説明

ポリアミド低重合体の製造方法

【課題】ジカルボン酸およびジアミンを主成分とするポリアミド低重合体を、生産性よく製造する方法を提供する。
【解決手段】本発明のポリアミド低重合体の製造方法は、以下の工程(i)および(ii)を含むことを特徴とする。
工程(i):水の存在下でジカルボン酸とジアミンを反応させ、塩と水との混合物を得る工程。
工程(ii):工程(i)で得られた塩を用いて、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満の温度で低重合体の生成反応をおこないながら低重合体を破砕する工程。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミド低重合体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドには、ナイロン46、ナイロン6T、ナイロン9T等、比較的融点の高いものが知られており、これらは耐熱性を要求される分野で用いられている。例えば、ナイロン46は、その成形加工が容易であることから、産業資材用繊維、衣料用繊維に用いられている。また、ナイロン6T、ナイロン9Tは、低吸水性で寸法安定性が高いことから、電気・電子部品、自動車部品用成形品に用いられている。
【0003】
高融点のポリアミドを製造する方法として、特許文献1には、水の存在下でジカルボン酸成分とジアミン成分を融点以下の温度で重合して低次縮合物を得、該低次縮合物を固相重合することにより所望の重合度のポリマーを得る方法が開示されている。しかしながら、このような製造方法は、上記低次縮合物を一旦反応装置から取出す工程が必要となるため、生産効率が低下する問題点があった。
【0004】
また、特許文献2には、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸を段階的に昇温させ、溶媒を用いずに芳香族ポリアミドを直接合成する方法が開示されている。しかしながら、特許文献2の場合は、記載された反応温度(300〜330℃)より高い融点を有するポリアミドを得る場合、ポリアミドが塊状化し、反応が均一に進行しない。そのため、得られたポリアミドの分子量分布が広くなるという問題があった。また、反応容器から取り出すには350℃以上の温度とする必要があり、このような温度下においては、ポリアミド中のアミド結合の分解が促進され、色調が悪くなるという問題があった。また、記載された反応温度(300〜330℃)以下の融点を有するポリアミドを重合により得る場合においても、得られるポリアミドの種類によっては、ポリアミド中のアミド結合の分解が促進され、ゲル化や色調の低下の原因となるトリアミン量が増加する場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−348427号公報
【特許文献2】特開2009−256610号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記の課題を解決するものであり、ジカルボン酸およびジアミンを主成分とするポリアミド低重合体を、効率性よく製造する方法を提供することを目的とする。さらに、色調が良好で分子量分布が狭く、トリアミン量が低減されたポリアミドを製造する方法を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
(1)以下の工程(i)および(ii)を含むことを特徴とする、ジカルボン酸およびジアミンを主成分とするポリアミド低重合体の製造方法。
工程(i):水の存在下でジカルボン酸とジアミンを反応させ、塩と水との混合物を得る工程。
工程(ii):工程(i)で得られた塩を用いて、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満の温度で低重合体の生成反応をおこないながら低重合体を破砕する工程。
(2)工程(i)を、モノマーとしてのジカルボン酸およびジアミンの合計100質量部に対して、5質量部を超える量の水の存在下でおこなうことを特徴とする(1)のポリアミド低重合体の製造方法。
(3)工程(ii)において、破砕混合物の体積平均粒径が5mm以下になるように破砕することを特徴とする(1)または(2)のポリアミド低重合体の製造方法。
(4)工程(ii)を、大気圧以上の圧力下でおこなうことを特徴とする(1)〜(3)いずれかのポリアミド低重合体の製造方法。
(5)工程(ii)において、低重合体の破砕を0.02kW/kg以上の攪拌動力/仕込み量でおこなうことを特徴とする(1)〜(4)のポリアミド低重合体の製造方法。
