説明

プログラム細胞死の防止のためのキセノンの使用

細胞死、好ましくは異常アポトーシスを防止または減らすためのキセノンの使用が記載される。好ましい具体例は、(a)移植される組織および器官のための細胞損傷および(b)眼レーザー手術後のアポトーシス細胞死の防止、および(c)敗血症における腸の内皮細胞の保護のためのキセノンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞死、好ましくは異常アポトーシスを防止または減らすためのキセノンの使用に関する。特に、本発明は(a)移植される組織または器官の細胞損傷、(b)眼レーザー手術後のアポトーシス細胞死の防止のための、および(c)敗血症における腸内皮細胞を保護するためのキセノンの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞死は壊死またはアポトーシスによって起こる。壊死においては死の刺激が直接細胞死を誘発(例えば虚血)するが、アポトーシスにおいては、死の刺激が最後は相当な時間後細胞死へ導く出来事のカスケードを開始させる。壊死は常に病理学的プロセスであるが、アポトーシスは正常発達の一部であり、そして生物の正常な生理学的機能にとって必須でもある。しかしながらこれに加え、アポトーシスは種々の病気において起こり、そのときは異常アポトーシスと呼ばれる。しかしながら、これまで異常アポトーシスの防止/減少に基づく、異常な病理学的に誘発されたアポトーシスによって特徴付けられる病気の特異的処置は可能でない。
【0003】
それ故、本発明の目的は異常な病理学的に誘発されたアポトーシスの防止/減少のための治療手段を提供することである。
【発明の開示】
【0004】
本発明によれば、これは請求項1に規定された主題によって達成される。本発明のさらに有利な具体例および局面は、従属請求項、明細書および図面に続く。
【0005】
本発明へ導く実験の間、意外にもキセノンがニューロンをアポトーシス誘発物質による、すなわち酸素正常状態のもとで誘発されるアポトーシス細胞死から保護することが発見された。さらに本発明者らにより、そのようなキセノンの保護性質はニューロンに限らないことが発見された。もし例えばヒトHeLa細胞がアポトーシス誘発物質と数時間インキュベートされるならば、大部分の細胞はそれによってアポトーシス死に委ねられ、数時間後それらは死滅する。もしそのようなインキュベーションの間キセノンが存在すれば、細胞死は殆んど完全に防止される。このようにキセノンのこの性質は細胞を異常な病理学的に誘発されたアポトーシスから保護するために使用することができる。
【0006】
キセノンは現在麻酔ガスとして知られている(EP−A−0864328;EP−A−0864329)。さらにキセノンは神経伝達物質過剰に対してある細胞保護効果を提供し得ることが報告されている(WO−A−00/53192)。加えて、早期再灌流の間キセノン投与は、ウサギ心臓において局所的虚血後硬塞サイズを減少することが報告されている(Preckel et al.,Anesthesia and analgesia,Dec.2000,91(6),pp.1327−1332)。
【0007】
このため一般的に本発明は、(a)異常なもしくは望ましくないアポトーシス、または(b)異常なアポトーシスに関連した疾病を処置するための薬剤組成物の製造のためのキセノンまたはキセノンガス混合物の使用に関する。
【0008】
異常なもしくは望ましくないアポトーシスがキセノンによって防止または少なくとも減少できるとの発見は、これまで主として麻酔の分野において吸入剤として使用されて来たこの貴ガスの新しい使用分野を開拓する。例えば以下で論ずる病気を特徴付けるアポトーシスの防止もしくは減少は簡単な吸入療法に基づいて本発明に従って実施することができる。
【0009】
