波管を用いて、長手方向にスロットを配置することにより、長尺状のプラズマを生成することができる。したがって、基材の幅が大きく大面積の場合でも、容易に改質処理を行うことができる。
【0024】
本発明のプラズマ改質成膜装置によると、改質処理により、樹脂基材の表面のノジュールを微細化することができる。このため、その後に形成される薄膜の凹凸を小さくすることができる。したがって、例えば、有機ELデバイス用の樹脂基材に対して、本発明のプラズマ改質成膜装置を用いて改質および成膜を行えば、形成されるガスバリア膜や陽極の凹凸を小さくすることができる。その結果、陽極の凸部への電界集中を抑制し、電子輸送性発光層の劣化を抑制することができる。
【0025】
(2)好ましくは、上記(1)の構成において、前記チャンバー内の圧力を0.05Pa以上3Pa以下にして、改質および成膜を行う構成とする方がよい。
【0026】
チャンバー内を0.05Pa以上3Pa以下の高真空状態にすることにより、スパッタ成膜用のプラズマが安定すると共に、不純物の侵入を抑制することができる。また、スパッタ成膜においては、ターゲット粒子の平均自由行程を長くすることができる。これにより、形成される薄膜の膜質が向上する。
【0027】
(3)好ましくは、上記(1)または(2)の構成において、前記ECRプラズマ生成装置の前記支持板は、前記永久磁石の温度上昇を抑制するための支持板用冷却手段を有する構成とする方がよい。
【0028】
永久磁石は、支持板を介して誘電体部の裏面側に配置される。このため、プラズマを生成する際、永久磁石の温度が上昇しやすい。永久磁石の温度がキュリー温度以上になると、磁性が失われてしまう。本構成によると、支持板用冷却手段により、永久磁石の温度上昇が抑制される。このため、永久磁石の磁性が失われるおそれは小さい。したがって、本構成によると、安定した磁場を形成することができる。
【0029】
(4)好ましくは、上記(1)〜(3)のいずれかの構成において、前記成膜装置は、ターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を備え、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を前記基材の前記表面に付着させて薄膜を形成するマグネトロンスパッタ成膜装置である構成とする方がよい。
【0030】
スパッタによる成膜方法としては、二極スパッタ法や、マグネトロンスパッタ法等がある。なかでも、マグネトロンスパッタ法によると、ターゲット表面に発生した磁場により、ターゲットから飛び出した二次電子が捕らえられる。このため、基材の温度が上昇しにくい。また、捕らえた二次電子でガスのイオン化が促進されるため、成膜速度を速くすることができる。したがって、本構成によると、熱による基材の変形が小さく、比較的速やかに薄膜を形成することができる。なお、本構成のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、DC(直流)マグネトロンスパッタ法(DCパルス方式を含む)を採用することが、望ましい。
【0031】
(5)好ましくは、上記(4)の構成において、前記マグネトロンスパッタ成膜装置は、さらに、前記ECRプラズマ生成装置を備え、該ECRプラズマ生成装置により、該基材と該ターゲットとの間にECRプラズマが照射される構成とする方がよい。
【0032】
マグネトロンスパッタ成膜装置においては、生成するプラズマを安定化させるため、ターゲットに数百ボルトの高電圧を印加することが多い。印加電圧が高いと、ターゲットから、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子が飛び出す場合がある。粒子径の大きな粒子が基材に付着すると、形成された膜の表面に凹凸が生じてしまう。膜の表面の凹凸が大きい場合、凹部に酸素等が吸着しやすくなり、膜自身や、膜と接する相手材を劣化させるおそれがある。また、凸部により、相手材を劣化させるおそれがある。
【0033】
このような問題を解決すべく、本発明者が鋭意研究を重ねた結果、マグネトロン放電で生成したプラズマ(以下、適宜「マグネトロンプラズマ」と称す)による成膜を、マイクロ波プラズマを照射しながら行えば、印加電圧を下げることができるという見地に至った。このような見地に基づいた本構成のマグネトロンスパッタ成膜装置は、上述したECRプラズマ生成装置を備える。つまり、本構成のマグネトロンスパッタ成膜装置においては、マグネトロンプラズマによる成膜を、ECRプラズマを照射しながら行う。基材とターゲットとの間にECRプラズマを照射することにより、印加電圧を下げても、マグネトロンプラズマを安定に維持することができる。これにより、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子のターゲットからの飛び出しを、抑制することができる。その結果、スパッタ粒子の粒子径のばらつきが抑制され、形成される薄膜の表面の凹凸を、小さくすることができる。また、ECRプラズマを照射すると、スパッタ粒子が微細化される。このため、よりきめ細やかな薄膜を形成することができる。
