説明

プラント運転監視支援装置およびシステムならびにプログラム

【課題】 オペレータが行う単位操作がプラントに与える影響を事前に確認可能であり、スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能にする。
【解決手段】 リスク診断部705は、単位操作を契機にプラントの実測値を取得し、取得した実測値からプラントの運転状況を分析して単位操作を行うことによるプラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断する。描画・描画・表示制御部703は、リスク診断部705で診断されたリスクの増減方向をベクトルで表現し、先に画面表示されているプラントに与える影響に対して重ね合わせ表示する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浄水場プラント等に用いて好適な、プラント運転監視支援装置およびシステムならびにプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
浄水場施設では、急速ろ過方式を採用する場合、凝集剤等の各種薬品を注入するととともに急速攪拌を実施する混和池と、混和池で生成された凝集体(フロック)を成長させるフロック形成池と、成長したフロックを沈殿除去する沈殿池と、沈殿しきれなかった粒子やフロックを除去するろ過池とが水槽設備として形成される。
【0003】
浄水場施設の監視現場には、上記した水槽設備の他に、水位センサやバルブ調節器等のプロセス機器、所謂、現場機器が備え付けられており、各現場機器で計測された実測値は、設備毎に割り付けられたDCS(Distributed Control System)等に測定のサンプリング時刻毎にリアルタイムでバッファリングされ、監視される。
【0004】
その後、バッファリングされた測定データは、LAN(Local Area
Network)等を介してネットワーク接続されたDB(Data Base)サーバ等にファイルやデータベースの形式で蓄えられ、中央監視サーバ又はクライアント等の上位システムにより適宜アクセスされる。
【0005】
上記したプラント監視システムによれば、各現場機器から取得される、例えば、原水水質、混和条件、フロック形成池運転条件、沈殿池水質データ等の実測値が、予め設定された上下限値から外れた場合に「異常」と判定され、異常警報がオペレータに通知される。又、その異常警報に対して原因や対応をガイダンスすることも行われている。
【0006】
特許文献1には、収集したデータの瞬時値を含む統計量の少なくとも一方を含む監視対象量と基準値とを比較してプロセス量の変化状態を検知し、この検知データを含む監視情報を画面に表示することにより、プラントの異常をその兆候段階で的確に検知する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−29513号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記した従来技術によれば、設定値を超えない限り異常警報は発生せず、又、異常警報が発生してから異常対応のガイダンスが表示されても、それは、オペレータに異常の対応の仕方を知らせているだけである。
【0009】
一方、特許文献1に開示された技術によれば、各種プロセス量の瞬時値データを基に統計処理を行なうことにより統計値データとして蓄積し、監視対象の長期的な傾向からその特性を考慮した基準値を自動生成するため、人手をかけずに監視基準の設定が可能である。しかしながら、異常判定は、依然としてその基準値との比較によりなされるため、基準値を超えない限り異常警報は発生しない。
【0010】
オペレータは、本来、異常の予測、予兆を捉え、事前に操作、対応、監視することでプラントの安定運用をする必要がある。従って、オペレータは、単位操作がプラントに与える影響を事前に確認しておく必要があり、そのためのプラント運転監視支援方法の出現が望まれていた。
【0011】
そこで、本発明は上記問題点に鑑みなされたものであって、オペレータが行う単位操作がプラントに与える影響を事前に確認可能であり、運転スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能な、プラント運転監視支援装置およびシステムならびにプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のプラント運転監視支援装置は、プラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響を、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶する操作リスク記憶部と、前記単位操作を契機に、前記操作リスク記憶部を参照し、前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示する描画・表示制御部と、前記プラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断するリスク診断部と、を備え、前記描画・表示制御部は、前記画面に表示された内容に、前記リスク診断部で診断されたリスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示することを特徴とする。
【0013】
本発明によれば、リスク診断部は、単位操作を契機にプラントの実測値を取得し、取得した実測値からプラントの運転状況を分析して単位操作を行うことによるプラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断する。そして、描画・描画・表示制御部は、リスク診断部で診断されたリスクの増減方向をベクトルで表現し、先に画面表示されているプラントに与える影響に対して重ね合わせ表示する。
