説明

ポリアミド樹脂製発泡体の製造方法

【課題】耐熱性の高いポリアミド樹脂を用い高発泡倍率の成形体を得るための成形方法およびポリアミド樹脂組成物および成形体を提供する。
【解決手段】(A)ポリアミド樹脂に発泡剤を溶融混練する工程および/または溶融したポリアミド樹脂に発泡用ガスを吸収させる工程、ついで(B)該発泡性溶融ポリアミド樹脂をガラス転移温度以下の金型に射出成型あるいはサイジングダイに押出して発泡倍率が1.005〜1.15倍の発泡体を得る工程、ついで(C)該固化したポリアミド微発泡成形体をガラス転移温度以上に加熱して高発泡体を得る工程により製造される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ポリアミド樹脂製発泡体の製造方法および該製造方法で得られたポリアミド樹脂製発泡体に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に高発泡倍率の樹脂製発泡体はポリスチレンに代表される非晶性樹脂である。これは樹脂のガラス転移温度が低く、溶融もしくはガラス転移温度近辺における樹脂の粘弾性挙動が発泡に適しているためと考えられる。しかしながら、非晶性樹脂は一般的に耐熱性、耐薬品性に乏しく、エンジンオイルやガソリン等と接触する頻度の高い自動車分野には適用できないのが実情である。
一方、結晶性樹脂は、該樹脂の融点を超えて溶融状態にならなければ発泡することができず、かつ溶融状態では樹脂の流動性が著しく上昇するために発泡セルが形成されない。結果として結晶性樹脂において高発泡倍率の発泡体が得られないのが実情である。
自動車分野で代表的に用いられるポリアミド樹脂は、機械的、熱的性質および耐油性等に優れるが高融点の結晶性樹脂であり、かつ溶融時に著しく流動性が向上するため高発泡体を容易に得る技術がない。
しかしながら、特に自動車分野において低燃費化を図るために軽量化が望まれており、高発泡倍率のポリアミド樹脂製発泡成形体の要求は高い。
【0003】
ポリアミド樹脂の発泡成形法としては、一般にカウンタプレッシャ成形法と呼ばれている成形法がある。これは発泡用のガスを含んだ溶融樹脂を圧縮空気で満たした金型キャビティーに射出し、次いで該キャビティ内の圧縮空気を金型外に開放しキャビティー内圧力を低く保って樹脂を冷却する成形法であり、樹脂充填時のフローフロントでの発泡を抑制することで成形品の表面には発泡模様がなく内部のみ発泡した成形品を作る技術である。カウンタプレッシャ成形法は、溶融樹脂を非発泡状態でキャビティにほぼ満たした後、成形品内部の溶融樹脂が冷却され、冷却に伴う体積収縮分を発泡によって補うものである。このため樹脂に発泡性を持たせる目的で樹脂中に含ませるガスの量は体積収縮を発泡で補える最低限とすることが基本的な考え方といえる。そのため体積収縮分しか発泡しないために、部品の軽量化にも限界があった(例えば、特許文献1参照)。
一方発泡倍率を向上させるため、炭酸ガスを含有した溶融樹脂を金型内に射出したのち、樹脂が溶融状態のまま金型を開き発泡させると共に冷却して発泡体を得る発泡体の製造方法がある。しかしながら結晶性樹脂では金型との接触により急激に固化するため型を開いても、十分な発泡が得られないのが実情である(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
【特許文献1】特公昭62−16166号公報
【特許文献2】特開2001−105447号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、耐熱性の高いポリアミド樹脂を用いて高発泡倍率の成形体を得るための製造方法および該製造方法で得られたポリアミド樹脂製発泡体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するため検討を重ねた結果、ポリアミド成分がヘキサメチレンアジパミドとヘキサメチレンイソフタラミドから構成される半芳香族ポリアミドを用い、ポリアミド樹脂に発泡用ガスを吸収する工程、ついで冷却固化させ微発泡体を得る工程、ついでガラス転移温度以上に加熱する工程を経ることにより高発砲ポリアミド樹脂発泡体が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、
