説明

ペストリー生地及びペストリー食品

【課題】
作業性の良いペストリー食品用穀粉生地及び該ペストリー食品用穀粉生地を用いて製造したペストリー生地を提供することである。また、生地浮き及び食感の良いペストリー食品を提供することである。
【解決手段】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地であって、下記(a)及び(b)を満たすことを特徴とする。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業性の良いペストリー食品用穀粉生地及び該ペストリー食品用穀粉生地を用いて製造したペストリー生地に関するものである。
また、本発明は、生地浮き及び食感の良いペストリー食品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
クロワッサン、デニッシュ、パイ等のペストリー食品は、シートマーガリン等の油脂組成物が層状に折り込まれた生地を焼成することにより製造される。ペストリー食品は、焼成時に生地が層状に膨張するため、生地浮きがよく、ボリューム感があり、その食感もふんわりとしたやわらかいことを特徴としている。
【0003】
また、ペストリー食品の製造に使用する油脂組成物を折り込む生地は、折りたたみ及び圧延が複数回繰り返される。そのため、折り込む生地は、作業性の面において、伸展性が良いことが必要である。
【0004】
ペストリー食品の製造時の作業性やペストリー食品の生地浮き、食感を改良するために、油脂組成物を折り込む生地を改良する方法が提案されている。具体的には、4種類の乳化剤を使用する方法(特許文献1)、ゲル化剤と乳蛋白質と水の複合体を使用する方法(特許文献2)等が提案されている。
【0005】
しかし、特許文献1の方法は、乳化剤を多量に配合するため、ペストリー食品の風味が悪くなるという問題があった。また、特許文献2の方法は、特殊な複合体を使用するため、入手が難しいという問題があった。
よって、ペストリー食品の製造時の作業性やペストリー食品の生地浮き、食感を改良する方法として、特許文献1、2の方法は、満足できるものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−92986号公報
【特許文献2】特開2007−259720号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、作業性の良いペストリー食品用穀粉生地及び該ペストリー食品用穀粉生地を用いて製造したペストリー生地を提供することである。
また、本発明の目的は、生地浮き及び食感の良いペストリー食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、穀粉単位質量当りのαアミラーゼ及びグルコアミラーゼの酵素活性が特定範囲となるようにアミラーゼ含有油脂組成物を穀粉に練り込むと、作業性の良いペストリー食品用穀粉生地が得られ、さらに該ペストリー食品用穀粉生地と、特定の固体脂含量の油脂を含む折り込み用油脂組成物とを組み合わせることで、生地浮き及び食感のよいペストリー食品が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明の一態様は、穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地であって、下記(a)及び(b)を満たすペストリー食品用穀粉生地である。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
本発明の別の態様は、前記ペストリー食品用穀粉生地に、折り込み用油脂組成物を折り込んだペストリー生地であって、折り込み用油脂組成物に含まれる油脂の固体脂含量が10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%であるペストリー生地である。
本発明の別の態様は、前記ペストリー生地を焼成したペストリー食品である。
本発明の別の態様は、前記ペストリー食品がクロワッサン、デニッシュ又はパイである前記ペストリー食品である。
本発明の別の態様は、下記(a)及び(b)を満たすように、穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込むことを特徴とするペストリー食品用穀粉生地の製造方法である。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