このため、オペレータは、これから行おうとする操作に対してプラントに対する影響を視認でき、また、ベクトルにより、その影響の中でどのリスクが高まり、あるいは減少するかを一目見ただけで理解できるため、以降の運転操作に役立たせることができる。従って、プラントの安定運用に寄与することができる。又、画面内容を確認しながらプラントの運転監視が可能になるため、スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能になる。
【0014】
上記発明において、前記操作リスク記憶部は、前記関係モデルに基づき、関係データベース管理システムにより管理されるリレーショナルデータベースであることを特徴とする。本発明によれば、リレーショナルデータベースを構築してプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響を管理するため、単位操作を条件として与えるだけで、複数に跨るプラントへの影響を連結して検索することができる。
【0015】
上記発明において、前記プラントは、川からの水を取水し、浄水場に導く着水井と、処理原水へ凝集剤や各種薬品を注入して混和させ、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、沈殿処理水をろ過するろ過池とからなる浄水処理場施設であり、前記リスク診断部は、前記実測値が示す、原水水質と、混和池水質及び運転条件と、フロック形成池水質及び運転条件と、沈殿池水質とろ過池水質と浄水池水質のプラントへの影響の重み付けにより示される目的関数とから、データマイニングにより前記プラントへの影響に関するリスクを定量的に導出し、前記リスクを閾値と比較し、前記リスクの増減方向を診断することを特徴とする。
本発明によれば、リスク診断部は、データマイニングにより、プラントへの影響に関するリスクを定量的に導出してリスクの増減方向を診断する。従って、リスク診断部によりリスク診断された結果をベクトル表示することで、オペレータは、これから行おうとする操作に対してプラントへの影響を認識でき、また、ベクトルにより、その中でどのリスクが高まり、あるいは減少するかを一目見ただけで理解できるため以降の運転操作に反映させることができ、プラントの安定運用に寄与することができる。
【0016】
本発明のプラント運転監視支援システムは、川からの水を浄水場に導く着水井と、処理原水へ凝集剤や各種薬品を注入して混和させ、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、処理水をろ過するろ過池とからなる浄水処理設備におけるプラント運転監視支援システムであって、前記浄水処理設備のそれぞれに設けられるセンサを含む現場機器と、前記現場機器を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶する操作リスク記憶部を有し、前記単位操作を契機に、前記操作リスク記憶部を参照して前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示し、前記現場機器からプラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断して、前記画面に表示された内容に、前記リスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示するプラント運転監視装置と、を備えたことを特徴とする。
【0017】
本発明のプラント運転監視支援プログラムは、複数の現場機器が接続され、前記現場機器を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶するデータベースを有するプラント運転監視支援装置のコンピュータ上で実行されるプラント運転監視支援プログラムであって、前記単位操作を契機に、前記データベースを参照して前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示する処理と、前記現場機器からプラントの実測値を取得する処理と、前記取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断する処理と、前記画面に表示された内容に、前記リスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示する処理と、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、オペレータが行う単位操作がプラントに与える影響を事前に確認可能であり、スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能な、プラント運転監視支援装置およびシステムならびにプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態に係るプラント運転監視支援システムの構成を浄水場施設と関連付けて示した図である。
【図2】本発明の実施形態に係るプラント運転監視支援装置の構成を示すブロック図である。
【図3】図2に示す操作リスク管理DBの関係モデルの一例を示す図である。
【図4】本発明の実施形態に係るプラント監視支援装置の動作を示すフローチャートである。
【図5】本発明の実施形態に係るプラント監視支援装置の画面構成の一例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、実施形態)について詳細に説明する。なお、実施形態の説明の全体を通して同じ要素には同じ番号を付している。
