説明

ポリイミドフィルム

【課題】フィルムの長手方向と幅方向の寸法変化の差が小さく、かつそれぞれの寸法変化の絶対値が小さく、かつ平滑性に優れたポリイミドフィルムを提供する。
【解決手段】フィルムの長手方向の熱膨張係数をCTEMD、幅方向の熱膨張係数をCTETDとしたとき、|CTEMD−CTETD|が4ppm以下であり、CTEMDおよびCTETDが8±3ppmであって、フィルム表面の突起が平均粒径10nm〜100nmである無機粒子から形成されており、フィルムの表面粗さRaが5nm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリイミドフィルムに関する。さらに詳しくは、フィルムの長手方向と幅方向の寸法変化の差が小さく、かつそれぞれの寸法変化の絶対値が小さく、かつ平滑性に優れたポリイミドフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミドフィルムは、その優れた耐熱性、耐薬品性、電気特性から、電線の電気絶縁材料、チップオンフィルム(COF)、フレキシブルプリント配線基板(FPC)のベースフィルム、ICのテープオートメイティッドボンディング(TAB)用のキャリアテープフィルム、およびICのリードフレーム固定用テープ等に広く利用されている。
【0003】
ポリイミドフィルムの最近の用途としては、軽量化、フレキシブル性などの利点から、電子ペーパーなどのディスプレイのベースフィルムの用途が挙げられるが、この用途では従来と異なり非常に平滑な表面、高い寸法安定性が求められる。
【0004】
フィルムの表面に関しては、フィルムに粒子を添加し易滑性を持たせることが、工程でのフィルムの搬送性、ハンドリング性を確保するため一般的に行われている。従来のポリイミドフィルムの易滑化技術としては、無機化合物(例えば、アルカリ土類金属のオルトリン酸塩、第2リン酸カルシウム無水物、ピロリン酸カルシウム、シリカ、タルク)をポリアミド酸に添加する方法(例えば、特許文献1参照)、更には微細粒子によってフィルム表面に微細な突起を形成後、プラズマ処理を施す方法(例えば、特許文献2参照)が知られている。しかしながら、これらに示される無機粒子は、粒子径が大きいために電子ペーパーなどのベースフィルムとしては不適であった。
【0005】
また、ポリイミド表層に平均粒子径が0.01〜100μmである無機質粒子が、各粒子の一部をそれぞれ埋設保持されていて、一部露出した前記無機質粒子からなる多数の突起をフィルムの表面層に1×10〜5×10個/mm存在させる方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。この方法は、積極的に表面に無機粒子を露出させ、フィルム表面の摩擦係数を低減させることにより、易滑性効果を効果的に得ることを特徴としているが、無機質粒子が一部露出しているため、接面する他のフィルム表面にすり傷が発生し、外観不良をきたすといった問題を抱えていた。
【0006】
さらに、個数粒度分布、突起個数を規定したポリイミドフィルム(例えば、特許文献4参照)が提案されているが、このポリイミドフィルムは平滑性には優れているものの、ディスプレイのベースフィルム用途に不可欠な寸法安定性については何らの言及もするものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−68852号公報
【特許文献2】特開2000−191810号公報
【特許文献3】特開平5−25295号公報
【特許文献4】特開2011−63775
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、フィルムの長手方向と幅方向の寸法変化の差が小さく、かつそれぞれの寸法変化の絶対値が小さく、かつ平滑性に優れたポリイミドフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記背景から、本発明者は鋭意研究を重ねた結果、熱膨張係数を低くし、かつフィルムの長手方向と幅方向の差を小さくしたベースフィルムに無機粒子を用いた微細な突起を設けることによって、高い寸法安定性を持ちかつ平滑な表面を持つポリイミドフィルムが得られることを見出し、さらに検討を重ねて本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明は、フィルムの長手方向の熱膨張係数をCTEMD、幅方向の熱膨張係数をCTETDとしたとき、|CTEMD−CTETD|が4ppm以下であり、CTEMDおよびCTETDが8±3ppmであって、フィルム表面の突起が平均粒径10nm〜100nmである無機粒子から形成されており、フィルムの表面粗さRaが5nm以下であることを特徴とするポリイミドフィルムを提供するものである。