呼吸系を通ってキセノンの取込みおよび脳内への輸送はキセノンの麻酔剤としての使用によって既に証明されている。また、多数の対応する経験が麻酔剤としてのキセノンの使用によって既に形成できていたから、キセノンの使用は生物に対し損傷的効果を持たないと推測することができる。キセノンは特定の使用に依存して種々の技術によって適用することができる。例えば、吸入麻酔のために既に使用されている吸入装置を臨床において使用することができる。もし心肺バイパス機械または他の人工呼吸装置が使用されるならば、キセノンは機械へ直接添加することができ、そしてさらなる装置を必要としない。救急ベース、例えば緊急の場合には、吸入プロセスの間キセノンを環境空気と混合するより簡単な吸入器を使用することさえも可能である。これに関連してキセノン濃度およびキセノン適用のタイミングを簡単な態様で治療上の要求に適応化させることも可能である。例えば、キセノンおよびヒトに無害な他のガス、例えば酸素、窒素、空気等との混合物を使用することが有利であろう。
【0010】
以下のセクションにおいて好ましくはキセノンの使用が記載される。もし“キセノン”に言及されるならば、これはキセノンガス混合物をも含み、そして本発明を純キセノンのみに限定することを意図しない。
【0011】
(A)器官および組織の移植(除去の始めからインタクトな器官/組織の保存、輸送中から患者への再移植まで)
組織移植の間、与えられた細胞集団の死滅を引起こす(変化する程度において)アポトーシスプロセスが誘発される。これは、例えばパーキンソン病治療においてヒト胎児黒質組織の移植、脳内移植等において、すべての細胞の95%にも達し得る。以下の例において、組織の10〜30%の損傷率が今日まで不可避であり、そして移植の失敗率のかなりの増加を引起こす。
【0012】
(i)虚血/再灌流(IR)傷害は、肝細胞高酸素損傷に加え、肝臓移植または虚血操作を伴う肝切除における主要な問題である。再灌流フェーズの間に発生する過酸化水素(H)の生産の突発は再灌流されている器官に有害効果を持ち得る。再灌流直後、肝細胞およびクップファー細胞はHを含む反応性酸素種(ROS)を発生させる。その後、肝組織を浸潤する活性化好中球も再灌流の後のフェーズの間ROSを生産する。H処理細胞はアポトーシス死および壊死へ導く。
【0013】
(ii)胎児黒質組織の移植はパーキンソン病の機能不全を緩和する。神経移植の主な実際上の制約はヒトドナー組織の不足であり、そして患者へ移植されたドパミン作用性ニューロンの少ない生存であり、それは5−10%と推定される。必要とするヒト組織の量は、もしニューロン生存が増大したならば大幅に減らすことができる。ラットにおける研究は、移植した胎児ニューロンの大部分は移植1週以内に死滅し、そしてこの細胞死の大部分はアポトーシスであることを示す。ドナー組織準備直後細胞死の減少はこのため神経移植の有効性を劇的に改善するであろう。
【0014】
(iii)心臓移植後のT−細胞、単球/マクロファージおよび内皮細胞のアポトーシス(移植関連冠動脈病;肺移植におけるアポトーシスの誘発)
それ故、もし移植すべき組織の輸送およびそれ自体の移植がキセノンの存在下で行われるならば、キセノンは周囲の雰囲気中に存在して、またはキセノン飽和緩衝液中で投与されることができる。移植される組織および器官に対する細胞損傷の大幅の減少と、そして改善された移植結果自体が本発明に基づく主要な進歩である。
【0015】
このようにキセノンまたはキセノンガス混合物の好ましい使用は、移植される組織または器官の細胞死の防止または減少である。
【0016】
(B)眼レーザー手術後のアポトーシス細胞死の防止
光反応性角膜切除(RRK)およびレーザー補助角膜切除は、眼科学において角膜の欠陷および偏位を矯正および調節するために広く使用されている。これらの技術は広く使用されそして安全として受入れられているが、患者の殆んど30%が角膜実質細胞のプログラム細胞死に起因する不規則性を経験する。レーザー補助眼手術の使用に関連する不可避な上皮細胞傷害は角膜基質細胞アポトーシスを誘発する。そのような角膜実質細胞の損失は角膜機能不全を引起こし、そして直ちに医学的介入を必要とする。現在のところ追加の治療的手術だけがそのような角膜病理学的状況を緩和または治療することができ、脱上皮細胞後の前方角膜ストローマの再集団化は遅すぎるプロセスであって有用とは考えられない。そのような角膜実質細胞アポトーシスの誘発は、しばしばインタクトな角膜上皮細胞が再生される時移植ヒト角膜にも観察され、負の帰結は最後には移植の成功的受入れの相当な失敗率を結果する。