【0034】
(6)好ましくは、上記(1)〜(5)のいずれかの構成において、前記搬送手段は、ロール部材を備える構成とする方がよい。
【0035】
基材をロール部材で搬送すると、例えば、コンベア等を用いて直線的に搬送する場合と比較して、チャンバーを小型化することができる。
【0036】
(7)好ましくは、上記(6)の構成において、前記ロール部材は、外周面の温度を低下させるロール用冷却手段を有する構成とする方がよい。
【0037】
上記(6)の構成によると、基材は、ロール部材の外周面に支持されて搬送される。基材には、ECRプラズマが照射される。この際、基材の温度が上昇しやすい。基材の温度が高くなると、基材が変形したり、損傷を受けるおそれがある。この点、本構成によると、ロール用冷却手段により、ロール部材の外周面の温度を低下させることができる。よって、搬送される基材の温度上昇を抑制することができる。これにより、熱による基材の変形や、損傷を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】実施形態のプラズマ改質成膜装置の左右方向断面図である。
【図2】図1のECRプラズマ生成装置付近を拡大した断面図である。
【図3】同ECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図である。
【図4】図1のマグネトロンスパッタ成膜装置付近を拡大した断面図である。
【図5】同マグネトロンスパッタ成膜装置を構成するECRプラズマ生成装置のプラズマ生成部の斜視図である。
【図6】従来のマイクロ波プラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図である。
【図7】有機ELデバイスの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、本発明のプラズマ改質成膜装置の実施の形態について説明する。
【0040】
<全体構成>
まず、本実施形態のプラズマ改質成膜装置の全体構成について説明する。図1に、本実施形態のプラズマ改質成膜装置の左右方向断面図を示す。なお、図1において、紙面手前、奥方向が前後方向になる。図1に示すように、プラズマ改質成膜装置1は、処理室10と、処理ロール20と、二つのガイドロール200、201と、ECRプラズマ生成装置3と、マグネトロンスパッタ成膜装置6と、供給室11と、巻取り室12と、を備えている。
【0041】
供給室11は、ステンレス鋼製であって、直方体箱状を呈している。供給室11は、処理室10の左側に配置されている。供給室11と処理室10とを区画する仕切り壁には、基材Fが通過可能な開口部101が形成されている。供給室11には、供給ロール21と、ガイドロール210と、後述するECRプラズマ生成装置3のマイクロ波伝送部50と、が配置されている。供給ロール21およびガイドロール210は、いずれも前後方向に長い、円柱状を呈している。供給ロール21には、モータ(図略)が接続されている。また、供給ロール21には、基材Fが巻回されている。基材Fは、長尺状のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムである。モータの駆動により、供給ロール21が反時計回りに回転することにより、基材Fは、ガイドロール210に案内されて、処理室10に送られる。
【0042】
巻取り室12は、ステンレス鋼製であって、直方体箱状を呈している。巻取り室12は、処理室10の右側に配置されている。巻取り室12と処理室10とを区画する仕切り壁には、処理後の基材F(成膜フィルムF’)が通過可能な開口部102が形成されている。巻取り室12には、巻取りロール22と、ガイドロール220と、後述するECRプラズマ生成装置4のマイクロ波伝送部50と、が配置されている。巻取りロール22およびガイドロール220は、いずれも前後方向に長い、円柱状を呈している。巻取りロール22には、モータ(図略)が接続されている。モータの駆動により、巻取りロール22が反時計回りに回転することにより、処理室10から送られる成膜フィルムF’は、ガイドロール220に案内されて、巻取りロール22に巻き取られる。
【0043】