(6)(1)〜(5)で得られたポリアミド低重合体を高分子量化することによりポリアミドを得ることを特徴とするポリアミドの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリアミド低重合体の製造方法によれば、ジカルボン酸およびジアミンを主成分とするポリアミド低重合体を、効率よく製造することができる。さらに、本発明のポリアミド低重合体の製造方法によって得られたポリアミド低重合体を高分子量化することにより、色調が良好で、分子量分布が狭くトリアミン量が低減されたポリアミドを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について説明する。
本発明においては、ジカルボン酸とジアミンとを、主成分のモノマーとして用いるものである。
【0010】
ジカルボン酸としては、特に限定されず、例えば、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、芳香族ジカルボン酸等が挙げられる。脂肪族ジカルボン酸としては、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸等が挙げられる。脂環式ジカルボン酸としては、シクロヘキサンジカルボン酸等が挙げられる。芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等が挙げられる。なかでも、得られるポリアミドの耐熱性の観点から、テレフタル酸が好ましい。
【0011】
ジアミンとしては、特に限定されず、例えば、脂肪族ジアミン、脂環式ジアミン、芳香族ジアミンが挙げられる。脂肪族ジアミンとしては、1,2−ジアミノエタン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,5−ジアミノペンタン、1,6−ジアミノヘキサン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン等が挙げられる。脂環式ジアミンとしては、シクロヘキサンジアミン等が挙げられる。芳香族ジアミンとしては、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシレンジアミン等が挙げられる。なかでも、融点を高くすることができることから、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、オルトキシリレンジアミン、メタキシリレンジアミン、パラキシレンジアミンが好ましい。
【0012】
前記のジカルボン酸とジアミンとの組み合わせで得られるポリアミド低重合体としては、特に限定されず、例えば、高分子量化後に、ナイロン46、ナイロン66、ナイロン69、ナイロン610、ナイロン612などの脂肪族ポリアミド、ナイロン612、ナイロン6T、ナイロン6I、ナイロン6N、ナイロン9T、ナイロン9I、ナイロン9N、ナイロン10T、ナイロン10I、ナイロン10N、ナイロン12T、ナイロン12I、ナイロン12N、MXD6ナイロン、PXD6ナイロン等の半芳香族ポリアミドとなるポリアミド低重合体が挙げられる。ここで、Tはテレフタル酸、Iはイソフタル酸、Nはナフタレンジカルボン酸、MXDはメタキシリレンジアミン、PXDはパラキシレンジアミンを示す。また、ポリアミド低重合体には、必要に応じて、その他のモノマーが共重合されていてもよい。
【0013】
本発明のポリアミド低重合体の製造方法は、以下の(i)、(ii)の2工程を含むものである。
工程(i):水の存在下でジカルボン酸とジアミンを反応させ、塩と水との混合物を得る工程。
工程(ii):工程(i)で得られた塩を、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満の温度で低重合体の生成反応をおこないながら低重合体を破砕し、ポリアミド低重合体を得る工程。
【0014】
工程(i)は、水の存在下で、モノマーとしてのジカルボン酸とジアミンを反応させ、塩と水との混合液を得る工程である。工程(i)を水の存在下でおこなうため、塩の生成反応を均一的に進行させることができ、反応時間を短縮することができる。加えて、系内の熱斑を減らすことができるため、本発明にて得られたポリアミド低重合体を高分子量化すると、分子量分布が狭く、L値が高く、トリアミン量が低いポリアミドを得ることができる。
【0015】
原料モノマーと共に添加する水の量は、原料モノマーであるジカルボン酸とジアミンの合計100質量部に対して、5質量部を超えることが好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましい。5質量部を超える水を添加することで、系内の熱斑を減らすことができ、本発明にて得られたポリアミド低重合体を高分子量化して製造されたポリアミドは分子量分布が狭いものとなる。なお、得られるポリアミドの分子量分布の求め方は、後述の実施例において説明する。
