説明

ホモアリルアミン化合物の製法

【課題】 アンモニアを用いてホモアリルアミン化合物を製造する方法を提供する。
【解決手段】 カルボニル化合物、アンモニア及びアリルボロン酸又はアリルボロネートから成る3成分反応により、高い化学選択性と立体選択性で、ホモアリルアミン化合物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アンモニアを用いてホモアリルアミン化合物を製造する方法に関し、より詳細には、カルボニル化合物、アンモニア及びアリルボロン酸(allylboronic acid)又はアリルボロネート(allylboronate)から成る3成分反応により、高い化学選択性と立体選択性で、ホモアリルアミン化合物を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アンモニアは窒素固定の一次生産物であり、多くの含窒素天然物の窒素源である。例えば、L−グルタミン酸は、NADPHによるα−ケトグルタミン酸とアンモニアとの還元アミノ化反応によって生合成される。また、この他の多数のα−アミノ酸のアミノ基はL−グルタミン酸からアミノ基転移反応により形成される。また、アンモニアは化学プロセスにおいても安価で汎用性の高い窒素源の1つとして重要である。
炭素−X単結合又は多重結合(Xはハロゲン原子、ヘテロ原子又は炭素原子を表す。)の炭素原子にアンモニアを求核付加させることは、有機分子への窒素原子の導入を可能にする。特に、カルボニル化合物、アンモニア(又はアミンのような窒素求核剤)及び炭素求核剤から成る3成分反応は、カルボニル炭素と求核剤の間で窒素−炭素結合と炭素−炭素結合を同時に形成するため有用である。これらの反応は、カルボニル化合物のα−アミノアルキル化反応と呼ばれており、用いる求核剤によって様々な手法が報告されている。近年Petasisらは、ヒドロキシ−又はカルボキシ−アルデヒド、アミン及びビニルボロン酸又はアリールボロン酸からアリルアミン化合物又はベンジルアミン化合物を合成する新規な方法を開発した(非特許文献1、2、特許文献1)。
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc. 1997, 119, 445-446
【非特許文献2】J. Am. Chem. Soc. 1998, 120, 11798-11799
【特許文献1】米国特許第6,232,467号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、α−アミノアルキル化反応にアンモニア(又はアンモニウム塩)を用いる方法はほとんど知られていない。その理由は、生成物である1級アミンが炭素−X結合(Xは上記と同様)と更に反応して高級アミンを生成してしまうからである。従って、ほとんどの反応においては、アンモニアの代わりに1級アミンや2級アミンを用いている。それにもかかわらず、アンモニアは原子効率の高いプロセスにより直接的に1級アミンを生成することが可能であるため、有望な原料候補と考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このような課題を解決するために、発明者らは、炭素−炭素結合形成反応を介して有機分子中にアンモニアを固定する可能性を考えて、炭素求核剤としてアリル化剤を用いてカルボニル化合物のα−アミノアリル化反応(α-aminoallylation)を検討した(スキーム1)。その結果、カルボニル化合物、アンモニア及びアリルボロネートから成る3成分反応により、高い化学選択性と立体選択性で、ホモアリル1級アミンが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【化5】

(式中、R〜Rは下記で定義され、Mはホウ素等の原子を表し、Lは配位子を表し、nは配位子の数を表す。)
【0006】
即ち、本発明は、液相で下式(化1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環式炭化水素基、複素環基、アルコキシカルボニル基又はカルボキシル基を表す。)で表されるカルボニル化合物又は糖類、下式(化2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R及びRは共に環状を成してもよい。)で表されるアリルボロン酸又はアリルボロネート、及びアンモニア(NH)を反応させることから成るホモアリルアミン化合物を製造する方法である。
【0007】
また、本発明は、Rが水素原子であって、Rが水素原子でありRが水素原子以外であるE体のアリルボロン酸又はアリルボロネートを用いて上記の方法により製造されたホモアリルアミン化合物であって、下式(化3)
【化3】

(式中、R及びRは前記と同様に定義される。)で表されるアンチ(anti)体ホモアリルアミン化合物である。
【0008】
更に本発明は、Rが水素原子であって、Rが水素原子でありR水素原子以外であるZ体のアリルボロン酸又はアリルボロネートを用いて上記の方法により製造されたホモアリルアミン化合物であって、下式(化4)
【化4】