本発明の別の態様は、前記ペストリー食品用穀粉生地の製造方法で製造されたペストリー食品用穀粉生地に、含まれる油脂の固体脂含量が10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%である折り込み用油脂組成物を折り込むことを特徴とするペストリー生地の製造方法である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、作業性の良いペストリー食品用穀粉生地及び該ペストリー食品用穀粉生地を用いて製造したペストリー生地を提供することができる。
また、本発明によると、生地浮き及び食感の良いペストリー食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明について詳細に説明する。
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地であって、下記(a)及び(b)を満たすことを特徴とする。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
また、本発明のペストリー生地は、本発明のペストリー食品用穀粉生地に、折り込み用油脂組成物を折り込んだペストリー生地であって、折り込み用油脂組成物に含まれる油脂の固体脂含量が10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%であることを特徴とする。
また、本発明のペストリー食品は、本発明のペストリー生地を焼成したことを特徴とする。
【0012】
本発明において、ペストリー食品とは、折り込み用油脂組成物が層状に折り込まれた生地(下記ペストリー生地)を焼成することで得られる食品のことである。生地中に層状に折り込まれた油脂は生地中に薄い油脂の層を多数作り、焼成中にこれらの油脂の層が生地から発生する水蒸気や炭酸ガスの発散をさえぎるため、焼成後の生地は層状に膨張したものとなる。ペストリー食品の具体例としては、クロワッサン、デニッシュ、パイ等が挙げられる。
また、本発明において、ペストリー食品用穀粉生地とは、ペストリー食品の製造に使用する生地であって、折り込み用油脂組成物を折り込む前の穀粉を主成分とした生地のことである。
また、本発明において、ペストリー生地とは、ペストリー食品の製造に使用する生地であって、前記ペストリー食品用穀粉生地に折り込み用油脂組成物を折り込んだ後の焼成前の生地のことである。
【0013】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉100gに対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位、グルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、穀粉にアミラーゼ含有油脂組成物が練り込まれたものである。ペストリー食品用穀粉生地にアミラーゼ含有油脂組成物を練り込むと、乳化剤等を使用しなくても、食感が軟らかく、生地浮きの良いペストリー食品が得られる。また、折り込み用油脂の折り込み時における生地伸展性が向上し、作業性が良くなる。
【0014】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉100gに対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位、好ましくは0.9〜19.0単位、より好ましくは2.0〜17.0単位となるように、穀粉にアミラーゼ含有油脂組成物が練り込まれたものである。穀粉100gに対するαアミラーゼの酵素活性が上記範囲にあると、ペストリー食品用穀粉生地が作業性の良い(伸展性が良い)ものとなり、得られるペストリー食品の生地浮き(生地の膨らみ)及び食感も良いものとなる。
なお、本発明においてαアミラーゼの酵素活性の単位は、AZCL−アミロースを基質に酵素を至適条件下(至適温度、至適pH)で作用させ、1分間当りに1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位と定義する。αアミラーゼの酵素反応における至適条件は、酵素の起源、酵素製剤の種類等によって至適範囲が異なるため、特に制限されることはないが、好ましくは37〜43℃、pH4〜5である。還元糖の測定は、還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)を参照して行うことができる。
【0015】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位、好ましくは0.5〜9.5単位、より好ましくは1.0〜9.0単位となるように、穀粉にアミラーゼ含有油脂組成物が練り込まれたものである。穀粉100gに対するグルコアミラーゼの酵素活性が上記範囲にあると、ペストリー食品用穀粉生地が作業性の良い(伸展性が良い)ものとなり、得られるペストリー食品の生地浮き(生地の膨らみ)及び食感も良いものとなる。