処理室10は、ステンレス鋼製であって、直方体箱状を呈している。処理室10の図示しない後壁には、ガス供給孔が穿設されている。ガス供給孔には、アルゴン(Ar)ガスを処理室10内に供給するためのガス供給管の下流端が接続されている。処理室10の下壁には、排気孔(図略)が穿設されている。排気孔には、処理室10の内部のガスを排出するための真空排気装置(図略)が接続されている。処理室10は、本発明のチャンバーに含まれる。
【0044】
処理ロール20は、前後方向に長い、円柱状を呈している。処理ロール20は、処理室10内の中央付近に配置されている。処理ロール20の軸方向中心には、回転軸が配置されている。処理ロール20は、当該回転軸を中心に、反時計回りに回転可能である。処理ロール20の外周面には、基材Fが支持されている。また、処理ロール20は、冷却管(図略)を内蔵している。冷却液が冷却管を循環することにより、処理ロール20の外周面は冷却されている。冷却液および冷却管は、本発明のロール用冷却手段に含まれる。
【0045】
二つのガイドロール200、201は、各々、前後方向に長い、円柱状を呈している。ガイドロール200は、処理ロール20の左側上方に配置されている。同様に、ガイドロール201は、処理ロール20の右側上方に配置されている。二つのガイドロール200、201は、処理ロール20と平行に、所定の間隔で離間して、対向して配置されている。ガイドロール200は、回転軸を中心に、時計回りに回転可能である。ガイドロール200は、供給室11から送られる基材Fを、処理ロール20に搬送する。ガイドロール201は、回転軸を中心に、時計回りに回転可能である。ガイドロール201は、処理ロール20から送られる処理後の基材F(成膜フィルムF’)を、巻取り室12に搬送する。処理ロール20およびガイドロール200、201は、本発明のロール部材および搬送手段に含まれる。
【0046】
ECRプラズマ生成装置3は、処理ロール20の左側に配置されている。ECRプラズマ生成装置3は、プラズマ生成部30と、マイクロ波伝送部50と、を備えている。ECRプラズマ生成装置3は、ECRプラズマP1を生成し、当該ECRプラズマP1により基材Fの表面を改質する。ECRプラズマ生成装置3の詳細については、後述する。
【0047】
マグネトロンスパッタ成膜装置6は、処理ロール20の下側に配置されている。マグネトロンスパッタ成膜装置6は、スパッタ部60と、ECRプラズマ生成装置4と、を備えている。マグネトロンスパッタ成膜装置6は、ECRプラズマ生成装置4によりECRプラズマP1を照射しながら、スパッタ部60のマグネトロンプラズマP2によるスパッタにより、基材Fの表面に薄膜を形成する。マグネトロンスパッタ成膜装置6の詳細については、後述する。
【0048】
<ECRプラズマ生成装置>
次に、ECRプラズマ生成装置3の構成について説明する。図2に、図1のECRプラズマ生成装置付近を拡大した断面図を示す。図3に、同ECRプラズマ生成装置におけるプラズマ生成部の斜視図を示す。図2、図3に示すように、ECRプラズマ生成装置3は、プラズマ生成部30と、マイクロ波伝送部50と、を備えている。マイクロ波伝送部50は、管体部51と、マイクロ波電源52と、マイクロ波発振器53と、アイソレータ54と、パワーモニタ55と、EH整合器56と、を有している。マイクロ波発振器53、アイソレータ54、パワーモニタ55、およびEH整合器56は、管体部51により連結されている。管体部51は、処理室10の左壁に穿設された導波孔を通って、プラズマ生成部30の導波管31の左側に接続されている。
【0049】
プラズマ生成部30は、導波管31と、スロットアンテナ32と、誘電体部33と、支持板34と、永久磁石35と、を有している。図3に示すように、導波管31は、アルミニウム製であって、上方に開口する直方体箱状を呈している。導波管31は、前後方向に延在している。導波管31は、本発明における矩形導波管に含まれる。管体部51および導波管31は、内部圧力が大気圧あるいは0.01Pa以下の高真空状態になるように、シールされている。このため、管体部51および導波管31の内部で、プラズマが生成されることはない。
【0050】
スロットアンテナ32は、アルミニウム製であって、長方形板状を呈している。スロットアンテナ32は、導波管31の開口部を上方から塞いでいる。すなわち、スロットアンテナ32は、導波管31の上壁を形成している。スロットアンテナ32には、スロット320が四つ形成されている。スロット320は、前後方向に伸びる長孔状を呈している。スロット320は、電界が強い位置に配置されている。
【0051】
誘電体部33は、石英製であって、直方体状を呈している。誘電体部33は、スロットアンテナ32の上面右側に配置されている。誘電体部33は、スロット320を上方から覆っている。上述したように、誘電体部33の右面330は、スロット320から入射するマイクロ波の入射方向Y1に対して平行に配置されている。右面330は、誘電体部33におけるプラズマ生成領域側の表面に含まれる。