(式中、R及びRは前記と同様に定義される。)で表されるシン(syn)体ホモアリルアミン化合物である。
【発明の効果】
【0009】
発明者らは、アンモニアの効率的な固定方法がカルボニル化合物及びアリルボロネートをアンモニアと反応させるという3成分反応により達成可能であることを見出した。その結果、ホモアリル1級アミンが高い収率並びに化学及び立体選択性で得られ、この反応を利用することで、アロイソロイシンの簡潔で立体選択的合成方法が達成された。
カルボニル化合物として単糖あるいはオリゴ糖などの糖類を用いることにより末端にアリル基を有するアミノポリオールが合成できる。
生成物であるアミノアリル化ポリオールはそれ自信に興味深い生物活性が期待でき、またアリル基を他の官能基に変換することで様々な糖類縁体に誘導できる。さらに、アリル基を介してオリゴ糖類を高分子担体などに固定化するための原料としても利用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、液相でカルボニル化合物、アリルボロン酸又はアリルボロネート、及びアンモニア(NH)を反応させて、ホモアリルアミン化合物を製造する方法である。
本発明の方法ではカルボニル化合物として下式(化1)で表されるカルボニル化合物又は糖類を用いる。
【化1】

式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環式炭化水素基、複素環基、アルコキシカルボニル基又はカルボキシル基を表す。特にR及びRの一方が水素原子、即ち、このカルボニル化合物がアルデヒド化合物であることが好ましい。これらアルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環式炭化水素基、複素環基は置換基を有していてもよく、このような置換基としてアルキル基、ハロゲン原子、アリール基、水酸基、メルカプト基、アミノ基等が挙げられる。更に、カルボキシル基はエステル化されていてもよい。アリール基としては、フェニル基やナフチル基、好ましくはフェニル基が挙げられる。脂環式炭化水素基としてシクロへキシル基が好ましく挙げられる。複素環基として、含窒素複素環基が挙げられ、含窒素複素環基としては2−、3−、4−、5−又は6−ピリジン基、2−、4−又は5−ピリミジン基、2−、3−、4−又は5−ピラジン基等が挙げられる。
糖類は、好ましくは単糖又はオリゴ糖である。
【0011】
本発明の方法で用いるアリルボロン酸(下式(化2)で、R及びRが共に水素原子を表す。)又はアリルボロネートは下式(化2)で表される。本発明の方法では、アリルボロネートが好ましく用いられる。
【化2】

及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基であり、好ましくはアルキル基が挙げられる。R及びRの少なくとも一方は水素原子ではないことがより好ましい。
【0012】
及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基であり、R及びRは共に環状を成してもよい。例えば、R及びRは共に下式(化6)のようなアリーレン基であってもよい。
【化6】

アリルボロネートとしては、アルコール全般から誘導されるボロン酸エステルが好ましく、光学活性アルコール由来のものでもよい。
【0013】
本発明の方法では、溶媒として、水、アルコール、エーテル、ニトリル、エステル等の一般的有機溶媒を用いることができる。これらの溶媒の中でも、水又はアルコールが特に好ましい。
また、アンモニア(NH)として、液体アンモニア、アンモニア水(1〜25%)又はアンモニアガスを溶解した溶剤などを使用してもよい。アンモニアとして液体アンモニアを使用する場合には、溶媒としてアルコールを用いることが好ましく、アンモニアとしてアンモニア水を使用する場合には、溶媒として含水有機溶媒、又は有機溶媒を含まない水溶液を用いることが好ましい。
溶媒中の各成分の濃度はそれぞれ0.01〜5mol/lであることが好ましい。
この反応の温度は、好ましくは-78〜100℃である。
この反応時間は、数分〜数時間程度である。
この反応系には上記成分のほか、適宜、触媒や界面活性剤等の公知の添加剤を添加してもよい。
界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性など各種の物が使用できるが、中でもアニオン性界面活性剤が好ましく、それらの中でもアルキルベンゼンスルホン酸又はその塩が特に好ましい。
生成物であるホモアリルアミン化合物は抽出、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の一般的精製法を利用して回収できる。
【0014】
本発明の生成物であるホモアリルアミン化合物は下式(化7)で表すことができる。
【化7】

