説明

プロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法

【課題】特性に優れたプロトン伝導性高分子電解質膜を、グラフト重合によって工業的に製造しうる方法を提供する。
【解決手段】樹脂微粒子に放射線を照射する工程と、スルホン酸基前駆体を有するビニルモノマーを固液二相系において樹脂微粒子にグラフト重合させて、樹脂微粒子およびビニルモノマーの重合鎖を含む微粒子状のグラフト重合体を得る工程と、グラフト重合体のキャスト膜を形成するキャスト工程と、キャスト膜を樹脂微粒子の融点以下の乾燥温度で乾燥してフィルムを得る乾燥工程と、フィルムに含まれるスルホン酸基前駆体をスルホン酸基に変換する工程とを含む方法とする。固液二相系は、ビニルモノマーおよびその溶媒を含む液相と、樹脂微粒子を含む固相により構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池、電気分解セル、加湿モジュールのような種々の用途に用いうるプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロトン伝導性を有する高分子電解質膜は、固体高分子型燃料電池(PEFC)、アルカリ電解セル、気体(例えば空気)への加湿モジュールなどに使用されている。特に、PEFCの電解質膜としての用途が注目されている。燃料電池は理論的な発電効率が高く、水素またはメタノールを燃料とするクリーンな電気エネルギー供給源である。燃料電池は、次世代の発電方法として期待されており、家庭用コージェネ電源、携帯機器用電源、電気自動車の電源、簡易補助電源のような各種電源としての開発が盛んになされている。
【0003】
PEFCの電解質膜は、プロトンを伝導する電解質としての機能、ならびにアノードに供給される燃料とカソードに供給される酸化剤とを分離する隔壁としての機能、を備える必要がある。このため、PEFCの電解質膜には、イオン交換容量、プロトン伝導率、電気化学的な安定性および力学的強度が高いこと、ならびに電気抵抗、燃料(例えば水素)透過性および酸化ガス(例えば酸素)透過性が低いこと、が要求される。
【0004】
プロトン伝導性高分子電解質膜として、ナフィオン(デュポンの登録商標)に代表されるパーフルオロアルキルエーテルスルホン酸ポリマー(PFSAポリマー)が多用されている。しかし、製造工程が複雑であることから、PFSAポリマーは高価である。これに加えて、100℃以上の高温域におけるPFSAポリマーの機械的強度は、低い。さらに、PFSAポリマーは、メタノール透過性が高く、メタノールを含む溶液を燃料に使用するメタノール直接型燃料電池(DMFC:Direct Methanol Fuel Cell)への使用が困難である。
【0005】
PFSAポリマーに代わる高分子が検討されている。電気化学的な安定性の観点からは、フッ素原子が多く結合した高分子が好ましい。イオン交換容量およびプロトン伝導性の観点からは、スルホン酸基およびホスホン酸基のようなプロトン伝導基が多く導入された高分子が好ましい。
【0006】
特開2001−348439号公報(特許文献1)には、長鎖分岐型ポリテトラフルオロエチレンからなるフィルムに放射線を照射し、スチレン系化合物をモノマーとして含む溶液にこのフィルムを浸漬してグラフト重合を進行させ、形成されたグラフト鎖に含まれるフェニル基をスルホン化して得た高分子電解質膜が開示されている。特開2004−59752号公報(特許文献2)および特許第3417946号公報(特許文献3)には、上記フィルムがエチレン−テトラフルオロエチレン共重合体またはポリフッ化ビニリデンからなる以外は、特開2001−348439号公報の方法と同様にして得た高分子電解質膜が開示されている。
【0007】
上記各文献に開示されている高分子電解質膜の製法は、小スケールの製造の場合、簡便かつ合理的である。しかし、グラフト重合の反応速度が小さいことから、上記製法ではフィルム状の樹脂材料を極めて長時間処理する必要がある。このため、上記製法の工業的な生産性は低く、仮に上記製法によって高分子電解質膜を工業的に連続生産しようとすると、大型サイズのフィルムを継続的に処理する巨大な設備が必要となる。グラフト重合の反応性を高めるために放射線の照射量を多くすると、平行してグラフト重合以外の副反応が進行し、ホモポリマーが生成して、短時間で反応溶液がゲル化する。このゲル化を防止するために、反応溶液中に重合禁止剤を共存させた場合、フィルム表面におけるグラフト鎖の分布にムラが生じ、燃料電池の電解質膜としての使用において十分な発電特性を得ることができない。
【0008】