【0011】
なお、本発明のポリイミドフィルムにおいては、
フィルム表面に高さ0.3μm以上の突起がないこと、
無機粒子がフィルム樹脂重量当たり0.05〜0.9重量%の割合で含有されること、
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとのモル比が60/40〜90/10である芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とのモル比が80/20〜60/40である酸無水物成分とからなるポリアミド酸から製造されたものであること
が、いずれも好ましい条件として挙げられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルムの長手方向と幅方向の寸法変化の差が小さく、かつそれぞれの寸法変化の絶対値が小さく、かつ平滑性に優れているため、電子ペーパーなどのディスプレイのベースフィルムとして特に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0014】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルムの長手方向の熱膨張係数をCTEMD、幅方向の熱膨張係数をCTETDとしたとき、|CTEMD−CTETD|が4ppm以下であり、CTEMDおよびCTETDが8±3ppmであることを特徴とする。
【0015】
本発明のポリイミドフィルムは|CTEMD−CTETD|が4ppm以下であれば特に限定されないが、|CTEMD−CTETD|が3ppm以下であれば好ましく、|CTEMD−CTETD|が2ppm以下であれば更に好ましい。
【0016】
|CTEMD−CTETD|が4ppmを超えたり、CTEMDおよびCTETDが8±3ppmの範囲を超えたりするようであると、寸法安定性に欠ける恐れがあるため好ましくない。
【0017】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルム表面の突起が平均粒径10nm〜100nmである無機粒子から形成されており、フィルムの表面粗さRaが5nm以下であることを特徴とする。
【0018】
本発明においては、無機粒子を用いることにより、有機粒子を用いた場合に比べて、分散性および耐熱性に優れる。また、有機粒子では耐熱性に難があり、高い製造温度のポリイミドでは分解されるおそれがある。本発明における無機粒子は、ポリイミドフィルム中に含有されていればよく、フィルム表面付近の無機粒子を核としてポリイミドフィルムの表面に微細な突起を形成する。
【0019】
本発明に用いる無機粒子の平均粒子径は、10nm〜100nmの範囲内であれば、特に限定されないが、20nm〜95nmが好ましく、40nm〜90nmがより好ましい。平均粒子径が50nm〜90nmであれば、易滑性とフィルム表面の凹凸のバランスが特によいためである。平均粒子径が10nm未満になると、フィルムの易滑性効果が低下するので好ましくなく、100nmを超えると局所的に大きな粒子となって存在するので好ましくない。
【0020】
本発明における平均粒子径とは、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、フィルムを1万〜10万倍の倍率で観察したSEM画像からランダムに粒子を選択し、その直径(粒子径)を求め、30個の長さ平均を算出し、平均粒子径(長さ平均径)としたものである。なお、1視野のSEM画像で突起数が30個に満たない場合は、複数視野で30個以上とした。本発明の平均粒子径の測定に用いる前記走査型電子顕微鏡としては、特に限定されないが、S5000(商品名;日立製作所製)等が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる無機粒子の材質としては、特に限定されないが、シリカ(SiO)またはその水和物、アルミナ、酸化チタン、リン酸カルシウム、酸化ジルコニウム等が好適に用いられる。
【0022】
本発明の無機粒子は、公知の方法によって製造することができ、特に限定されないが、例えば、特公平4−65006号公報、特開平9−142827号公報、特開2007−277025号公報、特開2007−153732号公報記載の方法によって製造することができる。このような方法として、具体的には、アンモニア触媒又は有機アミン触媒等の加水分解触媒の存在下に、オルガノシリケートを加水分解し、脱水重縮合反応を進行させながら無機成分を析出させることからなる、いわゆるゾルゲル法等が挙げられる。