(式中、R〜Rは上記と同様に定義される。)
本発明では、特にR及びRの一方が水素原子であり他方が水素原子以外である場合、E体(Rが、例えば、水素原子である。)のアリルボロン酸又はアリルボロネートからアンチ体のホモアリルアミン化合物が、Z体(Rが、例えば、水素原子である。)のアリルボロン酸又はアリルボロネートからシン体のホモアリルアミン化合物が立体選択的に生成する。
このようにして製造したホモアリルアミン化合物は、医薬中間体等の用途に用いることができる。

以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。
【0015】
本実施例では、シリカゲル60(Merk)又はWakogel B-5Fを用いるシリカゲルクロマトグラフィーにより生成物の精製を行った。エタノールはナトリウムを用いて蒸留し、3ÅMSを加え貯蔵した。水系反応には蒸留水を用いた。この他の溶媒は標準的な方法で精製した。
また、本実施例では下記の化合物を用いた。アルデヒド化合物1aと1d−kは使用前に蒸留して精製した。アルデヒド化合物1bと1cはそれぞれエタノール水及びエタノールから再結晶して精製した。グリオキシル酸一水和物(1l)は東京化成工業から購入し、精製せずに使用した。アリルボロネート2並びに(E)−及び(Z)−クロチルボロネート 5は文献(Tetrahedron Lett. 1985, 26, 3427; (a) J. Am. Chem. Soc. 1986, 108, 3422, (b) Liebigs Ann. Chem. 1989, 883.)に従って精製した。液体アンモニア(99.999%、日本酸素株式会社)及びアンモニア水(28.0-30.0重量%、和光純薬工業株式会社)は精製せずに使用した。水素添加には炭素上パラジウム(5重量%、PH-type, wet, 川研ファインケミカル株式会社)を用いた。この他の化合物は標準的な方法で精製した。
【0016】
実施例に先立ち、ベンズアルデヒド(1a)とアンモニアとの反応において、数種のアリル金属(ホウ素、ケイ素、スズ)を評価した結果、アリルボロン酸(allylboronic acid)とアリルボロネート(allylboronate)が有効なアリル化剤であることが分かった。
【0017】
実施例1〜40
上記結果に従って、本実施例では、下式のように、アンモニア、アルデヒド化合物1及びアリルボロネート2を4通りの方法(方法A〜D)で反応させた。その結果、アミン3とアルコール4が生成する。
【化8】

【0018】
方法A: アルゴン雰囲気下−78℃に冷却したセプタム付き二口フラスコに、ニードルを介してアンモニアガスを導入し、液体アンモニアを得た(約0.5ml)。これにエタノール(0.5ml)を加えた後、アルデヒド化合物1(0.5ミリモル)を加え、エタノール(0.5ml)で洗浄した。なお、アルデヒド化合物が1bと1c(固体)の場合には、液体アンモニア(約0.5ml)とエタノール(0.5ml)を添加する前にフラスコにアルデヒド化合物を入れておく。この混合物を−10℃まで昇温し、この温度で2時間撹拌した。この間、過剰なアンモニアは反応容器中に気化する。次に、この溶液にエタノールに溶解したアリルボロネート2(0.6ミリモル)を滴下した。この結果、無色の沈澱物が得られた。この混合物を−10℃で3時間及び室温で1時間撹拌した。次に、セプタムを取り外してほとんどのアンモニアを気化させ、この溶液に1NのHClを加え酸性(約pH1)とした。この混合液をジエチルエーテルで洗浄し、6NのNaOH水溶液を加えてアルカリ化し(約pH10)、ジクロロメタンで抽出した。このジクロロメタン層を無水NaCOで乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮して、ほぼ純粋のアミン3を得た。この粗生成物(アミン3)をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン/イソプロピルアミン=10/1)で精製した。一方、アルコール4はエーテル抽出層に含まれる。この抽出物を無水MgSOで乾燥し、ろ過し、減圧下濃縮した。アルコール4の収率は1,2,4,5-テトラメチルベンゼンを内部標準とするHNMR分析により求めた。
【0019】
方法B: アルデヒド化合物1(0.5ミリモル)を28−30重量%のアンモニア水(約20当量、約0.74ml)及びエタノール(1ml)中、室温で2時間撹拌する。この溶液に、アリルボロネート2(0.6ミリモル)を加え、この混合液を室温で3時間撹拌し、1aについて方法Aで行った方法と同じ方法で後処理を行った。
グリオキシル酸(1l)の場合には、反応混合物を減圧下で濃縮し、その残渣を陽イオン交換樹脂カラム(DOWEX 50W-X2, 50-100mesh, H+ form; 約7g (wet))に水を用いて通した。十分な量の水で洗浄した後、0.2Nアンモニア水で生成物を溶出した。留分は、0.1重量%のニンヒドリンアセトン/水(80/20 容積比)溶液を用いてシリカゲル薄層クロマトグラフィーで検出し、生成物3lを含む留分を集めて濃縮乾燥した。
【0020】
方法C: エタノール(0.5ml)に溶解したアリルボロネート2(0.6ミリモル)を−78℃で液体アンモニア(約0.5ml)に加え、エタノール(0.5ml)で洗浄した。アリルボロネート2の添加により無色の沈澱物が得られた。室温で30分間撹拌した後、この懸濁液にアルデヒド化合物1(0.5ミリモル)を加え、エタノール(0.5ml)で洗浄した。この混合液を室温で2時間撹拌し、その後方法Aと同様の操作を行った。
【0021】
本実施例においては、溶媒(エタノール、2−プロパノール、t−ブタノール、アセトニトリル及び1,4−ジオキサン)の効果はどれも余り差が無かったので、環境への負荷が少なく、アンモニアの溶解度が高いことから、エタノールを用いた。アリルボロネートの置換基は多種可能であるが、安定性が高い2−アリル−4,4,5,5−テトラメチル[1,3,2]ジオキサボロラン(2)を用いた。過剰量のアンモニア(エタノールに飽和)は、高い化学選択性(アミン3/アルコール4比)を得るために極めて重要である(表1,実施例 1、方法A)。化学選択性がやや劣るが、液体アンモニアの代わりにアンモニア水(28〜30重量%、約20当量)を用いることができる(表1,実施例 2、方法B)。
【0022】
表1に示した各種アルデヒド化合物を用いて行った結果を表1に示す。
【表1】