特表2005−525682号公報(特許文献4)には、樹脂材料の粉末に放射線を照射し、放射線を照射した当該粉末と、スルホン酸基またはホスホン酸基を有するビニルモノマーとの双方を溶媒に溶解させてグラフト重合を進行させ、得られた重合溶液をフィルム状にキャスティングし、乾燥させて、高分子電解質膜を製造する方法が開示されている。当該文献には、放射線を照射した樹脂粉末と上記ビニルモノマーとを溶媒に溶解して均質な溶液とすることが好ましいこと、ならびに当該溶媒としてジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)が好ましいこと、が記載されている。この文献には具体的な実施例が示されておらず、このため、当該文献に記載された発明を実施するために必要となる詳細の全てを読み取ることは、当業者であっても容易ではない。しかし、本発明者らの検討によれば、放射線を照射した樹脂材料およびモノマーの双方が溶解する溶媒を使用して均質な溶液を形成した場合、放射線の照射によって樹脂材料に形成されたラジカルが速やかに溶媒へ連鎖移動して消滅するため、少なくとも、現実にはグラフト重合を実施することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−348439号公報
【特許文献2】特開2004−59752号公報
【特許文献3】特許第3417946号公報
【特許文献4】特表2005−525682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、特性に優れたプロトン伝導性高分子電解質膜を、グラフト重合によって工業的に製造しうる方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の製造方法は、樹脂微粒子に放射線を照射する工程と;スルホン酸基前駆体を有するビニルモノマーを、固液二相系において、前記放射線が照射された樹脂微粒子にグラフト重合させて、前記樹脂微粒子および前記ビニルモノマーの重合鎖を含む、微粒子状のグラフト重合体を得る工程と;前記得られたグラフト重合体のキャスト膜を形成するキャスト工程と;前記形成したキャスト膜を、前記樹脂微粒子の融点以下の乾燥温度で乾燥して、フィルムを得る乾燥工程と;前記得られたフィルムにおけるスルホン酸基前駆体をスルホン酸基に変換する工程と;を含む。ここで、前記固液二相系は、前記ビニルモノマーおよび当該モノマーの溶媒を含む液相と、前記樹脂微粒子を含む固相により構成される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、特性に優れたプロトン伝導性高分子電解質膜を、グラフト重合によって工業的に製造しうる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態を具体的に説明する。
【0014】
[照射工程]
本発明の製造方法は、樹脂微粒子に放射線を照射する工程(照射工程)を含む。樹脂微粒子は、高分子電解質膜の基材となる樹脂材料により構成される。樹脂微粒子を構成する樹脂材料は、放射線グラフト重合を適用しうる材料である限り限定されない。電気化学的な安定性および機械的強度が高い高分子電解質膜を製造しうることから、樹脂微粒子は、芳香族炭化水素系高分子、オレフィン系高分子およびフッ素化オレフィン系高分子から選ばれる少なくとも1種の高分子を含むことが好ましい。樹脂微粒子は、当該少なくとも1種の高分子からなりうる。
【0015】
芳香族炭化水素系高分子は、例えば、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、芳香族ポリイミド、ポリアミドイミドである。
【0016】
オレフィン系高分子は、例えば、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリメチルペンテンである。
【0017】
フッ素化オレフィン系高分子は、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体である。
【0018】
なかでも、樹脂微粒子が、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、芳香族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0019】
得られた電解質膜の化学的な安定性の観点からは、樹脂微粒子がフッ素系高分子を含むことが好ましい。当該観点からは、樹脂微粒子が、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含むことが特に好ましい。
【0020】
樹脂微粒子を構成する樹脂材料は、2種以上の高分子の共重合体または混合物でありうる。
【0021】
樹脂微粒子の平均粒子径は、好ましくは10μm〜500μmであり、より好ましくは50μm〜300μmである。樹脂微粒子の平均粒子径が過度に大きいと、微粒子の内部におけるグラフト重合の反応速度が低下し、後のグラフト重合工程に長時間を要することがある。樹脂微粒子の平均粒子径が過度に小さいと、各工程における樹脂材料の取り扱いが容易ではなくなる。本明細書において、樹脂微粒子の平均粒子径は、乾式ふるい分け法により測定される値を採用する。
【0022】