また、無機粒子には市販品を用いてもよく、例えば、スノーテックス UP、スノーテックス OUP、スノーテックス PS−S、スノーテックス PS−S(以上、日産化学工業社製)、PL−1、PL−3、PL−7、PL−20、SP−03F、SP−1B(以上、扶桑化学工業社製)、オスカル(日揮触媒化成製)等のコロイダルシリカが挙げられる。
【0023】
本発明のポリイミドフィルムは、表面粗さRaが5nm以下であれば特に限定されないが、4nm以下であれば好ましく、2nm以下であれば更に好ましい。Raが5nmを超えるようであると、フィルムの上に形成するトランジスタの性能を損ねる場合があるため好ましくない。
【0024】
本発明のポリイミドフィルムの表面粗さRaは、プローブ顕微鏡にて20μm角の範囲を測定し算出した。本発明の測定に用いるプローブ顕微鏡は特に限定されないが、SPA400/SPI3800N(エスアイアイナノテクノロジー製)などが挙げられる。
【0025】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルム表面に高さ0.3μm以上の突起がないことを特徴とする。0.3μmを超える突起はフィルムの上に形成するトランジスタの性能を損ねる場合があるため好ましくないからである。
【0026】
本発明における高さ0.3μm以上の突起は、レーザー顕微鏡を用い、1000倍の倍率で10点をランダムで観察し、総観察面積として5.6mmを確保するようにした。その観察範囲すべてで0.3μm以上の突起がない場合、0.3μm以上の突起はないものと判断した。本発明の測定に用いるレーザー顕微鏡は特に限定されないが、VK−9700(商品名:キーエンス製)等が挙げられる。
【0027】
本発明に用いる無機粒子の配合割合については、特に限定されないが、フィルム樹脂重量に対して0.05重量%以上0.9重量%以下の割合で、フィルム中に均一に分散されていることが好ましく、易滑性効果の点からは0.1重量%以上0.8重量%以下の割合がより好ましい。0.9重量%を超えると機械的強度の低下または粒子同士の凝集による表面粗化が起こることがあるため、また、0.05重量%以下では十分な易滑性効果が見られないため、いずれも好ましくない。
【0028】
次に、本発明のポリイミドフィルムの製造方法について、以下に詳しく説明する。製造工程は、例えば、(1)芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させ、ポリアミド酸溶液を得る工程、(2)平均粒子径が10〜100nmである無機粒子を前記有機溶媒と同一の有機溶媒に分散させたスラリーを調製し、該スラリーを前記工程(1)のいずれかの段階で添加する工程、(3)前記工程(2)で得られたポリアミド酸溶液を環化反応させてゲルフィルムを得る工程を含むことができる。
【0029】
工程(1)は、芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とを有機溶媒中で重合させ、ポリアミド酸溶液を得る工程である。
【0030】
上記芳香族ジアミンの具体例としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、パラフェニレンジアミン、メタフェニレンジアミン、ベンジジン、パラキシリレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、1,5−ジアミノナフタレン、3,3’−ジメトキシベンチジン、1,4−ビス(3メチル−5アミノフェニル)ベンゼンまたはこれらのアミド形成性誘導体が挙げられる。この中で、フィルムの引張弾性率を高くする効果のあるパラフェニレンジアミン、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル等のジアミンの量を調整し、最終的に得られるポリイミドフィルムの引張弾性率が4.0GPa以上にすることが好ましい。これらの芳香族ジアミンは単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。これらの芳香族ジアミンのうち、パラフェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルが好ましい。パラフェニレンジアミンと4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとを併用する場合には、(i)4,4’−ジアミノジフェニルエーテルと、(ii)パラフェニレンジアミンとを69/31〜90/10(モル比)で用いることがより好ましく、70/30〜85/15(モル比)で用いることが特に好ましい。
【0031】