【0052】
支持板34は、ステンレス鋼製であって、平板状を呈している。支持板34は、スロットアンテナ32の上面において、誘電体部33の左面(裏面)に接するように配置されている。支持板34の内部には、冷媒通路340が形成されている。冷媒通路340は、前後方向に延在するU字状を呈している。冷媒通路340の前端は、冷却管341に接続されている。冷媒通路340は、冷却管341を介して、処理室10の外部において、熱交換器およびポンプ(共に図略)に接続されている。冷却液は、冷媒通路340→冷却管341→熱交換器→ポンプ→冷却管341→再び冷媒通路340という経路を循環している。冷却液の循環により、支持板34は冷却されている。冷媒通路340および冷却液は、本発明の支持板用冷却手段に含まれる。
【0053】
永久磁石35は、ネオジム磁石であり、直方体状を呈している。永久磁石35は、支持板34の左面(裏面)に八つ配置されている。八つの永久磁石35は、前後方向に直列に配置されている。八つの永久磁石35は、いずれも右側がN極、左側がS極である。各々の永久磁石35から右方に向かって、磁力線Mが生じている。これにより、誘電体部33の右方のプラズマ生成領域に、磁場が形成されている。
【0054】
<マグネトロンスパッタ成膜装置>
次に、マグネトロンスパッタ成膜装置6の構成について説明する。図4に、図1のマグネトロンスパッタ成膜装置付近を拡大した断面図を示す。図5に、同マグネトロンスパッタ成膜装置を構成するECRプラズマ生成装置のプラズマ生成部の斜視図を示す。図4、図5に示すように、マグネトロンスパッタ成膜装置6は、スパッタ部60と、ECRプラズマ生成装置4と、を備えている。
【0055】
スパッタ部60は、ターゲット61と、バッキングプレート62と、永久磁石63a〜63cと、カソード64と、を備えている。カソード64は、ステンレス鋼製であって、上方に開口する直方体箱状を呈している。カソード64、ターゲット61、およびバッキングプレート62の周囲には、アースシールド65が配置されている。カソード64は、アースシールド65を介して、処理室10の下面に配置されている。カソード64は、直流パルス電源66に接続されている。
【0056】
永久磁石63a〜63cは、カソード64の内側に配置されている。永久磁石63a〜63cは、各々、前後方向に延びる直方体状を呈している。永久磁石63a〜63cは、左右方向に離間して、互いに平行になるように配置されている。永久磁石63aおよび永久磁石63cについては、上側がS極、下側がN極である。永久磁石63bについては、上側がN極、下側がS極である。永久磁石63a〜63cにより、ターゲット61の上面に磁場が形成される。永久磁石63a〜63cは、本発明における磁場形成手段に含まれる。
【0057】
バッキングプレート62は、銅製であって、長方形板状を呈している。バッキングプレート62は、カソード64の上部開口を覆うように配置されている。
【0058】
ターゲット61は、酸化インジウム−酸化錫の複合酸化物(ITO)であり、長方形薄板状を呈している。ターゲット61は、バッキングプレート62の上面に配置されている。ターゲット61は、処理ロール20の下面と対向するように配置されている。
【0059】
ECRプラズマ生成装置4は、プラズマ生成部40と、マイクロ波伝送部50と、を備えている。マイクロ波伝送部50の構成については、ECRプラズマ生成装置3において、説明した通りである。また、プラズマ生成部40の構成は、ECRプラズマ生成装置3のプラズマ生成部30の構成と、同じである。以下、プラズマ生成部40の構成を、簡単に説明する。
【0060】
図5に示すように、プラズマ生成部40は、導波管41と、スロットアンテナ42と、誘電体部43と、支持板44と、永久磁石45と、を有している。導波管41は、前後方向に延在している。導波管41は、本発明における矩形導波管に含まれる。導波管41は、内部圧力が大気圧あるいは0.01Pa以下の高真空状態になるように、シールされている。このため、上述したECRプラズマ生成装置3と同様、管体部51および導波管41の内部で、プラズマが生成されることはない。スロットアンテナ42は、導波管41の開口部を上方から塞いでいる。スロットアンテナ42には、スロット420が四つ形成されている。誘電体部43は、スロットアンテナ42の上面左側に配置されている。誘電体部43は、スロット420を上方から覆っている。誘電体部43の左面430は、スロット420から入射するマイクロ波の入射方向Y1に対して平行に配置されている。左面430は、誘電体部43におけるプラズマ生成領域側の表面に含まれる。
【0061】