樹脂微粒子への放射線の照射方法は、公知の方法を適用しうる。樹脂微粒子に照射する放射線として、α線、β線、γ線、電子線および紫外線のような電離放射線が使用される。グラフト重合には、γ線および電子線が特に適している。グラフト重合に必要な照射線量は、通常、1〜500kGyであり、好ましくは10〜300kGyである。樹脂微粒子への照射線量が1kGy未満であると、ラジカルの生成量が少なくなり、グラフト重合が困難になることがある。照射線量が500kGyより大きいと、後のグラフト重合工程において過剰な架橋反応が進行したり、樹脂微粒子を構成する樹脂材料が劣化したりすることがある。
【0023】
ラジカル重合の方法には、酸素の存在下で放射線の照射およびラジカル反応を行うパーオキサイド法と、酸素の不在下で放射線の照射およびラジカル反応を行うポリマーラジカル法とがある。パーオキサイド法では、樹脂材料に結合した酸素ラジカルを起点としてグラフト反応が進行するのに対し、ポリマーラジカル法では、樹脂材料に生じたラジカルを起点としてグラフト反応が進行する。本発明の製造方法では、酸素の存在によってグラフト反応が阻害されるのを防ぐため、ポリマーラジカル法によりラジカル重合を進行させることが好ましい。したがって、樹脂微粒子への放射線の照射は、不活性ガス雰囲気下または真空中で実施することが好ましい。照射時の温度(照射温度)は、−100〜100℃の範囲が好ましく、−100〜60℃の範囲が特に好ましい。照射温度が高すぎると、生成したラジカルが失活し易い。ラジカルの失活を防止するために、照射後の樹脂微粒子を、当該微粒子を構成する樹脂材料のガラス転移温度以下の温度で保管することが望ましい。
【0024】
[グラフト重合工程]
本発明の製造方法では、照射工程の後に、放射線が照射された微粒子に対してグラフト重合を実施する(グラフト重合工程)。具体的には、スルホン酸基前駆体を有するビニル化合物をモノマーとして、当該ビニルモノマーAを、照射工程において放射線が照射された樹脂微粒子にグラフト重合させる。これにより、樹脂微粒子と、当該微粒子に結合した、ビニルモノマーAの重合鎖(グラフト鎖)とを含む、微粒子状のグラフト重合体を得る。このグラフト重合は、固液二相系において実施される。固液二相系は、ビニルモノマーAおよび当該モノマーの溶媒を含む液相と、樹脂微粒子を含む固相により構成される。液相において、ビニルモノマーAは当該溶媒(重合溶媒)に溶解している。固液二相系におけるグラフト重合の一例は、重合溶媒(第一の溶媒)にビニルモノマーAを溶解して得られるモノマー溶液に、放射線照射された樹脂微粒子を分散させた状態で実施される。グラフト重合工程は、照射工程と同様に、酸素の存在による反応阻害を抑制するため、できる限り低い酸素濃度雰囲気下で実施することが好ましい。
【0025】
ビニルモノマーAは、スルホン酸基前駆体を有するビニル化合物である限り限定されないが、一般式H2C=C(X)Rで表されるビニル化合物(以下、ビニルスルホン酸系化合物という)が好ましい。上記式において、Xは水素原子、フッ素原子または1価の炭化水素基である。Rはスルホン酸基前駆体、またはスルホン酸基前駆体を有する1価の置換基である。
【0026】
スルホン酸基前駆体は、好ましくは、グラフト重合工程よりも後に実施される変換工程において、加水分解および/またはイオン交換によってスルホン酸基へ容易に変換しうる基である。具体的なスルホン酸基前駆体は、例えば、スルホン酸メチルエステル、スルホン酸エチルエステル、スルホン酸プロピルエステル、スルホン酸ブチルエステル、スルホン酸シクロヘキシルエステルなどのスルホン酸アルキルエステルに代表される、スルホン酸脂肪族エステル;スルホン酸フェニルエステルなどのスルホン酸芳香族エステル;スルホン酸カリウム塩、スルホン酸ナトリウム塩、スルホン酸リチウム塩などのスルホン酸アルカリ金属塩に代表される、スルホン酸金属塩である。
【0027】
ビニルスルホン酸系化合物は、例えば、ビニルスルホン酸誘導体、アリルスルホン酸誘導体、スチレン系化合物のスルホン酸誘導体である。
【0028】
スチレン系化合物のスルホン酸誘導体は、例えば、スチレン系化合物に、置換基としてスルホン酸基前駆体を導入した化合物である。スチレン系化合物は、例えば、スチレン;メチルスチレン類(α−メチルスチレン、p−ビニルトルエン、m−ビニルトルエンなど)、エチルスチレン類、ジメチルスチレン類、トリメチルスチレン類、ペンタメチルスチレン類、ジエチルスチレン類、イソプロピルスチレン類、およびブチルスチレン類(3−tert−ブチルスチレン、4−tert−ブチルスチレンなど)のようなアルキルスチレン;クロロスチレン類、ジクロロスチレン類、トリクロロスチレン類、ブロモスチレン類(2−ブロモスチレン、3−ブロモスチレン、4−ブロモスチレンなど)、およびフルオロスチレン類(2−フルオロスチレン、3−フルオロスチレン、4−フルオロスチレンなど)のようなハロゲン化スチレン;メトキシスチレン類、メトキシメチルスチレン類、ジメトキシスチレン類、エトキシスチレン類、ビニルフェニルアリルエーテル類、およびビニルベンジルアルキルエーテル類のようなアルコキシスチレン;ヒドロキシスチレン類、メトキシヒドロキシスチレン類およびアセトキシスチレン類のようなヒドロキシスチレン誘導体;ビニル安息香酸類およびホルミルスチレン類のようなカルボキシスチレン誘導体;ニトロスチレンのようなニトロスチレン類;アミノスチレン類およびジメチルアミノスチレン類のようなアミノスチレン誘導体;ビニルベンジルスルホン酸類およびスチレンスルホニルフルオリド類のようなイオン性スチレン誘導体である。