上記酸無水物成分の具体例としては、本発明の効果を妨げない限り特に限定されないが、ピロメリット酸、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンジカルボン酸、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ピリジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸、またはこれらのアミド形成性誘導体等の酸無水物が挙げられ、芳香族テトラカルボン酸の酸二無水物が好ましく、ピロメリット酸酸二無水物および/または3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸酸二無水物が特に好ましい。これらの酸無水物成分は単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。また、これらのうち、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とを80/20〜60/40(モル比)で用いることがより好ましく、75/25〜65/35(モル比)で用いることがとりわけ好ましい。
【0032】
本発明において、ポリアミド酸溶液の形成に使用される有機溶媒としては、特に限定されないが、例えば、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド等のスルホキシド系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド等のホルムアミド系溶媒;N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジエチルアセトアミド等のアセトアミド系溶媒;N−メチル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン等のピロリドン系溶媒;フェノール、o−,m−,またはp−クレゾール、キシレノール、ハロゲン化フェノール、カテコール等のフェノール系溶媒;あるいはヘキサメチルホスホルアミド、γ−ブチロラクトン等の非プロトン性極性溶媒を挙げることができ、これらを単独または混合物として用いるのが望ましいが、さらにはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の使用も可能である。
【0033】
重合方法は公知のいずれの方法で行ってもよく、特に限定されないが、例えば、(i)先に芳香族ジアミン成分全量を有機溶媒中に入れ、その後酸無水物成分を芳香族ジアミン成分全量と当量になるように加えて重合する方法、(ii)先に酸無水物成分全量を溶媒中に入れ、その後芳香族ジアミン成分を酸無水物成分と等量になるように加えて重合する方法、(iii)一方の芳香族ジアミン成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して酸無水物成分が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、もう一方の芳香族ジアミン成分を添加し、続いて酸無水物成分を全芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とがほぼ等量になるよう添加して重合する方法、(iv)酸無水物成分を溶媒中に入れた後、反応成分に対して一方の芳香族ジアミン成分が95〜105モル%となる比率で反応に必要な時間混合した後、酸無水物成分を添加し、続いてもう一方の芳香族ジアミン成分を全芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とがほぼ等量になるように添加して重合する方法、(v)溶媒中で一方の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分をどちらかが過剰になるように反応させてポリアミド酸溶液(A)を調製し、別の溶媒中でもう一方の芳香族ジアミン成分と酸無水物成分をどちらかが過剰になるよう反応させポリアミド酸溶液(B)を調製し、次いで、得られた各ポリアミド酸溶液(A)と(B)を混合し、重合を完結する方法、(vi)(v)において、ポリアミド酸溶液(A)を調製するに際し芳香族ジアミン成分が過剰の場合、ポリアミド酸溶液(B)では酸無水物成分を過剰に、またポリアミド酸溶液(A)で酸無水物成分が過剰の場合、ポリアミド酸溶液(B)では芳香族ジアミン成分を過剰にし、ポリアミド酸溶液(A)と(B)を混ぜ合わせこれら反応に使用される全芳香族ジアミン成分と酸無水物成分とがほぼ等量になるよう調製する方法等が挙げられる。
【0034】