支持板44は、スロットアンテナ42の上面において、誘電体部43の右面(裏面)に接するように配置されている。支持板44の内部には、冷媒通路440が形成されている。冷媒通路440の前端は、冷却管441に接続されている。冷媒通路440は、冷却管441を介して、処理室10の外部において、熱交換器およびポンプ(共に図略)に接続されている。冷媒通路440、冷却管441を通る冷却液の循環により、支持板44は冷却されている。冷媒通路440および冷却液は、本発明の支持板用冷却手段に含まれる。永久磁石45は、支持板44の右面(裏面)に八つ配置されている。各々の永久磁石45から左方に向かって、磁力線Mが生じている。これにより、誘電体部43の左方のプラズマ生成領域に、磁場が形成されている。
【0062】
<動き>
次に、プラズマ改質成膜装置1の動きについて説明する。まず、真空排気装置(図略)を作動させて、処理室10の内部のガスを排気孔から排出し、処理室10の内部を減圧状態にする。次に、ガス供給管から、アルゴンガスを処理室10内へ供給して、処理室10内の圧力を約0.1Paにする。この状態で、各ロール20、21、22、200、201、210、220のモータを駆動させ、供給ロール21から基材Fを、処理室10に搬送する。
【0063】
そして、二つのECRプラズマ生成装置3、4のマイクロ波電源52を、オンにする。マイクロ波電源52をオンにすると、マイクロ波発振器53が、周波数2.45GHzのマイクロ波を発生する。発生したマイクロ波は、管体部51内を伝播する。ここで、アイソレータ54は、プラズマ生成部30、40から反射されたマイクロ波が、マイクロ波発振器53に戻るのを抑制する。パワーモニタ55は、発生したマイクロ波の出力と、反射したマイクロ波の出力と、をモニタリングする。EH整合器56は、マイクロ波の反射量を調整する。管体部51内を通過したマイクロ波は、プラズマ生成部30の導波管31の内部を伝播する。同様に、プラズマ生成部40の導波管41の内部を伝播する。
【0064】
導波管31の内部を伝播するマイクロ波は、スロットアンテナ32のスロット320に進入する。そして、前出図3中白抜き矢印Y1で示すように、スロット320を通過して、誘電体部33に入射する。誘電体部33に入射したマイクロ波は、同図中白抜き矢印Y2で示すように、主に誘電体部33の右面330に沿って伝播する。このマイクロ波の強電界により、処理室10内のアルゴンガスが電離して、誘電体部33の右方にマイクロ波プラズマが生成される。生成したマイクロ波プラズマ中の電子は、サイクロトロン角周波数に従って、磁力線M方向に対して右回りの旋回運動を行う。一方、マイクロ波プラズマ中を伝播するマイクロ波は、電子サイクロトロン波を励起する。電子サイクロトロン波の角周波数は、磁束密度0.0875Tで、サイクロトロン角周波数に一致する。これにより、ECRが生じる。ECRによりエネルギーが増大した電子は、磁力線Mに拘束されながら、周辺の中性粒子と衝突する。これにより、中性粒子が次々に電離する。電離により生じた電子も、ECRにより加速され、さらに中性粒子を電離させる。このようにして、誘電体部33の右方に、高密度のECRプラズマP1が生成される。このECRプラズマP1により、処理ロール20により搬送されてきた基材Fの表面を、改質する。また、プラズマ生成部30と同様にして、プラズマ生成部40の誘電体部43の左方にも、高密度のECRプラズマP1が生成される。
【0065】
スパッタ部60においては、直流パルス電源66をオンにして、カソード64に電圧を印加する。これにより生じたマグネトロン放電で、アルゴンガスが電離して、ターゲット61の上方にマグネトロンプラズマP2が生成される。そして、マグネトロンプラズマP2(アルゴンイオン)によりターゲット61をスパッタし、ターゲット61からスパッタ粒子を叩き出す。ターゲット61から飛び出したスパッタ粒子は、上方の基材Fに向かって飛散して、基材Fの改質処理された表面に付着することにより、ITO膜を形成する。この際、基材Fとターゲット61との間(マグネトロンプラズマP2生成領域を含む)には、プラズマ生成部40からECRプラズマP1が照射される。
【0066】
改質および成膜処理された基材F、つまり、成膜フィルムF’は、ガイドロール201、220に案内されて、処理室10から巻取り室12に搬送され、巻取りロール22に巻き取られる。
【0067】
<作用効果>