【0029】
ビニルモノマーAは、スチレンスルホン酸のメチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、およびナトリウム塩から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
【0030】
グラフト重合工程では、1種のビニルモノマーAを単独でグラフト重合してもよいし、2種以上のビニルモノマーAをグラフト重合してもよい。後者の場合、グラフト鎖は、上記2種以上のビニルモノマーAの共重合鎖である。ビニルモノマーA以外のモノマーを、グラフト鎖として共重合してもよい。
【0031】
ビニルモノマーAを溶解する重合溶媒(第一の溶媒)として、樹脂微粒子を構成する樹脂材料を溶解し難い溶媒が選択される。固液二相系のグラフト重合において、樹脂微粒子が固相を維持する必要があるためである。この条件を満たす限り重合溶媒は限定されない。具体的な重合溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノールおよびn−ブタノールのようなアルコール類;アセトンおよびメチルエチルケトンのようなケトン類;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカンおよびシクロヘキサンのような炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類ならびにフェノール、クレゾールなどのフェノール類のような芳香族化合物である。これらの中でも、重合溶媒(固液二相系の液相に含まれる溶媒)として、芳香族化合物が好ましい。芳香族化合物の重合溶媒としての使用により、グラフト重合率が高くなる。これに加えて、芳香族化合物は、副生成物であるホモポリマーに対する高い溶解性を有するため、固液二相系におけるグラフト重合の進行がより均一となる。
【0032】
重合溶媒に対するビニルモノマーAおよび樹脂微粒子の溶解性は、樹脂微粒子を構成する樹脂材料およびビニルモノマーAの構造および極性によって異なる。このため、使用するモノマーAおよび樹脂微粒子に応じて、適宜、重合溶媒を選択しうる。重合溶媒は、2種以上の溶媒の混合物でありうる。ただし、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミドなどのアミド系化合物;ジメチルスルホキシド(DMSO)などのスルホキシド;ヘキサメチルリン酸トリアミドなどのリン酸アミド;スルホンアミドは、ビニルモノマーAおよび樹脂微粒子の双方を溶解する傾向にあるため、重合溶媒として適さない。
【0033】
グラフト重合工程において、必要に応じて、樹脂微粒子およびビニルモノマーA以外の材料を重合系内に加えてもよい。当該材料は、例えば、分子中に複数の不飽和結合を有する化合物である。この化合物は、重合系において、グラフト鎖間の架橋剤として作用する。重合系がこの化合物を含む場合、グラフト反応によって形成されたグラフト鎖間に架橋構造が形成されるため、高分子電解質膜の耐久性が向上する。
【0034】
当該材料は、反応禁止剤でありうる。
【0035】
液相におけるビニルモノマーA、それ以外のモノマーおよび架橋剤の濃度は、好ましくは0.2〜3モル/Lであり、より好ましくは0.5〜2.5モル/Lである。当該濃度が0.2モル/L未満であると、グラフト反応が十分に進行しないことがある。当該濃度が3モル/Lより大きいと、グラフト反応と平行して進行するモノマーのみの重合により、副生成物であるホモポリマーの生成量が増大する傾向を示す。ホモポリマーはグラフト反応に寄与しない。これに加えて、生成したホモポリマーによる連鎖移動が生じやすくなり、停止反応が優位となって、グラフト率が低下する。すなわち、電解質膜の特性が低下したり、歩留まりが低下したりする。
【0036】
グラフト重合は、公知の方法を応用して実施できる。例えば、以下のとおりである。重合溶媒にビニルモノマーAを溶解させ、液相であるモノマー溶液を調製する。次に、調製したモノマー溶液を、ガラスまたはステンレスの容器に収容する。次に、収容したモノマー溶液に対して、減圧脱気および不活性ガス(例えば窒素)によるバブリングを実施し、グラフト反応を阻害する溶存酸素を除去する。次に、モノマー溶液を攪拌しながら、放射線を照射した樹脂微粒子を投入し、グラフト重合を進行させる。グラフト重合の反応時間は、例えば、10分〜12時間程度である。反応温度は、例えば、0〜100℃であり、好ましくは40〜80℃である。グラフト反応が終了した後、微粒子状のグラフト重合体を、濾過によって、重合溶液から取り出す。次に、取り出したグラフト重合体を、適量の溶剤で3〜6回洗浄し、重合溶媒、未反応モノマーおよびホモポリマーを除去する。溶剤は、例えば、トルエン、メタノール、イソプロピルアルコール、アセトンである。その後、微粒子状のグラフト重合体を乾燥させる。