【0016】
工程(i)における反応温度は、200℃以下とすることが好ましく、150℃以下とすることがより好ましい。反応温度が200℃を超えると、後述の工程(ii)における低重合体の生成反応が始まってしまう場合があるため好ましくない。
【0017】
工程(i)において、混合する時間としては、塩の合成反応を完全に進行させるという観点から、反応温度に達してから0.1〜3時間が好ましく、0.1〜2時間がより好ましい。
【0018】
工程(i)で得られる塩は、水が共存した状態で生成されるものであるが、水が共存した状態で工程(ii)に供してもよく、水が共存した塩から水を留去し、粉末化したものを、工程(ii)に供してもよい。つまり、必要に応じて、工程(i)と工程(ii)の間に、塩と水との混合物から水を留去し、塩の粉末を得る工程を設けてもよい。水が共存した塩を粉末化する方法としては、スプレードライ法等が挙げられる。
【0019】
工程(ii)は、工程(i)で得られた塩を、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満の温度で低重合体の生成反応をおこないながら低重合体を破砕し、ポリアミド低重合体を得る工程である。なお、ポリアミド低重合体には、塩が含まれる場合もある。
【0020】
工程(ii)における生成反応温度としては、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満とすることが必要であり、150〜270℃とすることが好ましく、150〜250℃とすることがより好ましい。反応温度が前記ポリアミドの融点以上の温度の場合、アミド結合の熱分解が促進され、色調が悪くなったり、重合途中に副生するトリアミン量が多くなりゲル化が発生したりする場合があるので好ましくない。さらに、ポリアミド低重合体が塊状化したりする場合があるため好ましくない。
【0021】
工程(ii)において、反応時間は、塩の合成反応を完全に進行させるという観点から、反応温度に達してから0.1〜10時間が好ましく、0.1〜5時間がより好ましい。
【0022】
なお、工程(ii)の終了は、モノマーの反応率が90%以上になることを目安にする。モノマー反応率の求め方は、後述の実施例において説明する。
【0023】
本発明において、均一に反応を進行させるためには、これらの固体を破砕することが必要である。破砕せずに重合した場合、生成したポリアミドが塊状化したり、反応の進行に斑が生じたりするという問題がある。ポリアミド低重合体は、分子量が低いので容易に破砕することができる。
【0024】
なお、本発明のポリアミド低重合体の製造方法においては、後述する工程(ii)で、破砕された低重合体が破砕熱によって溶融し、これらが再固化することにより塊状となる場合がある。このような場合であっても、得られるポリアミドの融点を250℃以上とすることにより、破砕熱によって低重合体が溶融しにくく、溶融再固化による塊状物の生成が起こりにくくすることができる。
【0025】
工程(ii)における破砕の方法としては、圧縮力粉砕、剪断力粉砕、衝撃力粉砕、摩擦力粉砕、攪拌式破砕などが挙げられる。本発明においては、特に破砕しながら攪拌できるという点で、攪拌翼による攪拌式破砕が好ましい。撹拌翼はプロペラ型、パドル型、タービン型、らせん型、ダブルヘリカル型が挙げられ、これらを組み合わせたものでもよい。しかしながら、アンカー型の攪拌翼を用いた場合は、破砕を行うことができない場合があるため、アンカー型以外の形状を有する攪拌翼を用いることが好ましい。
【0026】
工程(ii)で破砕して得られたポリアミド低重合体の体積平均粒径は5mm以下とすることが好ましく、2mm以下とすることがより好ましく、1mm以下とすることがさらに好ましい。ポリアミド低重合体の体積平均粒径をこの範囲とすることで、このポリアミド低重合体を高分子量化すれば、分子量分布が狭く、重合度の斑が小さいポリアミドを得ることができる。体積平均粒径は、攪拌動力/仕込み量を適宜変更することで調整することができる。なお、体積平均粒径の求め方は、後述の実施例において説明する。
【0027】
工程(ii)における破砕のための撹拌動力/仕込み量は、0.02kW/kg以上とすることが好ましく、0.03kW/kg以上とすることがより好ましく、0.035kW/kg以上とすることがさらに好ましい。撹拌動力/仕込み量を0.02kW/kg以上とすることで、工程(ii)において生成した低重合体が塊状化することを抑制することができる。また、このポリアミド低重合体を高分子量化すれば、分子量分布が狭く、均一なポリアミドを得ることができる。なお、攪拌動力/仕込み量の上限は、特に限定されないが、1kW/kg程度である。
【0028】