【0017】
防止策として、好ましくは数時間(術後処理)眼へ取付けたキセノンまたはキセノンガス混合物を満たした気密チャンバーの形において、キセノンを手術直後適用することができる。代って、同じチャンバー設備を使用して、後のアポトーシス率を減らすため眼を手術直前1ないし4時間キセノン雰囲気中でインキュベートすることができる。そのような前処置の有益な効果は図3に示されている。
【0018】
このように、キセノンまたはキセノンガス混合物のさらなる好ましい使用は、眼レーザー手術後のアポトーシス細胞死の防止または減少である。
【0019】
(C)敗血症において腸内皮細胞の保護
敗血症は、多器官不全、劇症炎症および免疫防禦機構の一般的破壊によってしばしば特徴付けられる臓器の壊滅的破壊を代表する。致死率は極めて高く、そして治療可能性は厳しく制限される。一つの典型的特徴は腸の内皮細胞における急速なアポトーシス誘発である。その結果、この重要な障壁が破壊され、防禦機構が既に弱くなっている状況においては生物は毒素および免疫原で溢流する結果を生ずる。もしそのような状況において、アポトーシスまたはその率が減らされるならば、追加の治療のための貴重な時間を得ることができ、そして死亡率を減らすことができる。
【0020】
敗血症の早期段階においてさえも、患者はさらなる処置のため時間を持つことが重要な臨界的状態にある。それ故、プログラム細胞死の誘発およびプログラム細胞死のさらなる進行を防止するために、腸内皮細胞の緊急の曝露を開始すべきである。キセノンへの曝露は、気体として腸内へ直接キセノンの導入により(高い局部濃度のためガスの小容積のみを必要とする)、または以下に記載するようにキセノン飽和食塩水を使用して実施することができる。後者の場合、適用は直接非経口的に、または胃を経由して間接的に達成することができる。
【0021】
急性の生命を脅かす状態の場合、例えば敗血症の場合、数時間ないし1日90:10体積%、好ましくは80:20体積%,最も好ましくは75−70:25−30体積%のキセノン−酸素混合物で人工呼吸を有利に実施することができる。これと比較して、より少量のキセノン、例えばキセノン5ないし30体積%,好ましくはキセノン10ないし20体積%が添加されたキセノン−空気混合物による間歇的呼吸は病気の慢性進行において考慮される。
【0022】
キセノンおよびキセノン混合物の吸入のための種々の方法が意図したそれぞれの使用に応じて使用できる。臨床においては麻酔装置を使用することができ、この場合予製したキセノン−酸素混合物を含んでいる圧力容器を装置の対応する入口へ接続することができる。次に呼吸はそのような装置にとって普通の操作に従って実施することができる。同じことは同様に心肺バイパス機械に当てはまる。
【0023】
代って、キセノンは携行使用において酸素の代りに環境空気を混合することができ、これは必要な圧力容器のより小さいサイズのため装置の可動性を増す。例えば、圧力容器からのキセノンを供給し、それと共に混合室へ支持体中に収納される吸入器を使用することができる。片側において、この混合室はキセノン吸入のためのマウスピースを含み、キセノンが混合室へ供給される他の側において、それは環境空気の入口を可能とする一つの追加のチェック弁を持つ。キセノン圧力容器は減圧率、例えば適当な弁へ供給されるキセノンガスの量を減らす弁を備えることができる。患者が吸気する時、彼は空気弁から空気を吸入する。混合室においてこの空気は供給されるキセノンと所望の比率に混合され、そして患者によって吸入される。携帯使用およびキセノンおよびその混合物の吸入に役立つ有利な吸入器は、例えばEP−B1−0560928に記載されている。
【0024】
自己投薬のためには、マウスピースをキセノン圧力容器へ直接接続することができる。吸入の間患者は圧力弁を開き、そして環境からの空気と同時にキセノンを吸入する。患者が排気する時、彼/彼女はもはやキセノンがマウスピースへ到達しないように弁を解除する。このようにして吸入されるキセノンの量の少なくともラフな調節が可能である。
【0025】