なお、本発明においてグルコアミラーゼの酵素活性の単位は、マルトースを基質に酵素を至適条件下(至適温度、至適pH)で作用させ、1分間当りに1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位と定義する。グルコアミラーゼの酵素反応における至適条件は、酵素の起源、酵素製剤の種類等によって至適範囲が異なるため、特に制限されることはないが、好ましくは34〜40℃、pH4〜6である。
【0016】
本発明のペストリー食品用穀粉生地中におけるアミラーゼ含有油脂組成物の練り込み量は、穀粉100gに対するαアミラーゼの酵素活性及びグルコアミラーゼの酵素活性が前記範囲であれば特に制限はないが、穀粉100質量部に対して好ましくは0.5〜40質量部、より好ましくは1〜30質量部、さらに好ましくは1〜20質量部である。
【0017】
本発明においてアミラーゼ含有油脂組成物とは、αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含有する油脂組成物のことである。アミラーゼ含有油脂組成物の形態は、油相及び水相を含む乳化油脂組成物と油相のみからなるショートニングが挙げられるが、好ましくは乳化油脂組成物である。乳化油脂組成物はマーガリンやファットスプレッドと呼ばれるものであり、その形態は、油中水型乳化物、水中油型乳化物、二重乳化型乳化物が挙げられるが、好ましくは油中水型乳化物である。また、アミラーゼ含有油脂組成物は、好ましくは可塑性を有する可塑性油脂組成物である。
【0018】
αアミラーゼ及びグルコアミラーゼの由来(動植物、カビ、細菌、遺伝子組み換え等)は特に限定されず、酵素製剤を使用することもできる。酵素製剤を使用する場合、好ましくは澱粉、澱粉加水分解物(デキストリン)、及びそれらを含む食品素材が含まれないものを使用する(以下、澱粉、澱粉加水分解物(デキストリン)、及びそれらを含む食品素材は、澱粉類とする。)。酵素製剤中に澱粉類が含まれるかどうかは、ヨウ素澱粉反応の定性試験で判別することができる。酵素製剤に直接ヨウ素液を反応させてヨウ素澱粉反応が青紫〜青に呈色しない場合は、酵素製剤中に澱粉類が含まれないと判断することができる。
【0019】
αアミラーゼは、アミロースとアミロペクチンをランダムに加水分解し、二糖類、三糖類、デキストリンを生成するエンド型の酵素である。αアミラーゼとしては、酵素製剤を使用することもできる。αアミラーゼ酵素製剤1g中のαアミラーゼの酵素活性は、好ましくは200〜3000単位、より好ましくは500〜1500単位、さらに好ましくは700〜900単位である。市販のαアミラーゼ酵素製剤としては、例えば、ナガセケムテックスジャパン(株)のスピターゼCP3及びスピターゼL、ノボザイムジャパン(株)のFungamyl800L、天野エンザイム(株)のクライスターゼL1等を使用することができる。
【0020】
グルコアミラーゼは、アミロースとアミロペクチンのα−1,4グリコシド結合を非還元末端からブドウ糖単位で加水分解するエキソ型の酵素である。グルコアミラーゼは、アミログルコシダーゼと言うこともある。グルコアミラーゼとしては、酵素製剤を使用することもできる。グルコアミラーゼ酵素製剤1g中のグルコアミラーゼの酵素活性は、好ましくは100〜1000単位、より好ましくは150〜800単位、さらに好ましくは200〜500単位である。市販のグルコアミラーゼ酵素製剤としては、例えば、ノボザイムジャパン(株)の商品名:AMG300L BrewQ等を使用することができる。
【0021】
本発明で使用するアミラーゼ含有油脂組成物は、αアミラーゼの添加量が制限されることはないが、油脂組成物100g中のαアミラーゼの酵素活性が好ましくは5〜400単位、より好ましくは20〜300単位、さらに好ましくは30〜280単位となるように、αアミラーゼが添加される。
【0022】
本発明で使用するアミラーゼ含有油脂組成物は、グルコアミラーゼの添加量が制限されることはないが、油脂組成物100g中のグルコアミラーゼの酵素活性が好ましくは2〜200単位、より好ましくは10〜170単位、さらに好ましくは15〜160単位となるように、グルコアミラーゼが添加される。
【0023】
本発明で使用するアミラーゼ含有油脂組成物は、αアミラーゼ及びグルコアミラーゼ以外にも、油脂(大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、乳脂等や、これらの油脂をエステル交換、分別、水素添加等の加工処理した油脂等)、乳化剤(レシチン、グリセリン脂肪酸エステル等)、塩味剤(食塩等)、着色料(カロテン等)、酸化防止剤、水、他の酵素等の製菓製パン練り込み用油脂に通常配合される成分を配合することができる。