【0037】
[キャスト工程、乾燥工程]
本発明の製造方法では、グラフト重合工程の後に、グラフト重合体のキャスト膜を形成する(キャスト工程)。キャスト膜の形成には、キャスティング法と一般に呼ばれている製膜方法を適用する。例えば、グラフト重合工程において形成した、微粒子状のグラフト重合体をキャスト溶媒(第二の溶媒)に溶解させて、キャスト溶液を調製する。次に、調製したキャスト溶液を適切な支持体に塗布して、キャスト膜を形成する。形成したキャスト膜を、後の乾燥工程において乾燥して(具体的には、キャスト膜中のキャスト溶媒を蒸発させて)、フィルムが得られる。
【0038】
グラフト重合体を溶解するキャスト溶媒には、グラフト重合により形成されたグラフト鎖と、樹脂微粒子との双方を溶解しうる化合物を用いることが望ましい。キャスト工程において、グラフト重合体を溶解するキャスト溶媒に非プロトン性極性溶媒を用いてキャスト膜を形成することが好ましい。非プロトン性極性溶媒は、例えば、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド(DMSO)である。これらの溶媒は、汎用性が高い。
【0039】
キャスト溶液におけるグラフト重合体の濃度は、好ましくは5〜30重量%であり、より好ましくは10〜25重量%である。当該濃度が30重量%を超えると、キャスト溶液の粘度が過度に高くなり、均一な膜厚を有するキャスト膜およびフィルムの形成が難しくなることがある。当該濃度が5重量%未満であると、塗布したキャスト膜が流動しやすく、均一な膜厚を有するキャスト膜およびフィルムの形成が難しくなることがある。
【0040】
キャスト溶液を塗布する支持体は、例えば、ガラス、金属または樹脂からなるシートである。キャスト膜の膜厚は、最終的に得た高分子電解質膜の厚さが所望の値となるように適宜調整すればよい。高分子電解質膜の厚さは、好ましくは10μm〜70μmである。
【0041】
支持体へのキャスト溶液の塗布には、公知の方法を適用できる。
【0042】
キャスト工程において形成したキャスト膜は、樹脂微粒子の融点以下の乾燥温度で乾燥され、フィルムが形成される(乾燥工程)。乾燥温度が樹脂微粒子の融点(樹脂微粒子を構成する樹脂材料の融点)を超えると、最終的に得た高分子電解質膜のプロトン伝導度が低下するとともに、メタノールに対するプロトンの選択的な透過性(選択透過性)が低下する。
【0043】
厚さ10μm〜70μmのフィルムを形成する場合の乾燥温度は、好ましくは、当該膜の乾燥に要する時間(乾燥時間)が6時間となる温度以上であり、より好ましくは、乾燥時間が2時間となる温度以上である。乾燥温度は、好ましくは、樹脂微粒子を構成する樹脂材料の融点より10℃低い温度以下であり、より好ましくは、当該樹脂材料の融点より20℃低い温度以下である。乾燥温度が過度に高くなると、最終的に得た高分子電解質膜のプロトン伝導性が低下するとともに、メタノールに対するプロトンの選択的な透過性(選択透過性)が低下することがある。乾燥温度が過度に低くなると、乾燥工程の実施に長時間が必要となる。
【0044】
乾燥工程において、キャスト工程において形成したキャスト膜を、当該膜の乾燥に要する時間が6時間となる温度以上、かつ樹脂微粒子の融点よりも10℃低い温度以下、の乾燥温度で乾燥して、厚さ10μm〜70μmのフィルムを得ることが好ましい。
【0045】
乾燥工程には、公知の膜乾燥方法を適用できる。
【0046】
[変換工程]
本発明の製造方法では、乾燥工程の後に、当該工程により得られたフィルムにおけるスルホン酸基前駆体をスルホン酸基に変換する(変換工程)。
【0047】
スルホン酸基への変換は、例えば、加水分解および/またはイオン交換を利用して実施する。スルホン酸基前駆体がスルホン酸基のアルキルエステルである場合、硝酸、塩酸、硫酸などを用いた酸処理、またはアルコール水溶液を用いた処理により、変換工程を実施しうる。スルホン酸基前駆体がスルホン酸基の塩である場合、硝酸、塩酸、硫酸などを用いた酸処理により、変換工程を実施しうる。酸処理における酸の濃度は、好ましくは1規定程度である。これらの処理は、必要に応じて、加温条件下で実施しうる。
【0048】
変換工程を経たフィルムを、例えば、純粋で洗浄して、プロトン伝導性高分子電解質膜が得られる。
【0049】
本発明の製造方法は、本発明の効果が得られる限り、上述した工程以外の工程を含みうる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0051】