(1)(A)ポリアミド樹脂に発泡剤を混練する工程および/または溶融したポリアミド樹脂に発泡用ガスを吸収させる工程、ついで(B)該溶融ポリアミド樹脂をガラス転移温度以下の金型に射出成型あるいはサイジングダイに押出成型して発泡倍率が1.005〜1.15倍である微発泡成型体を得る工程、ついで(C)該固化したポリアミド微発泡成形体をガラス転移温度以上に加熱して高発泡体を得る工程を有することを特徴とするポリアミド樹脂製発泡体の製造方法、
(2)ポリアミド樹脂が(a)アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンアジパミド単位100重量部と、(b)イソフタル酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンイソフタラミド単位5〜100重量部とから構成される半芳香族ポリアミドを含むことを特徴とする上記1に記載のポリアミド樹脂製発泡体の製造方法、
(3)上記1または2に記載のポリアミド樹脂によって得られるポリアミド樹脂製発泡体、
である。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、耐熱性の高いポリアミド樹脂を用い高発泡倍率の成形体を得られるという効果を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明について、以下具体的に説明する。
本発明に用いるポリアミドは、アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンアジパミド単位(以下N66と称す)とイソフタル酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンイソフタラミド単位(以下N6Iと称す)とから構成されている。各成分の構成比は、N66が100重量部に対し、N6Iが5〜100重量部、好ましくは5〜80重量部、さらに好ましくは5〜60重量部、最も好ましくは5〜50重量部であり、N6Iが5重量部以上で高発泡倍率成型品の発泡性に優れ、100重量部以下で耐熱性に優れる。
【0009】
N66に該範囲内でN6I成分を共重合させたポリアミド樹脂は、ガラス転移温度以下で急激に冷却された後、ガラス転移温度以上に再加熱されると、ガラス転移温度付近で再結晶化する特徴を有する。昇温による該再結晶化時に該樹脂の弾性率がほぼ融点に近い状態の弾性率にまで急激に低下し、再結晶化が完了するとともに再び弾性率が上昇する特異的な挙動を示す。
この際、あらかじめ溶融時に吸収され固化樹脂中に封じ込められていた発泡性ガスが樹脂の弾性率の低下に伴い発泡膨張するためと考えられる。またこの際あらかじめ再加熱する前の成形体は発泡倍率が少なくとも微発泡状態の気泡を有することが必要であり、該微発泡状態の発泡倍率は、1.005〜1.15倍、好ましくは1.01〜1.15倍、さらに好ましくは1.01〜1.10倍、最も好ましくは1.03〜1.08倍である。微発泡成型体の発泡倍率がこの範囲であるときに高発泡後の発泡セルの分布、サイズの均一性の点で優れる。
該微発泡成形体をガラス転移温度以上、融点以下の温度範囲に急激に加熱することにより微発泡成形体は発泡膨張して、高発泡のポリアミド成形体が得られる。
本発明において用いられる発泡剤に特に制限はなく、一般的に知られている物理発泡剤、化学発泡剤を用いることができる。
【0010】
物理発泡剤としては、例えば、プロパン系、ブタン系、ペンタン系などに例示される飽和炭化水素、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、イソプロピルエーテルなどに例示されるエーテル類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトンに例示されるケトン類、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、i−プロピルアルコール、ブチルアルコールに例示されるアルコール類、塩化メチル、塩化エチルなどに例示される塩素化炭化水素類、トリクロロフルオロメタン(R11)、ジクロロジフルオロメタン(R12)、クロロジフルオロメタン(R22)、テトラクロロジフルオロエタン(R112)、ジクロロフルオロエタン(R141b)、クロロジフルオロエタン(R142b)、ジフルオロエタン(R152a)、HFC−245fa、HFC−236ea、HFC−245ca、HCFC−225caなどに例示されるフロン類、水、二酸化炭素、窒素、空気などに例示される無機ガス類などが挙げられる。
【0011】
また、化学発泡剤としては、例えば、ヒドラゾジカルボンアミド、アゾジカルボンアミド、アゾイソブチロニトリルなどアゾ化合物などが挙げられる。これらは単独又は2種以上混合して使用することができる。