こうして得られるポリアミド酸溶液は、固形分を5〜40重量%含有しているものが好ましく、10〜30重量%含有しているものがより好ましい。また、ポリアミド酸溶液の粘度は、JIS K6726_1994に従い、ブルックフィールド粘度計を用いた回転粘度計法による測定値であり、特に限定されないが、10〜2000Pa・s(100〜20000poise)のものが好ましく、安定した送液の供給という点から、100〜1000Pa・s(1000〜10000poise)のものがより好ましい。また、有機溶媒溶液中のポリアミド酸は部分的にイミド化されていてもよい。
【0035】
工程(2)は、平均粒子径が10〜100nmである無機粒子を前記有機溶媒と同一の有機溶媒に分散させたスラリーを調製し、該スラリーを前記工程(1)のいずれかの段階で添加する工程である。スラリーの調製は、特に限定されないが、前記無機粒子を前記した有機溶媒(例えば、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)等の極性溶媒)に分散させ、スラリーとする方法等が挙げられる。調製したスラリーをフィルムの易滑性を得るため、前記工程(1)のいずれかの段階で有機溶媒あるいは溶液に、前記した無機粒子の配合割合で分散させる。無機粒子の添加の時期は、環化反応前であれば特に限定されず、工程(2)は必ずしも工程(1)の後に行われる必要はなく、例えば、(i)ポリアミド酸重合前の有機溶媒に、ポリイミドの製造に使用される有機溶媒と同じ有機溶媒(例えば、極性溶媒等)に分散させた無機粒子スラリーを添加してもよく、(ii)重合反応により得られたポリアミド酸溶液にポリイミドの製造に使用される有機溶媒と同じ有機溶媒(例えば、極性溶媒等)に分散させた無機粒子スラリーを添加してもよいが、ポリアミド酸溶液に添加するのが好ましい。
【0036】
工程(3)は、前記工程(2)で得られたポリアミド酸溶液を環化反応させてゲルフィルムを得る工程である。前記ポリアミド酸溶液を環化反応させる方法は、特に限定されないが、具体的には、(i)前記ポリアミド酸溶液をフィルム状にキャストし、熱的に脱水環化させてゲルフィルムを得る方法(熱閉環法)、または(ii)前記ポリアミド酸溶液に環化触媒および転化剤を混合し化学的に脱環化させてゲルフィルムを作成し、加熱により、ゲルフィルムを得る方法(化学閉環法)等が挙げられ、得られるポリイミドフィルムの線熱膨張係数を低く抑えることができる点で後者の方法が好ましい。
【0037】
前記環化触媒としては、特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチレンジアミン等の脂肪族第3級アミン;ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン;イソキノリン、ピリジン、β−ピコリン等の複素環第3級アミン等が挙げられ、イソキノリン、ピリジンおよびβ−ピコリンからなる群から選ばれる1以上の複素環式第3級アミンが好ましい。前記転化剤としては、特に限定されないが、例えば、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族カルボン酸無水物;無水安息香酸等の芳香族カルボン酸無水物等が挙げられ、無水酢酸および/または無水安息香酸が好ましい。これらの転化剤の含有量は、特に限定されないが、ポリアミド酸溶液100重量%に対して、10〜40重量%程度が好ましく、15〜30重量%程度がより好ましい。
【0038】
フィルムの製膜方法については、特に限定されないが、例えば、前記ポリアミド酸溶液を用いて、連続製膜装置により製膜することができる。具体的には、前記ポリアミド酸溶液は、スリット状口金を通ってフィルム状に成型され、加熱された支持体上に流延され、支持体上で熱閉環反応をし、自己支持性を有するゲルフィルムとなって支持体から剥離される。
【0039】
前記支持体としては、特に限定されないが、金属(例えばステンレス)製の回転ドラム、エンドレスベルト等が例として挙げられ、支持体の温度は(i)液体または気体の熱媒体、(ii)電気ヒーター等の輻射熱等により制御され、特に限定されない。
【0040】
前記ゲルフィルムは、支持体からの受熱、熱風や電気ヒーター等の熱源からの受熱により好ましくは30〜200℃、より好ましくは40〜150℃に加熱されて閉環反応し、遊離した有機溶媒等の揮発分を乾燥させることにより自己支持性を有するようになり、支持体から剥離されることにより得られる。
【0041】
剥離されたゲルフィルムから、ポリイミドフィルムを得ることができ、その方法は特に限定されないが、好適な例を以下に説明する。剥離されたゲルフィルムは、通常回転ロールにより走行速度を規制しながら走行方向に延伸される。走行方向への延伸は1.05〜1.9倍、好ましくは1.1〜1.6倍、さらに好ましくは1.1〜1.5倍の倍率で実施される。走行方向に延伸されたゲルフィルムはテンター装置に導入され、テンタークリップに幅方向両端部を把持されて、テンタークリップと共に走行しながら、幅方向へ延伸される。幅方向の延伸は1.05〜2.3倍、好ましくは1.1〜2.0倍、さらに好ましくは1.1〜1.7倍の倍率で実施される。フィルムは、熱風、赤外ヒーター等で15秒〜10分加熱される。次いで、熱風および/または電気ヒーター等により、250〜500の温度で15秒から20分熱処理を行い、ポリイミドフィルムを得る。