(実施例1)
微粒子状のポリフッ化ビニリデン(PVDF:クレハ製、KFポリマーW#1100、平均粒子径約200μm)50gを、バリアフィルムを有する酸素遮断性の袋に投入した。この袋内に、脱酸素剤(三菱瓦斯化学製、エージレス)を投入し、袋をヒートシールして密閉した。これを一昼夜保管することにより、袋内の酸素を脱酸素剤に十分吸着させた。このようにして、放射線を照射する前の脱酸素を実施した。
【0052】
脱酸素後、PVDF微粒子が入ったこの袋に、コバルト60を線源とするγ線を照射線量30kGyで照射した。次に、照射後の袋を、ドライアイスによって低温状態を保ちながら、保管した。
【0053】
これとは別に、セパラブルフラスコに、ビニルモノマーAとして150gのスチレンスルホン酸エチルエステル(EtSS)、および重合溶媒として100gのm−クレゾールを投入した。これを温度70℃で撹拌しながら、窒素を30分間バブリングして脱酸素を十分に実施した。このようにして、モノマー溶液を得た。
【0054】
次に、γ線を照射したPVDF微粒子を袋から取り出して、モノマー溶液に投入した。続いて、窒素バブリングおよび攪拌を継続して実施し、グラフト重合を進行させた。反応温度は70℃、反応時間は20分とした。
【0055】
重合終了後、フラスコ内の溶液をろ過して、グラフト重合体の微粒子を取り出した。次に、取り出した微粒子をアセトンに浸漬した(室温、60分間)後、さらにろ過して微粒子を取り出す操作を5回繰り返した。最後のろ過によって取り出した微粒子を、60℃に保持した乾燥機内で一晩乾燥させて、微粒子状のグラフト重合体を得た。このグラフト重合体のグラフト率を、後述する方法により測定した。
【0056】
次に、グラフト重合体1gに対して、キャスト溶媒としてN−メチル−2−ピロリドン4gを加え、70℃で2時間以上、強く振動させて、キャスト溶媒にグラフト重合体が溶解したキャスト溶液を得た。次に、得られたキャスト溶液を、支持体であるガラス板上にギャップ厚さ480μmで塗工して、キャスト膜を形成した。
【0057】
次に、形成したキャスト膜を、150℃の乾燥機で30分間加熱して乾燥させ、フィルムを得た。
【0058】
次に、得られたフィルムに含まれるスルホン酸基前駆体をスルホン酸基に変換した。スルホン酸基への変換は、フィルムを70℃で12時間、濃度50重量%のエタノール水溶液に浸漬して行った。その後、エタノール水溶液からフィルムを取り出し、純水で複数回洗浄した後、乾燥させた。このようにして、プロトン伝導性高分子電解質が得られた。
【0059】
(実施例2)
実施例1と同様にして、微粒子状のグラフト重合体を得た。このグラフト重合体のグラフト率を、後述する方法により測定した。次に、得られた当該グラフト重合体を用い、キャスト溶液を塗工する際のギャップ厚さを240μmとした以外は実施例1と同様にして、プロトン伝導性高分子電解質膜を得た。
【0060】
(実施例3)
実施例1と同様にして、微粒子状のグラフト重合体を得た。このグラフト重合体のグラフト率を、後述する方法により測定した。次に、得られた当該グラフト重合体を用い、キャスト溶液を塗工する際のギャップ厚さを240μmとし、キャスト膜の乾燥の条件を80℃で2時間とした以外は、実施例1と同様にして、プロトン伝導性高分子電解質膜を得た。
【0061】
(比較例1)
市販のイオン交換膜(デュポン製、Nafion112)を、比較例1とした。
【0062】
(比較例2)
市販のイオン交換膜(デュポン製、Nafion115)を、比較例2とした。
【0063】
(比較例3)
市販のイオン交換膜(デュポン製、Nafion117)を、比較例3とした。
【0064】
(比較例4)
実施例1と同様にして、微粒子状のグラフト重合体を得た。このグラフト重合体のグラフト率を、後述する方法により測定した。次に、得られた当該グラフト重合体を用い、キャスト膜の乾燥の条件を、PVDFの融点を超える温度である200℃において15分間とした以外は、実施例1と同様にして、プロトン伝導性高分子電解質膜を得た。
【0065】
(比較例5)
実施例1と同様にして、微粒子状のグラフト重合体を得た。このグラフト重合体のグラフト率を、後述する方法により測定した。次に、得られた当該グラフト重合体を、ラボプラストミル(東洋精機製)により220℃で20分間、溶融混練した後、220℃、約20MPaで熱プレスして、フィルムを形成した。このフィルムに対して、実施例1と同様に変換工程(加水分解処理)を実施して、プロトン伝導性高分子電解質膜を得た。
【0066】
実施例1〜3および比較例4,5で作製した微粒子状のグラフト重合体のグラフト率を、以下のように評価した。
【0067】
[グラフト率]
グラフト率G(%)は、下記式(1)により定義される。
【0068】
G=(W2−W1)÷W1×100 (1)
G:グラフト率[%],W1:グラフト反応前の樹脂材料の重量[g],W2:グラフト反応後の樹脂材料の重量[g]
【0069】