次に、本実施形態のプラズマ改質成膜装置の作用効果について説明する。本実施形態のプラズマ改質成膜装置1においては、基材Fの表面の改質処理を、ECRプラズマ生成装置3を用いて行う。ECRプラズマ生成装置3によると、成膜処理を行う0.3〜1Pa程度の低圧下においても、高密度なプラズマを安定して生成することができる。したがって、従来、処理圧力の違いから、別々の処理室において行わなければならなかった改質処理と成膜処理とを、一つの処理室10内で連続して行うことができる。これにより、従来は改質、成膜の各処理室ごとに必要であった、ガスの供給、排出装置や基材の搬送装置等を、一つにまとめることができる。よって、設備費用を削減することができる。また、改質と成膜とを同じ処理室10内で連続して行うため、改質処理された基材Fの表面に、不純物が付着するおそれは小さい。つまり、基材Fが汚染されにくくなる。このため、より凹凸の少ない薄膜を形成することができる。
【0068】
プラズマ改質成膜装置1においては、基材Fを処理ロール20等により搬送する。よって、コンベア等を用いて直線的に搬送する場合と比較して、処理室10を小型化することができる。ここで、処理ロール20の内部には、冷却管を通して冷却液が循環している。これにより、処理ロール20の外周面は、冷却されている。よって、搬送される基材Fの温度上昇を抑制し、熱による基材Fの変形や、損傷を抑制することができる。
【0069】
プラズマ改質成膜装置1によると、改質処理により、PET製の基材Fの表面のノジュールが、微細化される。このため、その後に形成されるITO膜の凹凸は小さい。よって、成膜フィルムF’を有機ELデバイスに用いれば、陽極の凸部への電界集中を抑制し、電子輸送性発光層の劣化を抑制することができる。
【0070】
また、ECRプラズマ生成装置3によると、低電位のまま、エネルギーの大きなECRプラズマP1を生成することができる。これにより、基材Fの粗面化や変形を抑制しながら、大きな改質効果を得ることができる。また、導波管31は、前後方向に延びる長尺の箱状を呈している。そして、スロット320は、前後方向に直列に配置されている。これにより、長尺状のECRプラズマP1を生成することができる。したがって、基材Fの幅が大きく大面積の場合でも、容易に改質処理を行うことができる。また、八つの永久磁石35は、支持板34の左面に配置されている。支持板34の内部には、冷媒通路340を通して冷却液が循環している。これにより、支持板34は冷却されている。よって、永久磁石35の温度は上昇しにくい。つまり、永久磁石35の磁性が失われるおそれは小さい。したがって、プラズマ生成時においても、安定した磁場が形成される。
【0071】
プラズマ改質成膜装置1においては、基材Fの表面への成膜を、マグネトロンスパッタ成膜装置6を用いて行う。マグネトロンスパッタ成膜装置6は、スパッタ部60と、ECRプラズマ生成装置4と、を備えている。これにより、マグネトロンプラズマP2によるスパッタ成膜を、ECRプラズマP1を照射しながら行うことができる。
【0072】
スパッタ部60において、ターゲット61表面に発生した磁場により、ターゲット61から飛び出した二次電子が捕らえられる。このため、基材Fの温度が上昇しにくい。よって、熱による基材Fの変形は小さい。また、捕らえた二次電子でアルゴンガスのイオン化が促進されるため、成膜速度が速い。
【0073】
また、ECRプラズマP1を照射することにより、印加電圧を下げても、マグネトロンプラズマP2を安定に維持することができる。これにより、クラスター粒子のような粒子径の大きな粒子のターゲット61からの飛び出しを、抑制することができる。その結果、スパッタ粒子の粒子径のばらつきが抑制され、形成される薄膜の表面の凹凸を、小さくすることができる。また、ECRプラズマP1を照射すると、スパッタ粒子が微細化される。このため、よりきめ細やかな薄膜を形成することができる。また、処理室10内を0.1Pa程度の高真空状態にすることにより、マグネトロンプラズマP2が安定すると共に、不純物の侵入を抑制し、ターゲット粒子の平均自由行程を長くすることができる。これにより、形成される薄膜の膜質が向上する。
【0074】
ECRプラズマ生成装置4において、導波管41は、前後方向に延びる長尺の箱状を呈している。そして、スロット420は、前後方向に直列に配置されている。これにより、ECRプラズマ生成装置4によると、長尺状のECRプラズマP1を生成することができる。したがって、ECRプラズマ生成装置4は、大面積の薄膜を形成する場合に好適である。
【0075】
<その他>
以上、本発明のプラズマ改質成膜装置の一実施形態について説明した。しかしながら、プラズマ改質成膜装置の実施の形態は上記形態に限定されるものではない。当業者が行いうる種々の変形的形態、改良的形態で実施することも可能である。
【0076】
例えば、上記実施形態においては、成膜装置として、マグネトロンスパッタ成膜装置を用いた。しかし、成膜装置は、磁場を形成せずにスパッタを行う装置(二極スパッタ装置等)でもよく、プラズマCVD装置でもよい。また、成膜の際、必ずしもECRプラズマを照射する必要はない。つまり、ECRプラズマ生成装置を用いずに成膜装置を構成してもよい。また、成膜装置としてECRプラズマ生成装置を用いる場合には、改質処理を行うECRプラズマ生成装置を兼用してもよい。