【0021】
(実施形態の構成)
図1は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視支援システムの構成を浄水場施設と関連付けて示した図である。
【0022】
プラントとして、浄水場施設を例示すると、川からの水を取水ポンプで取水して浄水場に導く着水井(以下、水槽設備1という)と、原水へ凝集剤や各種薬品を注入して急速攪拌する混和池(水槽設備1−1)と、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池(以下、水槽設備2という)と、懸濁物質やフロックを沈殿させる沈殿池と、沈殿処理水をろ過するろ過池とからなる。尚、他に、浄水池、排水池もあるが、ここではその説明を省略する。
【0023】
各水槽設備1、2、…には、水位センサ等のセンサ類、水質計測器、バルブ調整器等、いわゆる現場機器3、4…が備え付けられ、各現場機器3、4…での実測値は、設備1、2、…毎に割り当てられ設置されるDCS5、6…に、測定のサンプリング時刻毎リアルタイムでバッファリングされる。そのバッファリングされた測定データは、LAN等によりネットワーク接続される不図示のDBサーバに、ファイル又はデータベースの形式で蓄積され、中央監視サーバ7又はクライアント8、9によりLAN経由で適宜アクセスされる。
【0024】
中央監視サーバ13は、現場機器3、4…を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶する操作リスク記憶部(後述する操作リスクDB)を有し、単位操作を契機に、操作リスク記憶部を参照して単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示し、現場機器3、4…からプラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、単位操作を行うことによるプラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断してベクトルで画面表示するプラント運転監視装置が実装される。詳細は後述する。
【0025】
図2は、本発明の実施形態に係るプラント運転監視支援装置の構成を示すブロック図である
図2に示されるように、本発明のプラント運転監視支援装置としての機能を実現する中央監視サーバ7は、制御部70と、操作部71と、表示部72と、記憶部73と、により構成される。
【0026】
操作部71は、例えば、電源キー、通話キー、数字キー、文字キー、方向キー、決定キー、ファンクションキーなど、各種の機能が割り当てられたキー、あるいはマウス等のポインティングデバイスを有しており、これらキー、あるいはマウスがユーザによって操作された場合に、その操作内容に対応する信号を発生し、これをユーザの指示として制御部70に出力する。
【0027】
表示部72は、多数の画素(複数色の発光素子の組み合わせ)を縦横に配して構成される、例えばLCD(Liquid Crystal Display Device)や有機EL(Electro-Luminescence)を用いて構成される。表示部72は、制御部70により生成され、制御部70が内蔵する、又は外付けされるメモリの所定の領域(VRAM領域)に描画された表示対象データに応じた画像を表示する。
【0028】
記憶部73には、操作リスク記憶部(操作リスクDB730)が割り付けられ記憶される。操作リスクDB730は、プラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響を、体系的に階層構造で記述した関係モデルである。
具体的には、図3にそのデータ構造の一例が示されるように、単位操作によりプラントに与える影響が互いに関係付けられ記憶されている。例えば、単位操作として「PAC(凝集剤)注入」が選択されると、水槽設備1−1(混和池)において、原水水質が変化していない状態で「PAC注入率増加」がなされた場合、プロセスに与える影響として、水槽設備2(フロック形成池)では、「アルカリ度が減少」し、その結果、「良質な水酸化アルミニウムフロックが形成されない」ことに繋がる。
【0029】
又、「PAC注入率増加」であれば、フロック形成池で「pH低下」により、同じく「良質な水酸化アルミニウムブロックが形成されない」ことに繋がる。沈殿池では、フロック形成池(設備2)で良質な水酸化アルミニウムブロックが形成されない」結果、「反応しなかったPACのアルミニウム分が白濁する」ことに繋がり、更に、ろ過池では、「ろ過水濁度上昇」に繋がる。又、水槽設備1−1(混和池)において、原水濁度が上昇して「PAC注入率増加」がなされた場合、沈殿池において、「固形物の増加」に繋がり、結果、ろ過池において「ろ過池閉鎖」に繋がる。更に、水槽設備1−1(混和池)において、「PAC注入率増加」がなされた場合、適正な沈殿処理ができていない沈殿池において、「アルミニウム除去不足」となる。
【0030】
このように、単位操作によりプラントに与える影響は、熟練したオペレータのノウハウに基づき、体系的に階層構造で記述した関係モデルで作成される。この関係モデルは、後述するRDBMS(Relational Data Base Management System)によって管理されるデータベースである。
【0031】
記憶部73は、例えば、不揮発性の記憶デバイス(不揮発性半導体メモリ、ハードディスク装置、光ディスク装置など)やランダムアクセス可能な記憶デバイス(例えばSRAM、DRAM)などによって構成される。