代って、例えば移植される組織/器官の細胞損傷を防止するため、キセノンはキセノン飽和溶液として投与することができる。緩衝化食塩水(Petzelt et al.,Life Sci.72,1909−1918(2003)が100%キセノン、または代りに80%キセノン/20%酸素へ気密プラスチックバッグ中で曝露され、そしてシェーカー上で1時間混合される。ガス雰囲気は少なくとも1回変更され、そして混入操作が繰り返される。次に緩衝液のガス(混合物)による完全な飽和が達成される。この溶液は移植目的のために特に有用である。もし組織/器官が輸送中または手術前フェーズの間このような溶液中に維持されるならば、器官/組織中のアポトーシス率の大幅な減少を観察することができる。
【0026】
上で述べたキセノンおよびキセノンガス混合へ、ヘリウムを加えることができる。ヘリウムは小さいサイズの分子であるため、それはもっと大容積のキセノンのためのキャリアとして機能し得る。さらに、医学的効果を有する別のガス、例えばNO,COまたはCOを加えることができる。加えて、好ましくは吸入可能な医薬、例えばコルチゾン、抗生物質等を処置すべき病気に応じて加えることもできる。
【実施例】
【0027】
実施例1
方法
(A)細胞
ラット皮質ニューロンを15令胎児から得て、文献記載(Petzelt et al.,Life Sci.72(2003),1909−1918)のようにインビトロで6日間維持した。ヒトHeLa細胞は、10%ウシ胎児血清、2mMグルタミン、1%非必須アミノ酸を補給したMEM培地中にモノレーヤーとしてルーチンに維持した。培養物は2ないし3日毎に分培養した。マイコプラズマの不存在を2週毎に検証した。
【0028】
(B)アポトーシスの誘発
アポトーシスはスタウロスポリンを使用して誘発した。スタウロスポリンは元々Omura et al.,J.Antibiot.30(1977),275によって発見された抗生物質である。それはマイクロモル濃度で存在する時一般にモデルアポトーシス誘発剤であると考えられている(Tamaoki et al.,BBRC 135(1986),397;Nakano et al.,J.Antibiot.40(1987),706;Ruegg and Burgess,TIPS 10(1989),218;Bertrand et al.,Exp.Cell Res.211(1994),314;Wiesner and Dawson,CLAO J.24(1996),1418;Boix et al.,Neurophrmacology 36(1997),811;Kirch et al.,J.Biol.Chem.274(1999),21155;Chae et al.,Phamacol.Res.42(2000),373;Heerdt et al.,Cancer Res.60(2000),6704;Bijur et al.,J.Biol.Chem.275(2000),7583;Scarlett et al.,FEBS Lett.475(2000),267;Tainton et al.,BBRC 276(2000),231;Tang et al.,J.Biol.Chem.275(2000),9303;Hill et al.,J.Biol.Chem.276(2001),25643)。細胞を実験6日前(皮質ニューロン)または2日前(HeLa細胞)に24ウエルプレートに接種し、1μMスタウロスポリン含有培地内で数時間インキュベートし、続いて生理食塩水中で1時間インキュベートした(Petzelt et al.,2003)。実験後の細胞損傷は、過塩素酸(Roche Diagnostics,Manheim,Germany)添加前、元の上清中のLDHの濃度を分光光度的に測定することによって評価された。キセノンの効果を決定するため、細胞はキセノンを充満した気密インキュベーター中で指示した時間キセノン飽和溶液(培地または食塩水)に維持された(Petzelt et al.,2003)。
【0029】
実施例2
キセノンは皮質ニューロンのスタウロスポリン誘発アポトーシスを完全に防止する。