【0042】
本発明のポリイミドフィルムの厚さは、特に限定されないが、3μm以上250μm以下の範囲とすることが好ましく、10μm以上80μm以下範囲とすることがより好ましい。これより薄くても厚くてもフィルムの製膜性が著しく悪化するので好ましくない。本発明のポリイミドフィルムの幅は、特に限定されない。
【0043】
このようにして得られたポリイミドフィルムについて、必要に応じてアニール処理を行ってもよい。アニール処理によってフィルムの熱リラックスが起こり加熱収縮率を小さく抑えることができる。アニール処理の温度としては、特に限定されないが、200〜500℃が好ましい。アニール処理からの熱リラックスにより200℃での加熱収縮率をフィルムのMD、TD共に0.05%以下に抑えることができるので、より一層高寸法精度が高くなるという好ましい効果が得られる。具体的には、200〜500℃の炉の中を、低張力下にてフィルムを走行させ、アニール処理を行うことが好ましい。炉の中でフィルムが滞留する時間が処理時間となるが、走行速度を変えることでコントロールすることになり、30秒〜5分の処理時間であることが好ましい。これより処理時間が短いとフィルムに充分熱が伝わらず、長いと過熱気味になり平面性を損なうので好ましくない。また、走行時のフィルム張力は10〜50N/mが好ましく、20〜30N/mがより好ましい。この範囲よりも張力が低いとフィルムの走行性が悪くなり、張力が高いと得られたフィルムの走行方向の熱収縮率が高くなるので好ましくない。
【0044】
得られたポリイミドフィルムに接着性を持たせるため、フィルム表面にコロナ処理やプラズマ処理のような電気処理あるいはブラスト処理のような物理的処理を行ってもよい。プラズマ処理を行う雰囲気の圧力は、特に限定されないが、通常13.3〜1330kPaの範囲、13.3〜133kPa(100〜1000Torr)の範囲が好ましく、80.0〜120kPa(600〜900Torr)の範囲がより好ましい。
【実施例】
【0045】
以下に実施例によって本発明の効果を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0046】
なお、実施例における各特性値は次に述べる方法により測定した。
【0047】
[CTE]
島津製作所製TMA−50を使用し、測定温度範囲:50〜200℃、昇温速度:10℃/minの条件で測定した。
【0048】
[平均粒子径]
フィルムにAgを角度5°で蒸着後、Ptをスパッタコートして、走査型電子顕微鏡(SEM)S5000(商品名;日立製作所製)を用い、1万〜10万倍の倍率で観察したSEM画像からランダムに粒子を選択し、その直径(粒子径)を求め、30個の長さ平均を算出し、平均粒子径(長さ平均径)とした。なお、1視野のSEM画像で突起数が30個に満たない場合、複数視野で30個以上とした。
【0049】
[表面粗さRa]
エスアイアイナノテクノロジー製SPA−400/SPI3800Nを使用し、20μm角で測定した。
【0050】
[高さ0.3μm以上の突起]
キーエンス製レーザー顕微鏡VK−9700で、1000倍の倍率で10点をランダムで観察し、総観察面積として5.6mmを確保した。その観察範囲すべての個数を突起個数とした。
【0051】
[実施例1]
ピロメリット酸二無水物(分子量218.12)/ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(分子量200.24)/パラフェニレンジアミン(分子量108.14)をモル比で70/30/70/30の割合で用意し、平均粒径80nmのシリカスラリーを、フィルム樹脂重量に対し0.5重量%となるように添加したDMAc中で、18.5重量%溶液にして重合し、3000poiseのポリアミド酸溶液を得た。
【0052】
その後、このポリアミド酸溶液をマイナス5℃で冷却した後、ポリアミド酸溶液100重量%に対して無水酢酸15重量%とベータピコリン15重量%を混合した。この混合溶液を90℃の回転ドラムに30秒流延させた後、得られたゲルフィルムを100℃で5分間加熱しながら、長手方向に1.2倍延伸した。ついで、幅方向両端部を把持して、270℃で2分間加熱しながら幅方向に1.3倍延伸したのち、380℃にて5分間加熱し、38μm厚みのフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0053】