b:単離収率
c:この収率は、1,2,4,5-テトラメチルベンゼンを内部標準としてHNMR分析により決定した。
nd:検出されなかった。
d:アルデヒド化合物(1i)は、2aのアンモニア/エタノール溶液に2時間かけてゆっくり添加した。
e:syn/anti = 73/27
【0023】
次に、方法Aを用いて、この反応の基質の影響について調べた。電子吸引性及び電子供与性の置換基を有するベンズアルデヒド誘導体(実施例 3-6)、ヘテロ芳香族アルデヒド(実施例 7,8)はホモアリルアミン3を高収率で生成した。桂皮アルデヒドは高い1,2付加選択性を示した(実施例 9)。脂肪族アルデヒドは、単に反応物の添加順序を変更しただけで(方法C)、高選択的にホモアリルアミンを生成した(実施例 10-12)。これらのエノ−ル化可能なアルデヒドが、エナミン形成に由来する副反応によって複雑化しなかったことは興味深い。
【0024】
一方、グリオキシル酸はα−アミノ酸誘導体を直接生成するので、興味深い基質である。方法Bを用いることで、α−アミノアリル化反応が円滑に進行し定量的にα−アリルグリシンを生成した(実施例 13)。アンモニア水を用いることにより、反応液にグリオキシル酸が効果的に溶解された。生成物3lはPd/Cを用いて水素添加することにより定量的にノルバリンに変換される。
【0025】
反応機構は未だに明らかではないが、2つの可能性がある。1つは、アルデヒド化合物とアンモニアからN−無置換イミンが生成し、それがアリルボロネートによりアリル化されるという機構である。もう一方は、系内でアリルボロネートとアンモニアとから新規なアミノアリル化剤が生成する機構である。過剰量のアンモニアの使用が有効であったこと(方法A及び方法B)は、アルデヒド化合物及びアンモニアからイミンへの平衡を有利にし、前者の機構を促進させていると考えられる。一方、アリルボロネートとアンモニアを予め混合しておくことが効果的であったことは(方法C)、後者の機構を促進していると考えられる。
【0026】
対照実験において、反応条件下でアミン3とアルコール4が変化しなかったことから、アミン3とアルコール4との間の相互変換の可能性は無いと考えられる。一方、生成物3がアルデヒド化合物1と反応してN−アルキルイミンを形成し、続いてアリルボロネートによりアリル化される可能性もあるが、本反応においてこの様な過程は存在しない。実際アンモニアの量を減らした場合は、1aと3aからN−アルキルイミンが生成することが観測されたが、このことは、この条件下でN−アルキルイミンがアリルボロネートに対して不活性であることを示している。この点を更に明確にするために、エタノール中で1a、イソプロピルアミン又はベンジルアミン(5当量)及び2を反応させてみたが、アリル化生成物は生成せず、その代わり相当するイミンの生成が観察された。このことは、本α−アミノアリル化反応において、アンモニアが反応剤として重要であることを示している。
【0027】
方法D:この方法では、アンモニア(NH)としてアンモニア水を使用し、反応を水溶液中で行った。まず、界面活性剤の影響を調べ、次にアルデヒド化合物の影響について調べた。
アリルボロネート2(0.6ミリモル)、表2に示す界面活性剤(0.05ミリモル)および25%アンモニア水(1ml)の混合物を室温で30分間攪拌後、この懸濁液にアルデヒド化合物(1i:Ph(CHCHO)(0.5ミリモル)を加えた。室温下で2時間激しく攪拌した後、3Nの塩酸で反応液を酸性にしてジクロロメタンで抽出した。この有機層を濃縮後、シリカゲルクロマトグラフィーで生成することによりアルコール体(4)を得た。一方、抽出後の水層は6NのNaOHでアルカリ化し、ジクロロメタンで抽出、無水NaSOで乾燥した。溶媒を減圧留去後、シリカゲルクロマトグラフィーで生成することによりアミン体(3)を得た。
【0028】
【表2】