皮質ニューロンを1μMスタウロスポリン含有培地中で4時間インキュベートし、続いてやはりスタウロスポリンを含有する食塩水中で追加の1時間インキュベートした。対照調製物はスタウロスポリンが存在しないことを除き、正確に同じ方法で処理された。キセノンインキュベーションは上に記載したように実施された。図1に見られるように、対照細胞はこの実験条件下で良く生存し、LDHの認知し得る量は放出されない。しかしながらもしスタウロスポリンが存在すると、LDHの放出によって測定されるように、相当の細胞損傷が観察される。もし細胞がキセノン飽和雰囲気中キセノン飽和培地または食塩水中に維持されるならば、それらは処理中良く生存し、正常酸素状態雰囲気中に維持した細胞との差は観察されない。驚くことに、もし同じインキュベーションをキセノン含有環境中、しかし1μMスタウロスポリンの存在下で実施するならば、正常酸素状態条件下で維持した細胞と対照的に、細胞損傷は見られない。アポトーシスへの進展は防止される。
【0030】
実施例3
キセノンはHeLa細胞のスタウロスポリン誘発アポトーシスを完全に防止する。
実施例2に記載したキセノンのアポトーシス減少効果はニューロンに限られるか否か、またはそれはもっと一般的な現象と考えられるか否かをテストするため、実施例2に記載した同じ条件下でヒトHeLa細胞がテストされた。HeLa細胞はヒト子宮癌から得られた細胞であり、それ故差別のための充分な基礎(異なる種、完全に無関係な組織)が与えられた。
【0031】
図2に見られるように、皮質ニューロンと基本的に同じ結果が得られる。アポトーシス細胞死は正常酸素状態条件下スタウロスポリンによって誘発されるが、それはキセノンの存在によって完全に抑制される。
【0032】
もっと差別化する分析においては、ターミナルエフェクターカスパーゼ3/7がスタウロスポリン処理後に分析された。カスパーゼはユニバーサルなプロテアーゼであり、それらの細胞内カスケードはアポトーシスの中心的成分を形成する(Slee,E.A.et al.,(1999)Cell Death and Differ.6:1067−1074)。基本的には、信号“イニシエーター”カスパーゼと、“エフェクター”カスパーゼとを区別することができる。さらにそれらの4ないし5アミノ酸配列よりなる与えられた基質に対するそれらの特異性によって個々のカスパーゼを同定することができる(kumar,S.(1999)Cell Death and Deffer.6:1060−1066;Thornberry,N.A.et al.(1997)J.Biol.Chem.272:17907−17911)。
【0033】
以下の実験において、カスパーゼ3/7の活性化は、与えられた活性化カスパーゼに高度に感受性のそして特異的蛍光原阻害剤を使用して検討された(Ekert,P.G.et al.(1999),Cell Death and Differ.6:1081−1086)。生成する蛍光信号は活性カスパーゼの量の直接の測定であり、そして慣用の蛍光メトリーによって分析することができる。
【0034】
HeLa細胞は1μMスタウロスポリンで5時間処理され、そして生起するカスパーゼ3/7活性化がCHEMICONのその場カスパーゼ検出キット(カタログ番号APT403)を使用して決定された。活性はRFU(相対的蛍光単位)で表される。
【0035】
図4は、スタウロスポリンは活性化カスパーゼ3/7の急激な増大を誘発し、これはキセノンの存在において殆んど完全に抑制されることを示す。もし未処理細胞を窒素中で5時間インキュベートすると、カスパーゼ3/7の活性化によって表されるアポトーシスが誘発され、その活性化はスタウロスポリンによってさらに増大する。それ自体の5時間インキュベーションの効果は見られない(対照およびキセノンを見よ)。
【0036】
実施例4
キセノンによる前処理はその後のスタウロスポリン曝露によって引起こされるアポトーシスを減少する。
実施例2および3の知見のさらなる重要な延長は、キセノンによる前処理が正常酸素状態条件下その後のスタウロスポリンへの曝露によって発生する細胞損傷を減らすことができるかどうかを検討した時に達成された。そのような状況は、アポトーシス損傷が発生することが予見される前にキセノンを適用できるので、キセノンを真のアポトーシス防止剤とするであろう。
【0037】