本発明においては、低重合体の生成反応が進行することにともなって水蒸気が発生する。そのため、系内の圧力は水の蒸気圧まで上昇する。
【0029】
系内の圧力は大気圧以上とすることが好ましく、絶対圧力で1.0MPa以上とすることがより好ましい。大気圧以上とすることで、用いるモノマーを系外に留去させずに定量的に重縮合反応をおこないやすい。系内の圧力の上限は特に限定されず、反応容器の耐圧力の範囲内で適宜選択される。系内の圧力は、水蒸気や不活性ガスにより適宜制御される。
【0030】
工程(i)、(ii)において用いられる装置としては、温度制御と破砕ができれば特に限定されない。
【0031】
本発明の製造方法においては、工程(ii)の後に、得られたポリアミド低重合体を高分子量化することによりポリアミドを製造する工程{工程(iii)}を設けてもよい。高分子量化の方法としては、固相重合または溶融重合が挙げられる。
【0032】
工程(iii)において、工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を固相重合により高分子量化する際の反応温度は{(高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点)−150℃}以上、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満でおこなうことが好ましく、{(高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点)−100℃}以上、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満がより好ましい。固相重合は、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満で行うため、トリアミン量が低減されゲル化が抑制される。また、アミド結合の熱分解が抑制されるため、ポリアミドの色調を良好に保つことができる。
【0033】
固相重合は、窒素などの不活性ガス気流中でおこなってもよく、減圧下でおこなってもよい。また、静置しておこなってもよく、攪拌しながらおこなってもよい。
【0034】
固相重合の反応時間としては、反応を完全に進行させるという観点から、反応温度に達してから、0.5〜100時間が好ましく、0.5〜24時間がより好ましく、0.5〜10時間がさらに好ましい。
【0035】
工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を溶融重合により高分子量化する際の反応温度は、{(高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点)+10℃}〜350℃とすることが好ましい。反応温度をこの範囲とすることで、ゲル化の原因となるトリアミン量を抑制しながら重合を進めることができる。
【0036】
溶融重合の方法としては、オートクレーブで重合を行う方法や溶融押出機で重合を行う方法が挙げられる。中でも、短時間で重合できることから、後者の方が好ましい。
【0037】
溶融押出機での溶融滞留時間としては、10分以下が好ましく、5分以内がより好ましい。滞留時間が1分未満である場合、高重合度化が進行しない場合がある。溶融押出機での滞留時間を短くすることでトリアミン量が低減され、その結果、ゲル化が抑制される。また、アミド結合の熱分解が抑制されるため、ポリアミドの色調を良好に保つことができる。高重合度化を進めるには、溶融押出機を2台直列にして用いるのも有効である。
【0038】
工程(iii)において、工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を溶融押出機に投入する方法としては、工程(ii)の後に反応容器からポリアミド低重合体を取りだし溶融押出機に添加してもよく、反応容器に溶融押出機を直結させて連続的に溶融押出機に添加してもよい。得られるポリアミドの色調低下および作業時間の短縮の点から、後者の方が好ましい。連続的に溶融押出に付することで、空気による酸化を抑制でき、ポリアミドの色調低下が抑制され、かつ作業時間を短縮することができる。
【0039】
溶融押出機としては、二軸押出機が好ましい。二軸押出機としては、反応で生じた水を除去するためのベント部を有するタイプのものが好ましく、ベント部を2個以上有するものがより好ましい。ベント部は必要に応じて常圧開放、或いは、ポンプで吸引して減圧にして使用することができる。通常、第1ベントは窒素を流通させ開放状態とし、第2ベント以降は減圧状態とすることが好ましい。このような条件を設定することにより、重合度を効率よく高めることができる。また、溶融と重合に十分な熱量を与える観点から、溶融押出機のL/Dは10〜60とすることが好ましく、15〜50とすることがより好ましく、20〜40とすることがさらに好ましい。また、高分子量化を促進するために、溶融押出機を2台直列にして用いるのも有効である。