また環境への配慮、取り扱い性を考慮すると、水、二酸化炭素、窒素、空気などに例示される無機ガスなどが好ましい。
溶融したポリアミド樹脂へのガスの吸収方法としては、射出成形機や押出成形機のシリンダから供給することができ、トレクセル社のミューセル(登録商標)、旭化成 AMOTEC(登録商標)の装置を用いることができる。
【0012】
溶融樹脂中へ吸収させる発泡性ガス量は供給するガス圧力と相関し、期待する発泡倍率に応じ任意に調整できる。
他方化学発泡剤混練方法としてはあらかじめヘンシェルミキサーやタンブラーミキサーで樹脂ペレットと混合する方法、成型機や押出機のサイドフィーダー等から導入するなど、公知の方法が用いられる。
微発泡体の形成方法としては、射出成形で作成する場合は、金型キャビティー容積の90から100%の樹脂を充填し微発泡成形体を得るショートショット法や金型キャビティー容積の100%以上の樹脂を充填した後、金型キャビティー外に溶融樹脂を排出させてから発泡させるフルショット+棄てキャビティー法、金型キャビティー容積の100%以上の樹脂を充填した後にごくわずかに金型を開きながら発泡させる型拡大法を用いることができる。またあらかじめ金型キャビティーに空気、炭酸ガス、窒素ガス等を供給した後、金型キャビティーに溶融樹脂を充填するカウンタープレッシャー法等公知の方法を用いることができる。
【0013】
また押出成型で作成する場合は、押出発泡シート成形によりサイジングダイ等に押出すことにより微発泡体を得ることもできる。
次に、得られた前記微発泡成形体をガラス転移温度以上、融点以下の温度範囲に加熱することにより高発泡の成形体が得られる。
加熱方法としては微発泡成形体を加熱オーブンに入れ加熱することが可能であるが、好ましくは最終製品形状の金型内で加熱、発泡させることがあげられる。また射出成形においてはガラス転移温度以下の温度の金型で微発泡成形体を形成後、該金型温度をガラス転移温度以上に昇温させるとともに、金型を開き発泡させることで高発泡倍率の成形体を得ることができる。
【0014】
高発泡倍率成型品の発泡倍率は1.1〜8.0倍、好ましくは1.1〜6.0倍、さらに好ましくは1.1〜4.0倍、最も好ましくは1.5〜3.5倍である。発泡倍率が1.1以上で軽量化に優れ、8.0以下で強度に優れ、この範囲では軽量化と強度のバランスに優れる。
高発泡成型体の発泡形状は独立発泡、連続発泡を問わずいずれの形状であっても良くまた混合形状であっても良い。
射出成形により各工程を連続的に実施し高発泡成形体を得る際は、金型温度の昇温をできるだけ早くするため金型の急加熱、急冷却を用いることが好ましい。急加熱急冷却の方法としては冷却加熱媒体の交換、加熱ヒータや高周波誘導による加熱手法等を用いることができる。
【0015】
本発明に用いるポリアミド樹脂は、アジピン酸、イソフタル酸とヘキサメチレンジアミンの塩から重縮合反応することによって得られ、その反応方法としては公知の溶液重合、固相重合、塊状重合、溶液重合またはこれらを組み合わせた方法等で良い。またアジピン酸クロライド、イソフタル酸クロライドとヘキサメチレンジアミンから溶液重合、界面重合等によっても得ることができる。
また本発明の半芳香族ポリアミドN66/N6Iは、本発明の目的を損なわない範囲で、他のポリアミドとブレンドもしくは共重合することができる。他のポリアミドとしては、例えばポリアミド6、66、46、612、610、MXD6、6T等およびこれらの共重合体等が挙げられる。
【0016】
上記したように、本発明によれば容易に1.1〜8.0倍の高発泡倍率の成形品を得ることができる。
本発明における樹脂組成物には、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、たとえば酸化防止剤、耐熱安定剤、中和剤、紫外線吸収剤等の安定剤、気泡防止剤、難燃剤、難燃助剤、分散剤、帯電防止剤、滑剤、染料、顔料等の着色剤、可塑剤等を配合することが可能である。またガラスフレーク、マイカ、ガラス粉、ガラスビーズ、タルク、アルミナ、カーボンブラック、ワラストナイト等の板状、粉粒状の無機化合物あるいはウイスカー等を併用することができる。
特にガラス繊維、炭素繊維等の線膨張係数を低下させるフィラーは、成形体の長手、幅方向の発泡、膨張を拘束し、板厚方向に効果的に発泡、膨張させるため好ましい。
【実施例】
【0017】
本発明を実施例に基づいて説明する。
(射出成形機)