本発明で使用するアミラーゼ含有油脂組成物は、油相に含まれる油脂の固体脂含量(以下、SFCとする。)が好ましくは10℃で10〜60%、20℃で2〜40%、30℃で0〜30%であり、より好ましくは10℃で20〜50%、20℃で5〜30%、30℃で2〜20%であり、さらに好ましくは10℃で25〜40%、20℃で10〜25%、30℃で5〜15%である。なお、油脂の固体脂含量は、社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9−2003 固体脂含量(NMR法)に準じて測定することができる。
【0024】
本発明で使用するアミラーゼ含有油脂組成物は、通常の製菓製パン練り込み用油脂の製造方法により製造することができる。具体的には、溶解混合した油相を急冷練り合わせする又は溶解混合した油相と水相とを乳化混合した後に急冷練り合わせすることにより製造することができる。アミラーゼ含有油脂組成物の製造時においてαアミラーゼ及びグルコアミラーゼは、油相又は水相に分散又は溶解させる。
【0025】
本発明において、穀粉とは、穀物を挽いて粉状にしたものであり、通常、ペストリー食品の生地に配合されるものであれば、特に制限なく使用することができる。また、穀粉の配合量も、通常、ペストリー食品の生地に配合される範囲で特に制限なく配合することができる。穀粉の具体例としては、小麦粉(強力粉、中力粉、薄力粉等)、大麦粉、米粉、とうもろこし粉、ライ麦粉、そば粉、大豆粉等が挙げられるが、好ましくは小麦粉を使用する。
【0026】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉、アミラーゼ含有油脂組成物以外にも、イースト、食塩、砂糖(グラニュー糖、上白糖)等の糖類・糖アルコール類、卵(全卵、液卵)、各種卵加工品、脱脂粉乳、牛乳等の乳製品、練り込み用油脂(バター等)、イーストフード、水、豆乳等の水性成分等のペストリー食品用穀粉生地に通常配合される成分を配合することができる。
【0027】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、穀粉にアミラーゼ含有油脂組成物を前記規定範囲となるように練り込む以外、公知の製造条件及び製造方法により製造することができる。具体的には、ミキシング、発酵(一次発酵)、分割・丸め、リタード等の工程を経て製造することができる。
【0028】
本発明のペストリー食品用穀粉生地は、伸展性が良いものである。このため、ペストリー生地は、製造時の作業性が良いものとなる。
【0029】
本発明のペストリー生地は、本発明のペストリー食品用穀粉生地に折り込み用油脂組成物を折り込んだものであり、ペストリー生地中の折り込み用油脂組成物の折り込み量は、ペストリー食品用穀粉生地中の穀粉に対する量で規定することができる。本発明のペストリー生地中における折り込み用油脂組成物の折り込み量は、本発明のペストリー食品用穀粉生地中の穀粉100質量部に対して好ましくは20〜150質量部、より好ましくは30〜100質量部、さらに好ましくは40〜80質量部である。
【0030】
本発明で使用する折り込み用油脂組成物は、含まれる油脂のSFCが10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%、好ましくは10℃で28〜45%、25℃で17〜33%、35℃で5〜17%、より好ましくは10℃で30〜42%、25℃で20〜30%、35℃で5〜15%である。折り込み用油脂組成物に使用する油脂は、含まれる油脂のSFCが上記範囲であれば、特に制限されることなく、通常折り込み用油脂組成物に配合される油脂(大豆油、菜種油、コーン油、ひまわり油、紅花油、ごま油、綿実油、米油、オリーブ油、落花生油、亜麻仁油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、乳脂等や、これらの油脂をエステル交換、分別、水素添加等の加工処理した油脂等)を使用することができる。折り込み用油脂組成物に含まれる油脂のSFCが上記範囲にあると、ペストリー食品の生地浮きが良いものとなる。
【0031】
本発明で使用する折り込み用油脂組成物の形態は、油相及び水相を含む乳化油脂組成物と油相のみからなるショートニングが挙げられるが、好ましくは乳化油脂組成物である。乳化油脂組成物の形態は、油中水型乳化物、水中油型乳化物、二重乳化型乳化物が挙げられるが、好ましくは油中水型乳化物である。また、折り込み用油脂組成物は、好ましくは可塑性を有する可塑性油脂組成物である。また、折り込み用油脂組成物の形状は、好ましくはシート状である。