【0040】
本発明のポリアミドの製造方法においては、工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を用いて固相重合を行えば粉末形状とすることができる。一方、溶融重合を行えばストランドカッターを用いることによってペレット形状とすることができる。そのため、いずれの場合においても、その後の各種加工における取扱性が高い。
【0041】
また、工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を固相重合により高分子量化する場合には、重合開始から終了までポリアミドの融点未満の温度で重合を行うため、ポリアミド中のトリアミン量を抑制することができる。また、アミド結合の熱分解を抑制することができるため、色調が良好なポリアミドを得ることができる。一方、溶融押出機を用いて高分子量化する場合には、短時間で重合を行うため、ポリアミド中のトリアミン量を抑制することができる。また、アミド結合の熱分解を抑制することができるため、色調が良好なポリアミドを得ることができる。その結果、いずれの場合においても、ポリアミド中のトリアミン量は、従来法に対して低くすることができ、例えば、ジアミンに対して0.3モル%以下とすることができる。また、良好な色調の指標として、L値を70以上とすることができる。
【0042】
本発明の製造方法においては、重合触媒を用いることが好ましい。触媒は、工程(i)、工程(ii)、工程(iii)いずれの工程で添加してもよいが、反応を速やかに進行させ、重合効率を向上させるという観点から、工程(i)の段階で添加することが好ましい。
【0043】
触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸またはそれらの塩等を用いることができる。触媒の使用量は、品質の観点から、原料モノマーであるジカルボン酸とジアミンの合計のモル数に対して、2モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0044】
本発明においては、重合度の調整、分解や着色の抑制等を目的として、末端封鎖剤を加えることが好ましい。末端封鎖剤は、工程(i)、工程(ii)および工程(iii)のいずれの工程で添加してもよい。
【0045】
末端封鎖剤としては、ポリアミドの末端基との反応性の観点から、モノカルボン酸、モノアミンが好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。モノカルボン酸としては、酢酸、ラウリン酸、安息香酸等が挙げられ、モノアミンとしては、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等が挙げられる。
【0046】
末端封鎖剤の使用量は、原料モノマーであるジカルボン酸とジアミンの合計のモル数に対して、5モル%以下が好ましく、2モル%以下がより好ましい。
【0047】
ポリアミドには、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じてフィラーや安定剤等の添加剤を加えてもよい。添加剤としては、ガラス繊維や炭素繊維等の繊維状補強材、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤等が挙げられる。添加剤は、本発明における任意の段階で添加することができ、例えば、ポリアミドの重合時に添加してもよいし、得られたポリアミドに溶融混練してもよい。
【0048】
上記のようにして得られたポリアミドの数平均分子量は、特に限定されず、目的に応じて適宜設定すればよい。例えば、成形加工が容易なポリアミドを得ようとすれば、数平均分子量を1万以上とすることが好ましい。
【0049】
工程(ii)で得られたポリアミド低重合体の粒径を制御することにより、その後の工程(iii)で得られたポリアミドの粒径を制御することができる。また、ポリアミド低重合体の粒径を5mm以下とすることで、その後の工程(iii)において、重合度斑が少ないポリアミドを得ることができ、得られるポリアミドの分子量分布を4.0以下という狭い範囲に調整することができる。
【実施例】
【0050】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0051】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0052】
ポリアミドの物性測定は以下の方法によっておこなった。
(1)モノマーの反応率