測定対象物が微粒子状である場合、W1およびW2を直接測定することが困難である。そこで、本実施例では、作製したフィルムを構成するグラフト重合体の赤外線吸収スペクトルを測定して、樹脂微粒子を構成する樹脂材料(本実施例においてはPVDF)およびグラフト鎖(本実施例においてはEtSS鎖)のそれぞれに特徴的なピークのピーク比を求め、このピーク比とグラフト率との相関関係を表す検量線を用いてグラフト率を求めた。この検量線は、以下のようにして、予め作成しておいた。
【0070】
最初に、グラフト重合の時間を変えるなどにより、グラフト化の程度が異なる微粒子状のグラフト重合体を複数の種類、作製した。作製した各グラフト重合体の赤外線スペクトルを測定した後、それぞれの重合体を所定の重量W2ずつ計り取った。乾燥重量W2の各グラフト重合体について、後述するイオン交換容量の測定方法と同様の方法により、酸基のモル量“n(酸基)obs”を測定した。グラフト反応前の樹脂材料の質量W1は、EtSSモノマーの分子量をMwとして下記式(2)により求められる。
【0071】
W1=W2−{Mw×n(酸基)obs÷1000} (2)
Mw:EtSSモノマーの分子量,n(酸基)obs:試料が有する酸基のモル量[mmol]
【0072】
このW1とW2とを式(1)に代入することにより各グラフト重合体のグラフト率Gを算出し、赤外線スペクトルのピーク比とグラフト率との関係を表す検量線を作成した。
【0073】
実施例1〜3および比較例1〜6で作製した電解質膜について、その膜厚、イオン交換容量(IEC)、プロトン伝導度σ、メタノール透過流速Fmおよび選択透過性指標Sindexを評価した。これらの各特性の評価方法を、以下に示す。
【0074】
[膜厚]
電解質膜の膜厚は、尾崎製作所製ダイヤルシックネスゲージG−6C(1/1000mm、測定子直径5mm)を用いて、温度25±2℃、湿度65±20%RHの雰囲気下で測定した。
【0075】
[イオン交換容量(IEC)]
電解質膜のイオン交換容量(IEC)は、式(3)により定義される。
【0076】
IEC=n(酸基)obs/Wd (3)
IEC:イオン交換容量[mmol/g],n(酸基)obs:試料が有する酸基のモル量[mmol],Wd:試料の乾燥重量[g]
【0077】
“n(酸基)obs”は、以下のように測定した。最初に、試料を、50℃に保持した濃度1モル/Lの硫酸水溶液に4時間浸漬して、当該試料が有する酸基を全て酸型とした。次に、浸漬した試料をイオン交換水で洗浄した後、50℃に保持した濃度3モル/Lの塩化ナトリウム水溶液に4時間浸漬して、酸基のプロトンをナトリウムイオンにより置換した。次に、試料を浸漬した後の上記塩化ナトリウム水溶液を水酸化ナトリウム水溶液で滴定して、イオン交換されたプロトンの量を測定し、“n(酸基)obs”を求めた。
【0078】
[プロトン伝導度σ]
電解質膜のプロトン伝導度は、専用の膜抵抗測定セル、ポテンショスタット(北斗電工製、HABF−5001)および電圧計(北斗電工製、HE−104)を使用して測定した。最初に、2つの白金電極が備えられたセルに、濃度1モル/Lの硫酸水溶液を満たして室温に置いた。次に、当該2つの白金電極に電流を印加し、印加する電流値を変えて測定した時の各電極間の電位差を測定することにより、この電極間に面積Smの試料膜を置いたときの抵抗値R1と、試料膜を置かないときの抵抗値R0とを求めた。R1とR0との差分から試料膜の抵抗値Rmを求め、下記式(4)により、試料膜のプロトン伝導度σを算出した。
【0079】
σ=1/(Rm×Sm)=1/{(R1−R0)×Sm} (4)
σ:プロトン伝導度[S/cm2],Rm:試料膜の抵抗値[Ω],Sm:試料膜の面積[cm2
【0080】
[メタノール透過流速Fm]
開口部および密栓可能な注入口を有するガラス容器を2つ用意した。試料膜を隔壁として狭持するように、2つの容器の開口部同士を合わせて連結した。容器内に狭持されている試料膜の面積をDとした。容器の注入口を介して、片方の容器内を濃度2モル/Lのメタノール水溶液で満たし、もう片方の容器内を蒸留水で満たした。これをウォーターバスにより60℃で保温した。蒸留水側の容器の水溶液を、適当な経過時間ごとにサンプリングし、ガスクロマトグラフ法により分析した。標準メタノール水溶液と、ガスクロマトグラムにおけるピーク面積との関係から作成した検量線を用い、サンプリング液中のメタノール濃度を求めた。さらに、各サンプリング液中のメタノール濃度を、保温の経過時間に対してプロットしたときの傾きtを求めた。プロットの傾きtと試料膜の面積Dとを式(5)に代入することにより、メタノール透過流速Fmを算出した。
【0081】
Fm=t÷D (5)
Fm:メタノール透過流速[mmol/(cm2・hr)],t:プロットの傾き[mmol/hr],D:試料膜の面積[cm2
【0082】
[選択透過性指標 Sindex]