【0032】
説明を図1に戻す。制御部70は、例えば、メモリを内蔵し、あるいは外付けのメモリを有するマイクロプロセッサにより構成される。このメモリには、本発明のプラント監視支援プログラムが記憶されており、単位操作を契機に操作リスクDB730を参照し、単位操作がプラントに与える影響を階層展開して表示部72に表示し、現場機器3、4からプラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、単位操作を行うことによるプラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断してベクトルで画面表示する機能を有する。
【0033】
このため、制御部70は、実行するプラント運転監視支援プログラムの構造が機能展開され示されているように、主制御部700と、操作情報取得部701と、RDBMS702と、描画・表示制御部703と、通信インタフェース部704と、リスク診断部705と、を含み構成される。
【0034】
操作情報取得部701は、操作部71により操作された情報、例えば、オペレータによる「PAC注入」等、単位操作に係る情報を解読して、RDBMS702、およびリスク診断部705に出力する。
RDBMS702は、操作情報取得部により取得される単位操作を条件に、記憶部73に構築された操作リスクDB730を検索し、当該検索結果を描画・描画・表示制御部703に出力する。
【0035】
描画・描画・表示制御部703は、RDBMS702から出力される操作リスクDB730の検索結果から画面情報を生成して不図示のVRAM領域に描画すると共に、VRAM領域に描画された画面情報を、表示部72の表示タイミングに同期して読み出し、表示部72に表示する。描画・表示制御部703は、更に、画面に表示された内容に、後述するリスク診断部で診断されたリスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示する。
【0036】
通信インタフェース部704は、直接、もしくは間接的に接続される現場機器3、4との間で、現場機器3、4により計測されるプラントの実測値を取得するための通信を行い、リスク診断部705に出力する。通信インタフェース部704は、現場機器3、4が直接接続される場合はRS435(Recommended Standard 435)、DCS5、6からLAN経由で間接的に接続される場合は、TCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)のそれぞれの通信規格に従う通信を行う。
【0037】
リスク診断部705は、通信インタフェース部704を介し通信により取得されるプラントの実測値が示す、例えば、原水水質と、混和池水質及び運転条件と、フロック形成池運転条件と、沈殿池水質、ろ過水水質、浄水水質データと、予め定義されるか、操作部71を操作することにより動的に設定される、プラントに与える影響の重み付け情報により示される目的関数とから、データマイニングを行い、プラントへの影響に関するリスクを定量的に導出する。そして、導出されたリスクと閾値とを比較することによってリスクの増減方向を診断する。そして、描画・描画・表示制御部703にその結果を引き渡す。このとき描画・表示制御部703は、リスクの増減方向を矢印等のベクトル表現に変換し、先に描画された表示情報である、単位操作がプラントに与える影響データに重ね合わせてVRAM領域に描画する。
【0038】
尚、主制御部700は、制御部70が、オペレータによる単位操作を契機に操作リスクDB730を参照し、当該単位操作がプラントに与える影響を階層展開して表示部72に表示し、現場機器3、4からプラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、単位操作を行うことによるプラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断してベクトルで画面表示する機能を実現するために、上記した、操作情報取得部701、RDBMS702、描画・表示制御部703、通信インタフェース部704、リスク診断部705のシーケンス制御を行う。
【0039】
(実施形態の動作)
図4は、本発明の実施形態に係るプラント監視支援装置の動作を示すフローチャートである。又、図5は、本発明の実施形態に係るプラント監視支援装置の画面構成の一例を示した図である。
【0040】
以下、図4、図5を参照しながら、図2、図3に示す本発明の実施形態に係るプラント監視支援装置の動作について詳細に説明する。
【0041】
中央監視サーバ7の制御部70は、操作部71による操作入力を常時監視している。操作部71から操作入力があると(ステップS101“YES”)、制御部70は、操作情報取得部710がその操作情報を取り込んで、RDBMS702、及びリスク診断部705へ出力する。ここで、単位操作とは、例えば、「PAC注入」、「硫酸注入」、「苛性注入」、「次亜注入」、「炭注入」等、一連の水処理運転操作入力のうちの薬剤注入操作の他、ポンプ等の機器操作をいうものとする。ここでは、「PAC注入」を例示して説明する。
【0042】
操作部71により「PAC注入」が選択操作されると(ステップS102“YES”)、RDBMS702は、PAC注入を検索条件として操作リスクDB730を検索する(ステップS103)。PAC注入率については、注入率過剰、増加、減少、不足等のケースがあり、それぞれに応じて異なる検索結果が、描画・表示制御部703に出力される。
【0043】