a:1,2,4,5-テトラメチルベンゼンを内部標準としたNMR分析による収率
b:ドデシルベンゼンスルホン酸
c:ドデシル硫酸ナトリウム
d:ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム
e:臭化セチルトリメチルアンモニウム
【0029】
次に、界面活性剤としてDBSA(ドデシルベンゼンスルホン酸)及び表3に示すアルデヒド化合物1を用いて、同様の反応を行った。結果を表3に示す。
【表3】

a:単離収率
b:1,2,4,5-テトラメチルベンゼンを内部標準としたNMR分析による収率
【0030】
実施例41
この実施例では、ベンズアルデヒド(1a)と(Z)−又は(E)−クロチルボロネート 5との反応(α−アミノクロチル化反応(α−aminocrotylation; α−アミノ2−ブテニル化反応)を調べた(スキーム2)。反応は上記方法Cに従って行った。
【化9】

【0031】
エタノール(0.5ml)に溶解した(Z)−又は(E)−クロチルボロネート 5(0.75ミリモル)を−78℃で液体アンモニア(約0.5ml)に加え、エタノール(0.5ml)で洗浄した。クロチルボロネート 5の添加により無色の沈澱物が得られた。室温で30分間撹拌した後、この懸濁液にアルデヒド1a(0.5ミリモル)又はアルデヒド1b(0.5ミリモル)の1,4-ジオキサン溶液(0.5ml)を加え、それぞれエタノール(0.5ml)又は1,4-ジオキサン(0.5ml)で洗浄した。この混合液を室温で2時間撹拌し、その後方法Aと同様の操作を行った。
【0032】
その結果、高いγ−付加選択性と立体特異性が観察された。即ち、(Z)−クロチルボロネート(crotylboronate; 2-ブテニルボロネート) 5はsyn-付加物6を生成し、(E)−クロチルボロネート 5はanti-付加物6を生成した。注目すべきは、これらの場合の立体化学は、一般的なN−置換イミンのクロチル化反応とは異なり、アルデヒドのクロチル化反応に類似している点である。
【0033】
実施例42
α−アミノクロチル化反応は、特定のペプチド抗生物質に見出される異常αアミノ酸の一種であるアロイソロイシンの簡潔なワンポット合成に用いることができる(スキーム3)。エタノール/液体アンモニア中で、(Z)−クロチルボロネート5をグリオキシル酸に作用させると(方法C)、アミノクロチル化物を生成する。アスピレータでアンモニアを除去して、Pd/Cを用いて水素添加すると、高収率及び高選択的にアロイソロイシンを生成する。
【化10】