選択透過性指標Sindexは、式(6)により表され、プロトン伝導度σをメタノール透過流速Fmで除した数値である。この数値が高い方が、メタノールに対してプロトンを選択的に透過させる度合いが大きく、電解質膜の性能が良いと判断できる。
【0083】
Sindex=σ÷Fm (6)
Sindex:選択透過性指標[(S・hr)/mmol],σ:プロトン伝導度[S/cm2],Fm:メタノール透過流速[mmol/(cm2・hr)]
【0084】
これらの評価結果を、以下の表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
実施例1〜3の電解質膜は、本発明の製造方法により作製されたプロトン伝導性高分子電解質膜であり、プロトン伝導度が大きく、メタノール透過流速が小さく、したがって、選択透過性指標が高い。
【0087】
比較例1〜3の電解質膜はナフィオン膜であるため、選択透過性指標が低い。比較例4の電解質膜は、キャスト膜の乾燥温度がPVDFの融点よりも高いため、プロトン伝導度が小さく、選択透過性指標が低い。比較例5の電解質膜は、キャスティング法ではなく溶融混練およびプレスにより製造されたため、プロトン伝導度が小さく、選択透過性指標が低い。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明の製造方法により得たプロトン伝導性高分子電解質膜は、PEFC、特にDMFCの電解質膜に好適に使用しうる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂微粒子に放射線を照射する工程と、
スルホン酸基前駆体を有するビニルモノマーを、固液二相系において、前記放射線が照射された樹脂微粒子にグラフト重合させて、前記樹脂微粒子および前記ビニルモノマーの重合鎖を含む、微粒子状のグラフト重合体を得る工程と、
前記得られたグラフト重合体のキャスト膜を形成するキャスト工程と、
前記形成したキャスト膜を、前記樹脂微粒子の融点以下の乾燥温度で乾燥して、フィルムを得る乾燥工程と、
前記得られたフィルムにおけるスルホン酸基前駆体をスルホン酸基に変換する工程と、を含み、
前記固液二相系が、前記ビニルモノマーおよび当該モノマーの溶媒を含む液相と、前記樹脂微粒子を含む固相により構成される、プロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項2】
前記固液二相系の液相に含まれる前記溶媒が、芳香族化合物である請求項1に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項3】
前記キャスト工程において、
前記グラフト重合体を溶解するキャスト溶媒に非プロトン性極性溶媒を用いて前記キャスト膜を形成する、請求項1または2に記載のプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項4】
前記乾燥工程において、
前記キャスト膜を、当該膜の乾燥に要する時間が6時間となる温度以上、かつ前記樹脂微粒子の融点よりも10℃低い温度以下、の乾燥温度で乾燥して、厚さ10μm〜70μmの前記フィルムを得る、請求項1〜3のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項5】
前記樹脂微粒子が、ポリスチレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンサルファイド、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、芳香族ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、およびテトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン−フッ化ビニリデン共重合体から選ばれる少なくとも1種を含む、請求項1〜4のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。
【請求項6】
前記ビニルモノマーが、スチレンスルホン酸の、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、およびナトリウム塩から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜5のいずれかに記載のプロトン伝導性高分子電解質膜の製造方法。

【公開番号】特開2012−82410(P2012−82410A)
【公開日】平成24年4月26日(2012.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−203234(P2011−203234)
【出願日】平成23年9月16日(2011.9.16)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【出願人】(505374783)独立行政法人日本原子力研究開発機構 (727)
【Fターム(参考)】