ポリアミド30mgにメタノール10mLを加え、懸濁液を作製した。この懸濁液を、1時間放置し、ディスクフィルターで濾過し、試料溶液を作製した。その後、この試料溶液を質量分析計付帯のガスクロマトグラフィー装置(アジレント・テクノロジー社製、商品名「Agilent 6890N」)で分析した。そして、原料モノマーのジアミンを標準試料として作成した検量線を用いて、ポリアミド中の未反応ジアミンを定量し、ジアミンの反応率を計算した。
【0053】
(2)体積平均粒径
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製 、LA920)を用いて測定した。なお、破砕混合物の体積平均粒径は、工程(ii)の直後にサンプリングしたものを用いた。
【0054】
(3)数平均分子量、分子量分布
ポリアミド5mgに10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノール2mLを加えて溶解させて得られた溶解液を、ディスクフィルターで濾過し、試料溶液を調製した。この試料溶液を、示差屈折率検出器(東ソー社製、商品名「RI−8010」)を備えたゲル浸透クロマトグラフィ装置(GPC、東ソー社製)で分析した。溶離液として10mMトリフルオロ酢酸ナトリウム含有ヘキサフルオロイソプロパノールを用いた。分析条件は流速0.4mL/min、温度40℃とした。そして、ポリメチルメタクリレート(ポリマーラボラトリーズ社製)を標準試料として作成した検量線を用いて、重量平均分子量および数平均分子量を求め、(重量平均分子量)/(数平均分子量)の比を分子量分布とした。
【0055】
(4)融点
サンプル10mgを、示差走査型熱量計(パーキンエルマー社製、商品名「DSC−7」)を用いて、常温から350℃まで20℃/分で昇温し、5分間保持した。その後、500℃/分で25℃まで降温し、5分間保持後、400℃まで20℃/分で昇温した。2回目の昇温時に得られた曲線の融解に由来するピークの頂点を融点温度とした。
【0056】
(5)色調
日本電色工業社製、商品名「Σ90 color measuring system」を用いて、C/2光源、反射にてL値を測定した。
【0057】
(6)トリアミン量
ポリアミド10mgに47%臭化水素酸を3mL加え、130℃で16時間加熱後、室温まで放冷した。そこに20%水酸化ナトリウム水溶液を5mL加えて試料溶液をアルカリ性にした後、分液ロートに移してクロロホルムを8mL加えて撹拌した後静置し、クロロホルム相を採り、濃縮した。これにクロロホルム1.5mLを加え、これをメンブランフィルターで濾過したものを測定試料とした。この測定試料を、質量分析計を備えたガスクロマトグラフィー装置(アジレント・テクノロジー社製、商品名「Agilent 6890N」)で分析した。ジアミンとトリアミンを標準試料として作成した検量線を用いて、ポリアミド中のジアミンとトリアミンを定量し、ジアミンに対するトリアミンのモル比を算出した。ジアミンの標準物質は、重合に用いたジアミンを用いた。また、トリアミンの標準物質は、酸化パラジウムを触媒として、重合に用いたジアミンをオートクレーブ中にて240℃で3時間加熱攪拌して反応させて得たトリアミン化合物を用いた。
【0058】
実施例1
[工程(i)]
ジカルボン酸としてテレフタル酸58.8質量部、ジアミンとして1,6−ジアミノヘキサン41.2質量部、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.12質量部、末端封鎖剤として安息香酸0.34質量部、水100.4質量部からなる混合物(ジカルボン酸:ジアミン:触媒:末端封鎖剤=50:50:0.16:0.39、モル比)を、ダブルヘリカル撹拌翼を備えたオートクレーブ中で、窒素雰囲気下、100℃において、1時間、20回転/分で撹拌した。
【0059】
[工程(ii)]
工程(i)で得た塩の水溶液を、上記のダブルヘリカル撹拌翼を備えたオートクレーブにて、窒素雰囲気下、20回転/分で攪拌しながら、230℃まで昇温した。温度230℃で3時間保ち、生成した低重合体を破砕しながら攪拌し、粉末状のポリアミド低重合体を得た。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、オートクレーブの圧力を常圧に戻した。そして、オートクレーブの排出バルブから水を留去させた。
【0060】
[工程(iii)]
工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を250℃まで昇温した。温度を250℃に保ち、窒素気流下、5時間かけて固相重合をおこないポリアミドを得た。
【0061】
実施例2