PAC注入率増加(ステップS104“YES”)を例示すると、描画・表示制御部703は、図3に示す操作リスクDB730に格納されたデータに従い、プロセスに与える影響を表示情報として生成してVRAM領域に描画する。又、描画・表示制御部703は、表示部72の表示タイミングに同期してVRAM領域からその表示情報を読み出して表示部72に画面表示する(ステップS105)。
【0044】
一方、リスク診断部705は、通信インタフェース部704を介して現場機器3、4から、直接又は間接的にプラントの実測値データを取得しており(ステップS106“YES”)、操作情報取得部701が操作部71から単位操作を取り込んだことを契機に、データマイニングによるリスク導出処理が開始される(ステップS107)。
【0045】
通信インタフェース部704を介して取得される実測値は、原水Tb、原水pH、原水色度、原水アルカリ度、原水水温等の原水水質と、攪拌強度GR、攪拌時間TRからなる混和池運転条件と、薬品注入した処理水の水質と、攪拌強度GS、攪拌時間TSからなるフロック形成池運転条件と、表面負荷率と沈殿水水質(Tb、pH)等からなる沈殿池水質データと、ろ過池水質、浄水水質データとを含む。また、プラントに与える影響の重み付けにより示される目的関数が操作情報取得部701を介して操作部71により入力される。尚、目的関数についてはシステム固有の値として予め定義されたものを使用しても良い。
【0046】
リスク診断部705は、上記の大量で多次元的な入力データからデータマイニングによる分析を行い、この分析結果を、例えば、実測値と理論計算値との比較結果、および過去データと実測値との比較結果に適応させ、プラントへの影響度と、実測値の理論計算値や過去実績との乖離度との関係により規定される「リスク表示マトリクス」を参照してリスクの増減方向を決定し、描画・表示制御部703へ出力する(ステップS108)。
【0047】
これをうけて描画・表示制御部703は、リスク増減方向を矢印等のベクトルに変換し、先に描画された、単位操作がプロセスに与える影響に関する表示データ上に重ね合わせて表示するようにVRAM領域に描画する。そして、描画・表示制御部703は、表示部72の表示タイミングに同期してその重ね合わせた表示情報を読み出して表示部72に表示する(ステップS109)。
【0048】
このとき、描画・表示制御部703により生成される表示情報、および画面構成の一例が図5に示されている。図5に示されるように、「PAC注入率増加」を示すブロックから、「アルカリ度減少」を示すブロックへの経路上に矢印マークが上方向斜め45度を向いて表示されている。これは、原水水質のアルカリ度が低い場合に、PAC注入率を増加させることでアルカリ度が減少するリスク発生確度が上昇することを示している。又、「PAC注入率増加」を示すブロックから、「アルミニウム除去不足ブロック」へ向かう経路上に矢印マークが下方向斜め45度を向いて表示されている。これは、PAC注入率が増加し、沈殿処理が適正に行われなかった場合に、アルミニウム除去不足となるリスク発生確度が低減することを示している。
【0049】
尚、図4のフローチャートにおいて、ステップS102の「PAC注入選択操作判定処理」においてNO判定された場合の処理ルーチンAは、PAC注入操作以外の、「PAC注入」、「硫酸注入」、「苛性注入」、「次亜注入」、「炭注入」等の単位操作がなされた場合の処理であり、又、ステップS104の「PAC注入率増加判定処理」においてNO判定された場合の処理ルーチンBは、PAC注入率が、過剰、増加、減少、不足等のケースにおけるそれぞれの処理ルーチンであり、これらの具体的な処理についての説明は省略した。
(実施形態の効果)
上記した本発明の実施形態に係るプラント運転監視支援装置によれば、オペレータは、これから行おうとする操作に対してプラントに対する影響を視認でき、また、ベクトルにより、その影響の中でどのリスクが高まり、あるいは減少するかを一目見ただけで理解できるため、以降の運転操作に役立たせることができる。従って、プラントの安定運用に寄与することができる。又、画面内容を確認しながらプラントの運転監視が可能になるため、スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能になる。
【0050】
尚、本発明のプラント運転監視支援プログラムは、例えば、図2において、複数の現場機器3、4が接続され、前記現場機器を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶するデータベース730を有するプラント運転監視支援装置(例えば、中央監視サーバ7)のコンピュータ上で実行されるプラント運転監視支援プログラムであって、例えば、図4のフローチャートにおいて、前記単位操作を契機に、前記データベースを参照して前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示する処理(ステップS101〜S108)と、前記現場機器からプラントの実測値を取得する処理と(ステップS109)、前記取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断する処理(ステップS110、S111)と、前記画面に表示された内容に、前記リスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示する処理(ステップS112)と、を実行させるものである。
【0051】
本発明のプラント運転監視支援プログラムによれば、当該プログラムをプラント運転監視支援装置のコンピュータ上で実行させることにより、単位操作がプラントに与える影響、及びそのリスクの増減方向が画面に表示されるため、オペレータは、これから行おうとする操作に対してプラントに対する影響を視認でき、また、ベクトルにより、その影響の中でどのリスクが高まり、あるいは減少するかを一目見ただけで理解できるため、以降の運転操作に役立たせることができる。従って、プラントの安定運用に寄与することができる。又、画面内容を確認しながらプラントの運転監視が可能になるため、スキルの低いオペレータであっても熟練オペレータに近い視野でプラントの安定した運用が可能になる。