図3に示すように、キセノン雰囲気中、キセノン含有培地への1時間曝露が既に、正常酸素条件下スタウロスポリンへのその後の曝露から細胞を保護するのに充分である。キセノンによる細胞前処理が長く続けば続くほど、アポトーシス防止効果がより良く示される。もしキセノンが存在しなければ(ct/スタウロ)、かなりの細胞損傷が見られる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】皮質ニューロンのスタウロスポリンによるアポトーシスの誘発。正常酸素状態条件下ではLDHの放出によって測定されるようにアポトーシスが発生するが、キセノンは完全に細胞死を防止する。
【図2】HeLa細胞のスタウロスポリンによるアポトーシスの誘発。正常酸素状態条件下ではLDHの放出によって測定されるようにアポトーシスが発生するが、キセノンは完全に細胞死を防止する。
【図3】後で正常酸素状態条件下スタウロスポリンによって誘発されるアポトーシスを防止するための、キセノンによるHeLa細胞前処理の効果。ct:4時間対照培地,1時間食塩水;ctd/stauro:4時間対照培地+1μMスタウロスポリン,1時間食塩水+1μMスタウロスポリン;キセノン1:キセノン中1時間Xe培地,3時間対照培地+1μMスタウロスポリン,1時間食塩水+1μMスタウロスポリン;キセノン2:キセノン中2時間Xe培地,2時間対照培地+1μMスタウロスポリン,1時間食塩水+1μMスタウロスポリン;キセノン3:キセノン中3時間Xe培地,1時間対照培地+1μMスタウロスポリン,1時間食塩水+1μMスタウロスポリン;キセノン4:キセノン中2時間Xe培地,2時間Xe培地+1μMスタウロスポリン,1時間食塩水+1μMスタウロスポリン
【図4】スタウロスポリン処理後HeLa細胞中のカスパーゼ3/7の活性化。対照:5時間対照培地,1時間食塩水;スタウロスポリン:5時間スタウロスポリン1μM;キセノン:キセノン中5時間キセノン飽和培地;キセノンスタウロスポリン:5時間キセノン飽和培地+1μMスタウロスポリン;窒素:N中5時間N飽和培地;窒素+スタウロスポリン:N中5時間N飽和培地+1μMスタウロスポリン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)異常なもしくは望ましくないアポトーシス、または(b)異常アポトーシスに関連した疾病を処置するための薬剤組成物の製造のためのキセノンまたはキセノンガス混合物の使用。
【請求項2】
移植される組織もしくは器官の細胞損傷を防止または減らすための請求項1の使用。
【請求項3】
眼レーザー手術後のアポトーシス細胞死を防止または減らすための請求項1の使用。
【請求項4】
敗血症における腸内皮細胞を保護するための請求項1の使用。
【請求項5】
薬剤組成物はキセノンを5ないし50体積%含んでいる請求項1ないし4のいずれかの使用。
【請求項6】
薬剤組成物はキセノンを5ないし10体積%含んでいる請求項5の使用。
【請求項7】
薬剤組成物はさらに酸素、窒素および/または空気を含んでいる請求項1ないし6のいずれかの使用。
【請求項8】
薬剤組成物はさらにヘリウム、NO,CO,CO,他の気体化合物および/または吸入し得る医薬を含んでいる請求項1ないし6のいずれかの使用。
【請求項9】
薬剤組成物は体積により80ないし20%の酸素に対するキセノンの比を持っている請求項5の使用。
【請求項10】
キセノンを人体に無害の他のガスと混合することによる医薬製剤の製造方法。
【請求項11】
キセノンは酸素含有ガスと混合される請求項10の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−509091(P2007−509091A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−536000(P2006−536000)
【出願日】平成16年10月13日(2004.10.13)
【国際出願番号】PCT/EP2004/011504
【国際公開番号】WO2005/039600
【国際公開日】平成17年5月6日(2005.5.6)
【出願人】(506135578)エイジーエイ、アクティエボラーグ (1)
【Fターム(参考)】