[実施例2]
平均粒径80nmのシリカスラリーを、平均粒径50nmのシリカスラリーとした以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0054】
[実施例3]
平均粒径10nmのシリカスラリーをフィルム樹脂重量に対し0.8重量%添加した以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0055】
[比較例1]
ピロメリット酸二無水物(分子量218.12)/ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(分子量294.22)/4,4’−ジアミノジフェニルエーテル(分子量200.24)/パラフェニレンジアミン(分子量108.14)を、モル比で70/30/85/15の割合で用意し、平均粒径80nmのシリカスラリーをフィルム樹脂重量に対し0.8重量%となるように添加したDMAc中で18.5重量%溶液にして重合し、3000poiseのポリアミド酸溶液を得た。このポリアミド酸溶液を連続製膜装置を用い、ポリイミドに転化すると同時に乾燥固化し、ポリイミドフィルムとし、38μm厚みのフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0056】
[比較例2]
平均粒径80nmのシリカスラリーを平均粒径50nmのシリカスラリーとし、長手方向の延伸を1.1倍、幅方向の延伸を1.5倍とした以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0057】
[比較例3]
平均粒径200nmのシリカスラリーをフィルム樹脂重量に対し0.5重量%添加した以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。
【0058】
[比較例4]
平均粒径80nmのシリカスラリーをフィルム樹脂重量に対し0.03重量%添加した以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。フィルムの搬送性に問題があり、表面にキズが入ったため表面粗さが粗くなった。
【0059】
[比較例5]
平均粒径50nmのシリカスラリーをフィルム樹脂重量に対し1.1重量%添加した以外は、実施例1と同様に重合、製膜し、38μm厚みのポリイミドフィルムを得た。得られた特性を表1に示した。粒子の添加量が多く凝集が発生し表面粗さが粗くなった。
【0060】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明のポリイミドフィルムは、フィルムの長手方向と幅方向の寸法変化の差が小さく、かつそれぞれの寸法変化の絶対値が小さく、かつ平滑性に優れているため、電子ペーパーなどのディスプレイのベースフィルムとして特に有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルムの長手方向の熱膨張係数をCTEMD、幅方向の熱膨張係数をCTETDとしたとき、|CTEMD−CTETD|が4ppm以下であり、CTEMDおよびCTETDが8±3ppmであって、フィルム表面の突起が平均粒径10nm〜100nmである無機粒子から形成されており、フィルムの表面粗さRaが5nm以下であることを特徴とするポリイミドフィルム。
【請求項2】
フィルム表面に高さ0.3μm以上の突起がないことを特徴とする請求項1に記載のポリイミドフィルム。
【請求項3】
無機粒子がフィルム樹脂重量当たり0.05〜0.9重量%の割合で含有されることを特徴とする請求項1または2に記載のポリイミドフィルム。
【請求項4】
ポリイミドフィルムが、4,4’−ジアミノジフェニルエーテルとパラフェニレンジアミンとのモル比が60/40〜90/10である芳香族ジアミン成分と、ピロメリット酸二無水物と3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物とのモル比が80/20〜60/40である酸無水物成分とからなるポリアミド酸から製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリイミドフィルム。

【公開番号】特開2013−18926(P2013−18926A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155307(P2011−155307)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000219266)東レ・デュポン株式会社 (288)
【Fターム(参考)】