【0077】
マグネトロンスパッタ成膜装置を用いる場合、スパッタ部のバッキングプレート、およびカソードの材質や形状については、特に限定されない。例えば、バッキングプレートには、非磁性の導電性材料を用いればよい。なかでも、導電性および熱伝導性が高い銅等の金属材料が望ましい。カソードには、ステンレス鋼の他、アルミニウム等の金属を用いることができる。また、ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段の構成は、上記実施形態に限定されない。磁場形成手段として永久磁石を用いる場合、永久磁石の種類や配置形態については、適宜決定すればよい。例えば、各々の永久磁石のN極とS極とが、上記実施形態と逆でもよい。
【0078】
基材の搬送手段は、上記実施形態のようなロール部材を用いた方式には限定されない。搬送手段は、改質処理と成膜処理とを一つのチャンバー内で連続して行えるように、基材を搬送できるものであればよい。また、ロール部材を用いる場合でも、ロール部材の構成や配置形態は、限定されない。
【0079】
上記実施形態においては、プラズマ改質成膜装置を、処理室の他に、供給室、巻取り室を備えて構成した。しかし、供給室、巻取り室は必ずしも必要ではない。基材に改質処理と成膜処理とを行う処理室(チャンバー)のみから、プラズマ改質成膜装置を構成してもよい。チャンバーの材質や形状についても、特に限定されない。例えば、チャンバーは金属材料で形成されていればよい。金属材料のなかでも、導電性の高い材料を採用することが望ましい。
【0080】
上記実施形態においては、マグネトロンスパッタ成膜装置のターゲットとして、ITOを用いた。しかし、ターゲットの材料は、特に限定されるものではなく、形成する薄膜の種類に応じて適宜決定すればよい。勿論、形成する薄膜の種類も限定されない。同様に、基材についても、用途に応じて、適宜選択すればよい。上記実施形態のPETフィルムの他、例えば、ポリエチレンナフタレート(PEN)フィルム、ポリフェニレンサルファイド(PPS)フィルム、ポリアミド(PA)6フィルム、PA11フィルム、PA12フィルム、PA46フィルム、ポリアミドMXD6フィルム、PA9Tフィルム、ポリイミド(PI)フィルム、ポリカーボネート(PC)フィルム、フッ素樹脂フィルム、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)フィルム、ポリビニルアルコール(PVA)フィルム、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、シクロオレフィンポリマー等のポリオレフィンフィルム等を用いることができる。
【0081】
ECRプラズマ生成装置において、スロットアンテナの材質、スロットの数、形状、配置等は、特に限定されない。例えば、スロットアンテナの材質は、非磁性の金属であればよく、アルミニウムの他、ステンレス鋼や真鍮等でも構わない。また、スロットは、一列ではなく、二列以上に配置されていてもよい。スロットの数は、奇数個でも偶数個でもよい。また、スロットの配置角度を変えて、ジグザグ状に配置してもよい。誘電体部の材質、形状についても、特に限定されない。誘電体部の材質としては、誘電率が低く、マイクロ波を吸収しにくい材料が望ましい。例えば、石英の他、酸化アルミニウム(アルミナ)等が好適である。
【0082】
また、支持板の材質や形状は、特に限定されない。上記実施形態においては、支持板用冷却手段として、冷媒通路および冷却液を配置した。しかし、支持板用冷却手段の構成は、特に限定されない。支持板は、支持板用冷却手段を有していなくてもよい。
【0083】
また、誘電体部の右方、あるいは左方(プラズマ生成領域)に磁場を形成する永久磁石は、ECRを発生させることができれば、その形状、種類、個数、配置形態等は特に限定されない。例えば、永久磁石を一つだけ配置してもよく、複数個を二列以上に配置してもよい。
【0084】
上記実施形態においては、ECRプラズマの生成に、周波数2.45GHzのマイクロ波を用いた。しかし、マイクロ波の周波数は特に限定されない。8.35GHz、1.98GHz、915MHz等であってもよい。
【0085】