【0032】
本発明で使用する折り込み用油脂組成物は、油脂以外にも、乳化剤(レシチン、グリセリン脂肪酸エステル等)、塩味剤(食塩等)、着色料(カロテン等)、酸化防止剤、水等の製菓製パン折り込み用油脂に通常配合される成分を配合することができる。
【0033】
本発明で使用する折り込み用油脂組成物は、通常の製菓製パン折り込み用油脂の製造方法により製造することができる。具体的には、溶解混合した油相を急冷練り合わせした又は溶解混合した油相と水相とを乳化混合した後に急冷練り合わせした後、シート状に成型することにより製造することができる。
【0034】
本発明のペストリー生地には、呈味材を配合することもできる。呈味材の具体例としては、フラワーペースト、カスタードクリーム等のクリーム類、りんご、いちご、マロン、オレンジ、スィートポテト、アプリコット、ラズベリー、ブルーベリー、パンプキン等の野菜・果物類やこれらのジャム類及びペースト類、餡類、ナッツ類、チョコレート類等が挙げられる。
【0035】
本発明のペストリー生地は、本発明のペストリー食品用穀粉生地に前記折り込み用油脂組成物を折り込む以外、公知の製造条件及び製造方法により製造することができる。具体的には、折り込み、リタード、成形、ホイロ(最終発酵)等の工程を経て製造することができる。
【0036】
本発明のペストリー食品は、本発明のペストリー生地を焼成したものである。
本発明のペストリー食品の具体例としては、クロワッサン、デニッシュ、パイ等が挙げられる。
【0037】
本発明のペストリー食品は、本発明のペストリー生地を用いて、公知の製造条件及び製造方法により製造することができる。具体的には、オーブン等で焼成することで製造することができる。
【0038】
本発明のペストリー食品は、生地浮きが良く、ボリュームのあるものである。また、本発明のペストリー食品は、食感がやわらかく、食感の良いものである。
【実施例】
【0039】
次に、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、これらの実施例になんら制限されるものではない。
【0040】
〔分析方法〕
油脂の固体脂含量は、社団法人 日本油化学会編、「基準油脂分析試験法」の2.2.9−2003 固体脂含量(NMR法)に準じて測定した。
αアミラーゼの酵素活性は、AZCL−アミロースを基質に酵素を40℃、pH4.4の条件で作用させ、1分間当りに1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位とし、酵素活性を測定した。
グルコアミラーゼの酵素活性は、マルトースを基質に酵素を37℃、pH5.0の条件で作用させ、1分間当りに1マイクロモルのグルコースに相当する還元糖を生成する酵素量を1単位とし、酵素活性を測定した。
還元糖は、「還元糖の定量法第2版(福井作蔵著 学会出版センター)」に準じて測定した。
【0041】
〔アミラーゼを含有した油脂組成物〕
表1の配合のとおり、油脂混合物を溶解し、乳化剤を溶解させて油相を調製した。水と食塩、酵素製剤A、Bを混合して水相を調整した。油相と水相を調合して両者を乳化混合後、急冷混練してアミラーゼを含有した油脂組成物A〜Dを得た。
【0042】
表中の油脂混合物は、大豆油35質量部、ヤシ油15質量部、パーム中融点30質量部、パームステアリン10質量部、エステル交換油A10質量部を溶解混合したものである。油脂混合物のSFCは、10℃で33.6%、20℃で14.4%、30℃で8.2%であった。
なお、エステル交換油Aは以下の方法で製造した。パームステアリン50質量部とパーム核オレイン50質量部とを混合した混合油を、減圧下120℃に加熱することにより十分に乾燥させた後、対油0.1質量%のナトリウムメチラートを添加し、減圧下、110℃で0.5時間攪拌しながらエステル交換反応を行った。反応終了後、ナトリウムメチラートを水洗除去し、脱色した後、ニッケル触媒を用いて160〜200℃にて水素添加を行い、ヨウ素価を2以下に調整した。ヨウ素価が2以下になったのを確認した後、温度を100℃以下に下げ、ニッケル触媒をろ過により除去し、脱色、脱臭して、エステル交換油Aを得た。
【0043】
乳化剤、酵素製剤は下記のものを使用した。
レシチン(日清オイリオグループ(株)製、商品名:レシチンDX)
モノグリセリン脂肪酸エステル(MG)(理研ビタミン(株)製、商品名:エマルジーP100)
酵素製剤A:αアミラーゼ酵素製剤(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:Fungamyl800L、酵素活性:880単位/酵素製剤g)