【0052】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態では、本発明を浄水プロセスに適用した場合について説明したが、本発明を下水プロセスに適用することもできる。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【符号の説明】
【0053】
1、2 水槽設備
3、4 現場機器
5、6 DCS
7 中央監視サーバ(プラント運転監視支援装置)
8、9 クライアント
10 プラント運転監視支援システム
70 制御部
71 操作部
72 表示部
73 記憶部
700 主制御部
701 操作情報取得部
702 RDBMS
703 描画・表示制御部
704 通信インタフェース部
705 リスク診断部
730 操作リスクDB(操作リスク記憶部)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響を、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶する操作リスク記憶部と、
前記単位操作を契機に、前記操作リスク記憶部を参照し、前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示する描画・表示制御部と、
前記プラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断するリスク診断部と、を備え、
前記描画・表示制御部は、
前記画面に表示された内容に、前記リスク診断部で診断されたリスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示することを特徴とするプラント運転監視支援装置。
【請求項2】
前記操作リスク記憶部は、
前記関係モデルに基づき、関係データベース管理システムにより管理されるリレーショナルデータベースであることを特徴とする請求項1記載のプラント運転監視支援装置。
【請求項3】
前記プラントは、
川からの水を取水し浄水場へ導く着水井と、原水へ凝集剤や各種薬品を注入して急速攪拌させる混和池と、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、処理水をろ過するろ過池とからなる浄水処理場施設であり、
前記リスク診断部は、
前記実測値が示す、原水水質と、混和池水質及び運転条件と、フロック形成池水質及び運転条件と、沈殿池水質データと、前記プラントに与える影響の重み付けにより示される目的関数とから、データマイニングにより前記プラントへの影響に関するリスクを定量的に導出し、前記リスクを閾値と比較し、前記リスクの増減方向を診断することを特徴とする請求項1記載のプラント運転監視支援装置。
【請求項4】
川からの水を取水し浄水場へ導く着水井と、原水へ凝集剤や各種薬品を注入して急速攪拌させる混和池と、緩速攪拌により処理原水中にフロックを形成させるフロック形成池と、懸濁物質や前記フロックを沈殿させる沈殿池と、処理水をろ過するろ過池とからなる浄水処理設備におけるプラント運転監視支援システムであって、
前記浄水処理設備のそれぞれに設けられるセンサを含む現場機器と、
前記現場機器を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶する操作リスク記憶部を有し、前記単位操作を契機に、前記操作リスク記憶部を参照して前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示し、前記現場機器からプラントの実測値を取得し、当該取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断して、前記画面に表示された内容に、前記リスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示するブラント運転監視装置と、
を備えたことを特徴とするプラント運転監視支援システム。
【請求項5】
複数の現場機器が接続され、前記現場機器を用いたプラント運転に係る単位操作がプラントに与える影響について、体系的に階層構造で記述した関係モデルを記憶するデータベースを有するプラント運転監視支援装置のコンピュータ上で実行されるプラント運転監視支援プログラムであって、
前記単位操作を契機に、前記データベースを参照して前記単位操作がプラントに与える影響を階層展開して画面に表示する処理と、
前記現場機器からプラントの実測値を取得する処理と、
前記取得した実測値からプラントの運転状況を分析し、前記単位操作を行うことによる前記プラントへの影響に関するリスクの増減方向を診断する処理と、
前記画面に表示された内容に、前記リスクの増減方向をベクトルで重ね合わせ表示する処理と、
を実行させることを特徴とするプラント運転監視プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−253386(P2011−253386A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−127249(P2010−127249)
【出願日】平成22年6月2日(2010.6.2)
【出願人】(507214083)メタウォーター株式会社 (277)
【Fターム(参考)】