上記実施形態においては、約0.1Paの圧力下で、改質および成膜処理を行った。しかし、処理の圧力は、当該圧力に限定されない。改質および成膜処理は、適宜最適な圧力下で行えばよい。また、供給するガスとしては、アルゴンの他、ヘリウム(He)、ネオン(Ne)、クリプトン(Kr)、キセノン(Xe)等の希ガス、窒素(N)、酸素(O)、水素(H)等を用いてもよい。なお、二種類以上のガスを混合して用いてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のプラズマ改質成膜装置は、例えば、タッチパネル、ディスプレイ、LED(発光ダイオード)照明、太陽電池、電子ペーパー等に用いられる透明導電膜等の形成に有用である。
【符号の説明】
【0087】
1:プラズマ改質成膜装置、10:処理室(チャンバー)、11:供給室、12:巻取り室、101、102:開口部。
20:処理ロール(搬送手段)、21:供給ロール、22:巻取りロール、200、201:ガイドロール(搬送手段)、210、220:ガイドロール。
3:ECRプラズマ生成装置、30:プラズマ生成部、31:導波管(矩形導波管)、32:スロットアンテナ、33:誘電体部、34:支持板、35:永久磁石、320:スロット、330:右面、340:冷媒通路(支持板用冷却手段)、341:冷却管。
4:ECRプラズマ生成装置、40:プラズマ生成部、41:導波管(矩形導波管)、42:スロットアンテナ、43:誘電体部、44:支持板、45:永久磁石、420:スロット、430:左面、440:冷媒通路(支持板用冷却手段)、441:冷却管。
50:マイクロ波伝送部、51:管体部、52:マイクロ波電源、53:マイクロ波発振器、54:アイソレータ、55:パワーモニタ、56:EH整合器。
6:マグネトロンスパッタ成膜装置、60:スパッタ部、61:ターゲット、62:バッキングプレート、63a〜63c:永久磁石(磁場形成手段)、64:カソード、65:アースシールド、66:直流パルス電源。
F:基材、F’:成膜フィルム、M:磁力線、P1:ECRプラズマ、P2:マグネトロンプラズマ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
チャンバーと、
該チャンバー内に配置され、基材を搬送する搬送手段と、
マイクロ波を用いた電子サイクロトロン共鳴(ECR)によりプラズマを生成し、該プラズマにより該基材の表面を改質するECRプラズマ生成装置と、
該基材の該表面に薄膜を形成する成膜装置と、
を備え、一つの該チャンバー内において、該基材の該表面の改質と該表面への成膜とを連続して行うことができるプラズマ改質成膜装置であって、
該ECRプラズマ生成装置は、
マイクロ波を伝送する矩形導波管と、
該矩形導波管の一面に配置され、該マイクロ波が通過するスロットを有するスロットアンテナと、
該スロットアンテナの該スロットを覆うように配置され、プラズマ生成領域側の表面は該スロットから入射する該マイクロ波の入射方向に平行である誘電体部と、
該誘電体部の裏面に配置され該誘電体部を支持する支持板と、
該支持板の裏面に配置され該プラズマ生成領域に磁場を形成する永久磁石と、
を備え、該誘電体部から該磁場中に伝播する該マイクロ波によりECRを発生させながらプラズマを生成することを特徴とするプラズマ改質成膜装置。
【請求項2】
前記チャンバー内の圧力を0.05Pa以上3Pa以下にして、改質および成膜を行う請求項1に記載のプラズマ改質成膜装置。
【請求項3】
前記ECRプラズマ生成装置の前記支持板は、前記永久磁石の温度上昇を抑制するための支持板用冷却手段を有する請求項1または請求項2に記載のプラズマ改質成膜装置。
【請求項4】
前記成膜装置は、ターゲットと、該ターゲットの表面に磁場を形成するための磁場形成手段と、を備え、マグネトロン放電で生成したプラズマにより該ターゲットをスパッタし、飛び出したスパッタ粒子を前記基材の前記表面に付着させて薄膜を形成するマグネトロンスパッタ成膜装置である請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のプラズマ改質成膜装置。
【請求項5】
前記マグネトロンスパッタ成膜装置は、さらに、前記ECRプラズマ生成装置を備え、
該ECRプラズマ生成装置により、該基材と該ターゲットとの間にECRプラズマが照射される請求項4に記載のプラズマ改質成膜装置。
【請求項6】
前記搬送手段は、ロール部材を備える請求項1ないし請求項5のいずれかに記載のプラズマ改質成膜装置。
【請求項7】
前記ロール部材は、外周面の温度を低下させるロール用冷却手段を有する請求項6に記載のプラズマ改質成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−108116(P2013−108116A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−252390(P2011−252390)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】