酵素製剤B:グルコアミラーゼ酵素製剤(ノボザイムズジャパン(株)製、商品名:AMG300L BrewQ、酵素活性:330単位/酵素製剤g)
【0044】
【表1】

【0045】
<クロワッサンの評価>
表2、3の配合及び表4の製造条件(工程1〜3)でクロワッサン用穀粉生地を製造した。製造したクロワッサン用穀粉生地に表2、3の配合及び表4の製造条件(工程4〜9)で折り込み用油脂組成物を折り込むことでクロワッサン用生地を調製した。製造したクロワッサン用生地をオーブンで表4の製造条件(工程10)で焼成することでクロワッサンを製造した。クロワッサン用生地調製時の作業性、焼成後のクロワッサンの生地浮き及び食感を下記基準により評価した。各項目4点以上である場合を良いと判断した。評価結果を表2、3に示した。
【0046】
〔作業性の評価基準〕
5 :伸展性が非常に良い
4 :伸展性が良い
3 :標準程度
2 :伸展性がやや悪い
1 :伸展性が悪い
【0047】
〔生地浮きの評価基準〕
5 :ボリュームが非常に大きい
4 :ボリュームが大きい
3 :標準程度
2 :ボリュームがやや小さい
1 :ボリュームが小さい
【0048】
〔食感の評価基準〕
5 :非常にソフトで良好な食感
4 :ソフトで良好な食感
3 :標準程度
2 :ややパサつく
1 :パサつきがひどく硬い食感
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
油脂組成物E、折り込み用油脂組成物a、折り込み用油脂組成物bは下記のものを使用した。
油脂組成物E(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清ロイヤルワイド100、油脂組成物100g中のαアミラーゼの酵素活性:0単位、油脂組成物100g中のグルコアミラーゼの酵素活性:0単位)
折り込み用油脂組成物a(日清オイリオグループ(株)製、商品名:日清クリスピート300、SFC:10℃36.9%、25℃24.5%、35℃10.6%)
折り込み用油脂組成物b(明治乳業(株)製、商品名:明治発酵バターシート、SFC:10℃49.0%、25℃11.2%、35℃0.5%)
【0052】
【表4】

【0053】
表2から分かるように、実施例1〜3は、全ての評価項目が良い結果であった。
一方、表3から分かるように、比較例1〜4は、評価項目の1つ以上が劣る結果であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地であって、下記(a)及び(b)を満たすペストリー食品用穀粉生地。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
【請求項2】
請求項1に記載のペストリー食品用穀粉生地に、折り込み用油脂組成物を折り込んだペストリー生地であって、折り込み用油脂組成物に含まれる油脂の固体脂含量が10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%であるペストリー生地。
【請求項3】
請求項2に記載のペストリー生地を焼成したペストリー食品。
【請求項4】
前記ペストリー食品がクロワッサン、デニッシュ又はパイである請求項3に記載のペストリー食品。
【請求項5】
下記(a)及び(b)を満たすように、穀粉に下記アミラーゼ含有油脂組成物を練り込むことを特徴とするペストリー食品用穀粉生地の製造方法。
アミラーゼ含有油脂組成物:αアミラーゼ及びグルコアミラーゼを含む油脂組成物
(a)穀粉100g対してαアミラーゼの酵素活性が0.7〜20.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
(b)穀粉100gに対してグルコアミラーゼの酵素活性が0.4〜10.0単位となるように、アミラーゼ含有油脂組成物を練り込んだペストリー食品用穀粉生地
【請求項6】
請求項5に記載のペストリー食品用穀粉生地の製造方法で製造されたペストリー食品用穀粉生地に、含まれる油脂の固体脂含量が10℃で25〜47%、25℃で15〜35%、35℃で3〜20%である折り込み用油脂組成物を折り込むことを特徴とするペストリー生地の製造方法。

【公開番号】特開2013−74865(P2013−74865A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−218246(P2011−218246)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000227009)日清オイリオグループ株式会社 (251)
【Fターム(参考)】