住友重機械工業製 SG125HP AMOTEC仕様を用いた。本成形機は炭酸ガスを任意の圧力でシリンダから供給、樹脂に吸収させることができる。金型は幅40mm×長さ80mm×厚さ2mm、3×2mmのサイドゲート金型であり、金型内へのガス供給口を有し、ガスカウンター圧を用いることができる。
(使用樹脂)
N66/N6I比が73/27である旭化成ケミカルズ製 レオナ8002(登録商標)をポリアミド樹脂ベースとして用い、ポリアミド樹脂ベース67重量%に対しガラス繊維33重量%を添加した。レオナ8002のガラス転移温度は通常80℃である。
【0018】
[実施例1]
樹脂温度290℃、金型温度30℃に設定し、4MPaの炭酸ガスを射出シリンダに供給して溶融したポリアミド樹脂に炭酸ガスを吸収させ、あらかじめ3MPaの炭酸ガスを供給した金型内に射出充填し、発泡倍率1.07倍の微発泡成形体を得た。
次いで、該微発泡成形体をあらかじめ140℃に加熱したオーブン中で予熱してある幅40mm×長さ80mm×厚み6mmの金型に入れ3分間放置後、成形体を取り出した。
前記初期厚み約2mmの微発泡成形体は、6mmにまで膨張、発泡倍率約3倍のポリアミド樹脂発泡体が得られた。
得られた発泡体を液体窒素中に浸漬、破断。破断面をSEMで観察した。得られた発泡体は40〜100μmの細かなセルが形成されていた。
また前記微発泡体を、粘弾性測定装置「DVE−V4 9111−DVE−071」を用い、常温から140℃までの引っ張り弾性率の温度依存性を測定した。60℃付近で急激に弾性率が低下し、その後上昇する傾向が見られる。
【0019】
[実施例2]
実施例1と同様に射出成形した後、金型温調水を120℃に切り替え金型温度を上昇させるとともに、金型を2mm拡大した。約10分後、金型温度が100℃に到達した後、金型から成形品を取り出した。
前記初期厚み約2mmの微発泡成形体は、約4mmにまで膨張、発泡倍率約2倍のポリアミド樹脂発泡体が得られた。
得られた発泡体を液体窒素中に浸漬し破断して破断面をSEMで観察した。得られた発泡体は40〜100μmの細かなセルが形成されていた。
【0020】
[比較例1]
金型温度を80℃に設定した以外、実施例1と同様に発泡成形体を得ようとした。しかし微発泡体から発泡する挙動は示さなかった。
また前記微発泡体を、粘弾性測定装置「DVE−V4 9111−DVE−071」を用い、常温から140℃までの引っ張り弾性率の温度依存性を測定した。しかしながら通常のポリアミド樹脂に見られる弾性率の低下傾向しか見られず、発泡膨張に必要と思われる弾性率まで弾性率低下していないと考えられる。
【0021】
[比較例2]
金型温度を80℃に設定した以外、実施例2と同様に発泡成形体を得ようとした。しかし微発泡体から発泡する挙動は示さなかった。
【産業上の利用可能性】
【0022】
本発明の組成物及び成形体は、自動車用途等、耐熱性、耐薬品性が要求され、さらに軽量化が要求される分野で好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリアミド樹脂に発泡剤を溶融混練する工程および/または溶融したポリアミド樹脂に発泡用ガスを吸収させる工程、ついで(B)該溶融ポリアミド樹脂をガラス転移温度以下の金型に射出成型あるいはサイジングダイで押出成型して発泡倍率が1.005〜1.15倍である微発泡成型体を得る工程、ついで(C)該固化したポリアミド微発泡成形体をガラス転移温度以上に加熱して高発泡体を得る工程を有することを特徴とするポリアミド樹脂製発泡体の製造方法。
【請求項2】
ポリアミド樹脂が(a)アジピン酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンアジパミド単位100重量部と、(b)イソフタル酸およびヘキサメチレンジアミンから得られるヘキサメチレンイソフタラミド単位5〜100重量部とから構成される半芳香族ポリアミドを含むことを特徴とする請求項1に記載のポリアミド樹脂製発泡体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載のポリアミド樹脂によって得られるポリアミド樹脂製発泡体。

【公開番号】特開2006−35687(P2006−35687A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−220159(P2004−220159)
【出願日】平成16年7月28日(2004.7.28)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】