工程(i)における水の添加量を10質量部、工程(ii)における温度を270℃、工程(ii)における圧力を3.3MPaに変更した以外は、実施例1と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0062】
実施例3
工程(ii)における温度を150℃、圧力を0.5MPaに変更し、工程(iii)の温度を230℃に変更した以外は、実施例2と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0063】
実施例4
ジアミンを1,10−デカンジアミン、工程(i)における水の添加量を15質量部に変更し、工程(ii)における温度を210℃、圧力を1.9MPaに変更し、工程(iii)における温度を180℃に変更した以外は、実施例1と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0064】
実施例5
ジアミンを1,9−ノナンジアミンに変更し、工程(iii)における温度を230℃に変更した以外は実施例4と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0065】
実施例6
ジアミンを1,12−ドデカンジアミンに変更し、工程(iii)における温度を270℃に変更した以外は実施例4と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0066】
実施例7
工程(i)における水の添加量を15質量部、工程(ii)における攪拌動力/仕込み量を0.01kW/kgに変更した以外は、実施例1と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0067】
実施例8
工程(i)における水の添加量を4質量部とし、工程(ii)における温度を210℃とし、工程(ii)における圧力を0.8MPaとした以外は、実施例1と同様に行って、粉末状のポリアミドを得た。
【0068】
実施例9〜12
原料モノマー、工程(i)、(ii)および(iii)の条件を表1に示すように変更した以外は、実施例4と同様におこなって粉末状のポリアミド低重合体を得た。なお、実施例9および実施例10においては、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸およびイソフタル酸を用いた。この場合のテレフタル酸とイソフタル酸の比率は、テレフタル酸/イソフタル酸=80/20(モル比)であった。
【0069】
実施例13
水の添加量を40質量部に変更し、工程(iii)を以下のように変更した以外は、実施例4と同様に行って、ペレット状のポリアミドを得た。
[工程(iii)]
工程(ii)で得られたポリアミド低重合体を、二軸押出機(30mmφ、L/D=45、2ベント)に供給して溶融重合に付し、ペレット状のポリアミドを得た。二軸押出機のシリンダー温度を330℃に設定し、樹脂温度を325〜330℃に調節した。平均滞留時間は3分に設定した。ホッパーは酸素含有量が50ppm以下の窒素ガスでシールした。また、第1ベントは開放し、前記の窒素ガスでシールし、第2ベントは真空ポンプを使用して50mmHgの減圧度を保った。スクリュー回転数は40rpmに設定し、ホッパーからの低重合体の供給量は1kg/時間とした。
【0070】
比較例1
工程(ii)を以下のように変更する以外は、実施例1と同様に行った。
[工程(ii)]
撹拌速度は20回転/分のまま昇温し、圧力を1.9MPa、温度を210℃で3時間保ち、アンカー型の攪拌翼を用いて破砕せずに攪拌し、ポリアミド低重合体の塊状物を得た。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、オートクレーブの圧力を常圧に戻した。
【0071】
比較例2
工程(ii)を以下のように変更し、工程(iii)における温度を230℃に変更した以外は、実施例1と同様に行った。
[工程(ii)]
撹拌速度は20回転/分のまま昇温し、圧力を3.5MPa、温度をポリアミドの融点以上である400℃で3時間保ち、ポリアミド低重合体の溶融物を得た。その後、反応により生じた水蒸気を放圧し、オートクレーブの圧力を常圧に戻した。
【0072】
比較例3
工程(i)、(ii)を以下のように変更する以外は、実施例1と同様に行った。
[工程(i)および(ii)]
ジカルボン酸としてテレフタル酸58.8質量部、ジアミンとして1,6−ヘキサンジアミン41.1質量部、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物0.12質量部、末端封鎖剤として安息香酸0.34質量部からなる混合物(ジカルボン酸:ジアミン:触媒:末端封鎖剤=50:50:0.16:0.39、モル比)を、ダブルヘリカル撹拌翼を備えたオートクレーブで、窒素雰囲気下、100℃、1時間、20回転/分で撹拌し、粉末状のポリアミド低重合体を得た。続いて、この塩を上記オートクレーブにて実施例1における工程(ii)と同様の反応を行った。