【0034】
エタノール(0.5ml)に溶解した(Z)−クロチルボロネート 5(137.5mg、0.75ミリモル)を−78℃の液体アンモニア(約0.5ml)に加え、エタノール(0.5ml)で洗い込んだ。−10℃で30分間撹拌した後、この懸濁液にグリオキシル酸(1l)(46.5mg、0.5ミリモル)の水溶液(0.5ml)を加え、エタノール(0.5ml)で洗浄した。この混合液を−10℃で3時間撹拌した。次に、アスピレータでほとんどのアンモニアを除去した。Pd/C(5重量%、wet、15.2mg)を添加して、この混合液を、バルーン(約1気圧)を用いて水素雰囲気下で室温で12時間撹拌した。この混合物をセライトを用いてろ過し、減圧下で濃縮した。その残渣をイオン交換樹脂クロマトグラフィーで精製しアロイソロイシンを得た(60mg、91%)。
【0035】
実施例43
この実施例では、2−ピリジンカルボキサルデヒド(1f)と(Z)−又は(E)−クロチルボロネート 5との反応を調べた(スキーム4)。反応は上記方法Dに従って行った。
【化11】

【0036】
(Z)−又は(E)−クロチルボロネート 5(0.6ミリモル)とDBSA(0.05ミリモル)を溶解させた水溶液に室温で25%アンモニア水(1ml)を加えた。クロチルボロネート 5の添加により無色の沈澱物が得られた。室温で30分間撹拌した後、この懸濁液にアルデヒド1f(0.5ミリモル)を加えた。この混合液を室温で2時間撹拌し、その後方法Dと同様の操作を行った。
その結果、高立体選択的に反応が進行し、アミノアリル化体が高収率で得られた。即ち、(Z)−クロチルボロネート5はsyn-付加体6fを収率87%で、(E)−クロチルボロネート5はanti-付加体6fを収率90%で生成した。
【0037】
実施例44
この実施例では、糖類とアリルボロネートとの反応を調べた。
【化12】

D−グルコース(1、0.5ミリモル)を25%アンモニア水(1.0ml)に溶解し、室温で30分間攪拌した。アリルボロネート(2、0.75ミリモル)を加え、さらに6時間攪拌した後、水とエーテルを加えた。水相を減圧濃縮後、残渣を上記方法Bと同様に陽イオン交換樹脂によるカラムクロマトグラフィーで生成しアミノアリル化化合物(3)を収率93%、syn/anti=93/7で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液相で下式(化1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アリール基、脂環式炭化水素基、複素環基、アルコキシカルボニル基又はカルボキシル基を表す。)で表されるカルボニル化合物又は糖類、下式(化2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R及びRは、それぞれ同じであっても異なってもよく、水素原子、アルキル基又はアリール基を表し、R及びRは共に環状を成してもよい。)で表されるアリルボロン酸又はアリルボロネート、及びアンモニア(NH)を反応させることから成るホモアリルアミン化合物を製造する方法。
【請求項2】
が水素原子である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記アンモニア(NH)として液体アンモニアを使用し、アルコール中で反応させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記アンモニア(NH)としてアンモニア水を使用し、含水有機溶媒中で反応させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
前記アンモニア(NH)としてアンモニア水を使用し、有機溶媒を含まない水溶液中で反応させる請求項1又は2に記載の方法。
【請求項6】
反応系に界面活性剤を添加する請求項5に記載の方法。
【請求項7】
が水素原子でありRが水素原子以外であるE体のアリルボロン酸又はアリルボロネートを用いて請求項2に記載の方法により製造されたホモアリルアミン化合物であって、下式(化3)
【化3】

(式中、R及びRは前記と同様に定義される。)で表されるアンチ(anti)体ホモアリルアミン化合物。
【請求項8】
が水素原子でありR水素原子以外であるZ体のアリルボロン酸又はアリルボロネートを用いて請求項2に記載の方法により製造されたホモアリルアミン化合物であって、下式(化4)
【化4】

(式中、R及びRは前記と同様に定義される。)で表されるシン(syn)体ホモアリルアミン化合物。
【請求項9】
グリオキシル酸、(Z)−クロチルボロネート(Rがメチル基である。)及びアンモニア(NH)を反応させて請求項8に記載のホモアリルアミン化合物を製造する段階、該ホモアリルアミン化合物を水素添加する段階からなるアロイソロイシンを製造する方法。

【公開番号】特開2006−160720(P2006−160720A)
【公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−7739(P2005−7739)
【出願日】平成17年1月14日(2005.1.14)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】