【0073】
表1、2に、使用モノマー、製造条件、および高分子量化後のポリアミドの特性値を示す。
【0074】
【表1】

【0075】
【表2】

【0076】
なお、表1および表2中の略語は、以下のものを示す。
HA:1,6−ヘキサンジアミン
DA:1,10−デカンジアミン
NA:1,9−ノナンジアミン
DDA:1,12−ドデカンジアミン
TPA:テレフタル酸
【0077】
実施例1〜13の製造方法で得られたポリアミド低重合体は、いずれも体積平均粒径が小さいものであった。また、高分子量化後のポリアミドの特性値は、L値が70以上と高く、色調が良好であった。また、分子量分布が狭く、トリアミンの生成量も少ないものであった。加えて、得られたポリアミドは粉末の状態であり、取扱性が良好なものであった。
【0078】
実施例1〜6、9〜13は、原料モノマーの合計100質量部に対して、5質量部を超える量の水を加えたため、得られたポリアミドの分子量分布が特に狭かった。
【0079】
実施例1〜6、8〜11および13は、攪拌動力を常に0.02kW/kg以上に制御したため、得られたポリアミド低重合体の体積平均粒径が5mm以下であった。
実施例7および8は、攪拌動力が0.02kW/kg未満に制御されていたため、水の添加量が好ましい範囲であっても、得られたポリアミド低重合体の体積平均粒径が5mmを超えるものとなった。そのため、分子量分布が若干広いものとなったが、十分に実使用に耐えうるものであった。
【0080】
比較例1は、工程(ii)においてアンカー型の攪拌翼を用い、破砕することなく重合したため、オートクレーブ中で内容物が塊状化しており、粉状に樹脂を取り出すことができなかった。また、高分子量化後のポリアミドは、分子量分布が広く、トリアミン量が多かった。また、熱劣化(アミド結合の分解)が激しかったため、L値が低く色調が低下していた。
【0081】
比較例2は、工程(ii)の温度をポリアミドの融点よりも高い温度としたため、オートクレーブ中で内容物が塊状化しており、粉状に樹脂を取り出すことができなかった。また、高分子量化後のポリアミドは、熱劣化が激しかったためL値が低く色調が低下しており、加えて、トリアミン量が多かった。さらに、工程(ii)において粉砕しながら低重合体を生成しなかったため、分子量分布が広かった。
【0082】
比較例3は、工程(i)において、水を加えずに塩を作製したため、高分子量化後のポリアミドは分子量分布が広く、L値が低く、かつトリアミン量が多かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(i)および(ii)を含むことを特徴とする、ジカルボン酸およびジアミンを主成分とするポリアミド低重合体の製造方法。
工程(i):水の存在下でジカルボン酸とジアミンを反応させ、塩と水との混合物を得る工程。
工程(ii):工程(i)で得られた塩を用いて、高分子量化した場合に得られるポリアミドの融点未満の温度で低重合体の生成反応をおこないながら低重合体を破砕する工程。
【請求項2】
工程(i)を、モノマーとしてのジカルボン酸およびジアミンの合計100質量部に対して、5質量部を超える量の水の存在下でおこなうことを特徴とする請求項1に記載のポリアミド低重合体の製造方法。
【請求項3】
工程(ii)において、破砕混合物の体積平均粒径が5mm以下になるように破砕することを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミド低重合体の製造方法。
【請求項4】
工程(ii)を、大気圧以上の圧力下でおこなうことを特徴とする請求項1〜3いずれかに記載のポリアミド低重合体の製造方法。
【請求項5】
工程(ii)において、低重合体の破砕を0.02kW/kg以上の攪拌動力/仕込み量でおこなうことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載のポリアミド低重合体の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5で得られたポリアミド低重合体を高分子量化することによりポリアミドを得ることを特徴とするポリアミドの製造方法。

【公開番号】特開2012−180486(P2012−180486A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−45795(P2011−45795)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(000004503)ユニチカ株式会社 (1,214)
【Fターム(参考)】